著者
岸 啓子
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

『平均律クラヴィア曲集I』にバッハが想定した音律について、資料および和音の協和の観点から考察した。表紙唐草は24長短調を網羅した音楽史上初の曲集をライプツィッヒトマス教会カントル職への応募作品として提出するにあたり、不適切な調律での試奏による作品評価の低下を回避するため、最適調律法(バッハ音律)を自ら表紙に記したものである。彼は音楽史上画期的な全調構成のみならずその演奏に最適な調律をも提示することで、自身の総合的能力を示したと考えられる。完全5度の唸りの数を聴くことは調律の基本プロセスであるが、5度の唸り状態を丸の数(1~3重)で示すと共に、装飾を兼ねて唐草模様風図示した点は独特である。
著者
重石 光弘 浪平 隆男
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

福島第一原子力発電所での事故に関連して放射性汚染コンクリートが発生し、将来の原子力発電所の廃炉による大量の放射性コンクリート廃棄物の発生が懸念される。床や壁の様な平らなコンクリートの除染は従来技術で可能だが、汚染した破片の除染の技術を明確でない。本研究では福島原発事故で発生した放射性コンクリートの除染を行うためのパルス放電技術の適用性を評価した。パルスパワー放電法を用いた骨材リサイクル技術を適用したコンクリートの除染は、分離回収された骨材の放射能濃度の減少とスラッジ中の放射能濃度の増加を示した。この事実は、汚染コンクリートの骨材とスラッジへの分離が放射性物質の除染と減容の可能性を示唆している。
著者
牧野 能士 熊野 岳
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

石垣島においてヤエヤマサソリ、青森県浅虫においてウミグモのサンプリングし、研究室・飼育施設にて飼育を行う。再生過程を観察するため、幼体を対象とした胴体の切断を実施する。胴体切断後、切断部の再生過程を顕微鏡で毎日同時刻に観察する。特に、脱皮時において再生芽様な組織が観察されるか注視する。ウミグモとサソリの胴体を切断前後の遺伝子発現比較解析を行い、再生過程においてHRJDの発現量上昇が誘導されるか調査するとともに、ウミグモとサソリ再生過程で発現量が変動する再生関連遺伝子候補を網羅的に同定する。
著者
杉尾 一
出版者
上智大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2017-08-25

本研究では、ボーアによる認識論的量子解釈の立場から物理量概念を分析することで、物理量を実在の要素とみなすのではなく、物理的対象を分節し、理解するための認識の枠組みという認識論的解釈を提示した。そして、近年、論争となっている弱測定による弱値の物理的解釈を認識論的に行い、参照枠としての量子系に依存する物理量とみなす解釈を提示した。言い換えるなら、物理量とその値は、観測者が設定した参照枠としての物理系に依存しており、属性というよりも、私たちが参照枠を通して入手可能な情報と考えることができることを示した。
著者
加藤 邦彦 宮崎 真素美 疋田 雅昭
出版者
佛教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、「戦後詩の第二世代」と呼ばれる詩人たちの活動を支えた詩雑誌、「詩学」「現代詩」「ユリイカ」を中心に、昭和30年代の詩について研究する。戦後詩の第二世代は、批評の方面では非常に多く取り上げられているものの、研究としてはまだほとんど進んでいない。そこで、「詩壇ジャーナリズムの第一期」を形成した上記3誌に注目することで、(1)戦後詩の第二世代の特質およびその形成過程、(2)昭和30年代の詩の展開が雑誌メディアによって誘導され、かたちづくられたものであることを明らかにする。
著者
新井 紀子
出版者
国立情報学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

