著者
松本 隆 マツモト タカシ Takashi MATSUMOTO
雑誌
清泉女子大学人文科学研究所紀要
巻号頁・発行日
vol.35, pp.271-286, 2014-03

1874年に翻訳出版された化学入門書『ものわり の はしご』の語彙、特に巻頭の用語解説付録「ことば の さだめ」の見出し項目を分析した。本書は、漢字と漢語を廃し、化学的な現象や物質名を含め、全文を平仮名の和語で訳しており、その語彙分析から主な特徴として次の3点を見出した。(1)和語による造語は、それまでの漢字を用いた造語の流れを汲んでおり、和語でも体系的で簡明な命名が可能である。(2)類義関係にある和語動詞群を使い分けることにより、混同しやすい類似の化学現象を区別して表現できる。(3)漢語よりも和語の方が、現実世界の事象を巧みに言語に写像し命名した例も見られる。つまり本書は、近代の西洋思想を和語で表現し、論旨の通った文章を平仮名で表記できることを、化学の分野で世に示した先駆的実践ということができる。
著者
飯田 秀延
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.192-196, 2020-01-15

高等学校で実践した,課題解決型のアクティブ・ラーニングをとり入れた,映像制作の授業を紹介する.本授業では,能動的に動画制作(問題解決)を行うことにより,生徒の創造的な思考力や,問題を発見したり解決したりする能力を育むことができる.また,グループ内でコミュニケーションを取り,自主的に作業を行うことで,「知識および技能」や「思考力・判断力・表現力」のみならず,「学びに向かう力,人間性」などの向上も図れる.アンケートでは,「今回のようなアクティブ・ラーニングの授業を今後も受けたいか」という質問に対して,86%の生徒が「ぜひ受けたい」または「どちらかというと受けたい」と回答した.
著者
小澤 りりさ Lilisa Kozawa
出版者
同志社大学商学会
雑誌
同志社商学 = Doshisha Shogaku (The Doshisha Business Review) (ISSN:03872858)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.1133-1145, 2022-01-11

本研究は、議論のあいまい性を指摘されることの多い両利きの組織研究に対し、先行研究をもとにその課題を考察し、両利きの組織研究における条件を提示することを目的とする。調査の結果、研究を行う際には活用と探索の定義を述べたうえで、「活用と探索の主体」、「活用と探索の重なり」の2つの条件を明示し、それらを前提として両利きの組織についての詳細な記述を行う必要があることを提示した。
著者
木鎌 耕一郎
出版者
八戸学院大学
雑誌
八戸学院大学紀要 (ISSN:21878102)
巻号頁・発行日
no.50, pp.83-93, 2015-03-31

幕末維新期に、新しい生き方を模索した東北の士族階級の中に、各地に設けられた開港地で宣教師らに学ぶ者が現われた。彼らはキリスト教信仰を新しい精神的支柱とし、社会的な活動に携わっていった。その中のひとりに、八戸藩出身の士族、源晟(みなもと・あきら)がいる。彼もまた、維新期にキリスト教に感化され、やはり自由民権運動に参与して地元政界で活躍した人物である。彼が入信したキリスト教は明治期に函館から宣教を開始したハリストス正教会(ロシア正教会)であった。一時期八戸には、ハリストス正教会の教会も存在した。本稿では、明治期の八戸地域におけるハリストス正教会の宣教の経緯と、これに関わった人々の動向について、関連史料と先行文献をもとに整理する。
著者
山田 良透 Yamada Yoshiyuki
出版者
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告: 宇宙科学情報解析論文誌: 第5号 = JAXA Research and Development Report: Journal of Space Science Informatics Japan: Volume 5 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.JAXA-RR-15-006, pp.43-49, 2016-03-10

Nano-JASMINEは,近年急速に進歩している超小型衛星を利用して,高精度な星の位置決定の観測をしようという試みである.Nano-JASMINEの目指す精度は3ミリ秒角(3mas),1.5×10(exp -8)radである.衛星の姿勢センサーをみると,大型衛星では1秒角(1/3600 度)程度が達成されるのに対して,超小型衛星では1分角(1/60度)程度の姿勢決定精度しか持たない.大型衛星に比べると性能の低い機器を用いた衛星で,高精度観測を達成するカギは,データ解析の役割の重要性である.Nano-JASMINEにおけるデータ解析,特に姿勢モデルのパラメータの選択に関して報告する.
著者
奥村 潔 石田 克 樽野 博幸 河村 善也 Kiyoshi Okumura Shinogu Ishida Hiroyuki Taruno Yoshinari Kawamura 岐阜県博物館 大阪市立自然史博物館 愛知教育大学 Gifu Prefecture Museum Osaka Museum of Natural History Aichi University of Education
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.70, 2016-03-31

