著者
稲葉 奈々子
出版者
茨城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

パリで住宅への権利運動を中心とした争議に参加する都市底辺労働に従事する移住労働者に対して聞き取り調査を行った。福祉国家型の社会統合機能が弱体化するなかで、貧困層の社会権行使は、当事者の当該社会での社会的地位を決定する重要な要素となる。フランスでは、労働運動など、かつて争議を担った主要な社会運動が衰退しており、労働者コミュニティも機能せず、貧困問題への対応が個人化する傾向にある。こうしたなかで1990年代以降活性化してきた社会的排除を争点とした新しい争議は、社会的排除社会といわれる現代社会における社会統合のあり方を考察する上で重要である。本調査では、争議への参加は、移民出身者の場合に出身コミュニティによる規定の度合いが大きいことが明らかになった。当事者のアイデンティティの準拠先が出身コミュニティにある場合には、フランスにおいて経験する社会的排除が、個人的責任として自己認識されない傾向にあることは、前年度までの調査で明らかになったことだが、今回の聞き取り調査では、職業や家族構成が与える影響についても聞き取りを行った。非正規滞在移民については、フランスでの争議の経験が、出身国に帰還したのちに及ぼす影響についても調査を行った。とくに争議の中心を担うマリ人について、バマコにおいて聞き取り調査を行った結果、フランスの出身コミュニティとのつながりを保ち続けているソニンケの場合は帰国後も社会統合が比較的容易であるのに対して、出身コミュニティと切り離されている者の場合、争議をへて獲得したフランスからの資源がまったく得られなくなり、マリにおいても社会的排除を経験していることが分かった。
著者
松田 光弘
出版者
大阪教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

○研究目的:中学女子生徒に対して行った柔道についての事前調査では,未経験の動きに対する不安な部分があることが分かった。そこで初心者でも,「よく分かる」「できると感じる」などの柔道における運動有能感を高めるような授業を展開していく必要があると考えた。○研究方法:柔道の立ち技は,一瞬で動きが完結するため,簡単に撮影・再生ができるタブレットPCが便利である。その再生動画をもとに相互に意見を出し合いながら動きを修正し,それをパートナーで繰り返しながら技能習得を目指す授業を展開した。○研究成果:運動に対する自信度における中位群・下位群では,有意な差が顕著に見られた。このことから運動に対する自信が低い生徒において,本研究が有効な手立てであることが示唆された。また,授業後の自由記述によるノートからは,「動きを再生して見ることでアドバイスがしやすかった」「上手な人から教えてもらったポイントは,なるほどと実感できた」など,動画を通じて授業意欲やコミュニケーション活動を活性化させる成果があったことが明らかになった。しかし,身体的有能さの認知という点において,上位群および下位群に有意な差が見られなかった。このことは,挑戦を必要とする難易度の高い技や攻防など勝敗を決するようなプログラムを組み込まなかったことが考えられ,今後の課題である
著者
鄭 佳月
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究では、多民族化する社会における世論の代表と世論の多元性との接点を探るべく、世論の代表形態の変遷について歴史的考察を行った。本年度は、昨年度に引き続き3つの軸に分けて研究を遂行した。第1の軸は、戦後日本における世論の代表形態の変遷を歴史的に分析するものである。特に、世論を調査する側の論理を明らかにするため世論調査に焦点を当て、政府・新聞社・民間機関等の各取り組みを実証的に明らかにするとともに、民主主義と世論調査の関係を再考した。成果は、「世論調査の効用と調査主体の視点に関する一考察」として、日本社会学会年次大会で報告された。第2の軸は、世論の多元性をめぐる市民の側の試みを考察するものである。近年の住民投票やDeliberative Pollingといった市民の実践を歴史的に捉えるため、1950~60年代の日本社会に遡り、世論の代表をめぐる議論を整理することで、世論の代表形態と市民の関係を検討した。第3の軸は、世論の代表と市民概念についての理論的考察である。研究全体を枠づける理論構築に取り組みつつ、世論の代表をめぐる日本社会の認識を、国際的動向の中に位置づけ検討するために海外の文献資料を収集し分析した。その成果の一部は、The Association for Asian Studies Conference 2011において"Social Research as a 'Technology of Governance' in Asian Networks from the 1910's to the 1920's"という題目のもと報告されることが決定している。一連の作業から、本研究では、世論の代表をめぐる日本社会独自の文脈を浮かび上がらせ、今日に通じる問題として、世論の代表形態と世論の多元性の可能性と限界を明確にした。
著者
田口 芳彦
出版者
岩手大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

