著者
宇野 功一
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.121, pp.45-104, 2005-03-25

近世博多の祭礼祇園山笠を例に、祭礼費用の増加過程と、その結果として生じた祭礼費用徴収法の変更および祭礼費用負担者層の拡大の諸相について明らかにした。分析対象は行町と片土居町という二つの町である。祇園山笠には二つの当番、山笠当番と能当番があった。本稿ではおもに、より重要でより多額の費用を要する山笠当番について論じた。この当番は数年に一度または十数年に一度だけ各町に巡って来たので、各町はこの間に多額の当番費用を準備することができた。そのためこの祭礼は徐々に豪華になっていった。しかし江戸後期になると当番費用が高騰し、豊かでない町では当番費用の徴収法に工夫を凝らすことになった。分析した二町の例から、当番費用負担者層と当番運営者層が町内の表店に居住する全世帯に拡大していく過程が観察された。とりわけ幕末の片土居町ではこの拡大が極限にまで達していた。つまりこの町では居付地主・地借・店借の別なく町内の表店全世帯に同額の当番費用が割り振られており、当番運営においても原則的には表店の全世帯主が平等に参加していたようである。また、その内容は異なるものの、両町とも町中抱の家屋敷を利用することで当番費用の一部を捻出していた。特異な祭礼運営仕法によって祭礼費用が高くなりすぎた結果、祭礼費用にかんして徴収法の変更と負担者層の拡大がなされ、それに伴い祭礼運営者層も拡大した、という一例を示した。
著者
八田 達夫
巻号頁・発行日
2014-03

本報告は,北九州市の発展のために最も必要とされている国の規制改革を選択する事を目的としている。このため,まず,北九州の飛躍的な発展のためには,北九州空港を活性化し,北九州市を支店都市として復活させることが鍵であることを示す。その上で,北九州空港を活性化するために必要な 3 項目の国の規制改革を明らかにする。高度成長期以降,全国の中枢都市のほとんどが人口を伸ばした。しかし鉄道時代から航空時代に転換した時点で,ジェット機対応空港を持っていなかった北九州市の人口は,例外的に縮小した。それに対して,ジェット機対応空港を持つ福岡市は,中枢都市としての自然な発展を遂げた。しかし福岡空港の混雑が限度に達している。滑走路 1 本当たりの発着数は,すでに日本一である。10 年後に発着数を約 30%増大する滑走路の増設工事が予定されているが,それ以上の増設は地形的に見込めない。ところが博多駅から小倉駅を経由して 25 分で到着できるようになる北九州空港を活用することによって,福岡市は今後も伸び続けていける。一方,北九州市はこの空港の発展によって,支店都市としての機能を回復できる。北九州空港の利用者数を大きく増加させるために必要な方法は,①24 時間空港である北九州空港の夜間使用の活性化のための夜間空港使用料の引き下げ,②北九州空港・福岡市間を直結する高速バス定期便導入語バス会社間の競争促進によるバス料金の抑制,③小倉駅・北九州空根間の新幹線建設と博多駅・小倉駅間の新幹線特急料金の引き下げである。次に,この観点から,北九州空港活用のために有用な規制改革を分析した。第 1 に,北九州空港を活性化するには,夜間の空港使用料を引き下げる必要がある。これは,十分な政策的根拠があるのならば,空港法に基づく空港管理規則第 11 条による国土交通大臣の告示に基づいて引き下げることが可能である,本稿では,北九州空港の場合,夜間空港使用料を引き下げることを正当化する政策的な根拠があることを示す。第 2 に,北九州空港・福岡市間に多くの高速バス会社の参入を促すためには,福岡の各バス会社が権益を持っている福岡市のバスターミナルが,認可された使用料の下で開放される必要がある。確かに,バスターミナルは,自動車ターミナル法によって開放が義務づけられてはいるが,使用料の決定方式は自動車ターミナル事業者の届出に任されている。送電線が開放されているように,あらかじめ認可された使用料でのオープンアクセスをバス会社に義務付ける法改正が必要である。第 3 に,近い将来,博多駅と北九州空港とを直接結ぶ新幹線で利用されることになる際,博多駅・小倉駅区間の新幹線の旅客運賃を下げる必要がある。十分な根拠があれば,鉄道事業法第 23 条に基づく旅客運賃に対する国土交通大臣の改善命令によってこの区間の運賃の引き下げが可能である。博多駅・小倉駅区間の場合には,これを正当化する根拠があることを明らかにする。
著者
呉 恵卿
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.119-127, 2014-03-31

