著者
吉武 由彩
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.1-18, 2018-02

本稿では、リチャード・ティトマス(Richard Titmuss)の『贈与関係論』(_e Gift Relationship: from Human Blood to Social Policy)の論点を改めて確認し、その今日的意義を検討する。特にティトマスの『贈与関係論』における主要命題である「献血による社会的連帯の形成」という命題は、十分に検討されないまま今日に至っていると考えられる。そこで、この命題を取り上げ、ティトマスがどのようにして献血が社会的連帯の形成につながると考えていたのかを検討する。命題を再検討したところ、制度設計、互酬性の想定、コミュニティ意識という3つの観点から、ティトマスが社会的連帯の形成を考えていたことがわかる。さらに、ティトマス以後の研究の動向として、献血をめぐる社会学的研究は多くはないが、社会的連帯の不安定化という現代社会の状況を考えると、社会的連帯の形成に関する研究が必要であると考えられる。
著者
長屋 秀吾 成瀬 友貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2102, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】握力は、簡便で安全に計測可能な評価項目の一つである。多くの身体機能・能力との相関が報告されており、握力により種々の能力を予想することも可能である。対象者の握力を比較検討する際、文部科学省による年齢別握力平均を用いて比較検討することが可能である。しかし、発表されている握力は立位での平均値であり、座位や臥位での握力と比較検討することの妥当性は低い。この問題は同一の対象者での効果判定においても同様のことがいえる。先行研究では肢位別にすべての握力が相違するといった結果や、一部は相違するといった結果が報告されている。しかし、対象が高齢者のみに絞られている研究や実験対象者が著しく少ない研究などの課題が生じている。そこで今回の研究では健常成人の立位、座位、臥位における握力の違いを改めて明らかにし、また、各肢位間の関係を明らかにすることにより座位、臥位の握力を立位の握力へ補正し、より正確なデータでの比較検討を可能にすることを目的とした。補正は有意差の検定が可能である点、親しみやすい用語である点、分かりやすい数値である点からハンデ率を用いて行った。当研究でのハンデ率は、立位値を基準として肢位の違いをハンデとみなし、各肢位での値を立位値で除しその平均を求めたもの、と定義した。【方法】対象は健常成人50名(男27名、女23名)平均年齢27.78±6.67歳(男27.7±6.78歳、女27.87±6.4歳)である。立位、座位、臥位1(肩関節屈曲0度)、臥位2(肩関節軽度屈曲位で握力計とベッド上10cmの高さで計測)の4肢位にて計測した。計測は右左の順で2回ずつ行い最大値を採用した。1日の計測は1肢位のみとした。計測の順序は、被験者自身の選択により行なった。立位での計測は基本的に文部科学省新体力テストに準じた方法で実施した。座位での計測は背もたれ・肘掛を用いない端座位で股・膝関節は屈曲90度、足関節背屈0度にて行なった。臥位はほぼ立位と同様であるが、臥位1では握力計をベッドに押しつけないことを注意した。4肢位計測後、壁立位(壁に踵、体幹、頭部を接触させた状態で計測)を実施した。統計は各肢位間の有意差に関してはフリードマン検定(間隔尺度に対する統計法は通常反復測定一元配置分散分析を用いるが、今回は有意差の判定を行うには対象者が少ないことからフリードマン検定を用いた)、分散分析はシェッフェ法、立位値と臥位値の関係についてはピアソン関率相関を用いた。有意水準は5%とした。ハンデ率は小数点以下四捨五入とした。【説明と同意】参加者は、病院職員及び学生である。全参加者に対して、本研究の目的、方法を紙面と口頭にて説明し同意を得た。【結果】立位値と座位値の間には有意差は認められなかった。臥位1値と臥位2値の間にも優位差は認められなかった。一方、立位値、座位値と臥位1値、臥位2値の間には有意差が認められた(P<0.01)。再計測を行った壁立位値に関しては、立位値と座位値のそれぞれの間に有意差が認められた(P<0.05)。一方、壁立位値と臥位1値、臥位2値の間にはそれぞれに有意差が認められなかった。立位値と臥位1値との間には強い相関がみられ(r=0.89)、ハンデ率は臥位1値が立位値に対して93%だった(t>1.95)。【考察】立位値、座位値間と臥位1値、臥位2値、壁立位値間の有意差がなく、また、立位値、座位値と臥位1値、臥位2値、壁立位値間に有意差が認められた。それぞれの共通点、相違点は下肢、体幹、頭部の位置関係が考えられる。臥位1、臥位2、壁立位は各部位がベッド、壁に接しており、固定された状態となっている。一方、立位、座位は体幹と頭部が固定されている。つまり、矢状面では体幹と頚部の前屈による肘関節の屈曲により、上腕二頭筋の代償が作用したことや、体幹の前屈により同じ屈筋群としての手指屈筋群が働きやすくなったこと、前額面と水平面では体幹の側屈と回旋により末梢の筋を促通させたこと、などが立位値、座位値と臥位1値、臥位2値、壁立位値間の握力に優位な差を生じさせた理由ではないかと考えられる。【理学療法学研究としての意義】臨床において握力を計測し、時間的変化や他者平均値との比較を行う場合、同肢位での計測値が最も妥当性が高い。しかし、何らかの理由により同肢位での計測が困難な場合は、立位値と座位値間に関しては、それらを比較検討しても問題はないと考えられる。この結果は先行研究の健常高齢者に対する研究と類似しており、健常成人に対しても同じことがいえると考えられる。一方、立位値、座位値と臥位値間を比較検討することは妥当ではないと考えら、臥位値を立位値、座位値間と比較検討するには93%のハンデ率を考慮し補正する必要があると考えられる。
著者
馬場 星吾 寺尾 純二
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.4, no.7, pp.271-277,270, 2004-07-01 (Released:2013-06-01)
参考文献数
46
被引用文献数
1

