著者
福井 洋之 船木 稔
出版者
北見工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

Dirac方程式の解である1電子波動関数は、4行1列の列ベクトルの形をもち、4成分スピノールと呼ばれる。上の2成分を大成分、下の2成分を小成分と呼ぶ。小成分を大成分と演算子を用いて消去して方程式を解く方法を2成分法、4成分を同時に求める解き方を4成分法という。本研究では両方の方法でDirac方程式を解き、NMRパラメーターの相対論的効果を計算した。
著者
山口 晃人
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

代表制民主主義の危機が叫ばれる現在、より良い立法システムを探究することは急務である。本研究では、選挙デモクラシーに代わりうる二つの代表者任命手続きを検討することで、立法システムの改善を目指す。第一の代替案は選挙ではなくくじ引きで代表者を選ぶロトクラシーであり、第二の代替案は優れた知識・能力を持つ人々のみが統治するエピストクラシー(知者の統治)である。実社会においても学問上においても選挙デモクラシーは自明視され、ごく最近までこれら二つの代替案の可能性は真剣に検討されてこなかった。本研究ではこれら二つの代替案との比較を通じて、優れた意思決定手続きの条件を明らかにする。
著者
中里 まき子
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

フランス革命期の反カトリック政策に抗して、信仰を貫いたために処刑されたコンピエーニュ・カルメル会の16人の修道女は、特にフランシス・プーランクのオペラ『カルメル会修道女の対話』(1957年初演)の題材として知られている。しかし、オペラの元となった文学作品の創作や、革命期から現代まで史実が継承されてきた経緯などについて、総合的な研究は試みられていない。そこで2017年度には、下記の方法により、16殉教修道女の表象の変遷を辿り、そこに映し出されるフランスの社会状況を浮き彫りにした。まず、第三共和政期に「フランス革命」が国民の共通の記憶とされ、理想化されたとき、16殉教修道女の存在が革命史から排除されたことを、ジュール・ミシュレ『フランス史』等の読解を通して明らかにした。一方、カトリック世界において16殉教修道女が崇敬の対象となり、その記憶が継承された経緯を探るべく、コンピエーニュ・カルメル会の受肉のマリー修道女が書き残した手記、および16殉教修道女の列福時(1906年)に刊行された書籍等を検討した。その結果、「共和国の歴史」と「カトリックの歴史」は、いずれも客観的なものではなく、19世紀フランスにおける両陣営の対抗関係を反映するものであることが明らかとなった。こうした研究成果を、日本フランス語フランス文学会東北支部大会において「コンピエーニュ・カルメル会殉教修道女の表象とフランス社会」の題目で発表し、論文として支部会誌に投稿した。
著者
田谷 修一郎
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

我々の身体が視覚の情報処理過程においてどのように用いられているか,一連の心理物理実験によって検討した。この結果,網膜像差に基づいて外界の奥行きを復元する際には両眼(瞳孔)間距離の情報が利用されていること,身体の可動範囲が身体の見えかたに影響することなどが明らかとなった。これらの結果は,本質的に曖昧である網膜像を解釈する際の枠組みとして観察者自身の身体が用いられていることを示し,視知覚の研究においても身体の影響を考慮に入れることが重要であることを示唆する。
著者
古場 一
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、時間発展する曲面上における流体の流れを支配する方程式を現象かつ理論的な観点から考察し、時間発展する曲面上での流体の流れがどのような支配のもとで流動し、その流れがどのように変化していくかを数理的手法によって明らかにすることである。平成29年度は、ケチャップ、マヨネーズ、片栗粉を水に溶かした流体などの水とは違った振る舞いをする非ニュートン流体の流れの数理モデリングを行った。具体的には、動く領域内における非ニュートン流体の流れと時間発展する曲面上における非ニュートン流体の流れについて研究した。非ニュートン流体を考察するために、エネルギー密度の一般化を行い、その導入したエネルギー密度の数学的かつ物理的な妥当性を検討した。具体的には、領域内と曲面上におけるエネルギー密度の不変性を証明した。そのエネルギー密度を用いてエネルギーの観点から動く領域内および時間発展する曲面上における非ニュートン流体の流れを支配する方程式を導出した。さらに、導出した非ニュートン流体方程式に関しての内部エネルギー、エンタルピー、エントロピーや自由エネルギーについて調べた。また、渦(粘性)の観点からも動く領域内の非ニュートン流体の流れを調査した。研究の成果として、動く領域内および時間発展する曲面上における非ニュートン流体の流れを支配する方程式が得られ、これまで提唱されていた幾つかの領域内における非ニュートン流体方程式に数理的妥当性を与えることができた。また、曲面上における非ニュートン流体の流れを理論的に解析できるようになった。
著者
前田 富士男
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

