著者
齋藤 智也 福島 和子 阿部 圭史 氏家 無限 梅木 和宣 大塚 憲孝 松本 泰治 難波江 功二 中谷 祐貴子 中嶋 建介
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.105-114, 2015-06-25 (Released:2016-02-27)
参考文献数
27

わが国では,エボラ出血熱は,感染症法の一類感染症に位置づけられている.しかしながら,平成11年の感染症法の施行以降,これまで一類感染症であるウイルス性出血熱の感染が疑われる患者検体の検査を国立感染症研究所で実施することはあったものの,国内で感染が確認された患者はいない. 平成26年の西アフリカでのエボラ出血熱流行に対しては,厚生労働省でも3月のギニアからの第一報から情報収集を継続して状況を注視し,対応を行っていたが,8月より検疫対応及び国内対応の強化を開始した.10月末にはエボラ出血熱等対策関係閣僚会議が設置され,政府一丸となった対応を開始するに至った.一連の対応は,国内発生が非常に稀なウイルス性出血熱のような輸入感染症に対する対応体制を大きく底上げした一方で,様々な教訓を残した.今回の流行が終息したとしても,国際的なウイルス性出血熱のアウトブレイク発生リスクは今後も変わらない.今回の知見と経験を踏まえ,国内対応の観点からは,マニュアル等の改善,継続的な訓練の実施による一類感染症等に対する感染症危機管理体制の維持・向上のほか,国際的な対応への貢献という観点からも,人材育成等を推進していくことが重要である.
著者
功刀 浩 太田 深秀 若林 千里 秀瀬 真輔 小澤 隼人 大久保 勉
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.177-181, 2016

近年,緑茶の飲用頻度が高いとうつ病など精神疾患のリスクが低いことが指摘されている。緑茶特有の成分であるテアニン(L-theanine:N-ethyl-L-glutamine)は,グルタミン酸に類似したアミノ酸で,リラックス効果があることが知られていた。筆者らは動物実験により,テアニンはprepulse inhibition[PPI]で評価した感覚運動ゲイティング障害を改善する効果があるほか,持続的投与では強制水泳テストの無動時間を減少させ,海馬での脳由来神経因子の発現を高めるなど抗うつ様効果も認める結果を得た。健常者を対象にテアニン(200mgまたは400mg)を単回投与するとPPIが上昇することを見いだした。慢性統合失調症患者に8週間投与したところ,陽性症状や睡眠を改善する効果がみられた。大うつ病患者に対する8週間のオープン試験では,うつ症状,不安症状,睡眠症状に加えて認知機能の改善が観察された。以上から,テアニンは多彩な向精神作用をもち,統合失調症やうつ病といった精神疾患に対して有用である可能性が示唆された。
著者
木下 美咲
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.163-167, 2018 (Released:2018-07-06)
参考文献数
33

