著者
萩原 正敏 野島 孝之
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

タンパク質をコードするmRNAは核外に輸送されて翻訳されるため、mRNAの核外輸送は遺伝子発現の重要な制御ステップのひとつである。スプライシングされたmRNA上に形成されるEJC(exon junction complex)と呼ばれる複合体中のREF(RNA export factor)が、mRNAの核外輸送を担っているとのモデルが考えられている。最近我々は、mRNAのキャップ構造にもREFが結合することを見出した。REFのRNA結合部位を調べたところ、キャップ構造よりも100塩基下流の部位に結合することが示された。REFはDExD box型RNAヘリカーゼであるUAP56/BATと強固に2量体を形成していることから、UAP56によるRNPリモデリングが生じ、キャップ構造から下流のmRNA上へ移動する機構があるのかもしれない。REFはCBP20に主として結合していたが、この複合体にはSRPK1もカップリングしており、リン酸化制御を示唆するデータが得られた。このことは、キャップ構造によってRNA上に呼び込まれるREFがイントロンレスmRNAのスプライシングに依存しない核外輸送を担っている可能性を示している。また単純ヘルペスのmRNAはウイルスタンパク質ICP27がREFと相互作用することにより核外へ輸送されているが、我々の解析ではICP27は、PMLをコードするmRNAのスプライシングを制御するスプライシング調節因子としての機能を有することが判明した。ICP27のRNA認識機構は予想外に複雑であることが判明したので、CLIPと呼ばれる新しい研究手法でICP27の標的遺伝子転写産物の解析を進めた。このことは、ウイルス感染のより、感染細胞の特定のmRNAのスプライシングパターンが変化することを意味しており、極めて興味深い。
著者
加藤 精一
出版者
兵庫医療大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

平成19年度は,18年度に引き続き大阪大学で開発されているP2PフレームワークであるPIAXを用いて,望遠鏡のコントロールをネットワークを介して遠隔制御するソフトウェアの開発を行うとともに,こうした望遠鏡を提供するユーザとそれを利用するユーザがP2Pネットワークでコミュニティを形成した際に,お互いを信頼するために必要な基準を提供する仕組み提案した.以下具体的に述べる.(1)望遠鏡システムについて晴れている地点の望遠鏡を選択するために,各地の気象センサのデータを利用して予測し,空間的に補間することでセンサの無い場所の気象状態を把握できるようにした.(2)レピュテーションシステム望遠鏡を共有するようなコミュニティにおいては,各ピアが信頼できるかどうかをリソース提供側,使用側ともに判断する必要がある.我々はこれにWebのページランクなどで用いられるEigen trustモデルを元に,信頼できないピアを効率的に排除する手法の提案を行った.
著者
田代 信 玉川 徹 浦田 裕次 玉川 徹
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ガンマ線バーストは、宇宙でもっとも明るい爆発的天体現象である。遠方銀河中の超新星爆発にともなうジェットを起源とすると考えられているが、超新星爆発では説明がむずかしい例も多数あり、一筋縄ではいかない。本研究では、広視野硬X線望遠鏡でガンマ線バーストを探知するスウィフト衛星と同じ視野を自動的に観測する可視光望遠鏡を開発設置し、所定の性能を確認した。直接の検出例はまだないが、得られた走査観測データの公開をすすめている。
著者
萩原 秋男 小川 一治
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

