著者
魏 宇哲
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.133, pp.23-40, 2018-12-25

先行研究によれば,性的解放は歌垣に付随する現象であるとされている。しかし,歌垣 は日本でも中国でも「世俗の縁が切れる場」(網野善彦)であり,「解放」という拘束を前提と する表現が適切と言えるかは疑問である。本研究は,日本と中国の文献及び中国における現地 調査の資料に依拠しつつ,歌垣と祭祀行事の関係の多様性を明らかにし,歌垣は性的解放の場で あったという従来の通説的解釈を再検討する。
著者
藤本 幸雄 林 信太郎 渡部 晟 栗山 知士 西村 隆 渡部 均 阿部 雅彦 小田嶋 博
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.114, no.Supplement, pp.S51-S74, 2008-09-18 (Released:2011-12-22)
参考文献数
130
被引用文献数
2 1

男鹿半島には白亜紀後期の基盤花崗岩類から古第三紀火山岩類,新第三紀火山岩類・海成層,第四紀層と海成段丘,火山岩及び火山地形,砂丘などが整然と分布している.そのため男鹿半島は,東北地方日本海側の9000 万年ないし6500 万年前からの地史を考える上で重要な地域になっている.風光明媚にして男性的な景観には,このような地質体の形成過程・多彩な地史が刻み込まれており,自然界の営みの中に歴史を作る人々の営為も垣間見ることができる.災害・産業・環境問題・自然認識などをはじめとして,地学は教育の重要な柱として一層の活用が求められている.ここでは近年得られた新知見を加え,地質体の形成過程・地史について解説し,合わせて地学教育上の要点を挙げてみる.
著者
中川 信子
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.234-238, 2013 (Released:2014-03-20)
参考文献数
3

1 歳—3 歳時期のことばの遅れは,障害に由来する場合も,生理的な個人差による場合もあって,判別は困難である。  ことばや発達の遅れの可能性のある児については①聴力 ②理解 ③対人関係・コミュニケーション ④こだわりの有無 ⑤落ち着きのなさ などに焦点をあてて観察する。  乳幼児期には,訓練的なかかわりによって言語発達を促進することは困難であり,からだ,こころを含めた全体発達の中で考えてゆく必要がある。ことばの遅い子の保護者は焦って教え込みに走りがちだが,毎日の生活体験の中から分かることをふやすようなかかわり,いっしょに楽しく遊ぶ中でのコミュニケーションの改善,特に,感覚統合的な視点からのからだを使った遊びを提案する。  また,乳幼児期から親子でしっかり目を合わせ,共同注意の成立を図るかかわりが大切である。
著者
水津 一朗
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.565-580, 1971-08-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
23
被引用文献数
4 2

近代歴史地理学の創始者小川琢治は,ヴァローの「集団事実としての景観」概念をその地理学の直接の立脚点としたが,めざすところはフンボルト地理学にあった兜かれの歴史地理学は歴史的考察を重視する人文地理学そのものであり,ヘットナーの「時の断面の地理学」とはちがう.まず「垣内集落」や「孤立荘宅」などをはじめとする集落研究にすぐれた業績をあげ,日本集落地理学の源流の一つを形成した.いっぽう,中国に関する歴史地理学研究に精魂をうちこみ,まずリヒトホーフェンの中国研究を検討し,『山海経』から中国最古の地理的知識を復原したほか,孜々として中国地理書の実証研究の途を開拓して,中国学にも大なる寄与をなした.かれの地理学には,現代の地理学本質論からみても再評価すべき内容が多い.中でも自然環境決定論的立場をさけたこと,生態学と政治地理学的立場を綜合して,集落から国家に至るまで,地表全体の体系的把握につとめたことなどが,とくに注目をひく.歴史時代から現代にわたる地理的事象の計量的理解にも先駆的な成果をおさめた.以上の点からみて,明治後期から昭和初期における小川地理学の学術的価値は,かれのすぐれた自然研究を除外しても,なお無双のものというべきであろう.
著者
高橋 康介 小川 健二 北川 智利 金子 沙永
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究では知覚像が従来考えられているよりも自由に制御できる可能性について実証研究を進める。構造化を抑制して未統合の感覚信号にアクセスし高感度の知覚像を得る脱構造化現象と、心的イメージと知覚像を合成する信念可視化現象という2種類の知覚像制御過程の解明を目指す。前半は熟達者を対象とした知覚心理学・脳科学研究により知覚像制御の現象理解、心的過程と神経基盤の解明、予測符号化の枠組みでの理論化を行う。後半は非熟達者を対象に知覚像制御の熟達過程や個人差・適性を検討する。以上の研究を通して「不自由でままならぬ」という従来の知覚観から脱却し、ある程度まで自由に制御できる知覚像という新しい知覚観を提案する。
著者
青木 智子 水國 照充
出版者
国際ICT利用研究学会
雑誌
国際ICT利用研究学会論文誌 (ISSN:24330205)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.23-30, 2017 (Released:2020-02-01)
参考文献数
20

