著者
後藤 丹十郎 高谷 憲之 吉岡 直子 吉田 裕一 景山 詳弘 小西 国義
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.760-766, 2001-11-15
参考文献数
19
被引用文献数
5 5

根域制限によって生じるキクの生育抑制が, 養水分ストレスの軽減によってどの程度まで解消できるかを明らかにするため, 連続給液式の水耕法と1日の給液頻度を異にした点滴灌水式の培地耕を用いて根域制限と養水分ストレスに対する品種'ピンキー'の反応を調査した.連続給液水耕では, 茎長, 節数は定植25日後においても根域容量(10∿1000ml)による差が生じなかったが, 葉面積, 地上部・地下部乾物重は根域容量が小さいほど抑制された.最も抑制程度が大きかった葉面積には定植10日後から影響が認められ, 定植25日後には根域容量10mlで根域容量1000mlの約70%となった.S/R比は根域容量の減少に伴って大きくなったが, その差は比較的小さかった.点滴給液した培地耕において, 根域容量30mlで給液頻度が少ない場合には, 定植14日後から茎長に差が認められたが, 8回では28日後においてもほとんど差が認められなかった.根域容量が小さいほど定植35日後の地上部の生育は劣ったが, 根域容量30および100mlでは給液頻度が8回以上の場合, 1および3回と比較して抑制程度はかなり小さくなった.地下部乾物重は給液頻度に関わらず根域容量が大きくなるほど重くなった.S/R比は給液頻度1回および3回では根域容量による影響がみられずほぼ一定であったが, 8回および13回では根域容量が小さくなるほど大きくなった.以上のように, 養水分を十分に与えることによってキクの生育抑制を軽減することができたことから, 根域制限による植物体の生育抑制の最大の要因は, 養水分ストレス, 特に水ストレスであると推察された.100ml以下の根域容量で栽培されるキクのセル苗や鉢育苗においては, 養水分供給頻度を高めることによって, 養水分ストレスが回避され, 生長が促進されると考えられる.
著者
金子 秋斗
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.46, pp.91-107, 2018-03-01

本稿では、院政期・鎌倉初期の摂関である九条兼実と、その弟である慈円に共通して見られる院近臣批判について、特に兼実による近臣批判の変容と、それが慈円の『愚管抄』の政治理念へと展開していく事実に着目し、当該期の摂関家の現状との関連で如何なるものとして位置づけられるかを検討する。兼実の立場の変化に伴う院近臣批判の変容は、批判が単なる不満から、内乱期以降、近臣の言動を天下の乱れの原因として認識する姿勢となって表れるようになる。この認識は兼実の実践と失脚を経て弟である慈円の『愚管抄』において、世を直すための重要な政治理念として表れることとなる。九条家を取り巻く社会的・政治的現実が変化しているにも関わらず、慈円が兼実と同様に近臣を敵視し、乱れた世を直すための重要な鍵とみなしたことは、兼実亡き後、九条家の補佐の臣としての正統性の面で近臣の存在が重大な問題であると認識されていたことを意味する。九条兼実『玉葉』慈円『愚管抄』院近臣
著者
吉崎 弘一 堀田 博史
雑誌
第79回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, no.1, pp.481-482, 2017-03-16

本研究では、著者らが開発してきた学習支援システムLePoを、オープンソースソフトウェアとして公開したので、その取り組みについて述べる。同学習支援システムの機能面の特徴として、テキストアノテーション、コンテンツキュレーション、及びプッシュ通知について説明する。また、開発面での特徴としては、利用しているライブラリや開発時のポリシー等を含め、システム開発の現状と利用する際の注意点等について述べる。
著者
神石郡油木町有志
出版者
コロムビア(NHK)
巻号頁・発行日
1950-08
著者
相原 建人 樋口 晃一 髙橋 淳平
出版者
公益社団法人 自動車技術会
雑誌
自動車技術会論文集 (ISSN:02878321)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.207-212, 2022 (Released:2022-02-11)
参考文献数
6

遠心振り子式動吸振器の性能向上を目的としてこれまでに単体での発生トルクに着目し,理論解析を行ってきた.本研究では実車両における振動低減性能を明らかにするためトランジェントダイナモ試験による性能評価を行った.また試験機に対応した多自由度の理論解析モデルを構築し,実験と比較することでその妥当性を示した.
著者
片寄 晴弘 平田 圭二 宮田 一乗 原田 利宣 西田 豊明 諏訪 正樹 安部 明典 Haruhiro Katayose Keiji Hirata Kazunori Miyata Toshinobu Harada Toyoaki Nishida Masaki Suwa Akinori Abe
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会誌 = Journal of Japanese Society for Artificial Intelligence (ISSN:09128085)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.434-444, 2009-05-01
参考文献数
4