画家パウル・クレー(1879-1940)は、その制作論の基礎に形態学的な「生成(Werden)」を掲げた。本研究はまず、その背景に世紀転換期の実験発生学の研究、とくに生物学者ハンス・ドリーシュの新生気論の活動を指摘した。つぎに、19世紀半ばから発展したドイツの生理心理学のエルンスト・ヴェーバーらの研究による体性感覚の「ハプティク(内触覚Haptik)」の様態を検証し、クレーの多種多様な作品も、こうした内触覚的な様態の反映にほかならないことを解明した。
著者
新田 卓也
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

目的:アスタキサンチンによる網膜神経節細胞(RGC)保護効果を調べるために、正常眼圧モデル動物であるGLASTノックアウトマウスに、アスタキサンチンを経口投与し、網膜神経節細胞死の抑制効果を調べた。アスタキサンチンは用量依存性にRGCの保護作用を示し、投与されたマウス網膜において酸化ストレスのマーカーである4-hydroxy-2-nonenal (HNE)の減少がみられた。しかしNF-kBの抑制はみられず、抗炎症作用についてはみられなかった。アスタキサンチンは緑内障の有力な治療薬の候補であり、その神経保護作用は抗酸化作用によって生じていることが、今回明らかになった。
著者
島村 礼子
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、語がもつと考えられる形態的緊密性という特徴を拠り所にしたときに、語の正確な定義がどこまで可能になるかについて考察することである。本研究で明らかになったのは主として以下の2点である。まず、語の形態的緊密性の原理は一般には、diSciullo and Williams (1987)などで言われている原理、つまり、統語規則は語の内部に直接アクセスしてはならない、という原理と考えられているが、これを、Haspelmath (1992)で示唆されている原理、つまり、語順や構成素配列に関係する統語規則は語の内部に適用することはできない、という原理に改めるべき(弱めるべき)である。二番目に、派生語の場合、その基体である動詞の項構造を統語構造へ投射するのを許す派生語と許さない派生語とがあり、その違いは主要部の接尾辞の違いに帰することができると考えられる。もしそうであるならば、形態的緊密性の原理によれば、上述の種類の統語規則は語の内部を「見ることができない」ことが予測されるのに対して、基体動詞の項構造の継承は、語内部の情報が統語構造において「見える」現象の一つの表れと見なすことができるように思われる。今後、形態的緊密性および項構造の継承を、形態論と統語論との相互作用の観点から、さらに考察することは興味深いことである。
著者
松井 久実
出版者
麻布大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、表皮の色素細胞に高濃度のカロテノイドを蓄積するイモリを用いて、彼らの蓄積能力と餌資源中のカロテノイドとの関係について解析するものである。1)イモリのカロテノイド蓄積能力について変態後3年を経過したイモリ幼体40匹を4群に分け、アスタキサンチン、B-カロテン、ルテインのスタンダードを2ヶ月間に渡り計20mgを強制経口投与し、実験終了後各組織を採材、冷凍保存した。この投与条件では皮膚の赤色化は認められなかった。HPLCを用いて、特にカロテノイドが含まれる腹側皮膚と肝臓についてカロテノイド組成と量を解析したところ、アスタキサンチン投与群の腹側皮膚からは高いアスタキサンチンピークと低いエキネノンピーク、肝臓からは低いアスタキサンチンピークと高いエキネノンピークが検出された。この結果に個体差は見られず、かねてより報告されているカロテノイドの組織特異性が改めて示唆された。腹側皮膚のカロテノイド量には個体差が見られた。2)餌資源中のカロテノイドについてイモリ幼体が餌としているのは、土壌中の中型土壌動物と呼ばれる一連の動物群である。その中でもイモリはトビムシやダニを摂食している。ツルグレン法で抽出した土壌動物サンプルのHPLCを行ったところ、明瞭なカロテノイドピークは確認できず、MSの併用かサンプル量の増量の必要があると考えられた。
著者
小泉 政利 安永 大地 木山 幸子 大塚 祐子 遊佐 典昭 酒井 弘 大滝 宏一 杉崎 鉱司 Jeong Hyeonjeong 新国 佳祐 玉岡 賀津雄 伊藤 彰則 金 情浩 那須川 訓也 里 麻奈美 矢野 雅貴 小野 創
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