研究目的:近年,機能性を有する大豆加工食品が注目を集めている,これら大豆の味噌加工行程における加熱処理工程の違いによるイソフラボン含有量を調査し,味噌の高付加価値化への検討を行った.研究方法:大豆「スズカリ」,米麹;白麹「雪こまち」塩「天日塩」を供試し,圧力蒸煮釜を用いて,A;20分煮熟,B;40分煮熟,C;20分蒸熟,D;40分蒸熟を行い6割麹味噌に仕込み,官能評価と明度およびイソフラボン含有量の調査をした.官能評価は,仕込み6ヶ月後に「色」,「香り」,「味」および「組成」の4項目を5段階(1=良い,3=普通,5=悪い)で評価し,明度は,ミノルタCR-200色彩色差計を用い,6ヶ月後,12ヶ月後に測定した.イソフラボン含有量は,仕込み直後と6ヶ月後の味噌についてHPLCで測定をした.結果および考察:イソフラボン含有量・・・乾物味噌100g中のイソフラボン量の比較では,仕込み直後では,C;150.18mg>D;140.61mg>A;112.34mg>B;110.42mgとなり,仕込み6ヶ月後では,C;93.19mg>D;90.66mg>B;75.83mg>A・74.89mgとなり,仕込み直後6ヶ月後ともに蒸熟が煮熟より高い値となった.官能評価・・・平均値で比較すると,A;2.92,B;3.00,D;3.08,C;3.42とAが,他の3種より高く評価され,Cは3.42と低く評価された.項目別では,色の評価は,Dが2.7と高く,香りの評価は,Aが2.7と高く,味の評価は,AとBが2.3と高く,組成では,BとDが2.3と高く評価された.味噌の明度・・・明度Y値で比較すると,仕込み6ヶ月後は,A;23.6>B;22.26>C;18.9>D;15.5となり,仕込み12ヶ月後は,A;18.7>B;18.4>C;16>D;13.7となった.以上の結果,蒸熟味噌は,煮熟味噌よりイソフラボンが高い値となり,また,処理時間が長いほど組成の評価は高いが,香りの評価が低くなった.明度は,蒸熟味噌が煮熟味噌より暗く,処理時間が長くなるほど暗い味噌となった.適切な処理時間を選定する事によりイソフラボン含有量が高い味噌醸造の可能性が示された.
著者
小林 哲則 中川 聖一 菊池 英明 白井 克彦 匂坂 芳典 甲斐 充彦
出版者
早稲田大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

今年度の成果は以下の通りである。a)対話のリズムと韻律制御前年度までの成果に基づいて、対話における話題境界の判別を題材に、韻律情報におけるアクセント句単位でのパラメータを用いて統計的なモデルを学習し、オープンデータに対しても人間と同程度の判別精度が得られることを確認した。(白井・菊池)自然な対話システムを構築する上で重要なシステム側の相槌生成と話者交替のタイミングの決定を、韻律情報と表層的言語情報を用いて行う方法を開発した。この決定法を、実際に天気予報を題材にした雑談対話システムに実装し、被験者がシステムと対話することにより主観的な評価を行い、有用性を確認した。(中川)b)対話音声理解応用対話音声における繰り返しの訂正発話に関する特徴の統計的な分析結果を踏まえ、フレーズ単位の韻律的特徴の併用と訂正発話検出への適用を評価した。また、これらと併せた頑健な対話音声理解のため、フィラーの韻律的な特徴分析・モデル化の検討を行った。(甲斐)c)対話音声合成応用語彙の韻律的有標性について程度の副詞を用い、生成・聴覚の両面から分析を行い、自然な会話音声生成のための韻律的強勢制御を実現した。また、統計的計算モデルによる話速制御モデルを作成し、会話音声にみられる局所話速の分析を進め、自由な話速の制御を可能とした。さらに、韻律制御パラメータが合成音声の自然性品質に及ぼす影響を調べた。(匂坂)d)対話システム上記の成果をまとめ,対話システムを実装した。特に,顔表情の認識・生成システム,声表情の認識・生成システムなどを前年度までに開発した対話プラットホーム上に統合し,パラ言語情報の授受を可能とするリズムある対話システムを構築した。(小林)
著者
中村 素典
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

