著者
沢田 信一 葛西 身延 荒川 修
出版者
弘前大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

高密度区のダイズ植物は相互遮蔽状態にあり、植物個体間で互いに光要因に対して競争状態にあった。これに対して、低密度区のダイズ植物は孤立個体状態で存在し、個々の葉は常に充分な光を受け光合成を行える条件にあった。そして、高密度区の植物の上層部の充分な光を受けている葉の光合成速度は午後も午前と同様な高い光合成速度を維持していた。しかし、低密度区の植物の午前の光合成速度は高密度区と同様に高かったが、午後には大きく低下する傾向が認められた。以上の結果から、高密度区の植物は個体全体として制限された光条件下にあり、個体として充分な光合成生産を行う事が出来ずにsource能がsink能よりも低下(source-limit)していたために、群落上部の充分な光条件下に有った葉は常に高い光合成能を維持していたものと考えられる。これに対して、低密度区の植物の全ての葉は常に充分な光条件下で光合成生産を行う事が可能であった。それにも係わらず、午前に比べ、午後の平均の光合成速度が大きく低下した理由は低密度区の植物においては、source能がsink能に比べて大きかった(sink-limit)事によると考えられる。また、高密度区に比べて、低密度区の植物の平均のsucrose含量が高かったこと、RuBPcaseのInitial activityが低かったこと、RuBP含量が高かった事は、これまでの研究において、ダイズ初生葉から作られたsource-sinkモデル植物をsink-limit状態に置いた場合に認められた実験結果と一致した(Sawada et al,1986,1987,1989,1990,1992,1995a,b)。しかしながら、光合成速度、RuBPcase活性およびsucrose,RuBP含量の個々の値には大きな固体差が認められた。また、これらの個々の値の間の相互関係についてみると、これまでsink-limit状態に置いたモデル植物において認められたこれらの値の相互関係とは必ずしも一致しなかった。これらの理由として、次の事項が考えられる。1)この種の実験には、全日晴天の日が数日つずくことが必要である。2)植物体の生長が均一であることが必要である。3)光合成速度その他の測定及び葉の含有物を定量する葉のage、および植物とその葉の置かれた環境条件が均一であることが必要である。以上の点を充分に配慮してこの種の実験を継続する事を考えている。
著者
松尾 七重
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は我が国における就学前教育と小学校低学年教育の接続を考慮した幼児・児童のための連携図形教育プログラムを確立することである。そのために,図形教育に関する問題点を解明するための調査を実施し,その結果及びアメリカ合衆国の就学前教育の研究プロジェクトの成果を踏まえ,就学前の幼児及び小学校低学年の児童を対象とした図形に関する指導の内容,配列及び方法を構想した。また,その指導の一部を実施し,その前後で質問紙調査等を行い,その効果を検証し,その結果を基に,幼児と児童を対象とした連携図形教育プログラムを提案した。
著者
奥野 拓也
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本年度は昨年度まで用いてきたNiFe多結晶試料に加えCoNbZrアモルファス合金試料を用いて磁気渦中心の垂直磁化(吹き出し磁化)の磁気的性質を調べ、ブロッホポイント(BP)と呼ばれる原子サイズの磁気構造が関係する磁化反転過程CoNbZrはNiFeと同様磁気異方性が無視できるほど小さく、NiFeと比べ構造のみが違う(多結晶とアモルファス)系であると考えられる。まず膜厚60nmのCoNbZrアモルファス膜を直径450mmの円盤状ドットに加工し、CoNbZrアモルファス膜における吹き出し磁化の反転磁場を測定した。その結果、NiFe試料と比較して、反転磁場値はほぼ同じであった。両者の飽和磁化はほぼ等しく、反転磁場値は飽和磁化に依存することが示唆される。一方、反転磁場分布はCoNbZr試料の方が明らかに小さくなり、反転磁場分布が膜質によって大きく依存することがわかった。吹き出し磁化の反転過程においては原子サイズの磁気構造であるブロッホポイント(BP)が試料表面に生成し、進行すると考えられており、結晶粒界といった交換結合のミクロな分布が反転磁場分布に大きくするという以上の結果は、吹き出し磁化の反転過程がBPの生成、進行を伴うことを強く支持する。次に上記CoNbZr試料を用いて反転磁場の温度依存性を調べた。強磁性転移温度より十分低い温度領域では、反転磁場の温度依存性を調べることは、外部磁場に対するエネルギー障壁の高さの変化を調べることになる。反転磁場の温度依存性より、吹き出し磁化の磁化反転におけるエネルギー障壁の変化は外部磁場の1乗に比例することが判明し、通常の微小磁性体の3/2乗に比例する振舞いとは異なることがわかった。また、Thiavilleらがシミュレーション計算により求めたエネルギー障壁の外部磁場依存性と比較すると、実験結果との良い一致はみられなかった。シミュレーションではメッシュサイズ以下の微細磁気構造は原理的に再現できないことから、この結果は吹き出し磁化の反転に際し彼らのメッシュサイズ(2nm)以下の磁気構造、つまりBPの出現を示唆する。
著者
乙藤 洋一郎 松田 高明
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

