著者
有元 伸子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は、広島県上下町出身の女性作家・岡田(永代)美知代(1885-1968)について、田山花袋の「蒲団」のモデルとしてのフィルターを排して、一人の女性作家として総合的に評価し直すことである。文献調査やインタビュー実施によって詳細な著作リストや年譜を作成した。また、生前未発表原稿の翻刻紹介を行なうとともに、残された作品や書簡を解析し、花袋との関係や地域性・労働・少女小説といった観点から、美知代の文学の特質を解明した。さらに、著作権継承者の許しを得て、これらの成果をホームページで公開し、広く研究と普及に寄与させた。
著者
生田 久美子 吉國 陽一 尾崎 博美 畠山 大 岩田 康之 八木 美保子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、「教える」専門家としての教員養成の根幹が問われる中で、学問としての「教育学」が果たすべき役割を明らかにすることを目的とする。具体的には、以下の2点の解明を目指す。①「教える」専門家がもつ「高度な専門性」の特徴を明らかにする。②「教育学」と「教える」専門家の養成との間の歴史的・制度的な関係性を明らかにし、「教育学」に基づく「教える」専門家養成システムの在り方を提示する。以上の2つの目的の達成を、教育哲学・教育思想、教育史、教育制度・教育行政、教育実践の4つの専門領域から検討することを通して、「教える」専門家の養成を学問として構築する「教育学」のあり方(モデル)の提示を目指す。
著者
石戸谷 重之 遠嶋 康徳 坪井 一寛 後藤 大輔 丹羽 洋介 村山 昌平 田口 彰一 松枝 秀和 森本 真司
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

大気中アルゴン濃度は海水温変動に起因してごく僅かに変動するため、高精度観測から広域平均の海洋貯熱量変動の情報が得られると期待される。本研究では開発した大気中アルゴン、酸素および二酸化炭素濃度等の高精度同時観測装置を用いて、つくば市における連続観測と、落石岬、高山市、波照間島、南鳥島および昭和基地において保存容器に採取した試料の分析により大気中アルゴン濃度の広域観測を行なった。各サイトで観測されたアルゴン濃度は夏季に極大値を示す明瞭な季節変動を示し、比較的長期の観測結果が得られているつくば市および波照間島のアルゴン濃度には、海洋観測に基づく全球の海洋貯熱量の変動と相関した年々変動が見られた。
著者
早瀬 和利
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-10-21

本研究の目的は,脳タンパク質合成を例として,脳機能におけるタンパク質非構成アミノ酸であるGABAの役割について,調節メカニズムを明らかにすることである。今年度は,GABAによる脳タンパク質合成の調節における成長ホルモンの役割をさらに明らかにするため,GABAの投与方法並びに消化管ホルモンのグレリンの体内濃度について検討した。24週齢の雄ラットをmeal-feedingに慣れさせた後3群に分け,2群には20%カゼイン食,残りの1群には20%カゼイン+0.5% GABA食を単回摂取させ,3時間後に解剖した。20%カゼイン食摂取群の1群には,30 mg/100gBWのGABAを,残りの2群には生理的食塩水を,解剖前1時間に静脈注射した。血中成長ホルモン濃度,血中グレリン濃度をELISA法により決定した。GABAの投与方法として,静脈注射による投与では,血中成長ホルモン濃度は変化せず,食餌から20%カゼイン+0.5% GABA食として投与した場合は,GABA摂取によりこれまで同様有意に血中成長ホルモン濃度が増加した。同様に血中グレリン濃度についても,食餌よりGABAを投与した時のみ,有意に増加した。グレリンは,成長ホルモン分泌促進作用が知られており,以上の結果から,GABAによる脳タンパク質合成速度の増加において,GABAが体内グレリン濃度を上げることにより,成長ホルモンの分泌を増加させ,脳タンパク質合成を促進する可能性が示唆された。
著者
千田 金吾
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