ICTは養育者の育児情報の収集だけでなく,育児ツールのひとつとして活用されている。そもそも,養育者のICT における育児情報収集の満足度は高く,自治体が提供する情報アプリケーションは広く活用され,育児日記などのアプリは,紙に代わる記録媒体として人気が高い。一方,近年,社会問題としても注目をあびているスマホ育児は,①養育者の子育てにおけるしつけアプリ・知育アプリや動画視聴などのICTに対する依存,②養育者が育児中にICT操作に没頭し,無自覚なまま子どもから目を離している態度,という2 つの視点から見ることができる。本研究は,ICT の過剰な利用が子どもたち,養育者の心身に様々な影響を与えていることに目を向け,養育者によるICTの適切な利用と子どもが受ける影響としての愛着障害について検討する。
著者
渡邊 義行
出版者
日本教育医学会
雑誌
教育医学 (ISSN:02850990)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.101-118, 2006 (Released:2021-10-30)
参考文献数
28

1999年(平成11年)改訂の小・中・高等学校の体育・保健体育の学習指導要領1)2)3)では,「集団行動の指導は,運動の特性との関連において適切に行う」こととしている.すなわち,集団行動の時間を特別に設けて指導するのではなく,各運動領域の運動の特性に応じて適切に指導するとか,あるいは特別活動の学校行事等の機会に集団指導を行うこととしている. 学校における集団行動とは,集合,整とん,列の増減などの行動をいい,その行動の仕方は色々な機会をとらえて指導しようとするものである. 児童生徒の集団を集合させたら,先ず最初に発する号令は「気をつけ」であり,「気をつけ」の姿勢を指導するであろう.一方,社会人になって「気をつけ」の号令を受けることは全く無いといってよい.しかしながら学校において教師は,極めて普通に,何の戸惑いや抵抗もなく「気をつけ」という号令を発し,児童生徒はその号令を受けている. この度,日本における「気をつけ」号令と「気をつけ」姿勢にこだわって,その歴史を若干の資料からたどってみたいと思う.
著者
齊藤 稔 青木 孝夫 欒 竹民 幣原 映智 長田 年弘 安西 信一 原 正幸 金田 晋
出版者
広島市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は東西の伝統的学芸の価値概念である西洋の自由学芸、日本の芸道、中国の六芸を対象とし、解釈学的に比較することを意図した比較芸術学的共同研究であり、広島市立大学をはじめ広島大学その他の大学の専門家の協力をえて推進した。ヨーロッパにおいては古代から中世を経て近世・近代に至るまで7自由学芸(septem artes liberales)、文法、修辞学、弁証術、数学、幾何学、天文学、音楽はアルス(ars)として、技術・芸術と学問の不可分の領域と見なされ、哲学とともに人間性を探究するための、また教育と教養を培うための学芸であった。古代ローマ時代のキケロはそのような教育と教養が人間存在にとって必要不可欠な徳としての気品(dignitas)を生み出すことを強調し、ルネッサンスにおいてペトラルカは人間社会のためにそのような倫理の必要を説いた。これはまた造形芸術の美質であり目的でもあった。他方レオナルド・ダ・ヴィンチは絵画を自由学芸と同列に置き、絵画は学問であるとして「絵画学」(scienza della pittura)を主張した。というのは絵画は遠近法や解剖学や光学などを本質的に必要とするからである。日本の芸道は民族的な美的意識であり、芸術の思念と実践を統合する価値概念であった。これはあらゆる美的な生活芸術を貫く芸と術の道としての芸術的営為であり、教化されるべき様式として把握された。また高い徳と美的に教育された人間存在の教養を形成するために求められた。そこでは制作や表現においても、享受や理解においても、つねに帰一すべき根源的自然、あるいは神的超越者を自覚して精進する。芸道は真・善・美を求める人にとって高徳の人間形成のための、また美的形成、美的教養として望まれる必須のアルス(学芸)であった。中国ではさらに古くから六芸として、礼、楽、射、御、書、数の教養思想があり、基本的には人間として修得すべき教養や道徳であり、技芸や学芸であった。その修得は文学や哲学から詩や書・絵画の技術的習練にも結びついた。それは絵画では書画同体、十八画法などの奥義の技法をも含んでいる。本共同研究はこれら3つの概念を比較学的に研究し、それらの類似と相違を明確にするように試みた。それによって3つの美的システムが学芸の領域に属するだけではなく、真・善・美の価値意識の普遍的理念を伴う人間生活全般に深く関わることを理解することができた。そしてこの総合研究の成果は学際的研究への貢献として、それら伝統的学芸とその解釈が美的真実への感性的理性的認識に到達するものであることを示しえたと考えている。
著者
松森 晶子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-17, 2019-04-01 (Released:2019-10-01)
参考文献数
19

