著者
白川 理香
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

今年度は眼瞼下垂手術前後のヒトの瞼板およびマイボーム腺形態について観察を行った。眼瞼下垂症に対する挙筋腱膜縫着術では縫合糸が瞼板内に恒久的に留置されるが瞼板やマイボーム腺に対する影響はわかっていない。眼瞼下垂症に対する挙筋腱膜縫着術の眼瞼およびマイボーム腺に対する影響について調査した。眼瞼下垂症手術を受けた31例47眼(男性 5例、女性26例、平均年齢74.3歳±9.0歳)に対して、術前の挙筋機能(mm)、術前、術後6か月の瞳孔上眼瞼距離MRD (mm)、瞼裂高(mm)、上下マイボスコアおよび術後6か月での上眼瞼翻転の可・不可および翻転時の瞼板形態を記録した。結果は、術前の挙筋機能は平均10.9㎜と保たれており、術前と術後6か月を比較するとMRD、瞼裂高は有意に増加した。術後19%が上眼瞼翻転不可になり、術後55%が上眼瞼翻転時に瞼板のひきつれを生じた。マイボグラフィー撮影できた上眼瞼36眼では術前後でマイボスコアに変化を認めなかった。以上より眼瞼下垂症手術で瞼板に通糸を行ってもマイボーム腺の形態変化は起きない可能性が示唆された。また術後上眼瞼の翻転が不可能になる症例があり、注意を要することが分かった(日本眼科学会総会2018年、ARVO2018)。また、緑内障手術後濾過胞を有する眼に対する眼瞼下垂症手術についての安全性、有効性についても検討した。18名19眼を観察し、眼瞼下垂症手術後に有意にMRD、瞼裂高が改善し、術後眼圧上昇を認めず、濾過胞関連の合併症も認めなかったことより、安全性、有効性が確認された(日本眼科学会総会2018年、ARVO2018)。
著者
妻木 勇一 森 恭一 多田隈 理一郎
出版者
山形大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-06-30

ロボットテクノロジーや環境駆動というコンセプトに基づき,長寿命、高出力、多機能な新しいバイオロギング手法を確立することが本研究の目的である.このため,①環境駆動型クジラ用ローバー開発,②カメラタグ取り付け用高機動水中ドローン開発,③環境駆動型マイクロ発電システム開発,④RTを用いた遠隔介入実験システム開発,⑤マッコウクジラの行動理解,に取り組む.本年度得られた成果は以下の通りである.①環境駆動型クジラ用ローバー開発:20%以上軽量化した第5試作機を開発し,深海500mでの実証試験により動作を検証した.イルカの皮膚を用いて吸着能力も検証した.曲面対応能力及び吸着力の更なる向上が必要であるが,基盤となる技術が開発された.また,ドローンを用いた装着システムの運用方法を現地で検証するとともに,無線によるロガー投下システムを開発した.②カメラタグ取り付け用高機動水中ドローン開発:全方向移動が可能なスラスター配置を採用し,機体と制御システムについて,水槽内で動作試験を行った.③環境駆動型マイクロ発電システム開発:ロガーの長寿命化を実現するため,環境駆動型のマイクロ発電システムを開発した.具体的には,海鳥が飛翔時に発生する風を利用したマイクロ風力発電システムの試作機を開発した.直径30 mmのプロペラを用いた発電システムであり,重量11.7 gである.室内実験ではあるが,11 m/sの風の中で約80 mWの発電を達成した.④RTを用いた遠隔介入実験システム開発及び⑤マッコウクジラの行動理解:海鳥用の無線ロガー分離装置を開発した.低消費電力で十分な無線距離を確保できる無線マイコンTWELITEを採用し,電車で用いられている密着連結機構をベースに小型化を図った.さらなる軽量化と信頼性の向上が今後必要であるが2018年中に試験装着を目指している.
著者
冨山 誠彦
出版者
弘前大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

