著者
須﨑 純一 楠瀬 智也 木村 優介 宇野 伸宏 藤原 優 久田 裕史
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.22-00022, 2023 (Released:2023-01-23)
参考文献数
22
被引用文献数
1

高速道路の維持管理業務において,道路や橋脚の劣化に対する補修だけでなく,災害発生時の事前・事後対策も重要な業務である.頻発する土砂災害への備えとして,本論文では人工衛星に搭載された合成開口レーダ(synthetic aperture radar: SAR)で取得された時系列画像を用いて,重点的に監視すべき箇所を絞り込む手法を提案する.時系列SAR解析の手法を用いて,強い散乱を示す地点の累積地盤変動量を推定し,その後高速道路沿いの一定範囲の平均累積地盤変動量を算出するものである.本研究での推定結果は,実際に土砂災害が発生した箇所において前年時の豪雨後から変動が始まっている様子を示している.よって提案手法は高速道路管理者の維持管理業務に取り入れられる可能性を有する実用的な手法と言える.
著者
宮田 裕光 赤塚 咲希
出版者
日本マインドフルネス学会
雑誌
マインドフルネス研究 (ISSN:24360651)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.17-22, 2022 (Released:2022-04-21)
参考文献数
12

マインドフルネスに基づく介入は,肥満および摂食障害の治療に効果を持つことが示唆されている。本研究では,健康な日本人の大学生を対象とし,食事前の短時間の呼吸瞑想による介入の食行動およびマインドフルネス傾向に対する効果を予備的に検討した。1名の参加者が毎回の食事前に5分間の呼吸瞑想を2週間実践し,別の2名は同じ期間中,瞑想を実践しなかった。介入を行った参加者では,介入期間終了時および終了2週間後のフォローアップ時点において,介入開始前よりも,食行動評価,抑制的摂食,マインドフルネスの各尺度の得点は増大し,情動的摂食,外発的摂食の得点およびBMIは減少していた。瞑想を行った参加者の内観報告からも,食事に対する気づきや抑制の増大が示唆された。これらの結果は,日本人の健常成人において,食事前の短時間の呼吸瞑想が食行動およびマインドフルネス傾向に望ましい効果をおよぼす可能性を示唆している。
著者
須藤 克仁 角所 考 美濃導彦
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.3632-3642, 2002-12-15

仮想物体操作におけるユーザへのリアルな視覚フィードバックの実現を目的として,仮想柔軟物体のモデルパラメータを,現実物体の観測結果から獲得する手法について議論する.従来から,mass-springモデル等を用いて,布をはじめとする様々な柔軟物体がモデル化されているが,このようなモデル化では,モデルパラメータの値は,人間がモデルの形状を確認しながら手動で設定する必要があり,労力が大きい.また,モデルパラメータの値は通常,物体全体にわたって同一であると仮定されるため,実現された形状が均質すぎてリアリティに欠ける場合も多い.本研究では,仮想物体に対する操作を現実世界において実行し,その観測結果に基づいて,現実物体と同一の見え方を再現できるようなモデルパラメータの値を求めることにより,ユーザによる物体操作に対してリアルな視覚フィードバックを実現できる仮想物体モデルを獲得することを目指す.このための第1歩として,本稿では,線状の柔軟物体の2次元平面上での操作に対する静止形状を再現する処理について述べる.具体的には,線状の柔軟物体の伸びや曲げに対する特性を1次元mass-springモデルを用いて表現し,モデルが観測形状を静止・安定状態として持つようにモデルパラメータの値を定める.本手法を用いて実際のひもの形状を再現する実験を行い,適切なパラメータが獲得できることを確認した.
著者
Akinobu Lee Tatsuya Kawahara Kiyohiro Shikano
巻号頁・発行日
pp.1691-1694, 2001-09

