著者
保田 健二 田口 正 田村 正平 戸田 昭三
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.26, no.7, pp.442-445, 1977-07-05
被引用文献数
2

テフロン・ポーラス・フィルムを用いた小型の抽出装置を考案し,生体試料中のセレンをDDTCで四塩化炭素又はシクロヘキサン中に抽出して,炭素炉原子吸光法で定量した.生体試料の湿式灰化には硝酸と過酸化水素水を使用し,セレン(VI)の還元には濃塩酸を用いた.本法の検量線は0〜40ng/mlで良好な直線性を示し,1%吸光感度は,.0.9ng/ml,検出限界は4.0ng/ml,抽出操作を含めた測定の変動係数は約9%であった.本法をNBSの標準試料とIAEAモナコ海洋研究所より研究室間分析のために供試されたカキの粉末に適用し,それぞれ良好な結果が得られたので,フトツノザメの筋肉中のセレンを定量してみたところ,0.28μg/g(湿重量当たり)という値が得られた.
著者
木津 祐子
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

(1)琉球王府における中国学術センターたる久米村で、官話学習が専門職の必須項目として重視されていたことを、官話教科書の記述や呈文・稟文の習作から明らかにした。また、琉球の周縁に位置する八重山などでは、士人の家譜が官話の書記体とも呼べる文体で記され、漂着中国人や漂着久米村士人から官話を学び、独自のテキストも編まれていたことが、本研究によって明らかとなった。興味深いのは、琉球において官話を操ったのは琉球人と中国人ばかりではなく、日本布教の足がかりとして琉球を訪れた聖公会系宣教師ベッテルハイムも、日常の意思疎通手段として官話を用いていたことで、ここからは官話が中国周縁地域において、広く媒介言語として機能していたことを示唆する。このように、学術また華化メカニズムの中で官話の果たした役割を明らかにした。(2)中国の学術を古くから受容した日本における初学教育を考察した。日本において幼学書(童蒙教科書)は、中国の類書に倣って編纂されることが多かった。日本で類書をコピーする際には、完全なコピー、枠組みは模倣しつつ新たに抜き書きを行なうもの、同じく枠組みは模倣しつつも抜粹項目はすべて日本の古典からのもの、などの類型がある。特に第三の換骨奪胎型類書の存在は、中国学術の周縁への伝播の行き着く先を示して興味深い。一方、『蒙求』や『千字文』といった幼学書は、中国でも類書に分類されることはあるものの、より通俗なものとして軽んぜられた。しかし日本では清家などの錚々たる学者が注を施すなど、一貫して尊重される。特に京大附属図書館蔵『蒙求』(重要文化財)には、清原宣賢が詳細な考証を施した注が残され、その中には、中国では十九世紀にようやく認知されることとなった情報も含まれていた。このように幼学書というジャンルが、周縁への中国学術の伝播メカニズムの複層性を示すものであることを明らかにした。
著者
滝沢 武信
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告ゲーム情報学(GI) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.70, pp.1-8, 2006-06-30
参考文献数
12
被引用文献数
6

第16回世界コンピュータ将棋選手権が2006年5月に開かれた。今回は52チームの申し込みがあり、実参加者数は43(招待1を含む)である。コンピュータ将棋の実力も大いに上がってきており、上位入賞ソフトは奨励会(プロ棋士養成機関)1級ないし初段の強さがある。この報告では第16回世界コンピュータ将棋選手権における将棋ソフトウエアの実力について考察する。Computer shogi was first developed by the author and the research group in late 1974. It has been steadily improved by researchers and the commercial programmers using some game-tree making and pruning methods, opening and middle game databases, and feedback from research into tsume-shogi (mating) problems. Now, it has already reached professional one-kyu-one-dan level. In this paper, the authors discusses contemporary computer shogi, especially how the programs behaved at the 16th World Computer Shogi Championship, where 52 teams applied and 43 team entered (including one invided), in May, 2006.
著者
西山 正秋 前田 誠一郎 柳生 成世 折附 良啓 上垣 宗明
出版者
神戸市立工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

