著者
竹中 悠人 石水 毅
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.96-102, 2020-05-20 (Released:2021-06-01)
参考文献数
26

ペクチンは植物細胞壁の構成多糖の一つで,13種類の単糖成分,30種程度の糖結合様式を含む複雑な構造をしている.このペクチンの生合成には30種程度の糖転移酵素が関わっていると考えられている.しかし,ペクチン構造の複雑さ,遺伝学の適用のしにくさのため,それらの糖転移酵素遺伝子の同定は進んでいない.我々は「逆生化学」的手法を適用して,新たな糖転移酵素ファミリーGT106を見出し,そのうちの一つのサブファミリーがペクチン主鎖を生合成するラムノース転移酵素であることを突き止めた.シロイヌナズナには34種類のGT106酵素遺伝子がコードされているが,ペクチン関連遺伝子との共発現解析などから,GT106にはペクチン生合成に関わるものが多く含まれると考えている.「逆生化学」的手法の確立とGT106の発見により,ペクチン生合成機構解明への幕が開いたと捉えている.この総説では,ペクチン生合成・生理機能の研究の現状を解説し,この分野の今後の楽しみな展開について述べる.
著者
赤崎 秀一 峰松 義博 吉塚 直伸 芋川 玄爾
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.41, 1988 (Released:2014-08-08)

皮膚角層の水分保持に重要な働きが示唆されている角質細胞間脂質(SCL)の物理化学的性状及びSCL配合クリームの乾燥落屑皮膚改善効果(角層水分保持機能改善効果)について検討した.その結果,1)SCLはin vitroで多量の水の存在下でラメラ構造(両親媒性物質と水との会合体)を形成することが,偏光顕微鏡観察により確認された.2)SCLの角層水分保持機能改善効果発現に際しては界面活性剤の基剤への添加が必要であり,検討した界面活性剤の中ではグリセリルエーテル(GE)が最も高い改善効果を示した.3)ヒト前腕部からアセトン/エーテル処理で単離したSCLを薄層クロマトグラフィーでコレステロールエステル,遊離脂肪酸,セラミド,糖脂質画分に分け,それをW/Oタイプクリーム(ベースクリーム)に分散させ,これを同処理により生じた乾燥落屑状態の皮膚へ1日/1回,数日間塗布した.その結果各脂質画分配合クリームではいずれも,ベースクリームではほとんど認められない,水分保持機能の有意な上昇を伴う,乾燥落屑状態の有意な改善が認められた.4)セラミドの改善効果を更に確認するために,市販の牛脳由来のセラミドを検討したところヒト角層由来のものと同様な角層水分保持機能改善効果が認められた.SCL配合クリームによるSCLの除去により生じた乾燥性皮膚への改善効果は,角層細胞間においてSCLの膜構造が補強,再構築され,角層の水分保持機能が高まった結果と推察される.またこの際,GEのような特殊な界面活性剤の添加はSCLの角層への浸透性を助け,ラメラ構造の形成を促すものと考えられる.以上より角層水分保持機能に関与する因子として,角質細胞間脂質の重要性か確認され,中でもスフィンゴ脂質(セラミド)の主要な役割が明らかとなった.
著者
久保田 修 落合 巧 小川 祐子 横山 明子 長尾 住代 松下 重子 高橋 芳子 今坂 純奈 木部 美帆子 野中 佳子 村松 富子 佐藤 五夫
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.626-632, 2010 (Released:2013-07-31)
参考文献数
19
被引用文献数
2

目的:適切なBMIを維持する事が健康長寿にとって重要であるので,どのような生活習慣がBMIに関連するのかを明らかにする.方法:当院健診センターを受診した6,826人を対象とし,生活習慣に関する質問事項と計測したBMIの関連性について統計学的に比較検討した.結果:年代別BMIの分布では男性では30~50代の中年層で高く,女性では20代と30代の若年層で低い傾向がみられた.男女とも食べる速度が速い群と遅い夕食を摂る群でBMI高値であったが,運動習慣や睡眠の満足度との関連性は認めなかった.男性では夕食後に間食がある群と3合以上飲酒する群でBMIが高く,喫煙者,日常生活での身体活動がある群,歩行速度が速い群,毎日飲酒する群で低値であった.女性では朝食を抜く習慣がある群でBMIが高値であった.結論:保健指導においては,禁煙,運動,適度な飲酒などはもちろんのこと,ゆっくり食べることと遅い時間に食事を摂らないことを指導することが特に重要である.
著者
増田 美奈
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 = Memoirs of the Faculty of Human Development University of Toyama (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.21-30, 2017-03-31

