著者
勝木 弘美 野辺 薫 山田 洋子 竹井 久美子 吉永 繁彦 有井 真弓
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.40, no.12, pp.1133-1136, 1986

脳卒中患者に対するデイケア効果についての報告は極めて少ない. そこで国立療養所福岡東病院のデイケア患者のうち, 評価を行つた脳卒中患者43例についてデイケア開始時及び6カ月後の評価を比較し, デイケア効果を検討したので報告する.<br>評価項目は身体機能, 行つているADL, 患者の行動範囲, 復職または家庭での役割, 日常の過ごし方, 生活に対する意欲の6項目である. すべての項目において43例の90%以上が維持または改善を示したことから, 現時点においてはデイケア効果があるといえ, 脳卒中患者に対するデイケアの必要性を示唆している.
著者
大島 健次郎 興呂木 祐子 山田 尚史 本田 喬
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.199, 2016

<p>【目的】</p><p>脳卒中や脳外傷などによる高次脳機能障害者が社会復帰及び生活の質を向上させる為の手段として自動車の運転が出来る事の意義は大きい。しかし、運転再開に向けての支援の有無及び内容に関しては地方及び各病院で差が生じており、熊本県における高次脳機能障害者の運転再開に関する報告は少ない。当院では、運転シミュレーター(以下DS)が無い状況で運転再開に向けて介入を行っている。経過から、当院での取り組みについて紹介すると同時に4症例の運転再開者の傾向を報告する。</p><p>【方法】</p><p>1.当院の運転再開に向けての流れは(1)発症前の運転の有無及び再開の意思を確認(2)机上検査にて高次脳機能評価(TMT-A、TMT-B、BADS動物園地図、Rey複雑図形模写、Rey複雑図形3分後再生、コース立方体、HDS-R)を実施。(3)思考課題(認知神経リハビリ)を施行(4)Honda Safety&Riding九州(以下HSR九州)で実車評価を担当セラピスト同乗のもと施行(5)実車評価結果をもとに診断書作成を主治医へ依頼(6)公安委員会にて運転再開可否の判定を受ける。とした。2.事例紹介(1)対象は高次脳機能障害者4名(左半球損傷3名、前頭葉損傷1名)、年齢は20~90歳代。4名とも男性で運動麻痺は軽度であった。(2)介入時と実車評価施行時における机上評価結果より、再開・非再開者の違いの傾向を検討した。なお4名には本研究について十分な説明を行い、当院倫理委員会で同意を得た。</p><p>【結果】</p><p>4名中3名で運転再開が可能となった。再開者は20~70代で復職など明確な目標を持っていた。机上検査ではTMT-A、TMT-B、HDS-R、Rey複雑図形3分後再生で初期から最終にかけて改善を認めた。非再開者は90代と高齢であり運転再開に明確な目的が無かった。また机上検査において、TMT-A・B、ROCF3分後再生、コース立方体、HDS-Rに関して初期の点数が低く、初期から最終にかけての改善が少なかった。高次脳機能検査7項目における傾向として、先行研究のカットオフ値と一致していたのはTMT-A、TMT-B、HDS-R、Rey複雑図形3分後再生の4項目で、一致していなかったのはBADS動物園地図、Rey複雑図形模写、コース立方体の3項目であった。</p><p>【考察】</p><p>当院での取り組みと他病院との相違点は、DS使用の有無である。高桑らはDSについて、道路環境や周囲の車両の動きの設定が可能で運転シーンを繰り返す事ができ再現性に優れるなどのメリットがある反面、現実感に乏しく超高速走行等の非現実的な運転行動をする、高次脳機能に対するアプローチが行えないなどデメリットを挙げている。当院の取り組みは高次脳機能に対する直接介入いわゆるボトムアップであり、問題点に焦点をあてた思考課題を段階的に実施することで高次脳機能の改善が見られ、4名中3名で実車評価および運転再開につなげる事が出来たものと考える。運転再開可否の傾向として、年齢や明確な目的の有無が挙げられ、山田や倉板らの見解と一致していた。また今回用いた評価のうち4項目はカットオフ値と一致していたが、3項目は一致しなかった。7項目とも自動車運転に必要な注意機能・視空間機能・視覚性ワーキングメモリを評価するものとされているが、後者の3項目に関しては、難易度や読解力の差、年齢など様々な要因が影響していると考える。</p><p>【まとめ】</p><p>判断基準値に対する先行研究にも様々な見解がなされている。今後は、症例数を増やし得られた結果をもとに自動車運転再開の判断に必要な検査項目及び再開判定の基準値を検討していく必要があると考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究を行うにあたり,当院倫理委員会の承認を得ており,対象者へは十分に説明し書面にて同意を得た。</p>
著者
内海 新 岩井 信彦 青柳 陽一郎
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.101, 2009

