著者
油納 健一
出版者
山口大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

"権利の無断使用(特許権の侵害)"に対して不当利得制度を用いた場合に、特許権者をいかに救済できるのかが、本研究の課題であった。ドイツの判例・学説を中心に詳細に検討した結果、特許権者は特許権侵害者に対して、特許権の使用可能性という利益を請求することができると考えるのが、ドイツにおける現在の支配的見解であり、日本法においても重要な示唆を与えうるものであることが判明した。もっとも、使用可能性という利益は、無形・無体の利益であるため、価格算定を行う必要があり、ここでは算定基準をいかに考えるかが問題となる。返還義務の対象の問題と同様に、ドイツの判例・学説を中心に検討した結果、客観的市場価格を基準とすることが最も妥当であることが判明した。これにより、不法行為制度に限らず、不当利得制度によっても、特許権保護を全うできる理論構成を提示することができ、今後の実務にも参考になることが期待されうる。

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著者
ブルノ ペーロン 小林 孝郎 ドナルド チェリー ヤマモト ウィルソン フレデリック アンドレス 井上 哲理
出版者
上智大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究では、機器支援学習活動を展開するための新たなCALLシステムを目指した。そのために、教室据え置き型のデバイス(「iTable」と呼称)を用いて、CEFRLが提唱する「行動中心の考え方」にそった学習活動を可能にすることを目標とした。学習者が自身の学習過程を振り返り、目標言語についての仮説を形成できるように、認知学習ストラテジーも養成できる学習システム作りを行った。
著者
春日井 真英
出版者
東海学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

四年にわたる調査研究を通じて至った結果は、十一面観音、牛頭天王(津島信仰)を個々に考えてはならないと言うことであった。これまでは、個々の問題を検討していたが地域を通じて考えてみると、この二柱に加えて地蔵も重要な機能を有していることが伺われるのである。そこには、神仏習合思想に基づく思想を見て取ることができ、この事を解明する手段として「牛頭天王島渡り」の祭文の研究が急務と言うことになる。この祭文に寄れば、津島神は牛頭天王であり、その本地は薬師如来となりそこには行疫神であると同時に施薬を行うという相反する機能を有しているのである。東三河各地を検討してみると素蓋鳴神社(進雄社)が多々存在し、その名を有する神社での祭礼に鬼が顕れるのだが、その鬼達の姿は喜々としている様に見受けられる。また、豊橋市の安久美神戸神明社の鬼祭と地域の宗教施設などを検討してみると、地域全体(ここでは豊橋市)が牛頭天王と十一面観音によって護られているかの様な構造を有していることが判る。この事は、名古屋市も同じであり、名古屋城を中心として各恵方に観音を配置するという構造とも重なるのかも知れない。とくに、尾張部では鬼こそ出ないものの山車によって天王(津島あるいは牛頭天王)が祀られている事を考えれば、東三河地区での様に鬼の顕れる祭祀が、山車という象徴的な祭祀に変化してきていることが伺われる。
著者
秋野 晶二 林 倬史 坂本 義和 山中 伸彦 鹿生 治行
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

PC産業は、細分化された分業構造を基盤としながら、絶えざるイノベーションを特徴として成長を続けてきた。この継続的イノベーションは、部品・周辺機器産業におけるイノベーションと、そのイノベーションを方向づけるバスアーキテクチャのイノベーションとの二重のイノベーションにより実現され、それを可能にする企業内、企業間の開発・生産ネットワークが形成されてきた。ここでは製造機能、開発機能、販売機能のグローバルな分業構造が新たに見られる一方、製造機能は、規模/範囲の経済性を有効に機能させるための水平的統合・垂直的統合が見られる。
著者
武田 邦宣
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

