著者
桑原 直巳
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

西欧における初等・中等学校の成立に際しては近代、カトリック修道会、特にイエズス会などを初めとする活動修道会(教育修道会)の役割は決定的であった。本研究では、従来我が国ではあまり顧みられなかった修道会の設立による初等・中等学校における教育活動およびその基盤としての修道霊性について、その倫理学的・倫理思想史的な意味を明らかにし、世俗的な「公教育」における道徳・倫理教育およびその理念との比較研究を行った。
著者
唐木 清志 山田 秀和 森田 真樹 川崎 誠司 桑原 敏典 橋本 康弘 吉村 功太郎 渡部 竜也 桐谷 正信 溝口 和宏 草原 和博 桐谷 正信 溝口 和宏 草原 和博 磯山 恭子 藤本 将人
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

アメリカ社会科で展開されるシティズンシップ教育の動向を, 理論レベルと実践レベルから多面的・多角的に考察し, その現代的意義及び日本社会科への示唆を明らかにした。具体的な研究成果としては, 2009年3月に刊行された最終報告書に載せられた13名の論文と, 2009年1月13日にミニシンポジウムを開催したことを挙げることができる。研究を通して析出された「多様性と統一性」や「争点」といった分析枠組み(本研究では「視点」という言葉を用いている)は, 今後日本の社会科においてシティズンシップ教育を推進するにあたっても, 重要なキーワードとなるであろう。
著者
田中 恵
出版者
筑波大学
雑誌
日本史学集録 (ISSN:09137203)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.21-38, 2001-05
著者
内山田 康
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

南インド、ケーララ南部の丘陵地帯に住むクラヴァたちの、宗教的実践と政治的実践の変容とその相互関係について平成16年度から19年度にかけて調査を行うなかで、2年目にプラーティと呼ばれるクラヴァの降霊術師に偶然に出会ったことは幸運だった。クラヴァについては19世紀の終わりに実施された民族誌的調査の短い記録がE. Thurston (1909) Caste & Tribes of South Indiaの中に再録されている。その中に、プラーティが行う降霊会について言及されているが、その内容は明らかではなかった。また、私は1992年から行ってきたフィールドワークにおいて、一度も降霊術師に会ったことがなかった。しかし、この調査の2年目に降霊術師に会い、もう行われていないと聞いていた降霊会に参加してその内容を知ることができた。プラーティは死者を呼び戻して、死者と親族が話せるようにする。親族たちが知りたいのは次の二点だ。(1) 死者はなぜ死んだのか。(2)死者はどのような負債を抱えているのか。知られないまま弁済されない負債は、生きている近い親族たちの不幸の原因となるため、死者にそのことを尋ねる。近年、教育を受けたクラヴァの中には、問題を降霊会によってではなく、裁判で解決しようとする者も現れた。このような状況のもと、降霊会を成功させることは困難になっている。しかし、降霊会は無くなっていない。クラヴァの生活環境は、ゴムブームによっても大きく変わっていた。1991年の経済自由化の後、クラヴァの生活環境は急速に変化している。また、クラヴァの社会上昇を目指した政治運動は、降霊会と祖先祭祀をやめさせ、メインストリームの宗教実践を取り入れようとするものでもあった。しかし、政治運動、生活改善運動、意識改革運動と結びついた、そのような宗教改革的な運動を通して、クラヴァは自律性を失い、地方の有力者にその土地や聖地を支配されるようになっていた。クラヴァが土地を失ったという証言は、数多く得られていたが、それに加えて百年前の土地査定の記録を入手して、その証言を記録によっても部分的に裏付けることが出来た。
著者
松村 明 山本 哲哉 熊田 博明 中井 啓 磯部 智範 成相 直
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

神経膠芽腫に対するホウ素中性子捕捉療法の臨床的有用性を証明するための臨床研究を行った。初発神経膠腫例では、無病再発期間14か月、生存期間21か月を得た。再発悪性脳腫瘍、膠芽腫1例、悪性髄膜腫1例の治療を行った。再発膠芽腫はBNCT治療後2年を経て放射線壊死、皮膚壊死あるも腫瘍再発なく生存, 家庭内軽介助。髄膜腫症例は再発の兆候なくKPS90%を維持し2年経過と良好な結果を得ているが、原子炉の利用が制限され、症例の蓄積による分析は中断された。
著者
神川 龍馬
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