Julius is a high-performance, two-pass LVCSR decoder for researchers and developers. Based on word 3-gram and context-dependent HMM, it can perform almost real-time decoding on most current PCs in 20k word dictation task. Major search techniques are fully incorporated such as tree lexicon, N-gram factoring, cross-word context dependency handling, enveloped beam search, Gaussian pruning, Gaussian selection, etc. Besides search efficiency, it is also modularized carefully to be independent from model structures, and various HMM types are supported such as shared-state triphones and tied-mixture models, with any number of mixtures, states, or phones. Standard formats are adopted to cope with other free modeling toolkit. The main platform is Linux and other Unix workstations, and partially works on Windows. Julius is distributed with open license together with source codes, and has been used by many researchers and developers in Japan.
著者
浜川 栄
出版者
東洋文庫
雑誌
東洋学報 = The Toyo Gakuho (ISSN:03869067)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.147-174, 1999-09

What influence did the Yellow River dikes collapsing twice have on the society during the transition period from former to later Han dynasty? This question has not been fully discussed. Among the few studies on this subject, Hans Bielenstein and Kimura Masao emphasize that the destruction of the dikes was a major cause of the fall of Wang Mang’s regime. I feel this view is open to further analysis. In this article, I analyzed this theme from a different viewpoint.During the transition period, influential families throughout the country built forts to defend themselves from local bandits. However, this measure of self-defense could not be seen in the plains south of the Yellow River and north of the Huai River (Huaibei plain 淮北平野) when the Red Eyebrows 赤眉 invaded the region. As there were several cases, though exceptional, in which people were captured but then released by the bandits after winning their sympathy, it is probable that influential families did not exist in this area.This can also be assumed from the feud between Liu Xiu and Liu Yong 劉永. Although Liu Yong was holding the strategic position of Sui Yang 唯陽 in the Huaibei plain, being closest to the throne among the Liu clan, he was defeated by Liu Xiu who was expanding his power in the Hebei plain 河北平野. This was because Liu Xiu was able to gather the influential families of the Hebei plain, whereas Liu Yong could not in the Huaibei plain.Since the Warring States Period, the Huaibei plain possessed vast superiority in population, economic power, and etc. over the Hebei plain. However, judging from the above-mentioned situation, it is evident that the area had gradually lost its advantage. It was the collapse of the Yellow River dikes that caused the decline. The influential families had evacuated the area to escape inundation caused by unrepaired dikes. Obviously, resistance against the bandits was no longer possible, moreover, there was no potential for Liu Yong to expand his power.The collapse of the Yellow River dikes had an influence on the society not as a direct cause of Wang Mang’s fall, but as a primary factor for Liu Xiu to establish the Later Han dynasty.
著者
入江 経明 宮内 俊一 米崎 治男
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.59-62, 1975-01-15 (Released:2011-11-04)
参考文献数
7

実地醸造において原料米の品質管理の一環として, そのもろみ中での溶解性を予知するために, 少量の試料を用いて迅速簡便で定常値が得られる蒸米被消化性試験法を設定し検討を加えた。白米処理上のポイントは, 白米の枯らし日数と水切操作である。各種酒米の被消化性をしらべた結果心白米は一般米にくらべて被消化性がよく, 白米中のたんぱく含量の少ない方が被消化性がよかった。
著者
鄭 美沙
出版者
生活経済学会
雑誌
生活経済学研究 (ISSN:13417347)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.45-58, 2021 (Released:2022-03-31)
参考文献数
9

本稿では、金融広報中央委員会が2019年に実施した「金融リテラシー調査」を用いて、金融リテラシーが若年層のリスク性資産の購入と金融トラブル回避に与える影響を分析本稿では金融広報中央委員会の「金融リテラシー調査(2019年)」を用いて、若年層のリスク性資産の購入や金融トラブルの要因を、金融リテラシーを中心に分析した。分析にあたっては、具体的なリテラシーを特定するため、金融リテラシーを「効率的な資産運用に必要な知識や判断力」である資産運用リテラシーと、「日常生活における正しい消費行動に必要な知識や判断力」である消費生活リテラシー、分散投資・インフレーション・複利計算の問いで構成されるビッグスリーに分類した。分析の結果、資産運用リテラシーとビッグスリーがリスク性資産購入を促すことと、消費生活リテラシーが金融トラブルの回避に有効であることが明らかになった。しかし、資産運用リテラシーが少しある場合は、金融トラブルを経験する確率も高くなった。 金融リテラシー以外では、住宅ローンの保有がリスク性資産購入経験者である確率を高めた。住宅ローンは家計のリスク許容度を圧迫し、リスク性資産保有の制約になる可能性もあるものの、金融機関と接点を持つことがリスク性資産購入のきっかけにもなると示唆される。
著者
倉田 容子
出版者
お茶の水女子大学21世紀COEプログラムジェンダー研究のフロンティア
雑誌
F-GENSジャーナル
巻号頁・発行日
no.8, pp.37-45, 2007-07