ハイテク産業における合併規制の違法性判断基準のあり方について、米国および欧州との比較から、日本法への示唆を得ることを目的に研究を行った。2004年度に「ハイテク産業における企業結合規制」にて米国反トラスト法における規制事例を網羅的に検討した後に、その後の米国法をフォローするとともに、改正後のEC集中規則の適用事例を整理・検討している。そこでの成果は、独占禁止法の適用余地が少ないと考えられてきたハイテク産業においても独占禁止法適用の価値は大きく、またこれまでの伝統的産業とは異なる全く新しい違法性判断基準作りが必要というものである。「市場獲得のための競争(competition for the market)」は、その分析基軸になるものと考えている。ECではしばしばそのような考え方を規制事例に確認することができ、米国においても政権による揺らぎはあるものの、同様の反トラスト法思想は既に存在するものと考えられる。以上のような比較法研究と同時に、日本法との比較を行うための準備作業を進めた。具体的には、我が国におけるこれまでの企業結合規制の特色を抽出するために、過去の公表相談事例を整理・分析した。本年度はその成果を「企業結合規制にみる公取委の市場画定・市場分析手法」にて公表することができた。また、昨年度のジョンソン&ジョンソンの事例に見られるように、市場の国際化に伴い外国会社同志の合併が大きな問題になるものと考えられることから、市場画定、独禁法の域外適用の問題について基礎研究を蓄積しつつある。
著者
鈴木 祥之 鎌田 輝男 小松 幸平 林 康裕 後藤 正美 斎藤 幸雄
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、伝統構法木造建物に高い耐震性能を与える耐震設計法、耐震補強法および新しい耐震補強用の構造部材の開発を行い、また京町家や社寺建築など文化財的木造建築物の保全・補強に役立てることを目的として、以下の研究を実施した。(1)伝統構法木造建物の耐震性能評価法の開発:E-ディフェンスで実施した京町家ならびに伝統構法木造住宅の実大振動台実験で耐震性能評価法の検証を行った。また、2007年の能登半島地震、新潟県中越沖地震の被害調査を実施し、民家、社寺建築物の構造詳細により耐震性能評価を行った。(2)木材の構造的劣化診断:木造部材の構造的劣化特性を調査し、耐久性の検査方法を確立し、構造劣化の診断法を開発した。2007年能登半島地震被害調査から腐朽・蟻害などの被害が顕著であった民家を対象に構造部材の劣化程度を調べるとともに軸組の耐震性能に及ぼす影響を調べた。(3)耐震性能設計法の開発:伝統構法木造建築物の耐震性能設計法として、限界耐力計算に基づく設計法の開発を行った。また、2007年6月に建築基準法が改正され、伝統構法の設計において非常に大きな社会問題になった。これに伴い、限界耐力計算による耐震設計法の検討を行うともに、伝統構法木造建築物の設計法の課題となっていた柱脚の滑りや水平構面の変形などの研究を進め、設計法の実用化を図ってきた。(4)既存建物の耐震補強法の開発:伝統構法木造建物に適用可能な耐震補強用の構造部材として乾式土壁を用いた小壁や袖壁やはしご型フレームの開発を行った。振動台実験などで補強効果を検証するとともに、住宅用と社寺など大型木造建築物用として実用化を図った。(5)文化財・歴史的木造建築物の保全・補強への応用:実在の寺院建築物の耐震性能を評価し、耐震補強法の開発を行い、実用化した。この耐震補強法は、有用な方法であり、多くの社寺建築物などの文化財・歴史的木造建築物に応用可能である。
著者
田井 健太郎
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究プロジェクトでは、近世兵法書を用い、中世に展開された武術の特性について、戦闘技法構造の側面と萌芽的武士倫理性との関連の側面から明らかにした。また、兵法書の中での近世初期の武士倫理が、戦闘者的武士身分観と士的武士身分観の混在状態から、武を司る者による徳治という倫理観への発展がみられることを明らかにした。
著者
下條 英子
出版者
文京学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