これまでにEFLのみを有すると考えられてきたカタブレファリス類において、Poombia sp.はEF-lalphaを有することを逆転写PCRによって明らかとした。本種のEST解析をその後に行ったところ、本EF-lalpha配列が同定されたがEFL配列は同定されなかったことから、本種はEF-lalphaのみを有することが強く示唆される。本解析によってカタブレファリス類においても、EFLおよびEF-lalpha遺伝子は混在しており、このような分布を示すに至った両遺伝子の複雑な進化過程が予想された。カタブレファリス類はクリプト藻類やゴニオモナス類と近縁であるとされている。クリプト藻類はEFLのみを有し、そしてゴニオモナス類はEFLのみを持つ種、EF-lalphaのみを持つ種、両遺伝子を持つ種が混在することが明らかとなっていることから、カタブレファリス類・クリプト藻類・ゴニオモナス類への進化過程で遺伝子の独立した喪失が起こったことが強く示唆される。また、in vitro実験系において通常のEF-lalphaと同様に、珪藻EFLタンパク質がGTP加水分解活性にともなうタンパク質合成能があるかを再検証することを試みた。EFLの機能解析に供するサンプルを作成するため、昨年度と異なり、C末領域にタグを追加したEFLリコンビナントタンパク質を大量発現する大腸菌を作成した。C-末端領域に結合させたHQタグを利用してカラム精製を行った。このリコンビナントタンパク質がGTPおよび蛍光アミノアシル-tRNAに結合するか調べた結果、本リコンビナントタンパク質はGTPおよびアミノアシル-tRNAに結合することが分かった。本研究成果は、追試実験が必要であるものの、この段階で特別研究員を辞退したため、追試および条件最適化の検討を行うことはできなかった。
著者
渡邉 和男 河瀬 真琴 マシウス ピーター 西川 芳昭 松井 健一 阿部 健一 香坂 玲 阿部 健一 香坂 玲 院多本 華夫 渡邊 高志 磯崎 博司 藤村 達人 箕輪 真理 木村 武史 王 碧昭 伊藤 太一 帳 振亜
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

農業食糧及び薬用遺伝資源の多様性について、国境を超越して生存する少数民族に関わり農家保全の実地・実験調査を実施した。ミャンマー北部、ミャンマー、タイとラオスの国境地帯について山間部を主体に研究を実施した。過剰開発や貨幣経済の浸透、さらに不均衡な情報の供給と啓蒙の欠如で、在来の植物遺伝資源が絶滅危惧になっていることやその伝統的文化に支援された知見が急速に失われてきていることがわかった。モノグラフや公的機関の報告書として情報発信した。
著者
久保 倫子
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

1990年代後半以降の都心部におけるマンション供給の増加は,日本の住宅市場の大きな転換期にあることを示すものでもある.本研究は東京大都市圏でのフィールドワークを行い,東京大都市圏におけるマンション供給とマンション購入者の特徴を明らかし,以下の仮説を検証することを目的とした.1)1990年代後半以降にマンションを購入している世帯は,戸建住宅志向が主流であった時代の価値観とは異なる居住選好を有し,住宅を選択している.2)マンション供給者は,比較的早期から非標準世帯をターゲットに取り込む戦略をとってきたことで,所有住宅市場におけるマイノリティであった世帯を対象とする物件が増え,これらの世帯が重要な需要者となっている.3)各世帯によってマンション購入の意思決定過程は異なるものの,世帯特性によってその意思決定過程を説明しうる要因が存在している.これらの仮説を検証するため,千葉県千葉市美浜区の幕張ベイタウンおよび千葉県成田市の成田ニュータウンにおいて,居住者の居住地選択(特に,住宅購入に関する意思決定過程)やコミュニティ活動に関する調査を実施し,国内外の学会(日本地理学会,人文地理学会,The Association of American Geographers 2010 Annual Meeting等)において発表した。次に,マンション供給側の供給戦略に関しては,東京都心部における主要なマンション供給社に対するインタビュー調査および不動産データの分析によって,マンション供給戦略の変化を分析し,日本地理学会等で発表し議論を行った.
著者
片岡 一忠
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

