著者
望月 詩史 モチズキ シフミ Mochizuki Shifumi
出版者
同志社法學會
雑誌
同志社法学 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.979-1021, 2016-07

論説(Article)本稿では、清沢洌の提案により1928年に発足した二七会の活動状況について検討した。活動の中心は、毎月27日に開催された定例懇談会である。政治や経済などをテーマに議論したり、時折、来賓を招いて時局談を聞いたりした。会員は主に、『中央公論』に寄稿していた評論家と文学者である。この会は学術組織ではないため、会員の間で思想的な統一性や時局に対する共通の見解が存在したわけではない。だが、そこには「自由」に特徴付けられる独特の雰囲気が存在していた。This paper surveys the activities of 27-Club which was founded in 1928. Kiyosawa Kiyoshi who was famous journalist in modern Japan proposed that foundation. A regular meeting was held at 27th each month. The members discussed some themes: politics, economics, etc. Sometimes a guest was invited in the meeting. The members were mainly journalist and writer who contributed an article to CHUOKORON. As this club wasn't an academy, there were no ideological unity or a common view for the situation among the members. However, there was a unique atmosphere which was characterized by "Liberty" in 27-Club.
著者
松原 繁夫 横尾 真 Shigeo Matsubara Makoto Yokoo
雑誌
人工知能学会誌 = Journal of Japanese Society for Artificial Intelligence (ISSN:09128085)
巻号頁・発行日
vol.15, no.5, pp.912-921, 2000-09-01

Internet and agent technologies have facilitated world-wide trade, but we sometimes encounter risky situation in exchange processes involving goods and money, i. e., fraud. This problem is becoming more serious with the growing popularity of person-to-person trade. One of the reasons for such fraud is that obtaining a new identifier in netwoeks is cheap. This makes it difficult to exclude malicious agents from trade. One solution is the imposition of an entry fee. However, if an entry fee is expensive, it discourages newcomers from starting deals. To resolve the conflict between safety and convenience, we have developed two kinds of exchange mechanisms that guarantee against defection from a contract. One reduces the entry fee by integrating multiple deals and controlling goods and money flows. We also show an extension of this mechanism that can reduce the entry fee more while taking a longer time to complete the exchange process. The other reduces the entry fee by incorporating a third party agent into the exchange process. We examine the lower bound of the entry fee for each mechanism and provide a calculation method that is able to obtain this value in linear time.

1 0 0 0 OA 毎日記

出版者
巻号頁・発行日
vol.[242],
著者
熊谷 悦子 古町 和弘 宮田 智孔 佐中 孜
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.225-231, 2016 (Released:2016-03-28)
参考文献数
28

【目的】 腎不全用必須アミノ酸製剤内服のアミノグラムと栄養指標の改善効果を検討. 【対象】 透析歴1年以上で, 3.0g/dL≦血清アルブミン<3.8g/dL, 摂取熱量25kcal/kg/day以上の34例. 肝機能障害, CRP≧2.0mg/dL, 透析前HCO3− 16mEq/L以下, HbA1c 6.5%以上, BMI 18未満は除外. 【方法】 投与前, 投与後1, 2, 3か月後の血液検査, 投与前と投与3か月後にアミノ酸分析を施行. 【結果】 非必須アミノ酸 (NEAA) は有意に低下, EAA/NEAAは有意に上昇. 分岐鎖アミノ酸/総アミノ酸は有意に上昇. 腎不全用必須アミノ酸製剤は有意に低下, 必須アミノ酸と非必須アミノ酸の比, アミノ酸総量に占める分岐鎖アミノ酸は有意に上昇した. 血清アルブミン<3.5g/dLの群でアルブミン値の上昇傾向がみられた. 【結論】 EAAの内服は透析患者のアミノグラムと栄養状態の改善に寄与する可能性が示唆された.

