著者
沼崎 一郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は、日本人男性とフィリピン人女性との国際結婚家庭を研究対象として、異なる文化を持つ夫婦が、それぞれの生まれ育った文化を持寄り、組み合わせて、どのような新しい日常生活文化(食生活、年中行事、親族関係など)を生み出しているのか、それをどのように子供たちに伝えているか、さらに、どのような影響を地域社会に与えているといった問題について、「モザイク文化」という視点から記述分析することである。本研究では、仙台在住のフィリピン人妻の会の女性たちが中心となって、仙台七夕祭「動く七夕」パレードに参加して演じている「フィリピン・ダンス」に注目し、これは、それ自体が複数の異なる文化要素を組み合わせた「モザイク文化」であると同時に、一つの新たなモザイク片として、仙台七夕祭を「モザイク化」し、さらに仙台と故郷とを結ぶフィリピン人親族ネットワーク文化をも「モザイク化」していることが明らかとなった。仙台という枠組のなかだけで考えるならば、「フィリピン・ダンス」は、フィリピン人妻たちにとってフィリピン人アイデンティティーの確認とフィリピン文化の呈示という目的のエスニシティの表出と捕らえることもできよう。しかし、それは一面的な把握に留まる。なぜならば、フィリピンと仙台とを結ぶ親族ネットワークの文脈においては、「同じ」ものが、国際結婚家庭というアイデンティティーの表示や日本文化の呈示という目的の二文化性・多文化性の表出でもあるからだ。「同じ」モザイク片が、異なる次元では、異なる意味を持ち、異なる役割を果たしているのである。
著者
浅川 学
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

最近,西日本を中心にハコフグ科魚類の喫食による食中毒が頻発している。本食中毒の症状はパリトキシン(Palytoxin: PTX)中毒の症状に酷似しており、食品衛生学上、大きな問題となっている。そこでPTXの起源生物であるOstreopsis属渦鞭毛藻の分布を調査するとともに、その培養株の毒産生能を調べた。宮崎県、徳島県、長崎県、高知県沿岸より大型海藻(約200g)を採取し、20-100μm画分の付着生物等を採取した。付着生物は、光学顕微鏡を用いて観察し、Ostreopsis属の有無を調べた。宮崎県および長崎県産Ostreopsis属の天然の単一株については、ESM培地を用い、培養温度20℃、光強度を40μmol photon/m^2/s^1、明暗周期を12時間明/12時間暗の条件下で培養を行った。次に、得られた培養藻体から調製した試験液をマウス毒性試験および溶血活性試験に供した。宮崎県産および長崎県産Ostreopsis属の培養藻体からマウス毒性(いずれも1.0×10^<-4>MU/cell)が検出された。さらに、Ostreopsis属の培養藻体はマウスおよびヒト赤血球に対して遅延性の溶血活性を引き起こすとともに、後者の活性は、g-ストロファンチンによりほぼ完全に抑制された。これら培養株の毒の性状は、既報のPTX様物質と類似しており、宮崎県産および長崎県産Ostreopsis属はPTX様物質産生能を有していることが確認された。各試料から予備精製した有毒成分を今回確立したPTX分析用LC/MSシステムで分析したところ、いずれもPTX類似物質であることが明らかとなった。また、食中毒を引き起こしたハコフグ科魚類とPTX様物質の産生能を持つOstreopsis属は同地域に存在しており、ハコフグ科魚類は,Ostreopsis属渦鞭毛藻を起源生物として食物連鎖により、PTX様物質を蓄積する可能性が示唆された。
著者
奥山 清子 花谷 香津世 板野 美佐子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.59-65, 1993

