著者
坂本 要
出版者
東京家政学院筑波女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

この研究は全国に現存する念仏芸能・念仏行事の主だったものを現地調査し、ビデオ撮影をすることを第一目的とした。筆者は1999年以前に180箇所を調査しているが、この4年間の調査の200箇所を加え、計382箇所の調査データーをデーターベース化し、PCに入れるとともに、成果報告として冊子にした。(300ページ)ビデオについては220箇所分を収録している。1999年からの今回の調査では、集中して調査できた箇所は99年三重県伊勢志摩の大念仏調査・2000年福井県若狭地区六斎念仏・2001年長崎県平戸近辺のジャンガラ・六斎念仏・2002年長崎県五島列島チャンココ・沖縄念仏踊り等である。あわせて関西の六斎念仏・双盤念仏の調査を終えることができ、関東の双盤念仏・富士山麓の六斎念仏とあわせて、六斎念仏・双盤念仏が概観できるようになり、引声念仏から六斎・双盤という民間に広がる系譜をたどることができるようになった。長崎の離島にひろがる六斎念仏はまとまった報告がなく、新たな発見といえよう。また風流系念仏踊りについては、九州・沖縄を調べることにより、裏声で唱える念仏、しゃがみこんで踊る念仏等が見出され、新たな課題となった。盆踊りや西南中国に広がる歌垣との関連が注目されるようになった。以上この4年の調査により、念仏行事・念仏芸能のパースペクトをえることができ、風流踊り・盆踊りにつながる民俗芸能の身体表現分析の基礎データーとすることができる。特に映像アーカィブの意義は大きい。
著者
井上 富美子
出版者
宮城学院女子大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

【研究の目的】本研究は、Banduraによって提唱された「自己効力感」の視点から、女子大学と共学大学におけるキャリア教育の相違を明らかにするとともに、女子学生にとってより良いキャリア教育の在り方を提案することを目的とした試行的調査研究として実施した。【研究方法】1. キャリア教育内容を明らかにするため、女子大学(46校)・共学大学(17校)にアンケート調査を実施。2. キャリア教育の成果と課題について女子大学・共学大学から各2校を抽出し、聴き取り調査を実施。3. 大学での学びと「自己効力感」の関係についてWEB調査(女子大卒104名・共学大卒194名)を実施。【研究成果】アンケート調査の回答数は女子大学14校、共学大学6校であった。教育内容に関する回答が空欄という学校が多く、本調査では、キャリア教育の実態を明らかにすることはできなかった。そこで、キャリア教育を正課授業として位置づけている大学4校の聴き取り調査を実施。調査対象者は、キャリア教育担当教員もしくはキャリアセンター職員。偶然にも、うち3校は2010年度文部科学省就業力育成支援事業(就業力GP)採択プログラムを発展させた形で運営しており、大学設置基準の趣旨を十分に理解した取り組みがなされていた。さらに、4校ともにアクティブラーニングを意識し、実践を通じて学生自らが考え行動できるようになることを教育目標としていた。また、今回調査した女子大学では、女性特有のライフイベントを踏まえた進路選択について触れていたが、共学大学では特に触れていなかった。WEB調査では、大学卒業後及び現在の正規雇用就業者数を比較すると共学大学出身者の割合が高かった。自営業および経営者を含むと女子大学出身者の割合の方が高くなった。また、大学卒業後就職した職場に現在も勤務し、職位が部長・取締役クラスになっている割合は共学大学出身者が高かったが、転職を経験しながらも正規雇用で就労を継続している割合は女子大学出身者の方が高いことなどがわかった。今後、年代・地域・設置区分(国立・私立)等を変数とした詳細な分析を行い、課題を整理していく。
著者
前田 一之
出版者
京都教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

