著者
金井 遵 須崎 有康 八木 豊志樹 並木 美太郎
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.1383-1393, 2007-06-01
被引用文献数
4

本論文では,モバイル環境をはじめとしたCPUやメモリなどのハードウェア資源が制限された環境でHTTP-FUSE-KNOPPIXによる実用的なシンクライアント環境を実現するために,高速化・負荷分散機構,耐故障性機構を実装したモバイルシンクライアントサーバHTTP-FUSE-KNOPPIX-BOXを開発した.キャッシュサーバはネットワークの遅延やバンド幅を隠ぺいし,高速化するとともに,ブロックファイルを取得する一次サーバがWAN側にあり,インターネット接続がない環境でもOSを起動可能にする。また,ソフトウェアRAIDを導入し,ファイル入出力性能自体を向上させるとともに,RAIDの冗長性により耐故障性を向上させた.更に,DNSであるDNS-Balanceを改良し,サーバの負荷分散を行うとともに,サーバの障害を自動的に検知し,動的にクライアントの接続サーバを切り換えることで耐故障性を確保した.評価により,CPUやメモリなどのハードウェア制限があるサーバ環境においても,従来のシンクライアントと遜色ない性能を実現でき,障害発生時にもユーザが意識することなくシステムの正常動作が継続できることを確認した.
著者
佐々木 善浩 山田 真希 寺島 崇 王 剣鋒 橋詰 峰雄 范 聖第 菊池 純一
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.541-546, 2004-10-25 (Released:2010-03-15)
参考文献数
18
被引用文献数
14 17 2

生体膜モデルとしての有機-無機ハイブリッドベシクル「セラソーム」を用いて, シグナル伝達機能を有する分子間コミュニケーションシステムを構築した. 頭部にトリエトキシシリル基と四級アンモニウム基をもつ二本鎖型のペプチド脂質から作製したセラソームは, 従来型の脂質二分子膜ベシクルよりも著しく高い構造安定性を有することが, 界面活性剤に対する耐性評価から明らかになった. このセラソームを基板に用いて, 人工受容体による化学シグナル認識の応答が, メディエータとしての金属イオンを介して酵素に伝達され, 酵素活性のオン・オフを制御できる分子デバイスを作製し, その機能を明らかにした. 人工受容体にアミノ基を有するステロイド誘導体, シグナルとしてピリドキサール5'-リン酸, メディエータに銅 (II) イオン, 化学信号増幅器として乳酸脱水素酵素を用いたセラソーム系において, 顕著なシグナル伝達機能が発現した.
著者
新城 竜一 伴 雅雄 斎藤 和男 加藤 祐三
出版者
日本岩石鉱物鉱床学会
雑誌
岩鉱 (ISSN:09149783)
巻号頁・発行日
vol.86, no.7, pp.323-328, 1991-07-05 (Released:2008-03-18)
参考文献数
29
被引用文献数
10 11

High magnesian andesites from Kume-jima and Iriomote-jima, the Ryukyu islands were dated by the K-Ar method with the basalts from Kobi-sho and Sekibi-sho, the Senkaku islands. The obtained K-Ar ages of the high magnesian andesites are 6.08 ± 0.46 Ma and 13.1 ± 1.1 Ma for the sample (s) from Kume-jima and Iriomote-jima, respectively. The volcanic activity of the high magnesian andesite magma continued intermittently for at least 6 Ma. The K-Ar age of the basalt from Sekibi-sho is 2.59 ± 0.19 Ma. The age of the basalt lava from Kobi-sho is as young as 0.2 Ma or even younger, and indicates that Kobi-sho is a Quaternary volcano.
著者
坪内 逍遥 坂井 健
出版者
佛教大学
雑誌
文学部論集 (ISSN:09189416)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.23-31, 2013-03-01

『小説神髄』は、ごく簡単な擬古文で書かれているのだから、わざわざ現代語訳する必要はないし、近代文学を勉強しようとするものなら、当然、原書にあたって勉強するべきだというのは、なるほど、そのとおりだとは思うけれども、実際に、『小説神髄』を原書のまま読んで、正しく理解できる人は、大学四年生くらいでもごく少ないし、特に、この本を読んでほしいと思う大学二、三年生ではほとんど居ないといってもいい。そこで、いくらか無駄な仕事に属するかもしれないけれど、あえて『小説神髄』を現代語訳にすることにした。訳にまちがいや不適切な表現があるかもしれない。識者の叱正を乞う。なお、注は、日本近代文学大系『坪内逍遥集』(中村完注釈、角川書店、昭和四九年一〇月)に詳細な注があるので、ここでは、最小限にとどめた。この注には、さまざまに教えられるところがあったので、記して、感謝の意を表したい。現代語訳の底本は、初版本(松月堂、明治一八?一九年)とした。要するに、本稿は、岩波文庫『小説神髄』をもちながら、そのままでは理解しにくい初学者を主に念頭において訳したものである。