英語プレゼンテーション能力の評価に大きな比重を占める「アイコンタクト」を客観的に測定するための、装置・ソフト・手順が明らかになった。そのデータの分析によって、発表者の視線・アイコンタクトを高い精度で自動的に検出できた。また、目の動きの時系列波形分析を行うことによって、優秀な発表者の視線行動のパターンを比較出来ることが分かった。これらは今後、ジャッジの主観的判断を補うものとして利用できる可能性が示された。アイコンタクトに関するジャッジの評点・評価項目の分析結果と総合して、英語プレゼンテーション能力評価システム改善への方向性が示された。
著者
永富 良一 鈴木 克彦 矢野 博巳 鈴井 正敏 和久 貴洋
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

運動やストレスに伴う免疫学的パラメータの変化は多数報告されているものの、その意義は未だ明らかにならず、実用的な研究が少ない。そこで2003年7月国際運動免疫学会コペンハーゲン大会の将来構想委員会において、今後スポーツ選手など運動に伴う免疫学的な問題に焦点を当てることを提案した。その結果、2005年モナコでの学術集会、2007年10月日本での学術集会では実用的な研究に焦点を当てることになり、本研究の代表者永富は国際運動免疫学会副会長に選出され、同時に2005年学術集会のプログラム委員長を務めることになった。この決定に伴い、これまでほとんど行われてこなかったスポーツの現場での免疫系が関連する問題点の調査を実施した。様々なレベルのスポーツ種目指導者に面接の上、質問紙を作成し、平成15年12月〜2月にかけて、大学生、プロスポーツ選手、実業団スポーツ選手、目本代表候補選手などを対象に無記名のアンケート調査を実施し1409名から回答を得た。有効街回答1367件を分析した結果、およそ20%にあたる274名が免疫に関連する疾患がスポーツ活動の障害になっていることを申告した。原因疾患として48.9%が急性上気道感染症を、25.2%がインフルエンザを、22.3%が花粉症を挙げた。インフルエンザ以外は軽症疾患といえどもスポーツ実施者にとっては無視できない問題であることがあらためて浮き彫りにされた。詳細な分析結果は現在報告書にまとめつつあり、各競技団体に配布する予定である。また本研究代表者が代表を務める日本運動免疫学研究会では2005年、2007年の学会に向けて今回明らかになった現場での問題点に関連する研究を奨励していく予定である。
著者
仁科 繁明 乾 敏郎
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.432-443, 1999-12-01 (Released:2008-10-03)
参考文献数
15
被引用文献数
1

Two major problems in human object recognition are how we recognize objects from various viewpoints and how we memorize the shape of many objects. View-based object recognition theories have proposed that viewpoint independent recognition can be achieved by obtaining a certain number of views of an object. These theories do not involve the use of 3-dimensional information. In our previous research, however, we showed that the 3-dimensional structural information of objects could be utilized for recognition if enough time is available. The generalization from a familiar view to unknown views improved after trials only under the long reaction time conditions. According to the results, we supposed that there are two kinds of modules that compare the internal representation of objects and the input images. One is a 2-dimensional module that simply matches the images, and the other is a 3-dimensional module that involves transformation between relatively far viewpoints.In this study, we first showed that 3-dimensional complexity of the objects affects the generalization range. The effect was seen only under the long reaction time conditions. This result strongly supports the above hypothesis. In the second part of this study, we replicated our previous result that the generalization range was broadened as a subject becomes more familiar with objects. And we found that the improvement mainly depends on familiarity with each category of objects rather than each object itself. These results cannot be explained by purely view-based theories which are modeled simply with the GRBF (Generalized Radial Basis Functions) network or its derivations, because in such theories each view of each object is independently acquired.
著者
幸田 正典 宗原 弘幸
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