筋萎縮性側索硬化症(ALS)における運動ニューロンの選択的脆弱性とグルタミン酸による興奮毒性の関係を,脊髄神経細胞におけるグルタミン酸受容体発現の違いの観点から検討した.グルタミン酸受容体は代謝型受容体とイオンチャネル型受容体に大別されるが,代謝型受容体の1-5型(mGluR1-5)mRNAの発現ををヒト正常脊髄で,イオンチャネル型受容体のうちAMPA型受容体サブユニット(GluR1-4)mRNAの発現を正常者とALS患者の脊髄で,in situ hybridization法を用いて検討した.代謝型受容体の正常脊髄での検討では,mGluR1とmGluR5 mRNAの発現が脊髄後角に豊富で,運動ニューロンでは低いことが示された.mGluR1とmGluR5に選択性のある作動薬は脊髄運動ニューロンに対し保護作用があることが示されている.従って,運動ニューロンにおけるmGluR1とmGluR5 mRNAの発現が相対的に低いことは,運動ニューロンは他の脊髄神経細胞に比べmGluR1とmGluR5を介した神経保護作用が少ない可能性を示しており,運動ニューロンの選択的脆弱性と関係しているかもしれない.一方,正常者とALS患者の脊髄でAMPA受容体サブユニットmRNAの発現をflip型,flop型を別個に検討した.Flip型は遅い再分極を,flop型は速い再分極を有するAMPA受容体を形成することが知られている.Flip型は後角に優位に分布し,flop型は灰白質にびまん性に分布していた.ALSの前角では正常者に比べ,flop型のmRNAの減少が著明に認められ,Flip型のmRNAは保たれていた.この結果はALSの前角においてはFlip型AMPA受容体が相対的に増加している可能性を示し,ALSの運動ニューロンは正常者の運動ニューロンに比べ再分極の遅いAMPA受容体をより多く有していることを示唆している.再分極の遅いAMPA受容体は作動薬に対してより強い毒性を介するとされている.従って,今回の研究の結果は,AMPA受容体刺激に対して,ALSの運動ニューロンは正常者の運動ニューロンよりも脆弱であることを示している.
著者
和泉 潔
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

似研究の目的は、非常に稀で予測困難だが甚大な影響をもたらす社会的状況にも対応し、頑強で信頼性の高い社会制度や経営戦略を設計するための工学的手法を開発し、実際の社会現象に適用することである。そのために、実データを基に稀な社会事象の内部メカニズムを探るための社会シミュレーション技術である「可能世界ブラウザ」を開発する。最終的に、(1)実データに基づく社会行動ルールの推定と(2)稀な社会状況の対話型シナリオ構成、(3)社会状況の発生メカニズム・操作戦略の推定といった基盤技術を開発する。当該年度では、下記の実問題の分析結果を反映させ、想定外のリスクとチャンスを分析対象にした可能世界ブラウザの実問題応用への手法開発を行った。金融市場制度設計:数時間から数日間までの比較的短期間の市場と数年間の長期の金融システムの不安定性という、まれに起こるリスクを予防するための市場制度設計を目的とする応用を行った。高頻度市場データを分析して、ユーザに制度や取引戦略と市場安定性の関係を提示し、制度設計で設定すべき要素を示唆するための応用技術を開発した。マーケティング応用:数週聞から数カ月間のネットワークリスク急増という、まれに事象を引き起こすための金融マーケティング戦略を探るために可能世界ブラウザを応用する実証研究を行う。研究協力者の有するデータの分析をもとにしたエージェントベースの金融マーケティングシミュレーションを構築した。
著者
高橋 晋一
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究を通して、全国に500あまりの船だんじりが出る祭りの存在を確認できた。海、川(生業や交易)との結びつきが強いが、長野県安曇野地方の「お船」のように水と関わりを持たないのものも見られる。船だんじりの形態は大きく御座船型、廻船型、鯨船型、その他に分類でき、藩主の海路による参勤交代、廻船による交易、捕鯨の拠点に関連しているものが多い。歴史的には京都祇園祭の船鉾などを除きほとんどが近世以降に始められたもので、主に江戸時代に、御座船や廻船といった当時の権力を象徴する豪壮な船が、地域の文化・経済・政治的アイデンティティの象徴として取り入れられ、各地に船だんじりの文化が開花したと考えられる。
著者
河野 勝 谷澤 正嗣 西川 賢
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本研究の目的は、北米で親しまれるポピュラー音楽の中で、自由がどのように表現されてきたかを分析することを通して、この概念が一般の人々の日常の生活の中でどのように受容され発展してきたかを実証的に跡付けることである。本研究の計画は、データセット構築、テクスト分析、ケーススタディという三つの柱によって構成される。データセット構築がほぼ完成したので、今年度はテクスト分析の手法を用いて、様々な角度からfreeおよびfreedomという言葉の表出のパターンを検証した。幸いなことに、研究協力者であるハワイ大学のSun-Ki Chai氏が、短い間ではあったが早稲田大学に訪問研究者として滞在したので、彼から極めて的確なアドバイスを受けることができた。そのアドバイスに従い、1)一般的なシソーラス辞典(“Thesaurus.com” )を用いた分析、および2)心理学者たちの間でよく利用されているテキスト分析のソフトウェアである LIWC (Linguistic Inquiry and Word Count)を用いた分析を、それぞれすすめた。また、ケーススタディのための北米での音楽関係者に対するインタヴューもニューヨークで行うことができた。
著者
高橋 英之
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究プログラムでは,ロボットなどのシステムを用いることで,子供の主体性を促進して,その創発性を引き出すことを目的とする.具体的な平成29年度の取り組みとして,子供とロボットのインタラクションにおいて,子供の主体的想像力がどのように広がるのかを調べるため,子供とロボットのリズムインタラクション課題を行った.その結果,子供とロボットの相互作用は,子供のロボットに対する主体的想像力を増進することが示唆された.また主体性を引き出すための,ロボットを用いた自問自答システムを開発,その有効性を成人被験者に加えて高校生を対象に実証実験を行った.その結果,提案システムを用いることで高校生の主体性が引き出されることを示唆する結果を得ることができた.
著者
春原 則子 宇野 彰
出版者
目白大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

