著者
梶田 将司 小林 大祐 武田 一哉 板倉 文忠
出版者
一般社団法人日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.337-345, 1997-05-01
被引用文献数
31

人間が音声として知覚する音がその他の音とどのように異なるのかを探求するため, 本研究では, ヒューマンスピーチライク(HSL)雑音を導入し, HSL雑音に含まれる音声的特徴を分析する。HSL雑音は, 複数の音声を加算的に重畳して作られるバブル雑音の一種で, その重畳回数に応じて音声的な信号から音声の長時間スペクトルを反映した定常雑音へと聴感は変化する。まず, この聴感上の変化を主観評価実験により定量化する。そして, HSL雑音に含まれる音声的特徴を振幅分布のガウス性, スペクトル微細構造の時間的変動性, スペクトル包絡の時間的変動性の三つの観点で分析した。その結果, HSL雑音の差分信号のガウス性及び, HSL雑音のスペクトル包絡の時間的変動が音声的特徴に大きく寄与していることが分かった。
著者
鶴田 隆治
出版者
九州工業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

物理現象の素過程を解明するに有効な解析ツールである分子動力学シミュレーションを用いて,準平衡状態にある単純分子アルゴンおよび多原子分子水のナノバブルの生成と消滅機構について検討した.まず,三次元計算系に対する分子動力学シミュレーションによりナノバブルを発生させ,その界面構造を観察するとともにYoung-Laplaceの式の適応について検討をした.その結果,Young-Laplaceの式ならびに古典的核生成理論はナノバブルへの適応は妥当ではないことが分かった.次いで,ナノバブルが存在できる気液界面の力学平衡条件を探るために,周囲流体,特に液体側の界面構造に着目し,気泡の生成過程または平衡状態において,気液界面における界面構造と圧力・温度挙動を解析した.また,極座標解析を行い,ナノバブルの半径方向における気泡周りの数密度分布と力分布を求めた.さらには,強制的に外圧を加えた際のナノバブルの消滅過程を調べた.以上の解析結果より,ナノバブルの気液界面層において,分子が平衡状態よりも周期的に変化する大きな力を受け,気泡界面層の位置の遷移とともに界面層近傍の構造が気泡挙動と強く関連していることが分かった.すなわち,気泡外部の液体分子からの分子間力によって気液界面をつくるためのエネルギーが供給され,球形の気泡界面が形成・維持されていると考えられる.また,水分子においては,ナノバブルの界面は配向により負に帯電することを見出した.
著者
大成 博文 田頭 昭二
出版者
徳山工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

マイクロ・ナノバブル技術を用いて、大量微細生物の超高速粉砕・水処理システムの開発研究において、以下の主要な成果を得た。(1)マイクロバブルは、収縮して「マイクロナノバブル」へと変化する。その際、マイクロバブル内から気泡が噴出することによって気泡が動揺しながら上昇する。(2)マイクロバブルの収縮に伴って、負の電位が増加する。とくに、気泡サイズが40μmよりも小さくなると急速に負電位が増加し、そのピークは10〜30μm前後である。(3)マイクロバブルは収縮の最終過程で光熱反応を起こし、自発光する。その発光色は青白いことから、相当の高温で発光してしることが推測された。(4)マイクロバブルを生物に供給することによって、生物の体内では特別の生理活性作用が生まれる。この活性によって、生物の斃死防止、成長促進、抗加齢が可能となる。また、微生物においては、大量の増殖やその制御が可能となる。さらに、マイクロバブルの濃度を制御することによって、細菌の除去や洗浄、殺菌が可能となった。(5)マイクロバブルの発生装置を改良することによって、大量微細生物を瞬時に粉砕・切断することが可能となった。(6)マイクロバブルを排水内に供給することによって、排水処理槽内の微生物を約2倍に増加させることによって、アンモニア性窒素の硝化を大幅に促進させることが可能となった。以上の成果を踏まえ、マイクロバブル技術を利用した各種水処理システムの方法を新たに開発した。
著者
八木 栄一
出版者
理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