非言語メディアは本質的に曖昧かつ主観的な記述でしか表現できないという性質がある.これまで,音楽,絵画,造形,モーションといった非言語メディアのデザイン支援の研究は,人工知能とあまり関連づけることなく,また互いにも関連づけることなく進展してきた.しかし,非言語メディアのデザイン支援の研究事例を俯瞰してみると,意外にも共通点が多いことに気づく.例えば,デザイン対象である非言語メディアの表現・記述の階層構造,すでに存在するコンテンツをいずれかのレベルで再利用して新しいコンテンツを生成する方法論,デザインプロセスにおける創造性支援などが共通点としてあげられる.本近未来チャレンジテーマ「事例に基づくデザイン支援と評価基盤の構築」は,「事例」の再利用・転写に焦点を当てて,非言語メディアのデザイン支援評価基盤に取り組むものとして,2002年に提案,採択された.2003年から,5年間のセッションの実施,サバイバルを果たし,今回,卒業となった.この間,「事例」の再利用・転写の技術,アプリケーションに関するテーマを中心に,メディア記述の定式化,「事例」参照デザインの社会インフラストラクチャ構成,評価手法を扱った38件の研究発表がなされ,2006年には,本チャレンジの提案者の一人平田圭二(NTT)の発表が本学会の全国大会優秀賞に選ばれた.本チャレンジ「事例に基づくデザイン支援と評価基盤の構築」が無事卒業となったことで,記念行事を執り行おうというお話がもち上がり,2008年10月4日に2名のゲストディスヵッサント西田豊明氏(京都大学),諏訪正樹氏(慶應義塾大学)をお迎えして,関西学院大学梅田キャンパスで座談会を執り行うこととなった.本稿では,その模様について報告する.
著者
木内 望 中野 卓 藤木 亮介 山木 慎介
出版者
一般社団法人 日本建築学会
雑誌
日本建築学会技術報告集 (ISSN:13419463)
巻号頁・発行日
vol.28, no.68, pp.442-447, 2022-02-20 (Released:2022-02-20)
参考文献数
4
被引用文献数
1

Recent flood damages in urban areas have increased the need for urban planning and building measures to respond to inundation risks. In this article, in order to obtain suggestions for building and land use management based on inundation risks, floodproof retrofitting plans are examined for two types of existing condominium models in an urban area. Then, the floodproof retrofitting work costs, and the amount of damage reduction due to floodproofing are estimated. Finally, the applicabilities of such floodproofing measures are examined by analyzing the cost-effectiveness of plans under various conditions of inundation probability.
著者
栗原 慎二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.243-253, 2006

本研究は, 摂食障害で不登校に陥った女子高校生に対して教員が支援チームを作って関わり, 無事卒業していった事例を通じて, 学校教育相談における教員によるカウンセリングやチーム支援のあり方について検討することを目的とした。本事例の検討を通じてチーム支援の有効性が確認されるとともに, 以下の点が示唆された。(1) 学校や教員の特性を生かしたチーム支援の有効性と可能性,(2) 学校カウンセリング独自の目標設定と方法選択の重要性,(3) コアチームのメンバー構成の重要性,(4) 学校における秘密保持のガイドライン作成の必要性。
著者
ルルー[作曲]
出版者
コロムビア(戦前)
巻号頁・発行日
1942-07

1 0 0 0 OA 南方録

著者
福崎 春子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
家政学雑誌 (ISSN:04499069)
巻号頁・発行日
vol.36, no.10, pp.770-778, 1985-10-20 (Released:2010-03-10)
参考文献数
75

In Part 1, by studying the tea-ceremony classics Nanboroku, Sennorikyu's opinion concerning meals served in the tea-ceremony was interpreted and the origin of the meals was clarified.Study was continued to make clear details of the served foods referring to the documents of teaceremony classics, cooking books, dictionaries which were published between the latter half of the 16th century and the first half of the 17th century and some cooking books in the 18th century.This report contains the study of the soups in the tea-ceremony meals which are difficult to understand with the present knowledge and disappeared in the present-day cooking. The soups were classified in two groups, i.e., the one was a side food taken with boiled rice and the other a relish taken with Sake (Japanese wine). Bean paste was usually used for seasoning of the soups and clear soup was prepared by suitably treating bean paste as soy sauce was not popular.In addition, cooking techniques of vegetables, birds, shellfish and so forth being used in the soups were examined.
著者
多蛾谷 素一[作詞]
出版者
ヒコーキ
巻号頁・発行日
0000
著者
Li Xi Xia Jinfeng Li Xin Shen Yibo Hu Tianxi Ye Danwang Jiang Danyu Li Qiang
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
Chemistry Letters (ISSN:03667022)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.797-799, 2018
被引用文献数
2

