著者
横山 啓太
雑誌
科学研究費助成事業研究成果報告書
巻号頁・発行日
pp.1-12, 2020-06-01

本課題では、数学の定理やその証明の難しさ・複雑さを数理論理学の視点から評価・分析する、逆数学と呼ばれる研究を複数の視点から推し進めた。特に、組み合わせ命題ラムゼイの定理の評価分析において長年の未解決問題であった2次元無限ラムゼイの定理の「証明論的強さ」すなわち無矛盾性証明の困難さを確定する問題を解決し、さらにそれを理論計算機科学における停止性検証に応用する手法を考案した。 さらに有限組み合わせ命題の順序数を用いた解析手法を証明論における証明の長さの析学における新たな逆数学現象の発見等、関連研究を推し進め、逆数学研究の基盤を拡張した。研究成果の学術的意義や社会的意義: 2次元ラムゼイの定理の証明論的強さにおける長年の問題の解決とそのための手法の導入は逆数学研究におけるマイルストーンとなり、逆数学や証明論分野の国際会議で関連する多くの話題が取り上げられたほか、ウエブジャーナル Quanta Magazine でも取り上げられた。また、上の結果により、2次元ラムゼイの定理の強さがヒルベルトの還元主義プログラムの視点で十分弱いということが解明されたため、この結果の哲学的意味についても議論がなされた。 : In this project, we investigated the complexity and difficulty of mathematical theorems from the view point of reverse mathematics. Especially, we developed some new techniques to analyze the strength of combinatorial principles such as Ramsey's theorem, and solved a long-standing open problem on the proof-theoretic strength of Ramsey's theorem for pairs. Besides the above, we introduced some arguments to apply the above result and related techniques to the termination analysis, the study of sizes of proofs, found a new phenomenon on the reverse mathematical study of functional analysis, and expanded the field of reverse mathematics with those new points of view.
著者
松本 えみ子
出版者
Japan Society for Environmental Chemistry
雑誌
環境化学 (ISSN:09172408)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.63-72, 2002-03-22 (Released:2010-05-31)
参考文献数
74

本総説では, バイオレメディエーション, ファイトレメディエーション, およびリゾレメディエーションの研究における最近の知見について報告した。特に, その高い毒性のために関心の高い難分解性有機塩素化合物と重金属汚染を対象とした研究の現状を紹介した。バイオレメディエーションの研究は, 環境微生物の分解能の解析・改変に加え, 汚染現場への適用のために必要な微生物のモニタリング手法や管理手法の報告が多くなってきている。ファイトレメディエーションとリゾレメディエーションは開発途上にある技術だが, バイオレメディエーションよりも維持・管理が容易であることから, 今後非常に注目される技術である。また, 植物や根圏微生物に難分解性物質分解酵素を導入した組換え体の創出の報告も相次いでおり, 今後の展開が大いに期待される。
著者
馬場 美智子 岡井 有佳 小原 雅人
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.10, pp.22-00160, 2023 (Released:2023-10-20)
参考文献数
19

木造住宅が密集し,細街路や袋小路の路地で構成される歴史的な市街地においては,大地震発生時の道路閉塞が消火活動に支障をきたし,大きな被害が発生する事が懸念される.本研究では,京都市内の上七軒通の周辺地区を対象に,無電柱化事業による防災効果を明らかにした.第一に,大地震発生時の道路閉塞による消防活動への影響と,無電柱化による防災効果を定量的に分析するための方法を構築した.次に,京都市無電柱化事業実施区間の中でも景観系事業が行われた対象地区において発生しうる大地震を想定して,無電柱化事業の消防活動への影響を実証的に分析し,無電柱化によって消火が困難となる区域が減少し防災効果があることが示された.
著者
二重作 昌満
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.7, no.s2, pp.s51-s54, 2023 (Released:2023-10-20)
参考文献数
3

