著者
白木 靖寛 丸泉 琢也 野平 博司 澤野 憲太郎 瀬戸 謙修 徐 学俊 夏 金松 中川 清和 松井 敏明 宮田 典幸 宇佐美 徳隆
出版者
東京都市大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

次世代LSI(大規模集積回路)の高速・低消費電力化のための革新的デバイスとして、Si基板上Ge光電子融合デバイスの実現へ向けた基盤技術を、シミュレーション技術開発とともに確立した。従来とは異なる新規な歪みGeチャネル形成、絶縁層上歪みGe(Ge-on-Insulator)基板作製に成功し、また、量子ドットを有する、フォトニック結晶やマイクロディスク等の微小共振器構造を組み込んだ電流注入発光デバイスを作製し、室温における強い電流注入発光、導波路とのカップリングに成功した。
著者
岡 真理 林佳 世子 藤元 優子 勝田 茂 石川 清子 山本 薫 浜崎 桂子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本における、中東の三大言語文化圏であるアラブ世界、イラン、トルコの現代文学研究者を結集し、中東現代文学のさまざまな時代、作品・作家における「ワタン(祖国)」表象の分析・考察をおこない、それを通して、歴史的には近代初頭から植民地時代を経て2011年の一連のアラブ革命に至る、西アジアから北アフリカに及ぶ中東諸諸社会における、「祖国」なるものをめぐる文化的ダイナミズムを明らかにするとともに、中東に生きる人々の生と精神性の諸相の一端を探究した。
著者
岸田 治 小林 真
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は、「水生動物が溶存アミノ酸をエネルギーとして利用する可能性」を孵化直後のエゾサンショウウオ幼生を用いて示すことである。実験の結果、アミノ酸を添加した環境水で飼育したエゾサンショウウオ幼生は、アミノ酸由来の窒素を体内に取り込み、成長を促進させることが分かった。細菌などの微生物が溶存アミノ酸を直接利用し増殖することは一般に認知されているが、脊椎動物による溶存アミノ酸の利用はこれまで想定されてこなかった。本研究の成果は、「これまでの慣習的な栄養伝達経路の有り様」の変更を促すものである。
著者
中田 充 葛 崎偉 吉村 誠
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

