著者
布井 雅人 吉川 左紀子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.87.15043, (Released:2016-05-10)
参考文献数
16

Our preferences are influenced by the presence of others. However, it is unclear how the simultaneous presence of multiple others influences preference judgment. In this study, we presented multiple happy or disgust face images around a target and examined their influence on target preference. In Experiment 1, we presented only happy or disgust faces in order to examine the influence of quantity. In Experiment 2 and 3, we manipulated the ratio of happy or disgust and neutral faces. Findings revealed that the happy face increased the target preference and its effect varied by the ratio of happy faces. On the other hand, the disgust face decreased the target preference only if there was one such face. These results indicate that although the numeric information of others’ facial expressions influences preference judgment, this influence differs with the nature of others’ expressions.
著者
鈴木 高志 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.51-63, 2011-03-30 (Released:2011-09-07)
参考文献数
42
被引用文献数
7 3 3

現在の学習が将来のために役立つと位置づける認知, すなわち「利用価値」は学習動機づけに適応的・不適応的両面の影響を与えるといわれてきた。本研究では, Kasser & Ryan(1993, 1996)の将来目標の内発—外発の2分に従って, 利用価値を, 展望する将来目標により2分し (1) 現在の学習が将来の自己成長や社会貢献といった内発的将来目標のために役立つと考える「内発的利用価値」と, (2) 現在の学習が将来の金銭的成功や名声の獲得といった外発的将来目標のために役立つと考える「外発的利用価値」とを下位尺度とする「内発的-外発的利用価値尺度」を作成した。その上で, 高校1年生(N=318)に対する調査で学習動機づけへの影響を検討した。その結果, (1) 内発的利用価値は, 主にマスタリー目標志向性を媒介に内発的動機づけなど適応的な学習動機づけを促進するのに対して, (2)外発的利用価値は, 主に遂行回避目標志向性を媒介に勉強不安など不適応的な学習動機づけに影響を及ぼす可能性のあることが分かった。さらに, 内発的-外発的利用価値がもつ達成目標志向性の先行要因として意義, 介入への示唆および今後の展開について議論する。
著者
高 史明 雨宮 有里
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.67-76, 2013-01-20 (Released:2017-03-02)
被引用文献数
1

It has been shown that with regard to Blacks in the US, in addition to old-fashioned racism (a traditional and blatant form of racism), modern racism (a more subtle form, where one denies racism but nevertheless holds negative affect and belief against Blacks) has appeared in the post-Civil Rights Movement era (McConahay, 1986). Using the questionnaire method and exploratory factor analysis for Japanese college students, the present article revealed that this distinction between the two forms of racism is useful to describe racism against Zainichi Koreans (Korean residents in Japan). Furthermore, the present research investigated the consequences and underlying factors of the two forms of racism. Racism intensified contradictory discontent against Zainichi Koreans simultaneously, and had expected effects on the estimation of the number of Zainichi Koreans per unit of a certain kind of worker and people on social welfare in Japan. Protestant work ethics (Mirels & Garrett, 1971) intensified and humanitarianism-egalitarianism (Katz & Hass, 1988) weakened the two forms of racism. Implications of these findings were discussed.
著者
中島 徹也
出版者
公益財団法人 竹中大工道具館
雑誌
竹中大工道具館研究紀要 (ISSN:09153685)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.45-101, 2023-03-20 (Released:2023-03-20)
参考文献数
20

本稿は明治時代から大正、昭和にかけて活躍した大阪の大工道具鍛冶一門「善作」を調査したものである。主な内容は次の通り。 1. 「 善作」には言い伝えや伝説は多数あるが、正確な情報に基づく考察はこれまで無かった。そこで、竹中大工道具館が所蔵する善作の資料や一般書籍に掲載されている記事はもちろん、大工や木工家、道具商などがこれまで個人で調査された情報も加味し、現時点で善作について分かっていることをまとめた。 2. 初代から三代に至る善作の経歴を明らかにした。 3. 三代目善作の疎開先について関係者の証言を得ることができた。 4. 作品の判断基準を示し、現時点で把握している作品と刻印を一覧表にまとめた。
著者
吉田 紅
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.691-699, 2019-10-05 (Released:2020-03-10)
参考文献数
18
被引用文献数
1