障害児と健常児がともに育ちあうことを目指す統合保育への関心が高まっている.今日では, 統合保育は重度化, 多様化している障害児にも及んできている.岡山市に設置されている障害児保育拠点園においても同様の傾向が認められている.このような障害児保育では, それぞれの成長を促すために, さまざまな試みがされている.障害児が保育園でどのような経過を辿って, 「友人を持ち, 育っていくのか」は大きな関心事であるといえる.そこで, 著者らは, 幼児にとって生活そのものである自由な遊び場面における障害児の対人行動を, VTRを用いて録画し, 7月, 11月, 3月の4か月ごとの変化を検討した.その結果, 障害児の対人行動を形態的に, 孤立的, 傍観的, 平行的, 集団的行動に大別すると, 孤立的行動が圧倒的に多く見られた.孤立的行動が多いのが, 障害児の特徴であったが, その中でも一人で動き回る単独行動がめだった.集団生活を重ねるにつれ, 単独行動から, 遊びへの関わりができるようになった.障害児が集団の遊びの中へ入ったのは, 保育者からの声掛け, 接触が契機になっていた.また, 孤立行動の頻度を障害の程度別に4歳児と5歳児を比較すると, 障害の程度によって, 孤立的行動の現れ方に違いが見られたが, 年齢による差はほとんど見られなかった.
著者
長塚 豪己
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.31, no.8, pp.580-587, 2009-11-01
参考文献数
22

推定を安定化させる技術の一つとして最近注目されているL^p正則化推定法について紹介を行う.特にL^1ノルムを用いて正則化を行うLassoを中心に述べる.
著者
戸邉 勇人 千木良 雅弘 土志田 正二
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.66-79, 2007-06-10
参考文献数
47
被引用文献数
3 6

1972年,愛知県小原村では豪雨により花崗岩類の崩壊が多数発生した.われわれはその被災地で崩壊の分布・密度に対する岩相と降雨量の影響を数値的に検討した.5時間で約200mmの降雨を受けた同一地域であるにもかかわらず,花崗岩地域の崩壊密度は293/km^2であり花崗閃緑岩の値(13/km^2)を一桁以上上回った.また,花崗岩地域では降雨量増大とともに崩壊密度の増大が認められたが,花崗閃緑岩地域では認められなかった.航空レーザー測量を約3km^2の範囲で行い,空中写真と対比し,この災害時だけでなくそれ以前に発生した崩壊も抽出した結果,崩壊密度の差がこの災害以前から存在し続けていたことがわかった.これらの差は,岩相間で風化帯構造が異なることによると推定される.花崗岩地域ではD_H〜D_M級の硬質なマサがもっとも広く分布し,それらは斜面表層部に明瞭な緩み前線を伴っていたため,崩壊しやすかったと推定される.また,一部の花崗岩にはマイクロシーティングが発達し,崩壊発生を助長していた.一方,花崗閃緑岩地域ではD_L級のマサが広く分布し,それは強風化しているが,明瞭な緩み前線を伴っていなかったため,崩壊数が少なかったと推定される.
著者
阿部 徹也
出版者
兵庫医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

口腔・顔面領域は皮膚領域と、粘膜領域とが入り組み、ラットへのホルマリンの注入刺激は顔面皮膚領域の方が口腔内の粘膜領域より多くの疼痛関連行動を起こす。その行動は脳内抑制性伝達物質であるGABA受容体を通して制御され、その制御効果も顔面の疼痛に対する方が大きい。口腔粘膜領域はC線維が顔面皮膚領域より少なく、そのことが中枢の制御機構にも差を生じさせている。ペプチド性のC線維に含まれるサブスタンスP(SP)の受容体であるニューロキニン1(NK-1)は三叉神経尾側亜核(Vc)のI層とIII層に分布し、侵害受容に関わっている。私たちは細胞質内に入って毒性を発揮するライボソーム非活性化毒素であるサポリンをSPに結合させたSP-サポリン(SP-Sap)を延髄の後角(Vc;三叉神経尾側亜核)に作用させ、I層やIII層に存在するSPの受容体であるニューロキニン1受容体(NK1)を持つニューロンを削除することに成功した。SP-Sapを小脳-延髄槽(大槽)に投与して2~4週間後のラットでは、VcのI層とIII層のNK-1受容体免疫陽性ニューロンの数が減少した。SP-Sap処置ラットではホルマリン誘導侵害受容反応Vcがコントロールラットに比べ減少した。コントロールラットではホルマリン注射の前にビククリンを全身投与すると侵害受容反応は減少するが、SP-Sap処置ラットでは逆に増加した。すなわちNK-1を持つニューロンが侵害刺激の受容だけでなく、上位脳のGABA_A受容体を介した制御系に関与することを示した。
著者
鈴木 隆介 西田 治文 小口 千明 田中 幸哉
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