【はじめに】片麻痺患者の基本動作を障害し、リハビリテーションを阻害する症候の一つに、Pusher症候群(以下、PS)がある。PSを呈する症例に対して、端坐位などの姿勢保持能力の向上に対する介入方法の報告は多いが、立ち上がりや移乗などの動作能力の改善に向けた介入方法の報告は少ない。今回、PSを呈する片麻痺患者に対して、端坐位保持能力を再獲得した後に移乗動作能力の向上を目的にアプローチを行い、改善を認めたので若干の考察を加え報告する。<BR>【症例紹介】70代男性。診断名は右中大脳動脈出血性梗塞。障害名は左片麻痺。現病歴は2008年9月下旬発症。10月中旬リハビリテーション目的にて当院入院。2009年2月下旬退院した。既往歴は1994年心原性脳梗塞による左片麻痺。発症前ADLは独居・独歩可能レベルであった。<BR>【初期評価】指示理解良好も、自発語は少ない。HDS-R10点。Br.stage上肢手指I、下肢II。感覚は精査困難。左半側空間無視、構成失行、左右失認を認めた。PS重症度(網本の分類)は最重度 (坐位1点、立位・歩行2点)。寝返り起き上がりは全介助。移乗動作は麻痺側からは中程度介助、非麻痺側ではPushingが強く全介助でも困難であった。<BR>【治療と経過】端坐位保持能力が実用レベルに向上した後、平行棒内での立ち上がり及び立位保持練習を実施した。しかしPSの影響により非麻痺側への重心偏椅が強く立位保持困難であった。そこで、昇降機能のある治療台での端坐位姿勢から治療台を上昇させて殿部のみが治療台に接触している状態を経て、最終的に立位姿勢になるように操作を行った。これにより重心線が比較的正中位と一致した状態で立位保持が可能となり、連続して非麻痺側への重心移動練習を行うことができた。結果、随意的な非麻痺側への重心移動、さらに立ち上がり動作時の麻痺側への重心偏椅が軽減し、非麻痺側からの移乗動作が、軽介助で可能となった。退院時のPS重症度は軽度 (坐位・立位0点、歩行1点)であった。<BR>【考察】近年、PSの要因の一つとして重力認知システムの障害の可能性が報告されている。また坐位よりは立位・歩行など抗重力筋の活性化が必要となる姿勢や動作でPushingがより強く出現することも知られている。本症例では平行棒内の立位保持が困難であった時期に、昇降機能付き治療台を利用することで立位保持が可能となった。その要因として、坐位から立位姿勢への移行に際し、機械的に座面を上昇させることで立ち上がり動作に伴う反射的で過剰な抗重力筋群の筋収縮を抑制できた事がPushingの軽減に寄与したためと考える。さらに、比較的容易に垂直立位保持が可能になったことで、移乗動作に必要な非麻痺側への重心移動を効果的に学習できたと考える。このような重心移動練習を繰り返す事で重力認知システムに何らかの変化が生じたか、反復練習により習熟化がなされた可能性がある。結果、PSが軽減し、立ち上がりや、非麻痺側からの移乗動作能力が向上したと考える。今後は症例を増やし、今回の介入方法の効果を検討したい。
著者
粕谷 大智 竹内 二士夫 山本 一彦 伊藤 幸治 坂井 友実
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.201-206, 1999 (Released:2010-04-30)
参考文献数
13

We executed an acupuncture therapy to 62 lumbar spinal canal stenosis cases who were diagnosed by CT, MRI photo state and clinical symptom and examined the result.The 36 men and 26 women in this study had a mean age of 67.3 years.An acupuncture was executed by aiming to give an effect to the soft tissues and a blood circulation around the area where the stenosis was recognized then pierced facet joint closely and deeply and gave an electric acupuncture stimulus.14 cases were very good and 17 cases had good results according to the JOA score. No cases worsened.We concluded an acupuncture treatment was effective for treating lumbar spinal canal stenosis.
著者
堀江 直樹 小山 夕美 山本 典子 大竹 朗
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.176, 2011

