- 著者
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花尻(木倉) 瑠理
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.150, no.3, pp.129-134, 2017 (Released:2017-09-09)
- 参考文献数
- 24
- 被引用文献数
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2014年後半以降,危険ドラッグに対する規制及び取締り強化が実施され,2015年7月には販売店舗数がついにゼロになった.しかし,危険ドラッグのインターネット販売やデリバリー販売が消滅したわけではない.また,危険ドラッグから逃れられない中毒患者が存在していることも推測され,今後どのような方向に事態が推移するか予断を許さない状況下にある.実際,2015年以降,従来市場に流通していた危険ドラッグとは異なる化合物群が指定薬物に指定されている.2016年2月には,初めてガス成分(一酸化二窒素)が指定薬物に指定された.また2007年に指定薬物として規制されたサルビア・ディビノラム(活性成分サルビノリンAを含有する)に続いて,2016年3月にはミトラガイナ・スペシオサ(活性成分ミトラギニン及び/もしくは7-ヒドロキシミトラギニンを含有する)が植物として指定薬物の規制対象となった.さらにこの3年間で,メチルフェニデート,モダフィニル及びフェンメトラジンなど,日本において第一種向精神薬として規制されている薬物の構造類似化合物が相次いで指定薬物として規制された.欧米では,医療用麻薬フェンタニルの構造類似化合物等,オピオイド受容体に強い作用を及ぼす危険ドラッグの流通が問題となっており,死亡事例も報告されている.2006年に薬事法(現医薬品医療機器等法)が改正され指定薬物制度が導入された直後も,当時流通していた危険ドラッグは一時期表面上市場から消えた.しかし,2012年前後から,〝脱法ハーブ〟や,〝アロマリキッド〟等として販売された危険ドラッグ製品による健康被害が急増し,深刻な社会問題となった.乱用薬物は,形を変えつつも,流行と規制・取り締まりを繰り返している.今後も,根気強く,継続的に新規危険ドラッグの出現を監視し,科学的データを蓄積していく必要がある.