著者
長谷川 千紘
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.17-27, 2015

本稿では,「私がない」ことを訴える20代前半の女性の心理療法過程を報告する。クライエントは思春期に生じた自己像の揺らぎをきっかけに摂食障害や希死念慮を抱えてきた。面接当初,彼女は出来事の次元としては整った物語を語ったが,そこには彼女自身の内的リアリティが欠けていた。セッションのなかで彼女は"自分が空っぽ""自分が分からない"と感じていることが明らかになる。彼女の心理学的テーマはどのように自分自身に出会うかという自己関係の問題であったと思われる。本論文では8つの夢を通して,彼女の〈私〉という自己感がどのような状態にあって,どのように変化していったのかを検討する。
著者
神田 雅透
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.125-130, 2009-03-01

情報化社会が安全に機能するための基盤技術の一つに暗号技術があることはよく知られている.しかし,縁の下の力持ち的存在であるがゆえに普段からあまり意識されずに利用されている一方で,その中身は難しいものと思われて興味の対象からは敬遠されがちである.しかし,暗号解読では確率分布などを利用したり,リスクコミュニケーションでは最適値問題としてOR的手法が必要となるなど,ORに近い分野の研究もある.そこで,本特集記事への橋渡しを兼ね,どのような暗号技術がどのような場面で使われているのかについて,最近の動向を交え,紹介する.
著者
澤岻 哲也 嘉手苅 佳太 新崎 千江美 田場 聡
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.119-123, 2014
被引用文献数
7

我が国のマンゴー(Mangifera indica L.)は沖縄県,鹿児島県および宮崎県などの西南暖地を中心に栽培が盛んに行われているが,果実の流通過程においてマンゴー炭疽病の発病が深刻な問題となっている。本病は輸送中の果実に黒色円状の病斑が発症,進行するため,経済的損失だけでなく市場や消費者の信頼,さらには産地ブランドの評価にも大きく影響を与える。そのため,生育期の圃場における防除対策が急務となっている。マンゴー炭疽病は,Colletotrichum gloeosporioides (Penzig) Penzig and Saccardo(岸,1998)およびC. acutatum J. H. Simmonds(田場ら,2004)の2種の糸状菌によって引き起こされ,特にC. gloeosporioidesは圃場での優占種であることが明らかとなっている(澤岻ら,2012)。沖縄県の施設マンゴーにおける一般的な炭疽病対策は,出蕾期の1月以降から収穫期の7月まで,ビニール被覆による雨よけと併せて薬剤防除が行われている。とくに着果期から袋かけ直前までの主要散布剤として,残効性に優れ,果実の汚れが少ないストロビルリン系薬剤(以下,QoI剤)であるアゾキシストロビン剤やクレソキシムメチル剤の散布が普及,定着しつつある。しかし,佐賀県(稲田ら,2008),奈良県(平山ら,2008)および茨城県(菊地ら,2010)においてQoI剤耐性イチゴ炭疽病菌が既に確認されており,防除暦における散布回数の削減を余犠なくされている。2010年4月現在,沖縄県におけるマンゴー炭疽病菌では本剤に対する防除効果の低下事例ならびに耐性菌の発生は確認されておらず,その実態については不明である。
著者
岩崎 保道
出版者
関西大学教育開発支援センター
雑誌
関西大学高等教育研究 (ISSN:21856389)
巻号頁・発行日
no.4, pp.19-27, 2013-03

本稿は、IR(Institutional Research)の実施状況と特徴を明らかにするものである。その方法として、IRに関する先行研究を踏まえ国立大学における取り組み事例を分析する。国立大学の法人化(2004年度)以降、事業成果を客観的に評価したり次期政策のエビテンスとなる科学的な分析データが重視されるようになった。特に、法人評価の結果は「第三者評価の結果を大学の資源配分に確実に反映される」ことから、大学データを戦略的に活用することが国立大学の課題となっている。国立大学が法人化の趣旨を真に活かした事業展開するためには、科学的な根拠に基づいた政策判断が重要になる。そのためにも優れた情報分析の手法や取り組みを導入することが大学機能の向上に必要になると考える。前述の目的を達成するため、以下の展開により検討を行う。第一に、国立大学におけるIRの必要性に関する先行研究を紹介する。第二に、IRに関するアンケート調査結果を紹介することにより、IRの実施状況を概観する。具体的には、日本生産性本部(2012)及び高田ほか(2012)による調査結果を紹介する。第三に、国立大学におけるIRの取り組みとして、三大学の取り組みを紹介する。教学データを中心にするものや大学全体に関わるデータを対象にして情報分析するものなど、各大学の趣旨に応じた体制が構築されている。第四に、まとめとして国立大学におけるIRの特徴を整理する。筆者は、勤務校においてIRや大学評価に関わる業務を行っている。これまでの評価業務を通じて、大学データの管理や情報分析は大きな役割を担う実感を持った。特にIRは大学改革に資する情報を提供する職責を持つ業務と考え、高等教育の質的向上につながることを期待して当該研究を行うものである。
著者
箕輪 政博 形井 秀一
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.491-494, 2008-05-20

