著者
原田 春美 小西 美智子 寺岡 佐和 浦 光博
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.168-181, 2011 (Released:2011-03-08)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

本研究の目的は,支援という枠組みにおける支援者と被支援者との相互作用において専門職支援者が用いた人間関係形成の方法と,その関係形成のプロセスを明らかにすること,さらに,それらを踏まえて,地域の支援の仕組みの望ましい形を提示することである。対象とした支援場面は地域の仕組みづくりであり,そこでの専門職支援者は保健師,被支援者は地域住民とした。データ収集は,市町村に所属する保健師20名を対象として,半構成的面接法を用いて行った。分析は,面接内容の逐語録をデータとし,Modified Grounded Theory Approachを用いて質的・帰納的に行った。分析の結果抽出された37の概念から,【関係づくり前】【内向きの関係づくり】【外向きの関係づくり】【関係の維持と新たな関係開発】【形成された関係の評価】という5つのカテゴリが生成された。ここでの相互作用は,保健師と住民,住民と住民,住民と行政組織や専門職・専門機関等の他者,保健師と他者との関係形成が図られる中で,住民や地域社会の課題を解決するための地域の仕組みを構築しようとする過程であった。また,当初は支援者である保健師が中心となって行っていたことも,関係が形成される中で住民中心へと変化する等,住民をエンパワメントする過程でもあったといえる。人間関係形成と,その形成過程の中で行われる課題解決,住民のエンパワメント,それらの経験の蓄積は,いずれも円環的に結ばれていたと考えられる。
著者
増田 聡
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.22-34, 1997-11-30 (Released:2009-10-29)
参考文献数
9

In popular music, the concept of “musical work” is different from that of so-called “classical” music (western art music in the modern era). As music copyright shows, however, there are a number of discourses in which popular music is understood in the paradigm of “classical” musical works.In this paper, by analyzing general discourses about popular music on a semiotic framework based on the theory of Joseph Margolis, the auther considers what logical structure maintains and produces the identity of the concept of musical works in popular music, and explains the difference from the concept of “classical” music. Then the auther discusses that the alternation of “musical work” has been generated from a new relation between musical practices and reproduction technology such as recording media.
著者
Masanori MORISE Fumiya YOKOMORI Kenji OZAWA
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE Transactions on Information and Systems (ISSN:09168532)
巻号頁・発行日
vol.E99.D, no.7, pp.1877-1884, 2016-07-01 (Released:2016-07-01)
参考文献数
38
被引用文献数
91 571

A vocoder-based speech synthesis system, named WORLD, was developed in an effort to improve the sound quality of real-time applications using speech. Speech analysis, manipulation, and synthesis on the basis of vocoders are used in various kinds of speech research. Although several high-quality speech synthesis systems have been developed, real-time processing has been difficult with them because of their high computational costs. This new speech synthesis system has not only sound quality but also quick processing. It consists of three analysis algorithms and one synthesis algorithm proposed in our previous research. The effectiveness of the system was evaluated by comparing its output with against natural speech including consonants. Its processing speed was also compared with those of conventional systems. The results showed that WORLD was superior to the other systems in terms of both sound quality and processing speed. In particular, it was over ten times faster than the conventional systems, and the real time factor (RTF) indicated that it was fast enough for real-time processing.
著者
ボネア アメリア
出版者
日本南アジア学会
雑誌
南アジア研究 (ISSN:09155643)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.25, pp.128-151, 2013-12-15 (Released:2014-07-28)
参考文献数
50

植民地期インドにおける新聞に関する研究は数多いが、新聞と通信技術のかかわりに焦点をあてた研究は僅かしかない。しかし、19世紀に実用化した蒸気船や電信は新聞の発達過程において大きな意味をもっていた。特に電信は、時間・距離・空間を越える技術として注目を浴びた。電信ネットワークの構築と拡張によって、インド亜大陸内だけでなく、イギリスとインド、ヨーロッパとアジアの間の情報交換はスピード化され、インドにおけるニュース報道にも変化がみられるようになった。本稿は、電信ルートの開設と普及を明らかにした上で、19世紀インドで刊行された英語新聞をいくつか取り上げ、インド新聞史における技術の意味と役割について検討する。
著者
有冨 孝一 上坂 克巳 柴崎 亮介
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F (ISSN:18806074)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.623-634, 2010 (Released:2010-12-20)
参考文献数
56

図面による土木構造物のモデル化は,寸法値により設計意図を適切に表現できる.しかし,図面上の座標値は,表現できる精度が用紙の大きさにより制約を受けるので,実寸大の座標値を正確に再現できない.また,平面直角座標系による座標値は地球の曲率による縮尺補正,標高差による投影補正が必要である.しかし,これらの補正では1万分の1の精度までしか補正できず,標高軸が現場の標高軸と異なる.  本研究は,土木構造物の3次元設計モデルを,地球を3次元多様体空間と仮定し,任意の地点で地表の水平面が重力方向の方向軸と鉛直な3次元直交座標系を使用でき,設計長と実測延長と比較検証して一致することを示した.
著者
安西 晋二
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.95-107, 2013-11-15 (Released:2017-06-01)