<p>The stickiness of acacia gum was used to assist in the ball milling of graphite in aqueous media. Graphite is successfully exfoliated through a "sticky tape" mechanism, to give a 2.06 mg mL<sup>−1</sup> aqueous dispersion of graphene. PEG<sub>6000</sub> doped with 0.4 wt% of as-prepared graphene nanosheets (GN) exhibited obviously growing enthalpies and increasing thermal conductivity by 260% over pure PEG<sub>6000</sub>.</p>
著者
本間 恵美 平光 美津子 尾木 千恵美 粥川 晶子 鷲見 孝子 遠藤 仁子 中村 年子
出版者
東海学院大学・東海女子短期大学
雑誌
東海女子短期大学紀要 (ISSN:02863170)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.39-48, 1993-04

(1) 調理担当者が市販そうざい・調理済み食品を利用する時に,調理を手抜きしたようなうしろめたさを感じる割合は,「感じることもある」が最も高く,半数を占めた。 利用方法を「加熱のみ」と「ひと手間加える」別にみた「うしろめたさを感じる」割合は,調理済み食品の「加熱のみ」85.5%が,他よりも高く,うしろめたさを「全く感じない」は,調理済み食品の「ひと手間加える」がわずかに高かった。 (2) うしろめたさと利用する理由は,「いつも感じている」「感じることもある」「全く感じない」のいずれも,「作る時間的ゆとりなし」が最も多く,「感じることもある」では「調理することがめんどう」も理由にあがり,「全く感じない」者は,「作るより経済的」「家族が好む」をもあげていた。 (3) うしろめたさを感じる割合の高い食品は,コロッケ,フライ,肉の空揚げなどおかずになるような食品で,低い食品は,寿司,赤飯,中華まん類,ピザパイなどの軽食になる食品が多かった。 うしろめたさと購入は,購入の多いことが,うしろめたさを感じないものであるとは一概には言えなかった。 (4) 市販食品の利用を好まない家族は,全体の1/3を上回り,「ほとんど利用しない」家庭に多かった。年代別にみると,50歳代は市販食品を好まない割合が他よりも高く,若い年齢の者ほど好まない割合が低かった。 家族が嫌う食品は,コロッケ,煮物,茶碗蒸しが少々目だつ程度で,全体的には低い値であった。 (5) 現在の利用に対する意識は「利用してないほうだと思う」が55.6%を占め,「ふつうだと思う」を上回った。 利用頻度の実態と現在の意識は,利用頻度の高い者ほど「利用しているほうだと思う」割合が高かった。(6) 今後の利用に対する意識は,「もっと利用したい」「今後は利用したい」がひとりもなく,「できるなら減らしたい」「できるだけ減らしたい」が合わせて約60%あった。 (7) 現在の利用頻度別今後の意識は,「週に3〜4回以上」利用している者の「今後も利用したい」割合は,市販そうざいで100%,調理済み食品で71.4%と,利用頻度の高い者に,利用に対しての積極性がみられた。 (8) 「今後は現在くらい利用したい」者の今後利用したい食品の順位は,市販そうざいではうなぎのかば焼き,中華まん類,シューマイ,ギョーザなど,調理済み食品ではラーメン,ピザパイ,中華まん類,シューマイなどとなった。 (9) 調理素材の利用状況は,コーン78.4%,魚類缶詰76.4%が最も多く,インスタント調味料ではカレールー91.0%,焼肉のたれ68.1%が多かった。調理素材の利用率は91.7%を占め,利用する理由は,「季節に関係なく使える」「下ごしらえの時間的ゆとりなし」が多かった。 (10) 今後は,市販食品の利用が伸び,市場には健康志向,高級志向,高齢化に対応し,選択性に富んだ多品種の商品が出まわると思われる。 しかし,手作りに対する魅力も根強いものがあり,手作りと簡便性の両方が満たされるインスタント調味料,調理素材の利用が増えるものと推測される。
著者
山本 哲矢 岩田 綾子 河内 涼子 湯田 泰明 鈴木 秀俊
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 B (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.J104-B, no.10, pp.792-805, 2021-10-01