日本で初めて、発達性dyslexia(DD)のある成人例を評価するための検査法と基準値を作成した。日本語話者のDD成人例では既報告の小児例と同様、音韻情報処理や視覚認知、自動化の問題が背景にあることが示唆された。また,聞き取り調査の結果、日本でのDD例の社会参加における困難さが示された。英語で初めてDDとの診断評価を受けた日本人留学生を調査したところ、6名中2名では日本語でもDDの症状がみられ日本におけるDD検出の不十分さが伺われた。英国ではDDに特化した小中学校があり大学における支援も充実しているなど、日本でのDDに対する支援への示唆が得られた。
著者
清水 有子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、16-17世紀、日本の統一政権によるキリスト教禁教が徹底した排撃性をともなった原因を、清朝中国および李氏朝鮮の同事例との比較を通して考察し、そこから東アジアにおける近世日本の統治の特質を解明することを目的としている。本年度の研究成果は以下の2点である。第1に、日本のキリシタンの内面的世界と在地社会への影響解明に取り組んだ。イエズス会宣教師の報告書を読解したところ、当該期の日本人のキリスト教受容の特徴として、受容が個人の問題ではなく、個人に優越する地位を占め、個人を規制していた共同体の問題であることが考えられた。このため、戦国期の社会構造やそこで既存宗教(寺社等)が果たしていた役割をテーマとする先行研究を収集・読解し、当該時期のキリスト教受容の構造を歴史的に理解し把握することに努めた。その結果、日本では領主領民が一体となったキリシタン領国を形成したが、彼らはキリスト教信仰を通して外国の統治者、政治勢力との精神的紐帯を有し、固有のヴィジョンあるいはアイデンティティを持つ勢力として成長しつつあった点が明らかとなった。またこの点こそが日本の統一権力に過酷な禁教政策をとらせた要因であるという結論に達した。以上について本年度中に活字の成果を出すことはできなかったが、平成24年8月に開催される東北アジアキリスト教史学会で口頭報告する予定である。第2の成果として、従来の研究成果をとりまとめ、単著『近世日本とルソン-「鎖国」形成史再考』を東京堂出版より刊行した。本書では、日本のキリシタン禁教政策を、フィリピン諸島ルソン島のスペイン勢力との交流関係を切り口に再考し、日本のキリシタンの自律的動向を禁教の原因とみなした。本年の研究成果から、日本のキリシタン禁教は、ルソンとの交流関係を背景に、外国の君主との精神的紐帯を有する固有の領主勢力として成長しつつあった、キリシタンに対する統一政権の対抗的措置とみなすことができる。そしてその過酷さの要因は、キリシタンが統一政権に代わり国家統治を担う勢力として抬頭することを可能とした、日本の社会構造に求められる.
著者
白倉 栄美 中井 美樹 与謝野 有紀 岩本 健良 米澤 彰純 岩間 暁子 持田 良和
出版者
関東学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本年度は、中流階層を中心とした文化とライフスタイルの実態を解明するため、昨年度実施した川崎市における「ライフスタイルと文化に関する意識調査」(郵送質問紙調査)を中心に研究活動を推進した。研究経緯は、データ収集の最終調整を行い、データコーディング作業、データ入力を経てデータセットを作成、さらにデータクリーニング作業、コンピュータでのデータの統計解析、研究報告および検討会議を経て研究成果報告書を作成した。本研究の特徴および成果は、わが国で肥大化したといわれる中流階層〜上層の文化状況とライフスタイルとの関連を明らかにしたこと、また、中流階層の文化消費やライフスタイルの差異を個人的要因に求めるだけでなく、マクロな社会的要因である「場」の効果を測定したことにある。ライフスタイルと文化的諸実践に及ぼす社会階層の効果、家庭文化のの効果、学校効果、企業などの勤務先集団の効果等について検討した結果、主な知見として以下の点が明らかになった。1.諸文化活動を分析すると、学歴や職業などの社会的地位変数によって正統文化嗜好と大衆文化嗜好に差異がみられる。同じ社会階層であっても、出身家庭の文化資本および教育は正統文化活動を促進するよう作用する。2.正統文化と大衆文化の両方に関与する文化的オムニボア(cultural omnivore)が若い年齢層ほど増加し、社会全体としてみると文化的寛容性が高まる方向にある。3.男性と女性で文化消費に差があり、男性は大衆文化嗜好が強く、女性は正統文化嗜好が強い。4.女性の大衆文化化は、配偶者の文化消費傾向からの影響で始まる割合が多い。5.社会関係において文化的境界を用いる人は高学歴層に多く、文化資本と強い関連を示す。6.学校効果と企業効果が顕在化しやすい文化側面が存在する。
著者
橋本 雅仁
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