1.実験林及び実験方法 19年生(1993年現在)ヒノキ林からサイズを異にする5個体を選び、2台の立木同化測定装置を順次、各個体に移し替えながら個体レベルのCO_2ガス交換速度を昼夜連続して測定した。また、測定個体の毎木調査(樹高、生枝下高、生枝下高幹直径、樹高の1割高での幹直径、地際から50cm間隔での幹直径)を毎月、実施した。2.結果 個体レベルで測定された年総光合成生産量p[kg(CO_2)tree^<-1> yr^<-1>]は個体の幹材積v[dm^3]が大きいほど大きく、両者の関係は以下に示す拡張されたべき乗式で表された。p=g(v-v_<min>)^h (g,v_<min>,h;係数) (1)上式は、個体幹材積がv_<min>に近づくにつれて、個体の年総光合成生産量が急激に減少してゼロとなることを示しており、v_<min>は林分で生存可能な最小個体の幹材積と見なすことが出来る。また、べき指数hの値はほぼ2/3となり、サイズの大きな個体の年総光合成生産量は個体の表面積にほぼ比例していると言えた。また、年呼吸消費量r[kg(CO_2)tree^<-1> yr^<-1>]は年総光合成生産量pに比例していた。r=kp (k;定数) (2)比例定数kの値は0.38となり、年呼吸消費量は年総光合成生産量のほぼ4割に相当していた。式(1)と式(2)を仮定することにより、年呼吸消費量rの個体幹材積vへの依存性は次式で与えられる。r=g'(v-v_<min>)^h (g'=kg) (3)実測結果は、式(3)に良く適合していた。以上の結果は、時間経過に伴う林分の物質生産機構の推移を、個体レベルでの物質経済の面から説明可能であることを示唆している。
著者
遠藤 辰雄 田中 教幸
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究の初年度では我々が過去に国内の遠隔地(幌加内町母子里北大演習林)において行なった酸性雪の観測の解析を進めた結果によると、硝酸塩も硫酸塩と同様に長距離輸送物質である可能性が示唆されている。そこで2年次において、これが長距離輸送物質であることを特定するために、充分なる遠隔地として北極圏のニーオルソンを選び、そこで降雪粒子と環境大気中のエアロゾルやガスの成分を調べてみた。その観測は1998年12月16日から1999年1月9日までと同年3月2日から同月18日までの擾乱の到来頻度の高い二期間に行なわれた。酸性雪の採取には地吹雪きの混入を避ける為に大型の防風ネット設置し、その中で蓋付きの受雪器を並べておき、降雪時のみ蓋を開けて受雪して,降雪が止むと蓋をしてドライフォールアウトの混入を辞ける様にした。さらに地上降雪観測として独自で開発した電子天秤方式の降雪強度計とTime-lapse-videoによる降雪粒子の顕微鏡写真の録画システムも防風ネットの中に設置した。まだロ―ボリュムエアサンプラーによる濾紙法で大気試料がそれぞれ採取され、環境大気のガス状成分とエアロゾルの化学成分がそれぞれ分析された。この時期の現地では珍しく比較的風の弱い状態の降雪が多く降雪粒子が長時間に亘って採取された。初めの12月〜1月の期間の分析結果では次のことが注目された。大部分の降雪粒子は風向が東南東で、雲粒付結晶であるが、風向が北西である時の降雪では雲粒の付かない雪結晶が多く観測されている。その降雪粒子の化学成分は、他と比べて、S042-が少なく、逆にN03-が多くなっているのが明らかな特徴である。この結果は、これまでの日本国内での観測結果と一致して矛盾はしていない。この風向から降雪をもたらす気流の起源を、考察してみると、現地から見て、東南東の気流はメキシコ湾流が北上して出きる北限のopen-seaからの気流であり、 水蒸気が豊富で過冷却の雲粒が高濃度で生成されていたもの考えられる。一方、北西の気流は現地から更に高緯度の北極海の結氷している氷原野からの気流であるので低温であることも含めて、水蒸気量はかなり希少であり、過冷却の雲粒はほとんど蒸発し、降雪粒子は気相成長のみで成長するために、雲粒の付かない綺麗な雪結晶が卓越するとが考えられ、その発生源が明確に特定できる。ここで得られた新しい知見は次の事柄である。長期間の降雪の末期では降雪に含まれるN03-が減少して検出限界にまで達してしまうが、その環境大気の成分変化を見るとHNO3ガスより粗粒子のエアロゾルに含まれるN03-が減少していることである。このことからガスの物理吸着機構よりエアロゾルのスキャべンジング効果がより効いていることを示唆している。
著者
中山 幹康 RARIEYA Marie RARIEYA Marie Jocelyn
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