国際標準化団体である3rd Generation Partnership Project (3GPP)では,第5世代移動通信システム(5G: 5th Generation mobile communication systems)の無線インタフェースの一つであるNew Radio (NR)の規格標準化が進められている.NRでは,モバイルブロードバンドの高度化(eMBB: enhanced Mobile Broadband)だけでなく,超高信頼・低遅延通信(URLLC: Ultra Reliable and Low Latency Communication)もサポートする.URLLCの基本機能は,Release 15において仕様化され,Release 16では,URLLCの適用範囲拡大のための仕様化が進められた.本論文では,URLLC実現のための基盤となる技術に焦点を当て,3GPP Release 15及びRelease 16において規格化されたNRの主要無線アクセス技術について解説するとともに,それら技術の適用効果を無線区間遅延評価により明らかにする.また,Release 17において検討されている技術課題についても紹介する.
著者
仲野 裕美 大鹿 淳子
出版者
夙川学院短期大学
雑誌
夙川学院短期大学研究紀要 (ISSN:02853744)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.79-95, 1993-03-15

最近のわが国における食生活はライフスタイルの変化や価値観の多様化などを背景に、外食及び調理食品への依存度が大幅に増加してきている。このような時代における女子短大の調理実習のあり方の方針を得ようと、本学生の毎日の食事の手づくりの実態を調査した。その結果、(1)手づくり度90%以上の食品はゆでほうれん草、白飯、おでん、鍋物、カレーライス、サラダ類、てんぷら、ハンバーグ、焼物で、日常の主要料理であった。(2)手づくりされなくなった食品はマヨネーズソース、オレンジジュース、アイスクリーム、焼肉のたれ、水羊かん、パン、春巻やぎょうざの皮、ポン酢、塩昆布、福神漬等であった。(3)テイクアウト食品や外食を利用する理由は、現代の食生活の利便性、簡便性志向が顕著にあらわれていた。(4)日常の主要料理はよく手づくりされていたが、汁物、ソース類、お茶類等の料理のベースの手づくり度は低く、調理実習内容は従来なされてきた以上に、調理の基本技術や方法の習得、本物の味を知ることに力を注ぐ必要がある。(5)個性的なライフスタイルにあわせ、臨機応変に加工食品や調理機器をとり入れ、使いこなせる能力も養わねばならない。
著者
佐藤 俊一
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