古典文学作品に書かれた手書き文字を対象とした文字認識手法を提案し,それに基づいた認識プログラムを試作した.本手法では,特徴グラフを用いて文字の構造を表現する.認識対象文字と認識用辞書に含まれる既知文字(辞書文字)の類似性を計算し,認識対象文字を最も類似性の高い辞書文字として認識する.次に,源氏物語中に書かれた文字を対象として評価実験を行った.その結果,一文字毎に切り出された文字を対象とした場合の認識率は76.6%であり,続け字を含む縦一行を対象とした場合の認識率は54%であった
著者
藤枝 守
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究「発酵音響における芸術表現への応用」は、「発酵」という生命活動に着目した研究実践である。とくに、焼酎の生産過程におけるアルコール発酵において、その代謝エネルギーの変換によって排出される炭酸ガスの生みだす「音響」が研究のおもな対象としている。この発酵の音響に収録にあたっては、麹カビ菌の作用による酵母に麦や芋などを仕込んだ醪(もろみ)のなかに、特殊に養生加工した水中マイクを沈下して実施してきた。このような発酵状態を音響によって観察するという発想もきわめて独創的だと考えている。さらに、本研究においては、発酵音響に内包された音響特性を解明するとともに、そこに美学的な価値を与えて芸術表現を試みている。初年度では、集音システムの考案と収録方法の確立を中心に実践した。まず、集音システムにおいては、焼酎の発酵時の醪に沈下するためのあらたな水中マイクの設計/製作に取り込んだ。その際に、発酵の収録に最も適した高感度の圧電素子が醪の特性(高アルコール+高酸性)に対応する養生のあらたに容器を設計し、また、気泡が直接、マイクの本体に接触しないような形状を考案して、水中マイクの製作が完了した。そして、沖縄において、神谷酒造所、瑞泉酒造、新里酒造の3つの泡盛の酒造所にて発酵音の収録作業を行った。この沖縄での収録において、さまざまな問題点が浮上した。それは、これらの酒造所が近代的なシステムを取り入れた生産形態によっているのだが、温度設定における自動制御で醪を撹拌するために、多くのノイズが発生し、微細な発酵の音響を収録するうえでの妨げとなった。そして、2年目においては、このような近代的な生産方式によらない酒造所での収録の必要性が求められた。
著者
宮崎 耕輔 谷本 圭志 伊藤 昌毅
出版者
香川高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は,地方部における交通系ビッグデータを活用した地域公共交通計画立案の開発である.昨年度の検討結果を踏まえ,基礎集計の基礎となる利用者個人単位のデータベースの作成ならびに利用実績に着目したデータベースの作成などを行った.具体的には,「5.交通系ビッグデータから地域公共交通計画立案に必要なデータ抽出法の開発」に着手した.提案したデータ抽出法が効果的かどうかについての検討をするに際し,トライアンドエラーの繰り返しをしながら,以下のような分析を行った.抽出したデータベースをもとに,個人単位ならびに利用された駅単位などによって,利用実績を整理した.そして,クラスター分析や非負値テンソル因子分解などを用いて,グループ化し,これらのグループごとの特徴整理をすることによって,利用者の交通行動分析を行った.また,個人単位ならびに利用された駅単位などによって,整理した結果を用いて,経年変化について整理し,時系列分析の手法を用いつつ,クラスター分析等の手法を用いて,グループ化し,これらのグループごとの特徴整理をすることによって,利用者の交通行動分析を行った.以上の交通行動分析結果が適切であるか否かについての検討を行い,提案したデータ抽出法が効果的であるか否かについての判定を行った.なお,効果的なデータ抽出法の模索に時間を要し,今年度のほとんどの時間をデータ抽出法の開発に要してしまった.そのため,次年度以降については,「6.具体的な地域公共交通計画立案へのデータ活用法の開発」「7.地域公共交通計画立案に資するビッグデータの整理ならびにその項目集の作成」を実施することを目指すとともに,さらなる分析を行うことを確認した.
著者
大隅 萬里子
出版者
帝京科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

酵母の自食作用というダイナミックな膜動態システムには多くのAPG遺伝子産物が関与している。本研究はまだクローニングされていないAPG2とAPG15遺伝子を酵母の染色体バンクから単離し、解析することを目的とした。しかしこの研究開始直後に研究協力を行っている細胞内エネルギー変換研究室(基生研)で、APG2遺伝子をクローニングし解析をすすめた。そこでAPG15遺伝子に焦点を絞り、この変異株の胞子形成能の回復を指標としてクローニングし、第十三番染色体のYMR159CというORFがAPG15であることを明らかにしたが、このORFはすでに水島等によってAPG12をベイトとしたTwo-Hybrid法により取られたAPG16として報告されていた。apg16遺伝子破壊株がapg15変異株を相補したという結果から16番目のAPG遺伝子と命名されたが、この矛盾した結果を再検討するために、apg15-1変異株のシークエンス、および相補性の再確認実験を行った。YMR159cを含む約1、500塩基のシークエンスによりapg15-1変異はAPG16に生じたオパール変異であることが明らかになった。しかしapg16遺伝子破壊株とapg15-1変異株の二倍体はPMSF存在下で液胞にオートファジックボデイを蓄積し、成熟型アミノペプチダーセIを生成し、自食作用の回復を示した。二倍体を胞子形成させ四分子解析を行ったところ、そのApg+:Apg-の分離比はメンデル遺伝で説明出来ないことが明らかとなった。その後の解析からapg16遺伝子破壊株/apg15変異株の二倍体が示すApg+の表現型はapg16遺伝子破壊株を作成した酵母株の細胞質性のサプレッサーによるものであることが明らかとなった。さらにapg15-1は既知のオムニポテントサプレッサーによっても抑制される特異な変異であった。現在このサプレッサーの性状、遺伝的挙動などを解析しており、apg15-1変異株が効率よく相補される現象を解析している。
著者
小野 奈々
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