熊石洞は日本の代表的な後期更新世の哺乳類化石産地の一つである.この洞窟の化石堆積物の発掘調査は主に1965年から1981年まで行われ,保存のよい大型シカ化石を含む多数の哺乳類化石を産出した.本報告では,大型シカ化石の詳細な記載を行うが,これによりほぼ同じ大きさのヤベオオツノジカ(Sinomegaceros yabei)とヘラジカ(Alces alces)という2種の大型シカの区別を明確にする.日本においてこの大型シカ2種はしばしば混同されてきたが,骨および歯の特徴からこの2種の識別を行う.また,主に角の形態的特徴に基づき,ヤベオオツノジカが中国産Sinomegacerosの種とは別個の日本固有の種であることを確認する.さらに,歯の萌出と咬耗の程度に基づいて2種の大型シカの年齢構成も明らかにする.
著者
藤原 哲 Satoshi FUJIWARA フジワラ サトシ
出版者
総合研究大学院大学文化科学研究科
雑誌
総研大文化科学研究 = Sokendai review of cultural and social studies (ISSN:1883096X)
巻号頁・発行日
no.7, pp.59-81, 2011-03-31

1980年代までの研究において、環濠集落は弥生時代の代表的な集落であり、かつ防御的な機能を有しているという認識が強かった。近年では環濠集落像の見直しが進み、防御説に立脚しない論旨を展開する研究者も多く、集落ではない環濠の存在も指摘されるなど、新たな環濠像が数多く提示されるようになってきている。 従来のように「環濠集落=標準的な弥生集落」という見方は正しいのであろうか、小論では日本列島や弥生集落全体の中で、環濠集落がどのように位置づけられるのかの検討を試みた。 研究方法としては、近年、数多く調査されるようになった環濠集落のうち、ある程度構造が明らかな約300遺跡を集成し、時系列と分布とを中心として再整理する。また、集落規模や立地条件をもとに環濠集落の分類を行った。 上記の分析を通じて、環濠集落は源流となる韓国においても、日本列島での弥生時代を通じてみても、標準的な集落ではなく、むしろ極めて希少な集落形態であることを明らかにした。また、集落ではない環濠遺跡が多数あることも改めて認めることができた。 環濠集落の分類結果では、農耕文化が本格的に定着した時期に成立するような中・小規模の農耕集落が大多数であった。しかし、農耕文化成立期の全ての弥生集落に環濠が巡っていたわけではないため、環濠集落とはある特定の農耕集団の所産によるものと推察した。大規模な環濠集落や高地性の環濠集落などについては、更に数が少ない特殊な集落であることを指摘した。 これらの分析から、これまで標準的な弥生集落と思われがちな環濠集落が極めて希少な例であり、日本列島の弥生社会では農耕文化そのものを受け入れない地域、農耕文化と環濠集落の両方を受け入れる地域、農耕文化は受け入れても環濠集落を受け入れない地域など、様々な地域差が想定できた。This paper presents research on moat encircling settlements of the Yayoi period in Japan.Until the 1980s, many archaelologists thought the moat encircling settlements of at the Yayoi period were standard Defense settlements for warfare. Recently, however, many researchers have not adopted the defense theory.In this paper I review and consider Yayoi moat encircling settlements based on the research results so far. I have studied the research on over 250 moat encircling settlements in Japan and Korea. It is thought that, moat encircling settlements were not standard large settlements of the Yayoi period, rather, they were very rare settlements and only particular farming groups lived at such moat encircling settlements.With the establishment of agricultural culture, encircled settlements declined and eventually disappeared in Yayoi Culture. Most moat encircling sites were not settlements; however, some moat encircling settlements in the middle stage of the Yayoi period were large settlements.The examination and understanding of the moat encircling settlements of the Japanese islands can illuminate various regional differences.
著者
齋藤 雅史 伊藤 毅志
雑誌
研究報告ゲーム情報学(GI) (ISSN:21888736)
巻号頁・発行日
vol.2023-GI-49, no.14, pp.1-6, 2023-03-10