特発性間質性肺炎(IIP)とEpstein-Barr virus(EBV)との関連を検討し,以下の知見を得た。病理組織学的に確診されたIIP29例と,肺線維症を有する全身性進行性強皮症(SSc-IP)の5例を対象とし,生検時に得られた肺組織を検討材料として以下の項目を検索した.対照としては,15例の正常部分肺を用いた。1)PCR法による肺組織中のEBV genome DNAの検出:肺組織より抽出したDNAを用い,two-step PCR法を用い,標的遺伝子の存在の有無を検討した。2)肺組織におけるEBV latent membrane protein 1(LMPl)に対する免疫染色:抗LMP1モノクローナル抗体を一次抗体とし,SAB法にて免疫染色を施行した。さらに,IPF症例のLMP1染色陽性例と陰性例について,その臨床像を比較検討した。その結果,1)two-step PCRでのEBV genome DNAの検出頻度はIIP24/25例(96%),SSc-IP5/5例(100%),対照10/14例(71%)であり,IIPにおける検出頻度は対照に比し,有意に高率であった(p<0.05)。2)IIP29例中9例の肺胞II型上皮に,LMPlに対する免疫染色が陽性であった。一方,SSc-IP症例と対照例は全例陰性であった。経過観察が可能であったIIP20例において,PaO_2値が15torr以上低下した症例を"進行例"として予後調査を行った結果,LMPl陽性7例中5例(71%)が"進行例"であったのに対し,LMPl陰性例の"進行例"は13例中1例(8%)のみであり,有意差が認められた(p<0.01)。これらの結果は,IPFにおけるEBVの病態的関与を示すものと思われた。
著者
吉田 和也
出版者
独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

(目的)本研究の目的はインプラント埋入手術の際に使用されるサージカルテンプレートを応用してボツリヌス毒素を外側翼突筋に正確かつ簡単に注入する方法を開発することである。(方法)対象は不随意の開口を生じ、咀嚼障害や構音障害を主訴とする開口ジストニア17例(男性9例、女性8例、平均年齢47.6歳)とした。上顎の石膏模型をスキャンしたデータとCTデータをコンピュータ上で重ね合わせた。サージカルテンプレートを分析するソフトNobelClinician(ノーベル・バイオケア・ジャパン社)を用いて、注射針の先端が外側翼突筋下頭内の最も理想的な位置となるよう、両側2本ずつアンカーピンとして設計し、光造形法で刺入用ガイドを作製した。ガイドを患者の口腔内に確実に装着し、注射針をアンカーピンのスリーブに挿入し、筋電計で針先が筋内にあることを確認し、生理食塩水で希釈したボツリヌス毒素(ボトックス: グラクソ・スミスクライン社)を25-50単位注入した。顎口腔領域のジストニアの客観的評価法3を用いてボトックス注射の治療効果と合併症をガイドの有無で比較した。(結果と考察)ボツリヌス療法をガイドなしで31回、ガイドを装着して30回行った。注射針の刺入はきわめて容易で、偶発症はまったくみられなかった。ガイド使用によって(63.0%)、ガイドなし(54.1%)より有意に(P<0.002)客観的評価法による改善度が上昇した。本法は外側翼突筋へのボツリヌス治療の際に正確かつ安全な注射を行うために有用であると考えられた。
著者
中川 晴夫 山下 慎一 海法 康裕 荒井 陽一 川守田 直樹 泉 秀明
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

