著者
古橋 眞人 永原 大五 百石 雅哉 大友 透 佐藤 愼一郎 西宮 孝敏 安藤 政克
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.209-214, 2000-03-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
9

症例は39歳男性,元相撲力士で推定体重200kg以上.呼吸困難,全身浮腫を主訴に当院救急外来を受診し,精査加療目的に入院となった.現症では,血圧112/56mmHg,脈拍96/分で整,心雑音聴取せず,全身浮腫を呈し,両下腿には腫脹とチアノーゼおよび潰瘍を認めた.検査では,著しい低O2・高CO2血症を認めたが,評価できる胸部X線像は得られず,心電図では低電位を呈した.経胸壁心エコーでは何も描出されなかったが,経食道心エコーで右房に血栓ともやもやエコーを認め,右心系の拡大と左心系への圧排を呈していたことより,下肢深部静脈血栓症に引き続いた肺血栓塞栓症と診断し,ヘパリンおよびtPA製剤を開始した.一時血液ガスおよび血行動態の改善を認めたが,2日後より瞳孔不同を呈し,その後徐々に血圧も低下し永眠となった.病理所見では,両側肺動脈,肺動脈幹,右室および右房内に連続する血栓を認めた.また,右室肥大および肺動脈粥状硬化症を認め,組織学的には肺内小動脈における中膜平滑筋の肥厚,陳旧性血栓およびその再疎通像を呈し,下肢静脈の遊離血栓による年余にわたる病態と考えられた.著しい肥満体型のために胸部X線像,経胸壁心エコーでは評価できず,肺シンチグラフィ,肺動脈造影やCT・MRI検査などの施行も不可能で,診断および治療効果判定に経食道心エコーが有用であった1例を経験したので報告する.
著者
Taguti Tomoyasu Ohtsuki Katsuya Yamasaki Teruo Kuwano Sonoko Namba Seiichiro
出版者
ACOUSTICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
Acoustical Science and Technology (ISSN:13463969)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.244-251, 2002 (Released:2002-09-01)
参考文献数
17
被引用文献数
2

Tone stopping is the act of ending the vibration of a piano string by the contact of the damper. This paper studies the perceptual effect of tone stopping. Five performances of a music passage were synthesized with piano tones of simulated tone stopping at sound level, i.e., with the tones that were obtained by processing the waveform of a single, sustained tone of a real piano to induce a desired ending profile with the onset portion kept intact. These performances were rated by ten musically trained subjects with the method of paired comparisons on twenty adjectives. The result indicated that: (1) a short plateau followed by a slow decay made the tone reverberating, lustrous, and beautiful, (2) a long plateau followed by a fast decay made the tone sticky, immature, and blunt, and (3) a short plateau followed by a fast decay made the tone tight, sharp, and nimble.
著者
寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.889-896, 2010 (Released:2011-03-01)
参考文献数
26

現代・日本漢方の基盤の一つに「古医方」の思想がある。これは江戸期に中国における復古運動の影響を受けて勃興したが,同時期に起こった文芸復興運動と連動している。この儒教を中心とする革新運動の影響の下に,日本独自の展開がなされた。それは思弁性の排除であり,「親試実験」による実証性の追求であった。本稿では,「古医方」と古義学・古文辞学・古学との関連を総合的に俯瞰し,両者の関連性を明らかにした。

2 0 0 0 OA 乳脂肪の物性

著者
曽根 敏麿
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
油化学 (ISSN:18842003)
巻号頁・発行日
vol.18, no.11, pp.775-782, 1969-11-20 (Released:2009-10-20)
参考文献数
32
著者
関屋 昇
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.139-143, 2001 (Released:2001-12-27)
参考文献数
18
被引用文献数
3 2

歩行開始の運動制御を理解することは、定常歩行と同様に重要である。健常者の歩行開始は、下腿三頭筋の活動低下およびこれに続く前脛骨筋の活動により開始される。これらの筋群の作用による足圧中心の後方移動が起こって、身体が重力に引かれて前方に回転することにより、前方への重心移動が開始される。この基本パターンは年齢に関係なく一定であるが、足圧中心の後方移動は子供や高齢者では小さくなる。また、大人でも子供でも、最初の一歩の終了までに必要な時間は歩行速度には依存せず、生体力学的条件により決定される。パーキンソン病の歩行開始は、振り出し開始までの時間が延長することが特徴的である。
著者
川上 梅
出版者
一般社団法人 日本繊維製品消費科学会
雑誌
繊維製品消費科学 (ISSN:00372072)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.224-233, 2020-03-25 (Released:2020-03-25)
参考文献数
12

