著者
小野田 亮介 河北 拓也 秋田 喜代美
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.403-413, 2018-03-01 (Released:2018-03-16)
参考文献数
21
被引用文献数
2

本研究の目的は,付箋により意見を分類しながら共有すること(付箋分類介入)が議論プロセスに与える影響をシャイネスとの関連に着目して明らかにすることである.大学生32名を対象とし,シャイネス低群と高群のペアを,意見を書きながら共有する対照条件と,付箋を用いて意見を分類しながら共有する実験条件に半数ずつ割り当てた.条件間で発話傾向を比較した結果,対照条件に比べ,実験条件において「主張」や議論の方向性を決める「方針」の発話数が増加し,「つぶやき」の発話数が減少する傾向が認められた.議論プロセスの分析から,実験条件では,付箋を介して思考プロセスを共有していたのに対し,それができない対照条件では,つぶやきによって思考プロセスを共有する傾向にある可能性が示唆された.また,付箋分類介入はシャイネスの高さを補償し,既出意見と異なる新たな意見を提示する「新規アイデア」の発話を促していたことが示された.
著者
岡崎 正道 OKAZAKI Masamichi
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
言語と文化・文学の諸相
巻号頁・発行日
pp.105-119, 2008-03-21

1970年11月25日,作家三島由紀夫(1925-70)は「楯の会」の同志とともに東京市ヶ谷の陸上自衛隊東部方面総監部に乱入,広場に集まった自衛隊負に向かいバルコニーから「檄」を飛ばす演説を行なった後, 総監室内で「楯の会」会員森田必勝の介錯のもと割腹自殺を敢行した。その「倣文」に日くわれわれは戦後の日本が経済的繁栄にうつつを抜かし,国の大本を忘れ,国民精神を失ひ,本を正さずして末に走り,その場しのぎと偽善に陥り,自らの魂の空自状態へ落ち込んでゆくのを見た。政治は矛盾の糊塗,自己の保身,権力慾, 偽善にのみ捧げられ,国家百年の大計は外国に委ね,敗戦の汚辱は払拭されずにただごまかされ,日本人自らの歴史と伝統を汚してゆくのを, 歯噛みをしながら見てゐなければならなかった。われわれは今や自衛隊にのみ,真の日本,其の日本人,真の武士の魂が残されてゐるのを夢みた。敗戦後の「ヤルタ・ポツダム体制」により民族精神を去勢され,自衛隊は米国の傭兵になり下がり,国家の根本義たる防衛問題がご都合主義的法解釈によってごまかされ,それが日本人の魂の腐敗,道義の退廃の根本要因となっていると,三島は満腔の憤激をこめて主張した。「建軍の本義とは,天皇を中心とする日本の歴史・文化・伝統を守ることにしか存在しない」とも喝破した。平和と民主主義を謳歌する"昭和元禄"の時世に突然の雷鳴の如き衝撃を与えたこの三島事件は,「三島は気が狂ったとしか考えられぬ」(佐藤栄作首相),「気違いはどこにでもいるものだよ」(大内兵衛元東大教授)というように,あくまで発狂者の常軌を逸した凶行と捉える論調が大勢であった。その政治的意味についても,大かたは狂信的右翼思想の発露と認識されたように思う。他方三島は死の前年,1969年5月13日に東大で開催された「全共闘と三島由紀夫の公開討論会」に出席,全共闘活動家の芥正彦・小阪修平らと国家や天皇等をめぐっての激論を展開している。その中で三島は,「諸君らが戦後日本の欺瞞と対決しようとしている姿勢に共鳴する。君たちがただ一言"天皇万歳"と言ってくれたら,私は一緒に闘って死ねる」と発言した。当時「新左翼」と呼ばれ,社会党・共産党などの旧左翼を超えるラデイカリズムを行動の核心としていた全共闘運動に対する三島のシンパシー濃厚なスタンスを見れば,左翼=進歩革新,右翼=保守反動などといった単純な図式的規定はあまり意味をなさないことが明らかとなる。本論考では,日本の左翼・右翼という概念が明治維新以来の近代日本の歴史の展開の中でどのように形作られていったのかをそれぞれ左右両翼の祖と言われる中江兆民(1847-1901) ・頭山満(1855-1944)という二人の人物,および彼らに連なる諸群像を軸に考察してみたい。
著者
逓信省電気局 編
出版者
逓信省電気局
巻号頁・発行日
vol.昭和6年9月, 1931
著者
畝田 道雄 中出 到 石川 憲一
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会学術講演会講演論文集 2015年度精密工学会春季大会
巻号頁・発行日
pp.199-200, 2015-03-01 (Released:2015-09-01)