ニューロバイオニクスにおける血流増加作用を骨盤内臓器の血流を測定することにより動物実験においてあきらかにした。血流増加作用は刺激直後から速やかにみとめられた。骨盤内臓器において、膀胱、陰茎、前立腺のいずれにおいても血流は増加した。ニューロバイオニクスの作用機序のひとつは虚血改善作用であることが示唆される。臨床的検討においては、電ニューロバイオニクスにより大脳皮質の一次感覚野付近に反応を認め、中枢神経系に対する反応が認められ中枢神経系の関与も示唆される。
著者
青野 友哉 西本 豊弘 伊達 元成 渋谷 綾子 上條 信彦 大島 直行 小杉 康 臼杵 勲 坂本 稔 新美 倫子 添田 雄二 百々 幸雄 藤原 秀樹 福田 裕二 角田 隆志 菅野 修広 中村 賢太郎 森 将志 吉田 力 松田 宏介 高橋 毅 大矢 茂之 三谷 智広 渡邉 つづり 宮地 鼓 茅野 嘉雄 永谷 幸人
出版者
伊達市噴火湾文化研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

北海道南部の噴火湾沿岸は日本有数の貝塚密集地帯であり、1950年代から貝塚研究の中心地の一つであった。この60年以上にわたり蓄積された調査成果と、現代的な視点で行った近年の発掘調査による新たな分析は、当該地域の環境変遷と人類活動の実態の復元を可能にした。本研究では、噴火湾沿岸の遺跡データの集成と、伊達市若生貝塚及び室蘭市絵鞆貝塚の小発掘により得た貝層サンプルの分析の成果として、時期ごとの動物種の構成比を明示した。これは縄文海進・海退期を含む気候の変動期における当該地域の環境変遷の詳細なモデルである。
著者
杉本 隆成 澤本 彰三 福井 篤 岡田 喜裕 萩原 直樹 仁木 将人 郭 新宇 金子 新 郭 新宇 金子 新 田所 和明
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

駿河湾の急潮およびサクラエビの再生産環境に注目した流況と生態系の観測網を構築した。駿河湾を東西に横断するフェリーに搭載した音響ドップラー式流速鉛直プロ ファイラーADCPと、湾口および湾奥部における係留型の流速計による連続観測と、調 査船による水質およびプランクトンの隔週反復観測を中核としている。これらによって、後述するような成果が着々と得られつつある
著者
笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究は初期の神経細胞に微細なパターンを与える分子的実体を明らかにし、神経系の発生分化制御の研究に寄与することを意図したものである。(1)脳及び頭部外胚葉の「微細なパターン形成」に関与する新しい因子の同定脳及び頭部外胚葉の形成期の細胞間や組織間の「ローカルなト-ク」を媒介する因子は主として分泌因子や細胞膜蛋白などであるため、最近米国の企業の研究所で開発されたシグナルペプチドを持つcDNAを酵母を用いて迅速に単離する方法でスクリーニングすることができる。中期神経胚の頭部神経板よりこうしたシグナルトラップcDNAライブラリーを作成し小スケール・スクリーニングをおこなった結果、すでに十数個の新しい神経特異的分泌因子(または膜蛋白)を同定した。現在、これらの因子の生物活性を詳しく調べるとともに、さらに大スケール・スクリーニングをおこなっている。(2)「微細なパターン形成」に関与するChordinの下流因子の同定神経誘導因子Chordinを作用させた未分化外胚葉を用いてデファレンシャル・スクリーニングを行い、多数の神経特異的遺伝子を単離した。そのうち3つの転写因子(Zic-related 1,Sox-2,Sox-D)はこれらはごく初期神経板全体に発現しており、それらの因子の活性を検討中である。
著者
笹井 芳樹 笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