1998 年から2018 年までの偶数年11 年分の成人女子の消費者意識(生活価値観,消費,衣食住)に関する計61 項目の肯定率データ(博報堂生活総合研究所による)に主成分分析を適用した結果, 衣に関する消費者意識を3 主成分に集約した.第1 主成分(寄与率35.4%)は若い年齢程高い,年齢差を表す主成分であり,時代差はほとんど認められなかった.第2 主成分(寄与率24.6%)はこだわり意識の強弱を表す主成分で,20 年間,全年齢層で漸減する時代差を表す主成分であり,所謂スローライフからファストライフへの移行を示していた.第3 主成分(寄与率11.9%)はブランド品の良さを評価し,ディスカウントショップでも良いから買いたいと思い,品数が揃っている実店舗までわざわざ買いに行くという意識を表す主成分であった.1998 年には若い年齢層で顕著であったこのバブル期のファッション意識は2008 年頃までに終焉を迎えた.
著者
小高 信彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.349-360, 2013-11-30 (Released:2017-04-28)
参考文献数
71
被引用文献数
2

森林に生息する多くの脊椎動物が立枯れ木や腐朽木に形成される樹洞に依存して生活している。樹洞の生産とその利用を巡る樹洞営巣種間の生物間相互作用を研究する理論的枠組みとして、食物網のアナロジーであるnest web(以下、樹洞営巣網)という見方が提案され、キツツキ類の樹洞提供者としての役割について着目した研究が進展してきた。樹洞営巣網は、食物網にみられるような群集構造の特徴を備えており、構成メンバーにとって必要な資源である樹洞が構成メンバーの一部によって生産され、樹洞の消費者には階層がある(一次樹洞営巣種、二次樹洞営巣種;すなわち樹洞営巣ギルド)。樹洞営巣種の中でも、自ら繁殖のために樹洞を掘ることが出来る一次樹洞営巣種であるキツツキ類が堀った樹洞は、自ら巣穴を掘ることができない二次樹洞営巣種にとって重要な資源として利用される。樹洞の現存量によって個体数を制限される二次樹洞営巣種に対して樹洞を提供する能力を持つことから、キツツキ類は森林生態系の鍵種と考えられている。木材腐朽菌類は、キツツキ類とならんで樹洞を生産する生態系エンジニアとして重要な役割を担っている。腐朽菌類そのものが重要な樹洞生産者であり、また、腐朽菌類による木材の軟化プロセスは、キツツキ類による樹洞生産を促進する。腐朽菌類は、その種によって樹木の腐朽部位(幹や根部など)や、腐朽プロセス(辺材腐朽か心材腐朽など)の特性が異なる。このような腐朽菌類の特性の違いは、キツツキ類の繁殖成功や営巣場所選択にも影響を及ぼす。しかしながら、樹洞の形成や利用を巡る生物間相互作用の研究では、腐朽菌類の種まで同定してその役割が樹洞を利用する脊椎動物の個体や群集に及ぼす影響を明らかにした研究は少ない。本稿では、木材腐朽菌類の樹洞形成における役割に着目して、キツツキ類と樹木、腐朽菌類の三者関係についての一連の研究や、木材腐朽菌類を樹洞営巣網に組み込み、樹洞を利用する脊椎動物群集との関係について議論した初めての研究事例を紹介する。木材腐朽菌類を樹洞営巣網に組み込むことで、樹洞生産の経路が明らかとなり、樹洞を利用する鳥類の分類群と樹洞形成に関わる木材腐朽菌類の対応関係を明らかにすることが可能である。今後、樹洞形成に関わる多様な分類群の生物を視野に入れた樹洞営巣網の構築が期待される。
著者
鈴木 健吾 中野 良平 山口 日出樹 丸田 彩子 中野 長久
出版者
The Society of Powder Technology, Japan
雑誌
粉体工学会誌 (ISSN:03866157)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.728-732, 2013-10-10 (Released:2013-10-18)
参考文献数
8
被引用文献数
4

