著者
岩橋 恵子
出版者
志學館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

今日フランスの社会教育施設は、民衆教育アソシエーションが担ってきた歴史的土壌の中で、公・私セクターの協働のための制度的整備がなされてきている。そしてそれは、普遍的理念モデルを実施する活動の場ではなく、広く住民に開かれた地域プロジェクトの企画・遂行機関としての性格を担いつつある。そのため、地域の課題と実情に応じての、公・セクターの多様な活動主体が参画するネットワークによる、豊かな公共圏創造が志向・追求されている。
著者
花嶋 かりな
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

大脳新皮質のニューロンは脳室帯とよばれる部位の神経幹細胞から生み出され、初期ニューロン-深層投射ニューロン-上層投射ニューロンと順次異なる細胞種を産生することで、最終的に6層の構造を形成する。本研究では発生段階に応じて産生される細胞種が切り替わるメカニズムを明らかにするために、大脳皮質ニューロンの産生スイッチにおける転写因子Foxg1の機能を探った。まず条件付きノックアウト(cKO)マウスを作製し、Foxg1を通常より5日間遅らせた胎生14.5日目から発現させて産生される細胞を解析したところ、14.5日目までの脳では初期ニューロンが過剰に産生されたが、Foxg1を発現させるとすぐに深層投射ニューロンの産生開始が認められた。さらに発生段階が進むと上層投射ニューロンも産生され、最終的にはFoxg1の発現開始を遅らせたcKOマウスでも正常マウスとほぼ同等のニューロンをもつ大脳新皮質が形成された。さらにこのcKOマウスを用いてFoxg1の下流遺伝子プログラムを解析したところ、Ebf2/3, Eya2等多数の転写因子がFoxg1により転写抑制され、これら遺伝子の発現制御領域へのFoxg1の結合配列が、進化的に哺乳類以降で高度に保存されていることが示された。これらの結果より、大脳新皮質の形成は初期ニューロン産生というデフォルトのプログラムを初めに抑制することで投射ニューロンへの分化が進み、この産生の順番をFoxg1が正しいタイミングで切り替えることで、大脳新皮質の最大の特徴である6層構造が獲得された可能性が示された。
著者
杉浦 藤虎 伊藤 和晃
出版者
豊田工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ロボカップサッカー競技ロボットの作製と開発を段階的かつ継続的な負荷と捉え,より高い課題を学生に課すことで創造性育成教育を行い,その効果をアンケート調査により検証した。その結果,ロボカップ参加学生の問題解決能力や思考方法などの顕著な向上を確認した。一方,世界大会に参加する上で必要な英語運用能力は学生自身が十分でないことを認識した結果となった。今後も学生の興味を引きつける教材・課題を通して,創造性や英語コミュニケーション能力の向上が期待される継続的な機会と環境を学生に提示することが有効であることが示された。
著者
宮崎 譲
出版者
東北大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

Bi_2Te_3系熱電材料の使用可能な温度域を拡張し、高効率な熱電変換素子を実現させるために、キャリア濃度を傾斜させた材料の開発が期待されている。これまで、バルクについて多くの報告があるものの、薄膜の傾斜機能化に関する報告はなされていない。電解析出(電析)法は、室温近傍で金属相を得ることができ、また電析膜の組成や粒径を容易に制御することが可能な合成法である。さらに、装置が簡単で、任意形状試料の作製が可能などの特徴を有していることから、II-VI族化合物半導体膜の合成にも適用されつつある。Bi_2Te_3膜についても最近になって合成に関する報告がなされたが、電析膜の組成に最も大きく影響する析出電位と生成膜の組成や物性値の関係については調べられていない。本研究では、キャリア濃度(組成)が連続的に変化したBi_2Te_3系傾斜機能膜を作製するための基礎データを得ることを目的とし、BiおよびTeイオンを含む硝酸水溶液中で電流-電位曲線を作製して、Bi_2Te_3膜の得られる電位範囲を明らかにすることを試みた。続いて、その析出電位範囲内で、電位と得られた膜の組成、格子定数の関係を調べるとともに、膜のゼ-ベック係数を測定した。ポテンショスタットを用いてTi電極上に3電極方式で電析を行ったところ、-0.25〜+0.08V vs Ag・AgClにおいてBi_2Te_3の単相膜が得られた。析出電位の減少とともにBi_2Te_3のa軸長が増加し、逆にc軸長は減少する傾向が見られたことから、析出電位を変化させるにより膜の組成を制御できることが明らかになった。+0.02Vを境にこれより貴な電位ではn型膜が、卑な電位域ではp型膜が生成した。これまでのところ、物性測定が可能な緻密な膜は+0.02V近傍で合成された低キャリア濃度のものに限られており、ゼ-ベック係数の最高値は+0.04Vで作製された膜の-63.4μVK^<-1>(300K)である。
著者
伊藤 知義
出版者
北海道大学法学部
雑誌
北大法学論集 (ISSN:03855953)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5-6, pp.709-728, 1989-10-31
著者
浅野 俊夫
出版者
京都大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1984