平成13-15年度、及び16年殿一部の期間で、協同繁殖魚のジュリドクロミス・トランスクリプタス、およびカリノクロミスを用い、実験条件下での雌雄の繁殖戦術について複数の実験を行うことができた。まず、協同繁殖条件下で、なわばり雄・ヘルパー雄の精子競争が引き起こされることが、ペアで飼育した雄のGSIとの比較から明らかにされた。このことは本種の雄が、置かれたでの精子競争の程度に応じて、精巣への投資をダイナミックに対応させていることを示している。雌による雄の受精への操作についても、繁殖飼育実験からほぼ実証することができた。この場合もペア繁殖の場合となわばり雄・ヘルパー雄そして雌の鳥を出繁殖させた場合の雌の産の違いから検討されている。二匹の雄がいる場合、雌は卵塊を有意に幅広く産卵させた。DNA判定により巣のより奥に産卵された卵は小型雄が、手前の卵は大型のなわばり雄が受精させることが明らかになった。このことは、雌が産卵場所をコントロールすることで2雄の父性を操作しうることを強く示唆している。また、小型雄の受精率が高い場合、同雄による保護の頻度も高くなることも示唆され、雌の父性操作が雄の保護と関連していることも裏付けている。同属のオルナータスでは野外で一妻多夫の他、一夫一妻やハレムも形成されることが知られており、その主な要因は個体のサイズであることが考えられている。トランスクリプタスの雄雌をともに3個体用いた大型水槽での飼育実験から、雌雄にかかわらず、個体の大きさが婚姻形態の決定に大きな要因となることが示された。すなわち、雌雄ともに似たサイズでは一夫一妻が、一匹の雄が大きな場合は全ての場合で一夫多妻、一雌が大きい場合は一妻多夫の傾向になることが明らかにされ、個体のサイズが婚姻形態形成の上での重要性が、明瞭に示された。カリノクロミスでは、野外観察から雌がくさび形の巣を好むことが示唆されていた。タンガニイカ湖の調査個体群から持ち帰ったカリノクロミスを水槽で飼育し、雌の巣の選択実験を行ったところ、受精の操作が可能である「くさび形」の巣を選択することが明らかにされた。今後カリノクロミスでの雌による雄の父性の操作が成されるのかどうか、といった研究を継続する必要があるが、この結果は、非血縁のヘルパーを伴う協同繁殖において、雌による父性操作の重要性を物語っているといえる。
著者
芦澤 充 乾 敏郎
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. TL, 思考と言語 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.353, pp.7-12, 2008-12-06
被引用文献数
2

我々は,心的回転を自己中心座標で表現された物体の心的イメージが,自己の仮想的な運動によって回転される認知過程であると仮定し,神経メカニズムの解明を試みている.最近の研究では,頭頂葉のCIPおよびAIPと呼ばれる領域が,それぞれ対象の自己中心的立体表現,視覚と運動の統合に重要な役割を果たしていると考えられている.本研究では,これらの知見を踏まえた神経回路モデルを提案し,提案モデルが三次元心的回転を部分的に再現可能であることを示す.
著者
吉井 健悟 有田 清三郎 田中 章太郎 宮脇 貴久
出版者
バイオメディカル・ファジィ・システム学会
雑誌
バイオメディカル・ファジィ・システム学会大会講演論文集 : BMFSA
巻号頁・発行日
no.14, pp.100-101, 2001-10-27

Recently the number of tuberculosis at Osaka City is increasing to the high level in the world. It is important to make clear the mechanism of the trial of the tuberculosis spread model. In this paper, we propose a mathematical model for the tuberculosis spread model in Osaka using the distance based on the data of 27 indexes of the management table of Osaka's tuberculosis. From the analytical results based on our model, it is suggested that tuberculosis spread model in Osaka has the central area and it is spread to the seaside.
著者
磯部 俊彦 吉田 義明 門間 要吉 山田 稔
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

