著者
大澤 武司
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

初年度となる平成19年度は、大学院における研究を発展させる基礎を構築すべく、研究の基礎史料となる中華人民共和国外後部档案(公文書)の完全なる調査・収集を目指した。この点については、平成19年8月19日から9月8日までの約3週間、中国北京の中国外交部档案館における調を実施し、その目的をほぼ遂げることができた。また、この期間をはさみ、同年8月から10月までの3ケ月間は、北京大学歴史系客員研究員(受入研究者歴史系主任牛大勇教授)としても研究交流活動を行った。なお、本年度は具体的な研究課題として、(1)戦後初期中国の外交を主宰すると共に、中国の対日「戦犯」処理を指揮した周恩来の日本人「戦犯」認識を明らかにする研究、(2)中国残留日本人の残留過程を実証的に解明する研究、(3)中国の対日「戦犯」処理政策の要ともいえる「一個不殺(一人も処刑しない)」方針の確立過程を解明する研究という三つのテーマを掲げ、いずれも成果があった。まず(1)については、「幻の日本人『戦犯』釈放計画と周恩来」において、周恩来が日本人「戦犯」を外交カードとして認識していたことを中国側公文書に依拠して明らかにした。なお、(1)については、中国の対日「戦犯」処理政策をより詳細に扱った「対日戦犯処理政策与周恩来--相関『領導』的実際情況」を平成20年に中国で公共予定である。次に(2)であるが、まず終戦直後の前期集団引揚について「戦後東アジア地域秩序の再編と中国残留日本人の発生」を公表した。これは総司令部主導の中国地域からの日本人の引揚過程を一次史料に依拠して体系的に解明した成果である。また、(2)については、平成20年に「『ヒト』の移動と国家の論理」(東大出版会より出版予定)という後期集団引揚に関する体系的研究成果も公表予定である。最後に(3)についてだが、前掲の中国語論文「対日戦犯処理政策与周恩来--相関『領導』的実際情況」が一部このテーマに関連しており、これは平成20年度中に日本国内でも公表する予定である。
著者
石塚 英夫
出版者
九州大学
雑誌
法政研究 (ISSN:03872882)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.529-579, 1968-03-20
著者
倉田 玲
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本国憲法第15条第3項には「成年者による普通選挙を保障する」と明記されているが,公職選挙法第11条第1項には「次に掲げる者は,選挙権及び被選挙権を有しない」として,第2号に「禁錮以上の刑に処せられその執行を終るまでの者」を,第3号に「禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)」が列記されており,ここに議会制民主主義の政治過程の根幹に関わる重大な憲法問題がある。この問題の本質を探るため,従来から日本の選挙法の理論と実務にモデルを提供してきたアメリカ合衆国の諸州における同種の問題の構造を実証的に検分してきた。現地の関連訴訟の書類など第1次資料を中心とした文書の収集と整理を進めたとともに,とりわけニュー・ジャージ州立ラトガース大学に設置されている2つの法科大学院の双方を訪問し,カムデン校の州憲法研究所とニューアーク校の憲法訴訟クリニックに属する研究者各位の協力を得て,裁判所に係属中の訴訟の関係者に対する聴取調査を含む現地調査を遂行したことにより,近年では市民的及び政治的権利に関する国際規約に基づく人権委員会の報告書(2006年9月15日),欧州安全保障協力機構の民主制度人権事務所の報告書(2007年3月9日),あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約に基づく人種差別撤廃委員会の報告書(2008年3月5日)など国際機関の文書によっても抜本的な是正が勧告されるまでになった同国における重罪犯の選挙権剥奪が,州権基調の連邦制度を固有の背景としつつ,それを共有しない日本の法制度にも通底する根源的な問題として,破廉恥罪という古典的な概念の歴史的な沿革に由来する要素を核心部分に内包していること解明した。また,現在の世界各国に類例をみないほど広範囲にわたって峻厳な剥奪の実態が看取される合衆国の諸州においては,この種の制度を運用する選挙実務の次元でもマイノリティ集団に属する有権者に対して差別的な効果を及ぼしている重大な過誤が多発していることを検知し,この点についても分析した。
著者
深田 智
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

将来の核融合炉燃料トリチウムサイクルあるいは既存の核分裂炉燃料処理水において大量のトリチウム排水が生じる。法規制値内であれば、そのまま放流できるが、規制値を超える場合、大量の水で希釈する必要がある。しかし、トリチウム濃度が高く、濃縮減容する必要があると、現在では、水-水素同位体交換法が重水減速材製造用に一部実用化されているだけであり、トリチウム排水濃縮に適用するためには、希釈トリチウムの濃縮技術が証明されていないこと、水-水素同位体分離に使用する白金系触媒が高価で、CO被毒の可能性があることなど実用化には多くの課題があり、現実的にそのまま保管貯蔵されているのが現実である。本研究者は、水蒸気吸着処理に用いられるゼオライト系吸着剤あるいはシリカゲルの軽水-トリチウム水間の同位体分離係数が、1.1〜1.2程度であることに着目し、これを連続同位体分離できる蒸留塔分離システムを構築し、より小型で簡便なトリチウム同位体分離システム構築確認の実験をおこなった。本科学研究費計画年度内におこなった、ゼオライト系吸着剤であるモレキュラーシーブ13Xや5A、シリカゲル吸着剤を同位体分離挙動全般について比較すると、ゼオライト系では平衡分離係数は大きいが、吸着と脱着速度が遅く(従ってHETPが大きく)蒸留塔の蒸気速度が遅いときのみ同位体分離が優れるが、同位体収量を上げるため蒸気速度が大きくすると、シリカゲル吸着剤による方が高い分離を示すことが分かった。これまでの研究成果はおもに、英語論文誌に発表した。最終年度であり、成果をまとめて研究成果報告書を完成させ、提出する。