本稿の狙いは,韓国の都心大型市場という空間が言語の芸術性を実現する場であり,ことば共同体として機能していることを明らかにすることである。市場に見られる談話型のうち,本稿では商品と関連した単純な情報を繰り返す「叫び型」談話に着目した。SPEAKINGモデルを援用して韓国の市場で収集した「叫び型」談話を提示し,他の談話型との違いについて述べた。さらに,「叫び型」談話をバーバルアートの側面から考察し,特定の音韻や文法,意味,韻律構造の反復によって実現される言語的並列構造が市場談話の中にどのように現れているのかを分析したところ,韓国の市場における「叫び型」談話は一定の押韻パターンを持ち,遊戯性に優れる詩的構造を持つことが示された。また,音律パターン,同一音韻の反復,語彙的・統語的変異という談話レベルの装置によって音楽性をもった一つのバーバルアートになっていることが明らかになった。
著者
渡嘉敷 恭子 kyoko Tokashiki
出版者
関西外国語大学留学生別科
雑誌
関西外国語大学留学生別科日本語教育論集 = Papers in Teaching Japanese as a Foreign Language (ISSN:24324574)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.47-60, 2006

多くの日本語教師が文法書やテキストの文法説明に違和感を持った経験があるのではないだろうか。実際に日本語教育の文法説明と日本語の母語話者の認識との間にずれがあることも多い。本稿ではその一例として自動詞使役の被使役者を示す助詞の選択に焦点を当てた。(1) 文法書、テキストでの文法説明について調査してみると、「を」をとるとしか説明していないもの、「を」または「に」をとり、その意味の違いについて説明がないもの、自動詞使役では「を」または「に」をとり、「を」の場合は被使役者の意思に関わらず被使役者がその行為を行い、「に」の場合は被使役者の意思が尊重されて行為が行われるという解釈のものと、大きく分けて三種類の説明があることがわかった。日本語の母語話者を対象に行ったアンケート調査の結果、「に」と「を」の持つ「強制」「許容」のニュアンスの違いについて認識し、使い分けている日本語母語話者は少なく、助詞が重複しないように感覚的に助詞を選択していることがわかった。
著者
細田 真道 坂本 寛 村上 友規 花籠 靖 梅内 誠 毛利 忠 塩原 寿子 小川 智明 宮本 勝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.3-15, 2020-01-15

活き活きとしたスマートシティを実現するためには,MaaS,イベント,施設などの運営者が多数の人の流れ(以下,人流)を把握することで,より最適な移動手段選択,混雑緩和,事故防止につなげることが重要である.本論文はこうした運営者が人流を把握することを目的とし利用者などの端末を測位する方法を提案,評価し有効性を示す.まず,従来測位方式および技術的課題を述べる.広く普及している人工衛星による測位方式は屋内測位が困難である.また,屋内測位できる方式であっても,端末が自身の測位をして結果をサーバなどに通知する必要があり,アプリケーションのインストールを要する.そこで,これらの課題を解決する新方式を提案する.提案方式は,通常の無線LAN端末が対象,端末にアプリケーション不要,端末が分散アンテナを用いたアクセスポイントに帰属するとアクセスポイントが端末を測位可能,歩行者動線取得可能という特徴を持つ.提案方式の1次元測位実験の結果,通常の無線LAN端末で,アプリケーション不要,歩行者動線取得,高精度測位(精度1m~5m)を実現した.最後に,フィールド実証としてこの提案システムを来場者が多数集まる展示会で動作させ,実フィールドでの有効性を明らかにした.展示会では来場者で混雑しても,提案方式のうちRTT(Round Trip Time)測位には大きな影響がなく,来場者から高い評価を得た.
著者
塩瀬 隆之 加納 圭 江間 有沙 工藤 充 吉澤 剛 水町 衣里
雑誌
研究報告エンタテインメントコンピューティング(EC) (ISSN:21888914)
巻号頁・発行日
vol.2016-EC-39, no.6, pp.1-4, 2016-03-09

協力型ボードゲームの舞台は 「制度疲労を起こした縦割り組織」.プレイヤーはその一員となり,次々と発生するハプニングを処理し,新人を鍛え,他部署の人間と情報やリソース共有しながら,全員で事業成立を目指す協力ゲームである.しかし,現実世界の協力の困難さを表す意味で,ボードゲームの中でも情報共有のチャンスはあえて希少に,協力型ボードゲームに不慣れな日本人には全員達成という終了条件そのものの難易度も高い.この困難を乗り越えた協力・対話スキルの獲得こそ,組織間の利害関係や専門家-非専門家の知識格差などの見えない壁の克服に寄与するとして,筆者らが社会対話技術研究の一環としてボードゲーム開発に取り組んだ過程について報告する.
著者
高崎 晴夫
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1337-1345, 2014-11-15