受傷直後から整形外科治療に併せて鍼治療を行った外傷性頸部症候群の一症例を報告する。症例は軽自動車を運転中に後方より追突された38歳の女性。事故翌日より,手指のしびれ,肩背部の疼痛を自覚して,整形外科治療とともに鍼治療を開始した。鍼治療は上肢下肢の遠隔部の経穴のみに置鍼施術を行い,評価には数値的評価スケールを用いた。治療後に数値が50%以上改善するように治療した結果,治療直後の症状改善は著しく,数値的評価も経過とともに改善した。鍼治療は症状が強い時を主に合計49回行い,7カ月後に症状が緩解したので終了した。外傷性頸部症候群の難治例の患者は,治療の長期化に悩むケースがあり,本症候群に対する鍼灸治療のエビテンスの確立が望まれる。
著者
土田 幸男
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
no.109, pp.81-92, 2009

さまざまな認知活動を支える動的な記憶のシステムであるワーキングメモリには,制限された容量が存在する。本論文では,ワーキングメモリにおける容量とは何なのか,これまでの知見を概観し,解説した。加えて,その個人差がどのような認知パフォーマンスに影響するのか知見をまとめた。これらに基づき,記憶それ自体が関わっていない選択的注意においてもワーキングメモリ容量の個人差が影響を与えるという仮説を検証した。事象関連脳電位を用いた研究から,ワーキングメモリ容量の個人差は課題非関連刺激に対する注意を抑制する可能性を示唆した。最後に,ワーキングメモリ容量と発達障害の関係,トレーニングによる容量向上の可能性について論じ,将来の研究可能性を示した。
著者
小林 敏雄 佐賀 徹雄 瀬川 茂樹 金 泰均 崔 正明 金 錫魯
出版者
The Visualization Society of Japan
雑誌
可視化情報学会誌 (ISSN:09164731)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.223-226, 1996

One of difficulty of particle tracking velocimetry (PTV) applying to air flow measurement is the detection and tracking of high speed fine tracer particles to the digital image. Tc capture and to track particle's images, an unique multi-illumination technique and a particle tracking algorithm are developed, and the technique has been applied to the measurement of a complex air flow around an axial flow fan with a flow velocity of about 6 m/s. In this paper, the details of procedure of the air flow measurements are presented.
著者
山田 浩之
出版者
広島大学大学院教育学研究科
雑誌
広島大学大学院教育学研究科紀要 第三部 教育人間科学関連領域 (ISSN:13465562)
巻号頁・発行日
no.58, pp.27-35, 2009

Owing to the decrease of the population of 18 year-old from the late of 1990s in Japan, around the half of private universities are short of their quotas. Such universities are called "Border-Free Universities", which do not have the obstacles to enter and are accepting applications for admission on the recommendation systems. In this article, the significance and the problems of student surveys at "Border-Free Universities" will be discussed. Firstly, the problems of current student surveys are examined. Secondly the characteristics of the students of "Border-Free Universities" are clarified using the survey results of universities in the west of Japan in 2008. Finally, from the examination above, three topics are discussed. 1) Universities in Japan are stratified and classified in a few types. "Border-Free Universities" are completely different from other types, so that the unique research frameworks to examine such universities. 2) The activities of each university affect the student behaviors, so the difference of each university should be examined. 3) To clarify the relationship between the activities of each university and student behaviors, fieldwork and other qualitative methods are required in the research at "Border-Free Universities".
著者
浅野 哲夫 ムルツァー ウォルフガング ロウテ ギュンター ワング ヤジュン
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. COMP, コンピュテーション
巻号頁・発行日
vol.110, no.232, pp.1-7, 2010-10-08

本報告では定数作業領域あるいは対数記憶領域と呼ばれる制約のある計算モデル上で効率よく実行できる幾何問題に対するアルゴリズムを提案する.まず最初に平面上に与えられた点集合に対するデローネイ三角形分割を描くアルゴリズムから始め,それをボロノイ図を描く問題に応用する.これらの問題に対しては,O(n)の記憶領域を用いることができるならΘ(n log n)時間のアルゴリズムが知られているが,本報告で述べるアルゴリズムはO(1)の作業領域だけを用いてO(n^2)時間で実行できるものである.さらに,これらのアルゴリズムを用いて,平面上に与えられた点集合に対するユークリッド最小木を求める効率の良いアルゴリズムも与える.
著者
孝口 裕一 山野 公明 八木 欣平 奥 祐三郎 松本 淳 浦口 宏二
出版者
北海道立衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

イヌの抗多包条虫ワクチンの開発は将来的に飼いイヌからヒトへ、あるいは終宿主動物の感染率を長期的に下げる有力な手段になる可能性がある。一方、イヌに感染と駆虫を繰返すと部分的な感染抵抗性を示すという報告があり、再感染によって誘導される虫体排除機序を解明することはワクチン開発を行う上で重要であると考えられる。本研究ではイヌに多包条虫を繰返し実験感染させ、従来の糞便検査に加え、分子生物的な解析を行うことにより主要な虫体排除機序の一端を明らかにした。また、繰り返し感染により感染抵抗性を獲得したイヌの虫体排除能は短期的に消失せず、イヌの抗多包条虫ワクチン開発の可能性を裏付けた。