ブラックホールがこれほどまでに人々を魅了するのは,「一度入ってしまうと,二度と出てくることはできない」という神秘性からであろう.しかし,この不可逆性は物理学的な立場から見ると,非常に奇妙な代物である.我々がこれまで観測してきた全ての現象は量子力学を用いて説明することができるが,量子力学は可逆の理論である.現在の状態を知ることで過去の状態を完璧に遡ることが原理的には可能なのである.この量子力学と重力理論,特にブラックホールの物理との不整合は,ブラックホール情報損失問題と呼ばれている.長らくこの問いに対する我々の答えは,系を記述する運動方程式があまりに複雑すぎて過去まで遡ることができないだけだというものだった.たとえ最初は局所的だった量子情報も,ブラックホールに落ちていく過程で複雑な相互作用を経て,ブラックホールの外にいる観測者の立場からは,まるで非局所的なものに変換されたように見える.それは到底観測できないような物で,損失したも同然だ.この現象はスクランブリング(量子情報の非局所化)と呼ばれており,まさに量子版のバタフライ効果である.このような背景から,ブラックホールの量子カオス的な時間発展は,量子情報の非局所化が最も強く純粋な形で見られる系ではないかと思われてきた.しかし約十年ほど前に,ブラックホール情報損失と量子カオスに関する衝撃的な結果が2人の量子情報理論研究者ヘイデン(Hayden)とプレスキル(Preskill)によって発表された.彼らは通常考えられてきた物とは異なる,「古いブラックホール」と呼ばれるエントロピーの半分以上をすでにホーキング輻射で失ったブラックホールを考察した.そして,運動方程式をランダムなユニタリー発展と仮定する簡単なおもちゃの物理モデルを使うことで,ブラックホールに落ちてしまった情報を非常に短い時間スケールで取り出すことが「原理的には可能」であることを発見したのである.ブラックホールがまるで鏡のように情報を即座に跳ね返すというこのヘイデンとプレスキルの結論は,スクランブリング現象及び情報損失問題の研究に革命的な発展をもたらしつつある.これまでとは全く異なる新しい物理量が量子カオスの秩序パラメータとして考案され,新たな重力ホログラフィーの模型が提案された.その影響は重力,量子情報,そして物性物理にまで及び,最近ではこれらの概念は実験家の興味の対象にさえなっている.しかし,これらの結果が真に驚くべきものである点は,「情報の取り出し可能性」がまさに「ブラックホールの量子カオス性」からの帰結であることである.もし,ブラックホールが量子情報を非局所化しない非カオス系であったならば,ヘイデンとプレスキルの言ったような情報の取り出しは不可能なのだ.量子情報理論的概念の応用から得られたこれらの一連の結果は,情報喪失問題に対する新しいアプローチを生み出すこととなった.「ブラックホールからは二度と出てくることはできない」というのは迷信だったのであろうか? ブラックホールの事象の地平線は本当に絶対的な存在なのだろうか? これらの問いを,量子情報の非局所化という視点から今一度見つめ直してみよう.
著者
末松 大貴
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.161-181, 2020-12-28 (Released:2021-04-14)