まずIPv6ネットワークの試験的利用環境を構築するために、学外のIPv6ネットワークとの接続を行なった。特に今後のマルチホーム環境に基づく通信の信頼性向上手法の開発および活用のため、WIDE、JGN、CKPをはじめとする複数のIPv6バックボーンネットワークとの接続を行い学内から利用できる環境を整えた。次に、キャンパス内で使用している電子メールサーバのIPv6への対応作業を実施した。学内で運用しているウィルスチェック機能つき電子メールサーバをIPv6対応にし、学内外とのメールのやりとりにIPv6も利用できるようにすることで、IPv6を利用しつつ安全な電子メール交換が可能となる。同時に、IPv4とIPv6を併用する際のDNSの管理方法について検討を行ない併用および移行の際の問題点の洗い出しを行なった。また、ネットワークの設定・運用状況を把握するための仕組みを構築し、キャンパスネットワークの日々の運用に利用できる体制を構築し評価を行なってきた。学内の1000台を越えるネットワーク機器の情報を集約して管理することで、各スイッチの管理運用状況を容易に把握できるようになった。さらに、近年頻度が増加している遠隔講義の安定化のための手法としてPath-Diversity技法に基づく方式を開発し、IPv4とIPv6の併用を含む複数の経路の同時活用によるネットワークの状況把握とストリーム伝送の安定化手法についても研究に取り組み、その有効性について確認した。
著者
中瀬 剛丸
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

世論概念と世論調査結果との関係について理論的な整理を行った上で、マス・コミの世論調査報道の現状を調査し、RDD法という電話調査の普及によって近年になり調査が頻繁に行われ、かつ大きく報道されていることを確認した。また報道の中心である内閣支持率の調査結果は、しばしば社によって大きな違いが出ていて、内閣支持率に触れているプログ記事の分析などから、世論調査に対する不信感を招いている側面があることを見出した。
著者
赤澤 史朗 小関 素明 中島 茂樹 福井 純子 梶居 佳広
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、現在の憲法改正論議の枠組みが形成された1950年代の憲法論議を、総発行部数の約半数を占める地方紙の論説を主対象として資料収集し、検討するものである。その成果の刊行は、『立命館大学人文科学研究所紀要』97号の特集「1940~50年代の日本の憲法と政治」と、全国の地方紙論説を500点に絞った資料集である、報告書『1950年代の憲法論議-地方紙を中心として』によって実現された。
著者
根本 香絵 EVERITT MarkStanley EVERITT Mark Stanly
出版者
国立情報学研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

これまでの研究をもとに、主に超伝導量子ビットと、ダイヤモンドNV中心のアンサンブル系の合成系を解析できるように解析系の拡張を行った。NTTの実験グループと議論を重ねて、ダイヤモンドNV中心のアンサンブルと超伝導量子ビットの相互作用を解析できるよう準備し、実験系をモデル化して数値的に解析を行った。ダイヤモンドNV中心のアンサンブルと超伝導量子ビット間での量子的な相互作用の実証はこれまでに例がなく、理論的な解析が特に重要となった。特にNV中心と量子ビット間の相互作用は大変小さく、そのためアンサンブル中のNV中心の数は巨大になる。このアンサンブルが量子ビットとして機能する条件を理論的に整理した。理論的な議論から数値計算に適する正確なモデルを構築することが重要で、モデルに工夫をするなどして数値計算が行えるよう配慮した。超伝導量子ビットとアンサンブル量子ビット間のコヒーレントな相互作用によって、超伝導量子ビットに励起された単一量子を2体間でやりとりする過程を解析した。さらにダイヤモンドNVセンターの性質や相互作用の解析などを統合して、理論的な議論を進めた結果、これらは実験結果と一致した。この物理過程は、量子メモリーやクラスター状態生成などの量子情報処理のための素子に応用でき、ダイナミクスについての理解は誤り特性の決定に必須である。また、本研究によりダイヤモンドNVセンターの量子的な性質の理解が深まり、今後ダイヤモンドNVセンターを量子情報素子へと応用する場合に重要な知見が得られた。
著者
高橋 豪仁
出版者
奈良教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

