著者
穐山 守夫
出版者
千葉商科大学
雑誌
千葉商大論叢 (ISSN:03854558)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.177-201, 2006-09-30

小泉政権の構造改革路線の思想的基盤である新自由主義は,経済学のみならず政治学及び法学の領域においても注目されている。そこで本稿はリバタリアニズムを経済学的・政治学的観点を踏まえながら主として法学的観点から体系的に検討するものである。まず,新自由主義の種類とその台頭の背景を述べる。次に主要な新自由主義論者の見解を検討する。その際,新自由主義論者を小さな政府論者・最小国家論者・無政府資本主義者に分類し,これらの論者のうち代表的な論者の見解を順次検討する。小さな政府論者として帰結主義的に小さな政府を主張するハイエク・フリードマンと立憲契約に基づき小さな政府を主張するブキャナンを検討する。最小国家論者として,自然権論的リバタリアンであるノージックと帰結主義的リバタリアンであるランディ・バーネットを批判的に検討する。無政府資本主義者として功利主義的・帰結主義的無政府主義者であるD.フリードマンと自然権的無政府主義者であるM.N.ロスバードの見解を吟味する。最後に多元的な根拠付けをするが,基本的には自然権的リバタリアンの立場に立つ古典的自由主義者である森村進の見解を批判的に検討する。次いでこの新自由主義的見解に基づいて日本国憲法を体系的に解釈する。以上を踏まえて新自由主義の特徴を摘出する。結びとして新自由主義の意義と問題点を総括する。
著者
源河 亨
出版者
The Philosophy of Science Society, Japan
雑誌
科学哲学 (ISSN:02893428)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.87-103, 2014

According to the Sibleyan account, descriptive aesthetic judgments are warranted by aesthetic perception. I defend this account by using a philosophical theory of perceptual experience, that is, Fregean intentionalism. I will then suggest an anti-realistic account of aesthetic properties, which claims that perceivable aesthetic properties are not realistic properties supervening on sets of non-aesthetic sensible properties (e.g. color, shape, etc.) of objects, but some kind of "modes of presentation" of such properties. Proving this argument, I demonstrate how the philosophy of perception can be useful for considering problems in aesthetics.
著者
濱尾 章二 樋口 正信 神保 宇嗣 前藤 薫 古木 香名
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.37-42, 2016 (Released:2016-05-28)
参考文献数
21
被引用文献数
5

シジュウカラ Parus minor の巣材47営巣分から,巣材のコケ植物と発生する昆虫を調査した.巣材として21種のコケが使われており,特定のコケを選択的に用いる傾向があった.巣材から,同定不能のものを含め7種のガ成虫が発生した.巣立ちが起きた巣でガが発生しやすい傾向があり,一因として雛の羽鞘屑が幼虫の餌となることが考えられた.巣立ち後野外に長期間置いた巣で,ケラチン食のガが発生しやすい傾向があり,巣の使用後にガ成虫が訪れ産卵することが示唆された.さらにガに寄生するハチが見いだされた.シジュウカラの営巣はこれらの昆虫にとって繁殖可能な環境を作り出していることが示された.

4 0 0 0 警察白書

著者
警察庁編
出版者
大蔵省印刷局
巻号頁・発行日
1973
著者
半田 滋男
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 = The bulletin of the Faculty of Representational Studies (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.120-130, 2013-03-11

1970年代から90年代にかけての公立美術館建設ブームは、視覚芸術受容者層の数的増加を促し、展覧会ブームをもたらした。現在国内に存在する美術館の80パーセント以上は70年代以降に建設され、新規に開館している。主に自治体による美術館新説ラッシュが愛好家層を増やし、視覚芸術の裾野を広げる役割を負ってきた。2000年代に至り、美術館はじめ公的文化施設をめぐる環境は激変した。行財政改革の下で公的施設の独立行政法人化、また地方では地方自治法第244条の2改正による指定管理者制度が導入され、文化に投下される公的予算が漸減している。予算を封じられた地方美術館の多くは四半世紀を経ずして早くも陳腐化、衰退への道をたどりつつある。一方その裏面では新たに「越後妻有アートトリエンナーレ」(2000-)、また瀬戸内海、横浜や愛知でのトリエンナーレに代表されるアート・イベントが隆盛を極める。日本の現代美術の主要な舞台は、こと公的(パブリック)な性格をもつものとしては、これらイベント型の野外展に移行したかのようである。現代の視覚芸術という溶質にとって場という溶媒が入れ替わったとすればそれは看過できない。これは一時的な現象なのか、その隆盛の原因はいまだ言及され難い。本論はその現象の意味について、美術館活動の推移に着目し比較しながら考察するものである。
著者
山城 雄一郎
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.25-34, 2014
被引用文献数
1