自然資源開発地域ですすむ環境破壊が深刻な状況にあることに着目し、そうした地域では環境保全意識がいかなる論理で受容されるか、ということを地域が急進的な環境NGOの活動を受容する論理から明らかにしようと努めた。またこの論理を「ライフスタイルの飛び地(Lifestyle enclave)」と「よそ者(Stranger)」を鍵概念に考察した。そしてここから「ライフスタイルの飛び地」や「よそ者」に象徴されるようなかたちで、将来や次世代の生活を考慮するような社会的利益を確保しようとする動きが地域社会にみられたこと。また、そのような独特の距離感をもちながら、生計をめぐる利己的な利害関係と対立するような価値(ここでは環境保全)を活かしていくために、NGOやNPOといった市民活動組織という存在が活用されていることを明らかにした。より具体的には、石資源を豊富に有し、その資源開発ブラジル連邦共和国ミナスジェライス州ゴウベイア市のなかで活動している環境NGO、カミーニョス・ダ・セーハを取材し、環境破壊につながる石資源開発で生計をたてているひとびとが多く住む地域の住民が、急進的な環境保全活動を展開する環境NGO、カミーニョス・ダ・セーハの活動を地域として受容していく論理を追った。そのさいこの環境NGOの活動が、当初の環境保全に加えて、地域発展を視野に入れていくという「目的の複数化」が生じていたという現象に着目し、それが生じていったプロセスを聞き取り調査で追いかけていくことで、この環境NGOを地域が受け入れてきたその論理には、将来や次世代の生活を考慮するような社会的利益を確保しようとするある種の価値観(まだ言葉にはなっていないが、今後詰めてこれを説明していく予定である)が基底にあることを明らかにした。この成果に関してはまだ学会発表、論文化にいたっていないが、近いうちに学会発表をし、随時、前年度の研究成果の結果とともに論文化していく予定である。
著者
岩尾 祐介
出版者
中村学園大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

【研究目的】近年、学内で学生をアルバイト雇用する「学内ワークスタディ」を実施する大学が増えている。2015年度採択の「学内ワークスタディ実施による教育的効果の研究」において、実施大学はさまざまな教育効果を期待していることが明らかになった。しかし同時に、エビデンスに基づいた科学的な効果測定を行っている大学はごく僅かで、「学内ワークスタディ」に昇華できず、単なる「学内アルバイト」に留まっている大学も多く存在することも判明した。そこで本研究では、全国の私立4年制大学から広く情報を収集し、調査、分析を行い、理想的な学内ワークスタディ制度モデルを開発し、全国の私立大学と共有することを目的とした。【調査方法及び研究結果】全国の私立4年制大学にアンケート調査を行い、227大学から回答を受けた。その結果、ワークスタディを全学的に実施している大学は32.9%、一部実施は53.8%であった。約87%と大半の大学が実施しているものの、各大学において「アルバイト学生の管理及び運営体制(22.5%)」、「授業と学内アルバイトの調整(18.5%)」、「予算的問題(16.3%)」(※複数回答)とさまざまな課題があることが明らかになった。また、私立大学等経常費補助金に学内ワークスタディ事業支援があり、要件を満たせば一定の補助金を受けられるが、この補助金は学生の経済的支援に主眼を置いていることから、学生の成長や教育効果を期待する大学の方針と適合せず、学内ワークスタディ実施大学のうち申請しているのは21.5%に留まっていることも明らかとなった。【研究成果】アンケート調査をとりまとめ、研究結果を九州地域大学教育改善FD・SDネットワークQ-conference2016にて発表するとともに、「学内ワークスタディハンドブック」を制作し、全国私立4年制大学に送付することで研究成果を広く還元した。
著者
大竹 秀和
出版者
立教大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