コンピュータサイエンスにおいて、最も中心的な問いのひとつが、与えられた関数(グラフ)を計算するための最も効率のよいアルゴリズムは何か?と言う問題である。これは、ひとつには「P=?NP」問題に集約される。この課題に対して、ロジックからのアプローチとしては、次の2つが考えられる1.与えられた命題論理の体系に対し、その体系では多項式サイズの証明が存在しないような定理群を発見する2.与えられた2つの命題論理の体系が相対的にどちらの方が証明効率がよいか本研究においては、タブロー法とレゾリューション法の証明の複雑さに関して研究を進めた。この2つの体系は、多くの自動証明機のエンジンとして採用されていることを追記しておく。その結果、1970年代から未解決であった、さまざまなタブロー法のバリエーション間の相対的証明効率の問題を完全解決した。まず、自動証明機のエンジンとして最も採用されているclausal tableauというタブローは一般的なタブローに比べて、superpolynomial-timeな遅延があることを発見した。また、resolution法はタブロー法に比べてexponentialのスピードアップがあると信じられてきたが、それは誤りであり、resolution法はタブロー法に比べて、擬似多項式時間分しかスピードアップしないことを論理的に証明した。一方、本研究においては、clausal tableau法にシンメトリーという推論を付け加えることによって、新しい体系SCRを構築し、その証明力についてさまざまに考察した。結果、resolutionでは短く証明できない多くの組み合わせ論的な問題がSCRでは多項式サイズの証明があることがわかった。SCRはタブロー法をベースとしているため、自動証明に応用することができ、これをGodzillaという自動証明機として実現した。
著者
藤田 郁尚
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

アルミニウムの状態の違いによる侵害受容性TRPチャネルであるTRPV1、TRPA1への影響をパッチクランプ法及びカルシウムイメージング法によって確認し、アルミニウムイオンがTRPV1、TRPA1の活性抑制効果を示すことを明らかにした。また、また、pH4、6、7.4の条件において硫 酸アルミニウムカリウムのTRPV1、A1の抑制効果を調べたところ、酸性pHにおいて観察される高い抑制効果は中性pHでは減弱するものの、中性条件においても抑 制効果を確認することが出来た。更に、ヒト被験者への硫酸アルミニウムカリウム水溶液(酸性pH)を毎日一回の使用を一ヶ月続けた結果、皮膚水分量の上昇が確認された。
著者
大島 健司
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

がん細胞は、自身の生存に有利になるように、正常組織とは全く異なる代謝動態を獲得していることが知られており、がん特異的な代謝経路の同定とそれを標的とした治療法の開発が近年試みられている。我々は中枢神経系でのみ機能が明らかにされていたセリンラセマーゼという代謝酵素が、大腸がんにおいてL-セリンからピルビン酸を産生する新たながん代謝経路を担い、がん細胞の増殖を促進することを明らかにした。そして、セリンラセマーゼ阻害剤が大腸がん細胞の増殖を抑制し、さらには従来の抗癌剤である5-フルオロウラシルとの併用で大腸がん細胞の増殖を顕著に抑制することを明らかにした。
著者
山下 利佳 黒木 唯文 江越 貴文 小関 優作
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

Candida albicansに対して抗菌効果を有する植物精油の義歯用歯磨剤への応用について検討した。ティートゥリーオイル(TO)とレモングラス(LE)を使用し,床用レジンに付着したバイオフィルムに対する除去効果について調べた結果,1.0%TO,0.5%LEおよび1.0%LEの義歯清掃への利用は,C.albicans バイオフィルムの除去に有効であることが示唆された。また,これらの精油溶液を用いて磨耗試験を行った結果,水のみでのブラッシングよりも,精油を使用した方が表面粗さは小さかった。以上より,精油は義歯清掃に有効である可能性が示唆された。
著者
斉藤 豪 鳥越 俊彦
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では3次元培養から得られたSphere細胞よりRNAを回収し、がん幹細胞関連遺伝子を定量的RT-PCRにて解析した。得られた候補cDNAより子宮頸癌により特異的に発現しているcDNAをピックアップして以後の実験に用いた。さらにcDNA産物をターゲットとして研究を進め、これらの蛋白の塩基配列からHLA-A24結合モチーフを持つペプチドを合成した。これらを用いて特異的な細胞障害性T細胞による癌免疫を誘導しうるエピトープを検索しこの一部が末梢血単核球のうちCD8-細胞をPHA刺激により抗原提示細胞であるPHA blastに誘導し、特異的なCTLの誘導することが明らかになった。
著者
本間 希樹 笹田 真人 池田 思朗
出版者
国立天文台
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2019-10-07

