著者
永井 成美 森谷 敏夫 坂根 直樹 森谷 敏夫 坂根 直樹
出版者
岡山県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

20歳代女性の3~4割に、低体重または標準体重でありながら体脂肪率が高い、いわゆる「隠れ(正常体重)肥満」やその予備群である「隠れ(正常体重)肥満傾向」が認められるとの報告がある。若い女性特有の「太りたくない」という強い思いから、食事のカロリーのみを気にして食事の質が良くない場合に、筋肉量、骨量の低下と体脂肪量の増加によって「隠れ肥満」が形成されると考え、食行動パターンやダイエット歴、体組成、代謝・自律神経活動等の生理学的特性や遺伝的特性(肥満関連遺伝子多型)などからその成因を検討した。さらに、カロリーだけでなく食事の「質」を重視した3回の介入試験を「隠れ肥満」若年女性を被験者として実施し、その有効性についても評価した。研究の成果は、10件の論文、17件の学会発表、2冊の著書により公表するとともに、NHK健康番組やその関連雑誌等によって広く紹介された。
著者
風間 卓仁
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の最大の目的は、火山での重力観測を通して、火山内部におけるマグマ質量の移動プロセスを把握することである。また、マグマ移動起源の重力変化を検出するため、陸水起源の重力擾乱を適切に補正することも、本研究の大きな目的の1つである。本研究の最終年度に当たる平成24年度には、約2カ月に1度の頻度で桜島を訪問し、設置済みの相対重力計・気象観測装置・水分計のデータ回収およびメンテナンス作業を行った。この3年間、桜島では絶対重力計や相対重力計の連続データを大量に取得することができた。しかしながら、陸水擾乱によるノイズが大きかったために、現時点では火山起源の重力変化を十分には検出できていない。そこで本研究では、新たに八重山諸島とアラスカにて重力等の観測を実施し、陸水擾乱に関連して以下のような結果を得た。まず、八重山諸島では石垣島や西表島などで土壌採取を実施し、採取した土壌に対して透水試験を適用した。その結果、透水係数は空間的に均質ではなく、約4桁の範囲で変化していることが分かった。今回得られた土壌空間不均質を陸水シミュレーションに適用すれば、陸水擾乱を高精度に再現できるものと期待される。また、アラスカでは絶対重力計FG5による重力測定を実施した。その結果、絶対重力値は予想していた値よりも約10マイクロガル程度大きい'ことが分かった。これは2011~2012年冬季の異常降雪の影響と考えられ、今後積雪分布のデータなどを利用して重力変化を再現する予定である。今後は、陸水分布シミュレーションのプログラムを改編し、陸水擾乱の再現精度向上を目指す。そして、八重山諸島・アラスカ・南極地域(前年度に重力観測を実施)で取得した重力データに陸水擾乱補正を適用し、陸水分布シミュレーションの再現精度を評価する。その上で、桜島の重力観測データに対して高精度な陸水擾乱補正を適用し、火山起源の重力変化の抽出を目指す。
著者
富岡 尚敬 安東 淳一
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

高温・高圧・高酸素分圧が惑星物質に与える鉱物学的影響を調べるため,石質隕石の高温酸化実験と衝撃回収実験を行った.この結果,1)鉄に富むカンラン石の酸化による超構造への相転移と赤外スペクトル変化との関連性,2)1万気圧程度の弱い衝撃の加熱においては,含水鉱物の脱水反応は顕著ではないこと,を明らかにした.また,石質隕石の主要鉱物である斜長石の静的圧縮実験を行い,3)斜長石の圧力誘起非晶質化は温度及び時間依存性を持つことを,明らかにした
著者
東郷 敬一郎 JIANG Y.P. JIANG Y. P.
出版者
静岡大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