1 0 0 0 OA 木枯

著者
市川新蔵 著
出版者
春陽堂
巻号頁・発行日
1893
著者
藤石 貴代
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は,1940年代前半期の朝鮮半島で唯一,発行を許可された月刊文芸誌『国民文学』(1941.11~1945.5通巻39号)誌の編集者であった金鍾漢の「国民文学(論)」を,日本帝国主義に対する抵抗か屈従(親日)かの政治的二項対立からの評価ではなく,朝鮮文人たちの朝鮮(語)文学存続のための試論として捉え直し,その内容と変化を明らかにすることである.2015年度から2016年度にかけては,在朝日本人作家(則武三雄)による同時代評に着目したが,2017年度には,「国民文学(論)」の存立が朝鮮半島に限定されるものでなく,日本内地の「地方」においても,変革を余儀なくされる戦時体制下の文学運動として把握された例を,戦前・戦中・戦後を通じて新潟で発刊された詩誌『詩と詩人』の調査により確認した.地方から大政翼賛会や放送局に「献納」された「愛国詩」の朗読運動に着目し,日本放送協会編『愛国詩集』(1942年)等に掲載された詩篇の調査を行った.調査の過程で,『詩と詩人』編者の浅井十三郎が,「愛国詩運動」としての「朝鮮の“國民詩歌”」に関心を持っていたことが明らかになった。『国民詩歌』は朝鮮文人報国会の機関誌であり,後に(1944年10月)『国民文学』と同じ発行所から『国民詩人』として刊行されることになる.2015年度に,『国民文学』主幹であった崔載端(1908-64)の恩師であり,英文学者で詩人の佐藤清(1885-1960)と浅井十三郎との交流を指摘したが,両者の接点をあらためて確認した.
著者
広渡 清吾
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、グローバル化の下で、先進諸国にとって共通の課題となっている国際移住(international migration)について、それに対する政策と法制度の対応をドイツと日本を対比しながら検討し、今後の日本の政策的課題を明らかにすることを目的とした。現代の国際移住は、(1)労働移住、'(2)家族の後追い移住、(3)難民の3つに大別される。移住は、一時的なものと継続的なものの両者を含むが、継続的なものに関して、受け入れ国の政策的、法制度的対応がとくに必要になっている。移住に関わる政策においては、受け入れ国の対応体制を求める移住者の側の視点と、他方で労働市場政策および人口政策を勘案する受け入れ国の側の視点2つが絡み合っている。ドイツについては、2004年に成立した移住法(Einwanderungsgesetz)の分析を行った。同法の目的および法システムの編成は、国際移住の基本カテゴリーへの対応、移住者側の視点および受け入れ国側の視点の両者の顧慮、なちびに定住化する移住者の社会的統合措置へのシステム整備などにおいて、国際移住に関する法制度を論じるための準拠モデルとみなせるものとなっている。ドイツの立法動向は、EUの政策動向と結びつけて論じる必要のあることが研究の過程でいよいよ明確になってきたので、国際移住に関するEUの政策と法制度についても検討した。日本政府は、この10年間、もっぱらその関心を国内の景気回復、行財政の効率化に向けて外国人労働者問題を重要な政策的課題としてとりあげることがなかった。それゆえ、ドイツやEUの政策的制度的議論に比すべき展開がみられない。このなかで日本経団連の外国人労働者の受け入れに関する政策提言が注目すべきものである。また、アジア諸国との経済連携協定の締結は、労働移住・国際的人的交流のネットワークの形成の展望と関連づけて議論されており、今後の重要な検討材料である。移民政策は社会の少子化との関連で日本、ドイツまたEUでも論じられている。移民政策が少子化をくいとめることができるかどうかは、今後の一層の検討を要する課題である。

1 0 0 0 OA 古文旧書考

著者
島田翰 著
出版者
民友社
巻号頁・発行日
vol.第一巻, 1905
著者
涌井 恵
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.63-73, 2003-08-30 (Released:2009-11-19)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本研究は発達障害児集団において短期援助スキル訓練を行った後,強化の随伴単位をペアとする集団随伴性が標的行動(相談やりとり)に及ぼす効果と自発的な援助行動の会話調整機能について個人随伴性と比較した.その結果,対象児3名中2名には,集団随伴性が標的行動の獲得に及ぼす効果は明確には示されなかった.介入終了後の集団随伴性の理解度についてのアセスメントから,残りの1名は集団随伴性の相互依存性を全く理解しておらず,実際は集団随伴性期に漠然とした個人随伴性による強化が働いていたことが示された.先述の2名は,相互依存性を理解していたものの,ペアの強化まであといくつ正反応が必要か逆算できず,また,ペアの不足(誤反応)分を自分が補えることを知らなかった.自発的な援助行動には三者三様の結果が示された.本研究から,発達障害児集団に集団随伴性を適用する際に考慮すべき条件の1つとして対象児の数的処理能力が指摘された.
著者
László Bozó Wieland Heim Daronja Trense Pia Fetting Hans-Jürgen Eilts Jonas Wobker Tibor Csörgő
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
ORNITHOLOGICAL SCIENCE (ISSN:13470558)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.177-181, 2019 (Released:2019-07-29)
参考文献数
31

The aim of our study was to describe the migration timing of two Siberian Locustella species at a breeding site in the Russian Far East. Our results show, that juvenile Lanceolated Warbler Locustella lanceolata leave the study site earlier than adults, while juvenile Pallas's Grasshopper Warbler L. certhiola start their migration later than adults, which might be caused by juveniles and adults moulting at different times. Both species undertake a fast migration without long-term stopovers at the study site.
著者
尾崎 千佳
出版者
日本近世文学会
雑誌
近世文藝 (ISSN:03873412)
巻号頁・発行日
vol.108, pp.17-36, 2018 (Released:2019-01-31)