著者
兪 稔生
出版者
長崎ウエスレヤン大学
雑誌
長崎ウエスレヤン大学地域総合研究所研究紀要 (ISSN:13481150)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.35-44, 2006-03-31

アメリカにとって、中国との軍事的最前線が台湾海峡になるか、それとも台湾の東岸の沖合になるかでは相当大きな違いがある。また、中国、香港、台湾が一体となれば、強力な経済力を擁した超大国・中国がアジアに出現し、アメリカの覇権は確実に脅かされる。一方、日本は複雑な日中関係の歴史を背景に、「日本の上に立つ」中国が将来表れることに不快感(嫌中感情)をつのらせ、中国への警戒感が増幅している。したがって、日米両国は台湾の現状維持でも利害が一致しており、国家統一を目指す中国との緊迫した関係が続くことになる。日本では戦後、侵略戦争の責任者の多くが釈放され、政界に復帰したため、今なお中国をはじめとするアジア諸国に対する戦争責任を認めようとしない保守政治が続いている。歴史認識(教科書問題)、靖国神社参拝、台湾問題はその脈絡の中で当然起こるべきして起こった事件である。
著者
尾崎 雅彦 南浦 純一 太田 真 佐々木 裕一 松浦 正己
出版者
公益社団法人日本船舶海洋工学会
雑誌
日本船舶海洋工学会論文集 (ISSN:18803717)
巻号頁・発行日
no.3, pp.87-95, 2006-06

Ocean storage of the captured CO_2 from fossil-fuel burning is a possible option for mitigating the increase of CO_2 concentration in the atmosphere. Moving-ship type of CO_2 ocean storage is a concept whereby captured and liquefied CO_2 is delivered by ship to a site and injected into the deep ocean by means of a pipe suspended beneath a ship as it slowly moves through the water. In case of bad weather conditions, CO_2 marine transport and operation on the sea should be adjourned although CO_2 would be captured at the plant every day. It is, therefore, required that the system would have the buffer storage at the port and the extra shipping ability to recover the delay of schedule. Since the large scale of such spare capability might lead to the increase in cost, it is needed to investigate how to plan the system allowed for weather conditions reasonably. In this study, a time series model of sea state through one year is generated for a hypothetical ocean storage site, based on the wind data observed with satellite remote sensing, and simulations of CO_2 marine transport and operation on the sea are carried out considering the operational limit of sea state. In this approach, the continuing bad weather days or the frequent occurrences of rough sea condition during the specific season are counted automatically. In order to pursue higher efficiency of the operation, side-by-side type and tandem type of moorings are applied for the simulations and compared. Finally, cost assessments under the several assumptions are carried out to see the relative merits among that the number of ships would be increased, that the loading capacity of a ship would be increased, and that the storage capacity at the port would grow, which are generally in trade-off relationships.
