著者
寶珠山 務
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.187-193, 2003 (Released:2004-09-10)
参考文献数
42
被引用文献数
7 11

いわゆる過労死は, 医学的な概念ではなく, 過重労働により虚血性心疾患や脳血管疾患など致死的職業性疾病が発症したと判断されて労災補償認定がなされたものを指す. 近年の文献レビューから明らかになったことは, 1) 多くの研究で過重労働は心血管系疾患の発症やリスク因子の増悪を促進することが支持されていること, 2) 過重労働により死亡リスクを直接示した研究報告は今のところなされていないこと, および3) 過重労働による健康障害は労働者の特性により変化し得ることである. いわゆる過労死の最近の認定割合は増加傾向にあり, 1988年度の3.1%から2001年度には20.7%に達したが, これは認定基準の改正と関係があると思われる. 認定基準に盛り込まれた過重労働があるか否かの判断の対象になる期間は, 1987年に示されたものには1週間であったが, 2001年に示された最新のものでは最長で6カ月まで拡張された. 社会学的な分析によれば, 日本の長時間労働は, 労働時間制度だけでなく, 労働に関する社会文化的背景と関係することが指摘されている. 2002年に厚生労働省から発表された過重労働の健康影響の予防対策は, いわゆる過労死の発生予防を目的とした初めての政策であり, 全ての労働者にひと月の残業時間が45時間を超えないように求めたもので, さらに, それが100時間を超えた労働の実態があった場合は, 当該労働者および事業場へ指導が課されることになっている. その政策は全労働者を一律に対象とするPopulation strategyであり, 特定のリスクファクターを有する労働者などを対象にしたHigh-risk strategyではない. その施策の実施にあたって, 弾力性のある活用, 例えば, 高齢労働者や高ストレス状態にある労働者に対し, 職場の生産サイクルと歩調を合わせた管理を強化すること等で, より実効性のある成果が得られるものと思われる. 特に, 産業医や産業看護職などの産業保健専門職は, いわゆる過労死問題の解決への重要な役割を果たし得ると思われ, 政策決定のエビデンスの確立を目指した調査研究への取り組みやさらなる対策への進展にも関与することが期待される.

3 0 0 0 OA 大日本古文書

著者
東京帝国大学文学部史料編纂所 編
出版者
東京帝国大学
巻号頁・発行日
vol.家わけ九 別集, 1932
著者
澤田 晋一
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.458-467, 2011-12-15 (Released:2016-08-31)
参考文献数
13

東日本大震災後の復旧・復興作業を遂行する上で,夏の暑さと冬の寒さは不可避である.その上,がれきの撤去作業や除染作業では,粉じんや電離放射線からの防護と安全対策のために,マスク,ヘルメット,防護服,安全手袋,安全靴などの労働衛生保護具を着用しなければならない.これらの作業条件は夏季には作業者への暑熱ストレスを過酷なものにする.冬季の復旧・復興作業は特に被災地の大半が東北地方の太平洋沿岸の寒冷地域であることから,しばしば風雪や冷たい降雨に曝されて厳しい寒冷作業になる.本稿では,このような復旧・復興作業を遂行する上で懸念される暑熱,寒冷負担と健康障害の病因,病態,兆候について,温熱生理学的観点から概説した.またこれらの健康リスクを予防するための方策について,暑熱,寒冷ストレスの測定・評価法とそれにもとづく労働衛生管理対策のありかたに焦点をあてて論じた.
著者
坂井 妙子
出版者
山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.25-36, 1996-03-25

豪華なフルコースがでる披露宴と三段重ねのケーキ,友人達のかける花吹雪に見送られてヨーロッパへハネムーンという結婚式のイメージは今では西洋だけでなく日本でさえ当たり前となっているが,結婚披露宴やハネムーンにまつわるこのような習慣は,実は意外に新しく19世紀末イギリスで確立した。そしてこの習慣の確立には中産階級が大きく関与したと考えられる。本論文ではヴィクトリア朝中産階級の経済力の向上,階級意識の変化および19世紀末に本格化したコマーシャリズムと技術革新が現代の結婚式の基礎をつくった,という視点から19世紀イギリス中産階級の結婚式を解釈する。カップルへの贈り物,結婚披露宴,ハネムーンに現われるヴィクトリア朝中産階級の価値観を考察すると共に,現代の贅沢ではあるが画一化された結婚式のルーツを探る。
著者
武田 邦彦
出版者
公益社団法人 日本工学教育協会
雑誌
工学教育 (ISSN:13412167)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.12-16, 1998-01-30
参考文献数
14
被引用文献数
4 2