【研究の目的】正課外教育(①正課外教育プログラム、②クラブ・サークル支援、③ボランティア活動支援、④インターンシップ、⑤地域を意識した取組)は、各大学で積極的に実施されており、①の正課外教育プログラムについては、職員の運営への関わりや参画度合いが高いことが、先行研究より明らかになっている。しかし、②クラブ・サークル支援~⑤地域を意識した取組に関する先行研究は限られており、正課外教育において職員が担っている役割は明らかとなっていない。学士課程教育において正課教育と同様に重要な役割を担う正課外教育の各取組で、職員の役割を明らかにすることは、学士課程教育の質向上、教職協働の促進、正課外教育に関わる職員に求められる能力を検討し、能力開発を進めていく上で必要である。そこで本研究では、各大学で実施されている正課外教育において、職員が担っている役割を明らかにすることを目的として研究を実施した。【研究の方法】全国の国公私立大学775校の正課外教育を担う部署(学生支援担当部署等)を対象に、質問紙によるアンケート調査を行うとともに、特徴的な2大学に対してヒアリング調査を実施した。【研究成果】本調査の有効回答数は319校であり、回答率は41.2%であった。調査の結果、正課外教育を実施していると回答した303大学において、特に④インターンシップについては、職員が中心的な役割を担うと回答した大学が41.6%、教員と職員が協働し同程度の役割を担うと回答した大学が32.2%と高い割合を示した。その他の正課外教育の取組においても、職員が中心的な役割もしくは教員と同程度の役割を担うと回答した大学が60%を超え、正課外教育における職員の役割の重要度が高いことが明らかとなった。ヒアリング調査においては、職員がどの範囲まで正課外教育に関わるか、正課外教育を学士課程教育の中でどのように位置づけるか、危機管理体制の構築などについて課題を抱えていることが挙げられた。
著者
米田 洋恵
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

リサーチ・アドミニストレーター(RA)と産学官連携コーディネーター(CD)が連携して研究支援にあたることは、研究の推進に大きく寄与する。そのため、両者の連携を重視した柔軟で効果的な研究支援を実現する組織体制・組織マネジメント方法として「プロジェクト型組織モデル(以下「本モデル」)」を提案し、その有効性を検討した。本モデルでは、RAとCDが職掌ごとに別々の組織に所属するのではなく、両者が同一組織に所属し、プロジェクト単位で混合チームを設置する。本研究では、一部に本モデルを導入した金沢大学のRA・CD組織、先端科学・イノベーション推進機構(FSI機構)を調査対象とし、平成28年4月から1年間活動状況を記録した。その結果、新たに融合研究を行う研究チームの立ち上げにおいて、本モデルが著しい成果を上げたことがわかった。また、本モデルにおけるマネジメントの困難さ、具体的には、業務内容およびマネジメント担当者の資質が、本モデルを導入した組織のマネジメントの成否に非常に大きく影響する可能性があることがわかった。同時に行った、他研究機関における組織体制調査においては、RA・CDの連携の重要性は認識しているものの、実際に取り組みを進めている組織はごく限られることがわかった。また、取り組みを進めている組織のなかで最も成果をあげている組織が本モデルを導入していることがわかった。比較検討した結果、本モデルは、RA・CD組織において、業務内容とマネジメント担当者の資質によっては大きな成功を収め得るため, 導入にあたっては、この二点の検証を経る必要性が高いことがわかった。なお、本研究の実施期間内では、他のより効果的な組織体制・運営方法については十分な検討を進めることができなかった。RAとCDが一貫した研究戦略に基づいて活動し、研究推進に大きく寄与しうる組織体制およびマネジメント方法を明らかにするためには、さらなる調査を行う必要がある。
著者
三島 わかな 長嶺亮子
出版者
沖縄県立芸術大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

沖縄県内の聴取の実態を明らかにした。1935年以降に受信機が普及した背景には、安定価格で高性能の受信機の供給があった。この時期、小学校では受信機の設置が顕著で、とくに離島では南洋・台湾・関西へ移住した卒業生からの創立記念品として寄附された。1930年代のネットワーク化を背景に各中央放送局が当地を題材とした番組を制作し、台湾放送協会も同様の流れにあった。地域の人材および地域の文化を発掘・振興したという点で放送局は一大拠点と言える。主要コンテンツ「子供の時間」に着目し、児童劇脚本の分析を行なった。そこでは内地・外地ともに地域の伝統が題材となり、唱歌や国民歌謡等の多様な楽種が放送劇で使用された。
著者
渡邉 美樹
出版者
足利工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