【目的】<BR>当地域では平成20年11月より脳卒中地域連携パスが導入され,当院は回復期病院としての役割を担っている.パス導入以前に比べ在院日数は短くなっているが,諸般の理由により長期入院となる症例がある.今回,入院長期化した群と短期群とで比較検討し,若干の考察を加えたので報告する.<BR>【方法】<BR>平成20年11月から平成22年11月までに当院に入院した脳卒中パス患者135例(平均在院日数72±29.4日)の中から,在院日数100日以上の患者21例(以下長期群:121.1±15.7日)と在院日数40日以内22例(以下短期群:33.5±5.1日)について以下の項目を検討した.<BR>検討項目:年齢,NIHSS(入院時,退院時),下肢Br.Stage(入院時,退院時),B-ADL(入院時,退院時),退院時Barthel Index(以下BI),家族構成,復職及び家事復帰.<BR>【結果】<BR>年齢は長期群65.6±10.7歳,短期群75.5±11.7歳で差があった.NIHSSは,入院時は長期群8.0±5.0点,短期群2.3±1.9点.退院時は長期群5.6±4.4点,短期群1.5±2.2点であり,脳卒中は長期群が短期群に比較し重症であった.下肢Br.stageは長期群では入院時にstageIII以下の割合が62%,退院時は38%であった.短期群では入院時・退院時共に5%と変わらず,長期群は短期群に比較し麻痺が重度であった.<BR>ADL評価のB-ADL(退院時)は,長期群4.0±4.1点,短期群2.0±3.3点で差があったが,BIは長期群68.1±29.4点,短期群が81.6±24.1点と短期群に軽症の傾向があった.家族構成については老老介護,一人暮らし,二人暮らし,三人暮らし以上について検討したが両群で特徴は見られなかった.復職及び家事復帰に関しては両群共に3例ずつあり,差は無かった.<BR>【考察とまとめ】<BR>入院長期化した症例は,年齢が若く,機能面,ADL面ともに重症であった.家族構成に関しては介護力の不足などが影響するかと考えられたが,両群間で差は無かった. 当院では入院時に長期入院を防止するためにハイリスクスクリーニングシートを使用し,早期からMSWの介入を行っている.しかしそのような対策を行っていても,入院長期化してしまう症例がある.当地域は山間部で多雪の地域を有し,雪の影響により退院時期が延長することもあり,地域的な特色も影響していると考えられた.
著者
小笠原 智子 古江 伸志 清水 志帆子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.80, 2006

