著者
遠藤 優 駒形 和典 武村 雪絵 池田 真理 竹原 君江 飯村 大智
出版者
一般社団法人 日本看護管理学会
雑誌
日本看護管理学会誌 (ISSN:13470140)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.28-39, 2019 (Released:2019-12-19)
参考文献数
24

本研究の目的は,1)吃音を持つ看護師(吃音看護師)の就業割合,2)吃音がない看護師(非吃音看護師)の吃音に関する知識や吃音者への認識及び態度,3)吃音看護師が感じている困難さや職場環境を明らかにして,吃音看護師の職場環境を改善する資料を得ることである.東京都23区内の200床以下の病院100施設を無作為抽出し,研究協力に同意した10施設に勤務する看護師575名に無記名自記式質問紙調査を実施した.全員に基本属性,吃音の有無,吃音に関する知識,吃音者への認識及び態度を尋ね,吃音看護師には困難の程度や職場環境を尋ねた.290名中13名(4.5%)が吃音看護師であった.非吃音看護師の7割が吃音あるいはどもりという言葉を知っていたが,症状や病態の知識は十分とはいえなかった.これらの知識量は吃音者への認識及び態度とは関連がなく,吃音者との接点の有無が吃音者への認識及び態度の一部と関連していた.吃音看護師13名中8名が吃音当事者への質問に回答した.内4名は職場や生活で深刻な困難を感じていた(深刻群)が,残り4名は困難の程度は軽かった(非深刻群).非深刻群の4名は吃音であることを周囲に伝えておらず,深刻群の4名の方が周囲の理解や配慮を得て,職場に満足している傾向があった.本研究により看護師には一般保有率1%を上回る吃音者がおり,周囲から理解や配慮を十分得られていない者もいる可能性が示唆された.
著者
岡本 貴行
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.573, 2014 (Released:2016-07-02)
参考文献数
2

好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps:NETs)は2004年にBrinkmannらによって報告された好中球の生体防御反応である.感染により活性化した好中球は,既知の細胞壊死やアポトーシスとは異なる特徴的な細胞死(NETosis)を引き起こし,自身のDNAを細胞外へ放出して,NETsの名の通りネット状の構造を形成する.NETsは,DNAの他にヒストン,好中球エラスターゼ,好中球顆粒内の抗菌物質などを構成成分として含み,貪食とは異なり,細胞外で細菌や病原体を捕捉して殺菌する役割を持つ.また,NETsは異物を捕捉するとともに,白血球,血小板と血管内皮細胞を相互作用させ,微小血栓を形成して異物の排除を行う.近年,このNETsによる異物や細胞の捕捉という概念が各種病態の理解に影響を与えている.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Brinkmann V. et al., Science, 303, 1532-1535 (2004).2) Cools-Lartigue J. et al., J. Clin. Invest., 123, 3446-3458 (2013).
著者
三輪 哲
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.355-366, 2013 (Released:2014-09-01)
参考文献数
4
被引用文献数
1
著者
平山 勉
出版者
政治経済学・経済史学会
雑誌
歴史と経済 (ISSN:13479660)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.1-17, 2009-01-30 (Released:2017-08-30)