北上地塊,西南日本東部,そして沿海州シホテアリン山地の研究結果から次のような興味深いテクトニクスが明らかになってきた.北上地塊は日本海が拡大する直前にアジア大陸に付加した可能性を指摘した.北上地塊に分布する114Ma-119Maの年代を示す原地山層と62-71Maを示す閉伊崎火山岩類の古地磁気データは,伏角が-20度から9度の低伏角を示した.今回発見した北上地塊の低伏角は,北上地塊が太平洋プレートに押されて25-30Maにアジア縁辺にやってきたとすることで説明ができる.北上地塊がアジア大陸に付加したのは日本海が拡大する直前であったことになる日本海拡大が起こっている際の,西南日本弧の回転のテクトニクスについて次のようなモデルを提出した.20〜15Maにおこった日本海拡大に伴い,九州から関東山地にわたる西南日本弧は対馬の西方にある同転軸の周りで時計回り回転運動を行った.西南日本弧が30度ほど時計回り回転すると,現在の諏訪湖近辺で,関東山地とそれ以西の小西南日本ブロックの2つの独立に運動するブロックに分かれた.関東ブロックは諏訪湖近辺を回転軸として時計回り回転運動を続け,60度回転した.小西南日本弧は引き続き対馬の西方にある回転軸の周りの回転運動を行い,20度ほど回転した.回転の際,小西南日本弧の東端は現在の赤石裂線に沿って滑って南下した.中央線の折れ曲がりは島弧の塑性変形ではなく,二つの剛体,関東ブロックと小西南日本弧,の回転運動が原因で造られたと結論した.このモデルは,西南日本で観察される中央線の折れ曲がりに新しい見方を提供する.
著者
中村 亮一 村垣 善浩 伊関 洋
出版者
日本医療機器学会
雑誌
医科器械学 (ISSN:0385440X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.248-255, 2005-05-01
被引用文献数
2

はじめに -術中情報の可視化- 精密かつ安全な手術を遂行する上で最も重要な事項の一つは, 患者, 病変に関しての質の高い情報をいかに確保するかということである. 「敵を知り己を知れば百戦殆(あやう)からず」とは孫子の言葉であるが, 手術においてもまさしくこの言葉が当てはまる. すなわち, 対象となる病変の情報を多く獲得し, かつ自分が手術という一連のプロトコルの中で現在どういう状態にあり, これから何をするべきかを決断するための情報を獲得することが, よりよい手術結果を獲得するために必要なことである. 肉眼で確認できない患者体内の病変についてのより質の高い情報を獲得するための試みが古くより多くの医学者, 科学者によりなされてきた. Roentgenが1895年11月8日にX線を発見し12月22日に夫人の手指骨の透過写真を撮影したのが, 非侵襲的な(切開等の直接的侵襲を伴わない)体内情報の画像化の最初である. その後, HounsfieldによるX線CTの開発(1968), 和賀井敏夫らによる超音波診断装置の開発, そしてLauterbur, Mansfieldらにより開発された核磁気共鳴画像(MRI)(1971)の登場により, 体内の多品質, 高品質な画像情報の獲得が可能となった.
著者
大橋 慶介
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