研究課題「持続的な開発と福祉に向けて:複合農業経営の新たな枠組み」の事例研究地域である西部ケニアのヴィクトリア湖流域に於いて,現地調査を実施すると共に,現地の関係機関を訪問し,情報を収集した.西部ケニアでは,従来観察されていた「大雨期」と「小雨期」のうち,近年では,本来は「小雨期」に該当する時期においても降雨が殆ど観察されないなど,気象の変化が観察されている.当該地域の農民は,そのような変化に対応すべく,各種の自助努力を試みている.人間の安全保障の観点からは,収入源を多様化し,特定の農業セクターあるいは作物に依存することに起因するリスクを軽減することが,賢明な対応と考えられる.そのために,当該地域における複合農業経営を推進し,気象状況の変化に適合し,リスクの低減を図ることが重要な課題になっている.設定した3つの事例地域(Vihiga District, Siaya District, Kisumu West District)において,土壌流出,害虫の蔓延,植物病虫害などの自然環境の悪化に加えて,資金提供メカニズムの欠如,市場へのアクセスの困難,インフラ整備の不足,情報へのアクセス不足などの社会的な条件が,気象条件の変化を克服し,円滑な農業経営を維持する上での障害となっていることが判明した.これらの制約要因には,農民の自助努力で克服可能な事柄も含まれるが,地方政府や中央政府による行政的な対応,あるいは国際社会による助力がその克服には不可欠な項目も少なからず存在し,従来的な「閉じた社会」の枠組みでは解決は困難であることが示唆された.
著者
石原 直 山口 浩司 割澤 伸一 ドロネー ジャン・ジャック 米谷 玲皇
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

21世紀の先端ハードウエア技術(先端ものつくり)の根幹を支えるナノテクノロジーは,ナノ構造が発現する新たな物性を利用して新しい"もの"を創造することが重要なポイントである.本研究では,ナノテク時代の機械工学「ナノメカニクス」を開拓することを目標に,三次元ナノメカニカル構造としてナノ振動子を取り上げ,振動子の設計法,三次元ナノ構造作製技術の開発,機械振動測定法の開発と共振特性の解明,およびそのセンシングデバイスへの応用などナノ振動子の創製とその機能化のための基盤技術の構築を進めた.
著者
藤岡 悠一郎
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、南部アフリカに広がるモパネ植生帯における人間-環境系の持続性を気候変動、植生の動態、地域社会の脆弱性という3つの視点から検討することを目的としている。研究実施計画では、最終年にあたる2011年度には、アンゴラ、ナミビアの農村において、一か月程度の補足調査を実施すること、調査結果の総合分析を行うことを予定していた。当該年度には、研究対象国であるナミビアおよびアンゴラにおいて2011年12月からのべ3か月間滞在し、現地調査を実施した。ナミビアでは、調査村において前年度雨季の大雨洪水イベントの影響と人々の対処方法を明らかにした。2009年度、2010年度のデータをあわせ、計3か年分の大雨洪水イベントに関するデータを取得することができ、長期的な人間-環境系の動態を考える上で貴重な情報となった。また、村の植物利用に関する集中的な聞き取り調査を実施し、植生動態に関する人間活動の影響を明らかにした。アンゴラにおいては、西部を中心に南部から北部まで広域調査を実施し、地図上で選定した数ヶ村において植生の移行形態や農業の実態、洪水旱魃の状況に関する調査を実施した。この調査により、ナミビアからアンゴラにかけて広がる湿地帯の全体像が明らかになり、調査地の位置づけがより鮮明になった。また、アンゴラでは内戦の影響で基礎調査がほとんど実施されていないため、貴重なデータになると考えられる。研究内容の一部は、2011年5月の日本アフリカ学会、2012年3月の日本地理学会において発表を行った。
著者
石川 忠晴
出版者
東京工業大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

