著者
高橋 征仁
出版者
山口大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、災害時の緊急避難行動にみられるヒューマン・エラーを進化心理学の観点から捉え直すことで、その基本特性および制御方法を解明することを目的とした。東日本大震災にかんする国交省の避難行動調査の2次分析を行ったところ、情報収集や家族保護、職務遂行などの社会的行動が避難行動の遅延要因であることがわかった。また、「田んぼを見に行く」ようなスカウティング行動は、30歳代と60歳代の男性に典型的にみられ、性選択と血縁選択が2重に影響していることが示唆された。
著者
黒田 公美
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-07-18

家族で子育てをする霊長類マーモセットを用い、親子の分離―再会試験(10分間、N≧250)における親子の行動と音声コミュニケーション解析から、親の子育てスタイルが子の発達に与える影響を分析した。そして子の鳴きに対する感受性と、背負った子に対する拒絶性という親の子育ての2変数に応答し、不安型(親に背負われても鳴き続ける)、回避型(親の背負いを拒絶する)愛着行動を示すことを見出した。続いて人工保育を受けた子マーモセットは、混乱型(しがみつかず、月齢に不釣り合いに鳴き続ける)愛着を示し、成長後も社会的(異性)・非社会的(おやつ)報酬に対してネガティブ発声を行うことを見出した。
著者
伊藤 亜里
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

免疫記憶の柱の一つである、抗体産生を長期に行う長期生存形質細胞を取り巻く環境については明らかになりつつあるが、それ自体の性質の変化は明らかではない。我々は、骨髄の形質細胞で脾臓に比べて発現が高い遺伝子として、亜鉛を結合するMT1とMT2を同定した。MT1,MT2高発現形質細胞の遺伝子発現を調べたところ、Flt1, Hmox1など、細胞のストレス低減に関連する遺伝子群と発現の相関が高かった。脾臓の形質細胞ではMT1とMT2の発現がIL-6刺激によって上昇した。これらの結果から、長寿命形質細胞は、骨髄環境内でIL-6などの生存刺激を受けてストレス耐性機能を獲得している可能性が考えられた。
著者
柴田 識人
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

重篤な疾患を引き起こすウィルスは数多く存在するが、抗ウィルス治療薬の充足率は決して高くない。私はこれまでに酸化コレステロールである25ヒドロキシコレステロール(25OHC)が宿主細胞の生存に影響を与えずに、ウィルスの複製を抑制することを見出している。本研究では、宿主細胞における25OHCの受容機構、そしてそれに伴うストレス関連遺伝子の発現誘導機構を解明した。本結果は25OHCの持つ抗ウィルス作用の分子機構を明らかにすると共に、25OHCを基盤とした新たなウィルス治療薬開発の可能性を提示するものである。
著者
佐々木 三和
出版者
日本赤十字秋田看護大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

パーソナリティ障害は精神障害の主要なひとつの様式であり、自傷行為や自殺企図、暴力やひきこもり、嗜癖行動など多彩な問題行動と深く関連がある。入院医療から地域生活中心へと精神障害者の地域移行支援が進むなか、特にかかわりが難しいとされる境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder:以下、BPD)者への訪問看護に関する困難な状況が予測される。そこで、地域でBPD者を支えるための訪問看護師への支援プログラムを開発することを試みることとした。
著者
安田 洋祐
出版者
大阪大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))
巻号頁・発行日
2019

世界各国で貧富の格差や不平等が深刻な社会問題となっている。格差問題が「問題」であり続けている大きな理由は、格差を解消するような再分配の実現が様々な事情から難しいからだろう。基課題においては、この「再分配が難しい」という現実的な制約をモデルに取り込み、同質財市場における資源配分の問題を厚生経済学的な視点から検討した。国際共同研究では、同質財市場からより一般的なマッチング市場へと分析の拡張を行う。さらに、市場参加者たちのインセンティブを考慮に入れて、マーケットデザイン的な視点から分析を深める。具体的には、取引数量が競争市場よりも多くなるような具体的なメカニズムの検証や提案などを試みる予定である。
著者
西澤 由隆 河野 勝 荒井 紀一郎 中條 美和 村上 剛 金 慧 広瀬 健太郎
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-07-18

本研究の目的は、現行のいわゆるヘイトスピーチ対策法(正式名称:本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)を超える新しい法規範形成の可能性を視野に入れつつ、現代日本のヘイトスピーチに関する心的基盤を実証的に明らかにすることであった。より具体的には、いかなる条件のもとでこのような差別や言葉の暴力を一般の日本人が許容するのか、またその理由は何か、といったヘイトスピーチに関わる心的メカニズムについて、サーベイ実験の手法を用いつつ検討した。
著者
阪井 恵 酒井 美恵子 布施 光代
出版者
明星大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