漢文史料の解読と出土官印実物の分析の結果、隋唐にはじまる陽刻朱印の官印制度は、五代を経て宋代には、旧制度の陰刻白文の官印を脱し、清朝まで継承される官印制度の基本形が完成したことを確認した。すなわち、印文の文字が九畳篆と呼ばれる独特の篆法となり、正方形・長方形の両方の印形が官職によって明確に区別して用いられた。さらに、印背に「印款」と呼ばれる鋳造部署名や鋳造年月の文字が刻され、官印の使用現場では「印牌」がつくられ、官印管理が厳格になったことが史料・実物の両面から明らかにされた。
著者
大河内 信弘 福永 潔
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

肝細胞癌の遺伝子異常に関しては未だコンセンサスを得られていない。本研究ではアンチセンスRNAに注目し、肝細胞癌でのセンス/アンチセンスRNAの網羅的解析を行い、癌部非癌部の比較で発現変化に有意差のあるアンチセンスRNAを同定した。さらに、C型肝炎ウィルス陽性肝細胞癌を対象に詳細な分析を進め、アンチセンスRNAの発現に癌部・非癌部の比較で発現変化に有意差のあること、及び組織型毎の比較でも発現に有意差のあることを確認した。
著者
増田 有紀
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は,学習者の量に関する認識上の困難点を学習者の立場から特定し,学校数学における量に関する学習指導全体を再構築することである。昨年度と今年度の2年間は,学校数学で学習される量の中でも特に,独自の特性を有する「角の大きさ」に焦点をあて,はじめに,量とその測定に関する指導の順序を示す「測定指導の四段階」と角の概念が有する特徴との関連を精査しながら,小学校から高等学校までの複数の学校段階における角の計量的側面に関する学習の要件を理論的に解明した。次に,その要件の獲得に困難を示す場面を実証的に特定し,そのような困難性を抱える学習者の立場から,角の学習指導全体のあり方を学校段階に応じて総合的に検討した。その結果,以下の二つの研究成果が得られた:1.複数の学校段階にみられる角の学習上の困難点とその背後にある要因を顕在化し,困難点を解消する方法を探究する立場から角の学習指導の改善のための示唆を得る方法を解明したこと,2.角の学習指導に関する実践上の課題を解決するために,上述の方法を適用し,角の学習上の困難点とその要因の解明を通して得られる知見によって,学校数学における角の学習指導の改善の指針を提示したこと。本年度は,上述のような成果に関して,学位論文「角に関する学習上の困難点の特定とその解消の方法-学校数学における角の学習指導の改善に向けて-」を執筆し,平成23年3月25日付けで筑波大学より博士(教育学)の学位を取得すると同時に,第34回数学教育心理学会(PME34),第5回東アジア数学教育国際会議(EARCOME5),日本科学教育学会第34回年会,日本教材学会第22回研究発表大会,日本数学教育学会第43回数学教育論文発表会の学会で発表した。
著者
内山 俊朗
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、メディアアート作品をリハビリテーションに活用し、本人が表現者として主体的に加わるリハビリテーション支援機器の開発を目標としている。研究の実施内容は以下のとおりである。1.コア技術として、あいのてが身体動作を誘発することに着目したあいのてシステムの開発を行った。2.コア技術を応用し、身体動作によるからだのリハビリと、社会的交流によるこころのリハビリを支援するメディアアート作品の制作と効果の検証を行った。3.雑誌論文、国際会議、イベント、マスメディアを通して発表を行い社会への浸透を行った。これらにより、本研究は今後もさらに高い感性価値を持ったリハビリテーション支援機器開発の手がかりとなることが期待される。
著者
猿山 雅亮
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

異なる半導体を接合させたヘテロ接合では、各相間でキャリアが移動することにより、電子とホールの波動関数の空間的な位置を制御することができる。本研究では、高効率光触媒や太陽電池への応用に向け、光励起により空間的な電荷分離状態を形成すると考えられるCdS/CdTeタイプ-II型ヘテロ構造ナノ粒子の合成を行った。CdSナノ粒子のSアニオンを部分的にTeアニオンにアニオン交換させることでCdS相とCdTe相が異方的に相分離したヘテロダイマー型のナノ粒子を選択的に得ることに成功した。CdS相はウルツ鉱型、CdTe相は閃亜鉛鉱型の結晶構造を持ち、この違いが自発的な相分離を誘起したと考えられる。反応温度が高くなる、もしくはCdSナノ粒子のサイズが小さくなると、Te前駆体の反応性や比表面積の増大により、アニオン交換速度が大きくなった。原子分解能を持つSTEMによってCdS/CdTeナノ粒子の観察を行い、CdTe相がCdSに対してエピタキシャル成長している様子や、ヘテロ界面の詳細な構造(結合様式、極性など)を明らかにした。アニオン交換反応の経過を追跡したところ、CdS上のCdTeセグメントがCdS上の最も安定な面に一か所に集まることで、ヘテロダイマー構造が形成するメカニズムを示唆する結果が得られた。また、CdS/CdTeナノ粒子内での光誘起自由キャリアダイナミクスを明らかにするため、過渡吸収測定を行った。CdTe相のみを励起できる600nmのポンプ光を用いた過渡吸収スペクトルでは、CdSのバンドギャップエネルギーでの吸収のブリーチングが観測された。このことは、CdTe相からCdS相への電子移動を示すものである。今回の合成手法で得られるCdS/CdTeナノ粒子は、粒子内に一つしかヘテロ界面を持たないため、電子移動が一方向となり、太陽電池への応用が期待できる材料である。
著者
板野 肯三 新城 靖 佐藤 聡 中井 央
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