芥川龍之介『羅生門』(1915)に登場する老婆は、「死骸」の臭気が充溢する場で、「死骸」の中に蹲りながら、「死骸」と向き合う形で登場し、さらに「肉食鳥」「鴉」「蟇」といったネガティブな比喩表現によって造形されている。このような老婆表象は、従来、下人の心理を中心とするストーリーとの整合性において意味づけられてきた。しかし本稿では、むしろその整合性を脱自然化すること、すなわち妖怪や魔物を連想させるネガティブな視覚的・聴覚的表現と、老婆に対する下人の「憎悪」や「侮蔑」といった感情、さらに下人の老婆に対する加害行為という三つの要素を結びつける暴力的なレトリックの回路を、同時代的なインターテクスチュアリティの観点から解体することを試みる。それにより、これまで古典文学に起源を求められてきた老婆表象が、同時代的なジェンダー/エイジング規範と響き合うものであり、下人の心理もまたそうした規範性と不可分なものであることを明らかにした。
著者
Sooyol Ok Suk-Hwan Lee
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
Nonlinear Theory and Its Applications, IEICE (ISSN:21854106)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.2-17, 2023 (Released:2023-01-01)
参考文献数
29
被引用文献数
1

This paper proposes a technique for 360-degree panoramic video generating with multiple actual and virtual cameras in real-time. Our method acquires multiple images consisting of real images from physical cameras and virtual images from virtual cameras by GPU-based texture and encoding. Then, our method generates 360-degree panoramic images by ORB feature detection and matching to virtual and real images, automatic homography estimation based on the random absent consensus algorithm, multi-band blending and produces high-resolution video stream by Nvidia encoder based Hardware accelerated video encoding. From experimental results, we verified that our method takes at least 45fps at 2K resolution and 33fps at 4K resolution when transmitting the head mounted display stereo, enabling real-time 360-degree panoramic video generation as well as transmission.
著者
菅沼 克昭 新原 晧一 森藤 竜巳 中村 義一
出版者
プリント回路学会
雑誌
回路実装学会誌 (ISSN:13410571)
巻号頁・発行日
vol.12, no.6, pp.406-412, 1997-09-20
参考文献数
10
被引用文献数
2
著者
Takeshi Nakaura Naoki Kobayashi Naofumi Yoshida Kaori Shiraishi Hiroyuki Uetani Yasunori Nagayama Masafumi Kidoh Toshinori Hirai
出版者
Japanese Society for Magnetic Resonance in Medicine
雑誌
Magnetic Resonance in Medical Sciences (ISSN:13473182)
巻号頁・発行日
pp.rev.2022-0102, (Released:2023-01-26)
参考文献数
71
被引用文献数
3

The application of machine learning (ML) and deep learning (DL) in radiology has expanded exponentially. In recent years, an extremely large number of studies have reported about the hepatobiliary domain. Its applications range from differential diagnosis to the diagnosis of tumor invasion and prediction of treatment response and prognosis. Moreover, it has been utilized to improve the image quality of DL reconstruction. However, most clinicians are not familiar with ML and DL, and previous studies about these concepts are relatively challenging to understand. In this review article, we aimed to explain the concepts behind ML and DL and to summarize recent achievements in their use in the hepatobiliary region.
著者
原口 剛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.263, 2020 (Released:2020-03-30)