昨年度行った研究では、「自覚的な選好判断に先立つ眼球運動のパターンから、その直後の判断が予測できるか」という仮説をたて、健常成人の選好判断課題(強制二肢選択)遂行中の、眼球運動を計測した。その結果、ボタン押しによる選好反応に1秒弱先だって、最終的に選ぶ側への注視確率が急激に上昇していき、80-90%のレベルに達したところで自覚的判断/反応がなされる、という「視線のカスケード効果」を見いだした。視線のカスケード効果が、顔や幾何学的図形に留まらず、より現実的で人工的な刺激、たとえば商品などでも一般的に見られることを示す予備的なデータを得たので、そのことを確認する実験を本格的に行い、現在論文草稿にまとめる段階である。具体的には;(a)指輪、あるいは腕時計の写真を視覚刺激として用いた選好課題(二肢強制選択)を課したところ、従来の刺激と同等に明確な視線カスケード効果を認めた。(b)さらにより現実的な状況(たとえばインターネットショッピング)に近づけるため、一画面に四つの商品(指輪、または腕時計)が提示される四肢強制選択課題にしたところ、依然として視線のカスケード効果が見られたが、従来の80%超の視線の偏りと比較して、最大38%程度にとどまった。(c)四つの選択肢に対応する神経信号が、具体的にはどのように競争しひとつに絞り込まれるのかを知るヒントとして、新たな解析法(「視線エントロピー解析」)を適用した。これは一定の時間スロット毎にいくつの対象に視線が向かったかによって、エントロピーが定義できることと、対象数の多寡に応じてこのエントロピーの値がシステマティクに変わることを利用した解析で、我々の創案による(選好に限らず、また認知科学に限らず、他のあらゆる多肢選択の状況に適用できることに注意)。この解析の結果、多くの場合(被験者/試行)に、選択プロセスはいわゆる"winner-take-all"(勝者が他のすべてを抑制する)の形をいきなり採るのではなく、むしろ「予選-決勝型」(有力候補がふたつ残り、このふたつの間で決勝が行われる)を採ることが推定できた(この点に関する教示は、一切与えていない)。他に類例を見ない、ユニークな成果である。
著者
二宮 彩子 増田 敦子 小泉 仁子
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

平均年齢67歳の高齢者27名(男性14名女性13名)に対して、ベッド及び和式布団から起き上がる際の血圧変動について検討を行った。tilt-up試験のように受動的な起立ではなく、圧受容器反射の違いを考慮し日常生活で行われる能動的な起立方法を用いて、仰臥位から立位への姿勢変換時における血圧データを収集した。起立直後の血圧最低値からその後血圧が上昇をする態様を観察した結果、血圧の最低値に対する最高値の割合は、ベッドの場合125%、和式布団の場合134%であった(収縮期血圧)。同じく拡張期血圧においては、ベッドでは108%、和式布団では120%の上昇が見られた。拡張期血圧、収縮期血圧それぞれにおいて、ベッドと和式布団との間で上昇率に有意差が認められた。このことは和式布団からの起き上がりはベッドの場合に比べて、血圧の変動が大きいことを示唆していると思われる。脈圧に関しては、収縮期血圧の変動が拡張期血圧の変動に比して大きいため、起立直後一時的に安静時の約4割にまで減少していた。主観的なめまい、ふらつき感、浮遊感などの症状についての訴えは、ベッドからの起き上がり時で約1割、和式布団からの場合では約2割の者に見られた。特筆すべきことは本人にその自覚がなくても足元がふらついている者が2名、布団からの起き上がり時にみられたことである。ベッドの場合には一度、マットレスの縁で端座位の姿勢を保持することによって、上体を起こす際の静脈還流量減少が和式布団の場合に比べて少なく、同時に足腰への負担も軽減されること等から、布団からの起き上がりよりも身体にかかる負担が少なくてすむと考えられる。一方、和式布団での仰臥位から立位への姿勢変換時には、今回の研究結果からもわかるように血圧の変動がベッドに比べて大きい為、めまいやふらつきによる転倒の予防に十分配慮して立ち上がる必要がある。
著者
成田 奈緒子 酒谷 薫 成田 正明 霜田 浩信 霜田 浩信
出版者
文教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

脳科学的な所見を教育現場等で応用していくことを前提として、本研究は行われた。自閉症患児と健常児においてスイッチングタスク(音読→ワーキングメモリタスク)の負荷を行い、その際のNIRSによる前頭葉の脳血流量の変化を測定した。その結果、自閉症児では、ワーキングメモリタスクへの切り替えに応答して、前頭葉を活性化させる機能が健常群と比して大きく低下していることが明らかになった。教室での刺激の切り替えにおける自閉症児の困難さを理解し、支援する手立てとなることが期待される。
著者
山口 幸三 鈴木 忍 光成 豊明 大友 純 三井 泉
出版者
日本経済短期大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1987