「十九世紀的リアリズムの否定」と評価されてきた太宰治「女の決闘」(「月刊文章」昭和15・1〜6)の研究史を繙き、その源泉を探っていくと、そこには、この作品が内包する同時代の文学的状況との接点がある。特に森鴎外の存在は、近代小説におけるリアリズムの方法と言表行為主体<私>をめぐる昭和一〇年代の言説編成とを、「女の決闘」の方法論につなぐ楔となっていた。また、発表媒体である「月刊文章」との連動も、<私>の造型において同時期の私小説言説が意識されていたことを示す。つまり、「女の決闘」は、近代小説の機構や同時代の文学状況を批評し、小説化するという、文学史に対するパロディの視線をもった作品だと考えられるのである。
著者
松本 純一
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
no.12, pp.29-38, 2004-03-15

近年日本語の話し言葉でよく聞かれる「~円からお預かりします」という言い回しに関して,その表現の成立と存在意義について,生成文法を始めとする理論言語学及び普遍文法の観点から考察する。結論として,この表現は本来助詞が存在しなくてよい部分に,丁寧さを高めるために日本語におけるデフォールトな後置詞「から」が挿入されたものであるという説明を提案する。この結論を支持する根拠として,現代日本語文法論における構造格と内在格との区別・日本語の後置詞「から」が持つ独自の性質・他言語における格体系・英語におけるデフォールトな前置詞などの言語現象を取り上げる。
著者
木村 容子 清水 悟 杵渕 彰 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.147-153, 2010 (Released:2010-07-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1 3

緒言:大柴胡湯が有効な全身倦怠感や易疲労感の患者タイプを多変量解析により検討した。対象と方法:全身倦怠感や易疲労感を訴え,随証治療にて大柴胡湯を投与した患者53名を対象とした。随伴症状,体質傾向,舌所見,腹部所見,年齢,性別,身長,体重,高血圧・高脂血症・糖尿病の有無,さらに,1カ月後の胸脇苦満の改善の有無を加えた計46項目を説明変数とし,全身倦怠感や易疲労感の改善の有無を目的変数として,多次元クロス表分析により最適な説明変数とその組み合わせを検討した。結果:大柴胡湯によって全身倦怠感や易疲労感を改善できる患者タイプは,「発汗」,「のぼせ」,「喉のつまり感」,「胸の圧迫感」などの自覚症状を伴う人であった。特に,発汗の症状があって治療後に胸脇苦満が軽減する場合に,大柴胡湯による全身倦怠感や易疲労感の改善が最も関連する結果となった。考察:「喉のつまり感」や「胸の圧迫感」などの気うつが背景にあると推測された。発汗は頭を含めた上半身に多い傾向があり,また,大柴胡湯による全身倦怠感や易疲労感の改善は,初診時の胸脇苦満の部位(右,左,両方)よりもむしろ治療後に胸脇苦満の軽減を認める人に認められやすいと考えられた。
著者
鈴木 貞美
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
no.2, pp.139-170, 1990-03-10

文芸作品を研究の対象とし、また他の分野の研究の素材として用いるに際して、不可欠なのは、作品を作品として対象化する態度の確立である。かかる態度の端緒は、時枝誠記『国語学原論』によって開かれているが、その基本は、言語を人間の活動性において把握しようとする立場にある。この活動論的契機を芸術一般論に導入し、作品を作家の主観へ還元する近代人格主義的芸術観を批判しつつ、芸術活動の本質をなすものは、虚構を美的鑑賞の対象として扱う鑑賞的態度であると仮定する。次に、時枝言語論を芸術論へと拡張し、表現を認識の逆過程とする三浦つとむ「表現過程論」を批判的媒介とすることで、芸術活動の目的が鑑賞者の美的規範に働きかけるものであること、作品制作過程に「作者と鑑賞者の相互転換」の運動が成立していること、及びその運動の成立する"表現の場所"における転換構造の分析を行う。さらには時枝言語論、吉本隆明『言語において美とは何か』の根本概念について活動論的な検討を加えて、文芸表現活動の特質が、芸術活動と言語活動の二重性をもつ以上、作品を作品として対象化する態度の基本は、その虚構性と文体性を結合する表現主体の「方法」の把握にあると主張する。
著者
吉村 彰史
出版者
立正大学
巻号頁・発行日
2014
著者
大石 眞
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.7-16, 2006-12-10 (Released:2019-03-18)
参考文献数
29

内閣の補助機関である内閣法制局は,「国制知」の有力な担い手であり,明治憲法時代から第2次世界大戦後の憲法・憲法附属法などの制定過程を経て今日にいたるまで,人事を含むさまざまな形で国政秩序の形成,運用に寄与する機能を果たしている。法制局の所掌事務は,主として法令案の審査を行う審査事務と法律問題に関する意見事務とに分かれるが,法律問題に関する国会答弁・政府統一見解の作成も,その重要な職務の1つに数えられる。法制局の審査事務は,内閣提出法案・政令案を合せると,年間平均して650件に及んでいるが,とくに各省庁が立案する内閣提出法案については,国民の権利義務との関係を含む憲法適合性や法体系全体との整合性などの観点から厳しい審査が行われる。憲法訴訟において法律が違憲とされる事例が少ないのは,その当然の結果である。他方,かつて意見事務の主要な部分を占めていたのは,法令の解釈問題に関する各省庁からの照会に対して文書で回答する法制意見であり,政府・行政部内では最高裁判所の判例に準ずる機能をもち,その意味で国政秩序の形成・運用に大きな貢献をしてきた。しかし,戦後法制の定着・国会審議の活性化・憲法裁判例の増加といった状況を背景として,法制意見は減少し,代わって口頭意見回答が増加している。法制局が所掌事務を行うに当たって,学界等の権威者から助言と協力を受けるため,1960年以来,参与会の制度が設けられているが,その実質的影響力などは未だよくわからない。