1 0 0 0 OA 康濟譜25卷

著者
明潘游龍撰
出版者
[出版者不明]
巻号頁・発行日
vol.[10], 1641
著者
TAKAYA IWASAKI AKITAKA TONO KYOKO AOKI AKIHIRO SEO NORIAKI MURAKAMI
出版者
The Japanese Society for Plant Systematics
雑誌
Acta Phytotaxonomica et Geobotanica (ISSN:13467565)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1-20, 2010-06-30 (Released:2017-03-21)
参考文献数
35
被引用文献数
1

A phylogeographic study of two species of Carpinus, C. japonica Blume and C. tschonoskii Maxim. (Betulaceae), based on the distribution patterns of their chloroplast DNA haplotypes, is reported. In Japan, these species are mainly distributed in Pacific-type deciduous broad-leaved forests. Using 439-440 and 627-629bp nucleotide sequences of noncoding regions of chloroplast DNA, we detected 5 and 6 haplotypes among 217 and 181 individuals sampled from 52 and 49 populations of C. japonica and C. tschonoskii, respectively. The geographic distribution patterns of the haplotypes were highly structured. We investigated the common phylogeographic patterns between the two species that would indicate the influence of common historical factors such as climate change since the last glacial maximum (LGM). Based on our results, we concluded that the Pacific-type Japanese deciduous broad-leaved forests were split into at least three refugia during the LGM. After the LGM, the species expanded to northern areas or moved to higher altitudes from each refugium, thus now occupying northeastern, central, and southwestern Japan.
著者
中谷 貴壽 宇佐美 真一 伊藤 建夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.204-216, 2012
参考文献数
30