現在のWorld Wide Webは、クライアント・サーバ・モデルに基づき構築されている。この形態は、個人情報の繰り返し入力、サーバでの安全な保管、および、攻撃やクロスサイト・スクリプティング攻撃を防ぐことが簡単ではないという問題がある。これらの問題を解決するために、本研究では、現在のWorld Wide Webのアーキテクチャを再設計する。具体的には、本研究では、サービス提供者側から利用者側を呼び出す(コールバックする)という方法を用いる。本研究では、コールバックのプロトコルを設計し、それに基づき新たにWebサーバ、Webブラウザ、ルータ、個人情報バンクを実現し、提案手法を検証した。
著者
杉田 倫明
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

霞ヶ浦を対象に,水面フラックスを5年間にわたって求め,水面の交換過程のパラメタリゼーションを行った.結果として得られたバルク係数は,中~高風速域では既存の結果と同様であったが,弱風時には,風速減少とともに係数が大きくなる結果が得られた.さらに,蒸発量の空間分布を湖面温度と霞ヶ浦周辺の気象観測所の気象データから推定した.湖心部で蒸発量が多く,湖岸は小さいことが分かった.湖心の強風域が主要因であった.
著者
石隈 利紀
出版者
筑波大学
雑誌
筑波フォーラム (ISSN:03851850)
巻号頁・発行日
no.63, pp.59-62, 2003-11