Ⅰ はじめに 本報告は,地理学における労働への問いにとって資本と労働の対立が根本的であるとの視点にたち,それが生み出す「空間の政治」の論理を示すことを目的とする。具体的には,神戸港において全日本港湾労働組合神戸弁天浜支部が1970年代以降に主導した,労災職業病闘争を取り上げる。とくに注目されるのは,「港湾病」という病名が労働運動によって提唱され,争われた事実である。本報告では,この名づけがいかなる意義をもったのかを論点の中心に据えつつ,災害職業病闘争の展開過程を検証する。Ⅱ「港湾病」とは何か 労災職業病闘争は,1966年の港湾労働法を契機に結成された神戸弁天浜支部がいちはやく繰り広げた闘争だった。同支部は,1974年にアンケート調査を実施したことを皮切りとして,1988年までに13次にわたる労災職業病の申請闘争を展開し,現在もじん肺をめぐる闘争が継続されている.この闘争のなかで,港湾の労災職業病は「港湾病」と名づけられた.その病名は,主として次の症状を包含するものだった.第一に腰痛症や関節症などの全身運動器疾病であり.第二に船内でのチェーンソー利用に起因する振動病(白ろう病)であり,第三に有害物質による粉じん病,なかでもアスベストによるじん肺である.全港湾の闘争は,これらの疾病を段階的に認定させていった.それは同時に,「港湾病」が字義的にも空間的にも拡張されていく過程だった。Ⅲ 闘争の展開過程(1)「フォークリフト病」から「港湾病」へ 労災職業病認定闘争が開始された当初,港湾では労働の機械化が急速に進み,労働運動にとって喫緊の課題として浮上していた。この状況下にあって全港湾は,フォークリフトが労働者の身体におよぼす影響,とりわけ腰痛に注意を向け.当初は「フォークリフト病」という病名を掲げた,しかし,弁天浜支部が独自に実施した74年に実施されたアンケート調査と集団検診によって,腰痛症のほかにも,頚椎症,膝関節炎,気管支炎,じん肺など,全身的な症状が広がっている実態が明るみとなった.弁天浜支部は,これらの諸症状を総体的に指し示すべく,新たに「港湾病」という呼称を案出し,提起した. だが,第1次・第2次の申請(1974〜75年)の段階では,労災職業病として認定されたのは腰痛のみであり,それ以外の症状は港湾労働との因果関係が否認された.これに対し弁天浜支部は,腰痛以外の症状についても認定を勝ち取るべく闘争を進め,1976年の第3次申請以降には,腰痛のほか頚椎症や膝関節症などの認定を実現させた.さらには,1977年にはチェーンソー使用による振動病への取り組みを重点化し,これについても認定を勝ち取った.(2)「港湾病」の全国化と港運業者の抵抗 1970年代後半になると,「港湾病」認定闘争は新たな局面に入った.第3次申請までは,その主体は登録日雇労働者だったのに対し,1977年の第4次申請以降は常用労働者が主体として加わった.また,1978年には横浜港および関門港においても労災職業病認定闘争が開始された. このような主体の拡大と他港への波及に対し脅威を感じた日本港運協会は,「このように特定の港にのみ,且つ日雇労働者に多数の認定者が発生していることは……むしろ職業病申請に当って申請者集団の心理的欲求と,組織の指導による特定診療機関の受診がもたらした結果である」との非難を繰り広げた(全港湾関西地本労災・職業病対策特別委員会 1980: 107).このような日本港運協会の言葉は,はからずも「港湾病」という名称がもつ政治的な効果を浮き彫りにしている.すなわち,「港湾」という具体的かつ一般的な地理的概念を冠した病名を提起することで,労働運動は,あらゆる港湾へと闘争を波及させうる状況を生み出そうとしたのだった.(3)「港湾病」としてのじん肺 さらに,じん肺をめぐる闘争は,もうひとつの角度から空間的次元の重要性を示唆している.旧来のじん肺法においては,粉じん作業とは「鉱石専用埠頭に接岸している鉱石専用船の船倉内」での作業とされ,この定義により港湾それ自体を粉じん作業の現場とみる可能性は閉ざされていた.全港湾はこれを変更させるべく運動を繰り広げ,1985年の法改正において「鉱物等を運搬する船舶の船倉内」へとその定義を拡張させた.こうして,港湾を粉じん作業の現場として把握し,じん肺を「港湾病」として認定する可能性が,はじめて切り開かれた.Ⅳ おわりに 以上の各段階にみられるように,「港湾病」という名称は,闘争の政治的次元とその空間性を如実に表わしている。ずなわち,これら一連の行為に共通して見出されるのは,複数の次元において対抗的空間を生産しようとする,港湾労働者の企図である。