著者
木本 忠昭 雀部 晶 山崎 正勝 日野川 静枝 慈道 裕治 加藤 邦興
出版者
東京工業大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

戦後の日本科学技術政策は、科学技術庁や科学技術会議などの機関があるものの一貫した整合性ある政策が形成され、もしくは施行されてきたとはいえない。通産省や文部省、あるいは農水省などの各省庁から出されてくる諸政策の集合体が、様々な科学・技術の発展過程に関与してきたにすぎない。当然ながら、それらの省庁間の諸政策には摩擦があり、ある意味での「力」の論理が現実を左右してきた。こうした政策のうち技術にもっとも密接に関与してきたのは通産省であったことは言うまでもない。通産省の技術関連政策は、技術導入や日本企業の国際的競争力の強化において極めて強力で企業を強く保護するものであったことは大方の指摘してきたことではある。集積回路やコンピュータを始め、電子工業に関する技術発展の重要な局面にはこの保護政策が強く作用した。この通産政策はしかし、国際市場における日本製品の競争力強化という点においては有効ではあったものの、技術を原理的に転換したり、あるいは人間社会の基盤的技術としての方向性を独自に作り出す方向には、有効に働いてはこなかった。この政策は、競争力強化という面においてさへ、コンピュータに新技術開発においても有効に作用しないばかりか、ハイビジョン・テレビのように根本的発展を無視した方向に機能し、むしろ問題になってきている。また、先の「もんじゅ」高速増殖炉事故の際問題となった「町工場」(下請け)と先端企業(本社)とを結ぶ社会的技術分業体制の転換・崩壊に見られるような生産体系の社会的構造の変化に対応する形で問題を把握することすら行い得ない現状を生んでいる。公害・環境問題に見られるように科学・技術の発展が社会的問題を惹起するように、しかも社会的弱者の土台の上に展開する構造すら見られる。人間社会が科学技術の発展に寄せる期待は、そのようなものではなかった。科学技術政策として重要な視点は、技術論的技術史的論理を踏まえた政策立案であるべきである。
著者
谷口 祥一
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-17, 2014-03-31

BSH第4版とNDLSHの個々の件名に付与されているNDC新訂9版の分類記号を手がかりに,BSHとNDCの組み合わせ,NDLSHとNDCの組み合わせにおいて,どの程度上位下位関係の階層構造が相互に一致するのかを定量的に調査した。照合実験の結果BSH/NDLSHにおける件名の上位下位関係が,対応するNDC分類項目間でも同じく上位下位関係となるかを調べたとき,実験の方式に依存して20%台後半から30%強の箇所で不一致となった。逆に,NDCにおける分類項目の階層関係が,対応する件名間でも階層関係となる程度を見たとき,不一致は20%から40%強と幅があった。ただし,これは対応する件名をもたないときの扱いに依存する。また,3階層に照合の範囲を拡大したときには不一致の減少が見られたが,縮約項目および不均衡項目に対処した正規化NDCの適用は大きな効果を見せなかった。NDC関連項目の活用,上位項目からの件名の限定的継承についても併せて実験し,NDC関連項目活用の効果を確認した。
著者
佐藤 俊治
出版者
東北福祉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

ヒトの視覚情報処理過程を説明する数理モデルは、視覚の柔軟性や汎化性を考慮すると、画像工学的にも有効である必要がある。そこで、物体検出を行なっているV4野細胞の動作原理として、動的輪郭法を採用し、物体検出を行なう視覚モデルを提案した。また、動的輪郭法が抱える問題を、認知心理学研究で得られた視覚特性(凸性)を導入することで解決した。神経生理学的実験により、視覚的注意の影響はV4細胞の活動度に影響を及ぼすことがわかっている。そこで、提案した物体検出モデルに視覚的注意の効果を導入した、統合的な視覚モデルの提案を行なった。統合的視覚モデルの妥当性を評価するために、図地反転現象に関する視覚心理実験を行なった。この心理実験結果と、モデルの動作特性が一致することを数値シミュレーションにより見出した。さらに、提案モデルの理論的な動作解析から、注意の範囲が知覚に影響を及ぼすことを予測した。この予測の妥当性を評価するために現在、新しい心理実験を行なっている。提案モデルは基本的に、反応拡散方程式に基づいて動作するが、結果を得るまでに長い時間を要するという問題点があった。そこでこの問題を解決するために、多解像度理論であるスケールスペース理論を用いて、スケールで一般化された微分演算子を統合的視覚モデルに導入した。数値シミュレーションにより上記問題点が解決され、さらに、V4野における長距離水平結合の計算論的解釈が可能となった。より高次の視覚情報処理であるパターン認識に関しても研究を進め、大きな位置ずれや変形に対しても頑健に動作する視覚モデルを提案した。また、ICA(独立成分解析)とPCA(主成分分析)を複数回組み合わせたパターン学習方法を提案し、同時に、汎用性の高いパターン認識のための神経回路網モデルの提案を行なった。
著者
加納 慎也 テンガラ ジェシカ 小松 尚久
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会総合大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.1996, no.1, 1996-03-11
被引用文献数
1