五線譜の判読が、障害により不可能な場合があることは十分に知られていない。本研究では、取材に基づきその実態を明らかにする。また当事者たちが音楽科授業への導入を望む「フィギャーノート(FN)」の有効性を探り、教科書に準拠した具体的な活用法の提案を行う。障害の実態調査に基づくビデオ作成、ビデオ視聴とFNの体験を含む実験的授業の実施、受講した児童生徒及び学生の、FN活用に関する意見調査と分析、学会における意見交換、などを通して「選択肢としてのFN」導入実現を目指すものである。
著者
大熊 燦雨 松尾 牧則 村井 友樹
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究は、東アジアに跨る武文化の固有性と相似性の解明に向け、文禄・慶長の役(萬暦朝鮮之役、壬辰倭乱:1592~1598年)を通して披露された日本・中国・韓国武術が、近世東アジアの武文化に与えた影響を実証的に検討することを目的としている。そのために、2019年度には、以下のような研究活動を行いに、主に日中韓武文化の交流の痕跡を物語る資料を網羅的に検討・収集した。1.先行研究の検討及び関連資料収集:400年前に起きたアジア最大の戦争であった文禄・慶長の役に関しては、その歴史や波及力の故に多方面で数多くの研究が行われてきた。そのため、前年度に引き続き多岐にわたり先行研究を含めた文禄・慶長の役に関する膨大な2次史料を検討し、本課題と関連する日本側の史資料の収集に努めた。また、それを基に、文禄・慶長の役にまつわる武に関する1次史料の範囲を絞り、その収集に努めた。2.史資料の分析:収集した日本側の関連史資料の整理・解読を進めながら、先行研究で言及された既存史料との比較検討を行い、当該戦争に対する全体像の把握に努めながら日韓武文化交流の痕跡を浮き彫りにした。3.台湾側の情報収集及び史料調査:台湾の台東大学・高雄大学等を訪問し、研究者と意見交換しながら情報収集に努め、また、台湾における武術研究の現在把握と中国武術に関する史料・情報を収集した。4.情報収集及び成果発表:東北アジア体育・スポーツ史学会、体育史学会、日本体育学会、国際体育・スポーツ史学会、筑波大学体育史研究会などの国内・国際学会に参加し研究協力者との情報交換を行い、また、Northeast Asian Society for History of Physical Education and Sport学会の定例Conferenceにて研究成果の一部を発表し、学会会員との意見交換など更なる情報収集に努めた。
著者
清水 芳男
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

血液透析では血漿を濾過することにより、余剰体液が除去(除水)される。この間、間質液が血液循環へ戻るリフィリングにより血圧が維持される。リフィリングは、間質液のリンパ管からの吸収・輸送によって行われる。リンパ管の吸収・輸送能力は、運動や電気刺激などの外的刺激で上昇することが知られている。透析中に運動・下肢マッサージ・低周波電気刺激などの外的刺激を行うことにより、リフィリング速度を意図的に変化させることが可能であるかを検証し、血液透析中に生じる循環血漿量減少性ショックを防止する新しい方策を開発する。
著者
後藤 和也
出版者
京都大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

アルツハイマー型認知症患者に対しては音楽療法が有効という報告は多くあるが、パーキンソン病(Parkinson disease、以下PD)患者における非運動症状(認知機能低下、抑うつなど)に対して音楽療法が有効であるという報告は少ない。また、現時点ではPD患者の非運動症状に対する根本的治療法はない。本研究では認知機能の低下を伴うPD患者へ音楽療法を行い、その有効性を検証することを目的とする。具体的に、音楽療法士による小グループでの音楽療法を一定期間行い、評価スコアを用いて非運動症状が改善したかを評価する。また、介護者へのインタビューも行い、負担の軽減がみられたかを評価する。
著者
原田 浩二 小泉 昭夫
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