近年,SNSで自律的に日本語を学ぼうとする「新しい日本語学習者」が注目されている。しかしこれまで「新しい日本語学習者」の学習支援者に注目した研究は見られない。本研究では,「新しい日本語学習者」とその学習支援者が参加するFacebook上のあるコミュニティにおいて,「学習支援者が,その「コミュニティ」と「学習支援者という立場」についてどのように意識しているのか」という点について,比喩生成課題を用いて分析を試みた。その結果,コミュニティの他の学習支援者について,技術面・知識面の向上や新たな教育観の獲得という面と,学習支援者同士の曖昧な関係という2点を意識しているという特徴が見られた。そして,オンライン上の学習コミュニティにおいて学習支援者の関係性の構築のために,①.コミュニティ内での活動を通した日本語教育に関する「〇〇とは何か」というテーマの発見,②.「〇〇とは何か」というテーマを自身が考える従来のコミュニティとの比較,③.①と②を経て得た気づきを他の学習支援者と交換すること,以上3点が必要ではないかということを述べる。
著者
杜 健 加藤 和生
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-9, 2020-07-31 (Released:2020-07-31)
参考文献数
34

It has been asked theoretically whether or not more Self-Concept Differentiation (SCD) leads to better psychological adjustment; empirical findings, however, have shown results inconsistent with theoretical hypotheses so far. We argued that previous studies have focused only on the differentiation of self, without acknowledging two types of people being possibly confounded. We hypothesized that the tendency of thinking in more abstract/organized vs. concrete/unorganized ways (as measured by Level of Personal Agency, LPA) would be one of the factors that could distinguish those two types. To examine this possibility, 320 Chinese college students were asked to complete a questionnaire including measures of SCD, LPA, and Subjective Well-Being (SWB). Findings demonstrated the expected significant interaction between LPA and SCD. In the low LPA group, high SCD students self-rated lower in SWB than low SCD students; in the high LPA group, however, high SCD students scored higher in SWB than low SCD students. Those findings suggested that to predict psychological adjustment, we need to take into account not only the extent of SCD, but also the organizing tendency of thinking.
著者
林 正義
出版者
会計検査院
雑誌
会計検査研究 (ISSN:0915521X)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.5-12, 2023-03-17 (Released:2023-03-17)
参考文献数
29
著者
石脇 智広
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.368-374, 2007-09-25 (Released:2008-09-19)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

コーヒーは石油に次ぐ貿易量を誇る国際商品である.そして日本の輸入量は年間40万tを越えており,今や世界第3位の輸入国となっている.コーヒーの品質を管理するために生産国,消費国でさまざまな品質検査が行われているが,官能評価はその中でも最も重要なものとして位置づけられている.本稿ではコーヒーの基礎的な知識を述べた上で,官能評価について,目的,手法をまとめた.また,業界全体の動向として,コーヒーインストラクター検定についてその概要を述べた.
著者
河野 恵三 宮田 聡美 新井 成之 有安 利夫 三皷 仁志 牛尾 慎平
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】我々は昨年の本学会で、第3類医薬品「錠剤ルミン®A」の主要な有効成分NK-4が、マクロファージ(Mφ)様に分化させたTHP-1細胞に対して、M1 Mφマーカーの発現増強、TNF-α/IL-10産生比の増加やビーズの取り込み亢進など、貪食能の強いM1様Mφへ分極させることを報告した。今回、錠剤ルミン®Aの一般創傷に対する作用機序を明らかにするため、アポトーシス細胞の貪食(Efferocytosis)による炎症性M1様Mφから創傷治癒能の高い抗炎症性M2様Mφへの移行に及ぼすNK-4の効果について検討した。【方法と結果】①NK-4 (1-5 μM)によりM1様Mφへと分極したTHP-1細胞を、過酸化水素処理によりアポトーシスを誘導したJURKAT E6.1細胞(Apo-J)と、1 : 0.25~2の割合で混合し37℃で1時間共培養後にLPS (1 μg/ml)で刺激し、サイトカイン産生を調べた。その結果、NK-4濃度依存的且つApo-J細胞数依存的なTNF-α産生抑制と、対照では見られないIL-10産生の有意な増加が認められた。一方、TGF-β産生に影響は認められなかった。TNF-α/IL-10産生比でみると、細胞比1:1の場合、LPS単独刺激に対して対照では28.8 ± 9.7% (n=3)低下したのに対して、NK-4 (5 μM)処理では83.7 ± 8.7% (n=3)の低下が見られ、NK-4処理細胞で抗炎症性M2様Mφへの移行が促進していた。またNK-4処理細胞で対照よりも強いApo-Jの貪食が見られた。②Efferocytosisに重要なPhosphatidylserine とMφ上の受容体との結合をAnnexin Vで阻害すると、TNF-α産生抑制は完全に回復したが、IL-10産生増強には影響が見られなかった。③Cytochalasin DでApo-Jの貪食を阻害すると、IL-10産生増強作用のみが見られなくなったことから、IL-10産生増強作用はApo-Jを貪食することが重要であると考えられた。④Efferocytosisで活性化されるPI3K/Akt経路の関与を調べた結果、Western BlottingではNK-4処理細胞とApo-Jとの共培養によりAktの強いリン酸化が認められた。またWortmannin 処理ではNK-4処理細胞におけるTNF-α産生抑制は部分的に回復し、IL-10産生増強は完全に低下した。【考察】NK-4は創傷時にMφを貪食能の強いM1様Mφへと分極を促進すると共に、炎症の収束へ向けてEfferocytosisを高めて、炎症性M1様から抗炎症性M2様Mφへの移行を促進することで治癒を高めることが考えられた。またその作用機序としてPI3K/Akt経路の活性化の関与が示唆された。
著者
向山 直佑
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.34-56, 2018-12-15 (Released:2019-03-25)
参考文献数
52

