著者
曽我 昭宏 矢野 育子
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.2021-007, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
21

入院患者の栄養状態を改善することは,退院後の人生を含めて考えた場合,生活の質の向上や死亡率の減少へとつながる重要な要素である.高齢社会を迎え,栄養状態の評価やその効率的な改善方法の開発が不可欠である.平成25年度改訂版薬学教育モデル・コアカリキュラムでは,D衛生化学に「栄養」に関する到達目標が追加され,E医療薬学やF薬学臨床では実習前教育として基本的な到達目標が設定されている.しかしながら,薬学が得意とする薬理学・薬物動態学と栄養学との関連を体系的に学ぶ教育はほとんど行われていないのが現状である.ここでは,臨床現場での栄養サポートチームの活動や最近注目されている低栄養の新診断基準であるGLIM criteriaと,栄養状態が薬物動態や薬物反応性に与える影響について紹介し,病院薬剤師の立場から「栄養薬学」という新しい概念の必要性について述べる.
著者
中作 勇介 松原 崇
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第35回全国大会(2021)
巻号頁・発行日
pp.2G4GS2f05, 2021 (Released:2021-06-14)

データごとに尤度を求めることができる深層生成モデルは,分布外検知の手法として多く用いられている.一方で深層生成モデルを分布外検知に利用する際,データによっては分布外データの尤度が分布内データの尤度より大きく推定されてしまうことがあるという問題が存在する.変分自己符号化器もこの問題を抱えた深層生成モデルの1つである.この問題を解決するために,本論文では変分自己符号化器において潜在変数の事前分布を変更することを提案する.通常の変分自己符号化器は潜在変数の事前分布を標準正規分布としている.これに対して提案手法では分布外データの潜在変数が原点付近に集まるという仮説を立て,原点付近の確率密度が低い事前分布を用いる.これによって分布外データに対する尤度が低くなり,結果として分布外検知の性能の向上が期待される.Fashion-MNISTとMNISTに対して実験を行い,既存の手法に比べて分布外検知における性能が向上することを示した.
著者
宮口 和義 出村 慎一
出版者
日本発育発達学会
雑誌
発育発達研究 (ISSN:13408682)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.55, pp.23-32, 2012 (Released:2012-10-09)
参考文献数
33
被引用文献数
2 2

This study evaluates the agility of preschool children by measuring simple reaction time and repeated sideways jumps. It also examines the influence of video games and exercise on development of the agility. The subjects were 636 preschool children(315 boys and 321 girls)aged 4 to 5. They performed the simple reaction time test with light stimulation and the repeated sideways jump test for five seconds. The agility score was calculated from the total T-score of both agility tests. This study investigates video games and preferred play time for the benefit of parents and nursery school teachers. The test results show that 37.6% of the 4-year-olds and 36.5% of the 5-year-olds frequently played video games and 57.1% of the 4-year-olds and 61.0% of the 5-year-olds showed a predilection for whole-body dynamic play(tag, jump-rope, dodge ball, etc.). The 5-year-old children were superior to the 4-year-old children in both agility tests. The children who played video games well showed higher values in simple reaction time than the children who did not play video games, but not in the repeated sideways jumps. The children who like whole-body dynamic play scored higher than the children who like static play, not only in simple reaction time, but also in the repeated sideways jump test. Although video games affect reaction time of the upper limbs withrespect to visual information, there is no effect on agility for the rest of the body. Enforcing exercise and play time activities, however, would be an effective way to improve the agility of the whole body, in addition to the reaction time of the upper limbs.
著者
竹田 有加里
出版者
福井大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では膵β細胞の長鎖脂肪酸レセプターGPR40刺激によるインスリン分泌増強作用、及び腸管ホルモンGLP-1レセプター(R)との同時刺激によるインスリン分泌相乗作用機序の解明を目的とする。長鎖脂肪酸EPA及びGPR40シグナル伝達系下流因子PKCの活性化薬は、β細胞株INS-1のインスリン分泌を増加させた。またGLP-1R (cAMP系)との同時刺激によりインスリン分泌を相乗的に増強させ、その作用はPKA阻害剤で完全に抑制されたことからGLP-1RとGPR40シグナル伝達系のクロストークが示唆された。理論研究の結果IP3Rがそのクロストークターゲットの主要因子であると示唆された。
著者
畑 有季 宍戸 邦明
出版者
北日本病害虫研究会
雑誌
北日本病害虫研究会報 (ISSN:0368623X)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.66, pp.60-65, 2015-12-18 (Released:2018-02-05)
参考文献数
7