平成21年度は,以下の2項目について研究を進めた.1.ナノ粒子分散複合材料の増分形損傷力学モデルの開発申請者らが開発している粒子分散複合材料の損傷理論を基に,粒子近傍のひずみ勾配効果による変形特性の粒子寸法効果と損傷過程の粒子寸法効果を考慮した力学モデルを開発した.また,新たなモデルとして,粒子-マトリックス界面層を考慮した微視力学モデルを開発し,界面層による粒子寸法効果を明らかにした.これらの開発したモデルを有限要素法に組込み,ナノ粒子分散複合材料中の切欠き・き裂など構造部材の解析を可能とした.2.ナノ粒子分散複合材料の作成粒子寸法の異なるシリカ粒子とエポキシからなる数種類の粒子分散複合材料を遠心遊星混練機,超音波分散器あるいは射出成形機を用いて作製した.強化材の樹脂マトリックス内への分散度について走査型電子顕微鏡について観察した結果、一様に分散している部分と凝集している部分が観察された。作製した複合材料について,強度特性を調べた結果、粒子体積率の影響は認められたが、粒子寸法の影響は顕著ではなかった。ナノ粒子分散複合材料の特性発現機構を明らかにするためには、さらに細かなナノオーダーの粒子を分散させた複合材料を作製し、検討することが必要である。
著者
米田 耕造 窪田 泰夫 荒木 伸一 中井 浩三
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

アトピー性皮膚炎は、掻痒の強い湿疹病変を主とする難治性皮膚疾患であり、フィラグリンタンパク質の遺伝子異常による。ロリクリンはフィラグリンと同様、表皮角層細胞の辺縁帯の主成分である。ロリクリン遺伝子の変異による疾患(亜型ボーウィンケル症候群)の臨床症状は、掌蹠角化症を合併した魚鱗癬であり、フィラグリン遺伝子機能喪失変異により生じる尋常性魚鱗癬の臨床症状に酷似している。本研究の目的は、アトピー性皮膚炎の動物モデルを作製し、その病態に関与するロリクリンの果たす役割を解析し、創薬に役立てることである。その目的に向けてわれわれはロリクリンノックアウトマウスを作製した。
著者
南 裕樹
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,離散値信号を含む2次元システム(2Dシステム)における動的量子化器の最適設計論を構築することである.これを達成するために,つぎの二つのテーマに取り組んだ.1.分散型動的量子化器の解析と最適設計:申請者がこれまでに行ってきた研究(1次元システムのための最適動的量子化器の設計)の発展として,分散構造を有する動的量子化器の最適設計に取り組んだ(理論研究と応用研究).まず,理論研究の成果は,複数個の量子化器が組み込まれる離散値制御系において,最適な分散型動的量子化器を解析的に導出したことである.ここでの最適性は,離散値制御系の入出力特性が,通常の連続値制御系の入出力特性に最も近くなるという意味でのものである.一方,応用研究では,不安定なメカトロニクス系を対象とし,分散型最適動的量子化器を用いた離散値制御の有効陛を検討した.この実験検証により,最適量子化器の実用性が示された.2.n次元システムに対する最適動的量子化器:これまでの動的量子化の設計問題は,機械システムのような時間的なダイナミクスをもつく1次元システムを対象にしていた.ここでは,これまでの理論を一般化するために,空間的なダイナミクスをもつn次元システム(たとえば,分布定数系)を対象として,研究を行った.まず,離散値信号を含むn次元システムに対して,最適な動的量子化器を解析的に導出した.つぎに,その最適動的量子化器をハーフトーン画像処理に応用した.本研究では,動的量子化器を用いて多値画像の画質をできる限り維持する2値画像が生成できることを確認した.
著者
藤本 利一
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