ビデオ・オン・デマンドをはじめ映像や音声を同時に扱えるマルチメディアアプリケーションに関する研究開発が活発に進められている。ネットワークを通じマルチメディアデータを扱う場合、ネットワークや送受信端末の負荷の存在、さらにはその変動により、データの再生において同期のずれが発生する。そのためクライアント側では単一メディア内での同期、メディア相互間の同期の双方に対する制御が必要になる。本稿では、メディア相互間の同期制御の一手法を提案する。
著者
白川 充 福島 玲子 久島 和代
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.130-146, 1984-03-20

著者らは1978年以来,桜島の爆発により,鹿児島市内に落下した火山灰を採取し,ラットおよび家兎を用いての動物実験により,火山灰粉塵の気管内注入ならびに,粉塵吸入による呼吸器への影響について研究を行なった.火山灰の化学的分析によれば,SiO_2の含有量が極めて多くて約58%を占め,次いでAl_2O_3,Fe_2O_3,CaO,TiO_2,MnO,P_2O_5,MgOなどの成分を有しており,silicosis発生の可能性が十分認められる.火山灰吸入家兎に,X線所見として粒状陰影も認められた.次に火山灰粉塵の粒度分布をみるに,10μm以下の粒子が,270mesh以下で93.25%,325mesh以下で99.05%を占めており,肺内深く侵入するこれらの粉塵は,気管内注入によっても,また吸入実験によっても,呼吸器に対する病変は著明で,粉塵は肺胞内に密に沈着し,一部はリンパ流にのって血管周囲に,あるいは気管支周囲に沈着し,喰細胞に貧食され,粉塵細胞を形成し,相隣接した肺胞に粉塵細胞が密在して,粉塵結節を形成する.この粉塵細胞の壊死や空胞形成により,線維細胞や小円形細胞等の細胞反応が現われ,これと同時に肺胞壁にガラス様変性が出現し,膠原物質の沈着がみられる.細胞反応はまた線維細胞増殖の増加となり,膠原線維が認められ,網状となってくる.そして粉塵結節がみられるにいたる.著者らは,火山灰の呼吸器に対する作用として,病理組織学的に,気管支炎,肺気腫や無気肺,血管変化,粉塵結節や粉塵性線維化巣等を伴う塵肺症を発生することを実証することができた.したがって,火山灰吸入の有害性について,十分認識することが必要であるとともに,これに対する予防対策,あるいは解決策を真剣に考えなければならない.
著者
北澤 宏一
出版者
社団法人 日本セラミックス協会
雑誌
Journal of the Ceramic Society of Japan (日本セラミックス協会学術論文誌) (ISSN:09145400)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1259, pp.S61-S74, 2000-07-01 (Released:2010-08-06)

The 1950's and 60's were the decades when the field of traditional ceramics was brought under the light of analytical physical science. Especially sintering process of ceramics, which had been a matter of extreme complexity, was basically understood in terms of the atomistic diffusion process occurring in the bulk and/or on the interface of the coagulated body of the powder. On the extension a high temperature mechanical property, creep, was understood on a similar basis. The knowledge developed led to the discovery of highly dense sintered ceramics, now widely known as translucent ceramics.The author started his career as a ceramist in late 60th when the understanding of sintering kinetics needed further elaboration. One of the apparent contradiction at the time was the fact that the faster diffusing species, i.e., cation in oxides was the rate determining one in the sintering process. There should be some process that enhances the diffusion process of oxygen. Gradually the importance of surface and grain boundary diffusion was paid attention. This review was written by the author in order to summarize many papers, appearing in those days and to establish the systematic view on those studies. He described how various processes involve the ionic diffusion and how grain boundary diffusion affects the processes based on the concept of the ambipolar diffusion. Starting from the accumulated knowledge in the metal and alkali halides as the simple model for ceramic materials, he related the scattered knowledge into a consolidated view that could be applied to ceramics.In relation to this review he wrote additional reviews on “Diffusion Coefficient of Point Defects in Oxides” Yogyo-Kyokai-Shi, Vol. 87, No. 3, 36-42 (1979), and on “Kinetics of Various Mass Transport Processes on the Solid Surfaces, ” Oyo-Butsuri, Vol. 49, No. 6, 579-585 (1980) which in combination still form the basis of the current understanding of the field.
著者
鴈澤 好博 紀藤 典夫 貞方 昇
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.379-390, 1995-11-25
被引用文献数
1

1994年7月12日に発生した北海道南西沖地震について,大規模な被災地域の一つである大成町平浜,宮野,太田地区で,野外調査および聞き取り調査を通して,地震と津波の自然科学的な側面,被災状況の実態を把握し,自然的な条件と人間の避難行動の相互の関わりを検討し,あわせて防災に関する提言を行った.津波は地震後,約5分から7分で西あるいは北西方向から浸入し,その高度は4m〜7m程度であった.また,津波による人的・経済的被害は地区により大きな違いが認められた.津波から人命を安全に守るためには,a)住民に「地震すなわち津波」の意識があること,b)地震後津波が襲来するまでの避難時間があること,c)避難経路および避難場所が確保されていること,d)防波堤などの対津波・高潮対策が十分であることが保証される必要がある.
著者
三谷 はるよ
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.32-46, 2014