人間を超えるレベルの将棋 AI が出現して,プロ棋士はそれを学習に利用するようになって久しい.将棋 AI がプロ棋士の棋譜に与えた影響について,将棋AIを用いてプロ棋士の定量的分析を行ってきた.その結果,将棋 AI との一致率が高くなることが判明した.一方,中盤以降の拮抗した局面における平均損失は変化がないことが確認された.本研究では,同様の分析をレーティング上位の 9 名(トッププロ棋士)について行い,全体のプロ棋士の結果と比較した.その結果,プロ棋士全体の順位戦の棋譜の結果に比べて,トッププロ棋士の定量的データが有意に高いことが示された.
著者
谷口 洋志
出版者
中央大学経済学研究会
雑誌
経済学論纂 (ISSN:04534778)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3・4, pp.293-311, 2018-03-01
著者
町田 保 山田 みどり 田中 光昭
雑誌
情報処理学会研究報告グラフィクスとCAD(CG)
巻号頁・発行日
vol.1990, no.41(1990-CG-044), pp.1-6, 1990-05-18

放送の現場において実際に使用したリアルタイム3Dキャラクターアニメーションシステムに関して述べる。システムの実現は、グラフィックワークステーションとデータ・グローブを用いて構築した。データグローブをヒューマンインターフェースとして用いることにより従来のキーフレームアニメーションでは不可能であった効果を得ることが出来た。これは、アニメーションのタイミングを人間がリアルタイムに対話的に制御することが可能になった点と、それにともない人間の演技を演出するのに近い形でアニメーションの演出が行えるようになったことである。
著者
山根 信二
雑誌
研究報告コンピュータと教育(CE) (ISSN:21888930)
巻号頁・発行日
vol.2021-CE-158, no.6, pp.1-6, 2021-02-06

世界保健機構 (WHO) は ICD-11 (「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」第 11 回改訂版) において,新たに gaming disorder (ゲーミング障害, ゲーム障害) の分類基準を収載した.この国際統計分類の発効を前にして,大きな波及効果が起きている.海外では新たな論争が起き,国内でも,香川県議会の「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」は全国的な注目を集めるとともにゲームの効用をめぐる社会的な分断が明らかになった.本発表では,まずゲーミング障害をめぐる分断の背景を明らかにする.次にゲーム開発を地域の教育目的に活用する立場から,香川県条例のパブリックコメント期間中に開催されたゲーム開発イベント「Global Game Jam 2020 Setouchi in Kagawa」における準備と,そこで得られた学びについて報告する.
著者
鈴木孝則
雑誌
情報処理学会研究報告計算機アーキテクチャ(ARC)
巻号頁・発行日
vol.1983, no.44(1983-ARC-029), pp.1-10, 1983-11-28

近年のコンピュータの発展はめざましく、とりわけ、パーソナルンピュータの性能は日毎に大きく向上している。漢字ディスプレイ、漢字プリンタなど日本語を扱える環境が整い、日本語処理が声高に叫ばれている。このような状況から生れた日本語ワープロの利用は、この一年をとっても急速な伸びを示している。この日本語ワープロは、パソコンがうまく利用されている例ともいえる。それでは、自分のさせたいプログラムを書くことは、どうであろうか。ワープロが使えるからといって、一般の人が簡単にプログラム作成できるものではない。たとえ、パソコンで最も普及している"BASIC"言語を使っても、むずかしいものである。とりもなおさず、"BASIC"を含めて、これまでのプログラミング言語が英文表記であったため、プログラムの習得を一般的なものとなしえてはいなかった。日常使いなれている言葉を利用したものつまり、日本語でプログラムできればよりコンピュータ利用の層が増すと考えられる。松下技研(株)では、この日本語でプログラミングできる「日本語AFL」(注1)を、概に開発済の対話型高級言語「AFL」(注2)を用いて開発に成功した。国際データ機器では、これを採用、改良して、”ワープロ感覚でプログラミングできる!”日本語プログラミング言語「和漢」(注3)として商品化した。
著者
岡崎 祥子
出版者
岩手大学語文学会
雑誌
岩大語文 (ISSN:09191127)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.12-20, 2009-01-01

誰もが知っている古典といえば、『竹取物語』である。竹取の翁とかぐや姫を中心に、難題求婚譚、申し子譚、そして羽衣説話に通じる物語の構成をなしているものである。中には、平安文化を象徴する「あはれ」を思わせる内容も含まれ、『源氏物語』において「物語出来きはじめの祖」と称されるに至っているのは周知のことである。本研究においては、その『竹取物語』について、かぐや姫という存在に焦点をあて、考察している。具体的には、「かぐや姫が翁の元に現れ、再び月の世界へと帰っていくという流離の秘密を探り、かぐや姫が月の世界で犯した「罪」は何か、それに対する「罰」は何かについて考察する」という研究主題を設定し、『竹取物語』の世界観をもとにしながら研究を進めた。最終的には、かぐや姫の「罪」と「罰」について筆者自身の結論を導き出した。