蛇紋岩で構成される山地(以下,蛇紋岩山地と略称)は,一般にそれに隣接する非蛇紋岩山地に比べて,(1)相対高度が高く,(2)谷密度が著しく低く,(3)尾根が丸く,山地斜面が緩傾斜であり,(4)浅い滑り面をもつ地すべりが多い,といった特異な削剥地形を示す.蛇紋岩山地の,そのような特異な削剥地形の成因を解明するために,以下の研究をした.北海道敏音知周辺,北上山地宮守地域,京都府大江山を中心に,自然露頭および大規模な砕石場において,現地岩石物性試験(弾性波速度,貫入硬度,シュミットロックハンマー反発度,浸透能,節理密度),室内での新鮮岩および風化物質の岩石物性試験(圧縮・圧裂引張・剪断強度,密度,間隙率,間隙径分布,P波・S波速度,定水位透水係数)ならびに鉱物分析を行った.蛇紋岩の節理密度は,深部では節理の多い部分と少ない部分が複雑に混在しているが,地表に近いほど節理密度が大きくなる.また,日本の主要な蛇紋岩山地についての地形計測によると,蛇紋岩山地の平均高度は蛇紋岩体の面積が約10km^2より大きい場合には周囲の非蛇紋岩山地より高いが,それより小さい場合には逆に低い,ことが判明した.このような蛇紋岩山地の削剥地形の特徴は,蛇紋岩の特異な岩石物性を反映した,次のような削剥過程に起因すると考えた.蛇紋岩の強大な残留応力が削剥に伴う除荷作用によって解放されるために,蛇紋岩が膨張して,引っ張り割れ目が増加して節理密度が増加し,蛇紋岩は葉片状さらに塊状に破砕する.そのため,葉片状,塊状,礫状の蛇紋岩は高透水性を示すので,地表水が浸透しやすくなり,谷は浅く,谷密度が低くなる.一方,風化すると,蛇紋岩は吸水膨張するので,表層部に浅い地すべりを発生しやすくなるので,斜面は緩傾斜になる.その削剥過程における雪達磨効果のために,大規模な蛇紋岩体ほど高い山地を形成している.
著者
吉中 信人
出版者
広島大学
雑誌
廣島法學 (ISSN:03865010)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.45-65, 2005-03-21
著者
鈴木 晃仁 脇村 孝平 飯島 渉 橋本 明 杉田 聡 渡部 幹夫 山下 麻衣 渡部 幹夫 山下 麻衣 猪飼 修平 永島 剛
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