日本刀は我が国の工業技術の原点と言えるものであり,現代においても刀匠の弛まぬ努力によって歴史を貫くハイテクノロジーの一つとして継承されている.ここで日本刀の特徴に言及するとき,鎬地に彫り通された溝である「樋」については宗教観や装飾の視点から各種考察が施されているが,科学的には不明な点が多い.本研究では「樋」の科学的な効果について,材料力学的並びに流体力学的アプローチによって得られた結果を報告する.
著者
林 邦彦
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of informatics for arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
no.32, pp.55-74, 2020-03

アーサー王伝説に題材を取ったアイスランド語による文学作品としては、アーサー王妃との不倫などのエピソードで知られる騎士ランスロット(ランスロ)を主人公とした作品は少なくとも現存はしない。一方、アイスランドで独自に物語が作られたと考えられ、複数のアイスランド語作品におけるアーサー王の名前の表記と同じアルトゥース(Artus)という名のイングランド王が登場する『美丈夫サムソンのサガ』と呼ばれる作品は、ランスロットを主人公とした大陸の作品との間で複数のモチーフの共通が指摘されているが、一般にはアイスランド独自のアーサー王文学作品とは認識されない傾向にあり、本作を扱った先行研究も少ない。そこで、本稿では『美丈夫サムソンのサガ』について、先行研究で指摘されているアーサー王物語のモチーフの大半が位置する作品前半部に焦点を当て、本作前半部の物語全体としての構造とその特徴について考察し、本作をアイスランドで独自に著されたアーサー王文学作品として位置づけることを試みたい。Erec et Enide, Yvain, and Perceval, all of which are Arthurian works by Chrétien de Troyes, who is also the author of Lancelot, are said to have been translated into Norwegian, but are now preserved exclusively in the Icelandic manuscripts, but any Northern European reduction of the so-called Lancelot romance is handed down till this day. On the other hand, the work called Samsons saga fagra, whose protagonist Samson is the son of the king "Artus" of England, is usually not regarded as an Icelandic original Arthurian romance in spite of many motifs, whose close relationship with a continental Lancelot romance is pointed out, and the work has not yet been well investigated. In this article, after glancing over the synopsis of the work Samsons saga fagra and mentioning the motifs in the saga whose Arthurian origins have been pointed out, the structure of the first half of the plot will be investigated, then this article attempts to position the saga as an Icelandic original Arthurian romance in the history of the Arthurian literature.
著者
当山昌直
雑誌
Majaa (琉球哺乳類研究会誌)
巻号頁・発行日
vol.1, 1981
被引用文献数
1
著者
日合 あかね
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
no.4, pp.96-107, 2005-05-28