The purpose of this article is to clarify the actions of the South Manchuria Railways Company (SMR) and its shareholders during the period of the 1933 SMR stock issue, using documents from the closed institutional records of its Tokyo branch. My interest in this issue is to establish how the SMR achieved this capital increase from private sector shareholders and investors in general, given the turbulent business environment resulting from the Manchurian Incident and the resulting increased scrutiny of the SMR itself. At the same time, I consider the significance of changes in the shareholder body during the take-up period by examining the reorganization of the SMR. In summary, this article establishes the following four points. First, bids for the newly-issued common stock were distributed approximately into two groups, the majority of bids clustering around the 53 yen mark, below the lower price of the offering. The record of the public offering shows that while some general investors were enthusiastic during the "Manchuria boom," others demonstrated a rather more cool attitude. Second, after the new stock came into circulation, it was rural shareholders who took up new and outstanding stock sold off by urban shareholders in areas such as Tokyo, Osaka, Aichi, Kanagawa and Hyogo prefectures. The proportion of stock held by rural shareholders increased, and the number of shareholders also showed a greater rate of increase in rural areas than in urban. Throughout the take-up period, the relative importance of rural shareholders increased within the SMR shareholder body. Third, the sale of SMR stock by urban shareholders was triggered by political intervention in the SMR from the period of the Manchurian Incident to the time of the stock issue and the resulting management uncertainty and poor outlook. On the other hand, the reason that rural shareholders bought up the stock was that within the context of a widening loss of confidence in regional banks, an improved "environment for investment" brought about the stable circulation of reliable SMR stock which was seen as a haven for investment Finally, the transformed shareholder body successfully demanded the restructuring of the SMR to ensure the recovery of the share price and the payment of dividends Within the context of an increase of issued stock and diversification of the body of shareholders, the SMR could not ignore the specific demands of a large body of shareholders, numbering some tens of thousands of registered individuals, and as such it may be said that the shareholder body was able to exert a form of "governance" over the SMR.
著者
深谷 眞彦
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.337-352, 2014 (Released:2015-07-27)
参考文献数
107
被引用文献数
1 1

発作性上室頻拍で最も多い房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)は,薬物治療の時代には,房室結節内の二重伝導路を興奮旋回する頻拍と一般的には理解されていた.その後,高周波カテーテルアブレーション(RFCA)時代になって,房室結節周囲の心房筋を含む遅伝導路と速伝導路間の興奮旋回路がわかってきた.通常型(Slow-Fast型)は,冠静脈洞と三尖弁輪間を房室結節方向に走行する遅伝導路への通電で根治できる.非通常型としてFast-Slow型,Slow-Slow型があるが,多重伝導路を含めるとAVNRTには多くの種類やvariationがあって多様である.頻拍性不整脈は,解剖学的知見や診断機器の進歩とも相まって,3次元的な不整脈像として実際的に把握されようとしている.しかし,AVNRTの興奮旋回路の実像は今でもわかりにくい.房室結節領域の複雑な解剖学的構造などから,各AVNRTの興奮旋回路や回路構成成分の詳細には,今も問題点が少なくない.RFCA治療成績をより完全にするためにも,古くからの問題に取り組み,さらに知見を広げることは必要と考える.
著者
角野 香織 佐藤 菜々 中芝 健太 大久 敬子 藤井 伽奈 橋本 明弓 片岡 真由美 里 英子 小林 由美子 増田 理恵 張 俊華 木島 優依子 中村 桂子 橋本 英樹
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.20-088, (Released:2021-01-15)
参考文献数
19

目的 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急速な感染拡大を前に,保健所は感染者の把握・追跡の中核的役割を担う一方,その機能がひっ迫する事態に陥った。日本公衆衛生学会から保健所機能の支援を訴える声明が発出されたことを受け,教育研究機関に所属する筆者らは,都内保健所での支援に参加した。本報告は,支援の経緯を記述し支援体制への示唆をまとめ,保健所と教育研究機関が有機的に連携するうえで必要な要件を考察すること,支援を通して見えた保健所における新型コロナウイルス感染症への対応の課題を提示すること,そして支援活動を通じた公衆衛生学専門職育成への示唆を得ることなどを目的とした。方法 本支援チームは,2大学の院生(医療職13人・非医療職5人)から構成され,2020年4月から約2月の間支援を行った。支援先は人口約92万人,支援開始当初の検査陽性者累計は約150人,と人口・陽性者数共に特別区最多であった。本報告は,支援内容や支援体制に関する所感・経験を支援メンバー各自が支援活動中に記録したメモをもとに,支援体制の在り方,支援中に得られた学び,支援を進めるために今後検討すべき課題を議論し報告としてまとめた。活動内容 支援内容は,「新型コロナウイルス感染症相談窓口」「帰国者・接触者相談センター」での電話相談窓口業務,陽性者や濃厚接触者への健康観察業務,陽性者のデータ入力他事務業務であった。各自が週1~2日での支援活動を行っていたため,曜日間の情報共有や引継ぎを円滑に行うために週1回の定例ミーティングやチャットツール,日報を活用した。結論 教育研究機関が行政支援に入る際には,感染拡大期の緊張状態にある保健所において,現場の指揮系統などを混乱させないよう支援者として現場職員の負担軽減のために尽くす立場を踏まえること,学生が持続可能な支援活動を展開するための条件を考慮することが必要であることが示唆された。一方,本支援を通して保健所の対応の課題も見られた。行政現場の支援に参加することは,教育研究機関では経験できない現場の課題を肌で感じる貴重な機会となり,院生にとって人材教育の観点でも重要だと考えられた。新型コロナウイルスの感染再拡大ならびに他の新興感染症等のリスクに備え,今後も教育研究機関と行政がコミュニケーションを取り,緊急時の有機的関係性を構築することが求められる。
著者
特許庁意匠課
出版者
特許庁
巻号頁・発行日
2009-03
著者
山下 俊一 高村 昇 中島 正洋 サエンコ ウラジミール 光武 範吏 鈴木 啓司
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