著者
澤 悦男
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.1-17, 2001-12-25

この稿は,筆者が2001年1月23日に慶意義塾大学商学会報告会で行ったリポートの内容をまとめたものである。このようなトピックを選んだきっかけは,商学研究科世界銀行プログラムの一環として会計学(Accounting)の授業を担当していたときに,山一証券の倒産劇が起こり,それに関連して当時の日本の企業会計・監査制度を取り巻く環境を"粉飾"することなく留学生に伝えることを試みたことにある。最近の日本における「監査の失敗」と目される事件のいくつかは,山一証券のケースも含めて,1990年代までの日本的会計慣行,日本的監査慣行および日本的裁量行政がその背後要因としてあったことを探るのがこの稿の目的である。一口にいって,数年前まで日本の企業会計および財務諸表監査には次のような特徴が存在したといえる。・商法,証券取引法および法人税法からなる3つの会計法令および関係諸法令は,法人税関係を除き,財務諸表の様式と表示・開示に係る規定は詳細を極めるが,会計処理の基準については大まかでフレキシブルであった。・監査基準および同準則は監査の基本的な考え方を示しているに過ぎず,具体的な監査実務指針(監査基準・手続書)は公表され始めたばかりであり,リスク・アプローチの監査手法は立ち上がりの段階にあった。また,1998年に容認された銀行の保有する株式の評価基準を低価法から原価法に切り替える措置や同年の土地再評価法などに見られるように,政府・行政による企業会計への介入,さらに金融機関等の貸倒引当金設定額や飛ばし行為の幇助的助言などのような業界または企業に対する決算指導が行われていたこも否めない。そして,このような介入や指導を産業界および会計士業界ないし公認会計士がよりどころとする傾向もあった。すなわち,それらを所与の前提として受けとめることにより,独自の判断を回避し,責任を政・官にゆだねることができるからである。最後に,山一証券の監査人に対して破産管財人により損害賠償要求訴訟が起きているが,法廷の場で当該事件の全容が解明され,問題の本質が明らかになることを期待したい。なお,この報告の後に活発な質疑応答があり,多くの僚友から貴重なコメントを頂いたが,紙幅の都合で割愛することをお許し願いたい。
著者
阿川 佐和子 鈴木 真知子 真田 玲子
出版者
文芸春秋
雑誌
文芸春秋
巻号頁・発行日
vol.85, no.8, pp.310-318, 2007-06
著者
日暮 吉延
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本報告書は、占領期における日本人既決戦犯の釈放問題を検討するものである。一般的な理解からすれば、戦犯裁判が終結したことで戦犯問題は解決したと見られるかもしれない。しかし実は戦犯問題は、裁判の終結後、拘禁・減刑といった管理面へと焦点を移したのである。そこで本報告書の目的は、講和条約の発効以前、すなわち日本占領期に時期を限定し、日本人戦犯の釈放がなぜ、どのように実施されたのか、同時期におけるドイツ人戦犯の釈放状況はいかなるものであったのか、講和条約の戦犯条項はいかなる意図と背景のもとに策定されたのか、を明らかにすることに置かれる。まず第一節では、連合国最高司令官総司令部(GHQ)の減刑計画が始動する政治過程を取り上げている。検討の結果、合衆国政府において戦犯の赦免構想は一九四六年頃から存在していたこと、GHQの減刑政策はドイツ占領と連動していたことが明らかとなった。第二節では、GHQがドイツ占領政策の進捗状況を追い越し、1950年3月7日に「回章第五号SCAP Circular No.5」を発することで、減刑のみならず仮釈放も実施していく過程を検討している。さらに、同時期におけるドイツとイタリアをめぐる政策状況を参照し、また内地送還や死刑停止に関する日本側の態様についても分析を加えた。第三節の対象は、対日講和条約第11条(戦犯条項)の形成過程である。初期の構想、草案の微妙な変化の意味等を詳細に分析した結果、日本側が戦犯裁判の判決を受諾する規定の意味、日本側に与えられた「勧告」権限の意味を明らかにした。以上は、先行研究がほとんどない未開拓の分野を一次資料で実証的に解明した研究成果である。
著者
長田 浩彰