There is a higher demand for naturally derived organic fillers than for conventional inorganic fillers, which have a greater environmental impact. For example, cellulose is commonly available organic filler ; however its dispersion in the matrix such as polymers may be poor depending on the base material, and it cannot even form a complex. In this study, we focused on paramylon, which is a naturally derived polysaccharide having unique physical properties. Using a universal testing machine EZ Graph-10 kN, we compared the physical properties of a compound containing 100 polypropylene, 20 paramylon, and 5 maleic-acid-modified low-molecular-weight polypropylene resin as a compatibilizer, with a filler-free compound of the same formulation It was found that with increasing paramylon, the maximum point stress and elasticity increased, while the maximum point displacement decreased. This result suggests that paramylon is a novel prospective filler material.
著者
Tomohiro Saito Katsuhiko Tachibana Akira Shimatsu Noriyuki Katsumata Naomi Hizuka Kenji Fujieda Susumu Yokoya Toshiaki Tanaka
出版者
The Japanese Society for Pediatric Endocrinology
雑誌
Clinical Pediatric Endocrinology (ISSN:09185739)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.79-84, 2006 (Released:2006-08-02)
参考文献数
8
被引用文献数
1 3

Accurate and reliable determination of blood growth hormone level is essential in the diagnosis and treatment of short stature children. However, measured levels differed considerably among measurement kits available in Japan until 2003. Therefore, standardization of the measured values was attempted by measuring growth hormone levels in a sample of healthy adult individuals every year using the different kits. A standardization equation was developed for each kit through linear structural relationship with the mean values of the used kits and measured values in each kit as random variables. A Pearson's correlation coefficient between the mean values of all kits and the measured values from each kit was also obtained. Sources for the marked discrepancies amongst the measured values in the different kits were also explored. The obtained values for slopes and intercepts in the equations varied considerably, but the standard values obtained from these equations after the measured values for each kit were transformed into standard values served well as the standard. The standard solutions in the respective measurement kits were found to be the source of variability in the measured values among the kits.
著者
井上 大介
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.244-248, 2020-05-01 (Released:2020-05-01)

人間社会の歴史において犯罪行為が途絶えたことがないのと同様に,サイバー空間における攻撃行為(以下,サイバー攻撃)もまた途絶える気配はなく,むしろ攻撃対象の拡大や攻撃に用いられる技術の高度化が進んでいる。本稿では,ここ数年のサイバー攻撃全般の動向を概観するとともに,サイバー攻撃大規模観測・分析システムNICTER(ニクター)の観測に基づく無差別型サイバー攻撃の動向について詳説し,感染IoT機器の現状とその対策の一つであるNOTICEの取り組みについて紹介する。
著者
亀井 敬子 竹山 宜典
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.189-195, 2014 (Released:2014-05-21)
参考文献数
25

重症急性膵炎は,死亡率が20%に達する重篤な疾患で,感染合併の有無がその生死に大きく関わる.軽症膵炎では予防的抗菌薬は必要なく,重症急性膵炎での予防的抗菌薬投与はImipenemなどのカルバペネム系抗菌薬が推奨されているが,その開始時期,投与期間などは各施設で統一されておらず,抗菌薬の過剰投与により新たに多剤耐性菌や真菌感染を惹起し,治療に難渋するケースもでてきている.現在検討されている抗菌薬使用指針案では,予防的使用において,その投与は最小限とすることを前提とし,最大でも5日間で投与終了,全身投与よりも動注による局所投与を推奨している.予防的使用と治療的使用を使い分け,適正な抗菌薬を使用することにより膵炎の感染合併による重症化の阻止が期待できる.また,経腸栄養などを併用した,至適プロトコールの確立が重要であるが,この課題における今後の進展が切望される.
著者
大須賀 ゆか
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.3-12, 2005-03-20 (Released:2012-10-29)
参考文献数
38
被引用文献数
9 4

