著者
田中 勤 馬場 一成 小原 智香子 鈴木 覚 山崎 大樹 朝烏 邦昭 関内 久美子 中野 清子 黒川 千恵 島嵜 紀子 佐藤 裕子
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.33, no.7, pp.1101-1107, 2000-07-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
9

透析患者では日常生活上の制限等のストレスから心因反応としての精神症状や身体的愁訴を呈する患者が少なくない. 様々な症状を呈する患者に対しては包括的治療の観点から生活指導のほかに薬物治療も有効なアプローチとなる. 【目的】透析患者の不安や抑うつ等の精神症状やその他の不定愁訴に対する新規セロトニン作動性抗不安薬Tandospirone (TAN) の有効性および安全性を検討する. 【対象・方法】当院に通院する透析患者29例に心理テストの一つSTAIを施行し, 神経症, 抑うつ状態の領域にあった5例に対しTAN 30mg/日を投与した. 投与4週目にSTAIを指標として有効性について検討し, 安全性については, 透析開始時のダイアライザー通過前後および透析終了時のTAN血清中濃度を測定することで, 蓄積性とダイアライザー除去率を検討した. 【結果】 (有効性) STAIの得点から投与5例中3例に改善が認められた. 特にイライラ感等の自覚症状の改善が認められ, 透析療法の受容が向上した. (安全性) 副作用は全例において認められなかった. 血清中濃度は投与4週目においても健常者の血清中濃度と殆ど変わらず蓄積性は少ないと考えられた. ダイアライザーによる除去は投与開始時の除去率16.9%, 透析4時間による最終的な除去率80.4%であった. 【結語】TANは抗不安・抗うつ作用を併せ持つ新しいタイプの抗不安薬であり, 透析患者の精神症状や不定愁訴を改善する. 従来のBZ系抗不安薬と異なり筋弛緩作用がないことから透析後ふらつきを呈しやすい症例に用いやすく, 特に依存性のない点は長期フォローが必要な透析患者のストレスマネージメントに有用と考えられる.
著者
柳川 雅一
出版者
一般社団法人 日本写真測量学会
雑誌
写真測量とリモートセンシング (ISSN:02855844)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.11-20, 1978

1978年5月18日, 妙高火山白田切川に発生した土石流は新赤倉温泉を中心に多くの被害をもたらした。筆者は災害前後の空中写真による判読と計測, および現地調査を行って, 土石流の氾濫と地形との関係を検討し, 次のような知見を得た。<BR>(1) 土石流が氾濫したのは河床の浅い所である。<BR>(2) 土石流が氾濫したのは河道の攻撃斜面側である。<BR>(3) 河道に沿う自然堤防状の微高地か土石流の氾濫域を規制している。<BR>以上の知見は火山地域における土石流災害予測を考える場合に重要であると考えられる。
著者
両角 隆一 堀 正二 西村 恒彦
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.28, no.Supplement1, pp.23-28, 1996-02-20 (Released:2013-05-24)
参考文献数
18

拡張型心筋症(DCM)において慢性期治療の前後でMIBGシンチを実施し,心不全に対する治療効果と本画像所見との関係を多施設共同研究により検討した. 【対象】D C M 2 4 例( 6 0 ± 1 1 歳, N Y H A I I~III),内βプロッカー療法群18例(β群),その他の治療群6例(A群).【方法】慢性期治療前および開始後3カ月目以降にMIBG心筋シンチを実施した.123I-MIBG 111MBq静注後15分と4時間目にSPECTと胸部正面Planar像を撮像した.Planar像では,関心領域を設定し,心臓/上縦隔集積比(H/M)および心臓洗い出し率(%WR)を算出した.SPECTでは,局所集積を4段階のdefect scoreを用いて視覚的に定量評価した.また,心エコー図から左室内径短縮率(%FS)を得た.【結果】H/Mは,A群の初期像で有意な増加が認められた以外には明らかな変化は認められなかった.一方,%WRは,両群で有意な低下を示した.β群では,初期像・後期像ともにDSに明らかな改善を認めたのに対し,A群ではいずれにおいても明らかな変化が認められなかった.【結果】内科的治療による心機能の改善とともに心筋MIBG集積も改善した.その変化は,βプロッカー療法と他の治療法とでは異なっている可能性が示唆された.
著者
木村敏 [著]
出版者
講談社
巻号頁・発行日
2015
著者
今井 久登
出版者
東京女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