【はじめに】<br>脳卒中患者の復職の問題は様々であるが、今回、入院中は著明な身体機能・高次脳機能の問題がなかったが復職後短時間の作業で麻痺側上肢の疲労を生じ仕事に支障をきたす症例を担当した。そこで作業耐久性低下の要因について内田クレペリン検査標準版(以下KP)を行い、その前後に簡易上肢機能検査(以下STEF)、視覚始動性反応時間(浅海ら,以下RT)、重心動揺検査の総軌跡長(以下LNG)を測定し健常者群と比較し分析したところ一考察を得たので報告する。<br>【対象】<br>症例は右被殻出血による左片麻痺の52歳男性、身体機能は複合感覚軽度鈍麻でSTEFは左92点、右100点で利き手である麻痺側上肢は実用手レベルであった。高次脳機能はADL に支障をきたすものはなくコース立方体組み合わせテストもIQ111であった。ADLはFIM126点で全て自立していた。入院期間は3ヶ月弱で退院後は自宅復帰、病前と同じ現場監督として復職した。健常者群10名(平均年齢26.7歳±3.87、男女各5名)<br>【方法】<br>作業活動としてKPを実施し、その前後で以下の3つの検査を記載順に行った。1RT,2STEF,3開閉眼片脚立位で左下肢から右下肢の順にLNGを30秒間測定した。KP前後での3つの検査の比較とKPの作業効率の比較にて分析した。<br>【結果】<br>RTは健常者群で作業前平均0.268、作業後平均0.262秒に対し症例は作業前0.331秒、作業後0.406秒と遅延した。開眼の左片脚立位のLNGでは健常者群は作業前平均98.078cm、作業後平均94.152cm、症例は作業前94.45cmで、作業後は30秒保てず15秒で接地したにも関らず106.18cmと伸長し、右片脚立位も健常者群は作業前平均98.55cm、作業後平均89.64cm、症例は作業前76.85cm、作業後107.5cmで症例に伸長がみられた。STEFは症例含め全員顕著な差はなかった。症例のKPの作業効率は健常者群と差はなかったが、休憩効果で定型とされた範囲より3段階低いものであった。<br>【考察】<br>健常者群はKPの30分の書字程度では作業耐久性低下はみられずRT・LNG・STEFは作業後の成績が向上した。これは学習効果によると考える。一方、症例は作業後のSTEFは著変なかったが、RT・LNGに低下がみられたことから作業後の上肢の疲労は、上肢そのものの機能低下より視覚-運動系の活動レベルの低下や上肢作業の代償として体幹の非対称性筋活動によるバランス低下の要因が大きく関与していることが考えられた。また、休憩効果の低さにより異常筋緊張の持続が予測され活動の反復により加重されていくと示唆された。よって本症例は、体幹・視覚-運動系の問題があり外来での継続的な治療が必要だと考えた。また、今回入院中の評価では著名な問題が見出せなかったため復職の治療指針とする高次な身体機能の評価バッテリーと復職に必要な評価基準の検討を行っていきたい。
著者
Kazue ITOH Katsumi IMAI Takashi MASUDA Shimako ABE Misuzu TANAKA Ririko KOGA Hitomi ITOH Toshitaka MATSUYAMA Motoomi NAKAMURA
出版者
The Japanese Society of Hypertension
雑誌
Hypertension Research (ISSN:09169636)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.881-886, 2002 (Released:2003-06-30)
参考文献数
30
被引用文献数
31 44

Insulin resistance is thought to raise blood pressure. Recently, a significant positive relationship between mean blood pressure and plasma leptin levels, but there have been no reports dealing with the relationship between blood pressure and either insulin resistance or serum leptin levels after weight loss. In the present work, we attempted to clarify the relationship between changes in blood pressure and either the serum leptin level or the insulin level in 102 moderately obese females (mean body mass index (BMI), 29.5±0.5 kg/m2; age, 47.0±0.9) during a 3 month period. No differences in age, fat-mass, homeostasis model assessment (HOMA), the summation of insulin (ΣIRI), plasma renin activity (PRA) or 24 h norepinephrine excretion (24hU-NE) were observed between the hypertensive (HT) group (n =31) and normotensive (NT) group (n =71) before weight loss, but the basal serum leptin was significantly higher in the HT (16.8±1.1 ng/ml) than in the NT group (15.2±0.8 ng/ml), after adjusting for abdominal total fat. After a 3 month weight reduction program, the total abdominal fat, serum leptin and ΣIRI significantly decreased in both groups. The systolic blood pressure (SBP)/diastolic blood pressure (DBP) significantly decreased from 144/84 to 130/77 mmHg only in the HT but not in the NT group. The PRA decreased in both groups, while the 24hU-NE significantly decreased only in the HT group. The changes in the leptin level were significantly correlated with the changes in both ΣIRI and HOMA after weight loss in the two groups, respectively. Finally, a statistically significant positive correlation was observed between the changes in the leptin and the changes in the mean blood pressure (MBP) (r =0.412, p <0.05) only in the HT group. Multiple regression analysis revealed that the changes in MBP were independently associated with the changes in 24hU-NE and the changes in either ΣIRI or HOMA in all subjects. However, a statistically significant positive correlation was observed between the changes in MBP and the changes in leptin levels even after adjusting for the total abdominal fat, 24hU-NE and either ΣIRI or HOMA (both expressed as a percentage of the baseline value) in a multiple regression analysis only in the HT group. These results suggest that leptin may play a role in the pathophysiology of obese hypertension. (Hypertens Res 2002; 25: 881-886)
著者
福森 香代子 奥田 昇
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.113-123, 2013-03-30 (Released:2017-04-28)
参考文献数
60
被引用文献数
3