まず始めに、可視化技術を用いた雨滴観測システムを製作し、雨滴径と落下速度の関係に関して、野外での実降雨観測と人工水滴を用いた室内実験を行って定式化した。また雨滴体積、落下速度と音響強度の関係に関する基礎実験を実施し、音響雨量計のデータ処理ルーチンを確定した。続いて、データ処理及びデータ保存を高速化するように部品構成を検討した後、バッテリ-駆動型の野外計測用音響雨量計を3台作製した。この装置を東工大長津田キャンパス周辺に設置して降雨観測を行ったところ、10秒間雨量の時間変動が詳細に捉えられ、雨域の移動状況を把握することが可能であることがわかった。しかし、音響収録部分の設置環境や缶面劣化により、降雨強度と音響性の関係にズレが発生することも明らかとなり、何らかの補正を加えるための装置改良の必要性が生じた。そこで、音響雨量計と転倒升式雨量計という性質の異なる計測器の出力を同時にデータ解析し、音響雨量計のパラメータをオンラインでキャリブレーションできる処理ルーチンを開発した。この新しい方式(ハイブリッド音響雨量計)を使用して野外観測を実施したところ、降雨のミクロな変動が良好に捉えられることがわかった。最後に、本測定器の誤差(微少雨滴が捕捉できないこと、複数の雨音の重合による誤差)を数値シュミュレーションにより検討した。その結果、上記のハイブリッド方式により十分な精度で観測できていることが確認された。
著者
安岡 正人 土田 義郎 平手 小太郎
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

近代文明の発展と共に、我々の身の廻りにインセンシブルな環境因子が生成され、様々な環境改変を生じ、人間を含む自然生態系に大きな影響を与えている。このような現状認識に立って、超音波や超低周波等の聴覚では直接捉えることのできない環境刺激の人体影響を、脳波、筋電、心拍、マイクロバイブレーションなどの生理量を検出することによって、明らかにするための基礎研究を進め、検出の可能性を確認できた。一方、情報化社会の申し子ともいうべき電磁波について、利用面のみならず環境因子としての視点から、既往の研究を調査し、問題の所在を明らかにした。それによれば居住環境における電磁波の実態、特に人体影響や建築空間、部位という側面では、ほとんど研究が行われていないことから、今回測定機器を導入して実測に着手した。本年度に得られた実績は、微々たるものであるが、今後継続的に建築環境の調査を進め、予測計算手法の確立につなげて行く予定である。また、人体影響についても前段の研究をベースとした被験者実験を進め、評価基準を見い出して行きたい。電磁環境については、日本建築学会に設置された安岡が主査の同名の小委員会で、広く、研究成果を持ち寄り、建築における電磁環境学の体系化を図り、諸外国との連携も深めている。これらの研究をスタートさせる上で、研究助成によって導入された装置による基礎的研究の寄与する処は大であった。
著者
福迫 博 滝川 守国 久留 一郎
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

鹿児島県北西部地震および出水市土石流災害に関連して発生するPTSDに関して実態を調査し,免疫機能の変化について検討した。北西部地震においては,小学生,中学生,高校生を対象とした調査では,震災3カ月後に10.2%にDSM-IV修正版でPTSDにスクリーニングされた。6カ月後の調査時には4.5%に減少し,一年後の調査では3.1%,一年半後は1.8%,二年後は1.8%であった。一方,成人では6カ月後に6.5%,一年半後には4.2%であった。したがって,児童生徒の方が低頻度であり,児童生徒の心の傷の回復力は成人に比べて高いことが示唆された。地区別での検討からは,震度だけでなく,地区のPTSDに対する取り組み特性,余震の頻度などで経過が影響されることが示された。出水市土石流災害においては,災害発生3カ月後には28.8%がPTSDとしてスクリーングされ,その後の調査では20%前後で推移し2年後も同様の頻度でみられた。被害状況の大きさや死者が出ていることから,地震に比べて尾を引いていると考えられた。免疫機能については16名においてCD4,CD8,CD56,NKCCを測定した。被災3カ月後の調査では,16名中3名(19%)のNK細胞活性が正常の-2SD以下であった。これは-2SD以下の度数が約2.5%であることを考えると,7.5倍と高値であった。一方,CD4,CD8,CD56は増加する傾向がみられ,CD8およびCD56は不安の強い者で高値を示した。PTSDと細胞性免疫能の関連については否定的であった。しかし,NKCCの低下していた3名にNKCCの結果に基づいて個人面接をすると,災害発生後フラッシュバック体験をしていたことや雨音に敏感になって不眠であったことなどと語るようになった。フォローアップした結果では,CD8およびCD56は減少することが示されたが,対象者数が少なく決定的なことは言えないと考えられた。
著者
岡本 拡子 無藤 隆 新開 よしみ 松嵜 洋子 吉永 早苗
出版者
高崎健康福祉大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,子どもと音との素朴なかかわりや音楽的表現の芽生えに着目し,保育における音環境のあり方と,意識的な音環境づくりがどのように子どもの表現教育へと繋がるかについて検討した。音環境に関する物理的調査(環境機械論)とサウンドスケープの思想(環境意味論)に基づき,(1)音圧測定による園の音環境の実態調査,(2)保育者の意図的な音環境づくりと子どもの活動との関連に関する調査,(3)これらの調査結果に基づいた,「望ましい音環境」のあり方とそれらをいかした保育に関するチェックリストの作成を行った。また,保育者を対象に,チェックリストを用いた予備調査を実施し,今後のチェックリスト改良のための検討すべき課題を明らかにした。
著者
福島 哲仁 永幡 幸司 嘉悦 明彦 守山 正樹
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

