著者
久保田 啓一
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

近世中期の堂上派武家歌壇では、幕臣や諸大名が京の公家に和歌の指導を仰ぐことが本格化したが、彼らは社会的経済的にむしろ公家を凌ぎ、公家たちの指導振りを俎上に載せて評価し、彼らを競わせた上で、懇切丁寧な指導を行う方を選ぶ姿勢を見せるようになった。江戸の地で多くの門人を持った冷泉家と日野家の競争は、その典型的な事例である。本研究では、享保から宝暦に至る幕臣文化圏の実態、及び天明期以降の松平定信を信奉する層の意識・動向を資料に即して分析し、和歌和文を愛好する武士たちの表現意識が堂上公家を敬いつつも江戸の地に即した詠作の意義を自得するに至る様子を考察した。
著者
浜西 千秋 福田 寛二 野中 藤吾 森 成志 山崎 顕二
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

外部環境の変化により生じる機械的刺激に対して,細胞が種々の応答を行うことにより,生体はその変化に適応してきた.このような生命の神秘を解明し,ティッシュエンジニアリングいう最新の工学手技を利用して,治療に応用しようとするのが本研究の目的である.脚延長術は骨や筋肉・血管といった軟部組織を伸張して、組織を増殖・改変させる技術である.そこで骨芽細胞を対象に,脚延長時と同じ牽引負荷におけるフリーラジカル産生の有無をin vitroで検討することを第1の目的とした.また脚延長仮骨をin vivoのモデルとして使用し、生体内での調節機構を検討することを第2の目的とした.平成16年度にはFlexercell strain unit(FX-3000)を用いて骨芽細胞に周期的牽引負荷を加え,フリーラジカル産生を検討した.牽引負荷によりフリーラジカルおよびその中和剤であるSODの産生亢進を認めた.このことは,骨芽細胞に対する機械的刺激がフリーラジカルという調節因子を介して何らかの細胞応答に変換されている可能性を示唆している.平成17年度はこの調節機構mRNAレベルでの確認した.さらに,細胞内のフリーラジカルを速やかに増加させる薬剤であるパラコートを使用して,細胞内でのレドックス制御を検討した.これにより,細胞内フリーラジカルがSOD活性を自己調節しているという興味深い知見を得た.平成18年度はこれらの所見を総合し,機械的ストレスによって誘導される活性酸素およびSOD誘導の機構について解析した.細胞膜透過性のSOD存在下で骨芽細胞に機械的牽引負荷を加えたところ,フリーラジカルの産生が抑制されるとともに,SOD活性も抑制された.このSOD活性の抑制はmRNAレベルでも明らかであった.したがって,骨芽細胞に対する機械的刺激が,細胞内のフリーラジカル増加を介してSOD誘導を調整していることが証明された.
著者
新井 洋由 井上 貴雄 高根沢 康一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

生体膜を構成するリン脂質には炭素数や二重結合の違いにより様々な脂肪酸鎖が結合している。このような「リン脂質脂肪酸鎖の多様性と非対称性」は昔から良く知られているが、その形成機構や生理的意義はほとんど明らかになっておらず、生体膜リン脂質分野における大きな課題である。我々は、遺伝学的解析が容易な線虫C. elegansを用いて、リン脂質脂肪酸鎖の多様性・非対称性に関与すると考えられる新規脂質関連遺伝子について、網羅的に欠損変異体を作製し、その生理機能ならびに反応機構を解析を行った。主な研究成果は以下のとおりである。・細胞内型ホスホリパーゼA1の機能解析を行い、細胞内型ホスホリパーゼA1が細胞内小胞輸送系(特に逆行輸送系)を介し、上皮系細胞の非対称分裂を制御することを見出した(非対称分裂に関わるβカテニンの細胞内非対称局在を制御)。・上皮細胞に選択的に発現するホスホリパーゼPAF-AH(II)についてノックアウトマウスを用いた解析を行い、PAF-AH(II)が酸素ストレスによろて障害を受けたリン脂質を代謝し、酸化ストレス防御因子として機能することを個体レベルで示した。・線虫をモデルとした遺伝学的手法により、細胞内シグナル伝達において極めて重要な役割を持つホスファチジルイノシトール(PI)に高度不飽和脂肪酸を導入する遺伝子mboa-7を同定した。今後、mboa-7/LPIATの解析により、PIの脂肪酸鎖の構造がPIの関与する生命現象にどのように寄与するか、といった生体膜脂肪酸分子種の本質に初めて迫ることが可能となる。
著者
今江 禄一 中川 恵一 山下 英臣 芳賀 昭弘 篠原 広行
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,体幹部放射線治療中の呼吸による標的の移動量を明らかにした上で,標的の呼吸性移動を考慮した回転型強度変調放射線治療を用いて体幹部定位放射線治療を実現した.また,治療中の対象内のCT画像を得ることが可能である本手技を用いて,放射線治療中の標的の位置検出と移動量の評価を行った.本研究の達成により放射線治療中の標的や臓器の位置が同定可能となり,治療中の投与線量や分布を再評価することが可能となった.
著者
石田 健一 山元 隆 宮地 博幸 榎本 康浩
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会ソサイエティ大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.1995, no.2, 1995-09-05