工学備理教育では,(1)近代工学が社会に与えた精神界への打撃,労働の追放,環境の破壊などの事実内容についての講義,(2)工学倫理の自然科学的合理性,工学の社会に対する合目的性,工学の一方向性などの考え方についての講義,及び(3)原子爆弾投下,エイズ問題,遺伝子操作による動物の飼育などの主要な事例研究と演習,さらに(4)工学倫理組合の結成,労働形態の変更など社会生活への働きかけの可否などの講義と討論をもとに構成するのが適当であると考えられる。また,工学的内容を持つ事例の講義とその倫理学的哲学的内容を教授することが必要な工学倫理教育では複数の教育者の共同教育が必要であろう。
著者
田内 悠太 荻野 智之 森沢 知之 大松 重宏 坂本 利恵 和田 陽介 道免 和久
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.1099-1105, 2018-11-10

要旨 【目的】介護支援専門員(ケアマネジャー,care manager;CM)を対象に,心不全疾患理解度とケアプラン状況を把握することを目的とした.【対象・方法】2016年9月時点での兵庫県丹波医療圏域内に登録してある60か所の事業所に在籍しているCM 152名に対し,郵送法にてアンケート調査を実施した.【結果】回収率は71.7%.CMの心不全の疾患理解度は高かった(72.0%)が,ケアプラン作成においては「運動・活動量」の症状を反映しておらず,心不全モデルケースに対して身体活動量を維持・向上させるための運動支援系サービスの選択は少なかった.医療情報の収集では医師からは直接的に得ていたが,コメディカルからは書面上で間接的に得ており,情報提供書の有効性が高かった.【結語】CMの心不全疾患理解度に比して運動支援系サービスの選択が少ない原因として,身体活動量を含めた運動療法の重要性の認識が低く,在宅心臓リハビリテーションを推進するうえでの課題になっていると考えられた.
著者
苅谷 剛彦 安藤 理 有海 拓巳 井上 公人 高橋 渉 平木 耕平 漆山 綾香 中西 啓喜 日下田 岳史
出版者
東京大学大学院教育学研究科
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.51-86, 2007

For academic high school students in local areas, it is necessary to make geographical transition from their home town to cities to go to ""good"" universities, while others may decide to remain their home countries to go to local colleges. What factors differentiate students into those two routes to have higher education? For what sake do some students decide to leave for large cities, and others to stay in their home town? This study pays attention to geographical mobility of students in top rank academic high schools in Japan. We administered a survey of 3,767 senior students in 12 high schools, all of which admit academically top students in their areas in 2006 and 2007. By analyzing the survey data, we will explore the following research questions: 1. What factors, including structural and socio-psychological, influences students'decision of mobility both at college entrance and future job entry? 2. What reasons lead them to pursue ""elite"" universities? Which goals either for self -realization or contribution to the society give rationale to apply for those universities? Are there any different mechanisms of this determination between high schools in large cities and rural areas? 3. What factors influence the formation of students'consciousness to contribute to the society? Do school experiences raise such consciousness? What school activities and cultures affect it? The data analyses shows that academic high schools in local communities have power to influence students'mobility and creating consciousness for devoting for the society.
著者
大石 正信 中島 康晴 岡崎 賢 福士 純一 久保 祐介 播广谷 勝三 松本 嘉寛 林田 光正 岡田 誠司 小山田 亜希子 岩本 幸英
出版者
日本関節病学会
雑誌
日本関節病学会誌 (ISSN:18832873)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.475-480, 2016 (Released:2017-12-15)
参考文献数
12

Ankylosing spondylitis (AS) is a chronic inflammatory disorder characterized by bone formation, syndesmophytes, and ankylosis of the sacroiliac joints and spine. Recently, tumor necrosis factor inhibitors such as infliximab and adalimumab have been shown to be efficacious for AS. However, patients with AS often suffer from arthralgia and problems related to ankylosis of the spine due to the delay in the diagnosis of AS. Those patients often benefit from surgical treatments. We have treated total of 72 patients with AS in our hospital. Among them 32 operations were performed on total of 19 patients. Total hip arthroplasties were the most performed surgical procedure. Surgeries for spinal fractures and spinal deformity have also been performed.
著者
山下 進
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.193-200, 2007 (Released:2008-02-25)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