2 0 0 0 嗜好

出版者
明治屋東京支店
巻号頁・発行日
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著者
南條 佳代
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.181-193, 2012-03-01

『枕草子』において、書に関する多くの記述がなされている。これは、書に造詣が深い清少納言ならではの書道観として、この時代の書風や様子を著しているのである。では、随筆である『枕草子』での書の扱われ方は、実際にこの物語が書かれた平安時代の書と、どういった関わりがあるのだろうか。本文において、紙(料紙)や消息文、添え物、書風の分析を加えながら検証していきたい。さらに、本稿では、『紫式部日記』より紫式部における清少納言の人物評について見ていき、それを踏まえた清少納言の書の捉え方、またこの時代の書の扱われ方について考察し、明確にしていくものである。
著者
池崎 弘之 川村 豪嗣
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.067-073, 2011 (Released:2011-03-11)
参考文献数
8

スワンガンツカテーテル(PAC)は手術室,ICUで使用される侵襲モニターの代表的なものである.しかしPACの患者予後改善に対する明確なエビデンスは得られていない.PACの一番の目的は連続的に患者の血行動態を監視することであり,またその変化に対しわれわれはいち早く対応することが可能である.経食道心エコー(TEE)は比較的低侵襲に血行動態測定が可能であり,また血行動態の変化の原因も教えてくれる優れた測定器であるが,ICUなどでは連続モニターとはならない.PAC使用者がPACの扱い,データ解釈に精通していることを前提とするなら,PACで患者をモニターしTEEで原因を探索することは患者予後の向上に役立つものと考える.
著者
岡田 龍一
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.121-130, 2012-09-20 (Released:2012-10-17)
参考文献数
60

ミツバチの採餌行動において,良質な餌場を発見したミツバチは巣に戻ってから翅を振動させながら尻を振って歩く。Karl von Frischは,この尻振りダンスと呼ばれる行動が巣の仲間に餌場の位置を伝えるコミュニケーションであることを発見した。尻振りダンスによってミツバチコロニーは良質の餌場を効率よく訪問し,急な採餌環境の変化であっても迅速に反応することができる。この行動に関する研究は,Frischが1973年にノーベル賞生理学医学賞を受賞した後40年経ても,今なお論文が発表され続けている「生きた」研究分野である。本稿では尻振りダンスに関する行動観察および実験,ダンス情報の符号化と復号化に関する神経メカニズム,コンピュータによる採餌行動のシミュレーションなどを,筆者らの研究を中心に情報の伝達に着目して,尻振りダンスに関してどれくらい明らかになっているのか,どのように今,解釈されているのかを紹介する。最後には尻振りダンスに関する最新のトピックスを挙げる。本稿によって,生態学的にも,行動学的にも,社会生物学的にも,進化学的にも,神経行動学的にも興味深い,この行動に多くの方が興味を持ってもらえれば幸いである。
著者
原田 隆史
出版者
Japan Society of Information and Knowledge
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.291-296, 2011-05-28

学校図書館などにおいて読書指導を行う場合には,子どもたちが興味を持つ図書を提示することが有効である場合が多い。そのために,著者らもオンライン書評中の語を元として児童書・ヤングアダルト図書に感性パラメータを設定し,感性を元にして図書の検索を行うシステムを開発してきた。しかし,子どもたちにとって,感性パラメータを設定することが困難であることも多く,感性キーワードを直接入力するのではなく既に読んだ図書を入力して類似する小説を提示することが望まれている。そこで,本研究では,指定した図書と感性パラメータの分布が類似する図書を提示するシステムを試作し,その評価を行った。児童書・ヤングアダルト図書1425冊を対象として,10名の被験者に入力した図書と関連する図書30冊を提示したところ,約53%の図書について強い興味があるという結果が得られた。
著者
布施 圭司
出版者
米子工業高等専門学校
雑誌
米子工業高等専門学校研究報告 (ISSN:02877899)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.54-61, 2003-12

ヤスパースは「非対象的思惟」ないし「超越的思惟」を哲学という営みの本質と規定している。非対象的思惟とは主観と客観を越えた非対象的なものを把握する思惟であり、主観に対向する対象的存在を把握する通常の思惟とは異なる働きである。ヤスパースは著作の随所で対象的思惟の限界を主張し、対象的思惟からの超越を説いている。対象的存在は、そのつどのパースペクティヴの制約の下にあり、一つの観点から固定化された存在であり、存在そのものではない。物事を明確化するには対象的思惟は欠かせず、非対象的思惟は対象的思惟を前提としつつ、それを乗り越えて行くことで遂行される。本論考では、まず哲学が非対象的思惟と規定される所以を明らかにし、その上でヤスパースの主要思想である「暗号論」が非対象的思惟として主張されていることを確認する。次にヤスパース以外に非対象的思惟を明確に主張している思想として、実存の信仰が論理的には逆説の性格を持つと主張したキェルケゴール、および西洋のロゴスとは異なる思惟である東洋思想におけるレンマを概観する。さらにこれらとヤスパースを比較して非対象的思惟の意義について考察する。
著者
日比野 雅彦
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.37-46, 2009-03-31