プロ野球のスタジアムの空間が、如何にして統制・管理されているのかを検討した。1980年代に一般化した集合的応援行動は、自発的結社である私設応援団が一般の観客を統制する形で行われ、一般客の逸脱行為を防ぐという側面があった。日本野球機構は警察庁と連携して、2003年に「プロ野球暴力団等排除対策協議会」を立ち上げ、2006年からは私設応援団を許可制とした。球団や球場が黙認していた私設応援団に対して日本野球機構が正式に市民権を与えたというこの一連の動きは、私設応援団が囲い込まれる過程として捉えることができる。2008年にある私設応援団が起こした訴訟「応援妨害予防等請求事件」は、スポーツの市場メカニズムへの抵抗が、スポーツ観戦に基づく人々のネットワークによって形成されたことを示している。
著者
徳永 朋祥 片山 浩之 知花 武佳 福士 謙介 多部田 茂 原口 強 浅井 和見 松岡 達郎 井上 誠 秋山 知宏 茂木 勝郎 端 昭彦 甲斐荘 秀生 LUN SAMBO 後藤 宏樹 本宮 佑規
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

カンボジア王国のシエムリアップ市、バッタンバン市周辺を対象とし、地下水環境並びに地表水環境、地表水と地下水の関連について検討を行った。シエムリアップ市では、地下水と表流水との交流が比較的活発であり、また、地下水の利用も相対的に容易である一方、バッタンバン市周辺においては、表流水と地下水との交流は活発ではなく、地下水利用も一部の地域を除いてそれほど容易でない状況が見られた。このような違いは、両都市の地質学・地理学的位置づけに依存していることが考えられた。また、トンレサップ湖の堆積物を用いた古環境解析や水中に存在するウイルスの定量化に関する検討も実施し、成果を得た。
著者
田中 正俊 和田 直久 関谷 隆夫 大野 真也
出版者
横浜国立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本年度の研究計画に従って、原子層単位で酸化したSi(001)表面や表面修飾により仕事関数を変化させたSi(001)表面上にGFP、ルシフェラーゼ極薄膜を作成して蛍光、生物発光の測定を試みたが,共に変化は確認されなかった.しかし,下記のような系においては,分子の荷電状態により発光色が変化する現象を見出すことができた.1.caged ATPを用いてルシフェリン-ルシフェラーゼ反応による生物発光を起こさせると,caged ATPから放出された2-ニトロアセトフェノンによりルシフェラーゼの活性部位の荷電状態が異なり,通常の黄緑色ではなく赤色の発光を放出する.2.GFPに静水超高圧を印加すると分子の圧縮効果により蛍光ピーク波長が短波長側へシフトするが,IGPa付近では発色団から周囲のアミノ酸残基へ電荷が移動することにより,このシフトが相殺される.3.より単純なa-sexithiophene分子を様々に表面修飾したSi(001)表面上に供給すると,仕事関数の変化に呼応して分子から表面への電荷移動量が,そしてその結果としてπ→π*遷移のエネルギーが変化する.以上の結果は,もっと多量な分子を表面修飾したSi(001)表面上に供給できれば発光色の変化を観測できることを示しており,本研究の目的であった「荷電状態をチューニングすることにより光スペクトルを制御し、新規なバイオ光デバイスを開発できる」可能性を初めて明らかにしたものである.
著者
辻 絵理子
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