主語(S)が目的語(O)に先行するSO語順がその逆のOS語順に比べて処理負荷が低く母語話者に好まれる傾向があることが報告されている。しかし,従来の研究はSO語順を基本語順にもつSO言語を対象にしているため,SO語順選好が個別言語の基本語順を反映したものなのか,あるいは人間のより普遍的な認知特性を反映したものなのかが分からない。この2種類の要因の影響を峻別するためには,OS語順を基本語順に持つOS言語で検証を行う必要がある。そこで,本研究では,SO言語とOS言語を比較対照することによって,人間言語における語順選好を決定する要因ならびに,「言語の語順」と「思考の順序」との関係を明らかにする。
著者
内田 健太
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

本研究の目的は、人馴れ・餌付けがエゾリスの人に対する攻撃性を高める可能性について検証することである。これまで、人に馴れたり餌付いた野生動物(例えば、北米イエローストーンのクマや奈良公園のシカ)が人に攻撃的になることが知られている。しかしながら、こうした人為介入がなぜ野生動物の人に対する攻撃性を高めるのかは、未だ科学的に検証されていない。そこで、本研究では過度な人馴れにより、同種に対する攻撃性が人に対する反応にも波及するという新しい枠組みを提示する。餌付けは、野生動物を誘引しエサ台などの局所的な個体密度を高める。こうした環境では、資源を巡る競争が激化し、個体の攻撃性が高まりやすいとされる。そして、こうした攻撃性はしばしば別の対象にも波及すること(漏洩効果Spillover effect)が知られる。つまり、過度の人馴れで全く人を恐れなくなった結果、リスの攻撃性の高まりが人への攻撃性にも波及していると考えた。本研究では、集団の攻撃行動の頻度、個体の同種に対する攻撃性の性格、個体の人への攻撃性を調べることで、上記の仮説を検証にする。平成29年度は、データサンプリングを中心に行った。餌付けされている生息地では、餌付けのされていない生息地よりも、リス同士の争い合いの頻度が高いことが分かった。また、こうした生息地では、人に対する攻撃性も高いことが分かった。現在、約90頭のリスについて、Open field test(同種に対する攻撃性を測る行動実験)を実施しており、行動分析を行っている
著者
田中 大介
出版者
秋田県立金足農業高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

ニホンヤマビル(Haemadipsa zelanica japonica)は,山林に生息する体長約2~8cmの吸血性環形動物である.秋田県は,全国的に有名なヤマビル大繁殖地域(北限)であり,世界遺産に指定されている白神山地にヤマビルが侵入すれば駆除する手立ては無い.そこで,ヤマビル汚染から白神山地を保護するためにヤマビルの生態に関する研究をおこなった.ヤマビル消化管内に残る血液のDNA分析の開発・調査をおこなった.その結果,秋田県の主な宿主はカモシカであることを特定した.また、センサーカメラを用いた野生動物生息状況の調査から,ツキノワグマ,アナグマ,タヌキ,ホンドテン等がヒル蔓延に関与することが示唆された.ヤマビル生息域は,まだ白神山地まで達していなかったが,年ごとに確実に北上していることが明らかになった.神奈川・千葉県の放牧地に生息するヒルは,ウシを吸血していることが明らかとなったことから,ヤマビルが家畜を襲い大増殖することが懸念される。隣県の岩手県は牧場周辺までヒル生息域が広がっていることが調査から判明した.また,温暖化の影響で宿主となるニホンジカ生息域が北上化していた。それに伴い、ヤマビル生息北限(宮城県北部)も岩手県北部まで北上していた。ヤマビル忌避効果の高い薬剤を明らかにし,安全かつ薬剤効果の高いヤマビル忌避剤を探索した.スクリーニングした結果,サリチル酸2-ヒドロキシエチル,サリチル酸メチル,サリチル酸,アセチルサリチル酸,L-メントールおよびバニリンは,ヤマビルに対する忌避効果を有することが明らかとなった.ヤマビル忌避剤として使用することで,吸血被害を無くし白神山の環境保全と里山復興事業に貢献するものと考えられる.
著者
都丸 雅敏
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