1。本年度は、試験研究の最終年度に当たるので、59・60年度に開発した装置類をニホンザルの小集団のケージに据え付け、改良と調整を行った。2。まず、自動給餌装置の改良・調整を行った。給餌窓の大きさがおおき過ぎると一度に二つの固形飼料を取られてしまうことが分かったので、窓の大きさを調整した。また、固形飼料の自重のみに頼ると補給路がつまり、呈示窓に餌が落ちて行かないことが分かったので、偏心モーターによる振動を与える機構を付加し、落下を促すようにした。さらに、呈示窓部への手の出し入れは光ビームで検出し、一度手を放してもすぐに戻したときは、うまく餌が取れなかった時なので、手を離してから一定時間経過した時にのみ、呈示窓のシャッターが閉じるように改良した。3。自動個体識別装置は、センサー部には問題が無いが、サルにつける首輪の開発が難しく一応の試作には成功しているが、まだ完成に至らず、実際の実験に使いながら最終調整中である。首輪側には発信機を置かず、首輪に巻いたコイルの時定数を餌場に設定した磁場への影響で検出するという基本原理は期待どおりの成功を納めたが、コイルの巻いてある首輪をサルに脱着する機構が難しく、現試作品は一度着けたら外せない構造になっている。これでも十分に当初の目的には、かなっているが用途が限られるので改良が必要である。4。実験制御用に開発したMSXコンピュータ・システムは、すでに学内外で使用されており、インターフェース・ボードのプリント基板も数度の改訂を経て、完成品がいつでも入手出来る態勢が確立されている。ソフトウェアはBASIC言語を採用したので、誰でも容易に実験用プログラムを書くことが出来る。
著者
大橋 一正
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