野菜や果物などの植物性食品に含まれるポリフェノールは生活習慣病の予防に関わるフードファクターとして注目されている。ここではポリフェノールのバイオアベイラビリティーについて, とくにフラボノイド化合物であるカテキン類の生体への吸収代謝と生理活性との関連について最近の研究成果を報告する。ラットやヒトにおいて (+) -カテキンや (-) -エピカテキンは没食子酸が結合したカテキン類に比べて吸収されやすく, 血漿中では主にグルクロン酸抱合体, 硫酸抱合体, メチル化体およびそれらの複合体として存在する。ただし, ラットとヒトではその代謝物分布に相違があり, ヒトでは硫酸抱合体が相当量存在する。カテキン類の生理機能として抗酸化活性が考えられるが, 代謝物においてもカテコール構造が保持されたものは抗酸化力をもつ。また, カテキン代謝物は抗酸化活性以外にもカスパーゼ活性阻害やMAPキナーゼ不活性化による神経細胞のアポトーシス抑制作用を有することが報告された。したがって, カテキン類の機能を正しく評価するためには生体吸収率と代謝変換を考慮しなければならない。
著者
堀 誠治 川村 将弘
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雑誌 (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.460-463, 2002-07-25 (Released:2011-08-04)
参考文献数
9
被引用文献数
1