アスパラガス斑点病に対し,本病登録薬剤の防除効果をポット試験で調査した結果,TPN 水和剤およびイミノクタジンアルベシル酸塩水和剤の効果が高く,薬剤散布から8日後に接種した場合にも効果が認められたが,他の薬剤の効果は低かった.また,2013~2014 年に新たに斑点病に農薬登録となった薬剤,およびアスパラガスの他病害に農薬登録のある殺菌剤の効果を調査した結果,イプロジオン水和剤およびトリフルミゾール水和剤で防除効果が高く,有機銅水和剤,ペンチオピラド水和剤,ミクロブタニル水和剤はやや劣るものの効果があった.
著者
中村 智幸
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.265-269, 2019-09-20 (Released:2020-09-20)
参考文献数
15

全国の15歳から79歳の1,000人(男女各500人)を対象にしたインターネットアンケート調査により,内水面の漁業協同組合に対する国民の認知率(組合の存在が国民の何%に知られているか)と認識(組合の存在が国民にどのように思われているか)を調査した。 62.2%の人々が内水面の組合の存在を知っていた。認知率は男女ともに高齢者ほど高く,男性の方が高かった。多くの人々が組合に対して好印象を持っており,今後も組合はあったほうが良いと思っていた。組合があった方が良いおもな理由は,組合が「水産資源を管理しているから」,「川や湖の環境を保全しているから」であった。しかし,高齢の男性ほど組合はない方が良いと思っていた。組合がない方が良いおもな理由は,組合が「既得権を主張するから」,「川や湖を独占しているから」,「自分たちだけ良ければ良いと考えているから」であった。
著者
藤田 英典
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
日本教育学会大會研究発表要項 (ISSN:2433071X)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.78-79, 2009-08-12 (Released:2018-04-20)

バブル経済期以降のアパシー的な文化社会状況と新自由主義的な教育制度改革及び最近の経済不況などが重なる中で、子どもの生活・学習環境と教育機会の劣化・格差化が進んでいる。本報告では、(1)その問題状況を幾つかのデータで確認し、(2)近年の教育改革の特徴・問題性について教育の公共性と私事性、教育における自由権と社会権、及び国家・社会の責任を中心に検討し、(3)ソーシャル・キャピタルとしての公教育への信頼・協働の回復・促進と学びの共生空間の確保・充実の可能性について検討する。
著者
田宮 創 田村 由馬 餅 脩佑 赤澤 祐介 伴場 信之 安 隆則
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.A-109_1-A-109_1, 2019