精子間競争は性淘汰において重要と考えられている。体内受精を行う動物では、精子が運動能を維持しながら雌体内に一定期間留まり(貯精)、精子間競争に大きく関わると考えられる。また、ショウジョウバエでは、貯精は、雌の再交尾を抑制し、はじめに交尾した雄の精子が他の個体との精子間競争を避けるように働く。そこで、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を用いて、貯精器官の数に変異のある系統や貯精に異常のある雄不妊突然変異ms(3)236を用い、精子間競争における貯精の影響を明らかにすることにした。精子間競争:ショウジョウバエの雌には貯精器官が2種類(管状受精嚢および2個1組の受精嚢)あるが、当研究室では受精嚢が3個あるショウジョウバエ系統が選抜され維持されている。受精嚢が3個あるショウジョウバエ系統を雌として、精子の尾部が蛍光を発する改変遺伝子(di-GFP)を導入したms(3)236雄と持たない野生型の雄と順に(または、逆順に)交配し、第1回目と第2回目のどちらの交配による子であるかを判定した。その結果、受精嚢の数と精子間競争の間には明確な相関は見られなかった。ms(3)236の遺伝学的解析:昨年度の解析により、ms(3)236は第3染色体の右腕95Fの領域の31.3kbの範囲に位置づけられた。そこで、この領域の一部を欠失する染色体を持つ系統を利用して欠失マッピングを行ったところ、ms(3)236は23.9kbの範囲に位置づけられた。次に、23.9kbの範囲にある2つの遺伝子(CG6364またはCG13610)に挿入したP因子を再転移させ、系統を確立したが、ms(3)236突然変異を相補しない系統を得ることはできなかった。したがって、ms(3)236はCG6364およびCG13610ではない可能性が高いと考えられた。
著者
長谷川 千秋
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

『和字正濫鈔』における契沖の仮名遣研究の本質とは、定家仮名遣などの仮名遣書にあるような「どの仮名で書くか」という仮名遣の規範を示すことにあるのではなく、語が本来、「どのような音をもち」、「その音がどのような仮名で現され」、さらに「どのような意義をもつか」という形音義を示すことにあることを明らかにした。『和字正濫要略』は、その題名の通り『和字正濫鈔』の抄出のように見えるが、仮名遣書として仮名遣の規範を示すに止まり、編纂方針に大きな方向転換があることを明らかにした。契沖の『和字正韻』は、契沖が字音仮字遣の研究を行っていた証左となる文献であることを明らかにした。
著者
谷口 和美 眞鍋 昇
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

味覚は従来、甘味、旨味、苦味、酸味、塩味の5つが基本味であるとされてきたが近年、脂肪にも味があるとされるようになってきた。甘味受容体、旨味受容体、苦味受容体といった味覚受容体は舌以外にも多くの臓器に存在することが知られている。一方で、近年になって見つけられた脂肪味に関しては、未だに全身臓器での正確な分布およびその作用は十分に解明されていない。そこで本研究は供試動物として雄のC57BL/6Jマウス15匹を用いて、長鎖脂肪酸に対する受容体、すなわちG-protein coupled receptor (GPR) 40、GPR 113、GPR 120およびCluster of differentiation 36 (CD36) のmRNA量の多臓器分布を、Real-Time PCRにより定量的に検索、GPR113とGPR120は免疫組織化学的に観察した。結果、PCRにおいて、これら4種類の脂肪酸受容体は、舌(有郭乳頭、茸状乳頭)、下顎腺、涙腺、網膜、十二指腸、結腸、膵臓、肝臓、腎臓(皮質、髄質)のうち多くの臓器で発現していた。GPr40は涙腺、網膜および有郭乳頭には発現が認められなかった。Gpr40は膵臓、Gpr113は有郭乳頭、Gpr120は結腸、Cd36は腎臓において他臓器よりも有意に高い発現量を示した。免疫組織化学的検索ではGPR113は盲腸、膵臓など、GPR120は十二指腸および結腸の基底顆粒細胞、網膜の杆体視細胞と錐体視細胞層、精巣上体、陰茎、涙腺や下顎腺の星状筋上皮細胞、腎臓などで陽性を示した。これらの結果より、これまで報告されている以外にも多くの組織に肪酸受容体が分布していることを明らかにした。また、GPR120が分布しているといった報告が無い腎臓、涙腺、下顎腺でも本研究では免疫組織化学的検索で陽性を示した。さらにqPCRの結果、Gpr120の存在を確認した。
著者
高橋 知之 福谷 哲 藤原 慶子 木野内 忠稔 服部 友紀 高橋 千太郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