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、祖父母の代に3人以上ユダヤ教徒がいたために、第三帝国下でユダヤ人とされた「ユダヤ人キリスト教徒」の動向に関する研究である。ベルリン工科大学反ユダヤ主義研究センターのアルヒーフや、ルートヴィヒスブルク州立文書館の非ナチ化裁判史料などを主に利用して、整理・分析することで、以下の結果を得た。(1)1943年2月末、ベルリンで発生した「ローゼン通り抗議」の実像を分析し、それが神話化されているドイツの現状を確認した。ユダヤ人一斉検挙で連れ去られた混合婚のユダヤ人配偶者の釈放を求めて、ドイツ人配偶者がベルリン・ローゼン通りに集まって抗議することで、前者の釈放を勝ち取ったという経緯は、後に行動が美化されることで生まれた神話であり、実際には、混合婚のユダヤ人配偶者は当初から東部移送の対象ではなかった、という研究者グルーナーの説を、史料から確認した。(2)混合婚夫婦から生まれた子供たちは、混血者として、部分的な迫害の対象となった。ベルリンにおけるヘルムート・クリューガーの事例に関して、彼の手による回顧録を実際の迫害措置と対比して検証した。(3)「ユダヤ人キリスト教徒」の相互扶助団体「パウロ同盟」のシュトゥットガルト支部を率いたエルヴィン・ゴルトマンの行動に関して、特に彼が子どもたちに残した遺稿を分析した。そこから、国外移住を拒絶してドイツに留まり、一方で対ナチ協力を強いられつつも、自身と家族に降りかかる迫害にゴルトマンが耐えた背景には、ナチ・ドイツとは別のドイツに対する彼の祖国愛と、篤いキリスト教信仰があったことを明らかにした。また、この点に関しては、ゴルトマンの対ナチ協力に関する、戦後の非ナチ化裁判史料を分析する中でも確認できた。さらに、裁判史料から次の点も確認できた。初審では、刑事裁判での検事に相当する公訴人側が求めたとおりの「重罪者」評決が出た。控訴審では、当事者ゴルトマン側に有利な供述書が提出されたにもかかわらず、また、公訴人側も第2グループである「有罪者」へと罪状認定を引き下げたにもかかわらず、評決は「重罪者」で動かなかった。「潔白証明書」を発行して非ナチ化を終了させる、という従来の非ナチ化についてのイメージとは逆の、厳しい評決であった。女性の非ナチ化にも見られたように、必要以上に高い倫理・道徳性が、当事者に求められていた。その理由は、裁くドイツ人の側に、第三帝国下でユダヤ人を見殺しにしたという負い目と、「女性的」とも言える「無辜の被害者」という「ユダヤ人イメージ」が存在したことで説明できる。このイメージから外れる「対ナチ協力者」という嫌疑だけで、事実如何の吟味の前に、ゴルトマンは断罪されたのである。ここに、非ナチ化裁判・控訴審の問題性がうかがえた。
著者
高野 修 TAKANO Osamu
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
人間・文化・社会
巻号頁・発行日
pp.497-514, 1997-03-28

訴えの利益は、処分性とならび、取消訴訟の利用可能範囲を画する要件論であることから、現代社会における行政活動-の司法救済のあり方の問題として、さまざまな事件を契機に行政法学において盛んに論じられてきた。学説は、法律上保護されている利益説と法律上保護に値する利益説1)に大別できる。前者は、・裁判実務のとるところであり2)、救済を求めている利益が処分の根拠法律で保護されていることが必要であるとするのに対し、後者は、事実上の利益でも裁判的救済に値するものであればよいとする。理論的な両者の違いもさることながら3)、意味的には明らかに後者が広く、原告適格を拡大することになる。しかし、実際には、法律上保護されている利益が何か、実体法において一義的に明らかに定められているものではなく、ある利益がそれに当たるか否かは、処分の根拠法律や関連法規の解釈作業を通じて判断されなければならない。しかも、その解釈において実務は、解釈基準4)辛考慮要因5)を緩やかにとらえる傾向を示している。その結果、文言上は依然として法律上保護されている利益説をとっているが、実質的には法律上保護に値する利益説をとったとも解されうる判例が出現してきている6)。それだけに、訴えの利益に関しては、学説の理論的検討とは別に、具体事例を検討し、訴えの利益解釈の際に決め手とされている事項等を分析することが、実質的に重要となってきていると言えるだろう。本稿は、このような見地から、履行済ポスト・ノーティス命令に対して取消の訴えの利益を認めたヒノヤタクシー事件を扱うものである。ポスト・ノーティス命令の義務内容を一定期間文書を掲示する作為義務と解する限り、命ぜられた期間掲示をしたことにより命令の効果はなくなったと解せられ、掲示という事実行為も期間の満了により終了していて、取り消すべき対象が無くなっている7)はずである。それにも拘らず訴えの利益が認められた事情を探り、その法的構成を検討することが本稿の目的である。そのため、予備的問題整理の後、行政事件訴訟法9条かっこ書き、「取消によって回復すべき法律上の利益」の判断基準を判例の分析を通して明らかにする。その結論、当該不利益に他の救済手段がないこと、当該不利益が処分と法的当然の関係で結びついていること、からすれば事件は9条かっこ書きの場合に該当しない。