著者
西川 絹恵 生島 博之
出版者
愛知教育大学実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.13, pp.225-231, 2010-02

ギャップの典型例は,支え喪失(強力な支えがなくなった),自己発揮機会喪失(自分を発揮する機会が持てなくなった),脆弱性露呈(関係維持の潜在的な脆さが徐々にあらわれた),課題解決困難化(課題解決が徐々に困難となり不満や不安を募らせてきた),友人関係展開困難化(仲間関係を広げていくことができず徐々に孤立した)があるといわれている。しかし発達障害児(グレーゾーンの生徒も含む)の特徴と「中1ギャップ」の5つの典型例はよく似ている。発達障害児は小学校から中学校入学という環境の変化において,変化を好まない,適応が困難であることなどの障害特徴から,二次的障害としての不登校を誘発しやすい状況となっていることが多いと思われる。よって発達障害の子どもたちの多くにも中1ギャップが影響している可能性は非常に高いと思われる。発達障害と不登校の関連性については多くの研究が指摘するところであり,したがって発達障害児に対しては,さらにきめ細やかな中1ギャップに対する対応が必要であると考えられる。本研究では「特別支援教育」の観点から,そのギャップの解消につなげるためのスクールカウンセラー(以下 SC と表記)の小学校から中学校へつなげるための取り組みについて,広汎性発達障害児とのかかわりを通して「小学校から中学校への変換期を支える特別支援」について検討した。
著者
千原 美重子
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.38, pp.127-136, 2010-03

学校臨床心理士(SC)52人に質問紙調査を実施した。年齢は20代から60代以上、SC歴も1 年から18年と多様な属性を有していた。学校で実施している活動は、不登校対応が100%、発達障害の対応は96.2%、友人関係90.4%、家庭問題は86.5%と非常に高い活動項目であった。いじめへの対応は3.5%、継続的な面接は46.2%とそう高いとはいえなかった。生徒・保護者への対応としては面接が高い率を占めている。管理職や教員、養護教諭に対しては情報提供となっており、コンサルテーション機能が高いことを示している。他機関との連携として医療機関や適応指導教室が高い。発達障害や情緒的不安定などにかかわり医療に紹介状を提出し、適応指導教室に関しては不登校対応の連携をしている。コミュニティの社会的資源を把握してきたことを示すものである。今では教育相談部会(委員会)には8割以上のSCが関わっている。緊急支援は34.6%のSCが経験していたが、SC歴が6年以上のものが多くの緊急事例の事例を担当している。スクールカウンセリングは、特殊な臨床活動であると同時に、他の心理臨床の視座と共通するものも大切にし、生徒の発達支援をすべきである。
著者
金城 明美 浦崎 武 Kinjo Akemi Urasaki Takeshi
出版者
琉球大学教育学部附属発達支援教育実践センター
雑誌
琉球大学教育学部発達支援教育実践センター紀要 (ISSN:18849407)
巻号頁・発行日
no.1, pp.95-106, 2009

大人による子どもに対しての一方向の指示が多く存在しがちな学校や家庭への警鐘は、教育に携わる筆者にとっても重要な論点である。巻き起こる子ども側の指示待ちが、自分を出せない状況であって、創造性にもかかわるこのことは教育の在り様を問われていると考える。特別支援教育においても同様で、かかわりを困難とする特性をもつ発達障害の子ども達への支援の在り方は看過できない。「遊戯療法」は「非指示的」「指示的」な視点で論じられ、それぞれが「子ども中心療法」「認知行動療法」という技法として有益さが示されてきた。発達障害の子ども達には、両者の技法を組み合わせた方法が有益であることも示唆されてきた。琉球大学における集団トータル支援においても両者の視点における有益さが検討されてきた。その具体的な事例として、「非指示的アプローチ」と「指示的認知的アプローチ」を取り入れた沖縄絵本の読み聞かせを行う場面としゃぼん玉の活動を行う場面についてビデオ記録に基づくエピソードを分析する。支援者と子ども達に巻き起こるかかわりの言葉やふるまいから「非指示的アプローチ」「指示的認知的アプローチ」を考察する。結果、一緒に活動する「非指示的アプローチ」では、支援者や子どもに肯定感が生じ一緒に活動する様子がみられ、自分の想いを表現する言葉となり、相手をいたわる言葉となる。支援者に対する事前指示や子ども達へ対する内容への指示にみる「指示的認知的アプローチ」では、支援者や子どものそれぞれに理解が生じ、それぞれが素材を認める言葉や、客観的な視点からの自分に気づいた言葉になり、気分を落ち着かせるクールダウン等の動きとなっていた。今後、「指示命令的なアプローチ」が多くを占める場合、子ども達の感情表現の不整合さが表出すると予測を立てた分析を要すると考える。
著者
瀨底 正栄 Sesoko Masae
出版者
琉球大学教育学部附属発達支援教育実践センター
雑誌
琉球大学教育学部発達支援教育実践センター紀要 (ISSN:18849407)
巻号頁・発行日
no.1, pp.81-94, 2010-03