江戸期の寺地と寺院墓地の領域の変遷について、古地図や地籍図をもとに分析した結果、i)江戸期に、周辺の御朱印寺院の年貢地や借地である寺院が数多い。ii)上知後、「拝領地」の約半分が「境内」となり、「年貢地」はほぼ同面積が「民有地」となった。iii)明治以後に寺地の下戻しや払下げがなされた。iv)寺院墓地は江戸の墓地と明治の「境外官有地」を基準とし、むしろ拡張している。v)西浅草や駒込では街区の中央に寺地が残存し、谷中地区では住宅地と寺地・墓地が共存している。
著者
鈴木 雅恵 与那覇 晶子
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は日本の近代化と、沖縄の大和への同化の歴史と共にはじまった、沖縄芝居の特異性、および現在の位相について、大和(特に京都)と沖縄双方の視点から考察し、世界演劇の中に位置づけよう、という研究の一部である。今回は特に、広義の意味での「沖縄」演劇(ウチナーヤマトグチによる現代劇や、映画化された沖縄発のアメリカン・ミュージカルも含む)における、広義の意味での「女優」(舞踊家や、花街や辻の芸能者を含む)の表象について考察し、さらに他のアジア圏や西欧の例と比較することを目的とした。当プロジェクトの主たる成果は、代表者・分担者が主となって、沖縄県男女参画センターにおいて2007年11月23日から25日まで開いた日本演劇学会の秋の研究集会であるといえる。特に、11月24日に、当プロジェクトの成果発表の場として「演劇(芸能)における女優の表象」というタイトルでおこなったシンポジウムは、メンバーの他、沖縄を代表する女優の北島角子氏をはじめ、現役の女性歌劇団員、大阪の歌舞伎研究者、戦後50年間存在した沖縄の女だけの「乙姫劇団」出身の古代宗教研究家等を研究協力者にむかえ、貴重な証言を記録することができた。また、それに先立っておこなわれた「対談」では、芥賞作家の大城立裕氏から、彼の創作した新作組踊における女性像について、貴重な話を聞きだすことに成功した。こうした内容は、地域の人々にもオープンにし、広く研究の成果とその課題を提示することができた。さらに、代表者と分担者は、京都の花扇太夫や女性能楽者、フィンランド・デンマーク・英国・香港の研究者・演出家・女優などに取材して、沖縄演劇における「女優の表象」を相対化することに努めた。特に代表者が宮古島の舞台で、男性の能楽研究者に混じって地謡を勤めた経験は、「芸能する女性」のグローバルかつローカルな表象を、新たな観点から再検討するきっかけとなった。
著者
鈴木 雅恵
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、東アジアのシェイクスピア受容について英文で発信するためのプロジェクトの一環であり、「日本」のシェイクスピアの受容を、伝統演劇の典型としての能と、「日本」とほかのアジアの国々をつなぐ接点としての沖縄の芸能に広げているところに特徴がある。本プロジェクトの期間中には、シェイクスピアを本説とした泉紀子氏の「新作能・マクベス」の英訳や「新作能・オセロ」の研究、「琉球歌劇・真夏の夜の夢」の解読、新作組踊の調査や沖縄演劇の歴史に関する英文論文の執筆などを行った。
著者
山畑 佳篤 入江 仁 太田 凡 山脇 正永
出版者
京都府立医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

バリデーションスタディにより、モーションキャプチャーカメラと音声補助による胸骨圧迫の質評価システムを用いることで評価者の評価の質が向上することが示された。一つ目のランダム化比較試験により、音楽が質の高い胸骨圧迫の習得に有益であることが示された。音楽の中でもテンポが112回/分のリズムで8ビートの楽曲の効果が高いことが示された。二つ目のランダム化比較試験により、音楽および音声補助を用いた教育法が質の高い胸骨圧迫の習得に効果が高いことが示された。教育効果維持のためには音楽の効果が高いことが示された。研究成果として作成した替え歌は、国民への興味喚起、普及への一助となった。
著者
川野 有佳
出版者
城西国際大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