本論文は,D.J. クランディニンらが提起する「カリキュラム・メイキング」において教師が「緊張関係を生きる」とはいかなることか,デューイの探求理論における「享受」概念を手がかりに解釈することを目的とする。考察を通して,緊張関係を享受すること,享受した緊張関係の質を見極めること,それらを通して緊張関係を感じた状況からより良い状況に前進させるための次の探求を開始すること,という一連の省察活動が,「カリキュラム・メイキング」において教師が「緊張関係を生きる」ことであることが明らかとなった。
著者
横川 哲朗
出版者
福島県立医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

呼気検査の心不全患者における有用性について検討した。非虚血性心不全患者102名を対象として、呼気中のアセトン濃度を測定した。その結果、呼気アセトン濃度が右心カテーテル検査における血行動態と関連していた。また、35名の心不全のある糖尿病患者と20名の心不全のない糖尿病患者の呼気アセトン濃度を比較したところ、糖尿病患者においても心不全で呼気アセトン濃度が上昇していることが分かった。さらに急性心不全においても、呼気アセトン濃度が治療後に低下することを示した。心不全に対する呼気低分子化合物の中でも、呼気アセトン濃度が有用な非侵襲的バイオマーカーとなる可能性が示唆された。
著者
野添 文彬
雑誌
沖縄法学 = Journal of the Association of Law, the Okinawa International University (ISSN:02870649)
巻号頁・発行日
no.48, pp.1-22, 2020-03

日本学術振興会科学研究費若手研究「沖縄への米軍基地集中に関する外交史-三つの局面の分析(研究課題番号18K12737)」の研究成果である
著者
柳 幹康
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.516-510, 2016

<p>This paper reports a careful investigation of the citations of the <i>Zongjing lu </i>宗鏡録 (Record of the axiom mirror) in the <i>Kōzen gokokuron </i>興禅護国論 (Introducing Zen to protect the nation), with special attention to the background and intentions of Eisai's 栄西 (1141–1215) use of the <i>Zongjing lu</i>. </p><p>There are four examples of citations of the <i>Zongjing lu</i> in the <i>Kōzen gokokuron</i> which use can be roughly divided into three. (1) In the first two citations, Eisai uses the <i>Zongjing lu</i> to refute the criticisms of the Tendai sect that Zen "has an evil misunderstanding of the doctrine of emptiness" (悪取空) and are "falsely enlightened" (暗証). (2) In the next example, Eisai cites the <i>Zongjing lu</i> to differentiate himself from Nōnin 能忍, who "lacks practice and cultivation" (無行無修), and to refute Tendai, which oppressively viewed them as the same. (3) In the last example, Eisai uses the <i>Zongjing lu</i> as a skillful means for entering Buddhist practice based on the point that it collects important phrases from the Buddhist canon. </p><p>From the above it can be seen that Eisai, under the specific conditions of the Tendai sect suppressing Nōnin and Eisai, used the <i>Zongjing lu</i> to prove that the new Zen he brought was an orthodox Buddhism not in contradiction to Tendai or the other then-extant sects of Japanese Buddhism.</p>
著者
阿部 邦子
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.35-52, 2021

秋田蘭画は 18 世紀の洋風画で武人画であり、その厳格な作風は、当時流行した西洋の透視遠近法を取り入れ、更にレンズで覗き見る眼鏡絵とは一線を画していると見られがちだが、風景図の主題や構成に関しては、近似点がみられる。特に主題は、浮世絵版画で盛んにとりあげられた江戸や江戸近郊の景勝地に取材しており、文学的発想とも不可分である。この論稿では近年千秋美術館収蔵となった秋田蘭画の眼鏡絵作品を通して、江戸洋風画の原点となっている秋田蘭画に於ける風景図と、眼鏡絵との関係についての調査研究結果を述べる。