本稿の目的は、女性の性的自立の可能性について探究を行うことにある。そのために、通常は女性の性的自立と対立するものとされるマゾヒズムを取り上げ、女性のマゾヒズムが性的自立に導きうる可能性を検討する。女性の積極的なマゾヒズムの実践が現状の権力構造を脱構築する可能性を検討し、あわせて、マゾヒズムのより深い理解へ至るよう努める。ジェンダーの文化的偏向によって、男性のそれとは異なり、女性のマゾヒズムは自然本性的なものとされてきた。自然に依拠したこの種の議論は、当然のことながら再吟味されねばならない。しかしまたこのことは、必ずしも女性の性的なマゾヒズムが日常の権力関係を単純に反映していることを意味しない。サドマゾヒズムが権力関係を利用するというように考えると、パット・カリフィアのように、サドマゾヒズムは「権力関係のパロディ」と定義することもできよう。そこで本稿では、パット・カリフィアのこの考え方を、女性のマゾヒズムの十全な理解と現在のジェンダー構造を脱構築する手立てとして取り上げ、そこから女性の性的自立を再定義する方向性を提示することを試みた。これと関連して、ジュディス・バトラーの「ジェンダー・トラブル」の概念や、男性のマゾヒズムを近代的主体の派生形態を捉えるジョン・K・ノイズの議論をも検討した。
著者
渡邊 彰 木下 一成 村元 隆行 中井 瑞歩 鈴木 結子 井上 朔実 平田 滋樹
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.91, no.4, pp.395-401, 2020-11-25 (Released:2020-12-12)
参考文献数
45
被引用文献数
3 8

国内で流通しているシカおよびイノシシ肉の品質向上のために,処理施設より胸・腰最長筋を購入して,熟成終了時のpHを測定し変動要因について調べた.調査票から動物種,性別,体重,捕獲方法(箱わな,囲いわな,足わな)を要因とし分散分析により解析した.また,タンパク質の変性程度を測定しPale, Soft, and Exudative (PSE)の発生についても調査した.その結果,調査個体の35%はDark, Firm, and Dry (DFD)が疑われるpH>6.0であり,足わなによる捕獲がpHを有意に高くし,オスがメスより高くなる傾向が認められた.一方,PSEと判定されたのは箱わなおよび囲いわなで捕獲された頭数の52%,足わな捕獲の5.8%であった.以上の結果より,品質の高い野生獣肉を提供するには早期発見によるDFDの回避と,興奮を抑えた止め刺し技術によるPSE回避が重要であることが示された.
出版者
日本変態心理学会
巻号頁・発行日
vol.第8篇, 1921

6 0 0 0 OA 大日本史料

著者
東京大学史料編纂所 編
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
vol.第11編之1, 1927
著者
山中 智省 田島 悠来 中川 裕美
出版者
日本出版学会
雑誌
出版研究 (ISSN:03853659)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.41-64, 2017

<p>2015年10月から放送されたTVアニメ『おそ松さん』(制作:studioぴえろ)は,"社会現象化"するほどの大ヒット作に成長した.その最中,『おそ松さん』を特集した雑誌が相次いで完売・重版を果たしたのはなぜなのか.本稿では『おそ松さん』のファンが見せた作品の受容姿勢を踏まえつつ,アニメ雑誌や一般向け雑誌に掲載された特集内容の分析を行い,各雑誌に見受けられた掲載情報や戦略性の違いを明らかにして,その背景に迫った.</p>
著者
Kayoko Matsubara Kazuaki Matsumoto Yuta Yokoyama Erika Watanabe Yuki Enoki Akari Shigemi Kazuro Ikawa Hideyuki Terazono Norifumi Morikawa Tamao Ohshige Yasuo Takeda
出版者
The Pharmaceutical Society of Japan
雑誌
Biological and Pharmaceutical Bulletin (ISSN:09186158)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.732-736, 2021-05-01 (Released:2021-05-01)
参考文献数
27
被引用文献数
3

Ampicillin-sulbactam is a first-line therapy for pneumonia and is mainly excreted by the kidney. It is important to optimize the dose and dosing interval of ampicillin-sulbactam because in patients with decreased renal function and low skeletal muscle mass, such as the elderly, excess drug may burden renal function. In this study, we evaluated indices of renal function and optimized the dose and dosing interval of ampicillin-sulbactam based on pharmacokinetics (PK) and pharmacodynamics theory in elderly patients. The serum concentrations of ampicillin and sulbactam were measured by HPLC, and PK parameters were calculated. Correlations between the clearance of ampicillin or sulbactam and renal function were evaluated, and dosing optimization was calculated based on PK parameters. The PK parameters of ampicillin were CL = 6.5 ± 4.0 L/h, Vd = 19.3 ± 0.2 L, Ke = 0.4 ± 0.2, and t1/2 = 2.7 ± 1.6 h. The most correlated renal function index was estimated glomerular filtration rate (eGFRcys-c) calculated by serum cystatin-c (r = 0.7374, correlation formula; CL of ampicillin = 0.1937 × eGFRcys-c−0.6726). Based on this formula, we calculated the clearance of ampicillin and developed dosing regimens for the elderly. Serum cystatin-c concentration is an ideal index to optimize ampicillin-sulbactam antimicrobial therapy in elderly patients with pneumonia.
著者
川崎 哲
出版者
日本平和学会
雑誌
平和研究 (ISSN:24361054)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.1-5, 2021 (Released:2022-01-31)

