著者
大池 祐輔
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.5-15, 2021-07-01 (Released:2021-07-01)
参考文献数
15
被引用文献数
5

電子の眼ともいわれるイメージセンサは,その技術進化によってカメラの性能を飛躍的に向上させて,私たちの現在の生活に欠かせないデバイスとなった.CCDイメージセンサの登場でビデオカメラの小型化に成功して以来,CMOSイメージセンサにおける列並列AD変換回路や裏面照射構造の開発によって,その市場は大きく拓かれた.本稿では,スマートフォン普及による小型・高機能化のニーズに応えたイメージセンサの三次元積層技術とアーキテクチャの進化,さらに今後の展望として画素並列回路アーキテクチャやエッジコンピューティングを統合するイメージセンサの技術動向を示す.
著者
高井 文子 近能 善範
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
pp.0230131b, (Released:2023-07-11)
参考文献数
37

本稿は、1970年代後半から1990年代半ばにかけての日本のパソコン市場を対象に、市場の立ち上がりからNECによる寡占体制が確立し、やがてそれが崩れ去っていくまでのプロセスを時系列的に丁寧に記述することを通じて、リーダー企業が新たなイノベーションに十分に対応できず、競争力を大幅に毀損してしまう原因を探ることを目的としている。本稿では、事例を記述するにあたって、①プロセス戦略論の視点、②競争ダイナミクスの視点、③行為システム・アプローチの視点、という三つの視点を意識しながら、通常求められる以上に「厚い」事例記述を行う。
著者
杉田 篤子 杉田 和成
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.37-44, 2015 (Released:2015-03-10)
参考文献数
40
被引用文献数
4

ビタミンB3として知られているナイアシンは,生体内で補酵素として働く,nicotinamide adenine dinucleotide(NAD)とnicotinamide adenine dinucleotide phosphate(NADP)の合成に必須である.ナイアシンは皮膚ランゲルハンス細胞のG protein-coupled receptor(GPR)109Aと結合し,ナイアシン摂取過多時は,頭頸部に血管拡張によるフラッシングを誘発する.他方,ナイアシンの欠乏は,アルコール依存症,薬剤,栄養不良などに起因し,ペラグラに代表される光線過敏症を起こす.したがって,ナイアシンの作用を明らかにすることは,光線過敏症のメカニズムの解明や新規治療ターゲットの探索の上で非常に重要である.最近,ペラグラ患者およびナイアシン欠乏ペラグラマウスモデルでプロスタグランディンE合成酵素(prostaglandin E synthase: PTGES)の発現が亢進していることが明らかになった.さらに,ペラグラによる光線過敏症は,prostaglandin E2-EP4(PGE2-EP4)受容体シグナルが関与し,ケラチノサイトからのreactive oxygen species(ROS)を介して発症することが示唆された.本稿では,ナイアシンの免疫における役割および,ナイアシン欠乏による光線過敏症のメカニズムについて述べる.
著者
新開 大史 喜田 宏
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

インフルエンザウイルスの感染モデルマウスを用いて、抗原原罪が実際に起こることを確認した。免疫グロブリンのレパトア解析を行ったところ、PR8感染群は非感染群に比べてレパトアの多様性が高いことがわかった。これは、感染によってより多様な免疫グロブリンが誘導されたことを示唆している。また、免疫グロブリンのCDRH3領域を解析した結果、インフルエンザウイルスに特異的なCDRH3のアミノ酸配列を発見した。現在、免疫グロブリンレパトア解析により、コントロールマウスと抗原原罪マウスで誘導される抗体のCDRH3配列パターンの違いを解析している。
著者
江口 英利 三森 功士
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究はイベルメクチンがYAP1の阻害により胃癌に対して抗腫瘍効果を有すかを明らかにする。イベルメクチンを胃癌細胞および胃癌マウスモデルに投与すると腫瘍増殖抑制効果を認めた。またその機序として、Hippo経路の転写因子であるYAP1は細胞増殖関連遺伝子であるCTGFを誘導するが、イベルメクチン感受性胃癌細胞においてイベルメクチンの投与によりYAP1 mRNA、核内YAP1蛋白が減少し、CTGFの発現が減弱した。つまり、イベルメクチンはHippo経路のYAP1発現を抑制することにより細胞増殖を抑制しうる。また胃癌症例において、YAP1高発現群は予後不良であった。
著者
長谷川 秀記
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.587-598, 2016-12-01 (Released:2016-12-01)
参考文献数
5