脊椎動物の神経発生の初発段階は外胚葉に神経誘導が作用して始められる。神経誘導因子Chordinを作用させた未分化外胚葉とさせていないものとを用いてデファレンシャル・スクリーニングを行い、多数のChordinで誘導される神経特異的遺伝子を単離した。そのうち3つの転写因子(Zic-related 1,Sox-2,Sox-D)はこれらはごく初期神経板全体に発現しており「微細なパターン形成」が行われる前に働く遺伝子と考えられた。アフリカツメガエルのアニマル・キャップを用いた微量注入法の解析の結果、Zic-related1,Sox-Dは単独で外胚葉の神経分化を誘導することが明らかとなった。これらはChordinの下流で働き、神経誘導因子のエフェクターとして神経分化のごく早いタイミングで働き、proneural genesの発現の上流で働くことが示された。上記の2つのSox因子についての機能解析を行うため、DNA結合領域を欠損させたドミナント・ネガチィブ変異体を作成し、mRNA微量注入法により胚での神経発生における機能を検討した。SoxDのドミナント・ネガチィブ変異体を強制発現させ機能阻害をすると、胚の大脳の発生が顕著に抑制され、OTXなどのマーカーも抑えられた。このことはSoxDが大脳原基の発生に必須であることを示す。しかし、中脳より後方の発生は大きな変化が認められなかった。一方、Sox2のドミナント・ネガチィブ変異体を強制発現させた胚では、大脳のみならず神経板全体の神経マーカーの抑制が認められた。
著者
笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

微細なパターン形成に関与するChordinの下流因子の機能解析として我々は昨年報告したChordinの下流因子の機能解析を行うためのドミナンlへ・ネガチィブ変異体を作成し、mRNA微量注入法により胚での神経発生における機能を検討した。SoxDのドミナント・.ネガチィブ変異体を強制発現させ機能阻害をすると、胚の大脳の発生が顕著に抑制され、OTXなどのマーカーも抑えられた。このことはSoxDが大脳原基の発生に必須であることを示した。また、脳及び頭部外胚葉の「微細なパターン形成」に関与する新しい因子の同定を目的として脳及び頭部外胚菓の形成期の細胞間や組織間の「ローカルなトーク」を媒介する因子を同定しようとした。中期神経胚の頭部神経板よりこうしたシグナルトラップcDNAライブラリーを作成し小スケール・スクリーニングを行った結果、十数個の新しい神経特異的分泌因子(または膜蛋白)を同定したがFloor Plate特異的に発現している新規の分泌因子はSonic Hedgehogと同じぐらい早期より発現していた。この因子KielinはChordinと弱い相同性を示したが生物学的活住は全く兄なっていた.KielinはChordinとShhで誘導され、正中部のパターン形成に関与するらしいことがわかってた。さらにCyclopsというTGF-beta系の因子でも誘導された。この因子を発現ベクターに組み込み、現在さらに詳しい検討を進めている。
著者
笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

神経誘導因子Chordinを作用させた未分化外胚葉とさせていないものとを用いてデファレンシャル・スクリーニングを行い、Chordinで誘導される多数の神経特異的遺伝子を単離した。そのうち3つの転写因子(Zic-related 1,Sox-2,Sox-D)はこれらはごく初期の神経板全体に発現していた。アフリカツメガエルのアニマル・キャップを用いた微量注入法の解析の結果、Zic-related 1,Sox-Dは単独で外胚葉の神経分化を誘導することが明らかとなった。これらは神経分化のごく早い時期にChordinの下流で働くエフェクターとして働き、proneural genesの上流で働くことが示唆された。一方、Sox-2は単独では働かず、FGFと協同的に働いて神経分化を誘導し、コンピテンスを変化させる因子と考えられた。現在、これらの因子とともに、さらに他の多くの単離された因子の活性を詳しく検討中である。このように神経誘導の初期に働く転写因子が複数同定された。それらは必ずしも重複したものではなく、神経発生での役割に違いが認められた。さらに詳細な遺伝子間相互作用を検討するために野生型、ドミナント・ネガチィブ変異体のGR融合型の転写因子を作成することに成功したので今後これらを用いて解析を進める。さらに哺乳類培養細胞の系をもちいて試験管内での神経分化制御を可能にすべく、未分化胚細胞ES細胞などにこれらの因子を遺伝子導入し、その効果を判定中である。
著者
仲村 春和 田中 英明 岡本 仁 影山 龍一郎 笹井 芳樹 武田 洋幸 野田 昌晴 村上 富士夫 藤澤 肇
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1998