諸鈍方言における「k'uˑp(首), Ɂusaˑk(兎)」の語末の閉音節、「kutuːba(言葉), waɾaːbï(子供)」の語中の長音節、「ɸuk'ɾu(袋), Ɂapɾa(油)」の語中の閉音節に代表されるように、奄美大島南部の瀬戸内町の諸方言には、重音節が頻出する。本稿では、これら重音節構造の発生の原因についての通時的考察を行い、その考察を通して、この地域に生じたいくつかの音変化の相対年代についての提案を行う。まず本稿では、これら重音節の生起は、この地域に過去に生じたアクセントの変化と切り離して説明することはできないことを論じる。また、どのような条件のもとでこれらの重音節構造が生じたのかの理解には、半狭母音の狭母音化(*o>u, *e>ï)との相対年代をも考慮に入れる必要があることも論じる。本稿では、瀬戸内町を中心とする奄美大島南部の諸方言では、これら重音節の発生を動機づけた変化よりも、狭母音化のほうが後に起こったと想定されることを論じる。
著者
加藤 拓彦 小山内 隆生 和田 一丸
出版者
弘前大学大学院医学研究科・弘前医学会
雑誌
弘前医学 (ISSN:04391721)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2-4, pp.71-78, 2006 (Released:2021-09-21)
参考文献数
19

作業療法を行っている統合失調症患者 84例を対象とし,対象者の退院に関する意識と社会生活背景としての結婚および就労状況を明らかにすることを目的に面接調査を行った.その結果,退院を希望しない者は 29%であり,退院希望者に比べ入院生活に満足している者が有意に多く,年齢は有意に高く,入院期間および罹病期間は有意に長かった.退院への不安については,家族,経済や就労に対する不安が多かった.結婚状況では,対象者の 26%に結婚経験があったが,そのうち離婚率は 82%と高率であり,結婚継続の困難さが示された.就労については,就労希望者群では就労希望のない群に比し,退院希望者の占める割合が有意に高かった.これらの入院統合失調症患者に対し有効かつ積極的な作業療法を展開していくためには,以上に示した個々の対象者の社会精神医学的側面についての理解を深めることが重要である.
著者
洲戸 歩 白杉(片岡) 直子 本多 佐知子 祗園 景子 増田 勇人 大村 直人
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 2022年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.61, 2022 (Released:2022-09-02)