発達障害のある子どもは、幼い時期から集団適応に問題を示すことが多い、仲間からの受容の低さや否定は、子ども時代の問題に限らず、子どもたちのその後の適応困難や、学校や社会からのドロップアウト、孤独感などに結びついていることが指摘されている。人との関わりから生じる彼らのトラブルの要因を一方的に発達障害児だけの問題と捉えがちになることもあるが、一方で原因をどのように理解するかによっても対応の仕方がわってくる。つまり、彼らと関わりをもつ他者の側の関わり方を工夫することにより彼らの行動が変わるという観点を持つことは大切である。そこで、本研究では発達支援教育実践センターにおける、発達障害児に対する関係性を重視した個別支援の事例をもとにどのような変容が見られたかを検討することを行った。本事例も当初、適応スキル獲得からの支援であったが、個別支援を重ねることで、重要な他者との安定的な関係構築の必要性と、本児が受容されることに対する期待によって、心理的安全基地へと変化していく。このことから、発達障害児に対する関係性を重視した個別支援は、心理的安全基地の形成と共に彼らの関係性の世界や意味世界を広げることができるものであると示唆された。
著者
赤嶺 太亮 緒方 茂樹 Akamine Taisuke Ogata shigeki
出版者
琉球大学教育学部附属発達支援教育実践センター
雑誌
琉球大学教育学部発達支援教育実践センター紀要 (ISSN:18849407)
巻号頁・発行日
no.1, pp.29-39, 2009

調査1では、学校内における校内支援体制の進展及び課題を明らかにするため、沖縄県の公立学校及び特別支援学校のコーディネーターを対象に悉皆調査を行なった。その結果、「校内委員会の設置」といったいわゆる支援体制の「形式」は出来つつあるが、機能面である「質」に焦点を当てると、依然として課題が見られた。その主な背景には、コーディネーターの職務に対する環境調整が十分にされていないことが明らかになった。また、調査3においては沖縄県のスーパーバイザー的な立場にいる公立学校及び特別支援学校のコーディネー夕ーを対象に、教員間の「共通理解」に関するノウハウ、実態及び課題を明らかにするために質問紙調査及び聞き取り調査を実施した。その結果、コーディネーターは、日常勤務における工夫・改善を図りながら共通理解に取り組んでいることが明らかになった。得られた所見から、今後、特別支援教育における機能的な校内支援体制を整備していくためには、1校内支援体制の質的課題、2コーディネーターが取り組みやすい環境調整の必要性とそれを支える管理職の理解、3「子どもの変容」を中心とした全職員での共通理解のあり方、4共通理解を図る上での「場や時間の有効活用」、が重要であることを指摘した。
著者
前田 和子 譜久山 民子 宮城 雅也 山城 五月 上原 梨那 伊波 輝美 砂川 恵正 佐久川 博美 上原 真理子 金城 マサ子 鈴木 ミナ子
出版者
沖縄県立看護大学
雑誌
沖縄県立看護大学紀要 (ISSN:13455133)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.31-38, 2010-03

背景:沖縄県では発達障害児の早期発見・早期支援の充実が急務となっており、その療育体制が整備されつつある。発達障害児の多くが保育園を利用しており、早期療育の重要な担い手として保育士の質向上が課題である。目的:本研究の目的は保育士が発達障害または疑いのある子どもをどのように発見しているか、また彼らにどのように支援しているかを年齢別に把握することであった。方法:対象は沖縄県南部3市にある保育所90ヵ所に勤務する保育士878名であった。郵送による自記式質問紙法であり、内容は保育士の基本属性、障害児保育の有無、担当事例の特徴、療育支援の内容等であった。結果と考察:546名から回答を得た。現在発達障害児(疑い含む)を保育している者は約4割であり、保育士から特別支援を受けているのは170事例中7割であった。保育士が挙げた1~3歳児の早期発見に役立つ子どもの行動特徴は53項目と多数であったが、重要な指標の不足も明らかになった。また、早期支援は子どもへの支援、親への支援、社会的支援など多様であったが、記述数は早期発見の3割にとどまり、各問題行動に対応できてないことが明らかになった。結論:早期発見と早期支援の重要性から保育士の質向上のために、子どもの年齢を考慮に入れた実用的で継続的な研修の必要性が示唆された。Background: It is now recognized that early detection and intervention for children with developmental disorders (DDs) should be improved, and the developmental disorders system is building to provide the comprehensive services and supports these children and their families require in Okinawa. Because many of children with DDs are cared by day care workers in day care centers, improving the quality of day care workers is a priority matter. Purpose: Our goal was to determine by age of children how day care workers identified children with DDs and suspected children, and what early interventions they provided in day care settings. Method: Eight hundred seventy-eight day care workers in 90 day care centers at 3 cities in southern Okinawa were asked to complete self-report questionnaire. Result: The data was obtained from 546 day care workers. Approximately 40% of them were taking care of 170 children with DDs including suspected children. Seventy percent of those children were provided special interventions by them in day care settings. They gave 53 behaviors or characteristics of children one to three years of age as the warning signs that they were concerned, but they didn't notice any critical warning signs of DDs. They provided a variety of therapeutic and supportive services to eligible children and their parents, but the number of early intervention they described was a mere 30% of those about early detection. Conclusion: It was suggested that day care workers needed to be given practical and continuous training so as to assure their adequate capacity to detect the DDs by the Age of 3 years and deliver early intervention services to children with DDs and their families.
著者
淀 直子
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13452142)
巻号頁・発行日
no.56, pp.251-264, 2010

This article discusses play therapy and the state imagery of children suffering from pervasive developmental disorders from the perspective of corporeity, based on the idea that a person develops and is cultivated in his or her relationships with others. To formulate a symbol, the person must obtain a self-convergence and establish the corporal imagery, and that is created in the relationships with others. Moreover, to obtain self-convergence it is important that a person is attracted to and be contained in others. Children with pervasive developmental disorders are deemed to have a weak awareness of orientation toward and intercorporeity with others. Therefore, it is essential for the therapist to start treatment by first talking about what he or she felt or thought about the children, demonstrating that a live therapist exists. These children also have a weak sense of self because their weak body sensations; however, they were observed to have developed a sense of self along with the feeling of body sensations through the receipt of sensations to which meanings are attached, after opening up through relationships with others. It is further considered that spatio-temporal axis is experienced and established through the relationships with others.