私が筑波大学に赴任したのが1990年の9月ですから、今秋でちょうど12年になります。その間、第二学群人間学類、教育研究科(学校教育コース、カウンセリングコース)、心理学研究科、人間総合科学研究科(ヒューマンケア専攻)で、講義をしてきました。 …
著者
菊 幸一
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、1)これまで科研で検討してきた新たな「公共性」概念構築への課題を継続して検討し、2)それらを踏まえて体育・スポーツの既存システムにはびこる従来の公共性概念の問題点と新たなシステム構築のために克服すべき課題を提示し、3)これに基づいて21世紀初頭における体育・スポーツの新たなシステム・モデルのいくつかを構築することである。そこで、本研究では、課題の1)と2)をまとめて「公共性の再構築からみた体育・スポーツの概念」としてフロー、階級、健康、ファミリースポーツといった各概念の再検討から明らかにした。また、課題の3)については、体育システムとスポーツシステムとに分けて、前者については中学校体育を事例とし、後者については県レベルにおける地域スポーツ振興の基本計画策定を事例として、わが国における体育・スポーツのシステム再編に向けた提言を行った。その結果、現在の体育・スポーツ施策は、総じてスポーツに対する自由な欲求や関心を根本的なレベルで受けとめるシステムではなく、生活課題と結びつく「公共性」を未だに反映しないものであったことが理解された。したがって、具体的なシステム再編のためには、スポーツの文化的魅力と公共性がどのように結びつくのかを明らかにし、そのモデルを国際比較によって特徴化していく必要性が見出された。今後の課題としては、1)「文化としてのスポーツ」が、なぜ、どのように「公共性」と結びつくのかを理論的課題として社会学的に明らかにし、2)「公共性」と結びつく「文化としてのスポーツ」の組織的、制度的な可能性を内外の事例調査によって示しながら、3)その結果を我が国の企業スポーツ、地域スポーツ、学校スポーツ等々の具体的なあり方に適用して、文化としてのスポーツから構築される新たな公共性の実践的可能性を明らかにすることがあげられる。
著者
内海 真生
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、申請者自身が開発した採水機ROCSの時系列採水機能を用い、高温熱水噴出孔とその周辺環境に生息する微生物の増殖速度や増殖特性について現場培養から定量評価することを目的に、熱水噴出孔域で使用できる新型微生物培養装置を開発・作成する。具体的には、申請者が中心となり開発した深海用新型採水機(ROCS)と本申請対象である新型培養装置を組み合わせた現場培養実験を通じて、熱水噴出孔生態系内の各種微生物群集の増殖速度やメタン酸化速度など微生物に由来する各種活性の測定と定量評価を試みる。研究最終年度であるH22年度は、まず、チタン製培養槽を用いてH22年3月に無人潜水艇「ハイパードルフィン」を使用し鹿児島湾熱水噴出孔で行った現場培養実験の微生物群集解析を行った。また、有光層下に存在する海洋性古細菌群集の代謝特性を現場培養で測定することを目的に静岡県焼津市沖駿河湾の水深400m環境での基質添加現場培養実験を実施した。鹿児島湾若尊火口海底水中には、全菌数として7.2×10^5 cells/mL存在し、その内訳は真正細菌が4.5×10^5 cells/mL、ユーリアーキオータ(7.0×10^4 cells/mL)、クレンアーキオータ(4.1×10^4 cells/mL)であった。全菌数の値は、一般的は外洋海水の値より1桁高い。現場微生物増殖速度は基質添加系で真正細菌およびクレンアーキオータ群集とも負の値を示した。駿河湾400m水深現場培養実験においても海水置換、基質添加および培養試料の時系列現場固定に成功し、基質添加現場培養から400m水深の真正細菌およびクレンアーキオータ群集の増殖速度を測定した。本研究の結果、潜水艇や調査船・漁船を利用した、任意の水深において基質添加可能な現場微生物培養装置の開発にほぼ成功した。
著者
徳増 征二 山岡 裕一 佐藤 大樹 出川 洋介
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究期間中、メンバー全員がタイ北部においてそれぞれの担当分野の菌類あるいはその分離源を採集、持ち帰って観察、分離、同定を行った。また、マレーシアの熱帯湿潤地域からも同様な方法で菌を収集した。熱帯との比較を行う目的で、同じ季節風の影響を受けるが気温的に暖温帯に属する南西諸島において同様な調査を行った。現在分離・同定を継続申であるが、アジア季節風の影響下にある熱帯と暖温帯を微小菌類の種多様性という観点から比較した場合、以下のような傾向が確認できた。マツ落葉に生息する腐生性微小菌類の種多様性は明らかに熱帯が暖温帯より高かった。また、両者に共通する種の割合は低かった。マツの穿孔虫に随伴する菌類では、温帯から熱帯季節風地域にまで連続して分布する種の存在が確認され、それら菌類はそれぞれの地域に適応している宿主を利用していることが明らかになった。昆虫寄生性の菌類はタイ北部において多くの冬虫夏草を採集した。その多くの種が本邦では梅雨の末期に子実体形成するものであった。熱帯季節風帯の長い雨季はこうした菌類に感染、子実体形成に好ましい環境であると推測できた。また、トリコミケーテスの一新種を発見した。接合菌類の調査ではタイ北部で40種、マレーシアで24種採集した。出現菌の中で13種は分類学的に新種あるいは詳細な再観察を要するものであった。加えて、菌類地理学的観点から新しい知見を加えることができた種が多数記録された。全体に結果を総括すると、この地域の菌類群集の種多様性が熱帯湿潤地域、暖温帯に比べて高いことが示唆された。この地域の多様性の高さは最終氷期以降の気候変動による植生の南北移動、温帯性植物が逃避できる高地や高山の分布という地史的、地形的要因に、乾季雨季によってもたらされる季節性という気候的要因、さらに耕作、焼畑などの撹乱という人間による要因が重なって成立していると考えられる。
著者
清水 諭
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、沖縄の歴史を踏まえ、沖縄に住まう人々が東京オリンピック(1964年)、国民体育大会(1973年・1987年)、そして高校野球を通して、どのように「沖縄人であること」や「日本国民であること」を構築し、生きてきたのかを描き出すことにある。スポーツの文化的事象は、複雑かつ多面的な意味作用を持っているが、本土(東京)における意味づけは沖縄の抱えている現実の諸問題を忘却させる作用があり、それと異なる沖縄固有の意味解釈について、今後もより深い探求が必要である。