次に、ポスト・ノーティス命令の直接の法効果を検討する。結論から言えば、ポスト・ノーティス命令の法効果を単なる文書掲示義務8)ととらえるだけでは足りない。文書内容を加えて検討することが必要であり、文書内容に謝罪や誓約が表明されているとき、掲示が期間の満了で終了しても、そのような文書が掲示されたことが労使関係に重要な意味を残すことは大いにある。かかるポスト・ノーティス命令の実質的意義が認められて、命令権限が定められているのであるから、適法な命令が使用者の名誉や信用を侵害するような場合、受忍義務が権限の前提にされていると構成されねばならない。結局、ポスト・ノーティス命令の義務内容は、履行と期間の満了によって消滅する単なる作為義務にとどまらないで、受命者に生じた名誉や信用の侵害が履行後もなお残っている限りその受忍を義務付けているものと解すべきである。以上が本稿の構成と内容である。
著者
染谷 臣道 WIBAWARTA Bambang
出版者
国際基督教大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

「大逆事件」に連座した関係者の断罪によって日本の民主化は大きく後退することになった。その歴史的経過について、また、「大逆事件」の犠牲者ゆかりの地で展開されている現時点での市民運動について、関連文献と現地調査によって明らかにした。すなわち「大逆事件」に連座した一群の知識人すなわち幸徳秋水については、その生誕地である高知県中村市(現四万十市)で、大石誠之助、高木顕明、峰尾節堂については、和歌山県新宮市、成石平四郎、勘三郎兄弟については和歌山県本宮町、内山愚堂については、和歌山県中辺路町と神奈川県箱根町の林泉寺などを訪れ、関係者にインタビューし、多くの資料を得た。また、「大逆事件」に強い反応を見せた石川啄木ゆかりの岩手県玉山村字渋民、北海道の函館、小樽などを訪れ、彼がたどった足跡を追った。スハルト体制下で弾圧を受けた知識人については、フランスのパリやオランダのアムステルダムやライデンに在住するSimon Sobron Aidit, Ki Budiman, Mintardjo, Usmar Said氏らを訪れ、多くの資料を得た。ジャカルタ、ジョグジャカルタでは、Pramoedya Ananta Toer, Amarzan Loebis, Joko Pekik氏らを訪れ、多くの資料を得た。明治期の日本とスハルト体制下のインドネシアを比較した結果、いわゆる知識人は大きく三つに分類できるのではないかと考えた。すなわち真理を追究し、現世的な関心をもたない知識人(intellectuals)と、政治経済に深く関わろうとした知識人(intelligentsia)とその中間的存在である。それぞれがどのような役割を果たしたのか、を考察した。
著者
茂木 耕作
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

東シナ海、西部熱帯太平洋、インド洋に注目して、夏季モンスーン期の降水系について内部構造、維持過程、その周囲への影響などを調べた。1.東シナ海上における梅雨前線降水系の停滞機構、2.西部熱帯太平洋域における陸風前線降水系の北進メカニズム、3.東シナ海、西部熱帯太平洋、インド洋の降水系周辺における観測データが周囲に及ぼす影響の評価、という主な3項目について解析を進め、領域毎の降水系の特性を明かにした。
著者
横井 一仁 MIOSSEC Sylvain
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

人間型ロボットは,人に類似の形状を有するため,人の生活空間での活躍が期待される.人の生活空間は工場などのように整備された環境ではないため,人間型ロボットの行動を妨げる様々な障害物が存在することが予想される.一方,人間型ロボットは車輪移動型ロボットと異なり,障害物を跨ぎ越えるといった空間を3次元的に利用する障害物回避行動をとることができる.本研究では,人間型ロボットの3次元空間での障害物回避行動計画手法を確立し,人間型ロボットの行動範囲を拡大することを目的とする.平成18年度は,前年度までに得られた研究成果を基に,歩行動作にも関係する足を後ろから前に振り出す動作について検討を行い,人間型ロボットの最適な動作を生成するアルゴリズムを確立した.開発した人間型ロボットの最適な動作を生成するアルゴリズムを用いて最適な動作を生成し,それを人間型ロボットシミュレータOpenHRPに実装し,人間型ロボットHRP-2の計算機モデルを用いた計算機シミュレーションを行い,提案手法により計画された最適な動作の有効性を確認するとともに,産業技術総合研究所の保有する人間型ロボットHRP-2を用いた実験を行い,実験的にも提案手法の有効性を検証した.なお,本研究成果はIEEE International Conference on Robotics, Automation and Mechatronics(RAM2006)にて発表した.また,IEEE International Conference on Robotics and Biomimetics(ROBIO2006)においても研究成果発表を行う予定である.