過去数十年の間に,知的財産権は,世界経済において大きな役割を果たすようになった。今日においては,世界の名だたるトップメーカーの有する企業価値の多くが,それらの無形財産にあるといわれる。あるデータによれば,世界の主要企業に関して,その資産価値における知的財産権の占める割合は,1992年においては,6対4であったが,その10年後には,4対6の割合に変化したとされる。間違いなく,今日,ますます増大する世界的な企業間競争において,知的財産権は最も重要な資産である。このような状況のなかで、知的財産権およびそのライセンスに関して、重要な問題として認識されだしたものがある。すなわち、倒産処理手続における知的財産権の処遇である。たとえば、アメリカ法においても、各種知的財産権の処遇を規律するものとして、連邦レヴェルの法規制とともに、当該知的財産権を有する企業が、倒産した場合には、連邦倒産法の規律によることとなり、両者の相克が問題とされていた。すなわち、知的財産法においては、企業家および発明者の支配可能性を高めるため、知的財産権の譲渡可能性を制限しているのに対し、倒産法では、債権者にとって利用可能な資産価値を最大にするために、譲渡可能性を柔軟にしているという対立図式が明らかとなった。過去数十年にわたり、これらの対立をどのように処理するかが、企業再建という困難な局面で問われてきた。翻って、わが国の対応を見るならば、倒産法制はここ数年で大きく変革されたが、知的財産権への対応が必ずしも十分であるとはいいにくいようにも思われる。とくに,企業が倒産した際に,その知的財産権の価値をどのように評価し,またどのように売却等の処理をするかについては,まだ決め手がないということが明らかとなった。
著者
柴山 啓子 野渡 正彦 田久保 憲行 松浦 信夫
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

妊娠中の母体の低栄養によって、新生児の子宮内発育不全と出生後の遷延性低血糖症が惹起されることが示唆された。
著者
上原子 晶久
出版者
弘前大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1.塩害と凍害が複合作用する環境下を再現するため,ASTM-C-672法を参考に以下の凍結融解試験を行った.連続繊維シートを接着した上面に3%塩化ナトリウム水溶液を湛水し,凍結サイクル(-15〜-20℃で約17時間)と融解サイクル(+20℃で約7時間)で構成される1回の凍結融解サイクルが約24時間で完了する環境下に80日間暴露した.その後,連続繊維シートとコンクリートとの付着試験と塩化物イオンの浸透量の測定を行った.2.連続繊維シートの種類を炭素繊維,アラミド繊維,ならびにコンクリートの空気量を実験水準として試験体を作製した.試験体は,高さ100mm,縦200mm,横400mmのコンクリートブロックの一面に連続繊維シートを接着したものである.連続繊維シートの接着工程は一般的に採用されているものとし,シートとコンクリートとの接着にはエポキシ樹脂を使用した.3.付着試験の結果,凍結融解による損傷や塩分浸透を受けた場合の連続繊維シートとコンクリートとの付着特性を代表する界面破壊エネルギーは,健全時よりも3割ほど低下する結果が得られた.これについては以下が原因である.すなわち,凍結融解試験においてシート上面に湛水している塩水の影響により母材が過冷却され,それが主因として凍結融解作による母材の劣化をさらに促進しているものと推定される.以上は,試験時において母材内部の温度を計測し,それに基づく温度応力解析の結果からも確認することができた.4.母材への塩化物イオン浸透量を分析した結果,シートの種類によらず塩化物イオンの浸透は認められなかった.以上より連続繊維シートの物質遮蔽性能が優れていることを確認した.
著者
川島 伸之
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