【目的】茶道における抹茶の点て方やその仕上がりには、熟練者と⾮熟練者の間に⽬に⾒えてわかる差異が存在し、熟練者は暗黙知、すなわち⼈間が無意識のうちに⻑年の経験や勘などから得た、簡単には⾔語化できない知識をもつ。本研究では、茶道流派の一つである裏千家のきめ細かい抹茶の泡立ち方に着目し、撹拌動作を分析することで、化学工学の視点から撹拌に有効な動作の抽出を試みた。【方法】抹茶2 gを入れた内径10.5 cmの茶碗に80℃の湯70 mLを注ぎ、完全形、内穂のみ、外穂のみの3種類の茶筌を用い、熟練者(3名)と⾮熟練者(3名)に抹茶を撹拌させた。撹拌動作による泡⽴ちへの影響を調べるために被験者の肘、⼿⾸、中指の第⼆関節の3点に印をつけて、正面から動画撮影し、Dipp-Motion V(DITECT 社製 Ver.1.2.6)を用いて動作解析を⾏った。泡立ち評価は、茶碗の真上から撮った画像をImage J(v.1.53o)を用いてモノクロ二値化し、黒の部分の面積を比較し行った。【結果・考察】熟練者は3種類の茶筌を用いて撹拌した場合、いずれにおいても泡のきめ細かさや泡立ち具合のばらつきが少なかった。一方、非熟練者は茶筌の違いによる泡立ちに大きなばらつきがみられた。動作解析の結果、熟練者は肘の変位が⾮熟練者よりも大幅に小さく、肘を軸とした撹拌を行うことがわかった。さらに、手首と中指の変動が同期し、熟練者に見られる肘の変動が逆位相の場合、細かな泡立ちとなったが、非熟練者に見られる肘の変動が手首と中指の変動と1/4周期の位相差がある場合、荒い泡立ちとなった。
著者
Mizuki Matsunuma Nozomu Muto
出版者
The Japanese Society of Systematic Zoology
雑誌
Species Diversity (ISSN:13421670)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.107-116, 2020-05-15 (Released:2020-05-15)
参考文献数
42

A single pelagic juvenile (23.1 mm standard length) of a lophiid fish, collected from 100–115 m in depth in the East China Sea, was identified as Sladenia zhui Ni, Wu, and Li, 2002, originally described from the East and South China Seas, on the basis of meristic counts [I-I-I-I, 10 dorsal-fin rays (2 post-cephalic spines); 7 anal-fin rays; and 19 pectoral-fin rays] and mitochondrial DNA sequences. Reported here for the first time, juveniles of Sladenia Regan, 1908 are uniquely characterized by inflated, balloon-like skin surrounding the head and body, and undeveloped head spines. The Japanese names “Daruma-ankou-zoku” and “Daruma-ankou” are proposed herein for the genus Sladenia and S. zhui, respectively.
著者
羽生 淳子
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.299-310, 2015-10-01 (Released:2015-12-19)
参考文献数
81
被引用文献数
4 5

考古学は,数百年以上にわたる長期的な文化変化の原因・条件・結果を検討するのに適した学問分野である.本稿では,歴史生態学とレジリエンス理論の視点から,生態システムと生業・集落システムの変化をモデル化する.出発点は,生業の専業化と食の多様性の喪失が,システムのレジリエンスの低下につながるという仮説である.この仮説に基づき,東日本における縄文前期〜中期文化の盛衰について,青森県三内丸山遺跡の事例を,食と生業の多様性と生業・集落システムのレジリエンスの観点から検討する.石器組成の多様性が食と生業の多様性を反映していると仮定した場合,得られた分析結果は,食と生業の多様性の喪失がシステムのレジリエンスの低下につながるとする仮説と矛盾しない.このようなアプローチは,多様性維持と環境負荷軽減の問題を重視し,人間と環境の新しい相互関係性の構築を考えるための学際的研究への糸口となり得る.
著者
坂井 文
出版者
一般社団法人 日本建築学会
雑誌
日本建築学会技術報告集 (ISSN:13419463)
巻号頁・発行日
vol.28, no.68, pp.418-423, 2022-02-20 (Released:2022-02-20)
参考文献数
10

More than half a century since the establishment of the incentive zoning system in the United States and Japan, some of privately owned public spaces are under inactive public use and inadequate management. This study aims to clarify the concept and contents of the new design standard for privately owned public space established in NYC Zoning Resolution Amendment in 2007, and to obtain insight into the method of inducing spatial planning to enhance public use of the spaces. The study shows that the design standard detailed the ways to qualify proposed plan and the transparent process to certificate permission.
著者
岩田 みちる 草薙 静江 橋本 竜作 柳生 一自 室橋 春光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.49-55, 2015-03-25

読みにおける障害は2010年に診断基準が規定されたが、個別に適した教育的支援方法に関する情報は不足しているのが現状である。本稿では、児童の諸検査の結果や心理的な負荷に合わせて実施した読み書きに対する比較的包括的な支援方法を試みた。その際、学習の経過や、その際に現れた特徴、支援に対する反応を検討し、個人に合わせて支援を改良した経過を紹介する。