日本列島は氷河期には大陸と繋がっていた時代があり,その期間には大陸起源の北方系生物は分布を拡大し,間氷期にはこれらの生物は大陸へ避難し,あるいは一部の個体群を除いて絶滅したと考えられてきた.しかし,筆者らの高山蝶に関する研究によると,ベニヒカゲは古い時代の氷河期に渡来し,間氷期にも日本列島の高山帯で複数の個体群が生き残り,互いに生殖隔離された結果列島内で複数の系統に分化した後に,次の氷河期に分布を拡大するというサイクルを繰り返してきたことが明らかになった(複数レフュジア・モデル).これはヨツバシオガマ他数種の高山植物で明らかにされたシナリオ,初めの氷河期に大陸から渡来した系統が間氷期に本州中部山岳で生き残り,次の氷河期に新たに侵入した系統が東北地方以北に分布するという時間差侵入仮説(単一レフュジア・モデル)とは異なる.本研究ではサハリンを含む日本列島から17のハプロタイプを見出した.複数地域または複数サンプルから検出された系統的意義を有するハプロタイプは,本州では飛騨山脈北部・白山,飛騨山脈南部,八ヶ岳,木曽山脈,赤石山脈の5系統に,また北海道では大雪山の高標高部と山麓の低標高部の2系統に分かれている(利尻島高山帯にも孤立した個体群が分布するが未検).サハリン,北海道,本州の個体群は,過去の異所的分断により分断分布を成している事が明らかである.本州では飛騨山脈で複数のハプロタイプが混生しており,複数のイベントによって現在の分布が形成されたと考えられるので,NCPAにより過去の分布変遷史を推定した結果,5つのクレードで統計的に有意なイベントが推定された.それによると,クモマベニヒカゲの中部山岳地域における分布の変遷は,分断と拡散の繰り返しであることが示唆された.日本列島における分布変遷 日本列島へ進出したクモマベニヒカゲの個体群は,サハリン・北海道・本州の現在の分布域を包含する地域に分布を広げた.その後の温暖期にサハリン,北海道,本州のレフュジアに分断され,それぞれが別々の系統に分化した.次の温暖期に,本州の中部山岳地域では飛騨山脈北部系統,同南部系統,赤石山脈・木曽山脈系統の3系統に分断された.続く氷河期に分布を拡大し,飛騨山脈の北部系統と南部系統は,後立山連峰の針ノ木岳付近(以後針ノ木ギャップと呼ぶ)で混生地帯を形成した.さらにその後の温暖期に現在見るような離散分布が形成された.ベニヒカゲとの比較による系統地理的な特徴 広域に分布するハプロタイプの系統関係を概観すると,両種ともに飛騨山脈と赤石山脈産のハプロタイプの間に大きな遺伝的差異のあることが示される.初期の単一な遺伝的組成をもつ集団が,その後の温暖期に分布を縮小する過程で飛騨山脈と赤石山脈に分布する二つの個体群に分断された結果,二つの系統に分岐したことを示唆している.飛騨山脈と赤石山脈のレフュジアに源を発する2系統の遺伝的距離は,ベニヒカゲとクモマベニヒカゲとの間で差異があり,分岐年代には若干の差があったと考えられる.またベニヒカゲとクモマベニヒカゲ共に,赤石山脈の系統は,飛騨山脈系統の北部集団とより近縁である事は,その後の気候変動に適応して分布を拡大したルートが両種で類似している可能性を示唆している.飛騨山脈では,ベニヒカゲは単一のハプロタイプが産するが,クモマベニヒカゲでは針ノ木ギャップで混生地を挟んで南北2系統に分かれており,両系統の間に2塩基の差が認められる点が大きく異なる.白山山系は飛騨山脈とは地理的に非常に離れているがベニヒカゲ,クモマベニヒカゲ(クモマベニは飛騨山脈の北部系統)共に同じハプロタイプが分布しており,二つの山系の個体群間ではきわめて最近まで遺伝的交流のあったことが示唆される.八ヶ岳では,ベニヒカゲは飛騨山脈と同一のハプロタイプが,またクモマベニヒカゲは飛騨山脈の南部系統と1塩基差の近縁なハプロタイプが見出され,両地域の個体群の近縁性が示唆される.これに対して木曽山脈では,ベニヒカゲは飛騨山脈と共通のハプロタイプが見出されるのに対して,クモマベニヒカゲでは赤石山脈と近縁であり,木曽山脈の個体群の分布変遷は両種の間で異なっていた可能性が示唆される.