河川流域への降水の位置エネルギー年平均値と, 流域から流出する土砂量の年平均値との間に相関があることが確かめられているが, 河口地点すなわち流域全体のエネルギーのみが明らかであった. 本研究では, 流域内の任意地点でのエネルギーを明らかにし, 土砂流出量分布を得るために, 支川の合流順序を反映した解析方法を提案してそれを実現した.
著者
加藤 真由美 大木 佐智子 谷 里佐 三宅 茜巳 佐藤 正明 後藤 忠彦
出版者
日本教育情報学会
雑誌
年会論文集
巻号頁・発行日
no.26, pp.386-389, 2010-08-21

これまでの歴史・観光資料の書籍とくに,教科書は,主として印刷メディアで構成されてきた.しかし,最近の電子教科書・書籍は印刷物の二次利用としてデジタル化が進められ,さらに,最初から電子書籍を目的とした,映像・印刷物・関連資料を用いたマルチメディアの構成についての研究開発が進もうとしている.そこで,今回,奈良時代からの背景をもとに,手向山八幡宮(奈良県)の上司氏による現物(現地)での説明と関連資料を用いたデジタル・アーカイブを構成し,今後の電子書籍の方向性について検討を行った.
著者
荒川 等
出版者
九州工業大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

昨今の歩行者と自転車の交通事故が増加している社会問題に着目すると、自動車のドライブレコーダーが実用化されたように、歩行者のための事故状況記録機すなわち「ウォークレコーダー」の実現が期待される。特に、瞬時の判断力が劣っている年少者・高齢者・障害者などのいわゆる認知弱者が装着して有用性を評価するための試作機を製作した。本研究のウォークレコーダーは、ヘルメットの上部に取り付けたカメラ、GPS、運動センサの情報をノート型パソコンに自主開発したアプリケーションを用いて記録する単純な構成によって、汎用性とフレキシブル性に優れている。また、カメラを車載カメラ、全方位カメラ、Webカメラと取り替えて次のように比較検証した。1、車載カメラ:前・後・左・右方向のカメラ4台の映像信号をハード的に1つの画像に結合することでパソコンの取り込み負担を軽減し、自転車の移動状況を十分に記録することができた。被験者が装着した際の機器の重量の負担が大きい。2、全方位カメラ:カメラが1台のため映像の取得方法をハードとソフトの両面で簡潔にできたので、試作機を年少者に装着して実験することができた。歪補正の処理を行うことで、目視と同じ遠近感で自転車の移動状況を認識することもできた。3、Webカメラ:前・後・左・右方向のカメラ4台を車椅子に装着して用途拡大を試みた。ノート型パソコン1台で撮影する場合、撮影時間間隔を要し、自転車の動きを追跡することが困難で目的を果たせなかった。実施計画にあった小型サーバ5台を用いた測定データの分散処理システムの構築には至らなかったが、カメラや信号処理の工夫により交通事故分析を行える程度の十分な情報を記録することができた。さらに、歩行者の周囲の景観と遠隔地の保護者の間でインターネット中継による映像会話を試行したところ、相互のコミュニケーションによる歩行支援モデルを提案できた。
著者
San Gabriel Maria Concepcion S. 遠矢 幸伸 杉村 崇明 清水 孜 石黒 信良 望月 雅美
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.97-101, 1997-02-25
被引用文献数
1 11