歯髄細胞は象牙芽細胞へ分化し象牙質を形成する。骨芽細胞は骨形成細胞である。これらの細胞は硬組織形成細胞としての共通した特性を有する。臨床において、象牙質、骨といった硬組織の誘導を現実に行うために、まずvitroにおいて効率的に分化および石灰化誘導可能な条件について検討した。通常のディッシュを用いた2次元培養においては、硬組織誘導培地を用いない限り硬組織マーカーの発現増加および石灰化結節の形成は誘導できないが、3次元培養することにより、硬組織マーカーの発現増加が観察され、硬組織誘導培地により効率的な石灰化結節が形成された。3次元培養することで、より生体に近い環境で細胞を培養することが可能となったため、オリジナルの硬組織形成細胞としての特性が顕著に表れたものと推察される。なお、3次元培養によりインテグリンシグナルが活性化され、それが分化誘導に関与していることも明らかになった。これらの結果は、生体における象牙質および骨形成のメカニズムの一端を明らかにしてくれるとともに、臨床における硬組織誘導を実現するための布石となりうると思われる。
著者
礒村 宜和
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究計画では、ラットの運動皮質と線条体における運動情報と報酬情報の統合の過程を細胞型レベルで調べることを目指した。これまでに独自開発したレバー押しの運動課題の自動訓練装置(特許出願中)を活用し、脳定位固定状態の覚醒ラットに報酬交替性の前肢自発運動課題を約2週間で効率よく学習させた。そして、前肢の自発運動を発現中に、一次運動野が投射する線条体背外側部の単一神経細胞の発火活動を傍細胞記録法で観察するとともに、一次あるいは二次運動野に16チャンネルのシリコンプローブを挿入して多数の神経細胞の発火活動もマルチユニット記録法により計測した。傍細胞記録した線条体細胞は、ドーパミンD1受容体のmRNAの発現をin situハイブリダイゼーション法により検出するとともに、オピオイドμ受容体に対する免疫組織染色により線条体のパッチ・マトリックス構造への帰属を判定した。現在までに、60頭を超えるラットに運動訓練を施し、運動および報酬予測・獲得に関連する発火活動を示す多数の線条体細胞を記録し同定することに成功しており、そのなかには大脳基底核の直接路として黒質網様部などへ投射すると考えられるD1陽性の中型有棘細胞や、間接路として淡蒼球へ投射すると考えられるD1陰性の中型有棘細胞や、高頻度で発火するアセチルコリン作動性と考えられる介在細胞などが含まれていた。また、記録した細胞のほとんどがマトリックスに分布していた。さらに、マルチユニット活動データを含めた詳細な解析を加え、運動情報と報酬情報を統合する大脳皮質一基底核連関の仕組みを明らかにした。
著者
渋谷 努
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

現地調査によって1970年代から80年代初頭にフランスのパリ郊外ノンテールに住み働いていた北アフリカ出身者が記憶にとどめている移民たちによる社会運動には、MTA(mouvement travailleur arabe)があった。彼らの活動は、パレスティナ住民の支援だけではなく、フランスの労働組合に積極的に参加していなかったアラブ諸国出身移住労働者を労働活動に参加させた。既存の労働団体とは一線を画して、労使交渉に臨んだ。また、移民たちに運動の組織化のノウハウを伝えた。彼らの活動は十年弱で終了し、団体も解散した。しかし、彼らの活動の中心的な役割を果たした者は、以降の移民による運動の中心的な役割を果たしており、移民の社会運動が成立する基礎を形作った。文献調査として北アフリカ出身移民第二世代を指す際に用いられることが多い「Beur」という言葉の1987年から2008年8月の間でのLe Monde紙上への掲載状況を調査した。掲載された総数は1924回だった。Beurは文芸や映画と結びつけて用いられる場合が最も多く、政治や選挙と次いで結びつけられていた。さらに1998年にサッカーのワールドカップがフランスで開催され、フランスチームが優勝した際にアルジェリア出身移民の子どもが活躍したことから、その後このチームのことをマスコミだけではなく政治家もblack-blanc-beurと呼ぶようになった。この表現は多様な出身者からなるフランス社会の統合を示すものとして象徴的に用いられるようになった。Beurにはイスラームと関連されて用いられることもあったがイスラム主義者と対比する形で世俗的または穏健なイメージが与えられた。以上のような肯定的なイメージとは異なり、Beurを侮蔑的な表現と関連づける大きな要因が郊外問題であり、都市暴動などの暴力であることが明らかとなった。
著者
川島 寛之
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2010

骨軟部肉腫に対するテロメラーゼ特異的制限増殖型アデノウイルスによるウイルス療法の効果と殺細胞メカニズムの解明を目指した。細胞株を用いた実験では、アデノウイルスレセプターやテロメラーゼ逆転写酵素の発現量に比例し、容量・時間依存性にウイルス増殖が起きると同時に、オートファジー、アポトーシスの両機序を介して殺細胞効果を発揮することがわかった。さらに、マウス骨肉腫モデルでは、本ウイルス療法により骨肉腫の増大が著明に抑制されることがわかった。
著者
川島 英之
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では高機能演算子を有する分散実時間ストリーム処理基盤の研究開発に取り組んだ.高機能演算子としてはベイジアンネットワーク,そしてメディアデータ管理を実現した.その他に高速永続化機構,高信頼化機構,暗号化ストリーム処理,そしてストリーム結合処理に関する研究を行った.
著者
川島 秀一 隠居 良行 中村 徹 小川 卓克 池畠 良 小林 孝行 幡谷 泰史
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

