- 著者
-
縣 和一
- 出版者
- 九州大学
- 雑誌
- 一般研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 1994
平成6年度においては,水上栽培技術の基本となる筏の素材,栽植密度,肥料の種類と施肥量などについて検討し,標準となる基本技術を確立した.また水上栽培に適する種の選定を30種の植物を対象に行った.その結果,カンナとシュロガヤツリが生育旺盛で水上栽培に最適であることがわかった.この2種のバイオマス量および窒素分析値から求めた水中からの窒素収奪量は大きく,水質浄化効果の高いことが立証された.次にコムギとイネで施肥量とバイオマス,収量との関係を実験した結果,コムギ,イネとも水上栽培区は無栽培区に比べて水中のNO3-N,NH4-N,全リン濃度が低く,CODは水上栽培区で顕著に減少することが明らかになった.平成7年度は,平成6年度の結果から明らかになった水上栽培に適するカンナ,シュロガヤツリの2種を対象に水上栽培におけるバイオマス量,水質浄化能を土耕栽培と比較した.またカンナを対象に生長解析,光合成測定を行い水上栽培植物の特性を明らかにした.さらに数種植物の根の組織構造を土耕栽培と比較した.その結果,(1)カンナ,シュロガヤツリとも土耕栽培に比べて水上栽培ではバイオマス生産が顕著でカンナで4倍,シュロガヤツリで5倍の値が得られた.植物体の窒素分析から窒素含有率とバイオマス量を乗じた両植物の水中からの窒素収奪量は大きく水質浄化能の高いことが明らかになった.特に,シュロガヤツリは窒素以外にリン,カリの含有率が高く,水中からのリン,カリの収奪量が顕著で両成分のエリミイネーターになることが判明した.(2)水上栽培したカンナの高いバイオマス生産は面積生産速度の大きいことに加えて単位葉面積当たり乾物生産速度(NAR)が高いこと,高いNARは光合成速度が水上栽培カンナで大きいこと,さらに高い光合成速度は気孔を介してのCO2拡散系と葉肉組織における高いCO2固定能力にあることが要因解析から明らかになった.(3)水上栽培植物は土耕栽培植物に比べて根の破生組織がよく発達する傾向がみられたが,これには種間差がみられ,双子葉植物に比べて単子葉植物で発達が著しかった.また破生組織の発達と根の比重との間に高い相関関係がみられた.