今日、日本農業は過剰生産、価格低下、後継者難という深刻な危機に直面している。これらの問題を、個別農家の対応により解決することは困難である。従って地域農業における早急な土地利用管理システムの構築が必要とされている。このシステムは、個々の農家、集落の生産組織及び農協の相互の協力によって作られるべきである。その場合に各々の構成員が各々の特徴を活かした組織化が計られなければならない。この研究の目的は、各々の産地の実情に即した適切な集団的土地利用管理のあり方を提起することである。このテーマにアプローチするために、我々は愛媛県南予地方の優等ミカン産地及び沖縄県の野菜産地と工芸作物産地を調査した。そして、この問題について資料文献の収集、農家からの面接聞取り調査及び関係者との意見交換を行った。また、関連調査として山梨市のぶどう産地及び茨城の畑作地帯への調査も併せて実施した。以下は、その概要である。ミカン産地では高齢化と価格低下により荒廃園地が増大している。耕作できない農民は親せき又は他の農家に農地を預託する場合もあったが、特筆すべきは有機農法グループ「無茶々園」のメンバーで構成される「ヤング同志会」が耕作不能に陥った農地を管理していたことである。現在は点の存在ではあるが、この地域の集団化の歴史的経験の土台に立脚したものであるだけに将来さらに大きく育っていくであろう。沖縄県では農地相続が分割される場合が多い。しかし多くの相続者は農地を兄弟などに預けて出稼ぎに出るケースが多く、そして退職後に帰郷して農地を返してもらい農耕に従事する。この制度によって彼らの老後の生活も一応保証されるわけである。このような私的所有権の集団化ともいえる制度は、独特な相続制度に由来している。我々は、このような相続制度のあり方が、日本農業革命の鍵を提供しているように思われるのである。
著者
家串 哲生
出版者
山形大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、農業経営への環境会計導入を試みることを通じて、同経営に潜在的に隠れている可能性のあるコスト(potentially hidden cost)である環境コストを実証的に測定することを目的としたものである。研究初年度においては、主に対象事例の実態調査を行い、それに基づき、同事例の環境コストの集計範囲、事業活動に応じた分類、集計方法等の検討を行った。その具体的な研究内容は以下の通りである。(1)環境会計に関する内外の文献収集・検討を行った。また、同テーマの関連学会(日本農業経営学会、地域農林経済学会、日本社会関連会計学会等)に参加し、意見交換を行った。(2)前述した各学会において、それぞれ順に「農業経営における環境コスト及び環境資産の会計」、「農業経営における環境コストの認識・測定に関する-考察-農事組合法人Mにおける環境会計導入事例より-」、「農業経営における環境コスト及び環境資産の会計」の題目で学会報告を行った。最終年度となる次年度においては、(1)前年度の実態調査及び意見交換の結果に基づき、再度、対象事例の環境コストの集計範囲、事業活動に応じた分類、集計方法等の検討を行った。(2)それらの内容を勘案し、学会誌(『農業経営研究』)へ報告論文「農業経営における環境コスト及び環境資産の会計」を投稿し、掲載された。本研究では、対象事例の2004及び2005年度の農作業日誌データを用い、『環境会計ガイドライン2005』に基づいて環境会計を導入し、主に仮定按分法により6つの地域における環境保全コスト及び農業者当たり環境保全コスト、総費用に占める環境保全コストの割合を算出した。その結果、総費用に占める環境コストの割合は、いずれも2割前後をも占めており、その大部分は、「水質汚濁・土壌汚染防止」コストであること等を明らかにした。ただ、これらの結果には、対象事例の主観が多分に混入している。今後の課題として、いかに環境コストの認識・測定及びその方法の客観性の向上があげられる。
著者
舘野 義男 山崎 正明 小林 薫(深海 薫) 猪子 英俊
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