平成14年度に引き続き、標準SAT計を作成し八王子地区における気象観測を続行した。また、高層気象台における気象観測データも入手し、それぞれの特性と相関について分析を進め、これまでに得られた特性に対する相違点などの知見を得た。次に、この推定式の実用性をより広い地域で検証するため、東京都八王子市(工学院大学八王子校舎)と岩手県の沿岸部(下閉伊郡山田町)において短〜中期間の実測を行い推定式の精度を明らかにし、自然エネルギー利用のための大気放射量マップを作成した。結果として、日本における大気放射量の傾向は南方ほどその値は大きくなり、さらに海抜の影響を受けている可能性が示された。さらに平成15年度は、これまで提案してきた大気放射量,夜間放射量推定式の実用上の有効性を検討することを目的として、新たな自然エネルギー利用として注目されている屋上緑化による環境改善効果の検証にこれらの推定式を用いた。この検証では、特定の建物の屋上表面における放射収支量を実測値と推定値から算定し、両者を比較することで推定式の精度検証と実用上の問題を抽出した。また、空気調和の熱負荷計算における大気放射量や夜間放射量の影響について、実測値とシミュレーションによる値を比較することで空調負荷からの分析を行い、屋上緑化による屋上放射環境の改善効果と室内環境の改善効果について検証を行った。これらの結果は大気放射量,夜間放射量の推定が自然エネルギー利用システムの検討に対して有効であるということを示すものであり、特定建物の表面における放射熱収支のみならず地表面においても適用できる推定式であるということをシミュレーションによらず実測によって明らかにしたという点において貴重な知見であるといえる。
著者
熊澤 喜久雄
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は窒素安定同位体比法を用いて多摩川の窒素汚染源を明らかにし、その自然的、人為的浄化過程の意義を明確にして、多摩川の窒素汚染除去対策の確立に資するところにある.多摩川の支流及び多摩川流域の湧水についてその流域における人間活動も含めて調査し、窒素特に硝酸態窒素(NO_3-N)の濃度とδ^<15>N値を求め、窒素汚染源及び河川流下にともなう窒素浄化の程度を推定しようとした.(1) 平井川は下記に示す秋留台地の影響を受けてNO_3-N濃度及びδ^<15>N値は高くなっている.特に南小宮橋での採水はすぐ上流部に草花公園からの排水が流入していることからNO^3-N濃度10.3mgL^<-1>、δ^<15>N値+10.7‰と著しく高くなっている.秋川源流部のNO_3-N濃度は0.61mgL^<-1>δ^<15>N値は-0.20‰であり、雨水と同程度であるが、下流部ではNO_3-N濃度は1.38mgL^<-1>、δ^<15>N値+5.44‰に達していた.これは下流の流域に存在している畑地からの化学肥料由来のNO_3-Nの影響が反映しているのではないかと推定される.秋留台地の崖下に湧出する湧水は台地上の農業、特に畜産業の影響を強く受け、そのNO_3-N濃度は8.98〜9.28mgL^<-1>と極めて高く、δ^<15>N値も+7.95〜+8.75‰と高い値を示している.(2) 北浅川源流部のNO_3-N濃度は1.16〜1.52mgL^<-1>であるが、大学移転やニュータウン開発が進んだ南浅川が合流すると浅川のNO_3-N濃度は4.42mgL^<-1>に上昇し、NH_4-NやNO_2-Nが検出された.(3) 野川の主要な水源であるである国分寺崖線の湧水のNO^3-N濃度は4.50〜6.48mgL^<-1>、δ^<15>N値は+4.67〜+5.34‰の範囲にあった.野川は流下するに従い、次第に河川自体の浄化作用や脱窒作用によりNO_3-N濃度を減少、δ^<15>N値を増大させ、仙川合流直前でそれぞれ4.03mgL^<-1>、+8.16‰を示した.仙川は三鷹市の下水処理水が流入している下流ではNH_4-N濃度5.18mgL^<-1>、NO_3-N濃度10.6mgL^<-1>でδ^<15>N値は+9.55‰であり、仙川合流後の野川はNO_3-N濃度6.40mgL^<-1>及びδ^<15>N値+11.7‰に増大している.(4) 多摩川上流右岸の湧水のNO_3-N濃度は0.48〜14.1mgL^<-1>、δ^<15>N値は+0.53〜+6.84‰で+0.53‰のものは天然由来であり、6‰前後のものは土壌有機物の分解によるものと推定された.中流右岸の湧水のNO_<3->N濃度は0.12〜9.62mgL^<-1>、δ^<15>N値は+5.64〜+8.21‰で高濃度のNO_3-Nは生活雑排水等の人為的影響によるものと推定された.中流左岸に位置する都立農業高校農場内の湧水のNO_3-N濃度は2.45〜9.69mgL^<-1>で芦田下を除く3地点は9mgL^<-1>程度、δ^<15>N値は+6.90〜+7.82‰であったが、芦田下ではそれぞれ2.45mgL^<-1>、+13.2‰であることから芦田による窒素除去能力が示唆された.
著者
井田 齊 林崎 健一
出版者
北里大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

三陸地方に回帰するシロザケの再生産形質(卵類・抱卵数)を資源量との関わりから検討した。調査の対象河川は岩手県南部の片岸川,盛川,気仙川の3河川である。1980年より1990年までの10年間に測定した試料を解析した。調査個体数は1598である。〔結果〕(1)回帰量は放流量と正の相関があり,近年は次第に増大傾向にある。(2)回帰量の増大とともに平均年齢は(回帰時の)高化している。(3)回帰魚の体長は経時的に振動しながらも減少傾向にあり,特に高令魚で顕著である。(4)この成長の鈍化は海洋生活の第1年目に顕著であることなどが判明した。再生産形質として卵経および抱卵数について,いずれの河川間でも差が認められた。河川間で年令組成および体の大きさに差があるので,魚体の大きさで修正した平均値で比較したところ,(1)卵サイズは高令魚ほど大きく,(2)抱卵数は逆に高冷魚ほど少ない傾向が認められた。魚体の小型化が進むにつれ,同一体重階終に属する魚の卵径は大きくなっている。これは各階級に属する魚の平均年令が上昇したことによる。
著者
杉田 有治 近藤 洋平
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

