著者
西口 正隆
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要 アーカイブズ研究篇 = The Bulletin of The National Institure of Japanese Literature, Archival Studies (ISSN:24363340)
巻号頁・発行日
vol.54, no.19, pp.39-62, 2023-03-24

本稿は、アーカイブズと「モノ資料」の関係を通して、土浦藩主を務めた子爵土屋家における刀剣管理と、それに伴う文書実践(記録作成)の事例を検討するものである。アーカイブズ資源研究では、文書の作成・保管・選別に関する分析が進んできたが、「モノ資料」の管理に伴う文書の作成・保管・利活用についても対象にする必要がある。 まず、土屋家における家職の職掌を確認したうえで、彼らの文書作成規定を分析した。これにより、土屋家における文書作成や利活用は家職のうち、主に家令や家扶が掌っていたことが明らかとなった。また土屋家の家宝や道具類の管理と、それに伴う記録の作成・利活用は家扶が担っていた。 次に、土屋家で行われていた宝物等の管理と記録作成について刀剣を事例に検討した。刀剣台帳に記載された刀剣類は刀箪笥に容れて保管されており、各刀剣類の袋には台帳番号が付された木札が据えられていた。この木札の番号を基に刀剣台帳と照合し、移動や紛失の有無を確認していた。照合が済むと、刀剣台帳に確認済みを示す印を記載するという過程を例年繰り返していたことが明らかとなった。刀剣台帳には、後筆で鑑定・評価に関する記載がなされていた。したがって、刀剣台帳は管理台帳としての本来の用途に加え、鑑定・評価といった鑑賞も含めた用途へ変化した可能性も指摘した。 Through the relationship between archives and utensils, this paper examines the case of sword management and the accompanying documentary practice (record making) in the Viscount Tsuchiya family, which served as the lord of the Tsuchiura domain.While archival resource studies have made progress in analyzing the creation, storage, and sorting of documents, it is necessary to also target the creation, storage, and utilization of documents associated with the management of utensils.First, after confirming the duties of the household positions in the Tsuchiya family, we analyzed the regulations for their document production. This reveals that the creation and utilization of documents in the Tsuchiya family was mainly handled by the family orderlies and family support staffs.In addition, the family support staffs were responsible for the management of the Tsuchiya family heirlooms and tools, as well as the creation and utilization of the associated records.Next, the management of treasures and record keeping in the Tsuchiya family were examined using swords as a case study.The swords listed in the sword ledger were stored in sword chests, and a wooden tag with the ledger number was attached to the bag of each sword.Based on the numbers on these wooden tags, the swords were checked against the sword ledger to see if they had been moved or lost.The sword ledger appended a postscript regarding appraisal and evaluation.Therefore, in addition to its original use as a management ledger, the sword ledger may have changed its use to include appreciation, such as appraisal and evaluation.
著者
森田 裕介
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会年会論文集 45 (ISSN:21863628)
巻号頁・発行日
pp.71-72, 2021 (Released:2021-12-20)
参考文献数
4
被引用文献数
1

本稿では,STEM/STEAM教育のカリキュラムを構築するためのひとつの考え方として,探究活動と創造活動を往還するモデルを踏まえ,持続可能な実践のデザインを検討した.探究活動と創造活動の特性を併せ持つモデルとして,大谷(2021)はLearning by Designを挙げている.適切な「問い」と合わせて,初等教育,中等教育,高等教育へと発展的かつ継続的に,探究活動と創造活動をデザインしたカリキュラムの構築に向けて,議論をする必要があろう.
著者
土場 学
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.117-134, 2000-06-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
39

ハーバーマスは、『認識と関心』において、理論と実践の統一的な研究プログラムとして批判的社会学(批判的社会理論)を構想した。そこにおいてハーバーマスは、認識を導く関心というアイデアをもとに、技術的認識関心に導かれる科学、実践的認識関心に導かれる解釈学、そして解放的認識関心に導かれる批判的社会学という認識類型の認識人間学的な正当化を試みた。しかしこの構想は、ハーバーマスの学問的営為のなかで、認識論からコミュニケーション論へというコミュニケーション論的転回によって放棄されることになった。そしてそれと同時に、理論と実践の統一という要請も断念されることになった。この構想の綻びは、ヘーゲル-マルクスの歴史哲学を継承した「人類主体」という実体概念を認識の最終審級に置く主体哲学に淵源する。しかしながら、こうした主体哲学を放棄するならば、アイデンティティ(自立性)を確立する政治的過程としての「承認をめぐる闘争」にその立脚点を据え直すことによって、理論と実践の統一という要請を断念することなく新たな批判的社会学を構想しえるはずであり、実際今日の批判的研究はかつてのモダニズム/ポストモダニズムという対立軸を越えてこうした構想に収斂しつつある。
著者
長谷川 計二
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.135-136, 2005 (Released:2007-07-06)
参考文献数
1
著者
長谷部光泰著
出版者
裳華房
巻号頁・発行日
2020
著者
世利 修美 丹野 聡司
出版者
公益社団法人 日本金属学会
雑誌
日本金属学会誌 (ISSN:00214876)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.878-883, 2009 (Released:2009-11-01)
参考文献数
9
被引用文献数
7 7