18年度の成果として、以下の点が挙げられる。まず、研究テーマに基づく先行研究を体系的に理解することを目指した。つまり(1)これまでのインドにおける女性・フェミニズム運動についての基礎文献をたどり、(2)ダリットや非バラモン主導による解放運動について、歴史的背景とそのおおまかな流れを把握した。これら二つの流れをたどりながら、そこから浮上してきた幾つかの事例から、"主流派"女性運動とダリット女性両者の接点についての考察を深めることができた。そのうちの一事例として、1970年代末、マハーラシュトラ州オーランガバードを起点として広まりをみせた、通称Namantar運動(大学改名要求運動)が挙げられよう。この運動は70年代末以降、ダリットがマラートワーダー大学からDr.ババサヘーブ・アンベードカル・マラートワーダー大学へと大学名の変更を要求したことがきっかけとなり、その後マハール・カーストを主とした非ダリットとダリットとの政治的対立構造が顕著となっていった。この運動については多くが男性政治家・運動家によって記されているが、なかでもダリット女性および非ダリット女性がこの運動をどう理解し、どのように関与したかについては未解明な部分が多い。したがって存在する数少ない資料を掘り下げ、また実際運動に関与した当事者(ダリットおよび非ダリット女性運動家、フェミニストら)に聞き取り調査をおこなった。その結果、この運動には実に多くの人々が賛同し、改名を擁護したことが明らかとなったが、特に草の根レベルにおいて多くの女性が果敢に参加したことについて、記録としてほとんど存在しないことや、賛同したダリット女性や非ダリット女性がいかに運動内で協働し合ったか、あるいはし合わなかったかについては、まだ十分に解明されてはいないことなどが明らかとなった。つまりのそ未解明な部分を明らかにするために、ダリット女性と非ダリット女性の両者の意識がせめぎあう場としてこの運動を位置づけ、それを起点に、当時から現在まで続いている両者の連帯、そして分裂について理解を深めようと試みた。この研究は現在も継続中であるが、2006年10月の日本南アジア学会にてその一部を発表した。今後も引き続き研究を続行させていく予定である。さらに、ダリット女性と非ダリット女性の意見の対立が際立つその他の事例にも注目しており(特に、異なるカースト女性のカースト別の議席配分について)、また近年起きている様々な女性運動家および女性団体での意見の相違についても事例を収集し、その分析を続行させている。これらについても今後も継続して研究を行っていく所存である。
著者
佐藤 哲也
出版者
熊本県警察本部科捜研
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

1. 研究目的近年、法科学鑑定における体液識別法として、体液に特異的に発現しているmRNAを指標とした方法が報告されている。mRNAの利用は、検査法の一元化による消費試料の削減や高い検出感度を達成できることから、利用価値が高いと考えられている。これまでに報告されているmRNAの検出法は、主に逆転写とリアルタイムPCR法を組み合わせた方法が用いられているが、反応に時間を要し、専用の機器を必要とする。そこで本研究では、逆転写・増幅を等温で迅速行うことができ、増幅を肉眼で簡便に確認できるRT-LAMP法が体液識別に応用可能か検討を行った。2. 研究方法血液、精液、唾液について検討を行った。血液はhemoglobin-bata(HBB)、精液はsemenogelin1(SEMG1)、唾液はstatherin(STATH)を標的とし、プライマーを設計した。各体液からtotal RNAを抽出し、Loopamp RNA増幅試薬キット(栄研化学)を用いて増幅した。増幅の検出は、蛍光試薬を加えて目視で行った。血液、精液、唾液、汗、尿、膣液を用いて体液特異性及び各体液の検出感度について検討した。なお、本研究は日本法科学技術学会倫理審査委員会の承認を得て実施した。3. 研究成果設計したプライマーを用いて増幅を行ったところ、各mRNAに特異的な増幅が見られた。次に、体液特異性について検討したところ、1時間以内の反応で、HBBは血液、SEMG1は精液、STATHは唾液でのみ蛍光を示した。検出感度は、血液は0.3nl、精液は30nl、唾液は0.3μl相当まで検出することができた。以上の結果から、RT-LAMP法は血液、精液、唾液の体液識別においで有効であることが考えられた。ただしSTATHは、鼻汁に含まれるとの報告があるため、唾液についてはその他の標的についても検討する予定である。
著者
金澤 弘 吉岡 健二郎 古田 真一 羽生 清 木下 長宏 井上 明彦 並木 誠士 松原 哲哉 金澤 弘
出版者
京都造形芸術大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