金属中に重い稀ガス原子(Ar、Kr、Xe)を多量にイオン注入すると、室温でも高圧状態の稀ガズ原子固体が形成される。これは、しばしば固体バブルとも呼ばれる。面心立方および六方晶金属中では母体と同じ結晶構造を持ち、結晶方位は母体結晶と揃っている。このバブルが形成されると、電子顕微鏡、電子線回折法等で観察可能となり、その成長、移動、構造等が調べられているが、形成の初期段階(核形成)は観察できないため調べられていなかった。そこで、我々は、これまで、イオンチャネリング法により、面心立方金属につき、イオン注入後のここの稀ガズ原子の結晶格子内位置、および、それらの注入量に対する変化を調べることにより、バブル形成の初期段階(核形成の過程)を調べてきた。本研究では、体心立方結晶を取り上げ、イオンチャネリング法により、バブル形成の核形成の過程を調べ、面心立方金属についての結果と比較する。試料はFe単結晶で、これに150keVのXe^+を1×10^<14>、4×10^<14>、1×10^<15>、1×10^<16>Xe/cm^2の種々の量、イオン注入し、Xe原子の格子内位置を決定するため、1.5MeV He^+ビームを用い、後方散乱チャネリング実験を行った。Xe原子の大部分は格子置換(S)位置およびランダム(R)位置を占める。注入量が少ない時には、その割合は少ないが、格子間四面体(T)位置、格子点から<111>方向に0.085nmずれた(D)位置にも存在する。TおよびD位置占有はXe原子と注入の際形成された原子空孔(V)との相互作用の結果で、それぞれ、XeV_4複合体、および最近接格子点に空孔が存在する結果Xe原子が<111>方向にずれているXeV複合体と考えられる。R位置はさらに多くの空孔と複合体を形成しているXe原子に対応している。これまでに、メスバウアー効果の実験でもXe原子が内部磁場の異なる4種の位置に分布していることが報告されていたが、本実験結果を考慮すると、それらは内部磁場の小さくなる順にS,D,T,R位置に対応付られる。注入量の増加と共にS,TおよびD位置を占める割合は減少し、R位置を占める割合ば増加する。この結果は、注入の初期段階でXeV、XeV_4のようなXe原子と空孔との複合体が形成され、これが核となってXeバブルへと成長することを示唆している。Xeバブル形成のためにXe原子の移動が必要とされるが、その機構としてXeV_3の形での移動を提案した。一方、面心立方金属A1中のKrの場合は、体心立方金属の場合とは異なりKrV_4、KrV_6型の複合体が核となる。面心立方結晶中では稀ガス原子が母相と方位を揃えて結晶化するが、その機構を考慮すべく、現在、A1中のKrにつき注入量をさらに細かく変化させKr原子の格子内位置を調べている。
著者
都並 結依 大成 博文 大成 博音 山本 孝子
出版者
日本高専学会
雑誌
高等専門学校の教育と研究 : 日本高専学会誌 (ISSN:1343456X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.3-8, 2008-05-20
被引用文献数
2

超高速旋回式で発生したマイクロバブルのほとんどが収縮してマイクロナノバブルへと変化する.この区別は,その収縮速度差の相違でなされる.マイクロバブルの収縮の原因は,発生時の負圧形成が引き金となり,発生後の周囲水の加圧とその収縮過程における内部気体の噴出および溶解することにある.マイクロバブルの収縮パターンには3つがあり,その形成にも収縮時の内部気体の噴出が関係している.マイクロバブルは,ダム貯水池下層の無酸素水域に注入することで有酸素化による水質浄化に有効である.
著者
舞草 伯秀 八木 有毅 深見 忠典 柳田 裕隆 赤塚 孝雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MI, 医用画像 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.579, pp.67-72, 2005-01-14

高品質の超音波画像を得る手法として、第2高調波を用いたハーモニックイメージングや、マイクロバブルの崩壊現象とそれにともなう高調波成分を利用したイメージング法などが考えられている。一方、散乱波に含まれるサブハーモニックは、生体組識からの発生がほとんどないことから、第2高調波によるイメージング法よりもさらによい生体組識-血流間のコントラストが得られるものとして注目されている。しかしながら、サブハーモニック生成のメカニズムはマイクロバブルの共振や崩壊現象となんらかの関連があると考えられているものの、充分に解明されていない。ここでは、この解明のために、超音波パルス照射毎のマイクロバブルの振る舞いと、超音波エコーの各周波数成分の経時変化について光学的・音響的同時計測を行った。得られた動画像からバブル径を求め、そのときのバブルからの音圧スペクトルをRPNNPモデルにより算出し, 各周波数成分の経時変化に着目して, 実験値との比較検討を行なった。結果、理論値と実験値には類似性がみられ、サブハーモニック発生とバブル径の変化について考察する。
著者
関川 靖
出版者
名古屋文理大学
雑誌
名古屋文理大学紀要 (ISSN:13461982)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.47-55, 2003-04-01