生物代謝のサイズスケーリング則は、生物学における最も普遍的な規則の一つである。近年、個体の代謝を生態系レベルにスケールアップして生態系の構造と機能の関係を理解する試みが注目されている。本稿では、スケーリング則を用いた生態系代謝に関する理論的枠組みと実証研究を紹介する。特に、生態系代謝を決定する主要因とみなされている生物群集の体サイズ分布が生態系代謝に及ぼす影響を検証する我々の実験的研究の概要を紹介するとともに、その実験結果から見えてきた新たな理論の展開について考察する。最後に、生物代謝をマクロ生態学の視点から理解しようと試みる「生態学の代謝理論」の将来展望について述べる。
著者
石川 健治 小島 慎司 宍戸 常寿 岡野 誠樹 西村 裕一 山羽 祥貴
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は,およそ,五・一五事件が生じた1930年代初めから,内閣に憲法調査会が設置された1950年代半ばまでを対象とし、そうした体制変革期における憲法および憲法学を考究する。その際、当該時代における日本の憲法学を連続するものとして捉えること,それらを歴史的・理論的に考究するだけでなく、そうした歴史研究と理論研究の有機的結合を試みること、の2点に注力する。それらの歴史的解明は,個々の論者の理論枠組みを踏まえてはじめて果たすことができる一方(「理論」を踏まえた「歴史」研究),個々の理論や解釈論も,当時の政治的文脈に置いてこそ、その真価を問うことができるからである(「歴史」を踏まえた「理論」研究)。
著者
有瀧 真人
出版者
水産総合研究センター
雑誌
水産総合研究センター研究報告 (ISSN:13469894)
巻号頁・発行日
no.37, pp.147-197, 2013-03

異体類の多くは,有用な水産資源として沿岸漁業や養殖漁業に深く関わっており,栽培漁業の対象種としても取りあげられてきた。代表的なヒラメやマコガレイをはじめ,わが国において種苗生産が試みられた異体類は12種にもおよぶ。しかし,どの種類においても白化や両面有色に代表される体色異常ならびに眼位や頭部骨格などに現れる形態異常が多発し問題となっているのに加え,その要因や発現機構については,ヒラメなどごく一部の種を除いて十分な検討がなされていない。本研究は,特に形態異常が多発するカレイ科魚類について基礎的な知見を収集し,それらをもとに形態異常の発現の機序や防除方法を明らかにすることを目的とした。第1章. 飼育したカレイ科魚類の変態に関わる形態異常 カレイ科魚類をふ化仔魚から人工環境下で飼育した場合,多くの種で変態期に形態異常魚が高い頻度で出現し,種苗生産の現場において大きな問題となっている。本章では,マガレイやホシガレイを中心にカレイ科魚類8種について有眼側と無眼側の眼位,体色,上顎,胸鰭,両顎歯,鱗を測定・観察し,天然魚と比較することにより,形態異常魚にどのような変化が生じているかを検討した。その結果,全ての魚種において変態後の形態は,正常魚,白化魚(2タイプ),両面有色魚の4タイプに区分することが可能であった。また,それらの両体側形質の比較から,正常魚は天然魚と同様の変態を完了しているのに対し,白化魚は両側が無眼側の形態に,両面有色魚は両側が有眼側の形態に変態していることが明らかとなった。このことから,本研究で取り上げた仔魚期の形態異常は変態に関連した異常,すなわち"変態異常"であると結論づけた。第2章. 飼育したカレイ科魚類における変態異常発現の決定時期 変態異常を防除するには,その発現にどの発育期が最も深く関わっているかを解明することがきわめて重要である。異体類の中で,変態異常に関する試験・研究が先行して行われているヒラメでは,ブラジル産アルテミア(BA)を給餌することにより,ほぼ全ての個体が白化魚になることや,変態始動期の発育ステージにおいて最もその感受性の高いことが明らかにされている。本章では,マガレイとホシガレイをモデル魚種として,BAの給餌開始時期を変えて飼育を行い,白化魚の出現状況からカレイ科魚類における変態異常発現の決定時期を検討した。その結果,上記両種はBA給餌によって90~100%の個体が白化魚となった。また,BAを給餌した影響は,マガレイでは全長8mm,ホシガレイでは全長10mmまでであり,影響を受ける発育期は両種ともステージE(変態初期)までであると判断された。すなわち,両種ともにステージF以降の仔魚では変態異常の発現は決定しており,ステージE以前がカレイ科魚類の変態異常発現にとって重要であると考えられた。第3章. 飼育したカレイ科魚類の変態異常と仔魚の成長および発育 異体類種苗生産のモデル種であるヒラメでは,変態異常に関して様々な研究が行われ,その発現の機序についても部分的に解明が進められている。しかし,カレイ科魚類では体系的な研究はこれまで全く行われていない。本章では,カレイ科魚類における変態異常の出現機序の一端を明らかにすることを目的に,ふ化から変態までの時間が大きく異なるマガレイ,ホシガレイ,ババガレイの仔魚をそれぞれ6~24℃の水温下で飼育し,変態異常魚の出現状態と発育・成長の関係について検討した。上記3魚種ではともに,飼育水温の上昇に伴い発育・成長が促進された。その相対的な速度はマガレイ,ホシガレイ,ババガレイの順に早く,既存の知見に合致した。正常魚,白化魚,両面有色魚の出現率と飼育水温の関係は,種ごとに特有の傾向を有し,再現性もきわめて高かった。このうち正常魚の出現率が最も高くなる着底までの日数は,マガレイで最も早く,ホシガレイ,ババガレイの順に遅くなった。これら着底日は耳石微細輪紋より推定されている天然魚の値に近似した。このことから,変態異常の発現は,飼育環境では発育・成長過程が天然魚と大きくずれることに一因があると推察された。
著者
Govindaraj USHA Ramesh PRAKASH Karuppasamy KARPAGALAKSHMI Sundaram RAMALAKSHMI Lakshminarayanan PIRAMUTHU Cheng YANG Narayanan SELVAPALAM
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
Analytical Sciences (ISSN:09106340)
巻号頁・発行日
vol.36, no.11, pp.1365-1369, 2020-11-10 (Released:2020-11-10)
参考文献数
18
被引用文献数
3