本研究では、国民のレジャー活動の推移を検証するレジャー・レクリエーション研究の視点から、円谷プロが約60年に渡り大衆的に発信してきた特撮映像作品(全98作品、全2063話)に焦点を当て、各時代を生きる子ども達がどんな遊びをし、変化する時代背景によって日本の子ども達のレジャー活動はどう多様化していったのか、その変遷について悉皆調査及び作品関連資料の分析による検証を実施した。その結果、約60年に渡り発信されてきた円谷プロの特撮映像作品における子ども達のレジャー活動は変遷を遂げており、当初は複数の子ども達が空き地等で行なう外遊びが主流だったものの、時代の推移と共に空き地や道路といった特定の場所で遊ぶ描写が減少していったほか、教育ママや学習塾による束縛を理由に悩む子ども達、さらには家庭用コンピュータや携帯電話といった新メディアの普及による子ども達のコミュニケーションの変化等が描写されてきたことが確認できた。
著者
土屋 篤生 青木 宏展 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.2_1-2_10, 2023-09-30 (Released:2023-10-25)
参考文献数
15

千葉県における伝統的鍛冶技術は、職人の高齢化や後継者不足、社会構造の変化などの要因により消失の危機にあり、その記録および継承が急務である。館山市の房州鎌職人および柏市の型枠解体バール職人への聞き取り調査をもとに、それぞれの製作技術をまとめた。房州鎌:①地金と鋼を鍛接する。②鎌の形状になるように叩いて曲げ、薄く延ばしたのち、型どおりに切断する。③刃元の段差、ミネの勾配およびコバを付け、強度を増す。④水で焼き入れ・焼き戻しをする。型枠解体バール:①四角柱と八角柱の鋼材を鍛接する。頭部に用いる四角柱の方に硬度がより高いものを用いる。②スプリングハンマーを用いて頭を直角に曲げる。③爪を斜めにし、先を割って成形する。④同様にして尾を成形する。尾はおよそ 25 度の角度をつける。⑤焼き入れ・焼き戻しをする。焼き入れでは、工業用の油で半分ほど冷ましたのち、水冷する。両者とも要所の繊細な工程は手作業で、五感を駆使して行うが、鍛接や延ばしなど単純だが力を要する工程には機械を併用することで、高齢でも今日まで続けられている。

2 0 0 0 OA UV硬化塗料

著者
肥田 敬治
出版者
一般社団法人 表面技術協会
雑誌
表面技術 (ISSN:09151869)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.73-79, 2018-02-01 (Released:2018-11-01)
参考文献数
12
著者
稲垣 航大 久米山 幹太 石橋 澄子 谷口 守
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.10, pp.23-00079, 2023 (Released:2023-10-20)
参考文献数
9

コンパクトシティを実現する上で政策に対する市民認知の重要性が指摘されている.そのような中,国土交通省の調査によるとコンパクトシティ政策に対する市民の自称認知は総じて低いことが示されている.そこで本研究では,市民のコンパクトシティ政策に対する内容を誤って認知していないか(誤認)について独自のアンケート調査を行った.分析の結果,1) 中山間地域からの撤退やタワーマンションの建設をコンパクトシティ政策だと高い割合で誤認されていること,2) 自称認知度が高いグループにおいて,むしろ誤認の割合が高くなることを明らかにした.自称認知度が高いグループは,行政に対する信頼も高いため,自治体がコンパクトシティ政策に関して提供している情報自体が誤認を招く内容になっている可能性があることに留意が必要である.
著者
安達 智史
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.139-164, 2015-07-10 (Released:2022-01-21)
参考文献数
19

本稿は、多文化社会における女性若者ムスリムが、複数の社会的期待に直面する中で、どのように自身のアイデンティティを構築し、社会への参加を実現しているのかについて、イギリスのコベントリー地区のインタビュー調査に基づき描くものである。分析の結果は、インフォーマントが、イスラームを遵守すべき最も重要な規範として引き受ける一方で、アイデンティティを分節・(再)接合しながら、イスラーム、イギリス社会、コミュニティや家族、そして多様な志向や背景を有する友人たちと関係を築いていることを示している。こうしたアイデンティティ管理、そして、それを通じた社会への統合に寄与しているのが、彼女たちが生きる多文化社会という現実である。多文化社会が、アイデンティティの多様化を要請し、それを管理する自律性を発展させることにより、女性若者ムスリムがそうした社会に適応することを可能にしている。それは、文化と宗教の区別やスカーフの着用をめぐる彼女たちの態度に看取することができる。
著者
白石 佳和 SHIRAISHI Yoshikazu
出版者
金沢大学大学院人間社会環境研究科
雑誌
人間社会環境研究 = Human and socio-environmental studies (ISSN:24360627)
巻号頁・発行日
no.42, pp.49-65, 2021-09-30