一方サハリンと北海道の個体群に関しては,ベニヒカゲは共通のハプロタイプが分布するなど,最近まで遺伝的交流があったことが示唆されるが,クモマベニヒカゲの個体群は遺伝的に非常に異なっており,古くから生殖隔離が続いていることが示唆された.ベニヒカゲとクモマベニヒカゲは同じ属に含まれる近縁種であり,また生息環境も似ているが,いくつかの地域では異なる分布変遷史をたどったようだ.このように種によって生殖隔離の始まった時期や場所が異なる事例はヨーロッパでも知られている.Erebia medusaはヨーロッパでは針葉樹林内の草原を主たる生息地としているが,ルーマニアとブルガリアの28集団について調べた研究によると,ドナウ河を挟んで南北2系統に分断されており,最終氷期にそれぞれの集団が分布を拡大したもののドナウ河を越えて遺伝的交流が成されることはなかったとしている.一方E.medusaと同様に針葉樹林内の草原を主たる生息地として広域分布するErebia euryaleでは,ルーマニア産とブルガリア産は遺伝的によく似ており,最終氷期以降にドナウ河を越えて遺伝的交流があったとする研究がある.このように大陸内でしかも生息環境が類似した種でも,第四紀の氷河サイクルに対する適応は種によって異なる事例があるように,日本列島内における第四紀の気候変動に対する高山蝶の適応は,種特異的ないろいろなパターンが存在することが強く示唆される.針ノ木ギャップの生態的意義 すでに述べたように,飛騨山脈におけるクモマベニヒカゲのハプロタイプは,鹿島槍ヶ岳から烏帽子岳に至る針ノ木ギャップで2系統の混生地帯が見られる.タカネヒカゲは標高約2,700m以上の岩礫帯からハイマツ帯にかけての高山帯にのみ生息する真性高山蝶で,針ノ木ギャップ付近では爺ヶ岳から烏帽子岳の間で分布を欠いており,雪倉岳から鹿島槍ヶ岳・布引山にかけて分布する北部系統と,烏帽子岳以南に分布する南部系統に分岐している.一方,ベニヒカゲは針ノ木ギャップを含む飛騨山脈全域に単一の系統が分布する.針ノ木ギャップ付近におけるこれら3種の高山蝶の分布状況は,種の標高に対する適応の度合いを反映したものとなっている.針ノ木ギャップ付近の地形および植生をみると,全体に標高が約2500-2600mと低いために尾根の多くが樹林帯で覆われており,冬季季節風の風上に当たる尾根の西側では樹林が尾根まで迫り,風下側の東側は雪崩によって削られた急峻な崩落地形となり,あるいは両側の切り立った狭い尾根が断続的に見られる.急峻な崩落地にはイネ科やカヤツリグサ科の遷移途上の草地すら見られない.蓮華岳の頂上付近にのみ広い緩傾斜の砂礫帯があり,コマクサが大群落を形成するがハイマツはあまり生えていない.このような植生が,イネ科やカヤツリグサ科植物を食草とする高山蝶たち(タカネヒカゲ,クモマベニヒカゲ,ベニヒカゲ)の分布を規制しているものと考えられる.針ノ木ギャップ付近におけるタカネヒカゲの不連続分布の原因を約10万年前の立山噴火による噴出物の堆積に求める説もあるが,3種の高山蝶にみられる分布パターンは,それぞれの種が持つ高度適応力の強さを反映しており,生態的要因がより強く働いた結果であると考えられる.従来は日本列島の生物相形成に関して,大陸からの複数回の進出によって氷河サイクルに適応したとする事例(単一レフュジア・モデル)が指摘されるケースが多かった.しかし筆者らによるベニヒカゲやタカネヒカゲ,さらには今回報告したクモマベニヒカゲの研究で示唆されるように,高山性生物の種によっては古くから日本列島に侵出し,日本列島内で氷河サイクルを通じて分布の分断・拡張を繰返してきたケース(複数レフュジア・モデル)が少なくないことが伺われる.
著者
中谷 貴壽 宇佐美 真一 伊藤 建夫
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.204-216, 2012-12-28 (Released:2017-08-10)
参考文献数
30