「脳のパターン形成研究」班は平成10-15年の6年にわたって、最新の分子生物学的手法、遺伝子改変のテクニックなどを駆使して、脊椎動物の脳・神経系の形態形成に焦点を当て手研究を行ってきた。本研究プロジェクトでは、特に(1)発生初期の神経としての分化の決定、(2)その後中枢神経内でのコンパートメントの形成、(3)コンパートメント内での位置特異性の決定、(4)神経回路の形成の機構についての各班員が分担して研究を行った。本研究領域は6年間にわたり展開され、これまでの研究成果の項に記すように各研究班ともに成果をあげている。そこで本研究領域の成果をとりまとめ広く公表するとともに、今後の展開、共同研究の道を開くため公開シンポジウムを開催する。本年度はその成果公開のため国際公開シンポジウムを開催した。シンポジウムには海外からMarion Wassef, Andrea Wizenmann, Elizabeth Grove博士を招待し、国内講演者は本研究班の班員を中心とし、関連の研究者を加え、13人の演者による発表が行われた。シンポジウムでは、脊椎動物脳のパターン形成に関して様々な視点からの講演と討論が行われ、これまでの各演者の成果を交換するとともに今後の研究の展開、共同研究の可能性についても意見が交換された。
著者
笹井 芳樹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1998

神経予定外胚葉はまず中枢神経系原基である神経板と末梢神経原基である神経堤細胞とに分画化される。中枢神経原基・神経板は発生のごく初期に吻尾方向と背腹方向の2軸に沿って大きく分画化され、いわゆる領域特異性を獲得する。吻尾方向には大脳・間脳、中脳、後脳、脊髄が大きく区分され、背腹軸では背側(翼板)、腹側(基板)、中間部に区分される。それぞれの領域には特異的な分子マーカー(ホメオボックス遺伝子など)が既に同定されており、それらを用いて神経細胞がどの領域特異性を獲得したかを判定することが原則的に可能である。しかし、この領域特異性の上流にあって、その個性付け獲得を制御している因子については多くが不明のままである。そこで、領域特異性の上流にある神経分化の個性付け因子を系統的に遺伝子スクリーニングすることを行った。まず初期神経板で働く領域特異的分泌タンパクを系統的にシグナル・シーケンス・トラップ法によって用いて、アフリカツメガエルの系で神経管の背側に位置する非神経外胚葉に早期から発現する新規の分泌因子Tiarinを単離に成功した。H15年度は単離したマウスおよびニワトリホモローグを用いて、これちの種での機能について強制発現を用いて解析し、神経提細胞の産生促進効果を観察した。また、現在2種類のマウス関連遺伝子に関して遺伝子破壊法で機能阻害研究を進めている。研究の促進のため、ES細胞から神経前駆細胞を分化させ、これを用いた試験管内神経パターン形成のアッセイ系を確立した。この系を用いて末梢神経系を含む神経提細胞のES細胞からの分化に世界で初めて成功した。
著者
河崎 洋志 笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