家計貯蓄行動を決定する要因は,所得(相対所得,恒常所得,生涯所得,資産所得など)であるが,現実の家計の貯蓄行動は経済動向・金融構造・利子率・所得・貯蓄水準・慣習など複雑な要因が重層的な影響をおよぼして決定される.我国家計の特徴と言える「貯蓄優先」行動を金融構造面,特に公的金融と家計の貯蓄行動との係わりを検証することは,家計貯蓄の決定要因分析に不可欠であると考えられる.何故ならば,我国の公的金融制度は他の諸国と比較して特異な面を持ち,先進国になった現在でも民間金融機関に匹敵するシェアを占めているためである.よって本論文の目的は,発展途上であった高度成長時代からバブル経済・バブル経済の崩壊の90年代末に至るまで,公的金融制度の役割変化と家計貯蓄動向の変化とを時系列でもって比較分析することで,公的金融制度の家計貯蓄へ影響を検証することである.
著者
山口 三重子 島津 望 下妻 晃二郎 矢部 正浩 福島 智子 加藤 恒夫
出版者
県立広島大学
雑誌
広島県立保健福祉大学誌人間と科学 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.77-85, 2005-03

本研究の目的は,自宅で最期を迎えたいと希望するがん患者の在宅緩和ケアを行うために作られた,プライマリケアチーム(開業医・訪問看護師・開業薬剤師など)と緩和ケア専門チーム(緩和を専門とする医師・看護師・MSWなど)の連携がスムーズに行われるための課題を明らかにすることである。分析対象は,在宅緩和ケアに参加した医療職者の事例検討会(学習会)において録音したテープ,診療録,看護記録である。テープは逐語録にし,分析にはワトソンの理論を参考に内容分析法で行った。その結果,在宅緩和ケアにおける連携をスムーズにするために必要な因子として,連携前の準備,緩和ケアに特有のケアや薬剤の理解,両チームの役割分担,の3つの要因が抽出された。今後の検討課題として,連携のアウトカム評価,コーディネーター(リーダー)の役割と職種,より多職種を含めた組織化などが挙げられた。
著者
伊藤 鉄也 伊井 春樹 鈴木 淳 入口 敦志 荒木 浩 海野 圭介 スティーヴン・G ネルソン 伊藤 鉄也
出版者
国文学研究資料館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本課題は、日本文学に関する情報を所有する海外の機関や研究者を確認し、どのような情報が収集・利用されているか、またはどのようなテーマで研究がなされているかを解明することにある。そのために、日本文学や文化に特化したものを集積・分析し、諸外国の研究者相互の連携を推進し、情報網を広げ、質の高い研究情報を蓄積し、国内外の研究者へ提供してきた。国際集会の開催、刊行物「日本文学研究ジャーナル」第1~4号の作成はその成果の具体的な証である。
著者
川人 貞史
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1.今年度の作業として,1890年の第1回より1924年の第15回までの総選挙及び,1990年の第39回総選挙について,立候補者の得票及び選挙区の有権者に関するデ-タの作成を行った.これを一昨年度の奨励研究「日本における中選挙区制と政党制の通時的比較分析」で作成した1928年〜86年の総選挙デ-タと結合させて,日本における全総選挙の立候補者・選挙区デ-タの作成を完了した.さらに,約980人にのぼる補欠選挙の当選者デ-タも新たに作成した.上記のデ-タを将来他の研究者に公開するため,デ-タを利用する際のマニュアルとして,「衆議院総選挙候補者選挙区統計1890ー1990」を発表した.2.百年間の全立候補者の当落情報及び補欠選挙当選者デ-タを利用して,代議士のキャリア分析を行い,その成果の一部を『読売新聞』1990.12.5に発表した.戦前では,再選された現職議員の構成比は低く,また,議員の在職期間も比較的短い.これは,戦前の代議士が再選のために立候補する比率が低いこと,また,再選を望む代議士が必ずしも再選されないことによる.