これまでの展望記憶研究では,事象ベースの展望記憶において手がかりが呈示されることを自明の前提としてきた。このため,日常場面では,あてにしていた想起手がかりがないことをしばしば経験するにも関わらず,その際の不随意的な想起については研究されてこなかった。そこで本研究では,事象ベースの展望記憶において,予想していた外的想起手がかりが呈示されなかった場合の不随意的想起の性質を解明することを目指した。そのためにまず,記憶日誌法を用いて日常場面における「し忘れ」経験を集め,その特徴を分析した。その結果,このような想起の頻度は全体の約10%であり,注意拡散やリラックス状態で生じやすいということが明らかになった。これらの特徴は自伝的記憶の不随意的想起と同様であることから,手がかりなしでの不随意的想起のメカニズムは,展望記憶と自伝的記憶とで共通であろうと推測された。次に,事象ベースの展望記憶課題において想起手がかりを呈示しないという,これまで行われてこなかった新たな条件を設定した実験研究を行ったところ,展望記憶課題の遂行特徴が,時間ベースの展望記憶における時計チェック曲線と類似したJ字型になることが分かった。この結果は,事象ベースの展望記憶と時間ベースの展望記憶は別個のシステムではなく,手がかりなしで展望記憶課題を自発的に想起するというプロセスを共有していることを示している。また,展望記憶課題の遂行成績とワーキング・メモリ容量の個人差の間に相関がなかったことから,展望記憶の想起には必ずしもワーキング・メモリを必要としないということも明らかになった。これらの成果を踏まえ,処理コンポーネントの枠組を援用して時間ベースの展望記憶と事象ベースの展望記憶との関係について整理するとともに,既存のモデルを拡張して,手がかりなしでの展望記憶の不随意的想起をも含んだ動的で一般性の高い展望記憶モデルを提示した。
著者
長谷川 達人 森 朝春
雑誌
情報教育シンポジウム論文集
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.176-183, 2019-08-10

本研究では,講義中に教示者の示すスクリーンにオーバーレイする形で,コメントがスクロールするリアルタイムコメントスクロールシステム(RCSS)を開発し,大学講義内で約半年間の実践評価を行った.RCSSにより学生が発話することに対するハードルを下げ,講義の双方向性を高めることを目的としている.大学の講義で試験運用を行い,アンケートと発話ログを用いて本システムの有用性検証を行った.その結果,アンケートではポジティブな回答が圧倒的多数となり,発言がしやすくなった,モチベーションが上がった,理解度が上がったという意見が半数以上となった.一方,コメントが邪魔だと回答した受講者も1割程度いた事,コメントを必要に応じて投稿している受講者が30~40%だったことなど,課題も見つかった.発話ログを,カテゴリに分けて分析している点は本稿の特色の一つである.RCSS導入前後では(講義に関係する)発話数は約2倍に増えていた事だけでなく,教示者to受講者や受講者to受講者のレスポンスが毎回10件程度行われた科目もあり,RCSSは双方向授業の実現に寄与することを明らかにした.
著者
真野 俊樹 小林 慎 井田 浩正 山内 一信
出版者
特定非営利活動法人 日本医療マネジメント学会
雑誌
医療マネジメント学会雑誌 (ISSN:13456903)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.329-334, 2003-09-01 (Released:2011-03-14)
参考文献数
16

医療改革についての方向性のひとつは医療機関からの情報公開である。患者と医師間における情報の非対称性の問題は、一般に患者側に発生し、その大きさによって患者が不利益を被る可能性があるが故に問題とされる。一方医療という財においては、例えば年代別、職業別などに、罹患しやすい病気を統計的に知りえても、各個人がいっ、どのような病気にかかるかは予測できないという不確実性がある。平成11年の受療行動調査によると、消費者は入院や外来など医療機関受診の際に「家庭・友人・知人」からの情報を重視しているという。われわれが健常人に行った調査では「友人」による情報を信頼している。ブランドは情報の非対称下でのシグナリング機能を果たし、評判によって無駄な探索を止め、取引費用を削減する効果がある。またブランドは、非排他性、非競合性をもち、外部性も持っために公共財であるという考え方もある。この視点から、医療機関が消費者の選択基準になりえるブランド形成の努力をおこなうことも重要ではないか。
著者
ウィニッチャクーン トンチャイ
出版者
一般財団法人 アジア政経学会
雑誌
アジア研究 (ISSN:00449237)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.52-55, 2020-04-30 (Released:2020-06-09)
参考文献数
13