近年、各種SCSI周辺機器の発展によってSCSIが標準インターフェースとして、急速に普及してきている。この様な背景の中、小型LSI化したターミネータの低入力容量化と高精度化が要求されている。これらの課題に対応し、SCSI-I/II仕様をサポートした不平衡型アクティブターミネータLSIを開発したので報告する。
著者
竹越 孝 遠藤 雅裕 藤田 益子 遠藤 雅裕 竹越 孝
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、近世中国語の信頼できるコーパスを構築し、それを存分に活用した研究を行うことにあった。我々がその対象として選んだのは、李氏朝鮮時代における中国語会話教科書『老乞大』の代表的版本と、清代後期を代表する白話小説『兒女英雄傳』である。これらを組み合わせることによって、元代から清代末期に至る北京語の通時的変化が一望できると考えたためである。スタート時にはプレーンテキストの入力はもとより、品詞情報・構文情報など種々の文法タグを付し、語彙表を作成するところまでを射程に入れていたが、実際に取りかかってみると、各版本を吟味し信頼に足る底本を選定するまでの段階で多くの時間が費やされることとなった。こうした文献学的研究によって我々の視野は格段に広がったものの、本格的な計量言語学的研究の領域にまで踏み込む余裕がなかったことは残念である。今後の課題としたい。研究成果報告書は資料編と論考編からなる。資料編には今回の研究資源の一つである竹越孝編「老乞大四種対照テキスト」を収めた。論考編には我々がコーパスの作成過程でなした文献学的研究と、コーパスを活用して行った語彙・語法研究を収めた。具体的には、遠藤雅裕「『老乞大』各版本中所見的「將」「把」「拿」-并論元明清的處置句-」、遠藤雅裕「《老乞大》四種版本裡所見的人稱代詞系統以及複數詞尾」、竹越孝「今本系《老乞大》四本的異同點」、竹越孝「論介詞"着"的功能縮小-以《老乞大》、《朴通事》的修訂為例」、藤田益子「関於『児女英雄傳』的鈔本-従詞彙方面的考察-」、藤田益子「関於在《児女英雄伝》中出現的"把"字句-"把"的賓語帯量詞"箇"」の6篇である。
著者
小峯 裕己 谷合 哲行 木村 洋
出版者
千葉工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

化学物質による室内空気汚染に関する対策を講じる際に、竣工直後における室内の化学物質濃度、放散量の経時変化、濃度の減衰時間などの予測が不可欠である。本研究では、小形チャンバー法を用いて、環境因子の変化する実環境を考慮した建材からの化学物質放散量推定式を明らかにし、化学物質放散量測定値に基づく室内濃度予測手法を提案することを目的とする。本研究成果は以下の通りである。1)HCHOを放散する木質建材が単体で存在する条件下において、建材設置量、温湿度、換気量が異なる実環境を想定した模型実験を行い、小形チャンバー法を用いたHCHO放散速度推定式に基づく、HCHO気中濃度予測式の妥当性を検証した。2)種類、HCHO発散等級の異なる木質建材が混在する条件下に置いて、温湿度、N/L値(換気回数/試料負荷率)を系統的に変化させ、単体のHCHO放散速度推定値に基づいた室内HCHO濃度予測式の妥当性を検証した。3)種類、HCHO発散等級の異なる木質建材が混在し、温湿度変動が存在する条件下において、HCHO気中濃度予測式の妥当性を、実環境における長期間暴露試験により検証した。4)塗料から放散されるトルエン放散速度測定値に基づいて、環境因子がトルエン濃度の経時変化に与える影響について明らかにした。内部拡散支配型放散過程においては、温度の影響が少ないが、蒸散支配型放散過程においては温度の影響が大きいことが明らかにされた。また、トルエン濃度の減衰機関は二成分指数間モデルを用いて予測できることを示した。5)HCHOを放散する建材とトルエンを放散する塗料が混在する条件下において、HCHO、及びトルエンの放散速度に与える相互影響を明らかにし、それぞれの化学物質の期中濃度予測に与える影響を明らかにした。塗料からのトルエンの放散挙動は塗膜への吸着・再放散があるために、設置後5日程度は影響があることを明らかにした。竣工直後で塗膜が乾き切っていない状況でHCHO濃度の測定を実施すると、危険側の評価をしてしまう可能性がある。
著者
吉見 雄三 藤村 政樹 安井 正英 笠原 寿郎 中尾 真二
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.502-507, 2004
被引用文献数
1