外国語を学ぶと文化の違いに気が付くことがある。とりわけ日常生活の表現にとまどうことが多い。専門的な内容を扱う語は一義的な意味しかもたないため問題は少ないが、日常語は同じような表現でも様々な意味をもつことが多い。また、生活に密着した食べ物や動植物にも表現に差異を伴うものが多く見られる。また、日本語は英語やフランス語と比べて擬音語が多いことも知られている。日常生活に関連する表現を調べてみると興味深い文化の様々な側面が見えてくる。
著者
大形 久典
出版者
広島大学
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
vol.2, 2002-03-20

コミュニケーションは日常生活や社会生活に於いて最も大切である。個人間, 文化間, 国家間のコミュニケーションにおいて紛争や戦争にいたる葛藤が導かれる。コミュニケーションの歴史は人間の歴史と同じように古いにも関わらず, それが何であり, 意味, 意義が何であるかの研究は, その端緒についたばかりである。人間と最も近縁なチンパンジーのコミュニケーションを研究することで, 人間のコミュニケーションについて探求することが本論文のテーマである。コミュニケーション活動は, 約500万年まえの人類の誕生ときすでに始まっていたであろう。約4万年前に, 人類は非(前)言語的コミュニケーションから話し言葉を発展させた。時代の進展にともなって, コミュニケーション媒体が高度化したために, 人のコミュニケーションがそれだけ複雑化し, 人間組織や社会を複雑化していった。言葉を使わずに行われる非(前)言語的コミュニケーションは, チンパンジーや人間にもまったく同様に存在する。チンパンジーのコミュニケーションから, 人間行動に欠けているものを見つけることができる。チンパンジーは, 生物学的, 認識能力的, 行動学的に人間にもっとも近い。感情的, 理知的な面でも類似している。チンパンジーは高度に進化したコミュニケーション行動をすることはないが, 高度な身ぶりを使うことによってコミュニケートする。かれらのコミュニケーション行動のうちで, 「攻撃」と「仲直り」という行動を見ることによって, 人間コミュニケーション行動から生じる葛藤・紛争の原因・理解と, その解決策への示唆を得ることを目指す。チンパンジーの社会では, 順位はとても重要である。テリトリをめぐって最悪の場合殺し合う。かれらのコミュニケーションの中味は, 攻撃, 優位, 服従のパターンが中心で, また政治的な駆け引きに肉体的, 精神的エネルギーを費やす。人間の攻撃性も生物学的にはチンパンジーと多く類似している。チンパンジーも持っているライバル闘争, テリトリ, 子孫の防衛, 順位制などが, 人間の攻撃や戦争の動機・要因となる。人間やチンパンジーは抑制機能が備わっていないから同じ種族でありながら殺しあいをくり返す。人間がチンパンジーと異なるものに言葉や武器の発達などがあり, 人類滅亡の危機をももたらしうる。霊長類のなかでチンパンジーと人間はもっとも攻撃的であるが, チンパンジーは攻撃性を回避するための強力なメカニズム仲直り行動(攻撃の儀式化, 服従, 逃走などの非言語コミュニケーション)など, 非言語的コミュニケーションを巧みに使って対処法を発達させてきた。人間は音声言語, 文字言語などのおかげで高度な文明を築き, 動物と区別してきた。しかし人間は言語に依存してきたために, 非言語的コミュニケーションが退化して, チンパンジーが全身で感じて行なうコミュニケーションが十分にできなくなっている。人間は現在のところもっとも進化させた言語的コミュニケーションができるのであるが, しかし言語をもった人間の知性は, 大量殺人兵器を発達させ, 攻撃性に満ちたストレスの多い社会を発展させてきた。コミュニケーションのゆえに生じてくる諸問題(誤解, 葛藤, 戦争)を解決するには, 言語的なコミュニケーションに欠落した部分(言語ゆえに生じる複雑性, 内容が変容して伝わること, 抽象的言語からくる象徴と現実の混同)を, 本来持っているはずの非言語的な部分を取り戻し, それで欠落部分を支えて達成できるのではないだろうか。そのために類人猿の非言語コミュニケーションに観察される「合理性」から学ぶことは多いのである。