季語は日本の自然を詠むための詩語であり,和歌以来の伝統的な詩的感覚・文化的記憶の産物である。そのため,自然・言語・文化が異なる国際ハイク(注:国際化した俳句を「ハイク」とカタカナで表記)では季語があまり重視されてこなかった。しかし,季語がなければハイクはただの短詩になる可能性がある。本論文では,国際ハイクにおける季語の問題を検討する。その考察材料として,ブラジルハイカイ(ブラジルではポルトガル語の俳句を「ハイカイ」と呼ぶ)における増田恆河の活動を取り上げる。ブラジルハイカイで有季ハイカイを提唱した増田恆河の論考とポルトガル語歳時記を分析し,それを国際ハイクのオーセンティシティの一例として考察する。増田恆河は,季語を詠むハイカイこそが本格的ハイカイであると主張し,有季ハイカイを推奨した。日本と同じ季語もブラジル特有の季語も,ブラジルの自然を詠むならすべてブラジル季語である,という論を展開し,理論に沿って兼題の句会の開催や有季ハイカイ句集の刊行を行なった。また,『NATUREZA』というポルトガル語歳時記の作成では,理論通りブラジルの感覚の季語を選定し,「詩情」や「感覚」などのポイントに基づいて解説を行なっている。ただ,日本的な解説やブラジル的でない解説も交じることから,季語解説の苦労が読み取れる。このような彼の理論と実践がブラジルハイカイのオーセンティシティを形成している。ブラジルハイカイの例からもわかるように,北米・南米には日系俳句という日本語の国際ハイクの存在がある。国際ハイクをすべて一様に扱うのではなく,日本俳句,日本語ハイク,国際ハイクをスペクトラムとして捉える視点も必要である。また,季語のオーセンティシティを語る要素の一つとして,俳句の起源である連句が指摘できる。
著者
山口 敬太
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.45.3, pp.241-246, 2010-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
44
被引用文献数
1

1920から30年にかけて、東西30kmにおよび複数の市町村にまたがる六甲山に、行政界や都市計画区域を越えた「一大森林公園」としての位置づけをもった山地開発計画が立てられた。本研究では、この山地開発計画の策定経緯と具体的内容、およびその目的について一次史料をもとに明らかにした。その結果は以下の通りである。山地開発計画の作成主体は、兵庫県都市研究会と神戸市都市計画部であり、前者の計画原案を作成したのは、都市計画地方委員会技師兼兵庫県技師であった森一雄であった。両者ともにその山地開発の根本目的は、風致の保全を前提とした山地および風景地の開放にあり、道路と公園的施設の配置が主眼となった。道路については、兵庫県都市研究会が骨格となる幹線道路を、神戸市都市計画部が都市計画区域内の道路網を充実させる案を示し、両者により統一的な計画案が示された。またそれは、自動車用の幹線道路と徒歩道路とを織り重ねたものであり、その計画路線は遊行と自然鑑賞を満足させるように考慮された。さらには、観賞樹の植林等により風景の保護修飾をなすとともに、様々な種類の公園的施設の充実が図られた。
著者
横小路 泰義
出版者
日本ロボット学会
雑誌
日本ロボット学会誌 (ISSN:02891824)
巻号頁・発行日
vol.11, no.6, pp.794-802, 1993-09-15 (Released:2010-08-25)
参考文献数
31
被引用文献数
11 20

2 0 0 0 OA 薬剤性肺障害

著者
伊藤 善規 千堂 年昭 大石 了三
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.6, pp.425-432, 2006 (Released:2006-08-01)
参考文献数
62
被引用文献数
5 7

薬剤の投与により,肺間質組織へのマクロファージ,好中球,好酸球およびリンパ球などの炎症性細胞の浸潤によって炎症を呈し,肺胞壁の肥厚によって呼吸困難などの症状を呈するのが薬剤性間質性肺炎である.間質性肺炎や肺線維症,さらには肺水腫や急性呼吸不全症候群といった肺障害を引き起こす可能性がある薬剤は極めて多い.薬剤性肺障害は発症機序から肺組織に対する直接的な障害作用に基づくものとアレルギー反応に基づくものに分類されるが,多くの場合は両機序が相伴って発症すると考えられている.直接的な細胞障害作用を引き起こしやすい薬剤として,抗癌薬や抗不整脈薬(アミオダロン)があり,肺障害の発現頻度は投与量に依存する.一方,アレルギー性肺障害を引き起こしやすい薬剤としては,抗生物質,抗リウマチ薬,インターフェロン(IFN),顆粒球コロニー刺激因子製剤,小柴胡湯などが挙げられ,この場合の発現は投与量に依存しない.アレルギー性肺障害は予測が困難であり,かつ,症状の進行が早く,発症後,数日以内に呼吸不全に陥ることもある.本稿では,肺障害を起こしやすい代表的な薬剤を取り上げ,その発症機序と対策について述べる.
著者
Daisuke NISHIO-HAMANE Takeshi YAJIMA Norimasa SHIMOBAYASHI Masayuki OHNISHI Takefumi NIWA
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
Journal of Mineralogical and Petrological Sciences (ISSN:13456296)
巻号頁・発行日
pp.230711, (Released:2023-10-25)