呼吸器疾患における吸入薬は,近年ドライバウダー吸入(DPI)が普及し,圧作動式定量噴霧吸入(pMDl)に取って変わりつつある.しかし両薬剤には吸入流速による肺沈着率に違いがみられる.今回,安定期喘息患者8名を対象として,サルブタモールをTurbuhalerとpMDIの2つのデバイスを用いて吸入させ,その効果を薬剤吸入後の呼吸機能の改善度を指標として比較検討した.pMDIとDPIの比較では,吸入後の1秒量の経時的変化は両群間に有意差を認めなかった.両デバイスの吸入効果の差を表す指標としてΔAUCとΔmaxFEV_iを定義し,試験前の呼吸機能の指標との相関を検討したところ,1秒量・1秒率の低下している症例はど,pMDIの方がDPIよりも吸入後の呼吸機能の改善度が強い傾向がみられた.この成績は,吸入流速と薬剤沈着率との関係を反映したものと推察された.低呼吸機能患者に対する有用性があるため,今後もpMDI製剤は-部の患者には必要で,また吸気流速測定によるデバイスを使い分け等も考慮すべきであると考えられた.
著者
森野 忠夫 尾形 直則
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

シリコンと非接触型レーザー血流計を用いて、ラット脊髄圧迫時の脊髄血流と虚血の影響を調査した。20gの重さで脊髄は完全虚血となり、20分間の圧迫では運動障害は可逆性であるが、40gでは非可逆性であった。そのメカニズムとして、圧迫部位での虚血は、マイクログリア増殖を含む炎症、神経細胞やオリゴデンドロサイトのapoptosisを引き起こし、さらに血液脊髄関門が破壊されるためと考えられた。
著者
引地 謙治 森野 祐直 福田 一郎 松本 壮樹 瀬崎 薫 安田 靖彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. B, 通信 (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.268-278, 2003-02-01
被引用文献数
18

現在,実時間メディアのネットワーク伝送において,ネットワークの状況に適応したサービス品質の提供が問題となっている.音声・動画像メディアにおいては,インターネットにおけるネットワークQoS(Quality of Service)の劣化に対する制御,また劣化がユーザに与える影響などの研究が多く行われている.一方,ネットワークを通じた仮想空間共有システムにおいて触覚をユーザに提示することが可能となっている.しかしながら,このような触覚を含む仮想空間共有システムにおいて,ネットワーク品質の劣化がユーザに与える影響についての検討はほとんど行われていなかった.そのため,本論文ではネットワークの状況に適応的制御が可能な触覚を含む仮想空間共有システムを提案する.本システムにおいては,ネットワークにおける遅延,パケット損失に対する対策を行い,量子化・符号化により伝送情報量を低減させる.また,触覚を含むシステムの評価手法を定め,それに基づいてネットワークにおける遅延,パケット損失,また量子化による情報損失に対する特性を測定することにより,システムに必要とされるQoSパラメータの導出を試みる.
著者
時松 孝次 吉見 吉昭
出版者
公益社団法人地盤工学会
雑誌
土質工学会論文報告集 (ISSN:03851621)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.56-74, 1983-12-15
被引用文献数
32