われわれは, 非ステロイド薬 (NSAIDs) とキノロン薬の薬物相互作用の強さを, mouse脳室内投与によるnorfloxacin (NFLX) およびgatinoxacin (GFLX) の痙攣誘発作用を指標として検討した。NFLXおよびGFLXの脳室内投与によりmouseに投与量依存的に痙攣が誘発され, その痙攣誘発作用はNFLX<GFLXであった。NFLXの痙攣誘発作用は, biphenylacetic acid (BPA), flurbiprofenの同時投与により増強された。Indomethacin, ketoprofenでは中等度の, loxoprofen,(-)-naproxenでは軽度の痙攣誘発作用増強が認められたが, ibuprofen, sodium diclofenac, mefenamic acid, tenoxicam,(+)-naproxen, aspirinおよびacetaminophenでは変化が見られなかった。一方, GFLXの痙攣誘発作用は, BPAで軽度増強されたものの, 他のNSAIDsでは変化を認めなかった。以上の成績より, NSAIDsによりキノロン薬との薬物相互作用の強さに違いがあり, さらに, キノロン薬との組み合わせによっても差のあることが明らかとなった。
著者
堀 誠治 川村 将弘
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雜誌 = Japanese journal of chemotherapy (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.460-463, 2002-07-25
参考文献数
9
被引用文献数
7

われわれは, 非ステロイド薬 (NSAIDs) とキノロン薬の薬物相互作用の強さを, mouse脳室内投与によるnorfloxacin (NFLX) およびgatinoxacin (GFLX) の痙攣誘発作用を指標として検討した。NFLXおよびGFLXの脳室内投与によりmouseに投与量依存的に痙攣が誘発され, その痙攣誘発作用はNFLX<GFLXであった。NFLXの痙攣誘発作用は, biphenylacetic acid (BPA), flurbiprofenの同時投与により増強された。Indomethacin, ketoprofenでは中等度の, loxoprofen,(-)-naproxenでは軽度の痙攣誘発作用増強が認められたが, ibuprofen, sodium diclofenac, mefenamic acid, tenoxicam,(+)-naproxen, aspirinおよびacetaminophenでは変化が見られなかった。一方, GFLXの痙攣誘発作用は, BPAで軽度増強されたものの, 他のNSAIDsでは変化を認めなかった。以上の成績より, NSAIDsによりキノロン薬との薬物相互作用の強さに違いがあり, さらに, キノロン薬との組み合わせによっても差のあることが明らかとなった。
著者
井村 仁
出版者
日本野外教育学会
雑誌
野外教育研究 (ISSN:13439634)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.85-97, 2006 (Released:2010-10-21)
参考文献数
45
被引用文献数
5

The purpose of this study was to examine the origin of outdoor education in Japan.Generally speaking, what we think of as organized camping first took shape and was implemented in the 1920's. However, outdoor education in Japan had its roots in back to Shugendo dur ng the Heian era. The following conclusions were obtained.1. Mountaineering was a main activity of Japanese outdoor education in the early days.2. Shugendo was not only the origin of mountaineering in Japan but also part of the basic culture of our country.3. The custom of Seijin Tozan (“initiation into adulthood”) directly influenced the origin of Gakkou Tozan (“school mountaineering”) in the early years of the Meiji era.4. The purposes of Gakkou Tozan (“school mountaineering”) in those days were to strengthen the mind and body of students, and help them learn about natural history.5. The concepts and practice of Shugendo were similar to those of adventure education and environmental education that researchers today consider elements of outdoor education.
著者
外川 一子
出版者
東京女医学会
雑誌
東京女医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.243-246, 1937-07
著者
石川 智佳代 小野 昌孝 荒木 徹也 相良 泰行
出版者
The Society of Agricultural Structures, Japan
雑誌
農業施設 (ISSN:03888517)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.123-130, 2002-09-25 (Released:2011-09-05)
参考文献数
7