近代国家は自国民のアイデンティティ確保の体系を整えていったが、これは自己目的的な有機体としての国家のイデオロギーを創出することであった。有機体の概念は芸術制度に対しても適用されたが、実のところそれは元来芸術作品を範型として考えられたものである。この本来的な両義性が、近代国家における芸術の制度化に際して二つの側面をもたらした。一つは芸術を積極的に社会組織に同化させようとするものであり、もう一つは芸術を国家道徳から乖離させるものである。日本においては、近代化が国家主義的な反動を一八八〇年代に引き起こした。たとえば、岡倉天心によって押し進められた日本画の特権化である。しかし、これは実際には一種の西欧的芸術概念、すなわち国家の自己主張を表明するものとしての芸術という考えを導入したものである。他方、一つの典型的に日本的な(そして中国的ではない)伝統があって、それによれば芸術の世界は社会的政治的生からの対蹠物としてみなされる。それが芸術家、とりわけ小説家や文人画家の何人かをして、みずからの芸術を西欧化に対し均衡を保つためのものとして考えさせることになった。夏目漱石の場合はそれである。文化的アイデンティティとしての芸術は、こうして二つの方向にその機能を分岐させた。国民国家の有機体モデルと、生来の(これもまた人為的な)自己なるものへの参照物である。しかしまさにこの時、芸術に対する歴史的な態度が普及していき、その近代的な考え方にもう一つの観点を付け加えることになった。それによれば芸術はもはや自分以外の何者の有機体のモニュメントでもなくなり、芸術についての自律的学問に博物館学的資料を提供する領域となる。またそれと同時に、国家的アイデンティティの方も、芸術の領域以外のところ、とりわけマス・コミュニケーションのうちに次第に有効性を見出していったのである。
著者
大関 真之 一木 輝久
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

機械学習アルゴリズムの多くは勾配降下法に基づき、その都度パラメータを更新する。その更新に際して極小の谷に落ち込むことがしばしばある。その回避のために熱揺らぎに相当するガウスノイズを導入する、シミュレーテッドアニーリング法、さらには量子揺らぎを導入する量子アニーリング法が物理学サイドからは提案されている。現在投稿中の論文は、深層学習における量子揺らぎの導入によってもたらされる効果の検証を行ったものである。量子揺らぎの導入により、トンネル効果によって極小の谷を超える効果を期待することはもちろんであるが、有限の量子揺らぎにより、谷の中における谷の形状の探索が可能であることが判明した。この形状の探索により、機械学習アルゴリズムの性能指標として最も重要な汎化性能が向上することが判明した。数値実験として極めて汎用的なオープンデータセットについて検証を行ったところ、良好な汎化性能を獲得した。この汎化性能の起源について、解析的検討を行ったところ、極小の周りの揺らぎをガウス分布の形で取り入れており、MM勾配降下法を採用すると、エントロピー勾配効果法として知られる海外の有力グループの手法を系統的に導出することができた。またこの手法は計算リソースを大半に割くため、MM勾配降下法だけでなく簡易的な手法にする他のタイプの近似を導入する可能性についても検討を行った。特に励起状態への遷移を考慮した離散的ノイズを導入すると、対応するフォッカープランク方程式に補正項が加わり、確率分布の形状による改善効果がもたらされることが判明した。この成果も突如得られたものであるため、最終年度である次年度に出版をする予定である。