南アジアの島国・スリランカでは1990年代より、セイロン島中東部、中北部および周辺地域において、慢性腎不全が急増している。これまでに続いて遺伝的素因を検討し、SLC13A3、KCNJ10、LAMB2の候補遺伝子を示した。バルカン半島腎症の原因とされる腎毒性を有するウマノスズクサ、また農薬曝露の関与について検討するため、尿中アリストロキア酸、ネオニコチノイドの分析方法を検討した。また症例対照研究を行った。結果として、検出できる量のアリストロキア酸は見出されなかった。病理組織の検討も行い、電子顕微鏡観察を行った。腎組織の電子顕微鏡観察は、CKDuの病因における重金属毒性を支持する証拠はなかった。
著者
山崎 宏史 蛯江 美孝 稲村 成昭 柿島 隼徒
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、浄化槽を構成する各単位装置のGHGs排出特性を検証し、排出削減可能な技術を提案することを目的に検討を行った。その結果、CH4は嫌気処理部と汚泥貯留部を兼用する単位装置からの排出が多く、さらに夏季の水温高温期に排出が増大することがわかった。CH4排出は、後段の好気槽からの循環水量を多くし、循環するDO量を増大させることにより、削減できることを明らかとした。一方、N2Oは好気処理部からの排出が多く、さらに春季から夏季に至る水温上昇期における貯留汚泥の可溶化により排出が増大することがわかった。N2O排出は、流量調整機能を付加し、処理機能を安定させることにより削減できることを明らかとした。
著者
下田 好行 四方 義啓 吉田 武男
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

ホリスティックな立場からの教材・授業開発の視点を研究した。垣内松三の形象と自証体系の理論とそれを授業で具体化した青木照明の「融合読み」の研究を行った。垣内松三は、文字の連なりの奥にある人間の相(象徴)の存在を強調した。読むとは、この象徴を直観し、それを言葉という形で記号化する行為である。ここから垣内は、直観ー自証ー証自証、という読みの理論を体系化した。この理論を授業場面で具体化したのが芦田恵之助である。また、最近では、小学校国語の文学教材の読みの授業で、青木照明が行っている。青木の授業では、児童が物語文を読んで、直観したことを自分の言葉で解釈し、自証していく様子を確認できた。
著者
山口 勧 村上 史朗 森尾 博昭
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

謙遜についての比較文化的研究を行い、21カ国の国民を対象にした調査及び実験的な研究により、謙遜が文化に共通した価値であることを確認した。より具体的には、謙遜の目的が低い自己評価の提示ではなく、謙虚であることを示すことにあることが、確認された。さらに、一方では、実験研究により、謙遜の程度や仕方には、文化差があることを示す結果が得られた。同じように謙遜しているといっても、文化により、その謙遜が意味する自己卑下の程度が異なっていることがわかった。
著者
所 正治
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

途上国の健常学童の糞便内に存在する細菌叢、原虫叢、真性菌類などによる腸内微生物叢の種構成の豊かさを定量的に評価し、遺伝子レベルでの多型をも評価することで、先進国ではすでに失われてしまった腸内原虫叢の存在が、宿主であるヒトにもたらす有益な効果を明らかにし、その臨床応用の可能性を探索する。これは、人類がこれまでの共進化をとげてきた本来の腸内環境を明らかにするアプローチであり、衛生仮説におけるX因子として、非病原性の種を含む腸内原虫叢を仮定した試みでもある。
著者
佐々木 雅弘
出版者
旭川医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

これまでの指紋に関する研究は形態からの個人識別を中心に行われ、その他の目的で検査される事は無かった。もし,形態からの個人識別を行った後の指紋よりさらに別の種類の個人識別に有用な情報が引き出せるとすれば、鑑識実務上非常に有用である。一個の指紋から形態的検査のみならず、血液型,DNA多型が判定出来るとすれば,犯罪捜査上非常に大きな技術進歩と言える。今年度は部分指紋からPolymerase chain reaction法(PCR法)によりABO式血液型転移酵素遺伝子領域、D1S80領域、各種マイクロサテライト領域、性染色体特異配列などを増幅することによって性別判定と同時に血液型判定、個人識別を試み、有用であるとの結論を得た。現在、検索領域を性染色体上のいくつかのマイクロサテライトに広げ、そのアリル分析と、遺伝安定性、法医学的には性別判定と同時の個人識別、あるいは判別判定の確からしさの数値化にかんして検討を加えている。
著者
園山 大祐
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

すでに先行研究によってフランスの80年代からの中等教育の大衆化がすべての階層に等しく作用して来なかったことは明らかにされている。こうした一連の研究は、階層格差や性別は進路決定過程において生み出されていること、特に進路研究では、庶民階層において生徒や保護者が希望する進路と学校側の提供する選択には「ズレ」があること、そして複数回の留年による学業失敗が特徴としてあげられている。ゆえに、留年制度に十分な教育効果がみられないことが明らかとなっている。
著者
内村 有邦
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

私たちがこれまでに樹立した「ヒト可聴音域で小鳥のように鳴くマウス変異体(Sng変異体)」を利用して、新しい「音声コミュニケーションの実験動物モデル」の構築に取り組んだ。本研究では、行動学や遺伝学に基づいて解析を行うことで、Sng変異体が発する音声の特徴やその機能について明らかにした。これにより、Sng変異体が示す発声行動が、音声コミュニケーションの進化を理解する上で有用なモデルになることが示された。