著者
菅沼 明 笠原 晋 牛 和夫
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.1007-1016, 1996-06-15
被引用文献数
3

日本語文章は単語単位に分割して書かれないために これを機械処理するには まず形態素解析などの文法処理を行うのが普通である.しかし 文法処理を行っても 解が一意に定まらなかったり 解析時間がかかったりする問題がある.そのため 我々は 字面だけの情報で接続助詞「が」や否定表現 受身形などの候補を抽出する方法を構築し それを応用して日本語文章推〓支援ツール『推〓』を開発している.本論文では 簡単な表を利用した字面解析手法を用いて日本語文章中にある活用語の活用形を推定する方法(「活用チェック法」と呼ぶ)について述べる.活用語を語幹と語尾に分け それぞれについて表を設ける.文を後ろから前に遡る方向にスキャンしながら まず語尾の表と比較を行う.その後 語幹の表との比較を行う.語幹に関しては最後の1文字しか評価しない.活用チェック法で使用する表の大きさは32KB程度で これを主記憶に載せたとしても 記憶域を圧迫するものではない.そのため 主記憶容量が小さな計算機であっても主記憶に載せることが可能である.従来の字面抽出法と比較するために 接続助詞「が」と否定表現の抽出に活用チェック法を適用し 抽出精度を比較した.その結果 従来の字面抽出法に比べて適合率が約10%向上した.再現率は100%を保っている.さらに 活用チェック法を使用した抽出法は 従来の抽出法と比較して 抽出に要する時間はほとんど変わらない.Japanese documents are usually analyzed with the grammatical analysis like the morphological analysis. Since this analysis requires much time, we constructed an extraction method with only textual information for the passive voice, the negative expressions, the conjunctive particle "GA," and so on. And we are developing a system of writing tools SUIKOU with the textual analysis method. This paper describes a method to estimate the conjugation of Japanese verbs and adjectives with a textual analysis. We prepare two kinds of tables for a conjugational part and a non-conjugational part of Japanese verbs and adjectives. This method analyzes a Japanese document from tail to head of a sentence with these tables. Using the method, we construct a new extraction method for the conjunctive particle "GA" and the negative expressions. This extraction method guarantees to extract all requested items, but it may extract some unrequested items. The precision of the new extracting method for the conjunctive particle "GA" is above 98%, and is improved by 7% in comparison with that of old one, although the new method is able to extract the conjunctive particle "GA" as fast as old one.