対照的に,戦後,再選のための立候補比率は急上昇し,24回総選挙以降つねに90%以上である.再選を望む代議士の再選率も,徐々に高くなって現在は80%程度である.自民党一党優位政党制下の議院内閣制において,政権を構成する役割を担う代議士は姿は,戦前とは大きく変化した.3.本研究の成果をまとめるため,日本の政党政治を,(1)衆議院における制度化の進行と議会政党の発展,(2)選挙民の中の政党の発展,(3)選挙制度の変化とそれが政党の発展にもたらした影響,という三つの視座から分析した研究書を執筆中である.今年度中に,1890年代から1910年代までの部分について執筆が完了する.
著者
坐間 朗 田村 勝
出版者
群馬大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.ラットC6神経膠腫細胞を継代培養し、ラットの大脳に移植し、ラット神経膠腫モデルを作成した。血管新生阻害剤TNP-470 (AGM-1470)は武田薬品から供与され、10%エタノールに溶解し移植後8日目から隔日で15回まで腹腔内注射した。コントロール群は10%エタノール液を同量注射した。2.移植後の平均生存日数はコントロール群で35.7日、TNP-470・10mg/kg投与群で26.3日、同30mg/kg投与群で29.1日。死亡時の脳腫瘍の体積はコントロール群で266.7mm^3、30mg/kg投与群で227.5mm^3。移植時から死亡時に至る体重は、コントロール群で149.4gから235.6gへ増加し、TNP-470・30mg/kg投与群で172.5gから190gまで増えたのち減少し死亡時178.7gであった。TNP-470の脳腫瘍増殖抑制効果は推測されたが、副作用で体重も減少し生存期間が短縮すると思われた。3.移植後経時的にラット神経膠腫モデルをヘパリン加生理食塩水とホルマリンで潅流固定し、proliferating cell unclear antigen (PCNA)免疫染色を行い、この陽性率で腫瘍細胞(以下「腫瘍」)と腫瘍血管内皮細胞(以下「内皮」)の増殖能を検索した。腫瘍の体積を[ ]内に、光顕百倍1視野当たりの腫瘍内血管数を( )内に記す。PCNA陽性率はコントロール群では移植後1-20日目に腫瘍19%[88.3^3]・内皮4.4% (19.6本)、21-30日目に腫瘍31.6%[255.2^3]・内皮11.6% (18.7本)、31-40日目に腫瘍35.3%[257.0^3]・内皮12.7% (20.6本)、41日目以後腫瘍25.6%[308.0^3]・内皮6.2% (10.0本)であり、TNP-470・30mg/kg投与群では、移植後1-20日目に腫瘍16.8%[64.7^3]・内皮6.0% (41.7本)、21-30日目に腫瘍14.6%[275.2^3]・内皮4.1% (19.2本)、31-40日目に腫瘍23.9%[160.0^3]・内皮5.2% (22.0本)、41日目以後腫瘍7.0%・内皮2.0%。TNP-470による増殖能の抑制は内皮に強く見られ、次いで腫瘍にも認められた。4.今回の脳腫瘍の透過電子顕微鏡標本および血管鋳型の走査電子顕微鏡標本を現在作成中である。
著者
成瀬 恵治 毛利 聡 中村 一文 竹居 孝二 山田 浩司 入部 玄太郎 片野坂 友紀
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

生体内では至るところで、重力・伸展や剪断応力といった物理的な機械刺激が生じている。細胞の機械受容システムを介して伝達されるこのような刺激は、単に生体にとって不利益なストレスではなく、発生過程や臓器機能発現に不可欠な生体情報であることが次第に明らかになってきた。本研究では、独自のメカニカルストレス負荷システムおよび評価系の開発を通して生体での機械受容環境を再現し、生体の巧みなメカニカルストレス応答機構を明らかにする。
著者
大野 茂男 平井 秀一 鈴木 厚 秋本 和憲 山下 暁朗 廣瀬 智威 中谷 雅明 佐々木 和教
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