教授会の諮問的役割を明文化した平成27年4月の学校教育法改正は, 大学組織における上意下達型のガバナンスに決定的ともいえる法的正当性を付与したが, 国立大学法人化に淵源を有するこれら一連の改革は, 集権化が大学組織の経営効率を高めるという「前提」に依拠しているに過ぎず, 確たる裏付けがなされている訳ではない。「産業企業とは異なる組織特性を有する大学において, 組織構造の集権化は大学経営の質を高め得るのか」, 本研究は, かかる問題意識に基づき実施がなされたが, 研究の趣旨に照らし, 政策的誘導が相対的に生じにくい, 私立大学のみに限定した。従来, 私立大学における経営状態の規定要因を分析した先行研究では, 定員充足率や人件費比率が用いられてきたが, これら指標では, 本研究が目的とする「組織運営の効率性」を把握することはできない。そこで, 筆者は, 私立大学の財務データをもとに, DEAによる効率性分析とTobitモデルによる回帰分析を併用することで, 組織の運営効率に対する所有権構造の影響について実証的観点から検証を行うこととした。分析の結果, 組織構造は, 組織の運営効率に対して, 影響を及ぼしていないことが明らかとなった。逆に, 組織の運営効率に対して, 最も強い影響を及ぼしていたのは選抜性であり, わが国においては, 大学の威信による経路依存性が未だ根強く残っている状況が看取された。今後, 少子化が進行する中で, 大学の自助努力のみを期待する政策では, 多くの大学は自大学で統制不能な要因によって市場からの撤退を余儀なくされる可能性が高い。一方, かかる強い影響力を有する選抜性で統制してもなお, 柔軟性と革新性を志向するアドホクラシー文化が効率性に対して有意に正の影響を及ぼしていた事実は興味深く, この結果は, 米国における先行研究とも符合している。結果的に, 大学組織における中央集権的な所有権構造の有効性は否定されたといえる。
著者
新垣 理恵子
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

自己免疫疾患の多くは加齢に伴って発症し、特に閉経期以降の女性優位に発症することから、自己免疫疾患発症には性ホルモンの影響が多大であると考えられる。女性患者の割合が最も多いシェーグレン症候群(SS)モデルマウスの標的臓器(唾液腺)では卵巣摘出により、唾液腺上皮のアポトーシスおよびTh17細胞の増加が認められ、卵巣未摘出群に比較して病態が悪化していた。さらに免疫不全マウスを利用したリンパ球移入によるSS再構築においてもレシピエントの卵巣摘出がSS発症に重要であることを明らかにした。
著者
綾木 歳一
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

放射線DNA損傷の修復と突然変異生成の関係を明らかにするため,キイロショウジョウバエの複製後修復欠損株(meiー41^<D5>)に白眼座の2.9kbDNA片重複による象牙色眼色変異(W^i)の4重複変異株〔(W^i)_4〕を導入し,4重複したW^iのうちのどれか1つでの2.9kbDNA片の欠失によるW^i眼色から野生型赤色眼色への復帰突然変異を指標に,核分裂中性子およびγ線の遺伝子誘発作用をDNA修復能との関係で比較検討した。3令初期雄幼虫に広島大学原医研設置の ^<252>Cfおよび ^<60>Co線源からの放射線0〜1Gyを照射し,幼虫の眼成虫原基細胞におけるW^i遺伝子での2.9kbDNA片の欠失細胞のクロ-ンを成虫W^i眼中の赤色スポットとして検出した。使用したハエ株のDNA修復能,放射線の違いによらず得られた線量ー効果関係は直線的であった。単位線量(CGg)当り,個体当りのγ線誘発率は修復能正常株で5.7×10^<ー2>,欠損株で2.3×10^<ー2>, ^<252>Cf放射線中の中性子の混在比(67%)で補正した核分裂中性子の誘発率は同様に修復正常株6.1×10^<ー2>,欠損株3.1×10^<ー2>となり,両放射線で修復欠損株での誘発率は正常株のそれの約半分に低下した。検出した型の突然変異生成にはmeiー41に代表される複製後修復後が正常である事が重要である。またDNA修復正常株,複製後修復欠損meiー41^<D5>株共に中性子のγ線に対する相対的生物効果比(RBE値)はほゞ1と変らない事から,meiー41修復系依存性で2.9kbDNA欠失に結果するDNA損傷の量はLETに依存しない事を示している。高LET放射線は二重鎖切断を高密度かつ高頻度に誘発する事,二重鎖切断の修復がら染色体組換えが生ずる事はイ-ストで報告されている。今回検出した突然変異は二重鎖切断以外の損傷修復によると考えられる。今後さらに実験をくり返す事により今回の結果を確認すると共に,除去修復欠損株を含め種々のDNA修復欠損株を用いて研究を進めたい。
著者
河野 憲二
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