タイでは2006年と14年にクーデターがあり、民主主義は明らかに後退している。しかし19年3月に行われた選挙の結果を見ると、タイ人の半数近くは非民主主義的な政治指導者を支持しているように見える。彼らは、民主主義を支持しないだけでなく、民主主義を恐れている。本稿では、タイで民主主義を恐れているのはどのような人たちで、なぜ彼らは民主主義を恐れるのかについて考察する。1992年以降のタイの民主主義は、王党派民主主義(royalist democracy)であった。議会制民主主義の形態をとってはいたものの、重要な政策決定や人事について、王党派のエリートたちがインフォーマルながら非常に大きな影響力を行使していた。この王党派民主主義は、1960年代から80年代の軍事政権下の経済成長によって所得を向上させたバンコクの中間層からも支持された。本稿では、彼らのことを「旧来の都市中間層」と呼ぶ。これに対し、1990年代以降の経済成長の過程で徐々に生活水準と教育水準が向上し、政治に対する関心を高め、地方分権や経済成長の成果のより公平な分配を求めるようになった地方在住の人たちのことを本稿では「新興中間層」と呼ぶ。地方の新興中間層の多くは、官僚組織よりも、議会政治家の方が自分たちの声に耳を傾けてくれ、経済成長の成果の地方への分配に積極的であると感じた。地方の新興中間層の強い支持を受けたタクシンが2001年と05年の選挙で圧勝すると、王党派民主主義の支持者たちは、この新しいタイプの民主主義に脅威を感じるようになった。数の上では不利な王党派民主主義の支持者たちは、タイの国民の多くは依然として教育水準が低く、議会政治家はあまりに腐敗しているため、一人一票原則に基づく議会制民主主義はタイの現状にも伝統文化にもそぐわないと主張するようになった。グローバリゼーションが進む中、タイが国益を損なうことなく、独立を守り、繁栄を続けるためには、軍と王室が支持する「賢人」に国政をまかせる「タイ式民主主義」が必要だと彼らは考える。2006年と2014年のクーデターは、そのような「タイ式民主主義」を復活させるために行われたものである。「タイ式民主主義」を支持するタイのエリート層と旧来の中間層は、グローバリゼーションがタイ経済にもたらした恩恵を享受してきてはいるが、1997年の金融危機で苦い経験をしたこともあって、新自由主義に対して、不安と脅威も感じている。彼らは、タイ経済がグローバル化する過程で、地方の新興中間層が政治的発言力を強めたことに恐怖を抱いてもいる。グローバリゼーションは、タイのエリート層と旧来の中間層を民主主義恐怖症に陥らせる一方で、民主化を求める地方の新興中間層の潜在的政治力を高めてもいるのである。タイにおける近年の民主主義の後退が一時的なものであることを願うが、近年の民主主義の後退の過程で、タイでは民主主義を支えるべき制度が大きく傷ついており、民主主義が健全に育つにはかなりの時間がかかるかもしれない。深まってしまった社会的亀裂はすぐには癒えそうにない。王室と共存関係にある軍による政治支配は、外見だけは民主主義の装いをして今後もしばらくは続くかもしれない。しかし王室と軍との共存関係が今後どれくらい続くかを現時点で判断することは難しい。
著者
齋 実沙子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