1. 背景と目的 伊豆諸島は、海洋性火山島であることから、本来、すべて玄武岩質火山島列となるはずと思われがちであるが、意外にも、新島、式根島、神津島は流紋岩質火山島列を成している。そして、その東側に、大島、利島、三宅島、御蔵島、八丈島などの玄武岩質火山島列が横たわるという一見奇妙な2列の配列構成になっている。何故、結晶分化作用の最終段階に出来る流紋岩岩質マグマから形成された火山島列が玄武岩質火山島と洋上に並行して存在するのか、その起源や典型的な玄武岩質火山島である西ノ島新島の誕生・成長・拡大など、身近な東京都の地域に属する伊豆諸島を題材に、マグマの「結晶分化作用」や島弧形成について理解を深め考察できる好材料と考え、自身の地学の授業で取り上げ話題にしてきた実践事例を紹介する。その一端を報告する。2. 方法・内容 流紋岩質マグマの発生メカニズムについては、教科書には、モデルとして①本州への太平洋プレートの沈み込みに伴う成因解説図と②大陸地殻内(本州)の伸張場(亀裂など)に伴うマグマ貫入や部分的溶融による成因解説図の2通りの考えを併記した模式図がよく掲載されている。伊豆諸島の岩質の違いの成因についても、同様の考えを適用すれば、フィリピン海プレート下への太平洋プレートの沈み込みが明らかにされていることを踏まえ、<案1>フィリピン海プレート下へ太平洋プレートが潜り込み沈降することにより発生するとするとする考え。あるいは、<案2>伊豆半島や伊豆諸島を載せるフィリピン海プレートの本州側プレート下への衝突・潜り込み沈降に伴い発生する伸張力場(亀裂など)による“部分溶融”により生じたとする考え、の主に2通りの考えが想起されそうである。<案1>は、上昇経路が長くなるにつれマグマが発生してからの経過時間が長くなるなどして、それだけ結晶分化作用が先へ進行する結果、マグマだまりのマグマの性質が玄武岩質→安山岩質→デイサイト・流紋岩質に変化していくというもの。<案2>は、大陸地殻の内部(深部)で何らかの原因(圧力現象または温度上昇)により、部分溶融が起こり、その位置に留まりつつも時間の経過とともにSiO2 %に富む花崗岩質(流紋岩質)マグマが形成されやがて地表(海面上)に現れるというもの。以上2つの説のいずれかの立場にせよ、現在も学術的に完全に解明はされていないようである。しかし、いずれの立場でも、プレートや地殻の部分的溶融により生じたマグマが結晶分化作用により最終的に流紋岩質マグマに辿り着くというシナリオの大筋の根幹部分はほぼ同じであると言えるのではないだろうか。そこで、授業で話題にし、教科書的な記述事項をより身近に感じられるようにと教材化して活用を図ってきた次第である。現地への地学巡検を行う場合にも、東京港(竹芝桟橋)から大島・利島(玄武岩質)、新島・式根島・神津島(流紋岩質)の双方へは、東海汽船で往路・復路とも同じ航路で結ばれているため一度に容易に溶岩性質と火山島形の関係などを比較しながら見て廻れ学習に大変便利で好都合であり、私自身、希望生徒を募り夏季になるとしばしば実施してきた経験を有する。3.結果・考察 資料を基にした授業の中で、生徒たちから出される主な疑問や論点を紹介しておく。<案1>に対するものは、「なぜ、安山岩質マグマの生成が見られないのか?」、<案2>に対するものは、「新島・式根島・神津島は海洋上にあり、果たして大陸性地殻と言えるのか?」といった類のものである。一連の学習過程に要する総時間はグループ検討、発表活動を含め、30分程度を予定している。繰り返しになるが、正解は用意されていない。しかし、「結晶分化作用」という学習事項について、地域に関する素材・教材を用いて教科書的な記述事項と関連付け、身近なものとして感じ捉え考究するメリットは大きいと感じて行ってきた。現在、教育界で関心事の“Active Learning ”で大事なことの一つに、知識を既成のものとして受け身で単に覚えるために学ぶのではなく、答えが見当たらないあるいは未解明の問題・課題に既知の知識を駆使し、「科学の方法」(仮説、推論、検証)を用いながら如何に能動的にアプローチしていくかという点にあるとすれば、本発表で紹介したような試行も一つの参考事例になるのではないかと考えている。
著者
小林 信彦 Nobuhiko Kobayashi
雑誌
国際文化論集 = INTERCULTURAL STUDIES (ISSN:09170219)
巻号頁・発行日
no.29, pp.85-138, 2003-12-20

Akutagawa Ryunosuke(芥川龍之介 1892 1927) used a Japanese translation of The Spider-web, a Buddhist tale by Paul Carus (1852 1919), when he wrote Kumo-no-ito (蜘蛛の糸), his first work for children. Modern philological studies of Buddhism originated in Europe and excellent research results were produced there. Having taken advantage of them, Carus knew much about ancient Buddhist literature. According to the latest paper of Nagao Kayoko (長尾佳代子), his tale is faithful to the Buddhist tradition and coherent as a whole. On the other hand, Akutagawa, ignorant of Buddhist literature, missed Carus's points and failed to construct a coherent new story. In spite of its high reputation among critics, his Kumo-no-ito is a failure because of its inconsistency.
著者
千葉 紀和
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.5_56-5_62, 2021

<p> 第2次安倍政権末期の2020年6月、日本の科学技術振興の根幹を成す科学技術基本法が改定された。「『科学技術創造立国』の実現に向けた立法以来25年ぶりの抜本改正」と謳われ、共産党を除く与野党の賛成多数で可決、成立した。科学者の代表機関である日本学術会議も、基本的に歓迎の立場を表明した。だが、同政権による科学技術政策の歪みと研究現場の寒々しい変質ぶりの双方を見てきた一記者として、こうした現実に対する危機感の欠如は看過できない。今回の改定が意味するのは、この歪みを固定化し、さらに助長することに他ならないからだ。具体的には、従来以上に官邸主導の「選択と集中」が進み、科学技術政策は一層、産業界寄りに傾く。同時に国防政策とのリンクが強化され、軍事研究になびく研究者が増えていく。平和国家の前提を無視して軍事大国の潮流を追う「国策イノベーション」路線の先に、日本が目指すべき「科学技術創造立国」の姿はない。</p>