発生過程及び個体レベルでの研究が比較的容易なショウジョウバエを用いて、DNA修復に関与するショウジョウバエXPA遺伝子(Dxpa)の発現や産物の機能を明らかにした。まず発生の各段階で、DxpamRNAの発現をノザン解析で調べたところ、発現量に数倍の差はあるものの予想通りどの組織においても、またどの時期においても発現していた。成虫では頭部よりも胸腹部での発現が高かった。さらに各組織での蛋白の発現を詳細に調べる目的で、Dxpa遺伝子のプロモーター下流にレポーター遺伝子としてβ-Galをつなぎ、その発現を発生の各ステージで調べた。その結果、頭部では視細胞が強く染色され、筋細胞でも強く発現されたので、Dxpa蛋白は中枢神経系や筋肉で強く発現されていることが示唆された。このことを確認するために、抗Dxpa抗体を作成し成虫と胚とでのDxpa蛋白の発現を調べたところ、全組織で発現されているが特に中枢神経系と筋組織で発現が高いというβ-Galでの実験結果を裏付けるデータを得た。何故これらの組織での発現が高いのかは予測の域をでないが、中枢神経系では酸素ラジカルによるDNA傷害が起きそれらの修復のためにDxpa蛋白が必要とされるのではないだろうか。これとヒト色素性乾皮症A群の患者が示す神経性疾患症状との関連については、検討の価値がある。そのためには、Dxpaの欠損したハエ個体の作成が望まれる。またmei9という紫外線高感受性変異は、Dxpa遺伝子の変異ではないことがゲノムマッピングにより確認できた。
著者
牛島 佳代
出版者
福岡大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

個人化と少子化が急激に進んだ日韓両国において、育児環境と母親のメンタルヘルスについて調査研究を行った。対象としては、日本の福島県中通りの3歳児を持つ母親と韓国大邱市の保育園・幼稚園の園児の母親である。結果、日韓両国において、主な育児支援ネットワークは夫と母親の親であることがわかった。また、この育児支援ネットワークの数が母親のメンタルヘルスを向上させる重要な要因であることがわかった。
著者
池田 恭治 竹下 淳
出版者
独立行政法人国立長寿医療研究センター
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

骨の破壊は、引き続く骨の再生に必須の生理過程であり、造血細胞から分化して新たに形成される多核の破骨細胞が行う。一方で、病的な数や質の破骨細胞は、閉経後骨粗鬆症や関節リウマチの原因となる。本研究では、造血細胞から、骨を破壊し骨代謝サイクル開始のシグナルを送るという特殊な機能を担う破骨細胞へと分化する過程で起こるさまざまな代謝適応や細胞周期動態とその転写ネットワークを明らかにした。また、破骨細胞に分化する過程で分泌される因子を遺伝子発現解析と生化学的手法で同定し、骨の破壊から次の再生過程への転換のメカニズムの一端を明らかにした。
著者
今井 宏昌
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