科研を用いた海外調査では、申請書の計画通りブリティッシュ・ライブラリーの最重要写本のひとつである『テオドロス詩篇』、及びフランス国立図書館の『パリの74番』の実見調査が叶った。この二冊は11世紀ビザンティンの修道院写本工房を考える上で不可欠な写本であり、顔料の剥落の度合いや綴じの状態などを詳細に調査することができた意義は大きい。研究成果としては、まず美術史学会全国大会、美学会、比較文学研究会において計4回の口頭発表を行った。それぞれ、会の特質に合わせたテーマめ選定と研究手法を選んだことで、活発な質疑を行うことができた。本年度特に意識したことは西ヨーロッパとの関わりであり、両者に共通するモティーフを取り上げ分析することで、各方面の専門家からのご意見を伺うことができた。また、美学会では新しい余白挿絵詩篇の分析方法を提示し、方法論に優れた専門家からの意見を求めた。二度にわたる比較文学研究会の発表においては、比較文学的な観点からモティーフめ東西伝播を探り、あるいは美学会で示した新たな手法を実際に適用することで得られた知見を発表した。それらの口頭発表のうち2本を、今年度中に論文の形で発表することができた。ひとつでは西洋古代の写本から中世までのイメージの変遷を辿り、それがやがて日本近代に形を変えて受け入れられていく過程を指摘した。もうひとつでは、『ブリストル詩篇』のこれまで等閑視されていた頁に隠された意味と機能を、口頭発表でも示した手法を用いて分析・指摘した。
著者
佐藤 しのぶ
出版者
九州工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

癌マーカーとして期待されている蛋白質テロメラーゼは、DNAテロメラーゼ逆転写酵素, hTERT遺伝子)の異常メチル化と相関があると言われている。しかし既存のテロメラーゼ検出方法では高感度な検出ができず、相関関係が観察できなかった。そこで、本研究では電気化学的テロメラーゼ活性検出法と電気化学的遺伝子検出法によって、臨床サンプルのテロメラーゼ活性とhTERT遺伝子のプロモータ領域の5つのCpGサイトについてメチル化度合いを調べた。
著者
江角 真理子 杉谷 雅彦 山口 裕美
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

肝臓がんの主たる原因であるC型肝炎ウイルスについて、治療薬はまだ十分なものがない。本研究ではヒト組織がもちうる抗ウイルス反応をヒントに、新たなヒトに優しいC型肝炎治療法の基盤を探索した。ウイルス量が1000倍も異なる肝臓組織を比較し、どこが違うかを発現しているタンパク質の違いで捉えた。とくにウイルスが増える肝実質細胞とその環境を作り出す間質とにわけて解析した。それぞれから90個と27個のタンパク質を見つけた。ウイルス量が多い組織では、ウイルス有利に働くものとウイルス制御に働くものとの両方が見いだされた。中でもウイルス量が多い組織で発現亢進する機能未知のタンパク質について、ウイルス感染実験で検討した。ウイルス侵入を助けるタンパク質分解酵素や、ウイルスの分泌に関連しそうな細胞内器官ゴルジ体タンパク質の存在が見いだされた。
著者
安村 基 鈴木 滋彦 小林 研治
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

モンテカルロシミュレ-ションおよび信頼性解析により、日本建築学会「木質構造設計規準」による木材の繊維方向加力を受ける曲げ降伏型接合部の降伏モードの推定が妥当であることがわかった。繊維直角方向の応力を受ける接合部では、木材の破壊確率を想定した設計を行わないと危険サイドの設計となる可能性があること、モーメント抵抗接合部においても、確率的手法を取り入れた設計を行わないと、柱の折損など危険な破壊メカニズムを生じる恐れがあることが分かった。また、信頼性解析により CLT パネルの破壊メカニズムの推定が行えることを実験的に実証した。
著者
高見 勝利
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

この2年間、国立国会図書館憲政資料室所蔵の入江俊郎および佐藤達夫の両文書から採取した日本国憲法制定に関する原資料をほぼ時系列的に整理し、全15巻(第90回帝国議会議事録等を含む)の資料集にまとめる基礎を固めることが出来た。また、憲法問題調査委員会の調査資料についても、これまで公刊されていない会議議事録を含め、第1巻の資料集を公刊することが出来た。更に、それと関連して、憲法問題調査委員会委員であった宮沢俊義の私蔵文書(現在,立教大学法学部図書室で保管)から、上記、入江・佐藤の両文書において欠落している資料を採取することができた。この作業の中で、日本国憲法判定前後において、宮沢が東京帝国大学法学部で行った講義および講演等の草稿を入手し、また、当時、宮沢の憲法講義を聴講された五十嵐清北海道大学名誉教授、芦部信喜東京大学名誉教授からも1944年度および1946年度の講義ノートの提供を受け、雑誌論文としてまとめることができた。本研究のまとめとして、1998年3月23日、九州大学大学院比較文化研究科主催の九州大学比較文化研究会(責任者横田耕一教授)において、「憲法制定過程において入江俊郎と佐藤達夫の果たした役割」と題した報告を行い、二年に及ぶ本課題の研究活動を終了した。なお、資料の整理は本課題研究終了後も継続し、現在、資料集第2巻について、第二校の段階にあり、資料解題を付し、本年中に刊行する予定である。
著者
中村 史
出版者
小樽商科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