19世紀後半から20世紀前半にかけての日本における「健康転換」を、当時の先進国と日本の植民地を含めた広域の文脈で検討した。制度・行政的な側面と、社会的な側面の双方を分析し、日本の健康転換が、前近代社会としては疾病構造の点では比較的恵まれている状況で、市場が優越し公共の医療が未発達である状況において、欧米の制度を調整しながら受容したものであったことを明らかにした。
著者
平川 幸子 中山 修一 相原 玲二 永田 成文 NU Nu Wai
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、テレビ会議システムを日本の高等学校に設置し、環境問題などの地球的な課題に関する問題解決型の教材を開発し、外国の高等学校との間で実際に教材を用いた実験を行って、その効果を実証することを目的に、平成16年度から18年度までの3年間で研究を行った。日本では広島県立安芸府中高等学校が実験に協力し、その姉妹校であるハワイのメリノール高校とオーストラリアのベド・ポールディング高校がカウンターパートとして参加した。教材の開発と実験は、平成17年9月に地球温暖化(3年生中心)、18年1月に平和(2年生中心)、平成18年9月に地球温暖化(3年生中心)をテーマに3回行った。最初の交流では、手作りのタイムマシンなどを使って映像的には盛り上がったが、生徒の思考力を高める問題解決型の交流を行うことはできなかった。また、第2回の平和に関する交流では、フロアの生徒への準備が不足していたため、具体的にイラクでの戦争などの話になると十分に理解することができなかった。生徒の「英語能力を高めなければ」「世界の情勢を知らなければ」という意欲を高めることに役立ったことがアンケート調査から実証されたが、問題解決型の学習教材としては不十分であった。この反省を踏まえ、第3回の教材開発では、温暖化防止のためのサマータイムの導入の是非を、コスト、リスク、対費用効果などの基本概念を踏まえて代表チームがディベートを行い、フロアの生徒やオーストラリアの生徒にどちらの意見に賛成するかの意見を表明させる形式を取った。また、日本側の生徒にも十分な準備を行い、基礎知識と英語能力を身に付けさせた。その結果、既にサマータイムを導入しているオーストラリアの状況を質問してその答を自分の意見の理由に取り入れたり、コストや対費用効果などの考えを加味したりして、生徒の視野が広がり、思考が深まったことが実証できた。
著者
智原 江美
出版者
奈良佐保女学院短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1853年に中産階級を対象にイギリスで出版された『Field』誌には、ローンテニスが考案された1847年から初期のゲーム形態が整ったと思われる1883年の10年間に、358のローンテニス関連記事が見られた。特に最初の6年間は多くの読者からのさまざまな投稿記事が見られ、その内容は、統一ルールが制定され改良されていくにつれ、次第にイギリス各地及び英領植民地等での試合日程と試合結果が殆どを占めるようになった。投稿記事の内容は、初期のころは、ウィングフィールドが考案したとされている新しいローンテニスのルール・用具に関する問い合わせ等が多く見られ、次にローンテニスは誰が最初に考案したかということをめぐっての論争が主流となる。また統一ルール制定へ向けてのさまざまな意見を述べた投稿、ルールを制定あるいは改定する過程における委員会等での討議の報告なども、制定又は改定の前後には著しく増加した。1877年には『Field』誌の編集長であるJ.H.ウォルシュが全英ローンテニス・クロッケ-協会の役員となり、第1回のウィンブルドン大会を開催する。この大会における出場者募集の案内及び大会で採用されたルール等の記事、試合結果の報告も誌面に掲載された。このように『Field』誌は、ローンテニスという新しいゲームが誕生し発展する過程において、さまざまな情報を中産階級の購読者に対して広く提供してきており、その存在は非常に大きい。考案者のウィングフィールドが『Field』誌に投稿したことから購読者にこのゲームの人気が高まり、ローンテニス愛好者は『Field』誌を講読し、また編集者もかかわって経済的な収益を見込んでのト-ナメント大会をも主催するというような図式が考えられる。このような商業資本との深い結び付きは、近代スポーツの発展における典型的な例といえよう。今回は発行部数や経営に関する記録等は入手できなかったが、上記の図式を裏づけるうえでの今後の課題としたい。
著者
甲田 壽男 永田 可彦 小木曽 久人 中野 禅 山中 一司
出版者
一般社団法人日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.836-841, 1994-10-01

生体リズムで機械を駆動するという外燃を初めて提唱しその具体的な実現の方法を示した。生体リズムとして心拍信号を検出し、これから得た心拍間隔から電力調整器を制御する信号を発生させ扇風機の回転を制御する方法である。心拍間隔、制御電圧、扇風機の回転数及び風速を測定しそのパワースペクトル密度を求めた結果、心拍間隔に見られる1/f揺らぎ特性や呼吸の影響などがそれぞれのパワースペクトル密度に保存されていた。