本研究は大学・短大における講義中心の経営教育の弊害を取り除くため、コンピュ-タを技術的な基礎に置いて、マネジメント・ゲ-ムの導入による実戦的な経営活動を学生に疑似体験させるためのシステムの開発を目指したものである。マネジメント・ゲ-ムは企業の社員研修においても広く採用され、その教育的な効果が認められている。われわれが開発したものは、企業の社員研修用よりも、大学における教育用として効果のあるものである。学生は実務的知識に疎いので、その欠如を補い、さらにゲ-ム進行中にそれらの実務的知識の修得を促すようなシステムが最良と考えられるのである。当初、われわれがシステム化したマネジメント・ゲ-ムでは、審判団の行なう集計・検算作業のコンピュ-タ化を行なった。審判団の集計・検算作業がゲ-ム進行のスピ-ドアップのネックとなっていたからである。この結果、学生の意思決定作業時の指導がより密度の高いものとなった。続いて、学生の行う意決定・会計処理作業のコンピュ-タ化を目指した。ただし、この部分のコンピュ-タ化にあたっては、できる限り学生の手作業の部分を残した。全面的なコンピュ-タ化は教育効果が少ないという判断からである。したがって、審判団へのデ-タ提出にあたって審判団の作業がやりやすいようにシステム化した。この段階ではデ-タ集計はフロッピィディスクによるオンライン集計であった。そこで次に、LANシステムを用いたオンライン集計のシステムを構築することにした。しかし、パソコンのハ-ド技術的な制約からLANシステムによるゲ-ム・システムは一部しか完成せず、その全面的な構築には至らなかった。けれども、われわれは研究計画立案当初の目標を達成し、さらにその目標を上回る研究成果をあげることができた。
著者
平川 正人 吉高 淳夫 市川 忠男
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

ユーザインタフェースは従来の文字主体のものから視覚情報を用いたものに移り変わってきている.更にマルチメディア技術の進歩は,音や動画なども交えた,よりユーザ親和性に優れたインタフェースの提供を可能にしている.ただし対話メディアに複数のメディアを活用するだけでは真に使いやすいシステムとは言えず,コンピュータ処理の質的改善が欠かせない.本研究では,そのような目標に向けたひとつのアプローチとして,コンピュータに社会性を持たせるための基礎的研究を行った.社会性の提供に向けては,まず人間の置かれている“状況"というものをコンピュータが把握する必要がある.そこで状況についての検討をおこない,意味内容の違いから状況を3つのレベルに分類した.さらに,状況認識に基づいた情報管理・アクセスのための基本的枠組みを提案した.また,画像ならびに音声が提供し得る意味について詳細な検討をおこなった.各種メディアデータとして得られる情報を統合し,より高度な状況理解を実現するための研究を進めた.実際に音声,音,映像から各種の特徴データ抽出実験を行なった.さらに,音と映像以外の状況認識の手だてとして,物理的位置の利用可能性について検討をおこなった.位置認識デバイスにGPSを用いた実験の結果,位置情報は状況認識にあたって極めて有効に機能することを確認した.一方,人間とシステムの関係に注目するだけでなく,人間と人間の間で交される対話の過程への状況の利用促進を図ることを目標に,物理的に同じ場所を共有する人間同士の間での情報交換を支援する機能を開発した.プロトタイプシステムの構築を行い,提案した手法の有効性を確認した.
著者
寺田 努 塚本 昌彦 柳沢 豊 須山 敬之 宮前 泰恵
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

ウェアラブルコンピューティングを手術時や災害時などに実践的に利用するためにはハングアップなどの不慮のトラブル時にも情報提示を継続することが必要である.そのため,システムダウン時に周辺デバイスが動的に結合し,PC 本体無しでも提示を継続する仕組みを実現した.提案手法では状況認識技術を用いて,システムダウン時に現在の入出力デバイスの組合せから人間の認知特性を考慮した最適な組合せを決定する機構をもつ.
著者
荒野 泰典 上田 信 老川 慶喜 藏持 重裕 小峯 和明 千石 英世
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

国内外に点在する捕鯨関連の史跡・資料を調査し、分担者および各地の協力者と共同研究を展開することによって以下の成果を得た。1.捕鯨という現象を人と鯨の関係性としてより広くとらえ、捕鯨史を人類史の不可欠の一環として見る視点を得た。2.捕鯨にまつわる諸言説の再検討を行った。たとえば、日本の伝統捕鯨が、日本で独自に発達したという言説の再検討。17世紀のオランダ・英国の東インド会社の日本関係史料に見られる、鯨油の大量輸出の事例や、日本側の史料のオランダの捕鯨技術の導入に関する記述の検討を通じて示唆した。また、従来の「捕鯨」の研究は、日本や欧米に限られる傾向があり、それが捕鯨研究を特殊な研究分野にとどめていた。日本以外の朝鮮・ベトナムの捕鯨を取りあげて、東アジア地域でも捕鯨は十分検討に値する課題であることを示した。3.捕鯨が、経済のみでなく、社会的文化的にも人々の生活や意識に深く浸透していたことを、岸壁画・神話・文学・鯨絵巻類の検討を通じて、明らかにした。4.捕鯨関連史料の収集作業を通じて、従来地元以外では見過ごされがちであった史料を鯨研究に利用するための環境を整えた。具体的には、壱岐郷土館、鯨賓館ミュージアム(江口文書)、対馬歴史民俗資料館(郡方毎日記)、太地くじらの博物館などの関連史料の目録化や翻刻を行った。
著者
大澤 彩
出版者
法政大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