上皮細胞を初めとする様々な細胞の極性制御の要として働いている普遍的な細胞極性シグナル経路、PAR-aPKC 系の新規構成員として ASPP2 を発見し、細胞極性の制御と細胞死の制御の間の関係を示唆した。PAR-aPKC 系の新たな制御機構として、aPKC 結合タンパク質 KIBRA が aPKCのキナーゼ活性を基質と競合的に抑制し Lgl とは異なる機構で aPKC を通じたアピカル膜ドメイン形成のプロセスを特異的に抑制することを見いだした。
著者
伊庭 幸人
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.346-349, 1987-07-20

この論文は国立情報学研究所の電子図書館事業により電子化されました。
著者
本間 さと 池田 真行
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

視床下部視交叉上核(SCN)に存在するほ乳類の中枢時計は、網膜からの光情報を受容し、内因性の周期を24時間の明暗サイクルに同調すると共に、SCN外脳内組織や末梢臓器の末梢時計を調節し、全身の時間的統合を行っている。しかし、そのメカニズムは不明である。夜行性齧歯類における行動リズムの季節変動は、これまで、夕日および朝日に同調し、活動の開始と終了を調節するEvening(E)とMorning(M)の二振動体によると考えられてきた。そこで、発光レポータートランスジェニックマウスを用い、SCN細胞のPerl発現リズム位相をSCN内で部位別に測定し、日長と行動リズム位相との相関を解析し、生体が行動や内分泌機能に季節変動を生じる機構について検討した。24時間明暗周期の明期を6〜18時間と変動させたところ、すべての明暗比において、吻側SCNのPerl発現リズムピークは夕方の活動開始位相にphase-lockしており、E振動体の局在が示された。一方、尾側SCNのPerl発現ピークは、測定したすべての明暗比で、朝の活動終了位相にPhase-lockしておりM振動体の局在が示された。尾側SCNのPerlピークのphase-lockingは、明期20および22時間という極端な長日周期でも確認された。明期18時間では吻側SCNのPerl発現が二峰性となり、さらに明期を延長すると吻側、尾側ともに二峰性ピークが観察された。発光イメージングによる細胞リズム解析の結果、すべてのSCN細胞の発光リズムは約24時間であり、二峰性リズムは、ほぼ180度位相が異なり、かつ、左右SCNにほぼ均等に混在する、2種の細胞群によることが分かった。以上の結果、日長によりSCN内で部位時的に遺伝子発現リズム位相を変位させるSCN細胞のダイナミズムが、行動リズムの季節変動を調節していることが分かった。
著者
中本 高道 長濱 雅彦 石田 寛
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

視嗅覚情報の同時記録再生システムは、ビデオカメラによる映像と匂いセンサによる匂い記録を同時に行い、ディスプレイで映像を再生するのと同時に匂い調合装置により映像に同期させて匂いを再生させる装置である。視嗅覚情報に嗅覚情報を加えることにより臨場感が増し、五感情報通信への可能性が広がる。画像に匂いをつける試みは数例あるが映像とともに匂いセンサで匂いを記録し両者ともに同時に再生するのは初めての試みである。本研究では、匂い調合装置の検討、水晶振動子ガスセンサの成膜手法、感応膜材料の検討、ロバスト匂いセンシングの検討、オートサンプラを用いた匂いの記録再生等を研究した。本研究では水晶振動子ガスセンサを用いたが、素子間バラツキの問題を霧化器を用いた方法で低減し、リポポリマ及び自己組織化リポポリマにスペーサ分子を導入しその上に物理吸着層を設ける方法を用いて数十ppbの匂いを検出できるセンサを開発した。また、濃度変動、温度、湿度変化等環境変化にロバストな匂いセンシングシステムを実現するために、短時間フーリエ変換導入し特徴的な周波数を複数選択してそれをパターン認識する方法を開発しロバスト性の向上を確認した。さらに、匂いの記録再生システムの記録範囲を拡大するためにオートサンプラを用いて大規模な匂い調合を行うシステムを開発し、りんご、バナナ等の果実臭の記録再生に成功した。最後に動画と同時に匂いセンシングを行い、映像と共に匂いを再生するシステムを実現した。ジュース缶にセンシングプローブを近づける様子を視嗅覚の同時記録再生することに成功した。そしてインターネットを介して遠隔地で視嗅覚のリアルタイム同時再生実験を展示会で実演し、センシングした匂いが遠隔地で正しく認識できることがわかった。