近年、ショウジョウバエを用いた分子遺伝学的研究やアフリカツメガエルを用いた分子発生生物学的研究により、未分化外胚葉から未成熟神経組織にいたる初期神経発生の分子機構が急速に明らかになってきた。次の主要な問題点は、1)哺乳類の初期神経分化の分子機構と2)様々な成熟神経細胞への分化決定機構の解明である。我々はこれらの問題点を、哺乳類未分化胚性幹細胞であるマウスES細胞を用いて解析を進めてきた。まず、試験管内でES細胞を神経細胞へと分化誘導する活性をスクリーニングした。その結果、ES細胞をマウスPA6ストローマ細胞と共培養することにより、ES細胞を効率よく神経細胞へと分化誘導できることを見出し、このPA6細胞の神経分化誘導活性をSDIA(stromal cell-derived inducing activity)と名付けた。SDIA法を用いると、90%以上の細胞が、nestin陽性神経前駆細胞もしくはclass IIIβ-tubulin陽性成熟神経細胞へと分化した。また、BMPは神経細胞への分化をほぼ完全に阻害し、逆に表皮組織への分化の促進したことから、哺乳類においてもBMPは未分化外胚葉から神経・表皮への分化制御を行っていることが示唆された。SDIA法により、いかなる種類の成熟神経細胞が分化誘導されるか検討したところ、約30%がチロシン水酸化酵素陽性であった。これらの神経細胞はドーパミン-β-水酸化酵素を発現せず、また、培養液中にドーパミンが検出されたことから、機能的なドーパミン産生神経細胞であることが明らかとなった。SDIA法により分化誘導した神経細胞を、パーキンソン病モデルマウスの線条体へ移植したところ、2週間にわたり生着していることが明らかとなった。以上のように、SDIA法を用いた試験管内分化誘導は、1)ES細胞から成熟神経細胞へといたる分化過程の解析、および2)細胞移植治療への臨床応用を視野に入れた有用神経細胞の産生に有効な手法である。
著者
笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

哺乳類を含めた脊椎動物の神経系発生の開始スイッチを入れる分子は何か?という問いに答え、複雑な脳の構成原理に迫ることを目的として以下の研究を行った。神経誘導因子Chordinを用いてアフリカツメガエルの外胚葉を神経細胞に試験管内で分化させ、その際に誘導される遺伝子をデファレンシャル・スクリーニングによって単離し、3つの神経特異的転写因子(Zic-related 1,Sox2,SoxD)を同定した。mRNA微量注入による強制発現実験ではこれらの因子は神経分化を正に制御することが明らかになった。ドミナント・ネガティブ法による機能阻害実験ではSox2,SoxDは神経分化に必須の因子であることが証明された。さらに、スクリーニングを進めてさらに多くの神経誘導因子の下流遺伝子を単離した。初期発生制御因子として特に興味深いものとして、神経堤細胞特異的な転写因子FoxD3を同定した。FoxD3はWinged helix型の転写因子で、原腸胚期の半ばより予定神経堤領域に強く発現していた。mRNA強制発現により、FoxD3は未分化外胚葉細胞からSlug,twist,Ets-1などの神経堤細胞特異的マーカーの発現や色素細胞を誘導し、神経堤細胞を分化させることが判明した。現在、ドミナント・ネガティブ法による機能阻害実験で詳しくin vivoでの役割を検討している。
著者
笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

神経堤細胞は末梢神経系をはじめとする多く種類の細胞する能力をもった細胞であり、初期発生過程で神経板(中枢神経系原基)と皮膚原基の中間から発生する。我々はこの発生過程で「神経堤という領域性を決定する因子」としての転写因子FoxD3の役割をアフリカツメガエルの系を用いて明らかにした。FoxD3はWinged-helix型の転写因子で、上述のChordinとFGFで誘導されるcDNAの系統的スクリーニングで単離された。神経堤発生の極めて初期から神経堤特異的に発現していることが明らかとなった。未分化外胚葉(アニマル・キャップ)細胞にFoxD3を強制発現することで神経堤細胞マーカーSlug, Twistなどが誘導された。ドミナント・ネガティブFoxD3による機能阻害実験では、神経堤細胞の分化が強く抑えられた。このことはFoxD3が神経堤細胞分化決定のマスター遺伝子の一つであることを示している。カエルで単離した神経堤細胞の決定因子FoxD3について、マウス・ニワトリ胚のホモローグの単離と発現分布解析を詳細に行った。結果、FoxD3は哺乳類、鳥類においても極めて早い段階から予定神経堤細胞領域に発現し、Slugの発現より早くから出てきていることが明らかとなった。FoxD3の発現調節を詳細に検討するため、マウスES細胞から神経堤細胞への試験管内分化系を確立を試み成功した。現在、これを用いた詳細な遺伝子相互作用を解析中である。
著者
岩田 博夫 加藤 功一 笹井 芳樹 滝 和郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