本研究においては、民法学において現下の課題となっている民法と消費者法の関係につき、消費者契約法による不当条項規制の問題点をその民法による規制との関係をも視野に入れて検討することで、1つの見方を提示した。具体的には、近時の日本の裁判例の分析から、日本同様、消費者保護立法によって不当条項規制が行われているフランス法の制度史研究、さらに不当条項規制の具体的なツールとして期待されている不当条項のリスト化に関するフランスの最新の法改正の動向など、多様な観点からの研究を行った。その成果は、5に掲げる論文や学会報告によって発表した。
著者
香川 眞 佐藤 克繁 八田 正信 天野 栄一
出版者
流通経済大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

北海道ダウン・ザ・テッシ-オ-ペツ調査では、以下の点が観測された。当初、数人の仲間から始まった私的イベントが、その拡大に連れ、公的な色彩を帯び、全国レベルに拡大した。1998年度に全日本大会に成長し、2002年度には北海道新聞の支援の下、4日間で一気に100マイルを下る大規模なイベントに変化してきた。出発は手づくりカナディアンカヌーを製作した仲間という人間関係から始まり、流域地域に戻ってのカヌークラブ設立、個別カヌークラブの長が所属する広域カヌークラブ北海道カナディアンカヌークラブという構造から、当初の人間関係に基づく内実が失われ、現在まさにイベント集団分裂とイベント自体の再構成についての問い直しをしている。また、イベントが大規模になるにつれて、イベント集団と参加者の間に開きが出てきており、イベント集団の一部にはイベント自体の開催を危ぶむ事まで出てきている。これを回避するために、これまでの土着な人間関係のみに基づく集団から、NPO組織へ移行することにより、土着な関係からより強固な組織作りを目指している。また、高齢者・障害者の研究からは、養護学校の学生の修学旅行や、地元NPO法人の試みである「障害者のスポーツフェスティバル」、「障害者の海外旅行」を題材に、高齢者、障害者と健常者間の人間関係、とくに「生活への援助」の視点を超え、「遊びへの援助」の視点が、介助をする健常者、またイベント開催者側に芽生えつつある。
著者
福川 裕徳
出版者
一橋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

平成19年度は,まず,既存研究等の検討および理論的考察に基づいて構築した監査人の外見的独立性への影響要因を分析するためのフレームワークをさらに精緻化した。そこでは,外見的独立性への影響要因として,監査人の態度,リスク要因(脅威),リスク緩和要因(セーフガード)の3つの要因を設定し,それぞれの要因の具体的内容及びそれらの相互関係について明らかにした。さらに,個々の影響要因を検討するのではなく,これらの諸要因が全体としてどのような影響を外見的独立性に対して与えているのかを,構築したフレームワークに基づいて実証的に明らかにするため,当初予定していた研究方法を変更し,外見的独立性を対象とした大規模なアンケート調査(日本会計学会スタディ・グループによって1998年に実施)から得られたデータを用いて共分散構造分析を行った。多母集団分析(市場関係者と監査役)を行った結果,監査(人)(態度),競争の程度(リスク要因),ローテーション(リスク緩和要因),外部環境(リスク緩和要因),規制環境(リスク緩和要因)といった諸要因が外見的独立性に与える影響が明らかとなった。すなわち,監査役については,態度だけでなく,リスク緩和要因も外見的独立性に影響を与えているが,市場関係者については,外見的独立性に影響するのは態度のみであり,リスク緩和要因は影響を与えないことが示された。こうした結果は,監査人の独立性に対する企業外部の監査利用者の知覚は近年の制度改革によって導入された監査人のローテーション制度によって必ずしも改善されない可能性があることを示唆している。これらの分析結果については,近く論文として公表予定である。
著者
今田 洋三 林 公子 岸 文和 梶川 信行 高坂 史朗 浅野 洋
出版者
近畿大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