気体力学、弾性体力学、プラズマ物理学等に現れるいくつかの非線形偏微分方程式系に対し、その消散構造・減衰特性を解明し、様々な非線形振動・波動現象に対する漸近安定性を示した。また、緩和的双曲型保存系に対する非線形安定性解析の一般論を構築し、時間重み付きエネルギー法、半群に基づく手法、調和解析的手法等の有効性を確認した。
著者
黒木 忍
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は,触覚ディスプレイを用いて自然な手触り感の伝達・共有を行うための基盤を確立することを目的としている.リアリティのある自然な触刺激を複数種類提示できるような触覚ディスプレイの設計は,提示情報の量が爆発的に増えてしまうという問題を抱えており,未だ実現されていない.触覚ディスプレイの設計においては,まず「ヒトが触覚的に外界をどのように認識しているのか」を部分的に解明し,情報量を絞って効率的な提示を行う必要性がある.我々の皮下に存在する複数種の受容器は,各々が異なる時空間精度で皮膚変形の符号化を行っているため,末梢における符号化の違いが中枢における情報処理の違いにも結びつくと考えられる.そこで本研究では,ヒト指先において高い空間分解能を持つMeissner小体(RA系)と高い時間分解能を持つPacini小体(PC系)の2つの系に着目し,低周波振動するピンでRA系を,高周波振動する円柱でPC系を選択的に活動させることで情報処理過程の分離を行い,入力信号の時空間的な解釈について心理物理実験を用いて調べた.片手の人差し指と中指に対し2つ振動を加えて実験を行った結果,低周波振動を用いた場合と高周波振動を用いた場合ではその他の条件を揃えても2振動の関連付けられ方が異なること,特に高周波振動では振動の加えられた時間や位置の知覚が不明瞭になることが明らかになった.この結果は,末梢における受容器密度の違いだけからは説明することができない.高周波振動は,小型の振動子で提示が可能であること,また小さな振幅で知覚を引き起こすことが可能であることから,携帯電話やゲーム機など,従来の触情報提示デバイスでは広く用いられてきている.しかし今回の結果は,高周波振動では空間的な2点が1点に縮退するのみならず,時間的な2点も1点に縮退することを示唆しており,歩行支援や方向指示などへの高周波振動の利用には一定の注意が必要となることを示している.
著者
浮田 正夫
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本年度は大型貨物自動車の燃料消費について調査し、長距離輸送にかかるエネルギー消費について主として検討を行った。運送業者に往復の燃料消費の違いについて聞き取りを行ったが、往路、復路別々の燃料消費の情報を得ることは容易ではなかった。わずかに収集できた16台のデータより、エネルギー消費の式を求めたところ、y:燃費係数kcal/km、x:車重量(=自動車自体の重量+積荷等の重量)kgとして、y=36.2x^<0.419>、R^2=0.80なる式が得られた。また燃費基準から整理すると、ジーゼル貨物車のエネルギー消費についても同様に、オートギアの場合y=49.0x^<0.383>、R^2=0.94、手動ギアの場合はy=51.2x^<0.354>、R^2=0.99なる式が得られた。手動ギアのガソリン貨物の場合、y=4.8x^<0.697>、R^2=0.96、ガソリン乗用車の場合、y=1.44x^<0.856>、R^2=0.97であった。確認の意味で、燃費計を装着した6台のバンタイプを含む乗用車を用いて、乗客数を変化させて、燃費実験を行ったところ、低燃費車でy=113x^<0.197>、R^2=0.96、あるいはy=100x^<0.214>、R^2=0.95、バンタイプ車でy=158x^<0.234>、R^2=0.79なる式が得られた。停車時においてもエネルギーを消費することから、見かけ上指数部が1より小さくなる傾向がある。いずれにしても、実際上は指数部を1にとることには問題があるようであった。ケーススタディとして山口県における木質バイオマスを全て宇部市に集める場合の集積費用及びエネルギー消費の試算に当たっては、上記の16台のデータを用いて、エネルギー消費は車重量の0.5乗に比例するとした式、y=16.2x^<0.5> R^2=0.74を用いて解析を行った。その結果、中間処理施設を19ケ所、13ケ所、6ケ所と集約すると、費用的にもエネルギー消費的にもかえって不利になることが分かった。また集積に要するエネルギー消費はバイオマスの持っているエネルギーの0.51%〜0.67%であった。
著者
高井 潔司 諏訪 一幸 遊川 和郎 渡邉 浩平
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