人類史上初めて巨大ブラックホールの影を静止画で捉えたEHT(Event Horizon Telescope)による観測的研究を発展させ、さらなる観測データの蓄積と画像解析方法の向上により画像に時間軸を導入した動画撮影を目指す。それによって、ブラックホール周辺で起こるガスの運動やジェットの放出現象などさまざまな物理現象の時間変動を捉え、ブラックホールおよびその周辺の動的な姿を明らかにする。
著者
縣 和一
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

平成6年度においては,水上栽培技術の基本となる筏の素材,栽植密度,肥料の種類と施肥量などについて検討し,標準となる基本技術を確立した.また水上栽培に適する種の選定を30種の植物を対象に行った.その結果,カンナとシュロガヤツリが生育旺盛で水上栽培に最適であることがわかった.この2種のバイオマス量および窒素分析値から求めた水中からの窒素収奪量は大きく,水質浄化効果の高いことが立証された.次にコムギとイネで施肥量とバイオマス,収量との関係を実験した結果,コムギ,イネとも水上栽培区は無栽培区に比べて水中のNO3-N,NH4-N,全リン濃度が低く,CODは水上栽培区で顕著に減少することが明らかになった.平成7年度は,平成6年度の結果から明らかになった水上栽培に適するカンナ,シュロガヤツリの2種を対象に水上栽培におけるバイオマス量,水質浄化能を土耕栽培と比較した.またカンナを対象に生長解析,光合成測定を行い水上栽培植物の特性を明らかにした.さらに数種植物の根の組織構造を土耕栽培と比較した.その結果,(1)カンナ,シュロガヤツリとも土耕栽培に比べて水上栽培ではバイオマス生産が顕著でカンナで4倍,シュロガヤツリで5倍の値が得られた.植物体の窒素分析から窒素含有率とバイオマス量を乗じた両植物の水中からの窒素収奪量は大きく水質浄化能の高いことが明らかになった.特に,シュロガヤツリは窒素以外にリン,カリの含有率が高く,水中からのリン,カリの収奪量が顕著で両成分のエリミイネーターになることが判明した.(2)水上栽培したカンナの高いバイオマス生産は面積生産速度の大きいことに加えて単位葉面積当たり乾物生産速度(NAR)が高いこと,高いNARは光合成速度が水上栽培カンナで大きいこと,さらに高い光合成速度は気孔を介してのCO2拡散系と葉肉組織における高いCO2固定能力にあることが要因解析から明らかになった.(3)水上栽培植物は土耕栽培植物に比べて根の破生組織がよく発達する傾向がみられたが,これには種間差がみられ,双子葉植物に比べて単子葉植物で発達が著しかった.また破生組織の発達と根の比重との間に高い相関関係がみられた.
著者
武田 克浩 佐々木 慎也
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

脳由来神経栄養因子(BDNF)は非外科的歯周治療と併用することで、過度の炎症を抑制し、セメント質や歯周靭帯、歯槽骨などの歯周組織の再生を促進することが示唆された。また、in vivoで認められた炎症制御の機序の一端として、BDNFがマクロファージの活性に及ぼす作用が考えられた。すなわち、BDNFはマクロファージの貪食能を亢進させることで創傷治癒の初期に起炎物質の排除を促進し、歯周組織再生の促進に寄与している可能性が示唆された。
著者
西藤 清秀 吉村 和昭 岡崎 健治 篠田 謙一 米田 穣 吉村 和久 板橋 悠 阿部 善也
出版者
奈良県立橿原考古学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2022-04-01

2022年度から2025年度にマカバ1号墳のできるだけ多くの石室の調査を実施し、副葬品の考古学的分析、人骨の人類学的分析や理化学分析を通して被葬者の人体的特性や集団構成、食性、出生地の同定を行う。またマカバ第1号墳の被葬者との特性の比較を行うために、1号墳の隣接地に所在するマカバ古墳群東地区の古墳を調査し、1号墳と同様の分析を実施する。最終年度の2026年には補足調査・分析を行い、結果をまとめる。
著者
山崎 奈穂
出版者
国立研究開発法人国立国際医療研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