バリアフリーの視点で環境を整えることによって、痴呆を患っても、ユーモアのセンスと豊かな人間性が養われる事がわかった。デイケアにより、初期の不十分な状況の下で生じた不安または混乱から起こったトラブルが消え、彼ら自身と環境への自信が生まれていた。家族へのインタビューから、痴呆を患うことで、痴呆高齢者の隠された人間性が表に現れてくることが明らかになった。痴呆高齢者とその家族双方の「記憶障害」に対する受容は、家族間に生じるトラブルを防ぎ、痴呆高齢者の豊かな人間性を発展させる上で重要なプロセスと考えられた。ケアスタッフの視点、役割は、痴呆高齢者と家族の間のこのダイナミックなプロセスの進行にとって非常に重要である。幸福に今を生きることは、痴呆高齢者にとって重要であるが、将来への希望や豊かで人間的な生活への期待がさらに重要であることがわかった。痴呆高齢者の生活環境の改善について考える時、音の効果を無視することはできない。痴呆高齢者の生活環境に対する音の効果を明らかにするために、どのような種類の音が回想されるかを調べた。デイケアのリーダーが、擬声語を書いた大きなカードを示し、その擬声語を声を出して数回読み、その間に何を想像しているかを自由に話してもらった。この結果わかったことは、(1)一般的に、鳥の鳴く声や雨の音など自然にある音は、性を問わず擬声語から容易に回想される。(2)台所仕事の音は、女性によりよく回想される。(3)昔の生活習慣に関する音は、はっきりと回想される。(4)それぞれの生活史に関わる音は、深い感情を呼び起こし、鮮明に回想される。これらの結果は、痴呆症を患う高齢者が、痴呆を患う前に身近にあった音を容易に回想することができることを示している。
著者
内藤 直樹
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ケニア・ダダーブ難民キャンプ複合体において、ソマリ系長期化難民と地域住民であるケニア・ソマリが構築した社会.経済的関係の様態に焦点をあてた現地調査を実施した。2011年末の時点で40万人を越える難民の大量流入がもたらすインパクトは、難民と地域住民との間に対立関係を生み出す要因となっている。その一方で、難民と地域社会の人びとの双方は、約20年もの長期にわたる相互交渉の過程で、生活上の争いを回避する制度や、商品の委託販売関係、土地の貸借・売買制度などの共生を可能にする方途を練り上げてきたことが明らかになった。
著者
見市 建
出版者
岩手県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

資料の収集と読み込み、武装闘争派への継続的なインタビューを通してその思想と社会的な背景を明らかにした。また武装闘争派の映像およびインターネットの利用、穏健な福祉正義党党員による出版ビジネスについての研究成果を発表した。イスラーム主義勢力はそれぞれの目的を達成するために、「市場」動向に敏感に反応し、思想やイデオロギーをVCDや書籍、ウェブコンテンツとして「商品化」をしている。報告者はイスラーム主義を広くインドネシアの社会的文脈に位置づけ、その市場戦略を詳細に分析した。
著者
中嶋 哲彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