Asagiite, a newly-discovered mineral having the ideal formula NiCu4(SO4)2(OH)6·6H2O, is a member of the ktenasite group, representing a Ni analogue. It occurs as a secondary mineral on smithsonite aggregates that overlie fractures in a serpentinite found in the Nakauri mine within Aichi Prefecture, Japan. Asagiite exhibits a unique pale blue-green coloration and so is named after the traditional Japanese color “asagi-iro.” Asagiite occurs as thin plate-like crystals with perfect cleavage along {001} planes. The crystal size of this mineral is typically 0.1 to 0.2 mm, although in rare cases crystals may range up to 0.5 mm in length. These crystals are vitreous, transparent and non-fluorescent and have also been shown to be brittle with a Mohs hardness of 2½. The measured and calculated densities of asagiite are 2.90(3) and 2.92 g·cm-3, respectively. This mineral is optically biaxial (-) with α = 1.577(2), β = 1.620(2) and γ = 1.631(2) together with a 2Vcalc value of 52.4°. Electron microprobe analyses determined an empirical formula (based on 2S) of (Cu3.44Ni0.76Zn0.59Co0.18Fe0.01)Σ4.98S2O7.95(OH)6.05·6H2O. Based on single crystal X-ray diffraction data, the structure is monoclinic with space group P21/c and unit cell parameters a = 5.6095(8), b = 6.1259(7), c = 23.758(3) Å, β = 95.288(4)°, V = 812.92(17) Å3 and Z = 2. Single-crystal structural determination also gives an R1 value of 0.0303. The seven most intense peaks in the powder X-ray diffraction pattern [d in Å (I/I0) hkl] were found to be 11.830 (100) 002, 5.912 (64) 004, 4.845 (55) 013, 3.920 (45) 006, 2.953 (33) 008, 2.668 (57) 202 and 2.571 (36) 123, with unit cell parameters of a = 5.614(5), b = 6.108(8), c = 23.758(18) Å, β = 95.62(7)° and V = 810.8(14) Å3.
著者
木下 浩一
出版者
日本メディア学会
雑誌
メディア研究 (ISSN:27581047)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.173-192, 2023-07-31 (Released:2023-10-24)
参考文献数
20

Since Tuchman’s (1978) analysis of newsroom routines, related case studies have been accumulating in the United States for over 40 years. Many studies have employed ethnographic methods to examine how news workers gatekeep news. In recent years, Mari (2016) has attempted to describe a social history of the newsroom, furthering its contextual understanding.    This research tried to describe the social history of the "photographers" who belonged to major Japanese newspaper companies after World War II, using the Shinbunkenkyu as the source material and extracts the dominant factors and contexts in postwar Japan.    The following are the extracted factors and contexts.     1) The first factor is education: Higher education influenced the rise of the photographers’ status in Japanese newsrooms. Professional education in photography had a short-lived impact and was replaced by higher education as general education. In the United States, it was professional education in higher education that elevated the status of photographers, contrary to Japan’s case.     2) The second factor is technological advancements: In Japan in the 1990s, the spread of electronic cameras, the ease of sending photos electronically, and the systematization of newsrooms limited the rise of the photographers’ status in newsrooms. Whereas in the United States, this elevated their status. The difference between Japan and the United States arose from the combination of other technologies.     3) The third factor is labor unions: Japanese labor unions aimed for uniform treatment in newsrooms, and the unintended consequence was curbing the differentiation of news workers. In the United States, where weekly wages were set for each type of job, labor unions promoted the differentiation of news workers.    4) The fourth factor is specific coverage area and news sources: The lack of specific coverages areas and news sources has had significantly impacted their status in newsrooms.