【背景】尿中の3-メチルヒスチジン(3-methyl histidine, 3-MH)は筋タンパク異化の程度を反映する指標とされている.近年ではより短時間のタンパク代謝を評価する方法として,血中の3-MHが用いられることがある.しかし,これまでにヒトでの測定報告は少なく,その基準値は決められていない.【目的】健常成人における血中3-MHの基準値(範囲)を求め,重度侵襲患者の血中3-MHと比較する.そして侵襲時,タンパク異化の指標と成り得るかを検討する.【方法】健常成人101名の血中3-MHを高速液体クロマトグラフで測定した.重度侵襲患者6名の血中3-MHを経日的に測定し,基準値と比較した.また,血中アルブミン,急性相タンパクおよび尿中3-MHを経日的に測定し,タンパク代謝を評価した.【結果】健常成人の血中3-MHの基準範囲は0.91~5.59 nmol⁄mlとなった.男性では1.22~6.26 nmol⁄ml,女性では1.09~4.41 nmol⁄mlであり,男性が有意に高値を示した(p<0.05).筋肉量による補正のために3-MH⁄血中クレアチニン値(3-MH⁄Cre)を算出すると,男女差がなくなり,健常成人全体では0.13~0.53 nmol⁄μg Creが基準範囲となった.重度侵襲患者では健常成人に比して血中3-MH⁄Cre値は有意に高値であり(0.59±0.12 vs 0.33±0.10 nmol⁄μg Cre, p<0.05),筋タンパクの異化亢進が示唆された.重度侵襲患者の血液では3-MH⁄Creとアルブミン,急性相タンパクにそれぞれ相関を認めなかった.【結論】健常成人の血中3-MH⁄Creの基準値を設定した.筋肉量の差があるために男女別の基準値か,クレアチニン値で補正した値を用いる必要がある.重度侵襲患者では明らかに血中3-MH⁄Creは上昇し,タンパク異化亢進が強く示唆された.

3 0 0 0 OA 故実叢書

著者
今泉定介 編
出版者
吉川弘文館
巻号頁・発行日
vol.軍用記(伊勢貞丈), 1906
著者
岩科 智彩 吉田 光男 伊藤 貴之
雑誌
研究報告ユビキタスコンピューティングシステム(UBI) (ISSN:21888698)
巻号頁・発行日
vol.2018-UBI-60, no.24, pp.1-7, 2018-11-27

情報発信ツールとして利用されている SNS (Social Networking Service) は,現在でも団体や個人による情報拡散を目的とした利用例が増加している.SNS の中でも特に Twitter は気軽に拡散 (リツイート) できることで知られ,その日本国内での利用は著しい.本研究では,Twitter 上で影響力のあるユーザ (キーパーソン) のリツイートユーザ (リツイーター) に焦点を絞り,時間データを使用して情報拡散におけるリツイーターの行動パターンを可視化する.また,その可視化画像から観察されるキーパーソンごとの情報拡散の性質について,ツイート内容とリツイーターの側面から考察する.
出版者
日経BP社
雑誌
日経コミュニケーション (ISSN:09107215)
巻号頁・発行日
no.583, pp.18-21, 2012-08-01

キャリアFMCタイプは、回線交換型なのでVoIPタイプのような音質の心配がない。携帯大手3社は内線FMCサービスを2009年から従来型の携帯電話向けに提供しており、スマートフォンでもそのまま使える。KDDIで2200社以上(昨年11月時点)と導入実績も多く、定番のサービスとなっている。 最大の弱点は、携帯電話からの外線発信は通話料削減の対象外な点。
著者
河合 久
巻号頁・発行日
2003-03

この研究では、主に米国で開発されているルーブリックについて調査研究をした。調査研究は下記のことを中心に行った。・ルーブリックに関する海外の文献調査・インターネットを利用して様々な学習場面で使われているルーブリックを収集・既存のルーブリックを日本の学校の授業で実際に使用し、その効果を調査・ルーブリックの信頼性を高めるための方策の研究成果として、ルーブリックを使用することで下記のような利点があることが明らかになった。・評価がより客観的で首尾一貫したものになる・評価基準を事前に示すことで、児童生徒はどのように評価され、どのようなことが期待されているかが分かり、不安が減り、学習が促進される・学習の進歩を測定するための判断基準となり、児童生徒や保護者に対する学習進捗状況の説明責任を果たすことが容易になるルーブリックの使用で教育成果を上げることができるとはいえ、問題がないわけではない。ルーブリックがあれば直ちに誰でも客観的で首尾一貫した評価ができるというわけではなく、やはり評価者を対象にしたトレーニングが必要であるということが多くの利用者から指摘されている。そこで、海外のウェブサイトから教師の研修で使われているサンプルを紹介した。具体的な生徒の作文に対するルーブリックによる採点のトレーニングができるような仕組みがなされているものである。平成14年度から日本の小中学校で「総合的な学習」が始まり、学校ではその評価をどのようにするかということが当面の課題になっている。海外ではプロジェクト学習等の課題追究型の学習でルーブリックが盛んに利用されている。国際バカロレアのプログラムにも同様な学習があるので、その中から中等教育課程のパーソナルプロジェクトとディプロマ・プログラムのCASの評価基準と評価方法を紹介した。ルーブリックという語はこれまで日本の教育現場で耳にすることはなかったが、最近、ポートフォリオ評価という語とともに教育論文や図書で見かけることが増えてきた。しかし、それらの論文や図書においてもルーブリックに焦点を当てて紹介しているものはないので、実践的な側面を持っているこのルーブリックの研究と開発は意味のあることと考える。その研究と開発の手がかりになることを願い、インターネットを利用することによりルーブリックが入手できる主な海外のウェブサイトをまとめ報告書に紹介した。