2006年の教育基本法改正及び2007年地方教育行政の組織及び運営に関する法律・学校教育法の改正は、地方教育行政及び学校管理への目標管理システムの導入を促進する意味をもっていた。全国学力テストの実施や学校評価・教員評価はその一環を成すものであることが確認された。他方、教育振興基本計画による目標管理は当初予想されたほど強い統制力は発揮していないことが確認された。
著者
岡本 正明 水野 広祐 パトリシオN アビナーレス 本名 純 生方 史数 見市 建 日下 渉 相沢 伸広
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

冷戦崩壊後のアジア経済危機を克服した東南アジア諸国は今、グローバルなビジネス・ネットワークやイデオロギー・ネットワークの展開・拡大により急速な社会・政治・経済変容を遂げている。本研究で明らかになったのは、東南アジアの地方レベルで新しい政治経済アクター、或いは新しい政治スタイルを活用する政治アクターが台頭してきていることである。タイ、フィリピン、インドネシアでは、地方分権化が進展して地方首長の権限が拡大したことで、彼らはグローバル化、情報化の時代の中で獲得した新しい政治経済的リソース(情報も含む)を武器にして新しい、よりスマートな権力掌握・維持のスタイルを作り上げてきている。
著者
大黒 太郎
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、「極右政党」を組み込んで、1990年代のヨーロッパで相次いで登場した右派連合政権(オーストリア・イタリア・オランダ)によって実現した年金・医療保険制度改革において、「極右政党」が果たした独自のインパクトを確定することがその第一の目的である。また本研究は、ドイツ・イギリスなど左翼政党主導で実現した同時期の同種改革との対比のなかで、その改革の性格を明らかにしようと試みた。
著者
杉谷 嘉則 影島 一己 西本 右子 天野 力
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

高周波分光法は、物質と水の相互作用の変化を鋭敏に捉えることを可能にする、われわれ独自の手法である。すなわち、物質の状態変化に伴う誘電率変化を共振周波数の変化として検出する手法である。また、エマルションとは、界面活性剤の力により、水中の油滴、逆に油中の水滴の形で一様に分散する系をいう。食品(牛乳)、化粧品(ヘアーオイルなど)、農薬、塗料、その他多くの産業分野に用いられている。これらエマルションは熱力学的に不安定な系である為、時間経過によりいずれ相分離を生じる(別の言い方では、劣化する)。これらの相分離過程を高周波分光法により観測することに成功した。実際には、多種類のエマルションを合成し、その劣化過程を高周波スペクトルのピーク位置の移動という形でとらえることができた。結果の一例を示すと、エマルション合成時に、界面活性剤の割合を多くしたものは、時間経過に対する劣化が緩やかに進行することが判明した。また、高温で保存したエマルションは、劣化がより速やかに進行することも判明した。これらは経験的には自明として知られていることであるが、目視や他法では観測し得ないような微小の変化も本法で鋭敏にとらえることができた。
著者
石田 貴文
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

COS-7細胞での一過性発現と酵素免疫法によるcAMPアッセイの結果、ヒトでみつけた変異型は野生型よりも有意に低いcAMP産生能を示した。これらの結果から、野生型と変異型の分布頻度の差、そして機能的な差がヴェッダ、オセアニア人と他のアジア人との間に観察される皮膚色の相違の遺伝的背景であると考えられる。また、東北アジア人の間では非常に低い活性を示す変異が4種類同定された。この集団では、低頻度ではあるが金髪や非常に明るい皮膚色といった形質が確認されており、これら4種類の変異がこのような表現形と関連していると考えられる。スラウェシマカク7種は総じて黒い体毛色を呈するが、幾つかの種においては、体の全体あるいは一部分に著しい体毛色の明化が確認されている。このような体毛色の明化を示す種では、MC1Rの機能的に重要と予測されるアミノ酸置換が生じており、一方、著しい明化を示していない種ではこのようなアミノ酸置換は確認されなかった。テナガザルは種間、種内での体毛色多様性が著しく、性的二型が存在する種、性に関係なく多型的な種、そして単色な種が存在する。多型的な体毛色を示すシロテテナガザルについて、MC1Rのハプロタイプを決定した。その結果、MC1Rハプロタイプとシロテテナガザルの体色多様性との間に有意な関連性は見られなかった。しかし、in vitroにおける機能解析の結果、テナガザルのMC1Rは恒常的活性型に進化している可能性が示された。