ドライフラワの需要拡大のためには, 耐久消費財としてのドライフラワの作成とそれを応用した製品の開発が望まれる。このようなドライフラワを作成するためには, 生花と同様の形態と色彩の長期保持が望まれている。本研究では, ドライフラワ作成時における変形と変色を抑制し, さらに乾燥時間の短縮に最適な乾燥法を選択することを目的とし, リトルマーベル (バラ科バラ属) を供試材料とし, 従来から採用されてきた空気乾燥法に加えて, シリカゲル細粒充填層内に埋没させた材料を電熱ヒータで加熱して乾燥する方法, 凍結乾燥法および減圧マイクロ波乾燥法などを選び, その適用性を比較検討した。試料を固定した乾燥法では萎縮が少なく, その形態が保持された。また, 乾燥前後の花弁の色差は含水率の低下に伴い生じる萎縮により増大するが, 乾燥過程での萎縮の防止に有効な乾燥法を選択することにより抑制可能であることが分かった。色差発現の主要因はハンタ表色系におけるL*, b*値の減少によるものであることが確認された。ドライフラワの作成には形態, 色彩, 乾燥時間の面でヒータを併用したシリカゲル埋没乾燥法が最適であることが分かった。
著者
有富 正和
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.771-773, 1962-05-25 (Released:2010-02-19)
参考文献数
12
被引用文献数
1 3

Astragalin was isolated and identified from the flower petals of Rosa multiflora THUNB. Astragalin and trifolin were separated and identified from the flower petals of Rubus hirsutus THUMB.
著者
柴山 翔二郎 船津 公人
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第42回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.2A01, 2019 (Released:2019-10-22)
参考文献数
13

機能性ポリマーの新しい構造を実験で探索するのには限界がある。そこでケモインフォマティクスを利用して材料設計を行うが、新規材料の原料は市販されていないことが多く一般にデータが少ない。本研究ではポリマーを原料分子の記述子と組成比の線形和で表現し回帰モデルに線形モデルを選定することで、39サンプルのポリマーデータからモデル構築した。原料分子の記述子として文献値でなく分子構造に対して計算される分子記述子を使用することで、構造生成にも適用しうるモデルの構築を目指した。構築したモデルを利用して目的物性値に近づけるように原料組成比を最適化し、また、原料の構造生成を行った。フラグメント記述子で原料を表現したため、構造生成にあたりmol2vecを用いてフラグメント記述子の分散表現を活用した。原料組成比を最適化した結果を実際に合成したところデータになかった組み合わせにおいて目的物性値が最も目標値に近づいた。本発表では方法論に焦点を当てて紹介する。
著者
北村 由羽 寺戸 えみ 田中 大輔
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第42回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.1P25, 2019 (Released:2019-10-22)
参考文献数
3

金属-有機構造体 (MOFs) の合成においては, 反応条件のわずかな違いにより様々な 反応状態を経由するため, 結晶構造が異なる結晶生多形が多数生じる可能性がある. 特 に, ランタノイド金属 (Ln) を中心に持つ Ln–MOFs は複数の結晶多形が存在する. 合 成におけるパラメーターは無数に存在し, これらの要素は複合的に影響するため, その 影響の評価が困難であり, 結晶多形を選択的に合成するためには試行錯誤に基づく実 験が必要不可欠であった. 本研究では, 機械学習を活用し, Ln–MOFs 合成における支 配的因子を統計的に評価することを目指した. 実際に, 溶液の濃度, 反応温度や時間, 金属の種類など様々な条件を組合せソルボサーマル合成を行い, 実験データの収集を 行い, 実験結果に対して決定木学習を行った. その結果, 合成に影響を及ぼす支配的因 子はランタノイドの試薬会社であることが明らかとなり, 試薬中に含まれるわずかな 不純物の存在が結晶化に影響を及ぼすことが示唆された.
著者
山本 寛人 田中 健一 山下 俊介 浮田 昌一 中野 博史 白沢 楽 冨谷 茂隆 小寺 正明 船津 公人
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第42回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.1P19, 2019 (Released:2019-10-22)
参考文献数
4

電子エネルギー損失分光法(EELS)から得られたスペクトルデータの解析手法について報告する。EELSは電子線を試料に照射し、透過した電子線に磁場をかけて分光し、エネルギー損失から試料の状態を推定する分析手法である。提案手法では、EELSスペクトルデータに2種類の前処理を適用し、主成分分析による解析を行った。ドライエッチング時のダメージの状態把握および、GaInN量子井戸におけるインジウム含有量の推定結果について報告する。