著者
吉村 壮平 古賀 政利 豊田 一則 中井 陸運 三輪 佳織 笹原 祐介
出版者
国立研究開発法人国立循環器病研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

脳卒中の予防や、医療機関の診療レベルの向上のためには,脳卒中患者の登録事業により脳卒中診療の実態を知ることが不可欠である。わが国最大規模の、「日本脳卒中データバンク」のデータを人工知能(AI)を用いて解析することにより、脳卒中後の障がいを予測する方法と、それを臨床現場で活用できるシステムの開発を目的とする。簡易に利用可能なシステムが実用化されれば、脳卒中専門医以外の医療者や一般人であっても、脳卒中を起こして直ぐの時期にとるべき行動を決定する補助とすることができる。脳卒中を正しく診断し、適切に治療方針を立て、再発予防治療を行うことにより、重い障がいが残らないようにすることが期待される。
著者
西川 智文 岡村 智教 上羽 哲也 宮松 直美 北条 雅人 福田 俊一
出版者
京都光華女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

脳梗塞既往者314名のデータベースを作成し、これと並行して行っている健常者集団の調査(「日常的な健康度を指標とした都市コホート研究」(神戸トライアル)参加者の内、比較対象となる1013名)のデータと比較した。その飲水習慣から脳梗塞既往者の脳梗塞発症前の水分摂取量は健常者集団と比較して少ないことが推測された。この成果を国内外の学会にて発表を行い、まとめたものは国際英文雑誌であるCerebrovascular Diseasesに掲載された。
著者
長岡 良治
出版者
鹿児島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

ADHD児(3名)の注意力や集中力の改善にどのような運動が効果的かを調べるために、閉眼歩行、無酸素運動(100m走)、有酸素運動実施前後に計算テスト、CRT(選択反応時間)測定、ペグボード検査を実施した。ペグボード検査では有酸素運動後と閉眼歩行後に、計算テストでは有酸素運動後に、CRTは有酸素運動後や閉眼歩行後に時間が短縮すう傾向にあることから、有酸素運動や閉眼歩行は注意力や集中力の改善に良い効果をもたらすことが示唆された。無酸素運動は運動後の呼吸の乱れにより一般に集中力は低下するが、ADHD児の中には良くなる子もいた。ADHD児には、動作のぎこちなさや不器用,さがみられるため、筋緊張の調節を司る大脳基底核に発達障害があるのではないかと考え、感覚統合運動を取り入れた8種類の身体運動を5名に3ヶ月間実施した。8種類のうち閉眼歩行と手拍子は毎日行わせ、的当て、ビーンズバッグ、風船バレー、ボール運動、ビーズ通しおよび後出しじゃんけんは週に1回行わせた。注意力・集中力をみるためにAPP検査、計算テスト、タッピング、ペグボード、CRT測定を行った6トレーニング後はAPP検査で問題のあった自己統制、動作の安定の項目が改善された。タッピングとペグボードの検査項目では改善が見られなかったが計算テストとCRTに改善の傾向がみられたことから、今回負荷した運動課題が脳の処理機能に有効に作用したと推察された。
著者
稲福 征志
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

先進国においては「肥満」と「結核」が経済的弱者層に集積することが懸念されることから、本研究では結核菌感染がメタボリックシンドローム病態に与える影響についての基礎的知見を得るべくして、結核感染プロトタイプである抗結核ワクチン株BCG菌体を用いた研究を遂行した。BCG菌体投与による脂肪肝の改善作用はBCG菌投与による獲得免疫の活性化が大きくかかわっていることが示唆された。また、BCG死菌体投与による脂肪肝改善は認められなかったものの、BCG菌体成分が褐色脂肪細胞に対して何かしらの影響を与えていることが明らかとなった。
著者
田路 則子 鹿住 倫世 浅川 希洋志 林 永周 福嶋 路 牧野 恵美 山田 裕美 五十嵐 伸吾
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

日本人の起業意思の低さは国際調査に表れており、成人対象のGEM調査ではドイツに次ぐ低さ、大学生対象のGEUSSSでは最下位である。現状では、起業意思を高める教育に政策関心が向けられ始めたばかりであり、実際の起業にどうつながるかを想定する段階にはない。文科省のEDGE事業と4国立大学の認定VC事業とはリンクしていないが、東京大学のAI関連のスピンオフに見られるように実態は先行している。そこで、起業家教育とアカデミック・スピンオフをリンクするものとして研究対象にする。EDGE採択校における起業家教育を試行段階と捉え、スウェーデンの教育と輩出されるスピンオフの先進事例とを対比しながら研究を進めたい。
著者
河野 英子 竹内 竜介 大沼 雅也 福嶋 路
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、新しい医療の制度化と国際的普及の事例分析を通じて、制度化過程とその変容を明らかにするものである。対象とするのは、自動体外除細動器(AED)を使用した一般市民による救命を意味する「市民による除細動(PAD)」である。PADの制度化と国際的な普及プロセスについて地域間比較を行う。多様な制度や組織・集団と関係する医療産業は、その重要性・特異性に比して社会科学的な研究が相対的に少ないなか、本研究成果は制度論に関する議論への貢献が期待できる。
著者
永岡 謙太郎 平山 和宏 辨野 義己
出版者
東京農工大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