MHCは原索・脊椎動物が偶然に獲得し進化的に精緻化を重ねてきた生物機能であるが、MHC遺伝子群だけではなく、その周りのゲノム配列を進化的に解析することにより、その進化的起源や過程を明瞭に示すことができる。この研究では、ヒト(H)、チンパンジー(C)並びにアカゲザル(R)の3種について、MHCクラスI遺伝子群中のBとC並びにクラスI関連遺伝子MICAとMICBの2組の遺伝子の起源と進化に注目をして解析を行った。2組の遺伝子は2組のゲノム重複断片に存在することが分かっている。これらの重複が進化的に何時起こったか正確に推定することにより、2組の遺伝子の起源を明らかにすることが可能となる。ただ、ここで問題になるのは、これらの遺伝子は自然選択を強く受けているので、一定の速度で進化してはいないことである。従って、重複ゲノム断片中でこれらの遺伝子と一緒に進化している中立的な配列部分を選択する必要があり、私達はLINEの断片配列に注目して解析を行った。分岐時間の推定にはLINE断片の進化速度を求める必要があるが、私達はHとCの種分岐時間を、他の研究から得られた値、5.4百万年、をもとに推定した。この速度は、中立遺伝子の速度の範囲内にあることを確認して、BとC遺伝子の分岐時間を、2.23千万年と推定した。同様にMICAとMICB遺伝子の重複時間を1.41千万年と推定した。ゲノム解析の難点は、特定のゲノム領域に存在する遺伝子や他の配列がそれぞれ異なった進化要因を受けて進化しているので、一様に解析する訳にないかないことである。従って、問題としている領域の基本的な進化関係を正確に把握しないと誤った結論に導かれる危険性がある。そこで、H、C、Rのオーソログ領域のそれぞれの進化距離を求め、Rの分岐時間を2.70千万年と推定した。このような方法でRの分岐時間を推定したのは、おそらく世界で初めての試みであり、推定値も妥当と考えられる。上記の推定値もこの推定値に照らして妥当と結論される。
著者
宮崎 雄三
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究では昨年度に引き続き、2001年春に行われたNASA航空機観測キャンペーンTRACE-Pで研究員自身が測定を行った窒素酸化物の組成データや、他の研究グループから提供される大気成分データを用いることで、窒素酸化物の収支について解析を行った。その結果、西太平洋域の大気境界層(高度0-2km)及び下部自由対流圏(高度2-6km)で観測された総窒素酸化物(NO_y)は個々に測定された気相の窒素酸化物成分の総和と比べて系統的に10-20%高く、考えうる気相成分以外の成分がNO_y測定へ寄与していることが示唆された。そこで、同時測定された微小モードの硝酸エアロゾルと、この差を詳細に比較した。その結果、NO_y測定器が微小モードの硝酸エアロゾルを検出していたことが明らかになり、そのほとんどが硝酸アンモニウムの形態で存在していたと推定された。NO_y測定器による硝酸エアロゾルの直接測定は過去の航空機観測では報告されておらず、本研究による報告が初めてである。これらの結果は硝酸の大気中における寿命、さらには対流圏オゾンやエアロゾルの収支を考える上で非常に重要である。さらに他の物質との相関解析や後方流跡線解析から、東南アジアでのバイオマス燃焼と中国での化石燃料の燃焼が、微小モード硝酸エアロゾルの主要なソースであることが明らかになつた。微小モード硝酸エアロゾルのNO_yへの寄与は高度0-4kmで最も大きく、10-20%を占めたことが明らかになった。また、航空機搭載型の二酸化窒素(NO_2)測定器の高精度化のための室内予備案験を行った。具体的には、測定時の干渉成分除去や冷却等によるNO_2光解離システムの安定化を行った。その結果、測定の不確定性を18%以下、検出下限を6pptv(体積混合比1兆分の6)までに抑えることに成功し、航空機観測におけるNO_2のより高精度での測定が実現可能になった。
著者
坪木 和久