プロバイオテック細菌のように経口で外部から摂取される細菌およびその成分が、腸管内で作用することで宿主の恒常性を維持し、免疫機能を改善することが知られている。またこれまでの我々の研究から、鹿児島特産の醸造酢である黒酢には酢酸菌由来の成分であるリポタンパク質とリポ多糖が含まれており、免疫調節に関与していることが示唆されている。本研究では、このうちのリポ多糖の化学構造を明らかにするとともに、リポ多糖が小胞として黒酢中に存在することを明らかにした。
著者
堂前 亮平
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

近代期の奄美・沖縄の主要な島の中心地において、寄留商人と呼ばれる他県および同県の他地域からの外来商人が、商店や事業所を構えて街を形成していた。本研究は、寄留商人という社会集団が形成する商業空間の形成と特質を考察するものである。沖縄諸島において寄留商人町がみられたのは、沖縄本島の那覇、久米島の儀間、宮古島の平良、石垣島の4箇であり、奄美諸島では奄美大島の名瀬、古仁屋、喜界島の湾、早町、徳之島の亀津、平土野、沖永良部島の和泊、知名、与論島の茶花であった。奄美・沖縄に多くの寄留商人が本格的に移住してくるのは、廃藩置県後のことである。寄留商人の出身地をみると、圧倒的に鹿児島県出身者が多い。これは、地理的距離に加え、歴史的関係によるものである。奄美諸島や沖縄諸島に寄留商人が入ってくる理由は、藩政時代か盛んに行なわれていた砂糖や織物などの取引に商業活動の旨味を目論んだからである。また砂糖や織物の取引のみならず、呉服や雑貨などのさまざまな商品の卸小売りにおいても、奄美・沖縄は商業の空白地域であったことである。例えば、奄美諸島最大の商業地区は名瀬であり、当時259の商店・事業所のうち、経営者の出身地で最も多いのが、鹿児島県出身者で84人、次いで地元名瀬出身者が64人となっている。また沖縄県で最大の都市である那覇においては、335人の寄留商人が商業を営んでいたが、その中で鹿児島県出身者205人で、寄留商人全体の3分の1近くを占めている。寄留商人はいずれの島でも、島の中心地で寄留商人経営の店が集まって街を形成していた。このような寄留商人町も第二次世界大戦の末期には、県外からの寄留商人は引き上げていき消滅した。
著者
坂上 賢一 石﨑 聡之 松原 良太
出版者
芝浦工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は,市販ビデオカメラで撮影されたサッカーの試合映像から,背景除去などの基本的な画像処理とパーティクルフィルターを用いて選手・ボールを自動追跡してその位置を計測するものである.開発したシステムの精度は海外で使用されている既存のシステムと同程度の精度で計測できることが示された.また,計測された選手・ボール位置のデータから,攻撃時のボールの平均位置と相手チームの最終ラインを突破した攻撃との関係を分析し,ボール位置が相手ゴールに近いほど有効な攻撃が多くなることが示された.
著者
姜 銀来 横井 浩史
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