本研究は、結婚式場の広告において「場所イメージ」がどのように利用されているのか、また、どのような役割を果たしているのかを明らかにすることを目的としている。<BR> 「場所イメージ」とは、場所を想起する際のイメージのことであり(内田,1987)、消費社会における量産商品の広告では、商品イメージの差別化を図る手段の1つとして「場所イメージ」が利用されている。そこで本研究は、結婚情報誌として圧倒的な売り上げを誇る『ゼクシィ』を事例に、結婚式場の広告の中にある「場所イメージ」に関する表象を調べることで、結婚式場に求められる「場所イメージ」やその利用状況、またその役割を明らかにした。なお、その際に本研究では、エリア・会場形態・時間という3つの視点から「場所イメージ」の利用について検証を試みた。<BR> まず、『ゼクシィ』の特徴として、独自に区分されたエリア別に広告が掲載されていることが挙げられる。そこで、これらのエリア区分から【横浜・川崎】エリア、【湘南】エリア、【埼玉】エリア、【東京23区】エリアの4つを選定して「場所イメージ」に関する表象の分析を行った。その結果、各エリア毎に「場所イメージ」に関する表象の使用状況が明らかに異なることが分かり、例えば、【湘南】エリアでは「海」のイメージを想起させる広告が大多数であるのに対し、【埼玉】エリアではそこが「埼玉」であることを感じさせない広告が多くなっていた。このように、結婚式場の広告において「場所イメージ」は、結婚式場のイメージに相応しいものとそうでないものとが意図的に取捨選択された上で使用されており、すなわち、「場所イメージ」を利用する、あるいは不必要なイメージであれば利用しないことで、より結婚式場らしいイメージを広告の中で作り上げていることが分かった。<BR> 次に、『ゼクシィ』にはエリア別の広告掲載の他にも、【ホテルウエディング】という会場形態別の特集があるため、これとエリア別の掲載箇所を比較した。するとその結果、「場所イメージ」の利用は会場形態によって異なり、特に一流ホテルでは「場所イメージ」が全く利用されていないことが分かった。これは、ホテルが既に結婚式場に相応しい「高級感」や「特別感」といったイメージを持っているためであり、これに対して、そのようなイメージを持っていない会場では、広告の中で「場所イメージ」を利用することでそれらのイメージを補完あるいは強化しているのである。すなわち、「場所イメージ」は、結婚式場が既存のステレオタイプのイメージを持っていない場合において、特に有効に作用することが分かった。<BR> 最後に、これに時間軸を加えると2012年現在、このように巧みに利用されている「場所イメージ」は、2001年当時はそれほど利用されておらず、つまりこの間に結婚式場の広告において「場所イメージ」の利用が発達したことでより高度化・複雑化したことが分かった。これは、『ゼクシィ』が結婚情報誌市場を独占し、各結婚式場は1つの誌面上だけで他社との競合を強いられたため、広告でのイメージによる差異化が必須となった結果でもあるが、このような差異化はあくまでも微妙な差異の戯れに過ぎず、むしろ、皮肉にもそれによって並列されてしまっている。<BR> 以上、結婚式場の広告における「場所イメージ」の利用状況は、それらの背景の違いによって様々であることが分かったが、これら全ての類型に共通することは、「場所イメージ」を利用している利用していないに関わらず、本来の場所を「隠している」ということである。なぜなら、結婚式場が広告される段階で、既に「場所イメージ」は取捨選択されているため、結婚式場の広告の中で「場所イメージ」を利用していない場合はもちろん、利用している場合も不必要なものはいったん全て広告から排除されているからである。そのため、結果的にそこで表現される「場所イメージ」は、実際に私たちが抱く「場所イメージ」とはまた少し異なるものとなっており、すなわち、それらは結婚式場の広告用に「結婚式場に相応しい場所」として新たに作られた、よりキッチュな「場所」と「場所イメージ」になっているのである。そして、それらは繰り返し利用されることで再生産され、あたかも最初から「結婚式場に相応しい場所」であったかのように定着し、受け入れられるようになっていくといえよう。<BR> また、このように「場所イメージ」が気軽に多用されるようになったことで、「場所のステレオタイプ」化もより進行し、ステレオタイプ化され単純化された「場所イメージ」は、かえって複雑な現代社会を作り出しているようにもみえる。すなわち、結婚式場の広告における「場所イメージ」の利用とその変化は、現実とイメージとがより一層錯綜したハイパーリアルな社会になっていることの1つの現れであろう。