著者
石川 悠加
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.43-45, 2019

Ⅰ.はじめに近年の重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の呼吸ケアの最適化のコクラン・レビュー1)に「英国では、経済的および政治的な流れとして、重症児(者)が急性期病棟を退院し、地域でケアすることを進めている。先を見越した呼吸ケア、専門機関へのアクセスの改善、習熟したスタッフにより、適切に退院し、再入院を防ぐことができる。脆弱な重症児(者)が、公正なケアを受け、それが安全で効果的で、子どもと家族のQOLを高めるためには、エビデンスに基づいたアプローチが求められる。ケアが大変な家族に、これ以上効果が確認されていない呼吸ケアや専門的でない呼吸ケアで負担を増やしてはならない」と記載されている。小児の呼吸の研究は 膵嚢胞線維症、脊髄性筋萎縮症、デュシェンヌ型筋ジストロフィーなど神経筋疾患が多く、重症心身障害児(者)の研究は少ない。このため、神経筋疾患のガイドラインやエキスパートの意見である「筋力低下の小児の呼吸ケアガイドライン」2)、「神経筋疾患の気道クリアランスに関する国際会議」3)4)を参考にして行うことが勧められる。Ⅱ.対象・方法当院に長期入院の重症児(者)106例の人工呼吸管理方法を調べる。Ⅲ.結果人工呼吸管理は、終日の気管切開人工呼吸3例、非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation=NPPV)15例(このうち終日5例、睡眠時10例)であった。鼻マスクが2例、他は口鼻マスクを使用していた。気管切開チューブ留置例は2例であった。気管切開は、当院で30年前に実施した1例以外は、NICUからの転院例、脳外科術およびイレウス術後例であった。NPPVは、気管挿管の抜管困難、睡眠呼吸障害、急性呼吸不全をきっかけに導入している。終日NPPVの1例では、経鼻エアウェイの中に細い管を留置して咽頭喉頭周囲の唾液の持続吸引を行っている。終日NPPV使用者のうち、入浴時に酸素付加の手動換気は2例、鼻カニュラによる酸素投与は3例、顔色不良やSpO2低下時は手動換気補助を適宜行うのは5例であった。機械による咳介助(mechanical insufflation-exsufflation-MI-E)の定期的使用は、気管切開人工呼吸使用者で2例、気管切開チューブ留置使用者で1例であった。Ⅳ.考察NPPVの限界は、咽頭や喉頭の機能の低下や上気道の痙性により、咳介助によっても十分な咳が維持できない場合、NPPVを使用してもSpO2が95%を保てない場合であった。小児の長期NPPVは、熟練した専門多機能のセンターで導入・再調整が必要であると報告されている5)。最近、NPPVが睡眠呼吸障害を誘発することもあり6)、睡眠時にSpO2と経皮炭酸ガス分圧を測定して条件調整することが必要であった。小児の在宅人工呼吸のガイドラインが、カナダで2017年に公表されている7)。米国の「小児の長期在宅気管切開人工呼吸ガイドライン」8)には、退院クライテリアが示されたが、本邦ではそれを満たす家族は限られると推察される。本邦には、成人にも小児にも在宅人工呼吸のガイドラインはないが、「小児の在宅人工呼吸マニュアル」(日本呼吸療法医学会)が2017年に公表された。これは、ガイドラインの作成には、エビデンスの高い報告や自国の報告に基づいて委員会の意見を総合する必要があるが、現時点では困難と考え、マニュアルにした経緯がある、本邦の長期人工呼吸管理は在宅だけでなく、病院や施設に多く、複雑な様相を呈している。このような事情をふまえ、ドイツの「慢性呼吸不全に対するNPPVと気管切開人工呼吸のガイドライン」の小児の項目から、重症児(者)の長期呼吸管理において共有したい部分を以下に抜粋する9)10)。「長期の換気不全を認める小児の疾患は複雑で多様な障害を持つ。しかし、疾患にかかわらず、人工呼吸は呼吸機能障害を正常化し、血液ガスを適正化し、睡眠を改善し、病理を軽減する。それにより、入院期間あるいは呼吸不全による体調不良期間を短縮し、死亡を減らし、QOLを促進する。小児における慢性呼吸不全の診断は、肺活量や咳の評価などは正確にできないため、血液ガス(非侵襲的に経皮的な酸素飽和度や炭酸ガス分圧測定も含め)を測定する。ただし、呼吸の残存機能を測定できないため、ストレスがかかる状態(発熱、上気道炎、手術)で、代償機能が急速に破たんし、人工呼吸を要したり、条件調整を要することがある。小児の長期人工呼吸は、成人と異なり、専門的な多科多職種が関わるセンターで行う。小児におけるNPPVや機械による咳介助への協調性の欠如は、経験あるセンターでは問題にならない。適応が的確で、好みに合わせて調整することにより、大半の子どもは治療の効果を得て耐容し、要求もする。子ども自身で訴えが改善することに気づくと、さらに受け入れが改善する。ただし、小児のNPPVの人工呼吸器の選択において知っておくことは、①筋力低下のある子どもではトリガー困難、②一回換気量が少なく、呼吸数や呼吸の深さが不規則、③覚醒時に睡眠時より高い換気補助を要する場合もあること、④睡眠のステージ、発熱、感染により換気補助の必要度変化、などである。また、NPPV使用者が成人へ移行する場合、境目なく専門性の高い熟練のすべてが引き継がれるようにする。小児において、気管切開は発達の重大な障害となる。発語や嚥下の障害となり、緊密な観察やサポートを要する。日常の活動(水泳など)は非常に限られた環境でのみ可能で、幼稚園や学校に、質が保障された看護師の付き添いを常に要する。気管切開は、子どものボディー・イメージに明らかに影響し、周囲の関係者にかなりの負担となる。さらに、成人よりチューブ関連の緊急事態(チューブ閉塞、事故抜去、チューブから誤嚥や気管内異物)が頻回に起こる。このため、気管切開は、限られたものにすべきである。成人と同じく、気管切開は、あらゆるNPPVの選択肢を使い尽くした後にする。気管切開の決定プロセスは、子ども、両親、セラピストの個人的考え、倫理、宗教的信念により形成される。進行性の基礎疾患や、発達の予後の見通しが好ましくない場合葛藤に発展する。医師にとって、苦痛を軽くするのでなく長引かせるかもしれないというジレンマが生じる。両親にとって、気管切開をしないと子どもの命に危険が差し迫っている場合、気管切開をしない選択は困難になる。そこで、臨床倫理委員会や緩和ケアチームの組み入れが、この手ごわく悩ましい決定プロセスの助けになる」。ドイツには、在宅人工呼吸センター(ICUやウィーニング専門部門も含む)の認定制度がある。さらに、気管切開人工呼吸専門部門とNPPV専門部門を備えた新たな在宅人工呼吸センターの認定制度が提案されている。重症児(者)の擁護と家族や関係者のQOLに最も影響する専門呼吸ケアは、欧米先進国において経験と研究が蓄積されつつあることを認識し、真摯に取り組む必要がある。
著者
鈴木 徳行
出版者
The Sedimentological Society of Japan
雑誌
堆積学研究 (ISSN:1342310X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.44, pp.75-78, 1997-01-20 (Released:2010-05-27)
参考文献数
9
著者
古谷 健司 小池 正雄
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.43-54, 2012