チェルノブイリ周辺の海外連携研究拠点並びに欧米共同研究機関と共に放射線誘発甲状腺がんの分子疫学調査を以下の項目で推進した。特に、国際社会における専門家交流と学術研究成果の新知見などの意見交換ならびに今後の調査研究推進について国際交流実績を挙げた。① 7月3~5日:ジューネーブにて開催されたThe 15th meeting of WHO REMPANに参加し、チェルノブイリと福島の教訓と今後の研究に向けた協議を行った。8月28~29日:カザフスタンでの第12回国際会議“Ecology, Radiation and Health”、11月22~23日:台湾での第32回中日工程技術検討会、平成30年2月3~4日:長崎での第2回3大学共同利用・共同研究ネットワーク国際シンポジウム、3月2日:ベラルーシにて開催された国際甲状腺がんフォーラム、3月5日:ロシアのメチニコフ国立北西医科大学での世界展開力強化事業に関する調印記念シンポジウム等に参加し、放射線と甲状腺に関する研究成果を発表した。② 共同研究者として平成29年5月~平成29年10月までベラルーシ卒後医学教育アカデミーよりPankratov Oleg先生を客員教授として招聘し、小児甲状腺がん全摘手術後の放射性ヨウ素内用療法の副作用研究を行い、平成29年11月~平成30年3月までロシア・サンクトペテルブルクより北西医科大学のVolkova Elena先生を客員教授として招聘し、内分泌疾患の臨床疫学研究と、日露両国における診断治療法の違いについての比較研究を行なった。チェルノブイリ周辺諸国より6名の研修生を7月13日~8月16日まで受け入れた。サンプリング収集と解析については、チェルノブイリ現地における大規模コホート調査研究を推進し、生体試料収集保存管理のバイオバンク構築維持を引き続き継続している。
著者
外村 中
出版者
京都大學人文科學研究所
雑誌
人文学報 (ISSN:04490274)
巻号頁・発行日
no.103, pp.1-43, 2013

琵琶は,古代中世の東アジアにおいて最も流行していた楽器の一つである。小稿では,正倉院に伝わるタイプの琵琶の源流とその流伝について,新たな仮説を提起する。従来の研究では,とくにローマとの関連は考察されていないようであるが,琵琶をひいては伝統音楽をあるいはさらには東西文化の交流を総合的に検討するためには,見落としてしまってはならないであろう。「阮咸」は,中国起源あるいは中国系であるとされる。そういえないことはないであろう。ただし,その原初タイプは,西アジア系長頸リュートから2世紀頃から3世紀頃までに中国において分岐したものらしい。また,1世紀から3世紀頃の西アジア系長頸リュートの中央アジア西部・北方インドのクシャーナ朝における流伝は,ローマあるいはローマ文化圏と関連がありそうである。「曲項」は,ペルシャ起源とされるが,ローマ文化圏からもたらされた梨形直頸リュートから2世紀頃までに中央アジア西部・北方インドのクシャーナ朝で分岐したものを原初タイプとするらしい。「五絃」は,インド起源とされるが,正確にはローマ文化圏からもたらされた梨形直頸リュートから3世紀頃までに南方インドのサータヴァーハナ朝で分岐したものを原初タイプとするらしい。「秦漢」は,詳細不明であるが,あるいはギリシア・ローマ文化圏の梨形直頸リュートの直系あるいはそれに近いタイプであったかもしれない。
著者
大城 道子
出版者
日本オーラル・ヒストリー学会
雑誌
日本オーラル・ヒストリー研究 (ISSN:18823033)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.119-136, 2011