B細胞亜集団である制御性B細胞はIL-10産生を介して強い抗炎症機能を持つが、IL-10産生機構のその全貌は不明であった。申請者は、IL-10レポーターマウスを用いて、IgM+形質細胞がIL-10の主な産生源であることを見出した。また、B細胞におけるIl10の発現は形質細胞分化の必須分子であるBlimp1と強く相関し、遺伝子導入実験からBlimp1がIl10の発現を誘導することを明らかにした。また、IL-10産生性形質細胞は、B細胞が抗原刺激を受けた際にIgG+形質細胞へ分化する過程および抗原特異的IgGの産生をサポートする機能を持つことが示唆された。
著者
河西 秀哉
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

象徴天皇制においてメディアの影響力は大きい。その関係性は切っても切れないものである。これまで、新聞や雑誌などとの関係性は研究されてきたが、戦後のテレビに関するものは未だ対象となっていなかった。本研究では、1959年10月より開始された「皇室アルバム」を中心とする、象徴天皇制を伝えるテレビ番組に関する史料調査を通じて、象徴天皇制とメディアの関係性を歴史的に検討する。こうした番組を製作した人々や伝えられる天皇側(宮内庁)などの関係者などへの聞き取りも行い、その意図についても明確化する。
著者
福 康二郎
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

過酸化水素(H2O2)を利用した環境調和型物質変換反応系の実現を目指し、『光触媒的なH2O2製造』と『H2O2を利用した有機合成反応』について、低環境負荷な触媒反応(プロセス)を実現するための設計指針を得ることを目的とした。主には次の項目を検討することで、上記反応系の発展に貢献し得る触媒設計指針が得られた。『(1)Pd-BiVO4光触媒を利用した酸素からのH2O2製造』、『(2)アルカリ土類金属酸化物で修飾したBiVO4光アノード上での水からのH2O2製造』、『(3)無機アニオンを固定化した層状複水酸化物触媒によるスルフィド酸化反応』、『(4)BiVO4熱-光触媒を利用したオレフィン酸化反応』
著者
今田 弓女 森本 元 松井 健二 井上 侑哉
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

森林生態系におけるコケの役割はほとんど未知である。だが長年の研究から、コケはかつて信じられていたよりも多様な節足動物や鳥類と深く関わり、足元に"未知生態系"を形成していることが分かってきた。本研究は、コケが多様な動物といかに相互作用しつつ適応進化してきたかにせまる。さまざまな空間スケールと栄養段階を横断し、地表付近でおこなわれる胞子の形成や樹幹に着生する種の受精といった、コケの繁殖や分散などの重要な側面における動物との関係を突き止める。さらに、色や匂いによるコミュニケーションといったコケと動物との相互作用を仲立ちする機構を解き明かす。
著者
戸塚 護
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

過剰な免疫応答を負に制御する制御性B細胞の分化誘導・活性化を促進するフラボノイドを検索する実験系を構築し、ケンフェロールおよびタマリキセチンがリポ多糖存在下でマウスB細胞のインターロイキン10産生制御性B細胞を増加させることを見出した。ケンフェロールをマウスに経口投与することで、脾臓および腸間膜リンパ節において制御性B細胞を増加させた。両フラボノイドは芳香族炭化水素受容体のアンタゴニストとしての機能があり、この活性が制御性B細胞の誘導・活性化に寄与している可能性が示唆された。本研究は制御性B細胞の誘導・活性化を標的とした新たな抗アレルギー、抗炎症食品の開発原理を示した。
著者
狩野 方伸
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2021-04-05

小脳の障害が自閉スペクトラム症や統合失調症の発症に関わるという多くの報告があるが、発達期小脳のシナプス刈り込みの異常とこれらの精神神経疾患との関連は不明である。本研究では、これらの精神疾患の関連遺伝子をプルキンエ細胞特異的に欠損させたマウスを対象に、発達期小脳の登上線維シナプス刈り込み、前頭前野のシナプス伝達、精神疾患関連行動を精査し、さらに、プルキンエ細胞の活動を変調してシナプス刈り込みを正常化した場合の効果を解析する。これらにより、発達期小脳の登上線維シナプス刈り込みの異常な亢進や障害が、如何にして前頭前野のシナプス機能に永続的な影響を及ぼし、精神疾患類似の行動異常を起こすのかを追及する。