日本の電子出版30年の歴史を電子辞書と電子書籍の2つのコンテンツから概観する。日本の電子出版はCD-ROMの登場とともに誕生した。電子辞書は1980年代後半に生まれたCD-ROM辞書から始まり,1990年代後半には携帯電子辞書端末が主流となる。1999年iモードがリリースされると会員制のケータイ辞書引きサービスが生まれ,現在はネットワーク辞書とスマホ辞書アプリが主流になるなど時代によって媒体が変化してきた。現在はネット上の無料辞書引きサービスや検索エンジンに押されて有料電子辞書は苦戦をしている状況である。一方,電子書籍は電子辞書に比べると普及に時間がかかった。最初の電子書店は1990年代半ばにできたが,iモードによってケータイでコミックが読めるようになると徐々に普及が進み,スマートフォンの発売や米国での電子書籍のブームを受けて,日本でも2010年は「電子書籍元年」と騒がれた。現在はまだ印刷本の電子化という段階にとどまっているが,今後電子ならではの表現が加わることが期待される。
著者
畑江 敬子 奥本 牧子
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.133-140, 2012 (Released:2014-03-14)
参考文献数
10

煮物の味は冷めるときにしみ込むという言い伝えを検証するために,ジャガイモ,ダイコン,コンニャクを2 cm角の立方体に成形し,1%食塩水中で食べられる軟らかさまで加熱後,0,30,50,80,95°Cで90分まで保温し,30分後と90分後に外層部と内層部の食塩濃度を測定した。温度降下条件を各設定温度に試料を加熱した鍋のまま移す緩慢条件と,氷水に鍋をつけて設定温度まで下げた後保温する急速条件の2種とした。いずれの条件でも,保温温度が高いほど,食塩の内部への拡散は大きく,このことは官能評価でも確認された。これらの結果から冷めるときに味がしみ込むということは見いだせなかった。ソレ効果についても検討したが,ソレ効果で煮物の調味料の拡散を説明することはできないことがわかった。冷めるときに味がしみ込むというのは,冷める時間に調味料が内部へ拡散することを言っているのではないかと考えられる。
著者
萱 和磨 原田 睦巳 冨田 洋之 川井 航
出版者
日本スポーツパフォーマンス学会
雑誌
スポーツパフォーマンス研究 (ISSN:21871787)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.275-294, 2023 (Released:2023-10-26)
参考文献数
10

本研究では、「日本式宙返り懸垂」について局面ごとに実施者間の技術相違を探り、当該技を成功させる為の技術の一要因を考察することを目的とした。実施者については、習得者、未習得者のそれぞれ2 名ずつ4 名を選出した。習得者らの特徴として、準備局面では素早いぬき、あふりを行い、前方開脚宙返り局面では後方に移動しながら回転を行っており有用な技術であると示唆された。
著者
久保 拓弥
出版者
社団法人 農山漁村文化協会
雑誌
生物科学 (ISSN:00452033)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.188, 2003-03

樹木の個体・個体群・群集の問題を取りあつかう生態学のデータ解析ではさまざまな統計学的手法が駆使される.同時にこれらの手法についてよく理解されぬまま間違って用いられている事例も散見する.ここではよく普及しているごく簡単な誤用二例を紹介する.対数変換してから直線回帰することで生じる問題,そして「割り算指標」とその分母の間で「負の相関を創作」してしまう失敗である.どちらも観測データの「確率分布を見ない」解析方針に原因がある.統計学的なデータ解析では背後にある確率論的モデルを考え,それらに合致した統計学的手法を採用しなければならない.
著者
藤堂 浩明 齋藤 美幸 鈴木 宏宙 井上 裕 高山 幸三 杉林 堅次
出版者
公益社団法人 日本薬剤学会
雑誌
薬剤学 (ISSN:03727629)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.111-120, 2021 (Released:2021-01-01)
参考文献数
6