本稿は戦後復興期以降の白樺湖周辺における観光開発の展開に考察を加え,在来住民と移住者による観光開発が地域にいかなる影響を与えたのかを明らかにすることを目的としている。白樺湖周辺の観光開発の展開過程を,戦後復興期,高度経済成長期,成熟期,現代の4段階に分けて検討した。その結果,(1)柏原区民の内発的発展を目指す姿勢と共同体としての開発の限界,(2)柏原区民による財政強化と柏原区民への分配機構の整備,(3)開発主体不在の中での乱開発による白樺湖の環境悪化,(4)成熟期より拡がりつつあった在来住民と移住者の軋轢,が明らかとなった。とくに白樺湖周辺における地域社会での連帯と協調性の欠如を生み出した財産区という村落共同体の存在が大きい。
著者
高見沢 実
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.157-162, 1991-10-25 (Released:2020-05-01)
参考文献数
3
被引用文献数
2

IN RECENT YEARS, DECREASING OF RESIDENTIAL USE HAS BEEN MORE AND MORE SERIOUS AT THE CITY CENTER IN TOKYO. BUT THERE ARE FEW STUDY ABOUT THE ENTIRE CONDITION OF RESIDENTIAL USE OF DISTRICT-WIDE SCALE, AND THERE ARE FEW HISTORICAL EVALUATION ON THIS PROBLEM. SO, IN THIS ARTICLE, I WILL MAKE CLEAR HISTORICAL CHANGE OF THIS PROBLEMS IN THE SHORT AND MIDDLE TERM. AFTER THAT, ENTIRE CONDITION OF RESIDENTIAL USE IN AKASAKA-ROPPONGI DISTRICT WILL BE ANALYSED. AS A CONCLUSION, PLANNING METHOD TO HARMONIZE BIG PROJECTS AND CONSERVATION OF RESIDENTIAL USE AROUND THE AREA WILL BE PROPOSED.
著者
永澤 正哉 渡邊 徹
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.133-138, 1991-10-25 (Released:2020-05-01)
参考文献数
11