私たちの健康維持には腸内細菌叢が深く関わっています。本研究では、マウスを用いた実験により、母乳中のアミノ酸代謝から産生される過酸化水素が乳子の腸内細菌叢の形成に関与していることを明らかにしました。過酸化水素は乳子の消化管内において外部から侵入してくる様々な細菌に対して門番の様な役割を担っており、乳酸菌など過酸化水素に抵抗性を示す細菌が優先的に腸内に定着していました。本研究結果は、母乳中に含まれる過酸化水素の重要性を示すとともに、アミノ酸や活性酸素による腸内細菌制御方法の開発につながることが期待されます。
著者
長谷川 徹
出版者
京都府立医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

口腔顎顔面領域の外傷や手術後の合併症として、三叉神経に神経麻痺等の障害が起こることがある。このような障害に対し、従来から保存的な治療法として理学療法や薬物療法が選択されてきた。理学療法である高周波の電気刺激では微少血管の拡張、神経伝達速度の上昇、痛覚閾値の上昇などの効果について報告されている。しかし低周波・高周波混合の電気刺激による効果についての検討は未だ報告されていない。そこで、神経障害に対して低周波・高周波混合の電気刺激による効果についての研究を行った。まず、一定の刺激により神経系細胞に分化することが報告されている骨芽細胞(MC3T3-E1)に対し低周波・高周波混合の電気刺激を加え検討した。出力は1~4mAで、刺激時間は1~10分間とした。結果、出力に係らず5分間の電気刺激により細胞活性の増大を認めた。次に、ALP活性およびヒアルロン酸の産生について検討した。結果、出力が2mA、10分間電気刺激した群でcontrol群に比べ、有意なALP活性の上昇を認めた。一方、ヒアルロン酸の産生量は、control群と刺激群では変化がなかった。これより低周波・高周波混合の電気刺激は、骨芽細胞の増殖と分化を促すことで、骨形成の増大に関与している可能性が示唆された。また、オトガイ神経支配領域に知覚鈍麻を認めた症例に対し電気刺激療法をおこなった。他覚的な評価を口腔顔面機能学会の規定するスコア化の基準に従いスコア化した。その結果、治療開始後3ヶ月でスコアが改善した。また自覚的な評価をVASにより生活支障度および自覚症状で評価した。それぞれ10例中6例および7例で改善していた。以上より、理学療法である低周波・高周波混合の電気刺激により神経障害が改善する可能性が示唆された。
著者
菅 裕明 仙石 徹
出版者
東京大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2020-07-30

本特別推進研究計画では、これまで申請者が研究室を主宰してきた約20年にわたる「特殊ペプチド創薬」研究に区切りを付けるべく、やり残された挑戦的な研究に絞り目標を定め、それらを集大成させる。(1)細胞膜透過を有する特殊ペプチドの構造膜透過性相関検討による探索基盤の確立(2)環β-、環γ-、不飽和環アミノ酸含有特殊ペプチドライブラリーの翻訳合成と生理活性種探索(3)翻訳後酵素修飾された擬天然物ライブラリーの創製と生理活性種探索(4)特殊ペプチドおよび擬天然物の細胞膜透過性と小腸吸収性の研究上記の研究目標に沿って基礎および応用研究を進め、これまで解決できなかった命題に挑戦する。
著者
米田 哲也
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