日本列島は氷河期には大陸と繋がっていた時代があり,その期間には大陸起源の北方系生物は分布を拡大し,間氷期にはこれらの生物は大陸へ避難し,あるいは一部の個体群を除いて絶滅したと考えられてきた.しかし,筆者らの高山蝶に関する研究によると,ベニヒカゲは古い時代の氷河期に渡来し,間氷期にも日本列島の高山帯で複数の個体群が生き残り,互いに生殖隔離された結果列島内で複数の系統に分化した後に,次の氷河期に分布を拡大するというサイクルを繰り返してきたことが明らかになった(複数レフュジア・モデル).これはヨツバシオガマ他数種の高山植物で明らかにされたシナリオ,初めの氷河期に大陸から渡来した系統が間氷期に本州中部山岳で生き残り,次の氷河期に新たに侵入した系統が東北地方以北に分布するという時間差侵入仮説(単一レフュジア・モデル)とは異なる.本研究ではサハリンを含む日本列島から17のハプロタイプを見出した.複数地域または複数サンプルから検出された系統的意義を有するハプロタイプは,本州では飛騨山脈北部・白山,飛騨山脈南部,八ヶ岳,木曽山脈,赤石山脈の5系統に,また北海道では大雪山の高標高部と山麓の低標高部の2系統に分かれている(利尻島高山帯にも孤立した個体群が分布するが未検).サハリン,北海道,本州の個体群は,過去の異所的分断により分断分布を成している事が明らかである.本州では飛騨山脈で複数のハプロタイプが混生しており,複数のイベントによって現在の分布が形成されたと考えられるので,NCPAにより過去の分布変遷史を推定した結果,5つのクレードで統計的に有意なイベントが推定された.それによると,クモマベニヒカゲの中部山岳地域における分布の変遷は,分断と拡散の繰り返しであることが示唆された.日本列島における分布変遷 日本列島へ進出したクモマベニヒカゲの個体群は,サハリン・北海道・本州の現在の分布域を包含する地域に分布を広げた.その後の温暖期にサハリン,北海道,本州のレフュジアに分断され,それぞれが別々の系統に分化した.次の温暖期に,本州の中部山岳地域では飛騨山脈北部系統,同南部系統,赤石山脈・木曽山脈系統の3系統に分断された.続く氷河期に分布を拡大し,飛騨山脈の北部系統と南部系統は,後立山連峰の針ノ木岳付近(以後針ノ木ギャップと呼ぶ)で混生地帯を形成した.さらにその後の温暖期に現在見るような離散分布が形成された.ベニヒカゲとの比較による系統地理的な特徴 広域に分布するハプロタイプの系統関係を概観すると,両種ともに飛騨山脈と赤石山脈産のハプロタイプの間に大きな遺伝的差異のあることが示される.初期の単一な遺伝的組成をもつ集団が,その後の温暖期に分布を縮小する過程で飛騨山脈と赤石山脈に分布する二つの個体群に分断された結果,二つの系統に分岐したことを示唆している.飛騨山脈と赤石山脈のレフュジアに源を発する2系統の遺伝的距離は,ベニヒカゲとクモマベニヒカゲとの間で差異があり,分岐年代には若干の差があったと考えられる.またベニヒカゲとクモマベニヒカゲ共に,赤石山脈の系統は,飛騨山脈系統の北部集団とより近縁である事は,その後の気候変動に適応して分布を拡大したルートが両種で類似している可能性を示唆している.飛騨山脈では,ベニヒカゲは単一のハプロタイプが産するが,クモマベニヒカゲでは針ノ木ギャップで混生地を挟んで南北2系統に分かれており,両系統の間に2塩基の差が認められる点が大きく異なる.白山山系は飛騨山脈とは地理的に非常に離れているがベニヒカゲ,クモマベニヒカゲ(クモマベニは飛騨山脈の北部系統)共に同じハプロタイプが分布しており,二つの山系の個体群間ではきわめて最近まで遺伝的交流のあったことが示唆される.八ヶ岳では,ベニヒカゲは飛騨山脈と同一のハプロタイプが,またクモマベニヒカゲは飛騨山脈の南部系統と1塩基差の近縁なハプロタイプが見出され,両地域の個体群の近縁性が示唆される.これに対して木曽山脈では,ベニヒカゲは飛騨山脈と共通のハプロタイプが見出されるのに対して,クモマベニヒカゲでは赤石山脈と近縁であり,木曽山脈の個体群の分布変遷は両種の間で異なっていた可能性が示唆される.一方サハリンと北海道の個体群に関しては,ベニヒカゲは共通のハプロタイプが分布するなど,最近まで遺伝的交流があったことが示唆されるが,クモマベニヒカゲの個体群は遺伝的に非常に異なっており,古くから生殖隔離が続いていることが示唆された.ベニヒカゲとクモマベニヒカゲは同じ属に含まれる近縁種であり,また生息環境も似ているが,いくつかの地域では異なる分布変遷史をたどったようだ.このように種によって生殖隔離の始まった時期や場所が異なる事例はヨーロッパでも知られている.Erebia medusaはヨーロッパでは針葉樹林内の草原を主たる生息地としているが,ルーマニアとブルガリアの28集団について調べた研究によると,ドナウ河を挟んで南北2系統に分断されており,最終氷期にそれぞれの集団が分布を拡大したもののドナウ河を越えて遺伝的交流が成されることはなかったとしている.一方E.medusaと同様に針葉樹林内の草原を主たる生息地として広域分布するErebia euryaleでは,ルーマニア産とブルガリア産は遺伝的によく似ており,最終氷期以降にドナウ河を越えて遺伝的交流があったとする研究がある.このように大陸内でしかも生息環境が類似した種でも,第四紀の氷河サイクルに対する適応は種によって異なる事例があるように,日本列島内における第四紀の気候変動に対する高山蝶の適応は,種特異的ないろいろなパターンが存在することが強く示唆される.針ノ木ギャップの生態的意義 すでに述べたように,飛騨山脈におけるクモマベニヒカゲのハプロタイプは,鹿島槍ヶ岳から烏帽子岳に至る針ノ木ギャップで2系統の混生地帯が見られる.タカネヒカゲは標高約2,700m以上の岩礫帯からハイマツ帯にかけての高山帯にのみ生息する真性高山蝶で,針ノ木ギャップ付近では爺ヶ岳から烏帽子岳の間で分布を欠いており,雪倉岳から鹿島槍ヶ岳・布引山にかけて分布する北部系統と,烏帽子岳以南に分布する南部系統に分岐している.一方,ベニヒカゲは針ノ木ギャップを含む飛騨山脈全域に単一の系統が分布する.針ノ木ギャップ付近におけるこれら3種の高山蝶の分布状況は,種の標高に対する適応の度合いを反映したものとなっている.針ノ木ギャップ付近の地形および植生をみると,全体に標高が約2500-2600mと低いために尾根の多くが樹林帯で覆われており,冬季季節風の風上に当たる尾根の西側では樹林が尾根まで迫り,風下側の東側は雪崩によって削られた急峻な崩落地形となり,あるいは両側の切り立った狭い尾根が断続的に見られる.急峻な崩落地にはイネ科やカヤツリグサ科の遷移途上の草地すら見られない.蓮華岳の頂上付近にのみ広い緩傾斜の砂礫帯があり,コマクサが大群落を形成するがハイマツはあまり生えていない.このような植生が,イネ科やカヤツリグサ科植物を食草とする高山蝶たち(タカネヒカゲ,クモマベニヒカゲ,ベニヒカゲ)の分布を規制しているものと考えられる.針ノ木ギャップ付近におけるタカネヒカゲの不連続分布の原因を約10万年前の立山噴火による噴出物の堆積に求める説もあるが,3種の高山蝶にみられる分布パターンは,それぞれの種が持つ高度適応力の強さを反映しており,生態的要因がより強く働いた結果であると考えられる.従来は日本列島の生物相形成に関して,大陸からの複数回の進出によって氷河サイクルに適応したとする事例(単一レフュジア・モデル)が指摘されるケースが多かった.しかし筆者らによるベニヒカゲやタカネヒカゲ,さらには今回報告したクモマベニヒカゲの研究で示唆されるように,高山性生物の種によっては古くから日本列島に侵出し,日本列島内で氷河サイクルを通じて分布の分断・拡張を繰返してきたケース(複数レフュジア・モデル)が少なくないことが伺われる.