本稿の目的は, 「市民活動参加者の脱階層化」命題が成り立つかどうかを検証することである. すなわち, 資源のある人もない人も等しく市民活動に参加するような状況に変化しつつあるのかどうかを検討する. そのために本稿では, 1995年と2010年に実施された全国調査データであるSSM1995とSSP-I2010を用いて, 社会階層と市民活動参加の関連の動向に注目した時点間比較分析を行った.<br>分析結果は以下のとおりである. 第1に, 1995年も2010年も変わらずに, 高学歴の人ほど市民活動に参加する傾向があった. 第2に, 1995年では高収入や管理職の人ほど市民活動に参加する傾向があったが, 2010年ではそのような傾向はなかった. 第3に, 1995年では無職の人は市民活動に参加する傾向があったが, 2010年では逆に参加しない傾向があった. 本稿から, 高学歴層による一貫した市民活動への参加によって教育的階層における「階層化」が持続していたこと, 同時に, 中流以上の層や管理職層, 無職層といった従来の市民活動の中心的な担い手の参加の低下によって, 経済的・職業的階層における消極的な意味での「脱階層化」が生じていたことが明らかになった.
著者
高橋 裕 松村 秋芳 新屋敷 文春 藤野 健 原田 正史 大舘 智志
出版者
防衛医科大学校
雑誌
防衛医科大学校進学課程研究紀要
巻号頁・発行日
vol.32, pp.109-116, 2009-03

アズマモグラ (Mogera wogura,imaizumi) は足の母指側に指様の [内側足根突起 ; Medial tarsal process] を持つ。突起に収まる [内側足根骨 ; Medial tarsal bone] の顕微解剖所見も既に報告している。今回は、内側足根突起が、他の国産食虫目動物でも認められるのか調べた。
著者
天渕 律子 橋本 修左
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.40-46, 2002-08-10
参考文献数
5
被引用文献数
1

持別養護老人ホームで生活する高齢者の夏季の室温環境に対する温冷感やその調整への要望を把握するため高齢者45人に対して個別の面接調査を実施した。また,居室の温度,湿度などの実測値とその時点での高齢者の温冷感の申告との関係を観察した。その結果,朝方に寒いとの申告が昼や夜よりも多く,また,暑いと答えた割合は,夜間に多く見られた。高齢者は冷房による冷えと体調との関係に敏感な者が多く,特に下肢の冷えや痛みを庇って上半身の暑さを我慢する場合も見られた。高齢者の温冷感には,個々の心身の状況によって個人差が大きいことが分かった。また,冷房の送風に対して敏感である場合が多かった。
著者
松原 斎樹 下村 孝 藏澄 美仁 合掌 顕
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究課題でいくつかの実験を行った結果,色彩,環境音,植物,視覚刺激としての窓の開閉状況などは,温冷感や寒-暑,涼-暖などの印象評価に影響を及ぼすことが,明らかにされた。色彩の影響に関しては,いずれの実験においても,暖色の呈示により、「暑い」側へ、寒色の呈示により、「寒い」側へ変化するというhue-heat仮説に合致した結果が得られた。特にカーテンを用いた実験では,周囲色彩が与える影響は室温に注目させた特異的尺度である「温冷感」よりも、室内のイメージを評定させた際の「涼暖感」や「寒暑感」等の非特異的な尺度に見られた。環境音として設定した「風鈴の音」は、高温の状態では,より「涼しい」,「快適な」側に感じる効果が見られたが,この効果は,特に色彩の影響が小さい、灰色呈示状態において、顕著である。植物の効果に関しては,マッサンギアナは夏に室内に置きたい植物であり、夏期の室温条件下にある室内に設置することで、グリーンアメニティの効果が期待できるが,ポトスは冬に室内に置きたい植物であり、夏期の室温条件下にある室内に設置しても、グリーンアメニティの効果は期待できない。カーテン・窓の開閉状況の映像の効果に関しては,温度の交互作用は「自然的な-人工的な」においてみられ,カーテンの開閉状況に対する評価は室温により異なると考えられる。以上の知見から,色彩,環境音,植物等を適切に利用することにより,寒暑,涼暖の感覚を変化させることの可能性が確認されたと言える。今後は,エネルギー削減の定量的な効果を明らかにすることが課題と考えられる。
著者
塚本 勝男 佐藤 久夫 大島 嘉文
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

月や火星なので人類が長期間生活することを想定すると、生活維持に必要な酸素と水をつくるだけでなく、居住に必要なコンクリートの安定性を保証する必要がある。コンクリートの主成分は水酸化カルシウムの結晶であり、この安定性を高分解光学系で”その場”観察をおこなって調べた。居住空間では生成される炭酸ガスと水によりコンクリート内に炭酸水が存在し、主成分の炭酸カルシウムを溶かすだけでなく、新たなアラゴナイトやカルサイトをつくり、体積変化のきっかけをつくる。この一連の反応を、分子レベルで観察できる”その場”観察でしらべると、溶解と析出が同時におこるメカニズムであることが分かった。