RECENTLY, THE THIRD-SECTOR ORGANIZATIONS PLAY AN IMPORTANT ROLE IN DEVELOPMENT OF THE THREE PROJECTS, NAMELY, (MAKUHARI-SHINTOSHIN, MINATO-MIRAI 21, TOKYO-RINKAI-FUKUTOSIN), IN THE TOKYO BAY AREA.THE PURPOSE OF THIS PAPER IS TO ANALYZE THE DIFFERENT CHARACTER OFTHE THRID-SECTOR ORGANIZATIONS IN THE ABOVE AREAS AND ALSO TO EXPLAIN THE DIFFERENCE IN TERMS OF HISTORICAL, SOCIAL AND GEOGRAPHICAL BACKGROUNDS. THE FINDINGS INCLUDE THE CHARACTER OF ROCAL GOVERNMENTS AND THE CHARACTER OF DEVELOPMENT PROJECTS.
著者
前田 喜四雄
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.9-33, 1984

<I>M.australis, M.paululus</I>および<I>M.solomonensis</I>の3種における外部および頭骨計則値とそれらの相対比の若干について地理的変異を調べた。<I>M.australis</I>と<I>M.paululus</I>における下腿長および下腿長と前腕長との比, <I>australis</I>における頭骨の長さに関する計測値および脳函幅では雄が雌より大であった。一方, <I>M.australis</I>の頭骨全長に対する前腕長の比および頭骨基底全長に対する臼歯間幅の比では雌が雄より大きかった。<I>M.australis</I>の全形質と, 頭骨全長に対する乳様突起間幅の比を除いた<I>M.paululus</I>の全形質では, 地理的変異が明らかであった。<I>M.solomonensis</I>は他2種のいかなる個体群よりも大半の形質で有意に異った.<I>M.paululus</I>は頭骨と歯列の長さにおいて, 他2種のいかなる個体群よりも有意に小さかった。
著者
森永 徹 松田 和久 柴田 勝 池田 英夫
出版者
日本医療機器学会
雑誌
医科器械学 (ISSN:0385440X)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, 2003-04-01

〔目的〕今日,各種のチャンネルを有する内視鏡の洗浄に,酵素系の洗浄剤が多く用いられている.今回,高活性酵素配合,高濃縮タイプの浸漬用新型洗浄剤(バイオテクト55【○!R】)を使用する機会を得たため,その内視鏡チャンネル内の洗浄効果をチューブを代用して検討した.なお,本洗浄剤は界面活性剤(無リン)と蛋白分解酵素を主成分とし,使用濃度は0.25〜0.5%であり,濃度0.5%でpH9.5の弱アルカリ性である.また,室温で長期保存が可能という特徴も兼ね備えている.〔方法〕全長150cm,内径4mmのチューブ内をすりつぶしたレバーで汚染させた後に,注射器にて内部に温水希釈洗浄液注入→洗浄液浸漬(30分)→洗浄液注入→水道水によるすすぎを行い,先端から10,30,50,70,90,110,130cmの部位で切断し,チューブ内を綿棒で拭い取り,ATP(アデノシン三リン酸)を汚染の指標として,ルシフェラーゼによる生物学的発光量を測定した.対照として,温水で同様に実施した.ATP測定には,測定器は「ルミテスター【○!R】」,試薬は「ルシフェール【○!R】」(ともにキッコーマン(株)製)を使用した.〔結果〕それぞれ3回ずつ検討したが,その平均値は"方法"で示した部位の順に,温水のみが2,142, 2,552, 2,626, 2,911, 2,850, 4,015, 2,615であり,洗浄剤使用の場合が839, 502, 499, 474, 103, 182, 243であった(単位はRLU).〔考察〕内視鏡のチューブ内は,最も洗浄が困難なところであるが,本剤は良好な結果を示した.また,高濃縮、室温で長期保存が可能などの点と考え合わせると,有効な洗浄剤と考えられた.
著者
駒村 公美 吉川 邦彦 東 禹彦
出版者
日本皮膚科学会大阪地方会
雑誌
皮膚 (ISSN:00181390)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.101-104, 1997

敏感肌用化粧品として開発された化粧品について, 接触皮膚炎患者58例 (内アトピー性皮膚炎を合併した患者12例), アトピー性皮膚炎患者15例 (内接触皮膚炎を合併した患者12例) の計61例を対象として, 2施設でパッチテストを施行した。使用した試料は, 美白美容液 (ホワイトニングエッセンス), 保湿美容液 (モイスチュアコンセントレイト), 保湿パック (モイスチュアパック) の計3種で, すべてasisで, 対照として白色ワセリンおよび蒸留水を用いた。皮膚刺激指数は, 2.5から4.1であった。疾患別では, 接触皮膚炎群の, 保湿美容液の皮膚刺激指数4.3が最も高かった。