MRI位相情報は組織が受ける静磁場変化に鋭敏であるため、今回開発した磁化率強調画像化法(PADRE)により、組織の磁気応答を表すことができる画像を作成可能にした。PADRE画像は、従来の位相画像技術である磁化率強調画像化法(SWI)にくらべても様々な種類の組織コントラストを作成することができるだけでなく、自由に強調度を変化させ、診断画像として最適なコントラストを作成者側がコントロールできるなど、様々なメリットを持つ。臨床応用には、すでに脳幹部の微細構造の高コントラストを背景に、パーキンソン病をはじめとする様々な変性疾患の画像診断に応用が始まっている。
著者
眞壁 仁
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では、中国清朝の学術移入後の徳川儒学思想の展開を分析し、学派別の思想分類を再検討して、徂徠学以降の儒学思想を捉える新たな枠組を提示しようとした。蔵書群の書誌調査をもとに、足利学校から、紀州藩、林家とその門人、昌平坂学問所に至るまでの学問方法とその内容を検証し、限られた対象を通してだが、考証学の日本における展開を位置づけた。また徂徠学以降の儒礼受容と実践についての一般化を試み、東アジアでの儒礼受容と展開の型について、独自の整理を行った。
著者
嶋田 豊 後藤 博三 引網 宏彰 関矢 信康
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、脳虚血による神経細胞障害に対する和漢薬(漢方薬)の保護作用とその作用機構をin vivoの基礎研究によって明らかにすることである。スナネズミー過性脳虚血モデルを用いて、漢方薬の経口投与の海馬CA1領域の錐体細胞の遅発性神経細胞死に対する効果、脳虚血後の海馬及び皮質における過酸化脂質(LPO)、一酸化窒素(NO)代謝物、スーパーオキサイド(O_2^<-・>)とヒドロキシルラジカル(HO^・)消去活性、ならびに抗酸化酵素活性に及ぼす効果について検討した。漢方薬は虚血7日前から、最長で7日後まで投与した。その結果、漢方方剤・釣藤散あるいは生薬・釣藤鈎の経口投与は、虚血7日後の海馬CA1領域の錐体細胞の遅発性神経細胞死を抑制した。また両者とも、虚血後の海馬におけるLPOとNO代謝物の生成を抑制した。虚血を行わない実験で、釣藤散あるいは釣藤鈎の経口投与は、海馬及び皮質ともにO_2^<-・>及びHO^・の消去活性を増強し、虚血後も海馬及び皮質ともにO_2^<-・>及びHO^・の消去活性を増強した。抗酸化酵素活性については、スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)及びグルタチオンパーオキシダーゼ(GSH-Px)を測定した。虚血を行わない実験では、海馬及び皮質ともにCAT活性が上昇したが、SOD及びGSH-Px活性は変化がなかった。虚血後のCAT活性は、釣藤散あるいは釣藤鈎投与によって海馬及び皮質ともに増強を認めた。以上の成績より、一過性脳虚血モデルにおいて釣藤散あるいは釣藤鈎の経口投与は遅発性神経細胞死に対して保護作用を有し、その機序の一つとして脳内のCAT活性の増強を介する抗酸化作用の関与が示唆された。
著者
平田 雅博
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

日本におけるイギリス史の研究史は、国内史それも事実上イングランド中心であり、民族的にはアングロサクソン民族中心、人種的には白人中心にイギリスの歴史が叙述されてきたが、植民地を含んだ帝国史、ケルト地域(ウェールズ、スコットランド、アイルランド)なり、ケルト民族、非白人を含んだ枠組みがなかなか提示されてこなかった。近年、帝国史の枠組みの提示によって、強固だった国内史の狭い枠組みもようやく本格的に再検討されつつあるし、ケルト周辺を含み込んだ枠組みの提示によってイングランド中心の枠組みも克服されつつある。しかし、残された「非白人」を包摂した枠組みの提示はいまだ不十分でしかない。本研究は、研究代表者が従来から取り組んでいる「帝国史」の枠組みを設定した上で、「非白人」の観点を取り入れて、一次史料によって、イギリスにおける黒人史研究に取り組んできたことの成果である。研究全体としては、在英黒人の存在や実態を扱った面と在英黒人をめぐる意識の問題として人種差別主義の歴史を扱った面に分けた。前者では、時期的は一八世紀末を限定しながらも、空間的にはイギリス国内にとどまることなく、アメリカとアフリカを含めた分析をしている。後者では複雑きわまりない人種差別主義の歴史を捉えるの有効な「長期的展望」を取り入れて、黒人に対する意識の歴史的変遷を検討した。17世紀から20世紀まで、人種の悪魔学、プランター利害に立つ人種差別主義、疑似科学的人種差別主義、二〇世紀の「文化のレイシズム」と区分して、順次検討した。
著者
王 伸子
出版者
専修大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

日本語教育における音声指導について、学習者が取り組める活動として、プロのナレーター等が活動広報のために作成する「ボイスサンプル」に着目して、その教材化と効果について研究した。その成果を、学科における口頭発表、雑誌への論文発表でおこない、国内外でのワークショップも実施し、招待講演も実施することができた。また、ボイスサンプルの教材化についてのホームページを開設し公開した。大きな成果としては、所属大学でナレーションのボイスサンプルを日本語表現として学ぶ専門科目「日本語表現論1」を開設できた。この研究を通じ、ナレーターとのパイプができたので、引き続き日本語教育の教材作成の研究にも繋げていく計画である。
著者
MCKAY EUAN
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