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本課題では日本海上に発生したポーラーロウについて、数値実験を行なった。また、総観場の特徴、降水系のレーダーから見た特徴を調べた。より解像度の高いモデルにより日本海西部に発生したポーラーロウについて数値実験を行ない、その詳細な構造を調べた。解像度をあげることにより、ポーラーロウの発生した収束帯の詳細な構造が見られた。この収束帯は大陸東岸にある山体によって形成されたものであるが、収束帯上には正の渦度と負の渦度を持つ直径100km程度の渦が列状にならんだ構造が見られた。ポーラーロウはそのほぼ南端に発達し、大きな正の渦度を持っていた。日本海西部のポーラーロウについては傾圧性の他、海面からの顕熱・潜熱による加熱が擾乱のエネルギー源になっていること、北海道西岸のものについてはこれらだけでなく上空にある寒冷渦が下層のポーラーロウとカップリングしていることなどが明らかになった。カナダ東岸のラブラドル海に発生するポーラーロウについても数値実験を行なった。この数値実験にはまず総観規模の低気圧をシミュレートすることが重要で、その擾乱のサブシステムとしてポーラーロウが発生することが明らかになった。数値実験でシミュレートされたポーラーロウは上空の寒冷渦の下にあり、北海道西岸のポーラーロウとよく似た特徴を持つものであることが明らかになった。日本海上のポーラーロウの数値実験については、比較的良く現実を再現するものが得られた。これは日本付近のデータが豊富にあることが結果を良くしていると考えられた。これらから日本海上のポーラーロウについてはその構造が、かなり明らかにされてきた。一方で、カナダ東岸のものについては、数値実験によりポーラーロウに近い物は再現できたが、初期値を変えると発生しなかったり、現実のものほど強いものが再現されなかったりで、初期値・境界値の与え方に問題が残った。特に初期値の初期化において発散場が必要異常に弱められる点が問題と思われる。これらを解決するために非断熱加熱を初期に取り入れるための改良を行なった。これを観測された事例に適用しさらにシミュレーションをおこなう予定である。
著者
木村 龍治 坪木 和久 中村 晃三 新野 宏 浅井 冨雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本課題の重要な実績として、梅雨期の集中豪雨をもたらしたメソ降水系のリトリ-バルと数値実験を行ないその構造と維持機構を明らかにしたことと、関東平野の豪雨をもたらしたレインバンドの発生機構を明らかにしたことが挙げられる。1988年7月に実施された梅雨末期集中豪雨の特別観測期間中、梅雨前線に伴ったレインバンドが九州を通過し、その内部の風と降水のデータがドップラーレーダーのデュアルモード観測により得られた。このデータにリトリ-バル法を適用することによりレインバンドの熱力学的構造を調べ、維持機構を明らかにした。これにより対流圏中層から入り込む乾燥空気がメソβ降水系を形成維持する上において重要であった。またこの結果を2次元の非静力学モデルを用いて数値実験により検証したところ、この結果を支持する結果が得られた。さらに3次元の数値モデルを用いて降水系を再現し、その詳細な構造を明らかにした。関東平野において発生したメソ降水系のデータ収集とその解析を行なった。1992年4月22日、温帯低気圧の通過に伴い関東平野で細長いメソスケールの降雨帯が発生した。その主な特徴は、弧状の連続した壁雲の急速な発達により降雨帯が形成された点で、他の例に見られるような多くの孤立対流セルの並んだ降雨帯とは異なるものであった。この降雨帯は、それ自身に比べてはるかに広く弱い降雨域の南端に発達したもので、Bluesteinand Jain(1985)の分類では"embedded-areal-type"に属するものであった。最終年度には、メソ降水系の中でも特に梅雨前線に伴うメソβスケールの降水系について、平成8年6月27日から7月12日まで、北緯30度46.8分、東経130度16.4分に位置する鹿児島県三島村硫黄島で観測を行った。この観測期間中には気象研究所、名古屋大学大気水圏科学研究所、九州大学理学部、通信総合研究所など他の研究期間も同時に観測をしており、結果として大規模な観測網を展開したことになった。これらの研究機関の間ではワークショップを開きデータ交換も行なわれた。