著者
杉谷 和哉
出版者
日本医療福祉政策学会
雑誌
医療福祉政策研究 (ISSN:24336858)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.27-37, 2021 (Released:2021-06-15)

新型コロナ感染症のパンデミックに彩られた2020年は、政策研究にとっても大きな課題を突き付けた。新型コロナ感染症の問題の特徴を鑑みると、パンデミックがもたらした問題は、ステークホルダー間の対立が生じている、問題同士が関連している、対策にあたって必要とされる知識が不足している、不確実性が高い、といった特徴を備えていることが看取できる。これらの特徴を備えた問題は、政策研究で言うところの「ウィキッド・プロブレム」に該当すると考えられる。この着想を手掛かりに、本論文では、新型コロナ感染症のパンデミック及びそれによって生じる課題を、「ウィキッド・プロブレム」と捉え、先行研究を駆使して分析した。その結果、科学の在り方が変容しつつあることと、「不快さを引き受ける政治」が必要であるといったことが示唆された。
著者
橋爪 恵子
出版者
美学会
雑誌
美学 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.13-24, 2011-06-30 (Released:2017-05-22)

In The Poetics of Space (1957), Gaston Bachelard adopts a phenomenological approach to the literary image for the first time. In the volume, he introduces the notion of "Retentissements" (echoes)-the creative reception of image-which is given a central role in the work. This paper aims to examine the evolution of his theory, particularly in relation to his epistemology and earlier theory of art. When Bachelard refers to Husserl's phenomenology in his epistemological work, he criticizes it as too "formal." To Bachelard, the examples Husserl gives do not provide a sufficient understanding of the relationship between subject and object in science. In his earlier theory of art, Bachelard also establishes his distance from Sartre's phenomenology, which draws a clear distinction between the reality and the image. For Bachelard, they are intimately interwoven and escape from the fact-imagination opposition. Paradoxically, although he seems hostile toward phenomenologists, his critique eventually leads him toward a new phenomenology of the imagination. In the process of his debate with them, Bachelard appropriates some features of their theories in order to forge his own. In this way, he evolves his theory of the imagination and, in this sense, he is influenced by other phenomenological thought and, in turn, echoes (retentir) them.
著者
大類 正洋 北原 博幸
出版者
公益社団法人 空気調和・衛生工学会
雑誌
空気調和・衛生工学会大会 学術講演論文集 平成27年度大会(大阪)学術講演論文集 第3巻 空調システム 編 (ISSN:18803806)
巻号頁・発行日
pp.281-284, 2015 (Released:2017-11-15)

エアコン暖房の設置位置や運転条件によっては,吹き出された暖気が部屋全体に行き渡らずに,部分的に寒気が床面へ溜まり上下の温度差が発生するケースが存在する。これに対する簡易な改善手段として,サーキュレーターを用いた室内空気の混合攪拌がある。しかしながらサーキュレーターの適正な設置位置について室温分布や運転性能等から評価した例が少ないことから,本稿では,実験により上述の問題に対するサーキュレーターの効果を検証した。
著者
野田 尚史 花田 敦子 藤原 未雪
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.167, pp.15-30, 2017 (Released:2019-08-26)
参考文献数
11

中国語を母語とする大学院生が学術論文を読むとき,どこでどのように読み誤るかを,読みながら理解した内容を母語で語ってもらう方法で調査した。その結果,(a)から(d)のように読み誤ることが明らかになった。 (a)語の意味理解に関する読み誤り:個々の漢字の意味から語の意味を不適切に推測したり,辞書に載っている複数の語義から不適切な語義を選んだりする。 (b)文構造のとらえ方に関する読み誤り:文のどの部分がどの部分を修飾しているか,文のどの部分とどの部分が並列されているかということを適切にとらえられない。 (c)文脈との関連づけに関する読み誤り:省略されている語句を文脈から適切に特定できなかったり,照応先の語句を文脈から適切に特定できなかったりする。 (d)背景知識との関連づけに関する読み誤り:論文の文章構成や本文の記述内容に関して自分が持っている背景知識と本文との関連づけが適切にできない。
著者
沓名 弘美 沓名 貴彦
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.18, no.10, pp.507-513, 2018 (Released:2019-09-02)
参考文献数
29