石油をはじめとする天然資源が民主主義を阻害するという「資源の呪い」に関する研究は,石油と民主主義の間に負の相関関係を見出す「資源の呪い」肯定論に対し,それを真っ向から否定する否定論,そして「呪い」は特定の場合にしか成り立たないとする条件論が修正を迫るという形で展開してきた。最近の研究では,「資源の呪い」には時間的・空間的な限定が付されるようになっており,これは一方で理論の精緻化に結びつくものではあるが,他方で歴史的,あるいは国際的な要因の軽視に繋がる危険性を孕んでいる。植民地支配から脱植民地化に至る期間にまで遡って分析の対象とし,かつ国際関係の影響に注目しつつ研究することで,資源と政治体制の間の因果関係のより的確な理解に近づくことができる可能性がある。
著者
Mohamed Yahia EDRIES Atomu TANAKA HORYU-IV Team Mengu CHO
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR AERONAUTICAL AND SPACE SCIENCES
雑誌
TRANSACTIONS OF THE JAPAN SOCIETY FOR AERONAUTICAL AND SPACE SCIENCES, AEROSPACE TECHNOLOGY JAPAN (ISSN:18840485)
巻号頁・発行日
vol.14, no.ists30, pp.Pf_7-Pf_16, 2016 (Released:2016-02-13)
被引用文献数
3 3

HORYU-IV is a lean satellite weighing 10 kg or less designed at the Kyushu Institute of Technology. It is planned to be launched with the ASTRO-H in FY2015 as a piggyback on an H-IIA rocket. The main mission of HORYU-IV is to acquire on-orbit data of discharge phenomena occurring on high-voltage solar arrays. An electrical power subsystem (EPS) is one of the HORYU-IV bus subsystems. The function of the EPS is to provide uninterrupted power to all subsystems during the satellite's lifetime. High reliability, high efficiency and simplicity are the main requirements to be considered in the design of an EPS. Generally, an EPS consists of solar arrays, rechargeable batteries, and a power control and distribution unit (PCDU). A peak power tracking topology is preferred to extract the maximum power generated by the solar arrays. The extra energy is stored in nickel-metal hydride batteries. The simple design and usage of available commercial-off-the-shelf components are the main features of the PCDU which controls the battery charging and load voltage regulation. Functional tests under different operating conditions were carried out on the designed EPS to qualify its performance. The aim of this paper is to explain the design of the EPS, and to present and analyze the test results.