18世紀は、旧来のメディア構造が大幅に組み替えられ、新しいメディアが続々と創出される時代であった。本研究では、おもに、18世紀における日本経済の中心地であった大阪に焦点を当てて、さまざまな「発信者」と「受信者」の間を媒介するメディアの〈多様性〉と〈多層性〉を、そしてその歴史的な〈変容〉と〈組み替え〉の過程を考察することを試みた。具体的には、先行の出版都市であった京都の圧倒的な力量(仏・儒書・史書・医書等の内典・外典、和文古典類約7000点)に対して、新興都市・大阪が生み出した「大阪(上方)的」なメディアの《新しさ》を、さまざまジャンル(文芸書・実用書・市民的学芸書・戯場書・絵本・一枚刷りなど)において検証することを行なった。研究代表者・今田は、メディアの≪新しさ≫を、出版物の「指示世界」の≪新しさ≫、「著者」と「読者」の≪新しさ≫、そして、両者を統合する〈仲介者〉としての「本屋」の《新しさ》の点で分析することを試み、江戸の須原屋市兵衛と大阪の柏原屋清右衛門を比較することを通して、18世紀における出版事業の革新性を検討した。共同研究者・浅野は、石川五右衛門をめぐるさまざまな伝説を18世紀大阪におけるピカレスク・ロマン(悪漢小説)の生成という観点から検討し、また梶川は、大友皇子の伝承を18世紀の地誌類を手がかりにして考察した。同じく高坂は、ヨーロッパの天文学が本木良永や志筑忠雄といった人物によってどのように受容されたかを検討し、岸は、「各所案内記」や「名所図会」に収められたイメージの分析を通して、18世紀後期における挿絵の〈メディア的性格〉の変容について考察した。また林は、『戯場楽屋図会』の分析を通して、歌舞伎をめぐる情報とメディアについて検討を加えた。
著者
二通 信子 大島 弥生 佐藤 勢紀子 因 京子 山本 富美子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

学術的な論文の論述プロセスを、研究行動の表現としての論文の構成要素の出現情況に着目して分野横断的に分析することによって、分野を超えた論文のタイプの類型化を行った。同時に、論文の各構成要素を形成する表現を抽出した。さらに、レポート・論文の構想段階のプロセスに沿った指導法を提案した。これらの成果をもとに、幅広い分野の学生が、論じる行為への理解を深め、レポート・論文に使われる文型や表現を学ぶための教材(『留学生と日本人学生のためのレポート・論文表現ハンドブック』)を開発した。
著者
中川 諭
出版者
新潟大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本年度は、昨年度の基礎的作業をもとにしてさらに研究を進めた。具体的には、昨年度明らかにした元代における「三国物語」の特徴をふまえた上で、特に「関雲長単刀会」と「桃園結義」の場面を取り上げて、深く考察を行った。まず正史『三国志』にも関連する記述が見られる場面として「関雲長単刀会」を取り上げ、『三国志』・『三国志平話』・「関雲長独赴単刀会」雑劇・『三国志演義』をそれぞれ比較した。その結果、『三国志』呉書「魯粛伝」などの記述が基礎となって、そこから『三国志平話』や「単刀会」雑劇に見られるような物語へと発展していったこと、そして『三国志演義』では『三国志平話』や「単刀会」雑劇に見られる「単刀会」の物語を基礎としながらも、そこに再び正史『三国志』の記述を引用していることが分かった。また『三国志演義』が成立するに当たって参照された歴史書は、従来言われてきたように『十七史詳節』などの通俗歴史書ではなく、正史『三国志』そのものであったことも指摘した。次に『三国志演義』などの三国物語の中ではフィクションとされる(すなわち『三国志』の中に直接的な記述がない)場面として、「桃園結義」の場面を取り上げて考察を行った。その結果、『三国志演義』の「桃園結義」の場面は直接『三国志平話』や「劉関張桃園三結義」雑劇をもとにして書かれたものではなく、宋元の頃に人々に知られていた「桃園結義」の伝説を基礎としながらも、作者が独自のオリジナル性を発揮しようとして書かれていることが明らかになった。また時に必要に応じて歴史書も参照していることも指摘できた。これらの成果をふまえて研究論文を執筆した。まもなく公刊される予定である。