臙脂は,紀元前2世紀に西域より中国にもたらされた赤色の色料である。初期の臙脂は,ベニバナを原料としてつくられた化粧品であった。7世紀頃には,ラック色素を円形の薄い綿に染みこませた綿臙脂がつくられるようになった。綿臙脂は,近代に至るまで,化粧品,医薬品,美術工芸の色料として用いられていた。現代では,綿臙脂の製造が廃れ,製法も不明である。しかし,古典的な美術工芸や文化財の保存修復では,臙脂は重要な材料であり,その再現が強く求められている。筆者らは,文献の研究,実地調査,科学分析と実験によって,綿臙脂の再現を目指している。唐代の医学書の『外台秘要方』には,綿臙脂の詳細な処方が記載されている。その処方に基づき,筆者らは,各材料の同定,分量の解明をすすめ,紫鉱(ラック)と数種の漢方の薬種を用いて,臙脂の試作を行った。本稿では,臙脂の歴史的な変遷を解説し,試作の過程について報告する。
著者
塙 幸枝
出版者
日本コミュニケーション学会
雑誌
日本コミュニケーション研究 (ISSN:21887721)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.109-124, 2015-03-31 (Released:2017-05-17)
参考文献数
21

Since the inception of film history, disability issues have been treated in a variety of movies. Because there was little understanding of how to communicate with the disabled, until recently films have portrayed disabilities as a condition evoking discrimination, fear, and pity. In recent years, however, films have emerged that present disability as another form of diversity with which we coexist. This has happened due to improved methods of communication. At a glance these portrayals of disability appear to invite the audience to confront disability issues, but in actuality these films fail to acknowledge the variety of types of disabilities. The films are framed within a stereotypical style of communication that is no more than a mechanism used to introduce disabilities in a way that the audience can understand. This paper illustrates the depiction of disabilities in film, discussing the (im) possibility of analyzing these representations in terms of the medical and social models of disability. The paper concludes that the portrayal of disabilities in film is "a problem of communication."
著者
熊谷 淳 西 紘一郎
出版者
一般社団法人 日本救急救命学会
雑誌
救急救命士ジャーナル (ISSN:2436228X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.89-92, 2021-09-30 (Released:2023-06-08)
参考文献数
9

【目的】救急隊の現場滞在時間の延伸は,治療開始の遅れに影響するとされている。治療開始の時間を定量的に評価できる急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome:ACS)における救急隊の現場滞在時間と治療開始までの時間との関連性を後方視的に検討した。【対象】2018年1月1日から2019年12月31日に救急搬送され,ACSを疑い緊急冠動脈造影を行った症例の現場滞在時間と治療開始までの時間との関連性を検討した。【結果】救急隊の現場到着から出発を現場滞在時間として,救急隊の現場到着から血管造影室での穿刺時刻を治療開始までの時間と定義した。治療開始までの時間にはST上昇の有無(B=−98.08,p<0.01)と現場滞在時間(B=2.76,p<0.01)が影響することが示された。【結論】救急搬送されたACSにおいて,現場滞在時間の延伸は治療開始までの時間を遅らせる。
著者
高木 明
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.460-468, 2002-12-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
5
被引用文献数
5

中等度感音難聴者を対象に純音聴力, 最高語音明瞭度, 時間分解能, 周波数選択性を測定し, 特に語音明瞭度との関連を検討した。純音聴力域値と語音明瞭度とは必ずしも相関しないことを示すとともに, 時間分解能が語音聴取と関連があることを示した。また, 人工内耳装用者についても直接の電気刺激による時間分解能を計測し, 子音の聴取と時間分解能の関連を示した。そして時間分解能は残存聴神経の数に依存すると考案した。最後に補聴器の開発を考える際, 純音聴力図からのみ検討するのは蝸牛のダイナミックな機能が考慮されないため, 一定の効果を得ることが難しいことに言及した。
著者
野上 道男
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.129, no.2, pp.263-274, 2020-04-25 (Released:2020-05-12)
参考文献数
10
被引用文献数
2 4

In order to measure the longitude difference between two distant sites, Inoh Tadataka and his technical team observed three lunar eclipses when surveying the Japanese Islands at the beginning of the 19th century, and left some observation records. The local times when the partial eclipses began and ended were measured with a pendulum clock. By introducing the equation of time to the calendar date of the observations, the time difference can be obtained between the local time observed by Inoh and the lunar eclipse timetable of NASA shown in Japanese Standard Time at 135E degrees of longitude. Consequently, the accuracy of the longitude survey performed by Inoh Tadataka is evaluated in comparison to the precise map of the Geographical Survey Institute.
著者
宮田 一弘 朝倉 智之 篠原 智行 臼田 滋
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.555-564, 2021-05-18 (Released:2021-07-15)
参考文献数
23
被引用文献数
1