1 0 0 0 OA Impending Epidemic

著者
Yuji Okura Mahmoud M. Ramadan Yukiko Ohno Wataru Mitsuma Komei Tanaka Masahiro Ito Keisuke Suzuki Naohito Tanabe Makoto Kodama Yoshifusa Aizawa
出版者
The Japanese Circulation Society
雑誌
Circulation Journal (ISSN:13469843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.489-491, 2008 (Released:2008-02-25)
参考文献数
9
被引用文献数
61 290

Background The future burden of heart failure in Japan was projected to 2055 in order to prospectively estimate of the number of these patients. Methods and Results The statistics are based on prevalence data of left ventricular dysfunction (LVD) in Sado City using the Sado Heart Failure Study (2003) and population estimates from the Japanese National Institute of Population and Social Security Research Report (2006). The number of Japanese outpatients with LVD was 979,000 in 2005, and is predicted to increase gradually as the population ages, reaching 1.3 million by 2030. Conclusion LVD is expected to precipitate a future epidemic of heart failure in Japan. (Circ J 2008; 72: 489 - 491)
著者
石塚 正一 田邉 信太郎
出版者
日本武道学会
雑誌
武道学研究 (ISSN:02879700)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.23-32, 1995-07-31 (Released:2012-11-27)
参考文献数
20