東京電力福島第一原子力発電所の事故では大量の放射性核種が環境中に放出された。このうちTe-127mの半減期は約109日と比較的長く、IAEAの報告書に記載された土壌ー農作物移行係数を用いて評価すると、特に福島第一原発から南方向では、放射性テルルの内部被ばくへの寄与が放射性セシウムに比べて無視できるレベルではない可能性があった。よって、安定テルルと安定セシウムを同時に添加した土壌を用いて植物栽培実験を行い、それぞれの移行係数を求めた。その結果、テルルの移行係数は既報値よりも低く、実際の放射性テルルの線量の寄与は既報値を用いた評価よりも十分に低くなる可能性があることが明らかとなった。
著者
岡本 祐之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

ヒトおよびラット皮膚においてiNOSが誘導されNOが産生されることが明らかとなった。乾癬をはじめ、アトピー性皮膚炎、扁平苔癬、水疱症、膠原病などの炎症性皮膚病変においてiNOSが表皮ケラチノサイトに発現されていることが認められたが、iNOSの発現様式は疾患によって異なっていた。乾癬ならびにアトピー性皮膚炎の表皮におけるiNOS発現の推移を調べると、ステロイド外用剤による治療によって皮膚症状の改善とともにiNOS発現の低下が観察された。2種類の実験的接触皮膚炎、すなわちアレルギー性および一次刺激性皮膚炎では、表皮におけるiNOS発現に明らかな差は観察されなかった。紫外線皮膚炎におけるNO関与では、少量の紫外線(UVB)照射によりケラチノサイトはNOの産生上昇を示した。マウスに紫外線照射を行い、照射前または照射後にNOSの阻害剤であるL-NAMEを腹腔投与し耳介腫脹を日焼け細胞数を測定すると、腫脹の程度および日焼け細胞数ともL-NAMEの投与により抑制された。一方、紫外線のマウス接触アレルギー反応抑制作用に対する効果を検討すると、L-NAME投与は紫外線の抑制作用に影響を示さなかった。今回の研究において、NOは紫外線の皮膚に対する直接障害に関与するものの、紫外線が及ぼす免疫反応には効果が認められないことが示された。アトピー性皮膚炎患者よりリンパ球を採取し、ケラチノサイトと混合培養しそのNO産生への影響を調べると、ケラチノサイトからのNO産生がアトピー性皮膚炎患者リンパ球では正常人リンパ球に比べて有意に増強することが認められた。以上の実験結果より、紫外線をはじめとする種々の起炎刺激に対して生じる皮膚炎や炎症性皮膚疾患にNOが関与していることが示唆された。
著者
鶴田 昌三 伴 清治 岩田 純士 川瀬 真由 鈴木 崇由 安藤 正彦
出版者
愛知学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

鏡面研磨した歯科修復用ジルコニアは撥水性であるが、(1) 歯磨によって水のぬれ性が向上すること、(2) 673K以上に加熱すると同じく優れたぬれ性を得ることを見出した。加熱試料上は細胞増殖能に優れ、インプラントの前処理として可能であった。XPS分析によると、表面に吸着したカーボン量が歯磨や加熱により減少していた。すなわち、歯磨には加熱と同様にジルコニア表面に吸着したカーボンを除去する働きがあり、このため親水性を獲得することを明らかにした。
著者
加来 伸夫 渡辺 昌規
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

水田土壌微生物燃料電池(水田MFC)の負極バイオマスの細菌群集構造をPCR-DGGE解析により調べた結果、Rhizomicrobium属の微生物が検出された。また、負極からはClostridia綱に配属される電流発生細菌が分離され、電流発生細菌が多様であることを示していた。肥料の違いは、水田土壌MFCにおける起電力に影響し、堆肥の施用は発電を低下させることが示唆された。阻害実験を行ったところ、メタン生成は発電と競合する一方で、硫酸還元は発電に寄与していることが示唆された。これらの結果とポット試験の結果から、水田MFCを利用することで水田土壌からのメタン放出を抑制できる可能性が示唆された。