<p>【背景および目的】糖尿病性腎症(DMN)患者における座位時間の延長が新規心血管イベント発症リスク及び腎機能に及ぼす影響を明らかにすること.</p><p> </p><p>【方法(または症例)】平成25年9月から39ヶ月間の前向きコホート研究である。対象は外来DMN患者173例(男性101例,71±11歳,CKDステージⅠ期41例,Ⅱ期93例,Ⅲ期30例,Ⅳ期7例,Ⅴ期2例)であり,国際標準化身体活動質問票(IPAQ)の回答が得られた方である.新規イベントの定義は,全死亡,入院を必要とする脳卒中および心血管疾患,新規透析導入とした.IPAQ座位時間からイベント発症に対するカットオフ値をROC曲線により算出した.また,観察開始時の年齢,HbA1c,eGFR,Alb/Cre比,座位時間,既往を共変量としたCOX比例ハザード分析により,新規心血管イベント発症に対するハザード比ならびに独立変数を抽出した.座位時間のカットオフ値から座位高低値群に分け,2群間における39ヶ月間のeGFRを対応のないt-検定で比較した.</p><p> </p><p>【結果】座位時間のカットオフ値は525分/日であった(AUC:0.74、感度:0.71、特異度:0.67、p<0.001).新規心血管イベント発症に対する有意な独立変数としてHb(HR:0.697、95%CI:0.53-0.91、p=0.008),座位時間(60分/日)(HR:1.26、95%CI:1.00-1.59、p=0.049)が抽出された.座位時間を高値群と低値群に分け,eGFR(ml/min/173m<sup>2</sup>)を比較すると,開始時で61.5±2.5vs65.5±1.7と有意差はなかったが,39ヶ月後で42.2±4.0vs.59.6±2.0と高値群において有意に低値を示した(p=0.016).</p><p> </p><p>【考察および結論】座位時間が延長したDMN症例は腎機能の低下を加速させ,心血管イベント発症のリスクとなる. 1日当たりの座位時間が60分延長すると心血管イベントを増加させる可能性がある.座位時間延長要因を評価し,PT介入による検討も必要である.</p><p> </p><p>【倫理的配慮,説明と同意】「ヘルシンキ宣言」及び「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し実施した.本研究は,獨協医科大学日光医療センター倫理審査委員会の承認を得ており(承認番号:日光27001),紙面を用いた説明と書面による同意を得て実施した.</p>
著者
佐久間 仁 大河内 幸男 馬場 陽子 大谷 巌 平山 和美 佐藤 正憲 児玉 南海男
出版者
耳鼻咽喉科臨床学会
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 補冊 (ISSN:09121870)
巻号頁・発行日
vol.1991, no.Supplement43, pp.70-76, 1991-04-25 (Released:2012-11-27)
参考文献数
25

A case of brainstem cavernous angioma associated with hearing loss and dizziness is reported. A 25-year-old female initially complained of hearing loss in the leftear and dizziness. Six months thereafter she suddenly developed additional symptoms, and was diagnosed as having hemorrhage in the brainstem on the basis of CT scan and MRI findings. Otological examination revealed low- and high-frequency hearing loss and abnormal ABR consisting of only wave I in the left ear. Follow-up MRI showed cavernous angioma, which was surgically removed.
著者
Byron Baron
出版者
Japanese Proteomics Society
雑誌
Journal of Proteome Data and Methods (ISSN:24346454)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1, 2021 (Released:2021-06-29)

Protein methylation has been studies for over two decades, mainly in histones but more recently also in non-histone proteins. Despite the great advances in technologies, particularly the application of Orbitrap technology, proteomic analysis of methylation still remains a challenge. This is mainly due to the small size of methylations, their position on fragmented peptides and issue of incorrect identification. A number of different methods have been developed or modified to varying degrees of success in order to enrich for protein methylation prior to mass spectrometric analysis. Despite the availability of different techniques, it is important to understand the underlying strategy employed, the type of sample being analysed and the methylation-related question being investigated. Without such knowledge it is very easy to become lost analysing large volumes of insignificant data or misinterpret the data output.
著者
北川 純子
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 1 人文科学 (ISSN:03893448)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-12, 2010-09