胚性幹細胞(ES細胞)からのインスリン産生細胞の分化誘導:マウスまたカニクイザルのES細胞から米国NIHのMcKayらの報告した分化誘導法を基本に研究を進めてきた。インスリン陽性細胞には2種類のタイプが存在し、一つはインスリン染色で細胞全体が強く染色される小さな細胞、他はインスリン染色で細胞質のみ染色される比較的大きな細胞であった。また、サブカルチャーを行っても常にインスリンの免疫染色が陽性になる細胞が存在した。さほど高効率ではないが、間違いなくインスリン産生細胞へと分化誘導できていると考えている。高効率にインスリン分泌細胞を分化誘導するために、Tet systemを利用してカニクイザルサルES細胞内でPDX-1遺伝子発現を制御することによりインスリン分泌細胞へと分化誘導する方系を作成した。ES細胞からのドーパミン産生細胞の分化誘導:PA6細胞のConditioned Medium中の成分とポリイオンコンプレックス形成法を用いて表面を試作し、この表面上でES細胞をドーパミン産生細胞へと分化誘導した。また、PA6細胞のConditioned Mediumを用いてES細胞を浮遊培養しドーパミン分泌細胞への分化誘導を行った。培養30日後においてもドーパミンの検出ができた。中空糸内にカニクイザルES細胞を封入した後、PA6細胞の順化培地中で培養を行ったところ、効率よく神経細胞へと分化した。免疫隔離膜:PEG脂質を用いて細胞表面を細胞に障害を与えることなく極めて薄い層で覆うことができた。カプセル化による体積増加が極めて小さい生細胞マイクロカプセル化法として極めて有力であると考える。ヒトES細胞:ヒトES細胞使用許可の取得が諸般の事情で遅れ、平成18年3月10日付けでヒトES使用計画の大臣確認書が交付された。このため大部分の仕事はマウスES細胞とカニクイザルのES細胞を用いて研究を行った。
著者
笹井 芳樹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

脊椎動物の中枢神経系は領域特異的に背腹軸に沿った極性を有している。背側領域の中枢神経組織の発生制御解析は腹側領域に比して遅れている。中枢神経系背側領域の初期決定に関わる分泌性シグナルの分子実体と誘導源の解明のため、我々はこれらの観点からアフリカツメガエルの系を用いてスクリーニングを行い、前脳を含めた中枢神経系の背側領域の分化を誘導する新規分泌性シグナル因子Tiarinを同定した。本研究では、Tiarinによる中枢神経系の背側領域分化誘導の制御機序を胚・細胞レベルで明らかにするため、Tiarinタンパクがどのようなシグナル伝達系の活性化または抑制によって、細胞分化を制御しているかを明らかにした。まず、Tiarinは既存の背腹軸に関与するシグナル(Shh, Wnt, BMP)との強い相互作用によって働くのかを検討した。その結果、これらのシグナル因子と物理的な結合や受容体の競合などの直接的な相互作用は認められなかった。さらなる細胞内シグナルの検討から、Tiarinとこれらの因子のクロストークは下流シグナルのレベルのみに認められることが判明した。シグナル解析のためにはTiarinタンパクの大量作成が必須であり、293細胞を用いてmg単位の産生に成功した。このタンパクを用いての結合実験から、受容体の多く発現する細胞を複数同定した。プルダウン法により、結合膜タンパクを精製し、複数の候補タンパク質をプロテオミクス的手法によって選別した。さらにTiarinのファミリー遺伝子をニワトリ胚およびマウス胚より複数単離した。そのうちマウスのmONT3について発現解析をノックイン法で行い、神経系や中胚葉組織などの特異的な発現を検出した。ニワトリのcONT1はニワトリ胚での強制発現で神経堤細胞の産生が亢進することを見いだした。