著者
長田 浩彰
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

従来我が国におけるドイツ史研究では、ナチ第二帝国下の対ユダヤ人政策については研究が行われてきたが、それに対するドイツ・ユダヤ人の対応については、あまり関心が向けられてこなかった。本研究は、その点を補うため、今までの同化が否定され、権利が徐々に剥奪されていく当時のドイツにおいて、ドイツ・ユダヤ人がどう対応したのかを分析することで、自身をどう認識していたのかを考察する。例えば、彼らには亡命や移住による出国といった選択も41年まで可能だったが、経済活動からの排除という厳しい措置が実施される直前の38年当初でも、まだ彼らの7割強(33年と比較)がドイツに留まっていた。ここには、第三帝国下でもドイツ国民として、ドイツで生活しようとした彼らの姿勢が想定された。そんな彼らの自己認識を、以下の諸組織の分析から明らかにした。・従来、言動が親ナチ的で否定的な評価を受けてきたユダヤ人青年組織「ドイツ先遣隊」(1933-35)やその指導者シェープスの思想を分析することで、彼らが決してナチズム自体を信奉したのではなく、ナチ政権と保守思想を持つユダヤ人との共存の可能性を模索していたことを明らかにした。・「ドイツ先遣隊」のような小組織だけでなく、ユダヤ系組織のなかで第2位の規模を持つ「ユダヤ人前線兵士全国同盟」(1919-38)もまた、35年の国防法や、ニュルンベルク法まで、ユダヤ人のドイツ社会での生活の存続に尽力した。35年以降は、この組織は、パレスチナ以外後へのユダヤ人移住に尽力することで、自身のドイツ人としての意識の保持に努めようとしたことが明らかとなった。・研究発展のため、ユダヤ人扱いされた「非アーリア人キリスト教徒」の動向の研究史整理をした。
著者
福田 雅章
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は、「事実上の死刑廃止国(州)」(DE FACTO ABOLITI0NIST COUNTORY/STATE)、すなわち刑法典上は死刑を存置している(いた)が現実には死刑を執行していない(いなかった)国(州)のそこに至るプロセスを探り、わが国の死刑執行停止(モラトリアム)へ向けての理論的・政策的提言を行うことにあった。上記目的を達成するため、調査研究を行い、次のような成果を得た。1.海外共同研究者であるRoger Hoodオックスフォード大学教授およびPeter Hodgkinsonウェストミンスター大学教授と調査票を作成し、関係諸国に送信し、回答を得た(成果報告書付録1、2)。事実上の死刑廃止は、実際には凶悪犯罪が発生しないために裁判所で死刑判決が下されないか、または立法府の決議によってもたらされており、わが国の状況に直接参考になるようなものではないことが判明した。2.ヨーロッパおよび東欧諸国の死刑廃止へ向けての動向は、国連のモラトリアム運動を踏まえて、上記Peter Hodgkinson教授と共同研究を行い、その成果を研究報告書に収録した。3.アメリカにおいては、1990年代半ば以降存続派と廃止派が共にモラトリアムへ向けて動いていたが、2000年1月31日にはイリノイ州知事が「今後すべての死刑執行命令書に署名しない」という行政権によるモラトリアムをはじめて実践し、「死刑存続or死刑廃止」というかつての対立構造に代えてモラトリアム運動が隆盛を極めている。このプロセスはわが国の状況に直接参考になるため、モラトリアム運動関係者への訪問インタビューおよび文献によって、論文「アメリカにおけるモラトリアム運動」を執筆し、成果報告書に収めた。4.上記成果を踏まえて、わが国との関連で、「死刑執行停止へ向けての提言」および「わが国の社会文化構造と死刑」の2論文を作成し、成果報告書に収めた。5.上記2、3および4の4論文は、1の具体的なデータ分析および「イギリスにおける死刑廃止のプロセス」を補充して、順次4月以降山梨学院大学法学論集に掲載し、一冊の書物にまとめる予定である。