近年,細菌の検索に導入された菌の遺伝子DNAやリボゾーム16SrRNAをターゲットにした分子生物学的手法の普及により,ヒトの腸内細菌の動態が,培養不可でそれまで知りえなかった菌も含め,より詳細に明らかになってきた.ヒト成人の腸内細菌には,約500~1,000種,100兆個の菌が生着し,その構成の割合は食事(栄養)の影響を受けて生涯を通して変化し,また内的,外的な両方の環境の変動にも修飾されて敏感に反応する.腸内細菌構成菌の変動は,分子シグナルを介して宿主の代謝と免疫など,生理,生化学的機能に影響し,宿主の健康と病的状態に密接に関係する.胎児期に無菌の腸管は,出産時に産道を通過する際に母親から菌を獲得し腸管内へ生着が開始する.母乳栄養児では生後3ヵ月頃までにBifidobacteria優位の菌叢になり,生後6ヵ月頃には全体の90%以上を占めるようになる.しかし離乳食の導入に伴い,人工栄養児のそれと次第に差異は縮小する.他方未熟児は帝王切開(帝切)で出産する例が多く,母親から出産時に菌を獲得する機会を逸し,NICU等の環境から得る菌が最初に腸管へ生着する結果,腸内細菌構成の異常(dysbiosis)を生じ,新生児期の感染や壊死性腸炎(NEC)等の病的潜在リスクとなる.いわゆる善玉菌の腸内細菌,特にBifidobacteriaは,消化吸収,免疫を含む腸管防御等の腸管機能や解剖学的発達,成長に重要な役割を果たす.腸内細菌と食事(栄養)は,相互に密接な関係を有する.食習慣は腸内細菌構成に影響を与え,蛋白質や動物性脂肪(高飽和脂肪酸)の食事摂取が多いとEnterobacteriaceae(Preteobacteria)の割合が多く,高炭水化物食はPrevotellaが増加する.腸内細菌は,食事中の難消化性炭水化物(食物繊維)を代謝,発酵し短鎖脂肪酸(SCFs)の酢酸,プロピオン酸,酪酸を主として産生する.酢酸とプロピオン酸は宿主の,酪酸は直腸上皮細胞それぞれのエネルギー源となる.また,腸内細菌は胆汁酸代謝,食事由来のcholine代謝に関与し,前者は脂質代謝や糖代謝,後者は動脈硬化の進展に関係する.世界的な流行の様相を呈する肥満の元凶は,近代の社会環境の変化に基因したエネルギー摂取と消費のアンバランス,すなわち "西洋食" と称される高カロリー,高(飽和)脂肪食の摂取にある.高カロリー,高脂肪食はFirmicutes, Proteobacteriaの増加,Bacteroidetesの減少など,腸内細菌構成の異常dysbiosisを招く.これらの増加した菌はエネルギー産生や抽出能が高く,宿主の脂肪組織を増加させる.さらに細胞毒性かつ炎症惹起作用のあるリポポリサッカライドを産生し血中に吸収され(endotoxemia),軽度でしかし慢性の炎症を生じる.そのため,炎症性サイトカインが分泌され,インスリン抵抗性の原因となる.インスリン抵抗性が長期化すると2型糖尿病(T2DM)やその他のメタボリック症候群の高リスク因子となる.共同研究者の佐藤淳子ら(順天堂大学代謝内分泌科)は,T2DM患者の腸内細菌が健常者のそれと異なり,その20数%で菌血症を伴うことを世界で初めて発表した.腸内細菌の異常は毒性のある二次胆汁酸産生を増加し,肝に運ばれ肝細胞癌の発症の原因になることをがん研究会の大谷らは報告している.大腸癌の一部も二次胆汁酸がその発症に関与していることが示唆される.腸内細菌と宿主の免疫,代謝等の密接な関係から,腸内細菌のdysbiosisが宿主の健康と疾病に影響を及ぼす学術的エビデンスが近年急速に蓄積されてきている.これに伴いProbioticsによる健康管理,疾病の予防や治療をも見据えた研究も活発になり,近い未来の医療に大きなインパクトを与えるものと期待される.
著者
園井 ゆり
出版者
九州大学
雑誌
人間科学共生社会学 (ISSN:13462717)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.46-61, 2001-02-16

本稿では「1.家庭での無償の再生産労働は,とりわけなぜ女性に配当されるのか 2.労働市場で女性はなぜ不利な立場におかれる傾向があるのか」という問いを提起し,問いの解明を「段階とジェンダー」の視点を交えながら模索する。 問題を解明するための方法として,本稿の問いに特に関わりがあると思われる「マルクス主義フェミニズム理論」(社会主義婦人解放論,前期ならびに後期マルクス主義フェミニズム理論)と,マルクス主義フェミニズム理論に少なからず影響を及ぼした「ラディカルフェミニズム理論」とを取り上げる。これらの理論を吟味した上で,特に,後期マルクス主義フェミニズムの理論がこの問いの解明に最も有効な理論であるということを指摘する。さらに,外国人労働者の受け入れ等,今後変化しつつある労働市場において,女性の立場を説明する理論としてのマルクス主義フェミニズムの可能性についても触れたい。