本稿は,EUにおける現行のプライバシー保護及びデータ保護に関する法的な枠組みがどのような経緯で作られてきたのかを振り返りながら,EUにおいて現在検討されているデータ保護の改革案のポイントや課題を,法律専門家ではない方々を対象に分かりやすく解説したものである.
著者
国文学研究資料館
出版者
国文学研究資料館
雑誌
十年の歩み
巻号頁・発行日
pp.295-308, 1982-10-29

本文は、冊子体の正誤表に基づく修正を行っております。
著者
本田 正美
雑誌
第80回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2018, no.1, pp.507-508, 2018-03-13

公共分野における情報システム開発では、これまで数々の失敗が積み重ねられてきた。なかには、約55億円をかけた特許庁の基幹系システム刷新プロジェクトの頓挫のような事例も存在する。情報システム開発には失敗が付きものであり、それは公共分野においても例外ではないのかもしれない。一方で、公共分野の特性ゆえに失敗を招いている可能性もある。そこで本研究は、公共分野における情報システム開発の失敗に関する事例分析を行う。具体的には、2017年10月に明らかとなった京都市における基幹系システムの刷新プロジェクトの遅延を取り上げ、この事例を分析することにより、公共分野における情報システム開発の失敗の要因について議論する。
著者
古山 萌衣
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.69-84, 2011-12-30

本稿では、戦後教育改革のなかで障害児教育が「特殊教育」として整備されていった発展過程について分析している。そのなかで1979(昭和54)年の養護学校義務制実施をめぐって展開された議論についてその論点を整理すると同時に、特殊教育政策の振興において、養護学校義務制に期待された本来の役割と実際の施策の矛盾について指摘するものである。具体的には、養護学校義務制の実施は、それまで「就学猶予・免除」として就学の機会が保障されず、福祉が代替として担わざるを得なかった重度障害児の教育について、等しく学校教育において保障することにつながったことは積極的に評価できるものであった。しかし一方で、就学指導体制における判別の強化にみられるように、教育改革における効率化・合理化の論理を背景とした特殊教育政策の振興は、結果として別学教育を推し進めたという点に、施策としての問題が存在したということが指摘できる。またここに、インクルーシブ教育において、特別な教育的ニーズに対応する「教育の場」としての特別支援学校(養護学校)の在り方をめぐる議論につながる要因があることが主張できる。
著者
賈 志聖 植松 康祐 カ シセイ ウエマツ コウユウ ChiaChih Sheng Uematsu Koyu
雑誌
国際研究論叢 : 大阪国際大学紀要 = OIU journal of international studies
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.51-71, 2015-10-31

Instant noodles were invented in Japan in 1958. Since then more than one hundred billion meals of ramen noodles have been consumed all over the world. China, which consumes about half of the world consumption, is the biggest market. The biggest food company in China, Master Kong, was founded in 1992. Although the company has a short history, it has grown rapidly to reach almost the size of world-famous food companies such as Coca-Cola. We analyzed the consumption structure of instant noodles in Japan. Also, we analyzed the Chinese economy which has supported the high growth rate of Master Kong. Finally, after the analysis of the financial status of Master Kong in recent years, by comparing it to the Nisshin Foods Company, which invented instant noodles in Japan, we will discuss how Master Kong might be managed in the future.
著者
笠谷 和比古
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.35-63, 1990-09-30

徳川幕府体制の下での特異な政治的問題の一つとして、「大名改易」のあったことは周知の通りである。それは軍事的敗北、血統の断絶、法律違反などの諸理由に基づいて、大名の領地を幕府が没収し、当該大名がそれまで保持してきた武家社会内での身分的地位を剥奪してしまうものであった。徳川時代にはこの大名改易が頻繁に執行され、結果的に見れば、それによって幕府の全国支配の拡大と安定化がもたらされたこと、また改易事件の幾つかは、その理由が不可解に見えるものがあり、それによって有力大名が取り潰されてもいることからして、この大名改易を幕府の政略的で権力主義的な政策として位置づけるのは定説となっている。そしてまたそのような大名改易の歴史像が、徳川幕府体制の権力構造、政治秩序一般のあり方を理解するうえでの重要な根拠をなしてきた。