近年、LGBT(Lesbian、 Gay、 Bisexual and Transgender)に代表される性的少数者に関する権利拡大の動きは日本を含めて世界的にみられる。本研究では、大学に通うLGBT当事者に対してインタビュー調査を行い、かれらが大学生活において抱える具体的な困難やニーズを質的に明らかにする。その結果から、LGBTに対する大学のサポート体制や学生の主観的体験が学生の精神健康度や学業の動機づけにどのように影響するかについて仮説を生成し、Web調査にて量的に仮説を検証する。本研究の結果から、LGBTを含む多様性に開かれた大学環境を実現するうえで有益な知見を提示できると考えられる。
著者
天池 庸介 増田 隆一 佐々木 瑞希 中尾 稔
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

近年、北海道において都市に定着するキツネ(“都市ギツネ”)の個体数が増加しており、キツネと野ネズミを宿主とする寄生虫エキノコックスのヒトへの感染リスク増加が懸念されている。そこで本研究では、都市部におけるエキノコックスの感染リスク評価とその伝播メカニズムの解明を目的として、都市ギツネと野ネズミを対象に生態遺伝学的および疫学的調査を実施し、個体群密度や分散パターン、地域毎のエキノコックス感染率などを明らかにする。本研究の成果は感染症予防対策の構築に寄与する。
著者
伊藤 英臣 菊池 義智 佐野 友紀
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では魚類腸内細菌叢の機能解明モデル開発に向け、優れたモデル魚類のメダカに着目し、その腸内細菌叢に関する基礎情報を得ることを目的とした。室内飼育メダカと野生メダカの腸内細菌叢の群集構造を比較解析した結果、人工的な飼育環境下では本来の野外環境下とは大きく異なる腸内細菌叢が形成されることが示唆された。またメダカの、エラ、表皮粘膜、背ビレ、腸、腸内容物、そして卵の細菌叢を比較解析した結果、各組織にはそれぞれ特異的な細菌叢が形成されることが示唆された。
著者
咲間 妙子
出版者
帝京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

レム睡眠行動障害(RBD)は,約80%がパーキンソン病やレビー小体型認知症などのアルファシヌクレイノパチーに発展する.本研究では,中枢性過眠症であるナルコレプシーへのRBD合併率を明らかにした.また,RBD患者においてレビー小体型認知症の中核症状である幻視と類似現象である錯視がみられることを明らかにした.次いで,錯視誘発検査と嗅覚検査・認知機能検査をナルコレプシーおよびRBD合併型ナルコレプシー患者に実施し,RBD/アルファシヌクレイノパチー関連所見がどの程度みられるのかを検討し,ナルコレプシー合併型RBDは特発性RBD例とは異なり同所見は認められず病態が異なることを明らかにした.
著者
志摩 典明
出版者
大阪府警察本部科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2019

睡眠薬は、強姦等の性犯罪・殺人等で悪用されることが多く、被害者を対象とした睡眠薬分析が、犯罪立件への強固な客観的証拠となる。特に、このような事案の鑑定においては、睡眠薬の検出に加えて、摂取時期や摂取量の特定が重要となる。本研究では、「薬物摂取量」の推定法について検証した。その結果、「薬物摂取量」と「頭皮近接部位から取り込まれた薬物量」は良好な比例関係を示しており、概ねの薬物摂取量を推定できることが示された。
著者
荒木 健治 笹岡 久行 広重 真人 栃内 香次
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

最終年度である平成15年度は平成14年度に行なった基礎実験に基づいて作成された実験システムを用いて性能評価実験とその結果明らかとなった問題点の改良を行なった.具体的には実環境下でビデオカメラを固定し,その手前に飼い主がいるという設定で限定された呼びかけに対するシステムの精度,使い勝手の評価を行なった.対象動物は猫である.評価基準としては「非常に満足,やや満足,やや不満,非常に不満.未応答」という5段階を用いた.実験の結果,総合では「非常に満足」が67.2%であるが,ユーザや対象動物に対するシステムの適応が進んでいない前半では「非常に満足」が46.9%であり,後半では87.5%と非常に高くなっている.このことは本手法の有効性を示しているものと考えられる.さらに,音声認識結果が誤りとなった場合のシステムの動作について考察したところ音声認識結果に誤りがある場合でも総合で「非常に満足」が49.3%であるが,後半だけでは73.5%となり音声認識誤りについても音声認識誤りを含む実例からのルールの獲得やフィードバック機能により正解となる場合が多く見られた.今回行なった改良は動物の動作の認識として動物の写っている画像においてその画像における動物の割合によって動物が現在どのくらい離れているのかを近距離,中距離,遠距離の3段階に評価を行い,動物が近づいて来たのか,そのままとどまっているのか,遠ざかったのかの判断を行なうという機能の追加である.本研究課題の研究機関である2年間において動物の行動とユーザの発話よりユーザの意図する動物の応答をシステムが代行できることの可能性が示された.また,そのようなシステムを使用することの有効性を性能評価実験により確認した.今後は本研究課題で達成された成果を基にさらに実用化に向けてシステムの改良を行なう予定である.