目的:Mini-Balance Evaluation Systems Test(Mini-BESTest)とBerg Balance Scale(BBS)の臨床的に意義のある最小変化量(MCID)に関するシステマティックレビューを行った.方法:3つのデータベースとハンドサーチにて検索および収集し,Mini-BESTestとBBSのMCIDを報告している論文を特定した.受信者動作特性(ROC)曲線以外の方法でMCIDを決定している論文は除外した.結果:検索の結果,Mini-BESTestでは21編,BBSでは87編の論文が抽出され,取り込みおよび除外基準を満たしたのはMini-BESTestが4編,BBSが6編であった.ROC曲線下の面積が0.7以上であったMCIDはMini-BESTestが1.5~4.5点,BBSが3.5~6点の範囲であった.バイアスリスクの評価の結果,18点満点のうちMini-BESTestが10~16点,BBSが9~14点の範囲であった.結論:Mini-BESTestで1.5~4.5点,BBSで3.5~6点の得点変化には,複数の患者集団において臨床的な意味があり,介入効果の判断や目標設定をする際の基準となる可能性がある.臨床で用いる際には,疾患,病期,介入期間,人種などを考慮したうえで用いる必要がある.
著者
小野 克重
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.3-19, 2010 (Released:2010-07-14)
参考文献数
36
被引用文献数
1

Vaughan-Williams分類第4群に属するCa拮抗薬は,主に電位依存性L型Ca2+チャネルに結合してCa2+電流を抑制する.このため,Ca2+電流依存性興奮組織の洞房結節や房室結節における自動能の亢進もしくはこの部位を回路の一部とするリエントリー性不整脈に対しCa拮抗薬は有効である.撃発活動(triggered activity)とは活動電位の再分極相,あるいはその直後に生じる小さな膜電位振動から発生する単発,あるいは反復性の興奮で,活動電位持続時間が延長している時や細胞内Ca2+過負荷が生じている病的条件で起こる.Ca拮抗薬は撃発活動に対して顕著にこれを抑制する.抗不整脈作用を有するCa拮抗薬は,ベラパミル(フェニルアルキラミン系)とジルチアゼム(ベンゾチアゼピン系)に限られ,通常降圧剤として用いられるジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は血管選択性が強いために心臓作用は期待できない.一方,Vaughan-Williams分類では抗不整脈薬に分類されていないが,アデノシンやATP(アデノシン三リン酸)は受容体を介した心筋細胞外からの作用によって洞房結節の自動能を抑制する(陰性変時作用;negative chronotropic effect)とともに,房室伝導を抑える(陰性変伝導作用;negative dronotropic effect).また,心室筋に対しては間接作用(抗β受容体作用)によって電位依存性L型Ca2+チャネルを抑制する.血管内に投与されたATPは直ちに代謝を受けてアデノシンに変換されるが,それまでの間はATPとしての作用と変換後のアデノシンとしての両作用で心筋や血管機能を調節し,不整脈の診断や治療に欠かせない.本章では,Ca2+チャネルとCa拮抗薬の薬理作用,さらにATPとアデノシンの作用機序を概説する.
著者
水野 里恵
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.56-65, 1998-04-10 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
3

254名の第一子の乳幼児期の縦断研究の結果, 乳児期の子どもの気質的扱いにくさと母親が子どもに対して感じる分離不安が, その子どもが幼児期に達した時の母親の育児ストレスと関連があることが明らかになった。幼児期に気質診断類型でdi拓cuhになる子どもは, easyになる子どもに比較して, 乳児期に新しい情況に消極的で順応性が低い子どもであった。そして, dimcuhの子どもを持つ母親は, easyの子どもを持つ母親に比較して, 育児ストレスを強く感じていた。乳児期と幼児期の気質次元に対する正準相関分析および乳幼児期の正準変数得点と母親の育児ストレスとの相関分析の結果から, 乳児期に世話がしにくく順応性が悪い子どもは, 幼児期に活動性が高く順応性が悪く持続性がない子どもになる傾向があり, それらの子どもの母親の育児ストレスは高いことが明らかになった。乳児期に子どもに対する分離不安が高い母親は, 分離不安が低い母親に比較して, 伝統的母親役割観を強く持ち, 子どもを預けての外出を控える傾向にあり, 幼児期に青児ストレスが強かった。
著者
万井 正人 谷口 豊子 伊藤 一生 菊地 邦雄
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.99-105, 1971-04-15 (Released:2010-03-11)
参考文献数
3
被引用文献数
3 1

手足の利き側 (laterality) に関する31項目のアンケート調査によって一般的な傾向を見出し, ついで31項目の中から選定した20項目について要因分析を行ない上記の傾向を確認した. また左右の手と足の作業能力 (筋力, 敏捷性, 協応性) を別個に測定比較して, 左右の相対的能力差を検討した.その結果つぎの諸問題について, 一部解明することが出来た.1. 右利き, 左利きの出現率と一般的傾向2. 右利き, 左利きの判定基準3. 手と足の laterality の相関4. 作業種類別にみた右, 左の使用頻度5. layout 設計上の laterality に関する check point