【目的】本研究は, 手洗い行動に関係性の強い因子を明らかにし手洗い行動の改善への示唆を得ることを目的とした.【方法】2病院の看護師93名を対象に構成的観察法と自記式質問紙法を実施し, 手洗い行動 (手洗いの実施・手洗いの質) と経験, 教育, 関心, 知識, 忙しさ (看護業務量・スタッフ不足) の関係の有無・関係の強さを探索した.【結果】手洗いの実施には看護業務量, 教育, 経験が影響していた. 手洗いの質には看護業務量とスタッフ不足が影響していた. 手洗いの実施では, 看護業務量の変数である1時間の仕事数が25を超えるとオッズ比は7.75となり, 35を超えると12.99となった (CI. 1.54~39.03, 1.64~102.72). 手洗いの質では, 仕事数が25を超えるとオッズ比は6.86となり, 35を超えると28.52 (CI. 1.43~32.95, 2.43~335.08) となった.【結論】手洗い行動に関係する因子は, 忙しさ, 教育, 経験であり, 手洗い行動を改善するためには, 看護業務の見直しを中心とした忙しさの改善, 擦式手指消毒剤を使用した手洗いの推奨とトレーニング, 感染に関する院内教育の充実の必要性が示唆された.
著者
小泉 寿男 井上 雅裕 大江 信宏 秋山 康智 市村 洋 清尾 克彦
出版者
公益社団法人 日本工学教育協会
雑誌
工学教育 (ISSN:13412167)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1_46-1_53, 2018 (Released:2018-02-04)
参考文献数
16

Application fields of IoT systems are expanding and becoming infrastructure of information society. Therefore, development of human resources to build the IoT system and to develop the application system, and also to take advantage of the application system is expected. For human resource development, it is important to build a prototype system to deepen the understanding of IoT. In this paper, we propose a prototype construction method that can be constructed by students of engineering, agricultural, and literary departments in addition to the department of information system. Furthermore, we propose to realize the IoT education curriculum in each department by using this construction method.
著者
砂田 茂
出版者
The Visualization Society of Japan
雑誌
可視化情報学会誌 (ISSN:09164731)
巻号頁・発行日
vol.30, no.119, pp.4, 2010 (Released:2012-04-14)
参考文献数
50

ホバリング等、低速飛行時における昆虫の大きな空気力発生を説明するため多くの研究が行われ、昆虫の飛行は流体力学の1つのトピックスになった。大きな空気力発生は剥離渦によることが理解され、そのメカニズムは定性的には理解できたと言える。翼の変形や胴体の運動の空気力への影響を考慮し、空気力の大きさを精度良く見積もることが現在の課題であり、数値計算力学が強力なツールとなっている。昆虫の飛行の魅力は大きな空気力だけでなく、高い安定性、機動性にもある。飛行の安定性、機動性を明らかにする研究が最近、始まり、これからの成果が期待される。小型航空機の開発や、大気条件から低レイノルズ数で飛行することになる火星航空機の開発が行われている。これらの飛行性能と昆虫の飛行性能を比較すること、航空機開発の立場から昆虫の飛行を見直すことで、昆虫の飛行の素晴らしさが新たに明らかになるであろう。
著者
桶川 泰
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.93-104, 2007-05-26 (Released:2017-09-22)

恋愛を礼賛する声は明治初期において芽生え、大正期においてより一層勢いを持ち、花が開くようになった。ただよく知られているように、大正期では個人の自由な配偶者選択すら認められていない現実が存在していた。それでは、当時の社会において恋愛は如何にして既存の秩序に訓化させられていたのだろうか。本稿では、恋愛が礼賛されると同時に、既存の秩序との調和を取るのに適した恋愛観・結婚観が大正期、もしくはその次の時代の昭和初期に如何なる形で存在していたのかを分析することでそれらの「問い」を解き明かそうとした。分析の結果、恋愛の情熱的な側面を盲目的なものとして批判し、危険視していく「情熱=衝動的恋愛観」言説を中心にして、恋愛が既存の秩序に訓化させられていた。そうした恋愛観は、まず恋愛には理性が必要であることを強調し、そしてその理性的判断のためには両親の意見や承認が必要であるという論理を生み出していった。またその一方で、そうした恋愛観は一時的な情緒的満足や快楽によって成り立つ恋愛を否定し、恋愛は子孫、民族のために費やさなければならないという論理を生み出すことで「優生結婚」とも結びつきを見せるようになった。