障碍者にも容易に使えて安定的なsEMG(表面筋電図)信号を計測できる計測法は、sEMGを制御信号とする福祉機器の実用化のための重要な課題である.本研究は、材料科学と電子工学と情報工学との複合領域的なアプローチで実用性の高いsEMG計測・解析法を開発する.H29年度は,電極の材料において,導電性カーボンブラックを混入したシリコンゴムを用いた、柔軟な筋電電極を開発と基本性能の評価を行った.カーボンブラックの濃度を変えることで、筋電電極の導電性を調整し、導電性と計測された信号のSN比との関係を調べた.電極の導電性が高いほど良いことではなく、最適濃度が2~3%の間になることが分かった.また,金メッキ線と導電性シリコンをハイブリッドした電極を開発し,より安定的な筋電信号計測を実現した.筋電信号計測回路において,信号源インピーダンスの影響を調べるために、小型インピーダンス計測装置を開発し、筋電とインピーダンスとの同時計測を実現した.信号源インピーダンスに基づいた電極配置の探索、及び筋電信号の評価が可能となった.また,インピーダンスと筋電信号との両方を利用したマルチモーダルな識別方法の構築も可能となった.筋電信号の解析において,筋電信号の経時的変化に対応するために群知能を利用した新しい筋電識別法を構築した.筋電義手の制御に想定される7動作(安静,握り,開き,掌屈,背屈,手首の回内,回外)を用いた評価実験を行た結果,パラメータの最適化により,筋電義手を制御するための筋電信号を高精度で識別できることが確認された.
著者
伊藤 弘 埴岡 隆 王 宝禮 山本 龍生 両角 俊哉 藤井 健男 森田 学 稲垣 幸司 沼部 幸博
出版者
日本歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

歯周治療の一環として禁煙治療が歯科保険に導入されるためには、禁煙治療の介入による歯周治療の成果が極めて良好となることが重要である。そこで、禁煙外来受診による改善を、一般的に行われている臨床パラメータと歯肉溝滲出液と血漿成分の生化学的成分解析、さらには禁煙達成マーカーである血漿中コチニンと呼気CO濃度の変化を検索した。その結果、禁煙外来受診により、禁煙達成マーカーが減少し、さらには自己申告による禁煙の達成から、禁煙外来受診は禁煙に対し有効な戦略である。しかしながら、生化学的変化は認められなかった。今後長期的な追跡が必要であると考えている。
著者
石橋 隆幸 塩田 達俊
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ナノ領域での磁気特性を評価するため、アパーチャーレスプローブを用いたSNOMの構築と、偏光特性の調査をおこなった。その結果、約10 nmの空間分解能と良好な偏光特性を実現するとともに、アパーチャーレスSNOMにおいて問題であった背景光と信号光の分離に成功した。FDTDシミュレーションでは、実験で得られた偏光特性をほぼ正確に再現することに成功し、プローブ周辺の電場分布を理解することができた。さらに、時間分解測定を実現するための装置の構築を行った。
著者
和田 哲
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ホンヤドカリ属を対象として、オスとメスの成長と繁殖の資源配分様式を調べた。本属の一部の種では、交尾直前にメスが脱皮することがあり、繁殖期中にも成長する。本研究の結果、脱皮する個体は、とくに産卵間隔が長い傾向が強く、抱卵数も変異が大きかった。オスも配偶行動によって摂餌行動が抑制されるため、繁殖に費やす時間の増加が成長を低下させることが示唆されたが、実験ではそれを強く支持する結果は得られなかった。
著者
越後 拓也
出版者
独立行政法人国際農林水産業研究センター
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

