著者
後藤 浩子
出版者
法政大学経済学部学会
雑誌
経済志林 (ISSN:00229741)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.1-31, 2012-09

In the research field of Irish history, William Petty (1623-87) has been seen as an English absentee who was granted land in Ireland during the Cromwellian era as a result of the Down Survey he carried out. Also, in the history of economic thought, he has been recognized as a founder of political arithmetic. Only scant attention has been paid to the relationship between his writings and his background. Recent research on Petty, however, has not only created an awareness of the importance of his concern to have Ireland improve and progress but has also given considerable attention to the context of his writings. In broad terms, his writings can be understood as a politico-economic theory of settlements for the purpose of the governance of the British Empire. This paper principally aims to analyze the formation of governmental reason (raison gouvernementale) in Petty's writings. To begin with, we define Michel Foucault's concept of governmentality (gouvernementalité) and his view on the formation of politico-economic thought in Great Britain, and compare this with the opinions of J. G. A. Pocock. Then, we analyze the influence of Francis Bacon and Thomas Hobbes on Petty, and, finally, we describe him as a founder of the Irish tradition of governmental reason.
著者
丸山 淳子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.250-272, 2012-09-30

本論は、ボツワナの動物保護区からの住民立ち退きをめぐる裁判判決を題材として、アフリカにおける国家と狩猟採集社会の関係について考察する。狩猟採集社会は、その生活様式や文化の独自性から国家のなかの「逸脱者」とみられ、彼らを統治するための場に収容し、「国民」化することが望ましいと考えられてきた。しかし近年では、こうした人々が、自主決定の権利をもち、国際社会や国家のなかで主要なアクターとなりうる「先住民」とみなされ、彼らを一元的に包摂しようとする国家統治のあり方は再検討を迫られている。一方、このようなグローバルに普及する新しい考え方と、アフリカの個別の民族や集団が経験している現実の展開とのあいだには大きな開きがある。ボツワナでは、動物保護区に居住していた狩猟採集民サンが開発計画の一環で土地を追われたことを、「先住民」の権利の侵害とする判決が出され、高く評価された。しかし国民形成の途上にあるボツワナにおいて、サンを特別視する運動は、様々な緊張関係や齟齬を生み出した。また動物保護区には政府サービスを提供する必要がないとする判決と、政府が裁判の提訴者のみに帰還を許可したことによって、結果的に動物保護区では「伝統的な狩猟採集生活」、立ち退き先では「開発の恩恵を受ける生活」を強いられることになり、保護区に戻れる人と戻れない人のあいだの溝が広がるといった問題も生じた。それでもサンは、動物保護区でも立ち退き先でも、開発計画の恩恵をうけつつ狩猟採集生活を続けられるような状況を創り出すことによって、場のもつ意味をずらし、様々なかたちで協力関係を築きなおすことによって、戻れる人と戻れない人の境界にゆらぎを生じさせている。本論では、このような「統治の場」を自らの「生きる場」に変えていく試みの詳細と、その試みがもつ可能性と限界を論じる。
著者
菊池 明
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会学研究科篇 (ISSN:18834000)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.1-17, 2013-03-01

マレーシアは多民族・多文化社会であるが,世界的に民族要因の紛争が拡大するなかで1969 年5 月のマレー系・中国系の対立を最後に大きな紛争を経験していない社会である。この要因として民族横断的で強力な政権政党の存在を挙げる者がいるが,この政治体制も基盤となる日常世界とリンクしているものである。本論文では多民族が混交する日常世界に焦点を当て,ゴッフマンの儀礼論・集まり構造論を柱としその安定化の様相を検討している。すなわち人々が多民族的集まりの状況を感得しながら自己を表出し,また他者の民族・宗教スティグマを捨象する「戦略的パフォーマー」像を提示するとともに,異なる民族が接触する領域に彼らが創りだす「境界の集まり」を考察し,これらが多民族間の平和維持に寄与している事実を明らかにしている。
著者
岩岡 洋 長名 保範 吉見 真聡 小嶋 利紀 西川 由理 舟橋 啓 広井 賀子 柴田 裕一郎 岩永 直樹 北野 宏明 天野 英晴
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. RECONF, リコンフィギャラブルシステム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.105, no.287, pp.61-66, 2005-09-08
被引用文献数
6

計算機を利用した生化学反応のシミュレーションが行なわれるようになってきた。大規模なシミュレーションモデルを扱う場合、膨大な計算時間を要するため、FPGAを用いてシミュレーションを高速化する研究が行われている。しかし、これまでの研究は主としてアルゴリズムの高速化であり、ユーザの利便性は考えられていなかった。そこでシステム生物学ではデファクトスタンダードとして用いられているモデル記述言語SBMLを利用可能とするためのインタフェイスソフトウェアを実装し、その際のオーバーヘッドなどの評価を取った。
著者
日鷹 一雅 嶺田 拓也 大澤 啓志
出版者
農村計画学会
雑誌
農村計画学会誌 (ISSN:09129731)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.20-25, 2008-06-30 (Released:2009-06-30)
参考文献数
38
被引用文献数
5 5

A consideration was progressed for historical establishment of agrobiodiversity in a rice field of rural area, integrating factors in biogeography, rural history and engineering, farming systems and agricultural management practices. Actually situation of conservation or restoration planning of agrobiodiversity have conducted from an only view point of agricultural management practice, especially ignoring biogeographical ones as the first historical step. For systematic planning of nature restoration in a rice field of a particular rural area, it is necessary to understand deeply integrated analysis of agrobiodiversity basing on biographical, historical and agronomical academic disciplines.
著者
黒川 勲
出版者
大分大学大学院福祉社会科学研究科
雑誌
紀要 (ISSN:21859574)
巻号頁・発行日
no.10, pp.1-11, 2008