最終年度である平成28年度は、成果の発表につとめると同時に、前年度に引き続き、ヨーロッパや日本国内の古書店、大学図書館のデータベースを利用し、研究テーマに関連する文献の調査・収集をおこなったほか、平成28年8月8日から9月1日にかけて、ドイツで文書館史料の調査・収集をおこなった。具体的な成果としては、まず博士論文を単著『暴力の経験史:第一次世界大戦後ドイツの義勇軍経1918~1923』(法律文化社、2016年)として出版したことが挙げられる。この出版により、ドイツ義勇軍の経験が戦間期のドイツ・ヨーロッパ史に与えたインパクトとともに、本研究が重視する「経験史[Erfahrungsgeschichte]」の分析視角をより広くの人びとに知らせることができた。また「経験史」に関してはさらに、T・キューネ/B・ツィーマン編『軍事史とは何か』(原書房、2017年)を共訳書として発表した。特筆すべき研究の進展としては、義勇軍経験をめぐる史料の「発掘」と収集が挙げられる。ザクセン州立ライプツィヒ文書館では、義勇軍出身のナチ党員であるH・O・ハウエンシュタインが1926 年11 月にヒトラー率いる党中央から離反する形で結成したドイツ独立国民社会党の機関誌『ドイチェ・フライハイト』の1927 年5 月22 日号を「発掘」し、組織の中で明確に義勇軍経験が意識されていた点が明らかとなった。さらにマールブルクのヘルダー研究所では、義勇軍雑誌『ライター・ゲン・オステン』の大部分を収集することに成功し、これによりバルト地域を中心とする義勇軍運動の記憶がナチズムに接収されていく過程を跡づけるための前提条件が整った。ただ、これらの史料「発掘」と収集により、論文執筆スケジュールに大幅な変更が生じ、結果として平成28 年度中に雑誌論文としての成果の発表には至らなかった。
著者
松本 賢一 諫早 勇一 山本 雅昭 高木 繁光
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

研究代表者を含め4人の共同研究者は、それぞれ1.ワイマール共和国時代のドストエフスキイ流行について、2.ベルリンにおける亡命ロシア人の活動と文学作品のかかわり、3.ワイマール時代のドイツにおけるユダヤ人問題について、4.映画製作の手法における独露の影響関係について、といったテーマを設定し、概ね次のような知見に達した。1.ワイマール時代のドストエフスキイ流行は、既にロシア第一次革命の直後に種子が蒔かれており、その仲立ちを務めたのがメレジュコフスキイとメラー-ファン-デン-ブルックであった。後者はドストエフスキイの過激な民族主義とナチズムをつなぐ役目を果たしてもいる。2.亡命ロシア人、ことにウラジーミル・ナボコフにとってベルリンは、サンクトペテルブルグを髣髴とさせる安住の地であったが、作品執筆に当たり、彼はロシア語版と英語版でベルリンを想起させる描写に相違を持たせ、作品に一層の普遍性を与えようとした。3.)ワイマール時代とは、ユダヤ人にとって「同化」を目指す変貌の極点であったが、同時に反ユダヤ主義とシオニズムが一層激しさを増した時代でもあった。そのような中に身をおいたユダヤ人が自らのアイデンティティーの基盤としたのが虚構の精神的共同体としてのJudentumであった。4.ワイマール期から第二次大戦に至る時期のドイツ映画に特徴的なディテールを分析していくとひとつの方向性を見出すことができる。それは、単に時代精神や社会的動向によってのみ説明される方向性ではなく、「バロック的アレゴリー劇」とでも名付け得る流れであり、その影響力は近年の映画製作にも及んでいる。
著者
鈴木 健夫
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