Roughly, the area that the Okinawan people have settled is classified into two, which are due to Pre-War settlement by migrant workers and the post-war repatriation from overseas. In modern Japanese society Okinawan people are newcomers, who have come together to form the "Okinawan" settlement. In doing so they endured the hard life on the mainland. However, they as the workforce have contributed to the development of modern Japan. Housing is a group of strategies, which has emphasized the structure of discrimination. As a consequence, the Okinawan people have pushed the return movement to Japan. Ethnicity was an important point for the organization and establishment of the Okinawan People's Congress.
著者
宮木 慧子 石村 真一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.55-64, 2004-09-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
16

日本において,昭和40年代まで陶磁器の流通包装には,ワラ包装が行われていた。本研究は,有田・伊万里をはじめ東アジアにおいて広域調査を実施し,各窯業地の諸形態を明らかにして,日本のワラ包装形態を造形の視点から比較考察する。(1)日本の包装形態は,陶磁器の形状から大型器種と小型器種に対応する2系統8種のワラ包装タイプに類型化される。大型器種に対しては衝撃に強い「太織巻き」,小型器種には円筒形の「ワラ包み」が主に行われており,産地ごとに微妙に意匠の異なるものの,同一産地においては,それぞれ特色あるワラ包装技術を共有していた。(2)各産地における包装形態と意匠の独自性は,保護機能の他に産地識別のための情報機能をも果たしていた。(3)陶磁器包装の伝播は窯業技術の伝播と深い関連が窺える。江戸前期,景徳鎮の包装技術が有田にもたらされており,高品位の磁器創出を目指していた有田の美意識と日本のワラ文化の成熟が優れた意匠のワラ包装技術を確立したと考えられる。
著者
渡辺 智恵美
出版者
(財)元興寺文化財研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

本研究では過去に収集した耳環のデータに基づき復原製作すると共に、配合比を変えた金・銀合金の標準サンプルを製作し(Au:Ag=97:3 W%〜 15:85 W%迄9種類)、実際の遺物との色調の比較検討を試みた。平成3年度の奨励研究において自然科学的手法を用いた耳環の製作技法の解明を通して古墳時代の鍍金技法の考察を試みたが、今回さらに調査を進めた結果、(1)金、銀以外に錫、鉛、鉄を素材とした耳環の存在が指摘されていたが、銅製や鋳造による青銅製の耳環が存在すること、(2)走査型電子顕微鏡およびX線マイクロアナライザーによる調査の結果、銅芯と表面層の間に中間層を持つものが多く、中間層に銀箔や銀板を使用したものが四国地方〜中部地方で確認でき、汎日本的に存在する可能性が窺える。(3)色調的には銀製品と思われるものの中に金の含有量の高い鍍金製品が存在すること、等を確認することができた(肉眼観察ではAu:Ag=50:50 W%位でほとんど銀製品に見える)。耳環の製作技法の解明および復原製作を通して鍛接や鑞付け、鍛金あるいは金・水銀アマルガムによる鍍金方法等、古墳時代の金工技術の一端を推定することができたが、中間層の銀板や中空耳環における地板の合わせ目の処理方法(中空耳環の場合、内面では合わせ目が確認できるが外面では全く確認できない)等、多くの疑問も残った。また器形的には単純であるが、その製作に当たっては専門的知識を多く必要とするものと推測され、土器等とは異なった流通経路(専門工人の存在)が考えられる。このことは先述の中間層を持つ耳環が汎日本的に存在かる可能性や住居址からの出土例が少ないことからも推測できる。今後は自然科学的調査と考古学的調査を総合的に行い、統計学的処理により全国的な集成を行うと共に製作技法や素材の差異により耳環に正確な呼称を与え、統一を図りたい。