Behavior of dry corrosion which is electrochemical reaction between Al-Mg-Si alloy 6063 and ethanol in gasoline has been investigated. Dry corrosion has not been observed in E3 (3% ethanol) and E10 (10% ethanol) at room temperature, but observed in E3 and E10 when a small amount of aluminum chloride had been added to them at room temperature. The higher solution temperature is, the more often the dry corrosion occurs. Dry corrosion has also been observed in the above solution environments in which 0.1% and 1% water contained. Occurrence of dry corrosion was detected by the area polarization method, which revealed that initiation and propagation of the dry corrosion corresponds to the decrease of anodic polarized resistance of 6063.
著者
小柏 香穂理
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.18-37, 2023 (Released:2023-04-21)

拙稿「模範的な大学の中期計画文書の特徴分析とメタデータの付与」(『レコード・マネジメント』、2021)において、中期計画文書の策定には、具体的な記述(戦略)とそれらの根拠となる関連データの所在や管理方法が組織化されていることが、成功事例の大学に共通する特徴であることが明らかになった。しかし、どのような意思決定過程を経て中期計画文書が策定されているのかは、これらの資料だけでは不十分である。国立大学の法人化による組織改変や、私立大学においては大学と学校法人という複雑な組織体系から、意思決定過程の複雑さが指摘されており、日本のすべての大学において、意思決定過程の最適化は重要な課題である。そこで、本稿では重要文書の公開が義務付けされている国立大学を対象に大学の事例研究を行い、入手した資料の中で、意思決定過程の記述をどのくらい読み取ることができるかを分析した。今回、認証評価受審のための自己点検評価書の記述内容に基づいて分析した結果、大学の意思決定過程の流れの概観を把握することができた。さらに大学文書館に保管されている資料の調査分析に基づき、意思決定過程の記録の具体事例を示す。
著者
山極 哲也 酒井 和加子 吉岡 亮 上野 博司 山代 亜紀子 川上 明 荻野 行正 土屋 宣之 大谷 哲之 大里 真之輔 信谷 健太郎 竹浦 嘉子 上林 孝豊 清水 正樹 大西 佳子 上田 和茂
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.123-128, 2023 (Released:2023-04-24)
参考文献数
11

地域全体の緩和ケアの質の向上を図るためには,各施設が緊密につながることが必要であると考え,2017年9月に「京都ホスピス・緩和ケア病棟(PCU)連絡会」を発足させた.個々のPCU施設が抱える問題を気軽に話し合い,共に悩み考え,成長,発展させる場,新規立ち上げ施設を支援する場とした.連絡会では,その時々の話題(緊急入院,輸血,喫煙,遺族会など)をテーマに議論を行った.2020年,COVID-19流行のため連絡会は休会となったが,メール連絡網を用い,感染対策,PCU運営などの意見を交わし,WEB会議システムを用い連絡会を再開させた.日頃より顔の見える関係があることで,COVID-19流行という有事においてもPCU間の連携を維持し,がん治療病院との連携にも発展させることができた.京都府のPCUが一つのチームとなることで,患者,家族がどのような場所においても安心して生活できることを目指している.
著者
西本裕 紀子 惠谷 ゆり 加嶋 倫子 伊藤 真緒 麻原 明美 清水 義之 曺 英樹 川井 正信 位田 忍 川原 央好
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.647-653, 2018 (Released:2018-04-20)
参考文献数
23
被引用文献数
1

【目的】重症心身障がい児(者)(以下、重症児(者)と略)におけるベースライス法ミキサー食の臨床的有用性について検討する。【対象・方法】べースライス法ミキサー食を導入した重症児(者)27例を導入前の栄養法が栄養剤のみの栄養剤群10例と加水法ミキサー食の加水法群17例に分類し、診療録から導入前後のBMI、血清アルブミン(以下、Albと略)値、摂取エネルギー量を後方視的に検討した。アンケートから導入前後の排便回数、便性、嘔吐頻度、調理・介護時間、感想について検討した。【結果】べースライス法導入前後でBMIは有意差がなく、Alb値は栄養剤群で、総摂取エネルギー量は加水法群で有意に増加した。便性は両群とも有意に改善し、嘔吐も改善した。介護時間は56%が短くなったと回答し、「家族と同じ食事を入れられるのがうれしい」という感想が最も多かった。【結論】ベースライス法ミキサー食を導入した重症児(者)において、導入前の栄養法にかかわらず栄養状態は維持改善できた。また消化器症状の改善が認められ、家族の高い満足度が得られた。
著者
韓 旖睿 白 琳 孫 氷玉 湯淺 かさね 池邊 このみ
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.D1-0112, 2023 (Released:2023-04-20)
参考文献数
68

雪形は「山腹の雪の消え具合によってできる形」として定義されているもので,かつては農事暦として利用されてきたが,農耕の進歩などにより各地で伝承が消えつつある.2005年の『農林水産業に関連する文化的景観の保護に関する調査研究報告書(文化庁)』では,「独特の気象によって現れる景観」と「複合景観」にて6座の山の雪形を文化的景観候補として選出されたが,文化的景観の条件との整合性から,まだ認定されているものはない.本研究では,a)全国の雪形とその分布の特徴の把握,b)雪形データベースの構築及び評価項目の設定,c)全国の雪形の景観特性の分析と類型化,d)雪形に関する産業・文化特性と景観特性の相関性の明確化,以上4つの目的を通して雪形の価値評価について検討したものである.