18世紀末以降にロシアに大量に移住したドイツ人移民(ロシアドイツ人。19世紀末に約180万人)は帝政末期のロシア化政策、第一次世界大戦、社会主義革命、内戦、飢饉のなかで多くの人びとがドイツや南北アメリカに移住したが、スターリン時代の1920年代末にもかなりの数が国外に、そして不法に国境を越えてハルビンにも逃げた。本研究はそうしたハルビンのロシアドイツ人難民の生活とパラグアイとブラジルへの再移住の実態を解明し、民族的なマイノリティの社会経済的諸問題を考察する。平成28年度には主としてメンノ派のハルビンからのパラグアイ移住(1932年と1934年)の経過(フランス経由、人数等)と移住直後の彼らの社会経済生活を解明したが、平成29年度にはフランスに出張し、メンノ派とルター派が1932年と1934年にハルビンからパラグアイ、ブラジルに向かった、その経由地のマルセイユ(両派到着)、ルアーヴル(メンノ派出港)、ボルドー(両派出港)における当時の地方新聞の記事を古文書館で検索し閲覧し、彼らがハルビンから何年何月何日にどのようにしてマルセイユに到着し、そしてルアーヴル、ボルドーから何年何月何日にどのようにしてパラグアイ、ブラジルに向かったかについて明らかにした。この調査結果を踏まえて平成30年1月7日に報告「ハルビン難民の南米移住 1932、34年――マルセイユ到着、ルアーヴル、ボルドーから出港」を西洋経済史研究会(早稲田大学)で行った。なお、ハルビン在住時のロシアドイツ人難民の生活については、前年度と同様、すでに収集してある史料を分析した。また、ハルビンのロシアドイツ人難民の10年前の歴史について論文「マフノ軍・赤軍に立ち向かうドイツ人移民」を作成、雑誌『セーヴェル』34号(平成30年5月刊行)に発表した
著者
小澤 寛樹 中根 秀之 黒滝 直弘 木下 裕久
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ICD-10によってうつ病(と診断された長崎大学医学部・歯学部付属病院精神神経科を受診した50歳以上の患者のうち薬物抵抗性または薬物治療不耐性と判断する外来・入院症例を対象した。心疾疾患の既往またその他の重症な身体疾患がなく、頭部MRIを施行し、T2, T1画像にて確認される微小梗塞が存在するうつ病症例において書面にて同意を得た症例に対して脳梗塞の臨床適応が認められているcAMP増強薬(シロスタゾール)を使用した。シロスタゾールを脳梗塞後うつ病患者10名に関して50-200mg投与し、0、4、8, 12週時のHAMD、血清BDNFを測定した。HAMDは経時的に減少を示し、血中BDNFは経時的に増加を示した。一方統合失調症においては変化が認められなかった。基礎的検討としての神経幹細胞に対するリチウムとドーパミン作動薬でありメチルフェニデートの影響を検討した。リチウムは幼弱な神経細胞のマーカーであるTuj1陽性細胞数は、どの濃度でもコントロール群に比べ減少が認められ、1000μMではコントロール群に対して統計学的に有意に減少がみられた。メチルフェニデートは治療濃度においでは神経細胞の分化は促進し、高濃度では抑制を示した。一方グリアのマーカーであるGFAP陽性細胞に関しては、500μMまでは増加傾向を示したが、1000μMでは統計学的な有意差を持って減少が認められた。メチルフェニデートはグリアへの分化には影響は少なかった、また増殖能に関しては抑制的である。これまで我々は炭酸リチウムが濃度依存的に神経幹細胞の増殖能を促進することを報告しているが、このことは増殖の過程と分化は単純に同一というよりむしろ拮抗的なバランスが存在している可能性が示唆され、うつ病や統合失調症の難治化・慢性化にはグリア細胞の役割が重要であることが推察された。
著者
玉置 幸雄
出版者
福岡歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、自己組織化マップ(SOM)を用い、単一のノルムに依存しない新しい矯正診断システムの構築を目的とした。方法として、矯正治療後の成人女性109名を対象に、側面セファログラムを資料とし、硬組織19個の計測点の座標値から入力データを作成し、4×4個の計算ユニットを持つSOMで反復学習を行った。1万回の学習後に各ユニットの情報を視覚化したところ、下顎の前後・垂直的位置、上下顎切歯の前後的位置に違いがみられ、特徴の異なる16パターンが視覚化された。これらの硬組織側貌のバーチャルパターンをもとに、初診時の分類を行えることが示唆された。
著者
日暮 吉延
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、日本人戦犯釈放をめぐる戦後日本外交の政策と対応を一次資料にもとづいて分析するものである。研究代表者は、これまで戦犯釈放問題に関して、対日講和条約発効(日本の主権回復)の前と後に分けたうえで「連合国側の行動」を分析した。これに対して、本研究が取り組んだのは、1950 年代の日本外交が戦犯釈放問題でどのような行動をとったのか、この問題に関する事実を解明することである。そして、この「日本側の行動」は上記の「連合国側の行動」と統合され、研究代表者の「日本人戦犯釈放史」が完成することとなる。
著者
荒木 茂 山越 言 王 柳蘭 原 正一郎 村上 勇介 柳澤 雅之 北村 由美 舟川 晋也 水野 啓 梅川 通久 竹川 大介 有川 正俊 池谷 和信 竹川 大介
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