研究代表者は、平成15年度から18年度まで4年間の基盤研究Cによる研究「日本文学のジャータカ説話(本生譚)と源流・インド説話との比較研究」、及び、これに先立つ数年間の研究成果(平成13年度から14年度にも前段階の研究について科学研究費補助金・若手研究Bを取得)に基づき、博士学位請求論文『ジャータカ説話の原型と展開』を執筆した。これを桃山学院大学大学院文学研究科に提出し、平成18年3月17日、同大学大学院文学研究科より「博士(比較文化学)」(文博乙第一号)を取得している。最終年度・平成18年度には、この博士論文の改稿・整備を行った。並行して、科学研究費補助傘の「研究成果公開促進費」を申請してこれを取得し、汲古書院より、今年度、平成19年6月30日原稿組み入れ予定、平成20年1月16日発行予定として、さらに作業を進めている。書名は『三宝絵本生課の原型と展開』(博士論文の論題を変更)であり、目次によって概要を示せば、第一章 『三宝絵』とその本生譚第二章 シビ王本生譚の原型と展開第三章 シビ王本生譚の主題とその達成第四章 スタソーマ王本生譚の原型と展開(一)第五章 スタソーマ王本生譚の原型と展開(二)第六章 スタソーマ王本生譚の思想的背景第七章 大施太子本生譚の原型と展開第八章 大施太子本生譚の誕生となっている。日本・平安時代、永観2年(984)成立の『三宝絵』に流入した本生課(ジャータカ説話)にどのようなインド的、仏教的背景があるのか、その原型または起源、展開または変容の諸相について考察している。またそれぞれの本生譚ないしその類型話が文学としてどのように読み解けるかを解明しようとしたものである。
著者
中村 剛 野瀬 善明 高辻 俊宏
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の最大の成果は、福岡市医師会との密接な協力関係のもと、「大型回遊魚の摂取⇒有害ミネラルの蓄積⇒乳幼児健康異常」といった仮説を検証し、臨床還元するためのプロジェクトが動き出したことである。九州大学医学部倫理委員会で承認され(代表者:野瀬善明教授)、既に親子約600組のコホート集団が構成されつつあり、毛髪の測定機器の準備も整いつつあるが、本研究の範囲を越えるので詳細は省く。以下において、項目ごとに研究成果のまとめを記す。1.多変量比例ハザード測定誤差モデル用FORTRANプログラムを作成しアップした。2.食習慣調査と遺伝要因調査:タッチパネルとパソコンを連動することにより、液晶画面にタッチして回答を入力するシステムを開発した。質問内容は(1)アトピー性皮膚炎診断のための5項目、(2)肉、野菜、魚の摂食割合、(3)よく食べる寿司ネタ、(4)大型回遊魚の摂食回数に関する3項目、からなる。3.長崎市保健センターにて実施した結果80%という期待通りの受診者が参加した。しかし、質問紙によるアンケートも実施し、回答率、信頼性を比較した結果、大勢を対象とした調査では、質問紙による方が優れていると結論された。4.約600名の分析結果として7%がアトピー、更に7%がアトピー疑い、とされた。5.ロジスティック回帰モデルによる解析の結果、(1)親族にアトピー、ぜんそく、アレルギー体質の方がいるとアトピーのリスクが高い。(2)女のほうが男よりアトピーのリスクが高い。(3)小型魚の割合が高いほどリスクが低い。(4)卵の回数が多いほどリスクが低い。特に0から2までのリスクの減少が大きい。結論:大型回遊魚との関連はみられなかったが、性別、遺伝要因の影響を修正したあとに、小型魚の摂食回数がリスクを減少するという新たな知見を得た。また卵の摂食回数が少ない程リスクが高いのは、家庭での料理の回数が少ないほどリスクが高いことを示唆していると推察される。