「間(ま)」は,日本の芸事,作法,舞踊,話し言葉,音楽など,複数の領域で用いられてきた概念の一つである。しかし,「間」概念がそのように広く日本文化を横断して使われてきたことは,逆に,音楽における「間」の意味をぼやけさせてきたきらいがある。本稿では浪曲(浪花節(なにわぶし))の三味線において「間」の語がどのように使われているかを検討する作業を通して,精神的かつ「日本独特」だと見なされがちな「間」概念が日本音楽においてもつ,実体としての意味を明確にする。The purpose of this paper is to examine 'ma' concept in Japanese music.'Ma', literally means space, is a crucial concept for actors, dancers, performers and musicians in Japanese culture and has been considered as a unique aesthetics of Japan. The present paper deals with the usage of 'ma' at shiamisen playing in rōkyoku. The results show that 'ma' is not spiritualistic concept but refers actual musical aspects such as rhythm, timing an beat.
著者
大貫 隆
雑誌
東京女子大学紀要論集
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.63-85, 1988-09-10

Hierbei handelt es sich um Anmerkungen zu meiner japanischen Ubersetzung des ,Apokryphon des Johannes" (BG), die gesondert bereits im Heft 2, Vol. 38 (Marz 1988) der vorliegenden Abhandlungen gedruckt vorliegt. Die Anmerkungen sind stets bemuht um eine intensive Auseinandersetzung mit folgenden funf Ubersetzungen: 1) Die gnostischen Schriften des koptischen Papyrus Berolinensis 8502, hrsg., ubers. und bearb. v. Walter Till, Berlin 1955. 2) Die gnostischen Schriften des koptischen Papyrus Berolinensis 8502, 2. erweiterte Auflage, bearb. v. H. M. Schenke, Berlin 1972. 3) Bibliotheque gnostique I: Le livre secret de Jean 'Anokpuyov 'Iwavvov, RThPh 97 (1964) 140-150, II: versets 1-124, RThPh 98 (1965) 129-155, III: versets 125-394, RThPh 99 (1966) 165-181, IV: versets 395-580 fin, RThPh 100 (1967) 1-30, ubers. v. R. Kasse. 4) Das Apokryphon des Johannes (BG 8502, 2), ubers. v. M. Krause, in: W. Foerster (Hg.), Die Gnosis, Bd. 1, Zurich/Stuttgart 1969, 141-161. 5) Ecrits gnostiques: Codex de Berlin (Sources Gnostiques et Manicheennes 1), introduction, traduction et commentaire par M. Tardieu, Paris 1984.
著者
藤井 忠志
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-18, 2021-04-23 (Released:2021-05-14)
参考文献数
80

本州に生息するクマゲラDryocopus martiusは,高度経済成長期におけるブナ林伐採により,生息地を奪われ,北東北のブナの自然林が残存した地を拠点とし,種を維持してきたが,研究者も少ないことから未解明な生態が多い.本論文では,本州におけるクマゲラの生態と研究小史に焦点をあて,これまで何が既に解明されており,何が未だ解明されていないかを整理し,次に解決すべき課題が何かを明白にすることを目的とした.クマゲラはムネアカオオアリを主とするアリ類を捕食し,営巣地の最終決定は雌が行う.繁殖期の役割分担の違いは明確で,つがいのどちらかが死んでも残った片親で巣立ちまで世話をする.巣立ちは6月中旬に行われ,平均の巣立ち雛数は2.2羽で西ドイツにおける値に近い.またクマゲラの巣穴は他の鳥獣にも利用され,要石的種としての役割を果たしているものと推定される.一方,本州での営巣木選好性の決定要因の把握が大きな課題でもある.例えば,営巣地環境,生立木である理由,胸高直径の許容範囲,下枝から巣穴までの距離,樹幹の傾斜,巣穴(産室)の大きさなど.さらにねぐら木や行動圏の把握,現状の分布および新たな分布などまだまだ明らかになっていない課題がある.本州のクマゲラについては,江戸時代すでにクマゲラが生息していたことを示す観文禽譜という古記録が存在していた.また,クマゲラの発見には川口孫治郎ほか多くの研究者や人物が関与し,現在では北東北三県のブナ林に定着していることが明らかになった.しかし,北海道など主要な生息地との個体交流も限られている可能性が高く,本州のクマゲラは,早急に保護を要する可能性が高いと考えられる.