生体膜を隔てたイオンやタンパク質の物質輸送を行う膜輸送タンパク質の立体構造を用いた分子動力学計算を行うことにより膜タンパク質の構造変化と物質輸送機構の関係を明らかにした。ターゲットとして、カルシウムイオンポンプ、その機能を制御するフォスフォランバン、タンパク質輸送を行うSecトランスロコンを選び、脂質二重膜と溶媒を露わに含む全原子分子動力学計算を実施することにより、膜インターフェイスにおけるSoftな相互作用がこれらのタンパク質の機能に果たす役割を明らかにすることができた。
著者
金子 満 中嶋 正之
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン学会技術報告 (ISSN:03864227)
巻号頁・発行日
vol.18, no.41, pp.57-64, 1994-07-08

コンピュータによるセルアニメ表現の新しい手拡について述べる. セルアニメは, 映画の基本的な表現方法の一つとして, ほぼ100年間にわたって大きな技術的変雄を経ずに使われてきた. しかしセルアニメの基本は,手作業により一枚一枚絵を描き, 色を塗り, 組み合わせてカメラで撮影するという作業が必要であるため, 手工業の域を脱し得なかった. そのため, 1970年代にはまずアメリカにおいて制作産業そのものが空洞化し, 1980年代には日本でも同じ現象が始まった. これに対応するために, セルアニメ制作工程の内で, 色塗りと撮影の部分をコンピュータ化した, ディジタルインクアンドペイントシステムが実用化され, 産業界での利用が始まったが, コンピュータが代替できる工程が少なく, 日本では利用するメリットが少ないと考えられる. 本研究は, デザイン段階からコンピュータを利用し, 動画, 色塗り, 撮影, 編集迄を3DCG技術を利用し省力化, 自動化し, マルチメディア時代の到来と共に増大することが予測されるセルアニメタッチの映像制作をリストラクチャしようとするものである.
著者
吉田 直希
出版者
小樽商科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、ジョン・クレランドの『ファニー・ヒル』を生み出した18世紀イギリスにおける階級・人種・ジェンダーの問題意識を明らかにし、ポルノグラフィーに関するポスト・ジェンダー/セクシュアリティ論を構築することであった。17年度の研究では、近年のジェンダー研究におけるオリジナル/コピーの関係性についての議論を出発点とし、裏世界の深奥に潜むイギリス帝国、植民地の存在を明らかにすることを目指した。成果としては、ジョン・ゲイの犯罪文学における野蛮/洗練の対比を精査し、作品の表面に表れない、グローバルシステム内の人種問題をあぶりだした。また18世紀のトランスナショナルなジェンダー・階級・国家表象をサミュエル・ジョンソンの作品解釈によって確認した。18年度の研究では、ウィリアム・ホガースの『娼婦一代記』と『ファニー・ヒル』の比較から、信頼できない語り手=ファニーのオリジナリティを明らかにした。ファニーの幸福な結婚で終わる性の遍歴の裏に確認できる近代的主体の転倒した「階級・人種・ジェンダー」意識を新歴史主義的に検討する必要性を主張した。19年度の研究では、現代のアニメーション研究の成果を視野に入れ、エロティック・アートのグローバルな普及・発展の過程を検証した。江戸時代の春画、あるいはアニメにおける「少女=戦士」の表象に関わる作品も併せて検証した。日常的現実に媒介される「虚構」それ自体にリアリティを見いだす精神性は、現代アニメにおける「おたく」的生産/消費と密接に関連しているが、虚構それ自体を欲望することの意味をホガース版画の歴史性という観点から多面的に検討した。
著者
佐藤 三郎
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
日本教育学会大會研究発表要項
巻号頁・発行日
vol.18, pp.111-112, 1958-08-28
著者
中村 隆 原 英一
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

ウッド夫人とメアリー・ブラッドンの長編小説に関して、なお考察が不十分と考えられる3つの視点を提示した。(1)不倫小説としてのセンセーション・ノヴェル(2)探偵小説としてのセンセーション・ノヴェル(3)ウッド夫人、ブラッドン、ディケンズの小説の相互関連。(1)について:センセーション・ノヴェルの中枢に「反逆する娘」(subversive daughter)と「反逆する妻」(subversive wife)がいることを指摘し、彼女たちが「不倫小説」を生み出す原動力となっていることを解明した。(2)について:ドイルの前に位置するセンセーション・ノヴェルの「細部」を重視する探偵たちは、19世紀末葉に興隆する犯罪科学(犯罪人類学、顔写真、指紋、毒物学)を先取りしていることを指摘した。(3)について:ディケンズ、ウッド夫人、ブラッドンの小説との比較検討を通じて、そこに、夫への不信を抱く妻、不倫願望を持つ妻、不倫妻の秘密を暴き出す男の探偵というパタン化された構図があることを解明した。