諸科学が提示するグローバルな認識、イメジと、地域研究で集積されるミクロな情報とのギャップを埋め、両者を統一的に理解してく道筋の一つとして、可変的なスケールをもつ『仮想地球空間』を想定し、地域情報をインタラクティブに集積していくツールの開発と、データ集積を行なった。地域研究が提示する地域のメッセージを、地点情報、主題図の形で地球上に貼り付けていくことによって、地球を多様な世界観からなる地域のモザイクとして描き出し、グローバルな認識と接合させる道が開かれた。
著者
浜野 志保
出版者
千葉工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、十九世紀後半から二十世紀初頭にかけて大量に撮影されたパラノーマル写真(心霊写真、念写など)の事例研究である。パラノーマル写真に関する一次資料をイギリスおよびドイツでの調査によって収集した後、視覚文化史および疑似科学史と照らし合わせ、網羅的かつ体系的なパラノーマル写真の発展史の構築を試みた。以上の成果については、『パラノーマル写真史(仮題)』として25年度内に青弓社より刊行予定である。
著者
福島 真司 鈴木 達哉
出版者
大正大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、EMやIRの先進事例を持つ大学等を調査することによって、IRが意思決定上どのようにEMを支援するのかを明らかにするものである(目的①)。関連して、日本でも導入された個人識別番号を、教育の成果のアカウンタビリティーに利活用する在り方を研究し、今後の日本での仕組み作りに基礎的な知見を与えることを目的としている(目的②)。目的①については米国等を中心に調査を行った。2018年度からの第3期大学機関別認証評価の重要指標である「内部質保証」「学習成果の可視化」についても調査を実施した。米国大学のIR部署はアカウンタビリティー対応に大きな時間を割いている状況にあり、求められるデータは「卒業率」「専門性を活かした就職」「年収」等であり、費用対効果を示すことを強く求められる。政策上では、「モビリティー」(社会階層の移動)、すなわち、「first-generation」が親の世代の社会階層から上位に移動できたかどうかが、最も重要なテーマである。「学習成果の可視化」については、Association of American Colleges & UniversitiesなどがVALUE Rubrics 等で分野横断的な汎用能力を測定する試みを始めているが、まだ、政策に影響を与えるまでの状況には至っていない。いずれにしても、米国ではデータ分析を重視しており、加えて、ベンチマーク・データやパブリック・データが日本より充実している。目的②については、諸国の個人IDの制度とそのIRへの利活用の概況を調査した。今年度は、米国の他、個人ID案がプライバシー保護を重視して廃案になった豪州で、個人IDを用いた大学アカウンタビリティーへの所感について調査した。予想通りネガティブな反応が多い一方で、大学教育の成果を卒業後の年収で測ることにはポジティブな意見が聞かれ、極めて興味深かった。