有機鉱物全般に共通する特徴を見いだすべく、1852年から2010年までの約300編の文献を参照し、その結晶構造および生成機構を議論した。その結果、有機鉱物最大の特徴は、生成機構と構造ユニットの関係にあることが判明した。その生成機構は、(1)炭素一炭素結合の生成と解離を伴う構造ユニットの形成(2)十分に安定化した構造ユニットの濃集と結晶化、の2段階に分けられる。代表的無機鉱物である珪酸塩鉱物の生成機構においては、構造ユニットが重合する際にシリコン-シリコン結合は生成されず、必ず架橋酸素と呼ばれる酸素原子を介して重合する。また、構造ユニットの重合と、鉱物の結晶化は同時進行することからも、有機鉱物の生成の際に起きる重合反応とは根本的に異なる重合メカニズムであることを解明した。ゲータイト(Fe^<3+>OOH)やヘマタイト(Fe^<3+>_2O_3)は鉄を含む鉱物および材料の変質物として生成する一般的な二次生成鉱物である。低温(4℃)から高温(70℃)までの様々な温度で合成したゲータイトの結晶形態を原子間力顕微鏡で調べたところ、幅と厚みはほぼ同じであったが、4℃で合成したものは長さ1μm以下なのに対し、70℃で合成したものは長さ2μm以上であることが分かった。これらのゲータイトに対し、X線光電子分光分析を行ったところ、高温合成のゲータイト最表面に存在する酸素の46%がヒドロキシル基であるのに対し、低温合成のものは42%にとどまった。また、ヘマタイトについては、平均粒径7nmの板状結晶と30nmの菱面体結晶をアスコルビン酸で溶解させたところ、7nmの板状結晶が30nmの菱面体結晶の2倍以上の速度で溶解することが判明した。以上の結果は、ナノ鉱物の表面構造や化学反応性が、結晶全体の組成や構造だけでなく、粒径や形態といった外的要因にも依存していること示している。
著者
内山 勝 KHALID Munawar 妻木 勇一 近野 敦 尹 祐根 阿部 幸勇 YOON Woo-keun 梅津 真弓
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、高い汎用性を持つ小型高性能なハプティックインタフェースの開発及びその応用である。具体的には、小さな設置面積、広い作業領域、高い応答帯域を実現する6自由度のハプティックインタフェースと様々な計算機に容易に接続可能な汎用性の高い制御装置の実現、及びこのハプティックインタフェースの宇宙遠隔操作への応用である。本研究の成果は以下のように要約される。1.パラレル機構の剛性を機構パラメータの関数として計算するための新しい解析モデルを作成した。これにより、機構パラメータの変更に伴うパラレル機構の剛性変化を容易に予測することが可能となり、よって、剛性面でのハプティックインタフェースの最適化が可能となった。2.剛性の特性が大幅に改善されたハプティックインタフェースの設計、試作を行った。上記の解析モデルの援用並びにこれまでの試作経験に基づき、従来の試作機の特性を大幅に上回る特性を有するハプティックインタフェースの試作に成功した。試作したハプティックインタフェースの設計図はインターネットにより一般に公開予定である。3.本研究で開発したハプティックインタフェースの応用として、宇宙遠隔操作を取り上げ、研究を実施した。このハプティックインタフェースにより、技術試験衛星VII型搭載ロボットアームの遠隔操作実験を行い、その特長である小型軽量及び広可動範囲のの有効性を実証した。また、宇宙遠隔操作の地上実験装置として双腕ロボットシステムを開発し、マスタデバイスに、このハプティックインタフェースを採用し、その有用性を示した。
著者
村上 昌弘 岡田 茂
出版者
共立女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

原核生物である藍藻類は、酸素発生型の光合成以外に鉄酵素nitrogenaseを用いて窒素固定も行うため、過剰の鉄が必要とされる。藍藻類はシデロフォアによる鉄獲得機構を備えるとの報告が過去に数例あるが、藍藻種間のシデロフォア産生能に関しても統一的な報告はない。これらの観点から藍藻類のシデロフォア産生能の評価およびその化学的性状に関する研究を行い、以下の知見を得た。1.藍藻類のシデロフォア産生能のスクリーニングを行い以下の結果を得た。ブルーム形成の代表種であるMicrocystis aeruginosa、Oscillatoria agardhiiは活性を全く示さなかった。一方、窒素固定能力をもつヘテロシスト形成糸状性藍藻は強力なシデロフォア産生活性を示した。また嫌気的条件下のみで窒素固定を行うとされるPlectonema boryanum等のヘテロシスト不形成糸状性藍藻の一部も活性を示した。2.窒素固定種の代表種であるAnabaena cylindrica NIES-19からシデロフォアanachelin-2およびanachelinを単離・構造決定した。3.A.variabilis M-204およびヘテロシスト不形成変異株であるNIES-23の両株のシデロフォアは、クエン酸を中心に左右対称な構造を持つヒドロキサム酸系の既知シデロフォアschizokinenであることが判明した。3.ヘテロシスト不形成糸状性藍藻の1種であるO.tnuise UTEX1566からhydroxypyridinone構造を有する新規シデロフォアoscillabactinを単離・構造決定した。以上、本研究において、ほとんど未開拓であった藍藻シデロフォアの構造解析の結果、藍藻類は極めて新規かつ複雑な構造を有するシデロフォアを産生していることが明らかにされた。