A critical review of field performance of sandy soil deposits during past earthquakes is conducted with special emphasis being placed on Standard Penetration Test N-values and fines content. The field relationship between adjusted dynamic shear stress ratio and normalized SPT N-values together with laboratory tests on undisturbed sands indicate that (1) sands containing more than 10 percent fines has much greater resistance to liquefaction than clean sands having the same SPT N-values, (2) extensive damage would not occur for clean sands with SPT N_1-values (N-values normalized for effective overburden stress of 1 kgf/cm^2) greater than 25,silty sands containing more than 10 percent fines with SPT N_1-values greater than 20,or sandy silts with more than 20 percent clay, and (3) sands containing gravel particles seem to have less resistance to liquefaction than clean sands without gravel having the same SPT N-values.On the basis of the above findings, an improved empirical chart separating liquefiable and non-liquefiable conditions is presented in terms of dynamic shear stress ratio, SPT N-values, fines content, and shear strain amplitude.
著者
吉見 宏
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、国際監査基準が民間部門に適用されたことに鑑み、これが将来的にわが国の公監査基準にいかなるインパクトを与えるかを検討した。その結果、いくつかの無形資産、監査人の倫理、財務諸表外情報等のいくつかの要素が重要であることを示した。さらには、国際基準の観点から、現在の地方公共団体の監査制度の保証としての性格を検討し、問題点を示した。これらを通じて、一般的な公監査基準のモデルのあり方が示された。
著者
今岡 浩一 井上 栄 高橋 徹 小島 保彦
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.74-80, 1993
被引用文献数
8

古くから漢方薬の一つとして用いられ, また, 食生活にもなじみの深いシソ (Perilla frutescens) には, インターフェロン誘起能, 抗ウイルス作用および抗腫瘍作用があることが明らかにされている。今回, その抽出エキス (PFE) を作成し, IgE抗体産生に及ぼす影響を検討した。DNP-ovalbuminをアラムアジュバントとともにマウスに免疫し, DNPに対する抗体を測定した。免疫の前日にPFEを投与し, 一次免疫応答に及ぼす影響を検討した。PFE投与により, 抗DNP抗体産生が抑制された。次に, 追加免疫の前日にのみ, PFEを投与し, 二次免疫応答に及ぼす影響を検討した。PFEの濃度依存性に, 抗DNP-IgE抗体および総IgE抗体の産生が抑制されたが, 抗DNP-IgGはほとんど影響を受けなかった。PFEは, I型アレルギーの予防・治療に対して効果を持つと考えられた。
著者
鈴木 豊 杉山 学 斎藤 真哉 會田 一雄 隅田 一豊 筆谷 勇
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

国・地方自治体及び国・公営機関に対するアカウンタビリティの履行要求がわが国においても急速に高まっている。その理由は、税金の使途に対する国民、納税者の不満である。国・地方自治体は、租税収入及び公金収入そしてこれらの支出及び使途について法規準拠性のみならず近年では行政成果又は政策評価についてそのアカウンタビリティの履行を積極的に諸外国では開示し、監査を受けている。開示の基準が公会計基準であり、監査の基準が公監査基準である。公監査の内政府、自治体に対するものが政府監査基準である。本研究は、政府監査の構造とあるべき政府監査基準についてわが国及び諸外国の制度を研究し、わが国で今後設定されるべき基準を構築すべく検討したものである。第一年度は、各委員が分担して諸外国の制度と基準を研究した。第二年度は、これらをもとに総合的に論点をまとめわが国には存在しない、一般に認められた政府監査基準を構築するための研究を行った。これらにより下記の知見が得られこれを第一部「政府監査基準の構造と体系」にまとめ、第二部「政府・自治体外部監査の諸制度と基準」にまとめ最終報告とし、平成17年5月に書物として公刊した。第一部では、政府監査の基礎構造として特に、パブリックアカウンタビリティ、政府監査目的の類型化、政府監査人の独立性、政府監査公準、情報の保障、法律的、会計的、社会科学的、経営的アプローチを明らかにした。ついでこれら基礎概念をもとに政府監査の(1)一般基準、(2)財務監査基準、ここではリスクアプローチ、内部統制、(3)準拠性監査基準、ここでは、合規性、合法性の監査基準、(4)業績監査基準では、3E監査、VFM監査、業績(行政監査)について検討し、最後にあるべき政府監査基準の体系を提示した。第二部は、諸外国の制度と基準について、その特徴とわが国への導入の論点を包括的に研究したものである。