In the field of Budo, mokusou (meditation) is a means of controlling mind and body as a part of the training regimen, and approximates meditative practices in Zen. During meditation, the budo practitioner maintains a prescribed posture, regulates his (or her) respiration, and controls activities of his consciousness. There can be no doubt that this psychosomatic control produces a special form of mental activity.In order to investigate brain wave activity during meditation, the brain waves of three kendo and three judo practitioners were monitored and recorded at 13 locations on the cranium (i. e., FZ, CZ, PZ, F3, F4, T3, T4, C3, C4, P3, P4, T5, and T6), in accordance with the 10-20 electrode system. The brain waves were processed by fast Fourier transformation for calculation of the power spectral values. In order to consolidate the immense amount of data, factor analysis (identification of factors, based on maximum likelihood, and EQUAMAX rotation) was performed to extract five factors (i. e., delta, theta, alpha-I, alpha-II, and beta). In addition, an analysis of variance (ANOVA) was performed for scoring of the five factors for the purpose of comparing brain wave activity during meditation with that during rest. By this comparison we found a significant disparity in the cases of the theta and alpha-II factors. The brain wave activity represented by these factors was lower during meditation than during rest.Since meditation as practiced in budo is a training method akin to that employed in Zen, it was initially anticipated that the frequency of alpha waves monitored during it would be lower. However, investigation of the spectral distribution during meditation determined that the wave frequency tended to be higher rather than lower. This relative increase of the frequency of alpha-wave is a phenomenon that has been found in the brain wave patterns of masters of Qi-gong during Qi-gong practice. It is conceivable that this increase in frequency is caused by the high-order activity of the consciousness accompanying the process of conjuring up images during meditation.
著者
森 哲彦
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-14, 2008-12-23

カントの哲学フレーズに「人は哲学を学ぶことはできない...ただ哲学することを学びうるのみである」(B866)とある。カントのいうこの「哲学を学ぶ」とは、知の認識偏重に対する諫めのことで「哲学すること」とは、哲学を通しての思考を求めていることである。カントも前批判期で苦闘して道を開いたように「哲学すること」は、哲学と哲学史の相互関係問題でもある。つまり「哲学すること」にとっては、誰かの根源的なものを問う哲学や人間社会の現実を思考する思想を手掛かりとして、歴史的に対話することが問題となる。従って「哲学の過去に立ち戻ることは、常に同時に哲学的自己省察と自己反省という行為でなければならない」といえよう。さて十八世紀後半のカントが課題とする理性、人間、人格、平和、啓蒙、多元主義をめぐる諸問題は、今日的課題とある種の類似関係がある、と思われる。そうだとするとこのような問題意識を自覚するために、本論では、カント批判哲学の理性哲学、実践哲学、美学、宗教哲学、そして人間学を解明るものである。なおカントは、今日に至るまでドイツや日本のみならず世界的にも、多くの市民により、高く評価されてきている。では人々を引き付けて止まないカントの偉大な精神とはなにか。まず第一は、批判の精神といえよう。カントの批判精神は、恣意的、独断的見解や懐疑的見解を退け、厳密な思考により、対象を全体的な関連から明晰に解明する。つまり批判とは「書物や体系の批判のことではなく、理性が全ての経験に依存せずに切望するべく全ての認識に関してのことであり、従って形而上学一般の可能性もしくは不可能性の決定、この学の源泉、範囲、限界を規定」(AXII)することにより、普遍的なものを求める精神である。第二は、人格尊重の精神である。カントによれば、理性的存在者としての人格は、相対的価値しかもたないものから区別され、目的自体として絶対的価値をもつとする。つまりカントは、人間尊厳の根拠のために、普遍的な道徳的法則を立て、理性自ら立法する自律的、理性的人格を確立する。その理性的人格は、良心の声、絶対的な道徳の声、道徳的義務の声を要請する。そしてこの道徳的義務の使命を発するところの人間を尊ぶカントの人格主義が、カントの名を不朽のものにしているのである。
著者
堀 薫夫
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 第4部門 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.173-185, 2009-09