It is often said that Nishiyama-Sōin, the master of renga linked verse, had started rendering haiku poems as a hobby since he became a Buddhist priest. This article will point out the falsehood of this view to review what it was to make renga and haiku poems in his literary and religious career. He actually started haiku not as a hobby but for a more practical purpose; he became so much engaged in social intercourse after entering the priesthood that he exploited haiku to facilitate his public life. This is why he used a different poetical pseudonym according to whom he entertained. Taking advantage of the rise of Ōbaku, the third sect of Zen Buddhism, Sōin gained a good reputation as a haiku poet with his songs of the culture of western Japan. Meanwhile he also continued to play a leading role in the renga circle of Ise Shrine. In short, he shrewdly adopted a double persona as a renga master and as a haiku poet to attain secular popularity.
著者
椙本 歩美
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.73-89, 2018 (Released:2018-10-29)

戦後73 年が経過し、戦争の記憶の継承が課題となっている。しかし戦争体験は、当事者にとって語り難いものであり、それゆえに語り手となることもまた難しい。秋田市には県内で唯一、戦争体験の語り部の会がある。本稿では、この語り部の会を設立した人物に焦点を当てる。小中学生時代を戦中・戦後に生きた設立者が語る戦争は、生活体験としての記憶であり、その中で学校教育や社会の矛盾について、子ども心に抱いた多くの疑問を語り手に訴えるものであった。この個人の経験が、その後の秋田市語り部の会の設立にも影響していると考えられる。設立者は戦争体験について、何を、誰に、なぜ語るのだろうか。秋田市語り部の会の設立者のオーラル・ヒストリーを通して、会の特徴や目的について理解を深めたい。
著者
岩下 和裕
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.96, no.10, pp.669-678, 2001-10-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
31

焼酎醸造に用いる白麹菌のβ-グルコシダーゼは, 同じ遺伝子から生産される酵素タンパク質なのだが, 培養条件によって, 酵素の局在性が異なる。すなわち, 個体培養 (麹) では分泌型, 液体培養では細胞壁型酵素として生産される。著者は酵素の安定性と局在性に関する成分が菌体外可溶性多糖 (ESP) であることを明らかにした。ESPの本体は細胞壁多糖画分の一部であると示唆されているが, 現在のところ未知な部分も多い。ESPの研究が進展し, 将来, 各種酵素の安定化などへ広く応用されることが期待される。
著者
川谷 豊彦 藤田 早苗之助 大野 忠郎 久保木 憲人
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.58-61, 1958-01-25 (Released:2010-02-19)
参考文献数
6

1) It was found that the cultivation of Ammi visnaga LAM. in Japan should start with autumn sowing during the middle of October, at the latest, from the point of growth, yield of fruit, and content of khellin (Table I).2) The optimal soil moisture in the said cultivation seems to be in the range of 60-70% of the water capacity from the point of growth, yield of fruit, and khellin content (Table II).3) This plant grows favorably in the soil with pH ranging from 6.5 to 7.5, with neutral reaction as the median point.4) It was confirmed through experimental cultivation extending from 1951 to 1955 that the cultivation of this plant should be made in a place with small amount of rainfall during the summer and a well-drained soil rich in clay (Tables II and III).5) Comparative cultivation was carried out with five foreign strains with different origin (khellin content of the original seed, 0.61-0.94%) and the khellin content of the fruit from these cultivated plants was 0.32-0.51%, indicating a fair decrease of the content. However, this was thought to be due to the profuse generation of diseases during August, before flowering, and unhealthy fruit had been mixed (Table IV).6) In one individual plant, the fruits that ripened earlier seemed to have higher content of khellin (Table V).
著者
松本 昭彦
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.9, pp.53-60, 2006-03

本年7月,キミ子方式のペン画の描き方を岡崎市立常磐南小学校の9名の教諭たちに体験してもらった。その後の教諭たちに指導された児童らの作品や感想文から判断すると,描き方について具体的な指示のあるキミ子方式は,観察力と描写力の向上だけでなく,人間性の成長にも効果があったと思われる。教師が変われば子どもらも変わると言えよう。それゆえ教える側の教師が学ぶことは,教育を改善していくための原動力になるものと考える。