中国のマスメディアは90年代、市場経済の導入、進展に伴って大きく変容した。主流メディアは、従来の党の宣伝機関から大衆の求める情報や娯楽を提供する商業メディアへと変わりつつある。他方、メディアが市場経済の推進を支え、政治や社会の変容をももたらそうとしている。本研究では新聞業界の変容を中心に調査、分析を行った。高井論文は中国マスメディアの構造変動の総論にあたり、マスメディアの変容を総括するとともに、それによって引き起こされた社会の変動、政治との緊張関係を分析した。遊川論文は、経済専門紙に焦点を当て、市場経済の進展に経済専門紙の成長が不可欠であったことを裏付け、経済紙の発展状況について、詳しいデータを挙げて、議論を展開している。しかし、中国のメディア改革の一定の制約の下で、経済紙は様々な課題に直面しており、現状分析を基に今後の課題を列挙した。一方、諏訪論文は党機関紙を中心とする新聞発行集団に焦点を当て、新聞改革の深層に迫るとともに、集団内の機関紙(大報)と都市報など(小報)との相互依存関係だけでなく、その緊張関係にも着目し、新聞発行集団の問題点を分析した。渡辺論文は新聞経営とりわけその収入源の大半を占める広告を分析し、その変遷から中国の新聞の今後の展開についても論及している。
著者
奥田 沙織 宇田川 幸則 姜 東局 瀬戸 裕之 伊藤 浩子 傘谷 祐之 ブィティ マイラン バトボルド アマルサナ 石川 勝 小川 晶露
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

主にアジア諸国において、面接によるインタビュー調査を中心に元留学生への追跡調査を行うことにより、背景の異なる国々からの留学生への、従来の日本の法学教育の効果と限界を究明し、それを明らかにした。その結果に基づき、これまでの日本人だけを対象としてきた日本の法学教育方法に、国境・年齢を超えたグローバルな法学教育を組み込んでゆくための方法論を模索し、発信型法学教育への転換に必要な観点について論じた。
著者
中條 直樹 塚原 信行
出版者
名古屋学院大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

研究分担者塚原信行(愛知県立大学・非常勤講師)、研究協力者水野晶子(愛知淑徳大学・非常勤講師)、ムサエフ・ターライベク(当時名古屋大学大学院国際開発研究科・後期課程在学中、現在マレーシア国民大学・講師)と代表者でスタートしたプロジェクトは、中央アジアの英雄叙事詩の文献の収集を開始した。キルギスの「マナス」は世界最長の英雄叙事詩の口承文芸であり、語部により長短がある。本プロジェクトでは文字化された「マナス」の収集により、4分冊の1編と3分冊の2編と1巻本の「マナス」を2冊およびその解説書を、またキルギスの“EL AD-ABIATY"(People's Literature)SERIESのうち9冊を収集した。さらに“Go'ro'g'li"(Ташкент),“Алцамыс Батыр"(Алматы),“Кобыланды Батыр"(Алматы),“Камбар Батыр"(Алматы)を収集したもののいずれもキルギス語・カザフ語・ウズベク語により記述されており、記述の「マナス」の比較対象研究、またその電子化の試みは向後の課題としたい。ムサエフ・ターライベクによる『叙事詩マナス・コンコーダンス』(CD)はこの間の成果の一つであり、これは氏の出身国キルギス共和国でも高く評価されている。一方、我が国では「マナス」については、『マナス少年編・青年編・壮年編』(平凡社東洋文庫)がこの間に翻訳出版され、有用であった。また中央アジアに関わる文献に関しても広く収集に心がけ、「アイハヌム」(2001-2008:加藤九祚個人雑誌)も入手し、今後の参考にすることにした。