スピノザ哲学の目的は、感情を知性認識することで改善をはかり、至福としての神への知的愛に至ることである。そして、その改善されるべき感情は想像力によって生成するものである。本稿では、感情の生成を担う想像力の特徴を明らかにすることを目的とし、特に想像力と身体との関係に注目して考察を試みる。### スピノザにおける想像力は、まさにその身体性に特徴がある。身体の複雑性と多様な変容性の故に、想像力は非十全な認識と位置づけられるが、同時に想像力が身体に起因する故に、経験的世界において認識の現在性と総合的な自己認識が可能となるのである。###In this paper I would try to understand of properties of "imaginatio" or imagination in Spinoza's philosophy. For the purpose I would consider"idea of affection of the body" that signifies imagination.###According to Spinoza, mind is idea of the body. The body has the complicated structure in itself and is variously affected by outside objects. Such idea of the body is idea of affection of the body and has complexity and variety in itself. Namely, imagination as idea of affection of the body shows the inadequate knowledge, because human mind cannot recognize all the complexity and variety. On the other hand, the actuality of knowledge and the possibility of self-knowledge are based on imagination, even if knowledge of imagination is inadequate.
著者
渡邉 英徳 坂田 晃一 北原 和也 鳥巣 智行 大瀬良 亮 阿久津 由美 中丸 由貴 草野 史興
出版者
特定非営利活動法人 日本バーチャルリアリティ学会
雑誌
日本バーチャルリアリティ学会論文誌 (ISSN:1344011X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.497-505, 2011
被引用文献数
2

We defined the approval requirements and established the design method for information architecture "Plural digital archives" that supplemented existing digital archives' weak point. A digital archive that urges multipronged, overall understanding about archived event can be achieved by this design method. And more, we produced an implementation example "Nagasaki Archive" and verified the validity of the design method through the analysis of behavior and comments of users and the access log of the website.
著者
野村 雅昭 Patricia Welch
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.59-88, 1996-03-31

フレーム理論とは, 人工知能, 心理学, 言語学などの分野で近年研究が盛んになった概念である.人間の行動における認識の枠組みとでもいうべきもので, 「予想の力」などと言われることもある.言語学では, 談話分析に応用されることが多い.小稿では, この理論を用いて落語を談話としてとらえ, そのユーモアが生じる過程を分析することを目的とする.「長屋の花見」は, 大家が貧乏長屋の店子を連れて花見に出かけるというだけの単純なストーリーからなるが, きわめてクスグリ(笑いを起こさせるための手法)に富んだ落語である.その笑いの多くは, 大家と店子との対話から生まれる.それは, それぞれの持つフレームの対立によってもたらされる.すなわち, 金持ち/貧乏, 生/死, ごちそう/粗食, などの対立するフレームがそこから取り出される,その食い違いが笑いの誘因とデなっている.それらをまとめると, この落語は正常と異常の7レームの対立を軸としていることがわかる.そして, 特に<有り得る/有り得ない>という対立が全体を通して存在する.大家は<有り得る>世界の代表者であり, 店子はしばしば<有り得ない>世界に飛び出してしまう.そこに対立が生まれ, ユーモアが生じることになる.このような方法は, そのほかの落語の分析にも有効だと考えられる.
著者
伊藤 毅志
出版者
電気通信大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

将棋を題材にして、人間のエキスパートの学習過程について研究してきた。学習支援の形として、将棋の感想戦に注目した。感想戦とは、対局が終了した後、対局者同士が一局の将棋を振り返りて、反省点を述べ合う一種の協調学習過程である。研究では、様々な棋力の被験者を用意して、実際に感想戦を行って貰い、その過程をビデオで録画して、どのような学習が行われているのか分析した。また、エキスパートの高い問題解決能力のメカニズムを調べるためにトッププロ棋士の認知的過程をアイカメラや発話プロトコル分析を用いて考察する研究を進めてきた。その成果は、論文や研究会報告・海外の国際会議発表を通して、報告してきた。その結果、感想戦では、一局の対局を直感的な言葉で表現する能力と、その対局中でどこが悪かったのかを反省し教訓帰納として反芻する過程が重要であることが明らかになってきた。そこで、まず始めに、一局の対局を言葉で説明するためのコンピュータシステムの構築を目指した。将棋の棋譜データをもとに、一局の将棋について将棋用語を用いて表現することが可能なシステムの構築を行い、研究会報告などでその成果を報告した。そして、さらにそのシステムを用い、学習者に対局を行わせた後、一局の将棋を振り返らせて、反芻させる機能を持たせた学習支援システムの構築を目指している。14年度の終了が近づいているが、現在、そのシステムの構築に一通りの目処が立ったところで、これから、具体的に被験者を用いて、このシステムを使わせて、学習支援システムとしての有効性の検証に入っていく予定である。
著者
有田 隆也
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.25, 2011

ヒト独自の社会的知能を,言語,協力,心の理論のそれぞれに関わる形質の共進化の中で創発したものとみなす仮説に基づき,構成論的手法を用いて研究している.本発表では,ゲーム論的モデルを設定した上で,進化シミュレーションと人間による社会的進化実験の両者を相補的に行うアプローチについて,言語と協力を対象として進めている研究を題材として論ずる.