It is important when developing effective and safe pharmaceutical products to select adequate active components and formulations as well as to design their containers and devices. Minoxidil was developed as a direct over-the-counter (OTC) drug in 1999 and has long been marketed only by one original company. Recently, many generic products have been marketed. However, the shape and type of the containers for these generic products differ from that of the original product, leading to a possibility that the amount of minoxidil applied by patients may differ. In the present study, the original and three typical generic products with 5% minoxidil external formulations were evaluated for their filling amounts, single application amounts, extent of distribution on application, ability to reach the scalp, and dripping properties. As a result, statistically significant differences were found in the filling amounts and ability to reach to the scalp between the products due to differences in the nozzle shape of the container. In addition, a large variation was observed in some of the generic products in terms of the drug liberation. These results indicate that it is important to suitably design and adequately evaluate the container for OTC products such as minoxidil formulations, which can exhibit toxicity from overuse, and that are easily purchased by consumers.
著者
石黒 直樹 原田 紀子 江端 望 藤井 幸一
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.8-14, 2020-02-25 (Released:2020-03-04)
参考文献数
48

変形性関節症の痛みについて,患者には「関節軟骨が剥がれて,むき出しになった骨が擦れて痛い」「骨棘がぶつかるから痛い」と説明されることが多いと思われるが,実際はそれ以上に複雑である.もちろん,骨や軟骨,関節周囲の支持組織の構造変化は痛みの原因になり得るが,変形性関節症の痛みには,滑膜炎や軟骨・半月板内側などの無神経野への神経伸長,中枢性/末梢性感作や下行性疼痛抑制系の異常など,さまざまな要素が関連している.これらの要素は,密接にかかわりながらもそれぞれ独自の機能を有するため,独自に異常をきたし得る.つまり,変形性関節症の痛みは,非常に複雑かつ病期や患者個人によって痛みの主因がさまざまであるため,異常をきたしている要素に応じた治療が求められる.超高齢社会を迎えるにあたり,われわれ医療従事者が変形性関節症患者の診療を行う機会はさらに増えていくと思われる.変形性関節症の痛みに対するテーラーメイドの治療を実現するには,まず変形性関節症で起きている変化や痛みの原因について,深く理解することが重要である.
著者
髙岡 良成 森本 直樹 三浦 光一 野本 弘章 渡邊 俊司 津久井 舞未子 前田 浩史 五家 里栄 礒田 憲夫 室井 一男 山本 博徳
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.11-17, 2020-01-01 (Released:2019-12-27)
参考文献数
28
被引用文献数
1 2

症例は74歳男性.2018年X月に大動脈弁置換術の際に輸血を施行した.術後2カ月頃から肝機能障害を認め,HEV-IgA抗体およびHEV-RNA陽性(genotype 3b)でE型肝炎と診断した.その後の解析で輸血前のHEV-IgG抗体陽性,HEV-RNA陰性であったことからE型肝炎既感染例と考えられた.また輸血に使用した凍結新鮮血漿からHEV-RNAが検出され,解析できた遺伝子配列が患者由来HEVとほぼ一致したため,輸血によるE型肝炎と判断した.本邦では2017年までに本例を含めると,少なくとも26例の輸血後E型肝炎が発症し,その報告数は増加しつつある.北海道地区では輸血製剤において核酸増幅検査によるHEVスクリーニング検査が行われているが,それ以外の地区では施行されていない.よって全国での核酸増幅検査によるHEVスクリーニングの早期導入が望まれる.
著者
三中 信宏
出版者
日本計量生物学会
雑誌
計量生物学 (ISSN:09184430)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.117-125, 2018-03-01 (Released:2018-05-18)
参考文献数
21

The recent controversy over the use and abuse of p-values in statistical data analysis sheds a light on the epistemological diversity of scientific researches and the nature of science. Since the nineteenth century theoretical statisticians including Karl Pearson, Ronald A. Fisher, Jerzy Neyman, and Egon S.Pearson constructed the mathematical basis of modern statistics, for example, experimental design, sampling distributions, or hypothesis testing, etc. However, statistical reasoning as empirical inference is not necessarily limited to the Neyman-Pearson’s decision-making paradigm. Any kind of non-deductive inference—for example, abduction—also uses statistics as an exploratory tool for relative ranking among alternative hypotheses and models. We must understand not only the proper use of statistical methods and procedures but also the nature of each science to which statistics is applied.