日本で分離されたイヌカリシウイルス(CaCV)No.48株をMDCK細胞で大量培養し, 塩化セシウム平衡密度勾配超遠心により精製した. 精製ウイルスをSDS-PAGE解析したところ, 約60キロダルトンの1種類の主要ウイルス蛋白のみの存在がクマシー染色により示された. カプシド蛋白と考えられる同一のバンドはマウス高度免疫血清を用いたウェスタンブロッテイングにより検出され, 本カプシド蛋白はMDCK細胞において感染後少なくとも2時間で合成されていた. 実験感染犬における抗CaCv抗体の産生がマイクロ中和試験とウェスタンブロッテイングにより示された. 同様に, 血清調査においても中和抗体の存在が示されるとともに, 精製ウイルスのカプシド蛋白に野外血清が反応することが明らかとなった. これらの結果はCaCV No.48株のカプシド蛋白が免疫原性を有し, 本蛋白に対する抗体をウェスタンブロッテイングにより検出しうることを示している.
著者
山田 洋揮
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.29, pp.605-616, 2008-03-27

名古屋市(108校中39校の回答あり)での美術科定期テストの実施率は62%であり,現在の大学生の中学時代に比べると減少している。テストの内容は,昭和30年の高校入試の形式とほとんど変わっていない。アメリカでは既に全米規模で美術教育のテストが実施されている。そこで,全米学力テストの一部を追試した。その結果,日本の生徒は,描写力に優れているが,作品を分析し,解釈,評価する力が不十分であることが分かった。今後の美術科定期テストは,「知識・理解」の判定にとどまらず,「思考・判断」や「表現・技能」など総合的に評価できる形式・内容を整える必要がある。それは,教師による評価のためだけでなく,生徒自身が自分の成果を確認するためである。
著者
西岡 純
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、冬季に砕氷船を用いた観測を実施し、得られたオホーツク海の海氷サンプルの化学分析を実施した。海氷中には高い濃度で大陸棚由来の鉄分が取り込まれており、オホーツク海の海氷が鉄など微量栄養物質を移送するのに大きな役割を果たしている事が示された。海氷が融解する際には、海洋表層の主要栄養塩は希釈されるが、鉄分は付加される傾向にある事が明らかとなった。本研究の結果から、海氷の広がりは、極域・亜極域の栄養物質の循環に大きな影響を与え、春季の生物生産の質や量を変化させている事が示された。
著者
ポダルコ ピョートル エルマコワ リュドミラ 太田 丈太郎 サヴェリエフ イゴリ ミハイロワ ユリア 清水 俊行 中村 善和 安井 亮平 長縄 光男 清水 俊行 澤田 和彦 長縄 光夫 中村 喜和 中嶋 毅 安井 亮平
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

平成18年4月より22年3月までの4年間に例会を20回、研究会合宿を2回(神戸市立大学、東北大学)行い、この間、研究会のニューズレター『異郷』(年3回発行)をno.21-32計12号を刊行し、論文集『ロシアと日本』を2冊(vol.7,8,2008年3月、2010年3月)を刊行した。
著者
三輪 徳定
出版者
日本医療機器学会
雑誌
醫科器械學雜誌 (ISSN:00191736)
巻号頁・発行日
vol.12, no.5, pp.220-222, 1934-11-20
著者
上野 照剛 伊良皆 啓治 関野 正樹
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2005

神経電磁気現象に関する脳機能情報を解析して,脳機能の動的機構の解明に迫るため,MRIによる神経電気活動の電流分布イメージングや細胞膜の水透過率を解析する手法を提案した.また,経頭蓋磁気刺激と脳波の同時計測により高時間分解能,高空間分解能を有する新しい脳機能ダイナミックスイメージング法を開発した.さらに,アミロイド沈着をMRIで観測するため,鉄の貯蔵蛋白質であるフェリチンに着目し,これに交流磁場を印加することで,鉄イオンのフェリチンへの取り込みとフェリチンからの放出に関する磁場の作用を調べた.