元マックス・プランク研究所研究員のポール・バルテス(1939~2006)は,1970年代から2000年代にかけて独自の生涯発達心理学を提唱してきたが,まだ彼の生涯発達論の全体像は十分に検討されていない。本稿は,生涯学習/社会教育領域の理論と実践への示唆を得ることをねらいとして,以下の3点から彼の生涯発達論の考察を行うものである。第一は,バルテスの生涯と著作を検討することである。第二に,バルテスの生涯発達論の核となる「選択的最適化とそれによる補償」の理論の内実を再検証することである。第三に,高齢期における発達のポジティヴな側面である,「知恵」概念を検討することである。この概念を用いてバルテスは,ポジティヴ・エイジングの体現化された部分を説明しようとしたが,しかし人生第四期の人びとの現実に直面した彼は,それまでの理論の修正の必要性を痛感した。とはいえ,ポジティヴ・エイジングを生涯にわたって追い求めた彼の姿勢は,生涯学習/社会教育の研究者にも必要とされる資質だといえよう。Paul Baltes (1939 - 2006), former researcher of Max Planck Institute, was an architect of lifespan developmental psychology from 1970s to 2000s. Holistic picture of his theory of human lifespan development was not fully examined in the literature of Japanese lifelong learning social education. In order to shed some suggestive light on the theory and practice of social education, this article attempts to reevaluate his theory of life-span development from the following three angles. The first is an examination of Baltes' bibliography and works in an effort to understand a total image of his life. The second is a reconsideration of Baltes' main theory of life-span development, namely "Selective Optimization with Compensation." The third is an examination of his idea of wisdom, positive aspects of human development in our later adulthood. With the idea of wisdom, Baltes elucidated the culmination of positive aging, but facing the realities of the oldest-old people, he then realized the needs of revision of his theory. But his attitude toward positive aging itself is a quality needed for the researchers in lifelong learning social education.
著者
大前 義次 荒木 智行 小高 泰陸 平山 勉
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告グループウェアとネットワークサービス(GN) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.20, pp.1-6, 1995-03-02

本報告では、RSA公開暗号方式における新しいマスター鍵方式を提案し、その応用としてクライアント,サーバグループ、セキュリティ・サーバで構成されるクライアント/サーバ・システムにおいて、複数のサーバグループがあり、グループ間でのセキュリティが保たれる必要のある環境においての認証方式を提案し,有効性を示す。その有効性は,要約すると以下の3点である。()マスタ鍵方式を採用しているため、鍵の管理が容易であり,また回報通信が可能である。()サーバグループ内のサーバ数が増加しても、十分な数のサーバの個別鍵に対応したマスタ鍵の生成が容易にできる。()ケルベロス方式に比べ,認証のために必要な手順の簡略化,時間の短縮化が可能である。This paper proposes a new master-key-style method of RSA public key encryption, and as its application, describes on security in applications for group cooperation work based on Client/Server systems that are composed of clients, servers' groups and security servers. Then, it is assumed that there are some groups in the same system and secrecy must be kept each other among groups. We show that the proposed method is effective in such environment and applications. The effectiveness is summarized as follows: (1) It is easy to administrate keys because the proposed method adopts master-key-style. And multi-address communication is available. (2) We can generate easily the sufficient number of keys corresponding to the master key even if the number of member of servers' group would be increasing. (3) It is possible to shorten the time for authentication in comparison with Kerberos-style's because the proposed process is simpler than Kerberos-style's.
著者
鈴木 健一朗
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.49-59, 2000-12-01 (Released:2012-09-24)
参考文献数
46

生物を研究材料に使うとき,その分類学的な位置は,結果の生物間の比較のためだけでなく,研究成果の評価や,権利の範囲にも影響を与える重要な要素である。生物種を常に固定された学名で呼ぶことができたら,利用者にとっては便利であろう。しかし,分類学は生物の真の類縁関係や進化の過程を追求し,新しい体系を構築してする科学である。したがって同じ生物がひとつの論文を境にして名称を一変してしまうこともあり,困惑を生むことも少なくない。分類学には真実追究の科学であると同時にもう一つの役割がある。多くの分類学者がそれぞれ勝手な学名や体系を使っていたら,それは学問に何も貢献しないばかりか,分類学者の単なる道楽として見向きもされないであろう。そこで,命名規約という共通のルールに則って分類学の成果が発表され,その分類体系は生物学者に広く理解を得るものでなければならない。本解説では,乳酸菌の分類に例を取って,国際細菌命名規約の仕組みと現在の問題点を紹介する。
出版者
巻号頁・発行日
vol.87 〔武州小机古城図〕,