An acriflavine-graphene oxide (GAF) supramolecular assembly has been prepared from water-soluble graphene oxide (GO) and a fluorescent dye, acriflavine (AF). Upon binding this non-covalently to the GO, the fluorescence of acriflavine has been “turned off” effectively, competitive binding potential of the sensor substrates such as ATP, ADP, AMP and the pyrophosphate weakens the supramolecular assembly of GAF, which allows the release of acriflavine quantitatively, which also “turns-on” the fluorescence of the dye under UV irradiation. Interestingly, GAF displayed the highest sensitivity towards ATP within the family of adenosine phosphates. We have developed a naked eye detection method for the adenosine phosphates biomolecules. For the first time, acriflavine has been utilized for the sensing of adenosine phosphates in combination with GO, which can be useful for the detection of other biomolecules.
著者
Nannan WANG Xin JI Han WANG Xianhui WANG Yanfang TAO Weili ZHAO Jian ZHANG
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
Analytical Sciences (ISSN:09106340)
巻号頁・発行日
vol.36, no.11, pp.1317-1322, 2020-11-10 (Released:2020-11-10)
参考文献数
53
被引用文献数
4

Cysteine (Cys), as one of the important amino acids, plays a vital role in various physiological and pathological processes. Hence, it is meaningful to develop a convenient and sensitive detection method. Herein, a novel BODIPY-based fluorescent probe (BDP-DM) was developed, which had a higher selectivity for Cys than other amino acids, including homocysteine (Hcy) and glutathione (GSH). Ultimately, we concluded that the BDP-DM probe could be used to successfully detected intracellular Cys in living HeLa cells.
著者
倉本 香
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 1, 人文科学 (ISSN:03893448)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.19-34, 2012-09

カントの自由は人間の自然的な傾向性から独立して自らに法則を与えるという意味での自律としての自由であり,その法則は人間にとって自然的な自愛や自己幸福を度外視して意志の格律の普遍妥当性のみを純粋に命じる道徳法則である。このような法則に従う自由な意志が道徳的な善の根拠となる。しかし自由な意志は同時にこの法則に背く悪への傾向性を持つ。では,悪への傾向性を持つ人間はいかにして善へと転換しうるのか。主としてカント宗教論の論述に即してこの問題を論じたうえで,あらためて,宗教ではなく道徳の次元で人間の自由を問う意味を考えてみる。