2021年1月に発効した核兵器禁止条約(TPNW)を作り出したのは、核兵器がもたらす非人道的な被害に着目した「人道アプローチ」の取り組みであった。赤十字国際委員会(ICRC)やオーストリアなど有志国政府が進めたこの取り組みを世界のNGOや被爆者らが後押ししてきた。これら市民社会が果たしてきた役割として挙げられるのは、第一に、核兵器の非人道性の認識を世界に広げたことである。広島・長崎の被爆の実相の証言に加え、核実験や原発事故の被害、さらに今日核兵器が使用された場合の想定も大いに議論された。第二に、条約起草への貢献である。当初、化学兵器禁止条約などを参考にしたモデル核兵器禁止条約が作られた、その後、対人地雷やクラスター弾の禁止条約における「規範の強化」という観点が重視された。第三に、各国政府への働きかけである。NGOが自国において、あるいは関連国際会議において各国代表に働きかけてきたことが、同条約の採択と発効につながった。今後の課題、とくに日本に関わる重要な課題としては、2022年3月に開かれる第一回締約国会議に向けて、①核被害者への援助と環境回復の課題について被爆国としての経験を生かすことや②核兵器の廃棄と検証の議論に関与することが挙げられ、さらに、③日本がこの条約に署名・批准するために必要な法的・政治的論点を提示することが求められる
著者
久世 建二 北野 博司 小林 正史
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.41-90, 1997-10-10 (Released:2009-02-16)
参考文献数
51

野焼き技術を実証的に復元するためには,野焼き実験と考古資料の焼成痕跡(黒斑など)を突き合わせることが必要である。よって本稿では,覆い型野焼きの実験から明らかにできた「野焼き方法と黒斑の特徴の対応関係」を基にして,弥生土器の黒斑の特徴から野焼き方法を推定した。野焼き実験では条件設定の仕方が重要だが,本稿では,稲作農耕民の伝統的土器作り民族例を参考にして,野焼き方法の観察点を設定した。黒斑の特徴から推定された弥生土器の野焼き方法について,器種差や時間的変化を検討した結果,弥生時代の野焼きの方法は,以下の点で土器の作りに応じた工夫がなされていたことが示された。第一に,弥生土器の野焼き方法は,珪酸分に富む草燃料からできる灰が土器を覆うことにより,比較的少ない燃料で効率的に焼成できる「覆い型」であり,灰による覆いを作らない縄文時代の「開放型」とは大きく異なる。「覆い型」は,薪燃料が少なくてもすむ点で,低地に進出した稲作農耕民に適した野焼き方法と言える。そして,弥生時代にやや先行する韓国無文土器と弥生前期土器の黒斑が強い共通性を示すことや,弥生早期の有田七田前遺跡では弥生系の壺は覆い型,縄文系の深鉢・浅鉢は開放型というように野焼き方法が異なることから,「覆い型野焼きは水田稲作と共に朝鮮半島から日本に伝わった」ことが明らかになった。第二に,野焼き時の土器の設置角度は,各時期とも,相対的深さと頸部の括れ度に応じて調整されている。これは,(1)括れの強い器形では内面の火回りを良くするためより垂直に近い角度で設置する,(2)浅めの器形では内面に灰が溜って大きな黒斑ができないように,横倒しに設置する,という工夫を反映していると考えられる。